ステレオサウンドについて(その58)
このころのステレオサウンドの音楽欄は、
いまとはずいぶん趣の違う構成だった。
ジャズに関しては「わがジャズ・レコード評」というページを、
安原顕氏が書かれていた。
いまとなっては安原顕氏がどういう人なのか説明するところから始めないと、
「誰ですか、安原顕って?」となる。
51号の「わがジャズ・レコード評」の書き出しはこうだ。
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ジャズ喫茶に詳しい人なら、国分寺から千駄ヶ谷に引っ越してきたPeter-cat(マッチに例のジョン・テニエル描くところの『不思議の国のアリス』の笑いながら消えていくチェシャー猫の絵を使っている)という洒落たお店のことは知っていると思うが、そこのマスターの村上春樹君が、『風の歌を聴け』と題する中編小説で第22回群像新人賞を受賞した。この村上君は、ぼくのジャズ友達で現在『カイエ』の編集長をしている小野君から紹介されて、国分寺時代のころから知っていた人だったので早速読んでみたのだが、これがちょっと信じられないくらい(といっては村上君に悪いが)面白くかつ感動的な小説だった。
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村上春樹氏についての記述はもう少し続くが、このへんにしておくし、
これは、余談である。
51号464ページは、告知板という記事である。
メーカーのショールームがオープンしたり、キャンペーンを行っているとか、
オーディオ機器の価格改定が行われたとか、そういった告知をあつめたページである。
ここにフィリップスが発表したコンパクトオーディオ・ディスクが載っている。
このころはまだディスクの直径は11.5cmである。
このころフィリップスのスピーカーやカートリッジは、オーディオニックスが輸入していた。
だから、このコンパクトオーディオ・ディスクの問合せ先も、オーディオニックス。
CDの誕生前、ひっそりと記事となっている。
51号を弁当にたとえれば、主菜が期待外れだった。
けれど副菜が意外なもので美味しかったりしたので、
弁当として満足はそれなりに得られたものの、
やはり51号のベストバイは失敗と断言してもいい。