Archive for category ワイドレンジ

Date: 8月 22nd, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その45・続々補足)

私にとって、タンノイ・オートグラフは、特別な存在であり、憧れのスピーカーとしか言いようがない。

だから、ふつうならば、部屋に入るかぎり、どんなに狭い部屋でも大型のスピーカーシステムを使うことに、
まったくの抵抗感はないのだが、オートグラフだけは、私にとっては違う

部屋に入りさえすれば、使おう、鳴らそう、という気持はおきない。
どうしてもオートグラフだけは、ここまでやれば、
「オートグラフも満足してくれるだろう」と思わえるぐらいの環境を用意できて、
はじめて鳴らしてみたいスピーカーシステムである。

だからといって、オートグラフを、比較的狭い部屋で鳴らされる人に対して、
あれこれ言うつもりはまったくない。

けれど、ワイドレンジ考で書いていく予定だが、
私は、オートグラフをワイドレンジ志向のスピーカーと捉えている。
この点が、ウェストミンスターと大きく異る点であるとも考えている。

オートグラフを、ここ(ワイドレンジ考)で取り上げている理由は、ここにある。
だからこそ、私は、できるだけコーナーホーン型スピーカーシステムにとって理想的な環境で、
オートグラフを鳴らしてみたいとも考えている次第だ。

Date: 8月 22nd, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ
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ワイドレンジ考(その45・続補足)

私は、基本(その5)に書いたように、信じると決めた人はとことん信じるようにしている。
だから、五味先生が「約五メートル間隔で壁側においている」と書かれているのだから、
そのことを疑おうとは、いままで思ったことはない。

FATDOGさんは、この「約五メートル間隔」の「約」にこだわっておられるようだが、
「約五メートル」とは、どのくらいの長さなのだろうか。
まさか3mほどの長さを、いくら頭に約をつけたからといって、5mという人はまずいないだろう。
4m前後の長さでも、これは約4mであって、約5mとは言わない。
どんなに短くても4m後半の長さから5m前半の長さくらいまでが、「約五メートル」のはずだ。

こういう感覚は人それぞれだろうが、私の感覚では「約五メートル」は4.8mから5.2mくらいの範囲のことである。
「約五メートル」には、5m以下も5m以上も含まれるわけだ。

「約五メートル」から、20cmほど短かったとしよう。
それが、どうしたというのだ、が、私の正直な本音である。

不思議なのは、FATDOGさんも、「五味先生」と書かれている。
なのに、書かれているものを信じられないのだろうか。

五味先生が「約五メートル」と書かれていたのは事実だし、
それが4m80cmしかなかったとして、足りない20cmが、
FATDOGさんにとって、どういう意味をもつのだろうか。

Date: 8月 22nd, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その45・補足)

ワイドレンジ考(その45)に対し、FATDOGさんがコメントを書きこまれた。
コメント欄に返事を書いていたが、どうにも長くなりそうななので、こちらに答えることにする。

まず書いておきたいのは、FATDOGさんは、私が5m以上と書いているとされているが、
私はどこにも書いていないということ。
コーナーホーン型スピーカーシステムの本領を発揮させるには、
低音の波長の長さから、5mくらい間隔をとりたいと書いているのは、
ひとつ前のワイドレンジ考(その44)においてである。

5mくらいと書いているが、5m以上とは書いていない。
5m以上、という言葉が出てくるのは、このひとつあとのワイドレンジ考(その46)で、
瀬川先生の言葉を引用したものである。

FATDOGさんにお願いしたいのは、まず、ここのところを混同しないでいただきたいこと。

FATDOGさんは、新潮社から出た「オーディオ遍歴」の写真を見て、
五味先生のオートグラフの間隔は5mはないと判断されたようだが、
その写真を私は見ていないので、これについては返事のしようがない。

ただ私は、ステレオサウンド 55号、62〜63ページに掲載された写真を見て、
オートグラフの間隔はかなり広いと思っている。

この写真を見れば、おわかりになると思うが、
左チャンネルのオートグラフのところに木製の扉がある。
一般的に扉の高さは1.8m以上はある。

真正面から撮られた写真ではないし、こういう写真から正確な数値を割り出す技術は私は持っていないが、
扉の幅は80cm程度はあると思われる。

スピーカー中央には障子の窓があり、ここも80から90cmはあるように思う。
そして右チャンネルのスピーカーのところも左チャンネルと同じつくりだと判断できる。

とすれば、窓にも扉にも枠があり、この部分の寸法を加えれば、
5mくらいは十分あると判断してもいいのではないだろうか。

Date: 8月 21st, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その47)

五味先生の「不運なタンノイ」(「西方の音」所収)には、
「HiFi year bookをしらべたら、私の聴いているスピーカーシステムは、スタジオ・モニター用に放送局で使用するためのものだと、明記されている。」と書かれているから、
にわかには信じられないという人も少なくないと思うが、
タンノイ・オートグラフはモニタースピーカーとして開発・設計されたものということになる。

HiFi year Bookは、ヨーロッパ旅行中の五味先生に、スイス人のオーディオマニアから贈られたもので、
英国の出版社から発行されていたこの本は、
当時の、ほぼすべてオーディオ機器の写真、スペックが掲載されており、
この本の1963年度版で、五味先生はオートグラフの存在に気づかれることになる。

Date: 8月 20th, 2009
Cate: ワイドレンジ, 瀬川冬樹

ワイドレンジ考(その46)

瀬川先生は、ヴァイタヴォックスCN191について、
「二台のスピーカーの置かれる壁面は少なくとも4・5メートル、できれば5メートル以上あって、左右の広がりが十分とれること」と、
「続コンポーネントのステレオのすすめ」のなか、22項で書かれている。

残念ながら、紙面の都合だろうが、その理由については書かれていないが、おそらくコーナーホーン型であること、
壁をホーンの延長として使うこと、そして実際に音を聴かれた経験から、そう書かれただろう。

「残念乍ら」は、1980年、81年の瀬川先生の文章に、なんども登場する。
与えられた枚数が、瀬川先生が書きたいと思われているもに対して少なすぎて、
十分な説明がかけないままのとき、「残念乍ら」を使われている。

当時、この「残念乍ら」の部分を、いつか読めるものだと思って、
毎号ステレオサウンドの発売日を楽しみに待っていた。

けれど、「残念乍ら」の部分を書かれることなく、亡くなられた。

どれだけの「残念乍ら」があったのだろうか。
もし、あの時代にインターネットが、いまの時代のように存在していたら、
ページ数という物理的な制約のせいで書けなかったことを、
ブログやウェブサイトで公開されていたかもしれない、そう思うのだが……。

Date: 8月 20th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ
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ワイドレンジ考(その45)

オートグラフを、五味先生はどのくらい間隔で設置しておられたのか。

「西方の音」所収の「タンノイについて」で、
「私はタンノイ二基を dual concentricunit として、約五メートル間隔で壁側においている。壁にはカーテンを垂らしている。ワルキューレやジークフリートはこの五メートル幅の空間をステージに登場するのである。」
と書かれている。

やはり5mの間隔を確保されている。

そういえば、いま五味先生のオートグラフ他、オーディオ機器のすべては練馬区役所で保管され、
これらの機材を使ってのレコードコンサートが、ほぼ定期的に行なわれている。

私も一度行ったが、そのとき、区役所の担当者の説明では、この部屋を選んだ理由は、
「五味先生がオートグラフの設置されていた間隔が、ちょうどこのぐらいだったからです」と。

だが、あきらかに狭い。5mはどうみてもない。
五味先生と親しかった方が、「このくらいの間隔」だと指示したとことだ。
なぜ、五味先生本人が書かれている5mよりも、短くなるのだろうか。
不思議な話もあるものだ。

Date: 8月 20th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その44)

オートグラフは、しかもコーナーホーン型スピーカーシステムである。
コーナーに設置し、壁を、低音ホーンの延長として利用する。

ホーン型スピーカーは、ホーンが長いほど低音再生能力は、下の帯域まで伸びる。
つまり壁、床が堅固で、響きのいい材質でつくられていても、左右のスピーカーの間隔が狭ければ、
終に真価は発揮し得ない(はずだ)。

ほんとうは断言したいところだが、オートグラフ、もしくは他のコーナーホーン型スピーカー、
ヴァイタヴォックスのCN191やエレクトロボイスのパトリシアン・シリーズを、
私が理想的と考える部屋で鳴らされているのを聴いた経験がないし、
さらに狭い部屋、広い部屋でどのように低域のレスポンスが変化するのか、その測定結果も見たことがないから、
推測で述べるしかないのだが……。

おそらくコーナーホーン型スピーカーは、左右のスピーカーの間隔が3m程度では、
おそらく設計者の意図した低域レスポンスは望めないだろう。

5mくらいは、低域の波長の長さからすると、最低でも必要とするであろう。
それだけの広さと、それに見合うだけの天井高さも求められる。
そして、くり返すが、良質の材質による堅固な造りの部屋でなければならない。
コーナーホーン型スピーカーシステムは、なんと贅沢なものなのかと思う。

Date: 8月 20th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その43)

適切に設計されたコーナー型スピーカーシステムであれば、
しっかりした壁と床を確保できれば、低域のレスポンスを改善できるといえる。

たとえレスポンスの上昇が6dBだとしても、これを電気的に補整するためには、
パワーアンプにそれだけの負担がかかる。6dBアップだと、4倍の出力が求められる。
そして、当然ウーファーには、それだけのストロークが求められる。

いまのように数100Wの出力のあたりまえになり、ウーファーのストロークも充分にとれるのであれば、
電気的な補整も実用になるが、タンノイのオートグラフが登場した時代は、
真空管アンプで、出力は大きいもので数10W。
ユニットのほうも同じようなもので、モニターシルバーの最大許容入力は25Wだ。

だから、低域のレスポンスを伸ばすには、コーナー効果の助けを必要とした。

Date: 8月 20th, 2009
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その42)

一般的なスピーカー(アリソンの試作品)の無響室での周波数特性は、約50Hzまではほぼフラットで、
それより下はなだらかに下降し、20Hzでは−20dBのレスポンス。
このスピーカーをコーナーに設置すると、その影響が、1kHz近くにまで現われている。
250Hzぐらいに数dBのディップができ、小さなやま(ピーク)、それより上の帯域で2つできている。

低域特性は、というと、250Hzのディップ以降、レスポンスは上昇し、100Hzあたりで3dBほど、
50Hzあたりが上昇のピークで、約7〜8dBほど上昇している。
50Hz以下の周波数ではレスポンスは下降し、30Hzでほぼ0dB、20Hzでは−5dBと、
それでも無響室での特性と比較するとあきらかに低域のレスポンスは拡大しているのがわかる。

製品化されたアリソンのスピーカーシステムは、無響室での特性は、300Hzあたりからなだらかに下降、
150Hzあたりで下降カーブはすこし平らになり、50Hzより下の帯域でまた下降しはじめる、という周波数特性。
これがコーナーに設置することで、50Hzまでほぼフラットで、それから下の帯域は下降するもの、
20Hzでのレスポンスは−11〜12dBと、無響室での特性より8dBほど上昇している。
またコーナー設置の影響も、それほど上の帯域には出ておらず、130Hzあたりにわずかな凹みがみられる程度なのは、
最初からコーナーに置くことを考慮した設計だからだろう。

井上先生が、ステレオサウンド 37、38、39号で製作された、
タンノイ・コーネッタの周波数特性──無響室、コーナー設置──が、38号に載っている。
コーナー効果による低域のレスポンス上昇は、最大で10dBを超えている。

Date: 8月 20th, 2009
Cate: ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その41)

スピーカーシステムを、床に直置きし、ウーファーと床とできるだけ近づける置き方では、
低域のレスポンスは理論的には2倍になる。
さらにこの状態で、壁が1面加われば、さらに2倍に、もう一面加われば、もう2倍と、
デシベルで示せば、無響室での測定結果よりも18dB上昇することになる。

床と2面の壁が交差するところが部屋のコーナーである。
18dBものレスポンスの上昇が得られるコーナー効果は、あくまでも壁と床が理想的な状態であれば、の話であり、
実際の部屋では、良好な部屋で最大で12dB程度だといわれている。
一般的な部屋では6〜8dB程度ときいている。
つまりコーナー型スピーカーは、このレスポンスの上昇分を見込んで、無響室での周波数特性は、
低域がなだらかに下降させるが望ましいわけだ。

1980年ごろのステレオサウンドの広告に、アリソンのスピーカーの周波数特性が載っていた。
一般的なスピーカーの無響室での周波数特性とコーナーに設置したときのそれ、
さらにアリソンのスピーカーの、ふたつの条件で周波数特性、
計4つの周波数特性グラフが載っている。

Date: 8月 19th, 2009
Cate: Autograph, TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その40)

蓄音器の音に通じる音の響きをもつタンノイの中にあって、
オートグラフは、その意味でまさしく頂点にふさわしい構造と音と響きをもつ。

その現代版といわれるウェストミンスターを、だから井上先生はスピーカーではなく、
「ラッパ」と呼ぶにふさわしいと判断されたのだろう。

以前、オートグラフをベートーヴェン、ウェストミンスターをブラームスにたとえもしたが、
このふたつのスピーカーは、構造的、設計面で、ひとつ大きく違う点がある。

コーナー型であるかどうかである。

オートグラフはコーナー型、それもコーナーホーン型である。
ウェストミンスターは、リア型を90度の角度を持たせることなく、
通常のスピーカー同様、フラットにした、タンノイ的にいえばレクタンギュラー型で、
コーナーに置くようには設計されていない。

Date: 7月 22nd, 2009
Cate: TANNOY, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その39)

井上先生だけでなく、瀬川先生も長島先生も、タンノイの一連のスピーカーシステムを、
蓄音器の音に通じる共通の響きをもつものとして捉えられていた。

長島先生は、ステレオサウンド 41号に書かれている。
     ※
タンノイのスピーカーユニットの場合、他のスピーカーユニット少し異なっていて、最初から、エンクロージュアの効果が計算の中に入れられてユニットがつくられているように思われる。しかも最初に計算したエンクロージュアの効果が普通のスピーカー用エンクロージュアの考え方と少し異なったアコースティック蓄音器を原点とする考え方の中にあったように思われるのである。
     ※
瀬川先生は、ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ タンノイ」に書かれている。
     ※
そう思い返してみて、たしかに私のレコード体験はタンノイから本当の意味ではじまった、と言えそうだ。とはいうものの、S氏のタンノイの充実した響きの美しさには及ばないにしても、あのピラミッド型のバランスの良い音を、私はどうもまだ物心つく以前に、いつも耳にしていたような気がしてならない。そのことは、S邸で音を聴いている最中にも、もやもやとはっきりした形をとらなかったものの何か漠然と心の隅で感じていて、どこか懐かしさの混った気持にとらわれていたように思う。そしていまとなって考えてみると、やはりあれは、まだ幼い頃、母の実家であった深川・木場のあの大きな陽当りの良い二階の部屋で、叔父たちが鳴らしていた電気蓄音器の音と共通の響きであったように思えてならない。だとすると、結局のところタンノイは、私の記憶の底に眠っていた幼い日の感覚を呼び覚したということになるのか。
     ※
この文章は、瀬川先生が追い求められていた「音」について語るうえで、
絶対に見逃せないものだと思う。
これについては、別項の「瀬川冬樹氏のこと」のところで、あらためて書く。

Date: 7月 15th, 2009
Cate: ワイドレンジ, 井上卓也

ワイドレンジ考(その38)

古き佳き時代のスピーカーに対する、井上先生の「ラッパ」という言葉の響きのうらには、
心情的にノスタルジックな意味が、あきらかに含まれている。

「いずれ鳴らすつもり」で、井上先生は、「欲しい」と思ったオーディオ機器やパーツ類を、
理屈抜きに集めておられた。
ステレオサウンドのうしろのほうに掲載されている交換欄、
ユーズド・コンポーネント・マーケットのページも、丹念にみておられたようだ。

私がいちど、ある製品を掲載したところ、すぐに「あれ、手ばなしたのか」と言われたことがある。
また、あるときは、井上先生から電話があって、
「ジェンセンのG610Bを、山中さんが手放すから、
買おうと思っているけど、中古相場はどのくらいするのか」と聞かれたこともあった。
つづけて、「G610Bのトゥイーターは気にくわないところがあるから、
以前の開口部が丸の、PR302に交換するつもりなんだけど、どこかにないかなぁ」と言われたので、
いくつかのオーディオ店に電話をかけまくり、探し出したこともあった。

ウェスターン・エレクトリックのユニットもお持ちだったと聞いているし、
マランツのModel 7にいたっては、何台所有されていたのだろうか。
オリジナルはもちろん、日本マランツが発売したキット版、
それから復刻版のModel 7SEまで所有されていたはずだ。

そういう井上先生が、「世界のオーディオ」で、こんなふうにタンノイについて書かれている。
     ※
つねづね、何らかのかたちで、タンノイのユニットやシステムと私は、かかわりあいをもってはいるのだが、不思議なことにメインスピーカーの座にタンノイを措いたことはない。タンノイのアコースティック蓄音器を想わせる音は幼い頃の郷愁をくすぐり、しっとりと艶やかに鳴る弦の息づかいに魅せられはするのだが、もう少し枯れた年代になってからの楽しみに残して置きたい心情である。

Date: 7月 14th, 2009
Cate: TANNOY, ワイドレンジ, 井上卓也

ワイドレンジ考(その37)

井上先生は、タンノイのウェストミンスターを呼ぶとき、
スピーカーではなく、「ラッパ」という言葉を使われていた。
なにも、そのときの気分でスピーカーだったり、ラッパと呼ばれたりするわけではない。
さりげなくではなるが、きちんと使いわけされていた、と私は思っている。

井上先生のタンノイのイメージは、「世界のオーディオ」に書かれている「私のタンノイ観」が参考になる。
     ※
タンノイの音としてイメージアップされた独特のサウンドは、やはり、デュアル・コンセントリック方式というユニット構造から由来しているのだろう。高域のドライバーユニットの磁気回路は、ウーファーの磁気回路の背面を利用して共用し、いわゆるイコライザー部分は、JBLやアルテックが同心円状の構造を採用していることに比べ、多孔型ともいえる、数多くの穴を集合させた構造とし、ウーファーコーンの形状がエクスポネンシャルで高域ホーンとしても動作する設計である。
したがって、38cm型ユニットでは、クロスオーバー周波数をホーンが長いために1kHzと異例に低くとれる長所があるが、反面において、独特なウーファーコーンの形状からくる強度の不足から強力な磁気回路をもつ割合に、低域が柔らかく分解能が不足しがちで、いわゆるブーミーな低域になりやすいといった短所をもつことになるわけだ。
しかし、聴感上での周波数帯域的バランスは、豊かだが軟調の低域と、多孔型イコライザーとダイアフラムの組み合わせからくる独特な硬質の中高域が巧みにバランスして、他のシステムでは得られないアコースティックな大型蓄音器の音をイメージアップさせるディスクならではの魅力の弦楽器音を聴かせることになる。
     ※
井上先生にとって、幼いときに聴かれていた、1-90に始まりクレデンザに至る、
蓄音器の音をイメージさせる音をもつ佳き時代のスピーカーを、「ラッパ」と呼ばれていた。
私は、そう受けとっている。

Date: 7月 13th, 2009
Cate: TANNOY, ワイドレンジ, 井上卓也

ワイドレンジ考(その36)

井上先生は、記事の中で、エンクロージュアの剛性の高さが、リジッドさが、音に、
特に低音に関しては、強く出ていると発言されている。

アメリカ・東海岸のスピーカーメーカー、ボザークやマッキントッシュの特徴でもある、
重厚で緻密な低域が、ごく低い周波数だけにとどまることなく、ウーファーのかなり上の帯域まで、
同じ音色で統一されている、とのことだ。

低域に関しては、アメリカ・東海岸のスピーカーに共通するものをもちながらも、
中高域になると、従来からタンノイトーンと呼ばれる、中高域の独特の輝きを、
他のタンノイのスピーカーよりも、目立たないようにバランスしている点が、
イギリスの伝統的なスピーカーにしか出せない独特の魅力へとつながっている、と指摘されている。

井上先生は、バッキンガムを鳴らすための組合せとして、
コントロールアンプに、バッキンガムのやや控えめな性格をカバーする意味合い、
音像を立体的にする目的から、コンラッド・ジョンソンのデビュー作のPreamplifier(管球式)を、
パワーアンプは、音に積極性を持たせるためにSAEのMark 2600を選ばれている。

これらのことは、バッキンガムが、どちらかといえば控えめであり、おっとりしたところを、
うまく補うためでもある。