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Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その63)

ステレオサウンド 52号の特集は、アンプである。
42号はプリメインアンプの特集だった。
その後、52号までアンプの特集はなかった。

セパレートアンプに関しては、1978年夏に別冊が出ている。
ステレオサウンド本誌でセパレートアンプの総テストはひさしぶりのことである。
編集後記によれば、
セパレートアンプとプリメインアンプの合同試聴は九年ぶりとある。

ひさしぶりのことだけはあった、と思える内容だ。
特集の巻頭には、瀬川先生の文章がある。
三万字近い文章がある。
読み応えが、本当にある。

この後にテストリポートが続く。
52号のテストリポートは試聴(岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦)と測定(長島達夫)からなる。
プリメインアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、柳沢功力。

この52号の測定で注目したいのは、抵抗負荷の特性だけでなく、
ダミースピーカー負荷時の特性も測定しているところだ。

このダミースヒーカーは三菱電機によるもので、
インピーダンス特性をみるとフルレンジユニットのような特性を持つ。
f0は40Hzで、高域にかけてインピーダンスが素直に上昇している。

一見するとやや薄めのコンプレッションドライバーのように見えるダミースピーカーは、
通常のスピーカーとは逆に音が出ないように工夫されている。
アンプの測定に使うものだから、ハイパワーアンプの測定にも使えなければならない。
ダンパーは二重になり、ボイスコイルの振幅は32mm(±16mm)で、放熱対策もとられている。

このダミースピーカーを負荷として、混変調歪と全高調波歪が測定されていて、
抵抗負荷時の特性と比較できるようになっている。

その他にプリ・パワーのオーバーオールの周波数特性に関しては、
抵抗負荷だけでなく、試聴スピーカーである4343を負荷としたときの特性も載っている。

測定項目としてはそう多くはないが、手間のかかる測定だったはずだ。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その62)

もうひとつの新連載ザ・スーパーマニアの一回目には、
福島・郡山のワイドレンジクラブの五人の方が登場されている。

ザ・スーパーマニアの扉には、
「郡山では、100組の3Dシステムが、さわやかな超低音をひびかせている」
とある。

ワイドレンジといえば、スーパートゥイーターで高域レンジの拡大をイメージする人が多いけれど、
ここでのワイドレンジとは低域レンジの拡大である。
しかもワイドレンジクラブの人たちは、みな3D方式をとられている。

3D方式とは日本独特の言い方で、
今風にいえばセンターウーファーのことである。

ステレオサウンドは48号で、サブウーファー(センターウーファー)の試聴を行っている。
48号では試聴室での、メインとなるスピーカーを変え、
サブウーファーも変えての試聴(いわば実験)である。

52号のザ・スーパーマニアは、いわば実践ともいえる内容である。
48号の記事と52号のザ・スーパーマニアの担当者は同じではない。

ザ・スーパーマニアの担当編集者は、51号の編集後記で「新入社員です」と書かれているOさんである。
THE BIG SOUNDもOさんの担当である。

ふたつの記事の担当編集者は違っていても、
そんなことは読者には関係のないことで、
読者にとっては関連付けられる記事が載っていることだけが重要である。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: 「オーディオ」考

オーディオがオーディオでなくなるとき(その2)

仮にオーディオ雑誌からオーディオマニア訪問記事がなくなったとしても、
いまはインターネットがあるから、
さまざまなオーディオマニアのリスニングルームの写真を見ようと思えばいくらでも見られる。

オーディオマニアの数だけのリスニングルームがある。
中には、どれだけの資産があれば、これだけのリスニングルームとオーディオ機器を揃えられるのか、
そんなことを考えてしまうほどの部屋もある。

非常に高額なオーディオ機器が、いくつも並んでいる。
よく所狭し、という表現をするが、
そういうところは、所狭しとは無縁だ。

多くのオーディオ機器が整然と並んでいる。
そこに、憧れを抱くか、といえばそうでもない。

そういう部屋と対照的だったのが、岩崎先生の部屋だ。
ステレオサウンド 38号に載っている。
JBLのパラゴンが正面にあり、その両端にはアルテックの620Aが上下逆さまで置かれている。
パラゴンの上に620Aが乗っている。
パラゴンのほぼ中央にはマイクロのアナログプレーヤー。
コントロールアンプのクワドエイトLM6200Rもある。

パラゴンの隣にはJBLのハークネスが隠れるようにある。
パラゴンの対面にもスピーカーがあり、部屋の両サイドにはさまざまなオーディオ機器が積み上げられている。
それこそ所狭しとオーディオ機器がある。

岩崎先生の部屋に行かれた方の話だと、ほんとうに足の踏み場がない、とのこと。
床にもアンプがいくつも置かれていて、アンプとアンプの間のわずかなすきまを歩いていく。

岩崎先生の部屋の写真を見ていると、いいな、と素直に思う。
こういう雰囲気は出せないな、とも思う。

私は、岩崎先生の部屋に、オーディオを感じてしまう。

Date: 8月 18th, 2016
Cate: 「うつ・」

うつ・し、うつ・す(その9)

骨壺。
いうまでもなく、火葬にした遺骨をまとめておく壺のことである。

骨壺を分けると骨と壺。

骨(コツ)には、物事をする場合のかんどころ。呼吸。要領。
それから芸道の奥義。また、それを会得する才能。
そういった意味もある。

壺(ツボ)には、灸をすえ、また鍼を打って効果のある人体の定まった個所。経穴。
物事の大事な点。急所。肝要な所。
見込むところ。
三味線や琴の勘所。
そういった意味もある。

これらの意味で使うときは、コツ、ツボと書くことが多いが、骨、壺である。
なぜ灸をすえ鍼をうつ個所がツボなのか、
物事の大事な点がツボなのか

ツボ(壺)は容器である。容器として空(カラ)でなければならない。
体のツボは、ならば空なのか。
物事の大事な点も、三味線、琴の勘所も空なのだろうか。

空だからこそ、そこに音が響く(共鳴する)のか。
骨壺もそうなのだろうか。

Date: 8月 18th, 2016
Cate: 新製品

新製品(Nutube・その4)

1970年代終りごろ、出力トランジスターの高周波特性が向上した。
そのころRET(Ring Emitter Transistor)が登場した。
小信号トランジスターを多数並列接続して、
ひとつのパッケージにおさめたといえるトランジスターである。

小信号トランジスターは出力トランジスターよりも高周波特性が優れている。
ならばそれを並列接続することで、より大きなパワーを扱えるようにしたモノである。
パイオニアのパワーアンプM25に採用されていた。

ネルソン・パスが数年前だったか、同じ考えに基づくパワーアンプの記事を公開していた。
小信号FETをかなりの数並列接続することで、出力トランジスターを用いないパワーアンプを作っていた。
回路的には特に難しいところはない。
ただただハンダ付けを丁寧にこなしていくことが求められるアンプ製作である。
人によっては気が遠くなるような作業に感じられるだろう。

小信号のデヴァイスを並列接続して使うという手法は、真空管でもある。
ラジオ技術で武末数馬氏がECC81を片チャンネルあたり八本使用したパワーアンプを、
1981年(だったと記憶している)に発表されている。

入力された信号はトランスによる位相反転され、その後はECC81の8パラレル・プッシュプル回路である。
いわゆる単段アンプである。出力は5W+5Wと記憶している。

コルグがNutubeの出力管版を開発していくのかどうかはわからない。
出てこないかもしれない。
出てくるにしろ出てこないにしろ、Nutubeを武末氏のECC81アンプのように複数並列接続すれば、
数W程度の出力のパワーアンプは作れるはずである。

ECC81は傍熱管だが、Nutubeは直熱管。
片チャンネル八本使っての8パラレル・プッシュプルで、どれだけの出力がとれるだろうか。
100dB超えのスピーカーう使っていれば、数Wの出力でもいける。

Nutubeによるパワーアンプ、
予想以上のパフォーマンスを発揮してくれるかもしれない。

Date: 8月 18th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その61)

ステレオサウンド 52号には「続・五味オーディオ巡礼」が載っている。
47号から再開したオーディオ巡礼が載っているかいないかで、
ステレオサウンドの印象が、私にとっては大きく変ってくる。

48号、49号と二号続けて載っていなかったから、
50号、51号、52号と三号続けて読める嬉しさと喜びは一入であった。

52号のオーディオ巡礼に登場されるのは、岩竹義人氏。
48号で、井上先生とサブウーファーの記事に登場されていた人であり、
HIGH-TECHNIC SERIES 3(トゥイーター号)に原稿を書かれている。

岩竹氏の回は、「オーディオ巡礼」にはおさめられていない。
52号でしか読めない。

52号ではTHE BIG SOUNDとザ・スーパーマニア、ふたつの連載が始まった。
THE BIG SOUNDの一回目には、EMTの927Dstが登場している。
コンシューマー用のアナログプレーヤーとは明らかに異る威容をもつ927Dstの詳細を、
初めて紹介した記事のはずだ。

山中先生が書かれている。
     *
 シャフトと軸受の嵌合とか、そういった機械的精度の出しかたは非常に常識的に、まともに作られている。ターンテーブルというものが機械屋の手から電気屋の手に移った現在では、この「まともに作る」ということが忘れられている。この927は、機械屋がまともに設計して作ったものという意味でも貴重な存在といえる。
     *
機械屋の手からから電気屋の手に……、
52号は1979年秋号で、国産プレーヤーの大半はダイレクトドライヴであり、
マイクロが半年ほど前に糸ドライヴのRX5000を出したころである。

機械屋の手から電気屋の手へ移ったアナログプレーヤーの設計は、
電子屋の手に渡った、ともいえる。

Date: 8月 18th, 2016
Cate: 「オーディオ」考

オーディオがオーディオでなくなるとき(その1)

「オーディオがオーディオでなくなるとき」は、
吉田健一氏の「文学が文学でなくるとき」にならってのものであり、
しかも永井潤氏が1982年に、ステレオサウンド別冊Sound Connoisseurで使われている。

オーディオがオーディオでなくなるとは、どういうことなのか。
まずそのことについて書いていかなければならないのだが、
同時に「ステレオサウンドがステレオサウンドでなくなるとき」とか、
「オーディオ評論家がオーディオ評論家でなくなるとき」とか、
他にもいくつか「文学が文学でなくなるとき」にならって考えている。

すぐに答が出せそうでいて出せないもどかしさを感じている。
まだはっきりと言葉に変換できないから、
「ステレオサウンドがステレオサウンドでなくなるとき」といったことを考えている。

昨夜、友人でオーディオ仲間のAさんと数年ぶりに会って、あれこれ話していた。
オーディオの話もしたし、海外ドラマの話、同世代だけにゴジラやガメラの話などをしていた。

Aさんが以前訪れたことのあるあオーディオマニアのことが話に出てきた。
そのオーディオマニアのことを聴きながら、
その人はオーディオマニアなんだろうか、と思っていた。

そのオーディオマニアの方とは面識がない。
会ったことのない人について書いていることは承知している。
そのうえで、世間一般から見れば、その人はすごいオーディオマニアということになるけれど、
私にはどうにもそう思えない何か、Aさんの話から感じていた。

そんなことがあったので、ふと「文学が文学でなくなるとき」を思い出したし、
「オーディオがオーディオでなくなるとき」について考えてみようと思っているところだ。

Date: 8月 18th, 2016
Cate: 五味康祐

続・無題(雑器の美)

五味先生の「モーツァルト弦楽四重奏曲K590」と柳宗悦氏の「雑器の美」。
どちらも読んでほしい、と思う。

「モーツァルト弦楽四重奏曲K590」を読んでいる人は、一度「雜器の美」を読んで、
もういちど「モーツァルト弦楽四重奏曲K590」を読んでほしい。

そう思った理由は書かない。
「モーツァルト弦楽四重奏曲K590」と「雜器の美」を読めば、わかってもらえると思うからだ。

Date: 8月 18th, 2016
Cate: ケーブル

ケーブル考(銀線のこと・その6)

SMEの3012-Rの最初の広告には「限定」の文字があった。
SMEもそれほど売れるとは考えていなかったのかもしれない。
けれど3012-Rは高い評価を得た。

特にステレオサウンド 58号の瀬川先生による紹介記事を読んだならば、
このトーンアームを買っておかなければ、と思ってしまう。
私もそのひとりである。

3012-Rはかなり売れたのだろう。
いつのまにか「限定」の文字がなくなって、販売は継続されていった。
それだけでなく、さらなる限定モデルとして金メッキを施した3012-R Goldを出す。

その後3012-R Proも出してきた。
このトーンアームの内部配線も銀線であり、
ピックアップケーブルも銀線になっていた。

ステレオサウンド試聴室では、
マイクロのSX8000IIに、この3012-R Proを取り付けて、
ケーブルも付属の銀線をリファレンスとしていた。

つまりこのアナログプレーヤーにオルトフォンのSPU-Goldを取り付ければ、
発電コイルから出力ケーブルまで銀線で揃えられる。
いうまでもなくオルトフォンもSMEも、当時はハーマンインターナショナル扱いブランドだった。

ちなみにケーブルの両端についている保護のためのコイルスプリングは外していた。
この部分にアセテートテープ貼ってみる。
これだけでも音は変化する。
さらにこれを取り除くと、その変化はもっと大きくなる。

このコイルスプリングは鉄でできている。
機械的共振と磁性体を取り除くことになる。

銅線でもそうだが、銀線では特に、
このコイルスプリングがあると良さが出難くなる印象を持っている。

Date: 8月 17th, 2016
Cate: ケーブル

ケーブル考(銀線のこと・その5)

1970年代後半、他の国はどうだったのかは知らないが、
少なくとも日本では銀線という文字を、オーディオ雑誌で見かけることが急に増えてきた。

広告では、新藤ラボラトリーが、
ウェスターン・エレクトリックも銀線を使っていた、と謳っていた。

それから木製ホーンで知られていた赤坂工芸は、
オルトフォンのSPU-AEのコイルを銀線に巻き直すサービスを行っていた。
オルトフォンが銀線コイルを使用したSPU-Goldを出すよりも以前のことである。
赤坂工芸の広告には、50ミクロンの銀線を使用、とあるだけで、
詳細はお問い合わせ下さい、とのこと。

どのくらいの価格でやってくれるのかは、なので知らない。
いったんカーリトッジをバラしてコイルをほどき、巻き直すわけだし、
しかもひじょうに細かな作業だから、それほど安くはなかっただろう。

《その結果は、まさに筆舌につくしがたいというところです。ただ聴きほれるだけです》
と広告には、そう書いてあった。

この広告から二年半後に、オルトフォンからSPU-Goldが登場している。
なので当時は勝手に想像していた。
赤坂工芸の銀線SPUの音を聴いた人が、オーディオ関係者にいたのかもしれない。
それでオルトフォンに……、そんなふうに想像できなくもなかった。

SPU-Goldはステレオサウンド 61号で、山中先生が紹介されている。
     *
在来のSPUに比べてわずかながら音の鮮度と低域の分解能が向上し、よりアキュレートな音になっているのが新しい魅力である。
     *
この項の(その1)で引用したことと、
SPU-Goldの音の印象は重なってくるし、そのことで銀線のイメージができあがりふくらんでいった。

Date: 8月 17th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その60)

ステレオサウンド 52号の表紙は、マッキントッシュのC29とMC2205のペアである。
黒をバックに、夏号(51号)とはがらりと雰囲気を変えた秋号らしさ、と感じた。

52号を手にして気づくのだが、
49号はマッキントッシュのMC2300、50号はMC275、51号がアルテックの604-8Hで、
52号がC29とMC2205ということは、
一年四冊のステレオサウンドの表紙の三回をマッキントッシュのアンプが飾っている。

こういうことを書くと、へんなことを勘ぐる人が出てくる。
念のために書いておくが、このころのマッキントッシュの輸入元はヤマギワ貿易である。

52号の特集は「いま話題のアンプから何を選ぶか──最新56機種の実力テスト」である。
セパレートアンプ、プリメインアンプの試聴と測定である。
特集の冒頭には、
瀬川先生の「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」が載っている。

51号とは打って変っての内容である。
特集だけではない、新連載も二つ始まっている。
主菜も副菜も充実していた、というか、充実させようという意気込みのようなものがあった。

嬉しくなった。
51号がああだっただけに、その嬉しさを伝えたかった。
だからステレオサウンド編集部に手紙を書いた。

しばらくしたら編集部から返信があった。
返事があるとはまったく思っていなかっただけに、また嬉しくなった。

いま思えばつたない文章の手紙だった。
そういうのに対してもきちんとした返事を送ってくれた。
念のためにいっておく、この時代から電子メールではなく封書の手紙だ。

Date: 8月 17th, 2016
Cate: オリジナル

オリジナルとは(SAEの場合)

ステレオサウンドについて(その59)」で、SAEの輸入元変更について書いた。

SAEのパワーアンプMark 2600に関しては、
RFエンタープライゼス輸入のモノと三洋電機貿易輸入のモノとがある。

私は迷わずRFエンタープライゼス輸入のMark 2600を選ぶが、
世の中にはオリジナルでなければ絶対にダメだ、という人たちがいる。
その人たちは、どちらを選ぶだろうか。

ここでのMark 2600のオリジナルとは何を指すのか。
SAEはアメリカの会社だから、アメリカで売られているMark 2600とまったく同じモノであり、
SAEが日本に出荷したモノということになる。

RFエンタープライゼスでは、届いたMark 2600に手を加えていた。
私はそのことを改良と受けとめているが、
オリジナル至上主義者は、オリジナルに手を加えている、と憤慨するかもしれない。

RFエンタープライゼスが勝手にやっていたことではないだろう。
SAEの承認を得てやっていたことだろう。
それでもオリジナルに手を加えていることは事実である。

RFエンタープライゼス輸入のモノと三洋電機貿易輸入のモノとを比較試聴したことはない。
どれだけの音の差があるのかははっきりとしないが、
少なくともある程度の音の差があるのは間違いない。

おそらくRFエンタープライゼスのMark 2600の方が音はいい、と思う。
だから私は、オリジナルではなくなっていてもRFエンタープライゼス輸入を迷わずとるが、
オリジナル至上主義者は、ここでは迷わず三洋電機貿易輸入を選んでもらいたい。

でもオリジナル至上主義者の何人かはいうだろう。
聴いて音が良ければ、RFエンタープライゼス輸入をとる、と。

オリジナル至上主義者の人たち何人かと話して気づいたのは、
彼らがオリジナルに執拗にこだわるのは市場価値とか商品価値を重視しているからでもある。

つまり手放すときに、どれだけ高く売れるか。
そのためだけにオリジナルであることにこだわっている人がいるのは事実である。

ということは、そういう人にとっては三洋電機貿易輸入のMark 2600は、
中古市場での価格は、RFエンタープライゼスのMark 2600よりも低いはずだから、
RFエンタープライゼスのMark 2600がオリジナルということになるのか。

Date: 8月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その59)

ステレオサウンド 51号に関しては、もうひとつ書いておきたいことがある。
といっても記事ではなく、広告である。

当時マークレビンソンやSAEなどの輸入元であったRFエンタープライゼスの広告のことだ。
そこには大きな文字で「さようならSAE」とあった。

文字だけの広告だった。
〈SAE社からの手紙〉が上段にあり、
下段に〈RF社からSAE社への返信〉があった。

SAEが拡大路線を、輸入元のRFエンタープライゼスに要請したものの、
RFエンタープライゼスとしては望むべき道ではない、ということで、
SAEの取り扱い業務を停止する、というものだった。

SAEは三洋電機貿易が取り扱うことになった。
これはけっこうショックだった。

SAEのパワーアンプMark 2500は、瀬川先生の愛用アンプであり、
私の欲しいアンプのひとつだった。
51号のころはMark 2500からMark 2600にモデルチェンジしていた。

基本的な内容は同じであっても、パワーアップしたMark 2600の音は2500とは違っていた。
私はMark 2500の方が好きだったし、いいと思う。
瀬川先生もMark 2600になって、気になるところが出てきた、ともいわれていた。

RFエンタープライゼス取り扱いのSAEがなくなる。
そんなことをいって輸入元が変るだけだろう、と人はいうだろう。

けれど当時のRFエンタープライゼスは、輸入して売るだけの商売をやっていたわけではない。

広告には、こう書いてあった。
     *
当社では、これまで米国SAE社製品の輸入業務を行うとともに、日本市場での高度な要求に合致するよう、各部の改良につとめてまいりました。例えば代表的なMARK 2600においては、電源トランスの分解再組立てによるノイズ防止/抵抗負荷による電源ON-OFF時のショック追放/放熱ファンの改造および電圧調整によるノイズ低減/電源キャパシターの容量不足に対し、大型キャパシターを別途輸入して全数交換するなど、1台につき数時間を要する作業を行うほか、ワイヤーのアースポイントの変更による、方形波でのリンギング防止やクロストークの改善など、設計変更の指示も多数行ってまいりました。
     *
これだけの手間を、次の輸入元がやるとは思えなかった。
三洋電機貿易が輸入したMark 2600を聴く機会はなかったが、
特に聴きたいとも思っていなかった。

そのMark 2600だが、
数年前、ある人から「瀬川さんがいいというからMark 2600を買ったけれど、ちっとも良くなかった」
といわれた。
だから聞き返した。「輸入元はどっちですか」と。
「三洋電機貿易のモノじゃないか」ともきいた。
そうだ、という。

だからだ、と答えた。
RFエンタープライゼスがどういうことをやっていたのかも説明した。
でも、その人は納得していない様子だった。
同じ型番のアンプなのだから、輸入元の違いで音の違いなどあるはずがない、
そう思っているようだった。

そして執拗に「瀬川さんがいいといっていた……」とくり返す。
この手の人に対する私の態度は冷たい。

Date: 8月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その58)

このころのステレオサウンドの音楽欄は、
いまとはずいぶん趣の違う構成だった。

ジャズに関しては「わがジャズ・レコード評」というページを、
安原顕氏が書かれていた。

いまとなっては安原顕氏がどういう人なのか説明するところから始めないと、
「誰ですか、安原顕って?」となる。

51号の「わがジャズ・レコード評」の書き出しはこうだ。
     *
 ジャズ喫茶に詳しい人なら、国分寺から千駄ヶ谷に引っ越してきたPeter-cat(マッチに例のジョン・テニエル描くところの『不思議の国のアリス』の笑いながら消えていくチェシャー猫の絵を使っている)という洒落たお店のことは知っていると思うが、そこのマスターの村上春樹君が、『風の歌を聴け』と題する中編小説で第22回群像新人賞を受賞した。この村上君は、ぼくのジャズ友達で現在『カイエ』の編集長をしている小野君から紹介されて、国分寺時代のころから知っていた人だったので早速読んでみたのだが、これがちょっと信じられないくらい(といっては村上君に悪いが)面白くかつ感動的な小説だった。
     *
村上春樹氏についての記述はもう少し続くが、このへんにしておくし、
これは、余談である。

51号464ページは、告知板という記事である。
メーカーのショールームがオープンしたり、キャンペーンを行っているとか、
オーディオ機器の価格改定が行われたとか、そういった告知をあつめたページである。

ここにフィリップスが発表したコンパクトオーディオ・ディスクが載っている。
このころはまだディスクの直径は11.5cmである。
このころフィリップスのスピーカーやカートリッジは、オーディオニックスが輸入していた。
だから、このコンパクトオーディオ・ディスクの問合せ先も、オーディオニックス。

CDの誕生前、ひっそりと記事となっている。

51号を弁当にたとえれば、主菜が期待外れだった。
けれど副菜が意外なもので美味しかったりしたので、
弁当として満足はそれなりに得られたものの、
やはり51号のベストバイは失敗と断言してもいい。

Date: 8月 16th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その57)

瀬川先生の「ひろがり溶け合う響きを求めて」は、
単にリスニングルームだけのことに留まらず、さざまなことに関係してくる予感があるだけに、
ここではこれ以上書かない。

いずれ項を改めて欠くつもりだが、
どういうテーマにするのかも含めて、まだ何も決めていない。

ブログを書いていると、こんなふうにして書きたいことが次々に出てくる。
項を改めて……、と保留にしているテーマがもうすでにいくつかもある。

ステレオサウンド 51号の記事については、だから次にうつる。
「#4343研究」である。

副題は「JBL#4343のファイン・チューニング」である。
4343をチューニングするのはオーディオ評論家ではなく、
JBLプロフェッショナル・ディヴィジョンのゲーリー・マルゴリスとブルース・スクローガンのふたり。

1979年4月中旬に、
山水電気主催でJBLのプロフェッショナル・ユーザーを対象としたセミナーが開催され、
講師として、このふたりが来日している。

「JBL#4343のファイン・チューニング」は10ページの記事。

海外メーカーの人は、昔からよく来日している。
その度にステレオサウンドをはじめオーディオ雑誌はインタヴュー記事を掲載する。
けれど、読者が読みたいのは、それら多くのインタヴューの先にあるものである。

51号の、この記事はそういえる初めての記事、
少なくとも私にとっては、ステレオサウンド以外にもオーディオ雑誌を読んでいたけれど、
こういう記事は初めてであった。

自社のスピーカーシステム(4343)をセッティングしていく様には、
ロジックがあるといえよう。
特にレベルコントロールの方法は、まさに目から鱗であった。

この時の4343の音は、心底聴いてみたかった。

ファイン・チューニングという言葉を、
数年前のステレオサウンドも記事のタイトル使っている。
ずいぶん51号とは意味合いが違っている。