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Date: 8月 22nd, 2016
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ヴィソニック David 50・その1)

1970年代後半、ミニスピーカーのちょっとしたブームがあった。
アメリカのADC、西ドイツのブラウン、ヴィソニックなどが積極的に製品を出していた。

瀬川先生はヴィソニックのDavid 50を高く評価されていた。
ステレオサウンド別冊「続コンポーネントステレオのすすめ」で、こんなふうに書かれている。
     *
 たとえば書斎の片すみ、机の端や本棚のひと隅に、またダイニングルームや寝室に、あまり場所をとらずに置けるような、できるだけ小さなスピーカーが欲しい。しかし小型だからといって妥協せずにほどほどに良い音で聴きたい……。そんな欲求は、音楽の好きな人なら誰でも持っている。
 スピーカーをおそろしく小さく作った、という実績ではテクニクスのSB30(約18×10×13cm)が最も早い。けれど、音質や耐入力まで含めて、かなり音質にうるさい人をも納得させたのは、西独ヴィソニック社の〝ダヴィッド50〟の出現だった。その後、型番が502と改められ細部が改良され、また最近では5000になって外観も変ったが、約W17×H11×D10センチという小さな外寸からは想像していたよりも、はるかに堂々としてバランスの良い音が鳴り出すのを実際に耳にしたら、誰だってびっくりする。24畳あまりの広いリスニングルームに大型のスピーカーを置いて楽しんでいる私の友人は、その上にダヴィッド50(502)を置いて、知らん顔でこのチビのほうを鳴らして聴かせる。たいていの人が、しばらくのあいだそのことに気がつかないくらいの音がする。
     *
「私の友人」と書かれている。
実際に友人で、そういう人がいたのだろう。
でも、瀬川先生自身もまったく同じことをやられていた、とつい先日ある方から聞いた。

世田谷に建てられたリスニングルームに移られる前のこと。
瀬川先生のリスニングルームをうかがったら、何も言わずに音を聴かせてくれた。
4343とは思えぬ、いい感じで弦の音が鳴ってきた。
帰り際に、種明かしをしてくれたそうだ。

実は鳴っていたのは4343の上に置いているヴィソニックだった、と。
この話をしてくれた人も、ヴィソニックを買ってしまった、とのこと。

ヴィソニック(Visonik)は、2000年代までは小型スピーカー(Davidシリーズ)を出していたが、
いまはヴィソニックというブランドでは作っていないようだ。

www.visonik.deとURLをブラウザーに直接入力してみると、
AUDIUMというスピーカーメーカーのサイトに行くようなっている。
Davidシリーズは、既にない。

Date: 8月 22nd, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その68)

ステレオサウンド 52号については、あとひとつだけどうしても書きたいことがある。
166ページに載っているグラフだ。

このグラフはJBLの4343のクロスオーバー特性である。
ウーファー、ミッドバス、ミッドハイ、トゥイーター、
四つのユニットのそれぞれの周波数特性(ネットワーク経由の特性)が測定されている。

4ウェイのスピーカーシステムでは、
三つのクロスオーバーポイントがあると思いがちだが、
実際には四つであったり五つであったりする。

三つのクロスオーバーは、
ウーファーとミッドバス、
ミッドバスとミッドハイ、
ミッドハイとトゥイーターではあるが、
それぞれのユニットの受持帯域の広さと、それからネットワークのスロープ特性によっては、
ウーファーとミッドハイ、ミッドバスとトゥイーターがクロスするポイントが生じることもある。

52号のクロスオーバー特性をみると、4343の場合、
ウーファーとミッドハイ(しつこく書くがミッドバスではない)は、800Hz付近でクロスしている。
通常のクロスオーバーポイントは-3dBであるが、
4343のウーファーとミッドハイのクロスオーバーポイントは、レベル的には-17dBくらいである。
とはいえ確実にウーファーとミッドハイはクロスしている。

ここで気づくのは、やはり800Hzなのか、ということ。
ミッドバスのない4333のウーファーとスコーカーのクロスオーバー周波数は、
カタログでは800Hzと発表されている。

いうまでもなく4343のウーファーとミッドハイ、
4333のウーファーとスコーカーは同じユニット(2231Aと2420、ホーンは少し違う)。

ミッドバスとトゥイーターは、4kHzより少し低いあたりでぎりぎりクロスしているかしていないか、
そんな感じである。
もちろんミッドバスのレベルを上げれば、ぎりぎりクロスすることになるだろう。

4343のクロスオーバー特性。
少なくとも他のオーディオ雑誌では見たことがなかった。

Date: 8月 22nd, 2016
Cate: 書く

毎日書くということ(バッハ 無伴奏チェロ組曲)

瀬川冬樹氏のこと(バッハ 無伴奏チェロ組曲)」で、誰の演奏だったのだろう……、について書いた。

そのことを書きながら、同時に考えていたのは、なぜ瀬川先生は書かれなかったのか、だ。
誰の演奏なのかについて書くだけの文字数的余裕は十分にある。
にも関わらず、誰の演奏なのかについての記述はないということは、
あえて書かれなかったのか……、とも考えていた。

だとしたら、それはなぜなのか、を考える。
そうやって考えていくのがおもしろい。

Date: 8月 22nd, 2016
Cate: マーラー

マーラーの第九(Heart of Darkness・その4)

音は空気をともなう。
つねに空気をともなう。

空気があるから、われわれは音を聴くことができるわけだから、
当り前すぎることを書いているのはわかっている。

それでも、こういうことを書いているのは、
いわゆる音の違いは、この空気がどれだけ、そしてどのように音についてくることに、
深く関係しているように感じている。

音に空気がついてくる、ともいえるし、音が空気を巻き込む、ともいえる。

よく「低音の量感が……」という。
スピーカーによって変るのは当然だとしても、
低域特性がフラットなアンプによっても、量感は変ってくる。
このへんのことも、音にどれだけ空気がついてくるに関係しているように思っている。

音楽も、また同じように感じることがある。
空気をいっぱいつれてくる音楽もあれば、
空気をいっぱいつれてくる演奏もある。

ブルックナーを「長い」と感じてしまうのは、
私の場合、どうもこのことと無関係ではないようなのだ。

マーラーの音楽(ひとつひとつの音)がつれてくる空気は、多い。
多いがゆうえに濃い。
もちろんそうでないマーラーの演奏もある。そんなマーラーの演奏を、私はいいとは感じない。

ブルックナーだと、曲の構成に対して、音がつれてくる空気が足りないような気がする。
その足りない分を、何かで増している。
だから水増しして聴こえるのかもしれないし、「長い」と感じるのかもしれない。

Date: 8月 22nd, 2016
Cate: マーラー

マーラーの第九(Heart of Darkness・その3)

誰の演奏(指揮)で聴くのかは大事なことだ。
だからブルックナーも、長いと感じながらも゛何人かの指揮者の演奏を聴いた。

私がいたころのステレオサウンドのオーディオ評論家では、
長島先生がブルックナーをお好きだった。

「長くないですか」、そんなことを長島先生にぶつけたことがある。
「若いなぁ」と返された。
シューリヒトのブルックナーを教えてくださった。

もちろん買った。
あのころは国内盤LPしかなかったと記憶している。

20代前半ということもあったのか、それでも長い、と感じた。
ジュリーニのブルックナーも、もちろん聴いている。
フルトヴェングラーでも聴いているし、あと数人聴いている。
あのころとしては新譜だったシノーポリのブルックナーも聴いた。

シノーポリのブルックナーに関しては、ちょど来日していたこともあり、
サントリーホールに聴きに行った。
それでもブルックナーに感じる水増ししたような長さを、
私の中からなくすことはできなかった。

マーラーも凡庸な指揮者とオーケストラの、凡庸な演奏な演奏を聴いたら、
長い、と思うかもしれない。

以前にも書いているように、もうインバルのマーラーは聴かない。
さんざんステレオサウンドの試聴室で聴いたのが、その大きな理由である。
インバル指揮のマーラーの第四と第五は、数えきれないほど聴いた。

あのころのインバルのマーラーは、フランクフルト放送交響楽団とだった。
いま東京都交響楽団とのSACDが出ている。

オーディオ的な関心で聴いてみたい気がまったくないわけではない。
それにフランクフルト放送交響楽団との第五では、
補助マイクなしのワンポイントマイクだけの録音もCDになっているから、
そういう聴き比べという意味では、まったく関心がないとはいわない。

でもそういうことを抜きにして、聴いてみたいとは思わない。
そんなこともあってインバルのマーラーは、第一、第四と第五だけしか聴いていない。
第九は聴いていない。聴いたら、長いと感じるのか。

感じたとして、その「長い」はブルックナーの交響曲に対しての「長い」と同じなのか。
完全に同じではないにしても、何か共通するものがあるとも感じている。

Date: 8月 21st, 2016
Cate: 瀬川冬樹

瀬川冬樹氏のこと(バッハ 無伴奏チェロ組曲・その1)

ステレオサウンド 56号、
瀬川先生はロジャースのPM510のところで、書かれている。
     *
 JBLが、どこまでも再生音の限界をきわめてゆく音とすれば、その一方に、ひとつの限定された枠の中で、美しい響きを追求してゆく、こういう音があっていい。組合せをあれこれと変えてゆくうちに、結局、EMT927、レヴィンソンLNP2L、スチューダーA68、それにPM510という形になって(ほんとうはここでルボックスA740をぜひとも比較したいところだが)、一応のまとまりをみせた。とくにチェロの音色の何という快さ。胴の豊かな響きと倍音のたっぷりした艶やかさに、久々に、バッハの「無伴奏」を、ぼんやり聴きふけってしまった。
     *
ここでのバッハの無伴奏チェロ組曲については、
誰の演奏なのか、それすら書かれていない。

ステレオサウンド 58号。
EMT・927Dstとトーレンスのリファレンスの比較試聴で、書かれている。
     *
 しかし、PM510にしたときに、明らかに印象に残るのは、やはり弦楽器の音の美しさだ。ことにこのスピーカーは、チェロの音がいい。わけても、チェロ特有の豊かで温かい低音に支えられてあくまでも艶っぽく唱う倍音の色あい。「リファレンス」では、その倍音の透明感、ひろがり、漂い、消えてゆく余韻のデリカシーに、思わず聴き惚れるような雰囲気の良さがある。しかし反面、チェロという楽器がまさしく眼の前で演奏されているかのような実在感、あの大きな木の胴体が朗々と響くところから得られる中低音域のふくよかさ。あたたかさ。その部分にこそ、927Dstの素晴らしさが如才なく発揮される。
 そのことから、ヴァイオリンは「リファレンス」、チェロは927……などと思わず口走りたくなるような気さえする。
     *
ここにもチェロが出てくる。
この記事では試聴機材について表記があるが、
試聴レコードについては一切ない。

ここでのチェロも、バッハの無伴奏なのだろうか。
そうだとも思える。

だとしたら、瀬川先生はPM510でぼんやり聴きふけってしまった、というバッハは、
いったい誰の演奏だったのかが、気になってくる。

59号は1979年に出ている。
なのである程度限られてくる。

カザルス、フルニエ、シュタルケル、ナヴァラといったところ。
瀬川先生が、これらすべてをもっておられたとして、
どの演奏を聴かれたのだろうか。

カザルスではないように思える。
シュタルケルも、PM510の音の性格からすると、少し違う気もする。
なるとフルニエかナヴァラか。

フルニエかな、と思う……、
けれどナヴァラかもしれない、という気持もかなり強い。

誰の無伴奏チェロ組曲に、ぼんやり聴きふけられたのだろうか。

Date: 8月 21st, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その67)

ステレオサウンド 52号には、残念ながら「ひろがり溶け合う響きを求めて」が休載だった。
でも、瀬川先生の原稿の量を見れば、それもしかたないことだと思った。

編集後記には、原稿が入らずに、とある。
瀬川先生の原稿が入っていたら、
「ひろがり溶け合う響きを求めて」は、52号のどこにあったのだろうか。

もしかすると「EMT927Dstについて、わかったことがもう少しあります」が、
代替記事だったのかもしれない。

52号では、ちょっと驚いたことがあった。
音楽欄の安原顕氏の「わがジャズ・レコード評」の冒頭にあった。
     *
 周知の通り、マーク・レヴィンソン(1946年12月11日、カリフォルニア州オークランド生れ)といえば、われわれオーディオ・ファンにとって垂涎の的であるプリアンプ等の製作者だが、彼は一方ではバークリー音楽院出身のジャズ・ベース奏者でもあり、その演奏は例えばポール・ブレイの《ランブリン》(BYG 66年7月ローマで録音)などで聴くことが出来る。
     *
マーク・レヴィンソンはコネチカット州に住んでいたし、
マークレビンソンという会社もそこにあったわけだから、てっきり東海岸出身だと、
52号を読むまで、そう思っていた。

生れは西海岸だったのか。
いつごろコネチカット州に移ったのだろうか。

Date: 8月 20th, 2016
Cate: audio wednesday

audio sharing例会(今後の予定)

二週間前に、audio sharing例会で、
瀬川先生が好きだったスピーカーで、好きなディスクを鳴らしたい、と書いた。
スペンドールのBCII、セレッションのDitton 66、ロジャースのPM510など、
イギリスのスピーカーシステムが用意できれば……、と書いた。

いつになるかはまだ決っていないが、
セレッションのDitton 66を鳴らせることになった。
書いてみるものである。

瀬川先生は「続コンポーネントステレオのすすめ」では、
トリオのプリメインアンプKA9900を組み合わせられている。
カートリッジはエラックのSTS455Eである。

この組合せそのままは用意できない。
私としてはヨーロッパのアンプを用意したい。
わがままをいえば、パワーアンプはスチューダーのA68をもってきたいところ。
それからマイケルソン&オースチンのTVA1でも、どんな音になるのか鳴らしてみたい。

アンプはどうなるのか、いまのところなんともいえないが、
とにかくDitton 66を鳴らせる。

音は聴いたことがあっても、自分で鳴らしたことがないスピーカーでもある。
いまの私の気持は、うまく表現できない嬉しさがある。

Date: 8月 20th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その66)

ステレオサウンド 52号の特集はセパレートアンプのページが終れば、
広告をはさんでプリメインアンプのページが始まる。

プリメインアンプの試聴記の前には、
上杉先生による「最新プリメインアンプの傾向と展望」がある。
この後に試聴記がある。

プリメインアンプの試聴記の後には、
プリメインアンプ機能一覧表、コントロールアンプ機能一覧表、
パワーアンプ機能一覧表がある。
これで特集は終りだな、と思った。

一覧表の後には広告があったからだ。
もうこれだけでも充分なボリュウムである。

けれどまだ続いているといえるページがあった。
柳沢功力氏による「ピュアAクラスと特殊Aクラスの話題を追って」である。

この記事はまずトランジスターの動作原理から始まる。
といっても技術解説書のような内容ではなく、
真空管とトランジスターの違い、
A級動作とB級動作の違いなどをわかりやすいイラストを使い、丁寧に説明してある。

その上でスイッチング歪についての説明があり、
メーカー各社の出力段の新方式について解説がある。

この記事の白眉は、最後のページ(368ページ)にある。
各社からさまざまな方式が出ていたが、それらを他社のエンジニアはどう捉えているのか。
それについてのコメント(匿名ではあるが)が並ぶ。

このページの隣は、連載の「サウンド・スペースへの招待」である。
だから、これでやっと特集のページが終った、と思った。

だがまだ続きがあった。
「サウンド・スペースへの招待」、広告のあとに「JBL#4343研究」がある。
今回は瀬川先生の担当である。

副題にこう書いてある。
「#4343はプリメインアンプでどこまで実力を発揮するか、
価格帯別にサウンドの傾向を聴く」

特集のプリメインアンプのところで登場した中から八機種をピックアップされての記事である。
特集冒頭の「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」のプリメインアンプ版ともいえる。

ここまでが52号の特集といってもいいだろう。
終ったと思ったところに、あとひとつ記事が用意されていたのは、
特集だけではなく、新連載のTHE BIG SOUNDもそうだ。

「EMT927Dstについて、わかったことがもう少しあります」というタイトルの、
編集部原稿の記事がある。

これがステレオサウンド 52だった。

Date: 8月 20th, 2016
Cate: audio wednesday, 柔と剛

第68回audio sharing例会のお知らせ(柔の追求・その5)

ESSから単体で発売されていたハイルドライバーはいくつかあった。
1979年ごろはHS400とHS600があった。
HS400は振動板前面にホーンがついている。

再生周波数特性はHS400が1.5kHz以上、HS600が2.5kHz以上となっていた。
これらの外形寸法は当時のHI-FI STEREO GUIDEには載っていない。

面白いのは出力音圧レベルと最大入力の項目で、STUDIOとPA-DISCO、ふたつの値が記してある。
PA-DISCOの最大入力は50Wと、STUDIOの30Wよりも高い。
反面出力音圧レベルは、98dB/W/mと3dB低い。

ハイルドライバーとしてスピーカーの技術解説書に載っているそのものの製品は、
1980年に登場したAMT Heil Driverである。
このモデルは800Hz以上から使え、出力音圧レベルは103dB/W/m。
このモデルにはPA-DISCOモデルはなかったようだ。

形状的にも、日本でハイルドライバーと呼ばれているモノは、AMT Heil Driverといっていい。
このトゥイーターの外形寸法はW17.2×H15.4×D10.7cm。

現在のAMTと呼ばれるユニットと比較して大きく違うのは奥行きである。
現在の多くのAMT(ムンドルフの製品もそうだが)、薄い。
ドーム型トゥイーターよりも薄いと思えるくらいにだ。

動作原理は同じでも、AMT Heil Driverと薄型のAMTとでは磁気回路の構成が大きく違う。
そのことによってAMT Heil Driverは振動板の後方からも音を出すダイボール型だが、
現在の多くのAMTは背面を塞ぐ構造になっている。

この構造の違いが、同じ面積の振動板であっても、
低域の再生能力に違いを生じる、とのことである。
つまりAMT Heil Driverのようにダイボール型にしたほうが低域レンジは下にのびる。

やはりオリジナルのAMT Heil Driverが構造的には優れているといえそうだが、
でもAMT Heil Driverの構造のままでは、現在のように多くのスピーカーシステムに、
AMTが採用されることはなかったのではないか。

振動板の後方を塞ぐことで低域特性は多少犠牲にしても薄型にできたことで、
多くのシステムに採用されるようになった、と見るべきではないか。

ならば薄型のまま、振動板の後方を塞がない構造はできないのか。
無線と実験(2015年1月号から4月号)に載ったAMTの自作記事がそうである。

Date: 8月 20th, 2016
Cate: 組合せ

スピーカーシステムという組合せ(その3)

スピーカーと書いても問題なく伝わるけれど、
スピーカーは垂直的組合せと捉えているから、
このブログでは極力スピーカーシステムと書くようにしている。

スピーカーシステムは、確かに垂直的組合せによるモノだが、
水平的組合せが、その中に含まれている。
コンプレッションドライバーとホーンの組合せ、
コーン型ウーファーとエンクロージュアの組合せは、
垂直的ではなく、水平的組合せといったほうがいい。

そしてここにネットワークが加わるから、
スピーカーシステムという組合せが、ますますおもしろくなる。

コンポーネントとしての水平的組合せでは、
アナログプレーヤーの領域、CDプレーヤーの領域、
コントロールアンプの領域、パワーアンプの領域は決っている。
コントロールアンプがパワーアンプの領域の一部を担うことはない。

スピーカーシステムにおいては、ウーファーとトゥイーターの2ウェイであっても、
それぞれの領域をどうするのかは、ユーザー(この場合はビルダーか)に委ねられている。
クロスオーバー周波数をどのあたりに設定するのか。
減衰特性はどうするのか。
ウーファーの領域、トゥイーターの領域の設定は、
ユニットを破損させない範囲では自由に設定できる。

クロスオーバー周波数が800Hzというと、
ウーファーのカットオフ周波数、トゥイーターのカットオフ周波数も800Hzであると思われがちだが、
それぞれのユニットのカットオフ周波数とクロスオーバー周波数は、一致していないこともある。

マルチアンプを長年やっている人に訊いてみればいい。
エレクトリックデヴァイダーの中には、クロスオーバー周波数ではなく、
それぞれのユニットのカットオフ周波数を個別に設定できる製品がある。
古くはマランツの管球式のModel 3がそうである。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: 新製品

新製品(Nutube・その5)

その4)を書いている時点で、
具体的なアンプの構想を考えている。
回路的には単段アンプゆえに、
入力トランスと出力トランスのあいだにNutubeが並列接続されてある、という、
これ以上省略のしようのないものだ。

Nutubeは定電流点火をしたい。
入力トランスにはあれを使いたい、
出力トランスはあれかな、とかも考えているし、
アンプのレイアウトもできるかぎり薄型に仕上げたものと、
信号経路をできるだけ短縮化したもの、
古典的な真空管アンプのスタイルのもの、などいくつかを並行して考えている。

実際に作るとしたら、製作コストはどくらいになるのか。
コストの半分以上はNutubeの価格次第といえる。
片チャンネル八本使うわけだから、一本あたりの価格の違いは、(×16)で大きく響いてくる。

こんなふうに考えていっているのだから、
頭の中では、このアンプと組み合わせるスピーカーも、はっきりと決っている。
グッドマンのAXIOM 80を鳴らしてみたい、と思っているし、
Nutubeのアンプがどういう音を聴かせてくれるのか、
そのイメージをふくらませるに必要な試聴体験はないのだけれど、
私の頭のなかでは、もう完結に向いつつある。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その65)

ステレオサウンド 52号のアンプの測定に関しては、
もっともっと書きたいことがあるけれど、
ひとつひとつ書いていくと、アンプについて書いているのか、
52号について書いているのかが曖昧になりすぎるので、このへんにしておく。

52号の特集の試聴についても、
測定と同じで、これまでは少し違う試みがなされている。

試聴は二部構成といえる。
メインは岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦、三氏による試聴記だが、
その前に瀬川先生の、アンプ考察といえる文章がある。
ここにも52号で登場するアンプの中からいくつかが取り上げられている。

つまり瀬川先生が注目されているアンプが取り上げられているわけだ。
瀬川先生がメインの試聴記を担当されていたとしたら、
個人的に知りたかったことが載らなかったかもしれない。

ひとつの例を挙げれば、マークレビンソンのML6とML3のペアである。
読み手は、ここでLNP2とML6の違い、ML2とML3の違い、
それぞれを組み合わせたときの音について知りたい、と思う。

けれどメインとなる試聴記は、あくまでもML6とML3のものであり、
そこまで求め難いところがある。

瀬川先生は、そこのところをていねいに書かれている。
従来の総テストでは、こういうところが抜けがちになってしまう。
それを補うには、52号の二部構成はひとつの解決策ともいえる。

マークレビンソンを例に挙げたが、これひとつではない。
瀬川先生の文章は俯瞰的でもある。
そこに登場するアンプの位置づけがなされているから、
ディテールについての表現が活きてくるし、読み手に伝わってくる。

52号のやり方をもって、アンプ総テストの完成形とまではいわないが、
ここには編集部の、それまでのやり方に安住しない意気込みがあらわれている。

そこに感化されたからこそ、私はステレオサウンド編集部に手紙を書いたのかもしれない。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その64)

ステレオサウンド 52号(1979年9月)のころになると、
アンプの動特性の向上が各メーカーの目標となり、謳い文句にもなっていた。

カタログにはスルーレイトやライズタイムの項目が加わってきたし、
アンプによってはNFB量を記載しているものもあった。
けれどこれらの動特性も、静特性も、すべて抵抗負荷で測定された値である。

実際にスピーカ実装時に、静特性がそのまま保証されているかというと、
おそらくそうでないことは誰もが思っていても、
では実際にどうやって測定するのか、その測定方法が各社で統一されていたわけではなかった。

52号でのダミースピーカーを負荷とした測定が、すべてにおいて理想的かといえばそうではない。
けれどとにかく、抵抗負荷でしか測定されてこなかった(発表されてこなかった)特性を、
ダミーとはいえスピーカー実装時といえるところで測定している意義は大きい。

実際に52号に掲載されている測定データは興味深い結果となっている。
よく高NFBのアンプの歪率は逆レの字型になる傾向がある。
最大出力あたりで歪率は最小になり、それ以上は急激に歪が増す。

52号に登場するアンプにも、そういうアンプがある。
そういうアンプはダミースピーカー負荷だと混変調歪率のカーヴが、
抵抗負荷のカーヴと大きく違ってくる。
歪率もかなり大きくなる傾向にある。

そういうアンプがある一方で、抵抗負荷とダミースピーカー負荷のカーヴが割と近いアンプもある。
そういうアンプは歪率の増加はそれほど大きくない。

抵抗負荷、ダミースピーカー負荷のカーヴはほほ同じというアンプは、
数は少ないながらある。歪率も同じといえる。
GASのGODZiLLAである。
QUADの405もGODZiLLAほどではないが、かなりふたつのカーヴは近い。

おもしろいのはスレッショルドの4000 Customで、
抵抗負荷よりもダミースピーカーの歪率が低い。
抵抗負荷では少しうねっているのが、ダミースピーカー負荷の方だと素直なカーヴになっている。

全高調波歪はオシロスコープの画面を撮影したものが掲載されているので、
歪率の大小だけでなく波形の状態も確認できる。

52号の測定データは一機種あたり1/2ページというスペースだが、飽きない。
そこから得られることは、当時よりもいまのほうが多い。

Date: 8月 19th, 2016
Cate: ステレオサウンド

ステレオサウンドについて(その63)

ステレオサウンド 52号の特集は、アンプである。
42号はプリメインアンプの特集だった。
その後、52号までアンプの特集はなかった。

セパレートアンプに関しては、1978年夏に別冊が出ている。
ステレオサウンド本誌でセパレートアンプの総テストはひさしぶりのことである。
編集後記によれば、
セパレートアンプとプリメインアンプの合同試聴は九年ぶりとある。

ひさしぶりのことだけはあった、と思える内容だ。
特集の巻頭には、瀬川先生の文章がある。
三万字近い文章がある。
読み応えが、本当にある。

この後にテストリポートが続く。
52号のテストリポートは試聴(岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦)と測定(長島達夫)からなる。
プリメインアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、柳沢功力。

この52号の測定で注目したいのは、抵抗負荷の特性だけでなく、
ダミースピーカー負荷時の特性も測定しているところだ。

このダミースヒーカーは三菱電機によるもので、
インピーダンス特性をみるとフルレンジユニットのような特性を持つ。
f0は40Hzで、高域にかけてインピーダンスが素直に上昇している。

一見するとやや薄めのコンプレッションドライバーのように見えるダミースピーカーは、
通常のスピーカーとは逆に音が出ないように工夫されている。
アンプの測定に使うものだから、ハイパワーアンプの測定にも使えなければならない。
ダンパーは二重になり、ボイスコイルの振幅は32mm(±16mm)で、放熱対策もとられている。

このダミースピーカーを負荷として、混変調歪と全高調波歪が測定されていて、
抵抗負荷時の特性と比較できるようになっている。

その他にプリ・パワーのオーバーオールの周波数特性に関しては、
抵抗負荷だけでなく、試聴スピーカーである4343を負荷としたときの特性も載っている。

測定項目としてはそう多くはないが、手間のかかる測定だったはずだ。