メリディアン ULTRA DACを聴いた(その12)
「雪が降る」もそうなのだが、
「希望」の三番目に《寒い夜更けに》と歌詞がある。
ここのところは、「アドロ・サバの女王」での、私にとって重要な試聴ポイントである。
言葉だけの、表面的な《寒い夜更けに》であっては、情景はまったく浮ばない。
この短い《寒い夜更けに》でのグラシェラ・スサーナの歌い方は、
どうしてこう歌えるのだろうか、と最初に聴いた時からの疑問でもある。
「アドロ・サバの女王」は1973年7月に発売になっている。
グラシェラ・スサーナは1953年1月生れ。
このころの録音からレコード発売までの期間からすれば、
「アドロ・サバの女王」に収められている曲のほとんどはハタチになる前の録音のはずだ。
「サバの女王」に関しては、もう一年早い録音である。
アルゼンチンで生まれ育って、録音のために日本に来たグラシェラ・スサーナが、
どうしてこうも日本語の歌を情感豊かに歌えるのか、
「希望」の《寒い夜更けに》を、まさにそう感じさせる歌い方ができるのか。
それが不思議である。
才能といってしまえば、それまでだが、
才能だとしたら、その才能ゆえの表現で《寒い夜更けに》が鳴ってくれないと、
LPから、ずっとグラシェラ・スサーナを聴いていた聴き手は困るわけだ。
何の気負いもなく、自然な感じで、しかもこちらの望むように《寒い夜更けに》は鳴ってくれた。
「雪が降る」も、こんなに暑い季節に聴く曲なのか、と思われるだろう。
けれど、「雪が降る」にしても、《寒い夜更けに》と同じで、
グラシェラ・スサーナによって歌われたとき、その場は、その季節になっている。
もちろんいつもそうだとはいわない。
どうしようもない音だと、そんなふうにはまず感じない。
情報量が多くて、世評の高いD/Aコンバーターたから、そんなふうに感じるわけではない。
明らかに情景を描けるオーディオ機器とそうでないオーディオ機器とがある。