瀬川冬樹
続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第21項・イギリス・セレッションのディットン ちょっと古めかしい、だが独特の暖かさに満ちた音の魅力」より
前項までのさまざまな「正確(アキュレイト)」な再生のためのスピーカーの鳴らす音を、仮に写真のような正確さ、だとすれば、それに対する写実主義ないしは初期の印象主義の絵のように、現実をそっくりそのまま再現する音に対して、そこに創作者の美意識という濾過器(フィルター)を通して美しく、整えて聴かせる音、を目ざしたスピーカーがある。それを私は2項で、アキュレイトサウンドに対する「クリエイティヴサウンド」と仮に名づけた。創作(クリエイト)するといってもそれは事実を歪めるのでなく、どこまでもナマの音楽の持っている本質に即しながら、それをいっそう快く、いっそう美しく鳴らすという意味である。
楽器のナマの音が常に美しく快いとは限らない。また、それを録音し再生するプロセスでも、ちょっとしたかすかな雑音、レコードに避けることのできないホコリやキズ、など、それをどこまでも忠実に正確に再生することは、ときとして聴き手の神経をいら立たせる。したがって、音や音楽の鑑賞のためには、どこまでも正確な音の再現を目ざすよりも、美しく描かれた写実絵画、あるいは薄い紗幕をかけてアラをかくして美しく仕上げた写真、のように、音楽の美しい画を抽出して、聴き手に快い気分を与えるほうがよいのではないか──。
こういう考えは、実は英国人の発想で、彼らはそれをアキュレイトサウンドに対してコンフォタブルサウンド、またはハイフィデリティ・リプロダクション(忠実な音の再生)に対して、グッド・リプロダクション(快い、良い音の再生)というふうに呼ぶ。
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そういう考え方をはっきりと打ち出したイギリス人の作るスピーカーの中でも、セレッションという老舗のメーカーの、〝ディットン〟と名づけられたシリーズ、中でも66と25という、ややタテ長のいわゆるトールボーイ型(背高のっぽの意味)のスピーカーは、同じイギリスのスピーカーでも、15項のKEF105などと比較すると、KEFが隅々までピンとのよく合った写真のように、クールな響きを聴かせるのに対して、ディットンは暖色を基調にして美しく描かれた写実画、という印象で音を聴かせる。厳密な意味での正確さとは違うが、しかし、この暖かさに満ちた音の魅力にはふしぎな説得力がある。ことに声の再生の暖かさは格別で、オペラや声楽はもむろん、ポピュラーから歌謡曲に至るまで声の楽しさが満喫できる。別に音楽の枠を限定することはない。家庭で音楽を日常楽しむのには、こういう音のほうがほんとうではないかとさえ、思わせる。
こまかいことをいえば、同じディットンでも、66よりも25のほうがいっそう、そうした色あいの濃い音がする。創られた音。しかし、ある日たしかにそういう音を聴いたことがあるような懐かしい印象。その意味でやや古めかしいといえるものの、こういう音の世界もまた、スピーカーの鳴らすひとつの魅力にちがいない。
スピーカーシステム:セレッション Ditton66 ¥198,000×2
プリメインアンプ:トリオ KA-9900 ¥200,000
チューナー:トリオ KT-9900 ¥200,000
プレーヤーシステム:トリオ KP-7700 ¥80.000
カートリッジ:エレクトロアクースティック STS455E ¥29,900
計¥905,900
スピーカーシステム:セレッション Ditton25 ¥128,000×2
プリメインアンプ:ラックス LX38 ¥198,000
プレーヤーシステム:ラックス PD121 ¥135.000
プレーヤーシステム:オーディオクラフト AC-3000MC ¥65.000
カートリッジ:ゴールドリング G900SE Mark2 ¥38,000
計¥692,000
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