ケーブル考(銀線のこと・その5)
1970年代後半、他の国はどうだったのかは知らないが、
少なくとも日本では銀線という文字を、オーディオ雑誌で見かけることが急に増えてきた。
広告では、新藤ラボラトリーが、
ウェスターン・エレクトリックも銀線を使っていた、と謳っていた。
それから木製ホーンで知られていた赤坂工芸は、
オルトフォンのSPU-AEのコイルを銀線に巻き直すサービスを行っていた。
オルトフォンが銀線コイルを使用したSPU-Goldを出すよりも以前のことである。
赤坂工芸の広告には、50ミクロンの銀線を使用、とあるだけで、
詳細はお問い合わせ下さい、とのこと。
どのくらいの価格でやってくれるのかは、なので知らない。
いったんカーリトッジをバラしてコイルをほどき、巻き直すわけだし、
しかもひじょうに細かな作業だから、それほど安くはなかっただろう。
《その結果は、まさに筆舌につくしがたいというところです。ただ聴きほれるだけです》
と広告には、そう書いてあった。
この広告から二年半後に、オルトフォンからSPU-Goldが登場している。
なので当時は勝手に想像していた。
赤坂工芸の銀線SPUの音を聴いた人が、オーディオ関係者にいたのかもしれない。
それでオルトフォンに……、そんなふうに想像できなくもなかった。
SPU-Goldはステレオサウンド 61号で、山中先生が紹介されている。
*
在来のSPUに比べてわずかながら音の鮮度と低域の分解能が向上し、よりアキュレートな音になっているのが新しい魅力である。
*
この項の(その1)で引用したことと、
SPU-Goldの音の印象は重なってくるし、そのことで銀線のイメージができあがりふくらんでいった。