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Date: 7月 22nd, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その10)

最初、この項のタイトルは「世代とオーディオ(JBL SE408S)」ではなく、
「世代とオーディオ(JBL SE401)」だった。
公開して一時間ほどして、SE401をSE408Sに変えた。

一度公開したタイトルを変えるのはあまり気がすすまないから、
そのままにしておこうかと思ったが、
SE401の音を私は聴いたことがないし、
私にとって、この時代のJBLのアンプの音は、SE408Sになってからのものであるから、
SE408Sに変えてしまった。

SE401の音はどんなだったのだろうか。
ステレオサウンド 38号「クラフツマンシップの粋(2)」の中で、
岩崎先生は次のように語られている。
     *
 僕が最初にSG520を入手した時に一緒だったのがトランス付きのSE401だったのですよ。いまにして思うと残念だったのだけれども、その頃にすれば、入力トランスが付いているということだけで、割と古い設計の暗譜なんだなと思って、かなり抵抗があったわけですよ。その上、二、三回トラブルをおこしたものだから、手離してしまったわけですけれども、非常におとなしい音だった記憶があるのです。わりとおっとりした音でしたね。低音の感じも高音の感じも、SG520にみられるように、いわゆるワイドレンジという雰囲気ではなくて、相当ナロウレンジだという意識をいまだに持っているのですよ。
     *
山中先生も《音の感じは全くその通りでしょうね》と語られている。
おもしろいのは、SG520も、最初はSE401の音に近かったということだ。
このことも「クラフツマンシップの粋(2)」の中に出てくる。
     *
山中 しかし一番最初の頃のSG520はあまり広帯域な感じではなかったでしょう。
岩崎 そうですね。いわゆるウォームトーンという感じ、高い方がダラ下りになっているような音でしたね。
山中 それが、実際に製品が売られるようになってからすぐに、ワイドレンジで非常にフラットな感じの音に変わりましたね。
岩崎 おそらく、使っているトランジスターが少し変わったのだと思いますよ。
     *
ということはごく初期のSG520とSE401のペアが聴かせる音と、
その後のSG520とSE408Sのペアが聴かせる音は、ずいぶん違っていたことになる。

Date: 7月 20th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その9)

「JBL 60th Anniversary」の192ページに、それは記してある。
少々長くなるが、引用しておこう。
     *
 1960年に、アルテック・ランシングのマーケティング組織に重大な変革が加えられた。それまでアルテック製品の国内向けのディストリビューターは、グレイバー社という1社のみで、プロ用サウンド関連会社へのセールスもすべてグレイバー社を通していた。
 ところが、この年にアルテックは、国内向けのディストリビューター網を自社で立ち上げることを決定した。その結果、グレイバー社の製品カタログには大きな穴があいてしまった。そこで、グレイバー社の代理人たちがJBL社と接触し、グレイバー社がこれから取り扱うべき新たなプロ用機器のフルラインナップの開発と、それに関する契約についての提案をしたのである。
 JBL社は、広範囲にわたる製品ラインナップの開発という今回の提案について、ゴーサインを出した。このラインナップには、一連のアンプをはじめ、トランス、ミキサー、さらにはJBLスピーカーユニットのプロ用ヴァージョン化も含まれていた。そのため、家庭用のスピーカーユニットと、そのプロ用ヴァージョンが明確に区別できるよう、すべての新しいプロ用ユニットに使用するための新規鋳造による壺型ヨークも作られた。しかしながら、家庭用製品もプロ用製品も、機械的・電気的に同一であったことは明記しておくべきだろう。
 製品開発は順調に進み、JBLが一般に向けて公式発表を行ったとき、信じ難いことが起きた。理由はいまだに明確ではないが、グレイバー社とJBL社との合意が破棄されたのである。その結果、生産ラインは破棄され、製品は1機種たりとも市場には出なかった。
     *
こういうことがあったのを、「JBL 60th Anniversary」が出るまでまったく知らなかった。
JBLが一般に向けて公式発表を行った、とあるが、これはいつなのだろうか。
1960年以降であることは確かだが、’61年なのか’62年なのか。
そして、ここでの公式発表の内容はどういうものだったのかも、わからない。

けれど思うのは、SE401に採用されたダイキャストフレームは、
この時点でその原型が作られていたのではないだろうか。
だとすれば、私がSE401、SE408Sに感じた、SG520、SA600とは違う血のようなものは説明がつく。

違うのかもしれない、ほんとうのところはわからないけれど、
少なくとも私のなかでは納得がいく。

「JBL 60th Anniversary」の190ページには、
アーノルド・ウォルフが介入し、
ダイキャストフレームに《外観上の美的中心とすべく意匠デザインのメスが入れられた》とある。

Date: 7月 20th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その8)

JBLのSG520はハタチのころ、使っていた。
極上美品といえるほど程度のいい個体ではなかったけれど、
程度はいいモノで、付いていた価格も安く感じられたから、衝動買いに近い感じで自分のモノとした。

SA600は、いまも欲しいと思っているプリメインアンプのひとつであり、
もっとも欲しいプリメインアンプでもある。

SE400S、SE408Sは、この二機種ほど欲しい、と思ったことがこれまではなかった。
特にSE408Sは、まったく欲しいとは思っていなかった。
買うのであれば、中身は同じでもSE400Sだ、と思っていた。

けれどつい先日SE408Sを聴いて、このへんの気持が大きく変ってしまった。

SE401、SE408Sに、あまり興味を持てなかったのは、そのアピアランスにある。
エナジャイザーとしてのアピアランスだから、それでいいのは理解できても、
自分のモノとするのであれば、外装パーツつきのSE400Sということになる。

同時に、JBLのパワーアンプには、SG520、SA600とは少し血が違うようにも感じていた。
SG520、SA600はコンシューマー用としてのアンプである。
それに対して、SE401、SE408Sはどこか業務用機器的なところを感じさせるところが、
なぜか気になっていて、それほど欲しいとは思わせない理由になっていた。

もともとSE401はコンシューマー用アンプとしてではなく、
プロフェッショナル用アンプとして開発が始まったものではないのか──、
そう感じるところがあった。
ただそう感じるだけで、なにか根拠があるわけではなかったが、
ステレオサウンド別冊「JBL 60th Anniversary」に非常に興味深いことが書かれている。

Date: 7月 19th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その7)

JBLはSE401の前に、PL100という真空管のパワーアンプを試作している。
出力管にビーム管6973を使い、低域用が40W、高域用が20Wで、
シャーシー内にはエレクトリッククロスオーバーが内蔵されていた。

PL100はハーツフィールド専用アンプとして開発されたもので、
ハーツフィールドをバイアンプ駆動するためのシステムということになる。

PL100の時点でバイアンプ駆動を考えていたJBLなのだから、
SE408Sでイコライザーボードを左右チャンネル別々にしたのは、
将来的にバイアンプ駆動をも可能にするためであるのではないか。

SE408Sのシャーシー内に、デヴァイダーを内蔵する必要はない。
低域用のイコライザーボードには、ウーファーの補正カーヴ用とハイカットフィルターの部品を、
高域用のイコライザーボードには、
スコーカー、トゥイーターの補正カーヴ用(場合によっては不要かもしれない)と、
ローカットフィルターの部品を搭載・構成すればすむ。

レベルコントロールは、入力端子横にあるポテンショメーターを使えばすむ。
あとは入力信号が左右チャンネルに分配されるようにするだけだ。

実にスマートなやり方でバイアンプ駆動のエナジャイザーへと発展できる。

JBLがハーマンインターナショナルに買収された1969年には、
アーノルド・ウォルフが新社長に就任している。

いうまでもなく、この時代のJBLのアンプのデザインを手がけていたのは、
アーノルド・ウォルフ自身であり、
彼はアンプ製造ラインの中止要請と圧力に対し、全力で抵抗した、と、
ステレオサウンド別冊「JBL 60th Anniversary」には書いてある。

そうだろう、と思う。
アーノルド・ウォルフの中には、次の段階へのプランがあったはずだ。
だが、1971年に同意せざるを得なかった。

Date: 7月 17th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その6)

パラゴンのユニット変更と同時に、メトロゴンも同じユニット変更がなされている。
メトロゴンもパラゴン同様、エナジャイザーが組み込めるようになっている。

スピーカーシステムのウーファーまでも変更させてしまうエナジャイザー方式を、
JBLはその後、どう展開させていきたかったのかはわからない。
1971年にアンプの製造を中止してしまっているから、想像するしかない。

JBLのこの時代のアンプを少し整理しておく。
1963年にパワーアンプSE401が出ている。
出力35W+35Wで、ゲルマニウムトランジスターを使っている。
SE402というモデルもあるが、
これはJBLのスピーカーシステムに組み込みSE401のもうひとつの型番であるから、
SE402にはなんらかのイコライザーボードがついてくる。

SE401とSE402は組み込み型のため外装パーツはなく、
SE401に外装パーツがついたモデルがSE400である。

1964年にコントロールアンプのSG520が登場。
1965年にバート・ロカンシー考案のTサーキット採用のパワーアンプSE408SとSE400Sが出る。
出力は40W+40W。
型番末尾のSは、シリコントランジスター採用を表している。
SE400SとはSE408Sの外装パーツ付きモデルで、
SE400があったためSが付けられ、SE408にもSが付けられた、と受けとめていいだろう。
だからSE408という、Sなしのモデルは存在しない。

1965年にはプリメインアンプのSA600が登場。出力40W+40W。
1968年に出力60W+60WのSA660にモデルチェンジ。フロントパネルブラックに変更される。

1970年にSE400Sも、60W+60Wに出力アップしたSE460になる。
FM専用チューナーのST860も発売になっている。

ここでJBLのコンシューマー用アンプの歴史は、一旦閉じる。
その理由について、ステレオサウンド 38号「クラフツマンシップの粋(2)」では、
はっきりとはわからない、と述べられているが、
JBLは1969年に、ジャーヴィス社のシドニー・ハーマンに買収されている。
つまりハーマンインターナショナルの傘下になっている。

ハーマンインターナショナルにはハーマンカードンがある。
ハーマンインターナショナルは、ハーマンカードンのアンプをJBLのアンプよりも重視したようで、
ハーマンインターナショナルからJBLに、アンプをやめるように圧力がかかる。

アンプ部門は、それほど利益があがっていないことも、大きな理由になっていたようだ。
ステレオサウンド別冊「JBL 60th Anniversary」掲載の「JBLの歴史と遺産」には、
一機種売るごとに、最大50ドルの赤字が出ると推測された、とある。

俄に信じられないが、
おそらくこの赤字の金額は修理にかかる費用を含めての算出のような気がする。
私もSG520は一時期使っていたが、このアンプを自分でメインテナンスしようとしたら、
かなり面倒だな、と思ってしまうほどのつくりである。

岩崎先生が「クラフツマンシップの粋(2)」で、
SG520の修理を、輸入元の山水電気に出そうとしたら、
修理期間を一ヵ月くれ、と返事があった、と述べられている。

一ヵ月は長いが、わかる気がする。
山中先生も《自分でやってみるとよくわかりますけれど、たいへんなのですね》と言われている。

Date: 7月 17th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その5)

JBLがエナジャイザーを搭載したのは、おそらくパラゴンが最初だろう、と(その3)に書いた。

パラゴンは1957年に登場している。
この時のユニット構成はウーファーが150-4Cである。
1964年に150-4CからLE15Aに変更され、それに伴いネットワークもN500HからLX5へと。

パラゴンは1980年にも変更を受けている。
アルニコマグネットのLE15AからフェライトマグネットのLE15Hへ、375が376へと。

この時点で150-4Cが製造中止になったのかと思いがちだが、そうではない。
パラゴンのユニット変更と同時期にハーツフィールドも仕様変更されている。
075が追加されている。ウーファーは150-4Cのままである。

JBLが150-4CからLE15Aにした理由は、理解し難いところがある。
150-4Cが製造中止になっていたとしても、JBLには130Aがあった。
150-4Cに近いのは、LE15Aよりも130Aであるにも関わらず、
ウーファーとしての設計がJBLとしては対極にあるLE15Aへの変更には、どういう意図があるのか。

パラゴンの弟分ともいえるメトロゴンは、1958年に登場している。
ユニット構成は150-4Cに375+H5041、ネットワークはN400の2ウェイで、
パラゴンのユニット構成を基本的に受け継いでいる。

メトロゴンにはヴァリエーションモデルとして、
130Aと175+H5040、130Aと275+H5040、D130のみなど、他にもいくつか用意されていた。
メトロゴンのユニット構成を見ると、
コンシューマー用ウーファーとして、150-4Cよりも130Aは一ランク下であったことがうかがえる。

130Aと375の組合せは、JBLとしては考えていなかったのか。
だとしたらパラゴンに130AではなくLE15Aにしたのはわからないわけではないが、
くり返すが150-4Cは1968年まで製造されているにも関わらず、
1964年にパラゴンのウーファーはLE15Aになっているのは、
スピーカーだけで考えていては、答は見えてこない。

エナジャイザーの登場と、
エナジャイザーを含めたトータルシステムとしてのパラゴンという完成像があっての、
ウーファーの大きな変更であり、
その意味ではLE15A搭載のパラゴンは、エナジャイザー搭載のアンプで、
その音を一度は聴いておくべきものだった、といえる。

Date: 7月 16th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その4)

ステレオサウンド 38号「クラフツマンシップの粋(2)」の座談会の最後、
「そして突然の終焉が」という見出しがついている。
     *
山中 ところがあろうことか、これらのアンプの製造が、ある時期になって突然打ち切られたのですね。別段人気が落ちたり、旧型になったからやめたというのではなくて、現役製品のバリバリのままだったのに、突如として製造を中止してしまった。これはもう、何ともわれわれとしては残念なことでしたね。しかしまた、その消えっぷりのよさも見事でしたね。これだけ魅力的な製品の最後としては非常によかったのではないかと、今になって思えばそういう気がするのですよ。あのままJBLがアンプの製造をつづけて、だんだん安物のアンプを作ってみたり、全然イメージが変わったもの出したしたら、かえって残念ですものね。
     *
JBLは1980年にコントロールアンプSG620、パワーアンプSA640を出す。
ブラックの筐体に、確かゴムのツマミを使っていた。
アンプ全体が醸し出す雰囲気は、まるで違ったものになっていた。

SG620とSA640の音は、聴いていない。
聴いたことのある人によると、最初に日本に入ってきたペアは、
びっくりするような音を聴かせてくれたそうだ。
その試聴機は故障、入念な修理がなされたはずなのに、音は明らかに変っていた、と聞いている。
最初の音がよかっただけに、その後の音には魅力を感じなかったようだ。

SA640は型番がSE640ではない。
EがAに変ったのは、エナジャイザーを搭載していないためであろう。

JBL独自といえるエナジャイザーだが、もしもJBLがアンプの開発を続けていたら、
変更されていったのではないか、と思えるところがある。

SE401用のエナジャイザーのイコライザーボードは、
左右チャンネルを一枚のプリント基板にまとめていた。
SE401Sになると、左右チャンネルが独立して、二枚のプリント基板になっている。

スピーカーシステムと対になってのイコライザーボードなのだから、
それにSE408Sもステレオ仕様なのだから、一枚のプリント基板のままでよかったのに、
あえて二枚にしているということは、
SE401Sの左右チャンネルに別々のイコライザーボードをさせるように考えていたのだろうか。
だとしたら、JBLはエナジャイザーによるバイアンプ駆動を……、
そうなったら専用のデヴァイダーが登場したのか……、
そんなことをつい考えてしまう。

Date: 7月 16th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(ロゴはかわる・その1)

メーカー名、ブランド名のロゴは、時代とともにかわっていくことがある。
ほんのわずかな変更が加えられることもある。
注意深く見ていないと気づかない変化もあれば、
誰の目にもはっきりと「かわった」と気づかさせる変更もある。

タンノイ(TANNOY)のロゴがかわっていたのは気づいていた。
いつのころからなのかは曖昧だけれど、
かわったんだな、とすぐに気づく変更だった。

TANNOYの表記に使われているロゴ自体の変更は何度か行われている。
いまのロゴは何代目なのだろうか。

私が最初に見たTANNOYのロゴは、TANNOYの文字だけだった。
けれど、しばらくして昔のロゴを見る機会があった。
書体も違っていたけれど、TANNOYの文字をはさみこむように両端の記号が、昔はあった。

その古いTANNOYのロゴを、すぐに頭に思い浮べられる人はいまはどのくらいいるだろうか。
両手を上にひろげたような記号がついていた。

何も知らないころ、この両端の記号をみて、
スピーカーのことを表しているのだ、と勝手に解釈していた。
それはコーンのひろがりのようでもあり、ホーンのそれのようでもあったからだ。
しかも、そのラインは真ん中で太くなっていて、
いかにもタンノイの同軸型を表しているようでもあったからだ。

この記号、スピーカーではなく電波を表しているということを読んだこともある。
確かにタンノイという会社はスピーカーから始まったわけではない。
タンノイの会社名の由来を知っている人ならば、周知のことだ。

この記号も、最初からついていたわけではないが、
私にとってのTANNOYのロゴは、ロゴ自体の書体よりも記憶に残っている。
両端に記号がついた、このロゴが、TANNOYらしいとさえ感じる。

両端の記号はなくなって久しい。
会社の形態も変化しているのだから、それも理解できるのだが、
ロゴから、その会社の歴史や特色をイメージさせる要素が消えていったり、
薄れていったりするのを、何も感じない人がいるのは、
世代の違いかも関係しているのだろうか。

ただ、この場合の「世代」は単なる年代の違いというよりも、
もう少し違う意味の世代でもある。

Date: 7月 14th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その3)

SE401がエナジャイザーとして最初に組み込まれたシステムは、どれなのだろうか。
ステレオサウンド 38号「クラフツマンシップの粋(2)」で、次のように語られている。
     *
岩崎 SE401が最初に組み込まれたシステムというのはやはりパラゴンあたりですか。
山中 いや、オリンパスかもしれません。
岩崎 オリンパスも組み込まれるようになっていましたけれど、パラゴンとどちらが先か知りたいのですけれど。
山中 ぼくが一番最初に日本で聴いたのは、河村電気でパラゴンを輸入しはじめ、その何台目かに入ってきた製品からエナジャイザーが付くようになっていたと思います。それからハーツフィールドの最後期の製品にも組み込まれていましたね。
     *
どれが最初なのかはっきりしないが、おそらくパラゴンではないかと推測できる。
SE401は筐体構造上、エナジャイザーとしての使用を前提としているが、
ステレオ仕様である。
エナジャイザーとしてスピーカーシステムに組み込むには、モノーラル仕様のほうが都合がいい。
にも関わらず、なぜステレオ仕様なのかを考えると、
パラゴンがそうだったから、というところに行き着く。

エナジャイザーの構想は、パラゴンというスピーカーがあったからではないか、とも思えてくるのは、
パラゴンのウーファーのバックキャビティの裏板に理由がある。
裏板は左右チャンネルのウーファーにそれぞれあるわけだから二枚なのだが、
エナジャイザーの取り付け用穴は片チャンネルだけである。

パラゴンというスピーカーの形態、SE401がステレオ仕様ということを考え合わせると、
私にはパラゴンがエナジャイザー搭載の最初のスピーカーシステムと思えてくる。

Date: 7月 14th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その2)

SE401は回路図を見ればすぐにわかるように、
真空管をトランジスターに置き換えたようなところを残している。

現代のパワーアンプのほぼすべては、NPNトランジスターとPNPトランジスターのプッシュプルだが、
SE401の出力段は、RCAのPNPトランジスターだけのSEPPであり、
そのため出力段の前段には位相反転回路が必要になり、SE401はここにトランスを使用している。

Tサーキットと呼ばれる上下対称のプッシュプルの出力段になるのは、
SE408Sからであり、このアンプから電圧増幅回路に差動回路を採用している。
SE400Sの型番末尾のSは、シリコントランジスターになったことを表している。

アンプの回路構成からいえば、SE401とSE408Sはまるで違う。
それでもアンプ全体のコンストラクションは基本的には同じといえる。

SE401もSE408SもエナジャイザーとしてJBLから登場している。
JBLのスピーカーシステムに内蔵するパワーアンプとしての呼称である。
ゆえにSE401もSE408Sも外装パーツを持たない。

アルミダイキャストのフロントパネル(というよりフロントフレームか)に、
パワートランジスターが取り付けられていて、ヒートシンクを兼ねている。

このフロントフレームが電源トランス、増幅回路、平滑用コンデンサーなどすべてを支えているし、
このフレームによりスピーカーのリアバッフルに組み込むための支えでもある。

フロントフレームがヒートシンクを兼ねているわけだから、
いわゆるヒートシンクにつきもののフィンはない。

SE401、SE408Sの構造を昨晩久しぶりにじっくりと見る機会があった。
前回見たのがいつだったか、もう憶えていないほど昔である。

そのころよりもオーディオについてはいろんなことを学んできた。
あの時、SE408Sを見ても気づかなかったことがいくつかあったことに気づかされた。

そして、こういうフロントフレームと呼びたくなる構造は、
アンプメーカーの発想ではない、とも思った。

スピーカーメーカーで、スピーカーユニットのメーカーでもあるからこそ、
こういう構造の発想ができたのだろうし、製品化することもできたといえる。

1970年代、アメリカには、
いくつものガレージメーカーとよばれる小規模のアンプメーカーが誕生した。
回路的には斬新な内容を誇っていたアンプでも、
JBLのSE401、SE408Sに匹敵するような構造のアンプはなかった。

規模の小さなメーカーでは、
ダイキャストのフロントフレームを採用することは負担が大きすぎるからだ。

Date: 7月 13th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(JBL SE408S・その1)

1993年ごろ、マークレビンソンからはNo.29、
チェロからはEncore Powerが登場した。

このふたつのパワーアンプに共通する項目は、
出力談のアイドリング電流を抑え、発熱量を減らすことで、
パワーアンプに欠かせないヒートシンクを、できるだけ簡略化していることである。

パワートランジスターとヒートシンクは、振動源と音叉の関係に近い。
トランジスターを流れる電流で振動を発生する。
この振動がヒートシンクのフィンに伝わっていく。

だからパワーアンプ(ヒートシンクのつくり)によっては、
パワーアンプの出力に抵抗負荷を接ぐ、入力信号をいれ、ヒートシンクに耳を近づければ、
音楽が聞こえてくることもある。
その聞こえ方も、アンプの構造によって違ってくる。
それゆえにヒートシンクの扱いは、パワーアンプの音質を大きく左右するともいえる。

同時に発熱量が多ければ大型のヒートシンクになる。
ということは振動面で不利になるだけでなく、
パワートランジスターまでの配線の距離も長くなるという問題が発生する。
ドライバー段のトランジスターもパワートランジスターと同じヒートシンクに取り付ければ、
ドライバー段までの配線が長くなる。
この影響も無視できるものではない。

この他にもまだまだあるわけだが、ヒートシンクに関係する問題点を解消するには、
ヒートシンクそのものを使わずに澄むような回路設計にするというのも、ひとつの手である。
そうすることで優れたパワーアンプがすぐに出来上るというものではないが、
音質追求のためのA級動作のパワーアンプとは対極にあるアプローチでもある。

No.29、Encore Powerは、そういう考えから生れてきたモノだろうが、
アメリカには30年ほど昔に、同じアプローチといえるパワーアンプが登場していた。
JBLのSE401である。

Date: 6月 11th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(続・赤坂工芸のこと)

赤坂工芸のホーンが、ステレオサウンドで取り上げられたことはなかった。
1980年ごろからステレオサウンドでユニット研究が始まった。
JBL篇とアルテック篇があった。

JBL篇で赤坂工芸のホーンが登場してほしい、とひそかに期待していた。
けれどアルテック篇にしてもJBL篇にしても、そこに登場するユニット、ホーン、エンクロージュアは、
すべてアルテック、JBLのモノで統一されていた。

当然といえばそうなのだが、一読者としては少し寂しい気もしていた。
実際のユーザーは、JBLのドライバーに赤坂工芸のホーンを組み合わせることを考えていたとも思う。
JBLの、それぞれのホーンの特色はユニット研究の連載記事を読めば,ある程度掴めるけれど、
JBLのドライバーと他社製のホーンとの組合せでは、どういう音が得られるのか。

オーディオ店に行っても、アンプやスピーカーの比較試聴はできても、
こういう試聴はまずできない。
だからこそ、赤坂工芸のホーンが、ユニット研究の中で取り上げられるのを期待していた。

ステレオサウンド別冊のHIGH-TECHNIC SERIESが四冊で終ることなく、
もう少し続いていたら……、赤坂工芸のホーンも取り上げられていた、と思う。
読んでみたかった。

2441と2397の組合せに大きな不満があるわけではないが、
2397はいかにもアメリカのホーンという感じが細部に残っている。
写真で見るのとは違い、けっこう雑なつくりなのだ。

ドライバーのつくりに比較すると、
どうしてもこの時代のJBLのホーンは、やや雑な印象がつきまとう。
ホーンがもっと精度の高いつくりであるならば、同じドライバーでももっといい音が出せる、
そう思うし、それと2397に2441を取り付けて感じることに、
重量のアンバランスさもある。
あまりにもドライバーが重過ぎる、というか、ホーンが軽過ぎる。

重けれど重いほどいいとは決して考えないが、
重量バランスをとるためにの重量は必要と考える。

精度の高さと重量バランスの点からも、
いまこそ赤坂工芸のホーンで2441を聴いてみたい気持が強くなってくる。

Date: 6月 11th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(赤坂工芸のこと)

赤坂工芸ときいても、いまでは知らない世代の方が多くなったのかもしれない。
私と同世代、上の世代でも、
ホーン型スピーカーに関心のなかった人にとっても、あまり記憶に残っていないようだ。

私がオーディオの世界に関心を持ち始めたころには、すでに赤坂工芸はあった。
木製のディフラクションホーンの専門メーカーとして、はじめのうちは認識していた。

1978年秋のステレオサウンド別冊HI-FI STEREO GUIDEには、
赤坂工芸のホーンは四種類載っている。

PH8008T1、PH5005MKIIT1、PH8005MKIIT2、PH9005MKIIT2である。
型番末尾のT1とT2はホーンのふちの断面の形状の違いをあらわしており、
T1は角形、T2は丸型であり、T1使用時にはJBLのスロートアダプター2328が必要となる。
T2には専用のスロートアダプターが付属していた。

赤坂工芸のホーンは、JBLの2397と基本的には同じだが、
同じ木製ホーンでも2397が4.4kgに対して、ほぼ同寸法のPH8008T1は8.0kgと倍近い。
PH8005MKIIT2とPH9005MKIIT2はさらに重く、14.0kgとなっている。

赤坂工芸のホーンに、当時は憧れていた。
JBLのホーンで使いたかったのは、いわゆる蜂の巣の537-500(HL88)と2397だったのだが、
2397よりも精度が高そうに感じられた赤坂工芸のホーンは、なんとも魅力的だった。

けれど高かった。
1978年当時で、PH8008T1は98000円、PH9005MKIIT2は173000円していた。
2397は38000円だった。

1980損にはPH8008MKIIT1は138000円に、PH9005MKIIT2は216000円になっている。
2397も少し値上がりして48000円である。

余談だが当時赤坂工芸のホーンとほぼ同価格だったのが、
アコルトのディフラクションホーンMD501だった。
2397とほぼ同寸法のこのホーンは大理石でできていた。
価格は1978年の時点で200000円していた。重量は20.0kgである。

聴く機会はなかった。
いまでも聴いてみたいホーンであることは、当時から変らぬままである。

いまも赤坂工芸はある。
残念ながらというへきか、当然というべきか、
スピーカー作りはやめてしまわれている。
現在はCD制作をされていることがわかる。

ウェストレックスのRA1775は赤坂工芸のPHG5000の型番で市場に出ていたようだ。
ステレオサウンド 60号の写真とはレベルコントロールのパネルとフロントバッフルの色が違うが、
基本的には同一仕様である。

Date: 6月 11th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(ガウスのこと・余談)

ガウスのユニットがウェストレックスのスピーカーシステムに採用されたことは、
すでに書いている。

このニュースを知ったのは無線と実験だったが、
ステレオサウンドにも、ガウス搭載のウェストレックスのスピーカーシステムが載ったことがある。

ここまでは憶えていたけれど、
その記事が何だったのか、どの号だったのかを正確に思い出せずにいた。

ステレオサウンド 60号の「サウンド・スペースへの招待」に、
ガウス搭載のウェストレックスのスピーカーシステム、RA1775が出ている。

写真をみればすぐに気づかれると思うが、赤坂工芸のホーンが使われている。
隣に置かれている4343よりも少し背が低く、横幅は広い。
少しずんぐりしたプロポーションのエンクロージュアをもつシステムについて、
記事中では、次のように説明されている。
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 ところで、4343の隣に置いてある見慣れないスピーカーは、ウェストレックス(オリエント)の試作品でRA1775というものです。小泉さんの子供の時から親友が近所に居られ、現在ウェストレックスの取締役をされていて、しょっちゅう一緒に音楽を聴いているのですが、今度ガウスのユニットを使って新しいスピーカーを試作したから聴いてみようということで、タンノイを一時2階に片付けて、数日前からここに置いて試聴しているのだそうです。
 エンクロージュアは赤坂工芸の製作によるものですが、ガウスの4583Aウーファーを鳴らすための大型のしっかりした箱とHF4000ドライバーのための木製ホーンが特色です。一番上に1502トゥイーターが乗って、800Hz、8kHzのクロスオーバーによる3ウェイ構成となっています。まだ試作品ですし、この部屋に擱いたばかりで、部屋との調整ができていない段階ではありますが、人の声などがとても自然で、今後の鳴らしこみが期待されるということでした。ガウスといえば、ロックコンサートなどのPA用のスピーカーだと思いこんでいたのですが、ここで聴くとなかなか渋いちょっとドイツ的な音がするようですとの小泉さんの感想です。
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RA1775。
型番は完全にウェストレックスである。
あまり鮮明でない写真をみると、ネットワークも赤坂工芸製のようである。

赤坂工芸はガウスのユニットを採用した3ウェイのスピーカーシステムを出している。
RA1775よりも大容積のエンクロージュアをもつモノだった。

RA1775がその後どうなったのか詳細はわからない。
でも、RA1775が完成し、少量でも市販されていたら……、と考えてしまう。
ガウスの評価はもう少し変っていただろうし、もう少し広く認知されていたのではないだろうか。

Date: 4月 26th, 2016
Cate: 世代

世代とオーディオ(あるスピーカーの評価をめぐって・その9)

ステレオサウンド 72号掲載「エキサイティング・コンポーネントを徹底的に掘り下げる」を読まれた方、
記憶されている方は、GS1がどんなふうに開発されていったのかが写真からわかる。

GS1はオールホーン型という,1980年代では希少ともいえる構成を採用している。
そのため基本的にはエンクロージュアというものを必要としない。
ここが一般的なスピーカーの開発と大きく異っている点のひとつであり、
このことがGS1に最後まで残っている点でもある。

ステレオサウンド 72号で菅野先生が書かれているし、
73号でもそのことは座談会で指摘されている。
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柳沢 その実力という点で、ゴールデンサウンド賞には異論はないんですけれども、あえて言うならば、メーカーであのスピーカーを聴かせていただくときに、必ずサランネットをはずして聴かせるんですよね。
「ネットをつけて聴かせてくれ」って言ったら、「嫌です」と言うわけです。「なぜ」と言ったら、「ネットをつけると極端に特性が落ちるんで、お聴かせしたくない」と。
 それは、あのスピーカー全体でやろうとしている考え方に二面性みたいなものがあって、特性的、音質的によりピュアなものを追求したいということと、それから妙にウッドを使って、インテリア風デザインも美しくしたいという、その変に矛盾があって、それはぼくは製品としては、もう一つ完成しきれてないところではないかと思うんです。
 少なくとも あの低音ホーンの恰好でむき出しにして使うというのは、相当、異様なスピーカーと受けとれるんですよね。その辺はもう一歩まとまりを良くして欲しいところなんです。
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この柳沢氏の指摘を、井上先生が表現をかえて発言されている。
それも引用しておく。
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井上 柳沢さんの言ったことの裏返しなんですが、もともと、ホーンだけの裸の恰好が最初のスタートで、それにジャケットをはめて製品化しようとしたプロセスに問題があるのだと思う。だから、商品にするのは、もともと難しいものなんですよ。シンプルな恰好から始めたわけですから。そこのつらさだと思います。
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GS1はウーファー用とトゥイーター用のふたつのブロックからなる。
トゥイーター用ブロックの上にはガラス板がある。
エンクロージュアの天板にあたるところがガラス板というわけだ。

このガラス板は簡単に取り外せる。
このガラスがなくなるとトゥイーターホーンの外側が見えるわけで、
見た目の印象はあまりよくない。
けれど音を出してみると、たったガラス板一枚を取り除いただけなのに……、といいたくなるほどの変化がある。
もちろんいい方向への変化であり、
この音の変化は井上先生の発言を裏付けている、ともいえる。