Category Archives: ハイフォニック

ハイフォニック MC-D900

井上卓也

ステレオサウンド 78号(1986年3月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ハイフォニックは、MC型カートリツジのスペシャリティをつくるメーカーとして発足以来、すでに昨年で3周年を迎えたが、これ機会として開発された新製品のひとつがMC−D900である。
 ハイフォニツクのモデルナンバーに少しでも慣れたファンなら、D900のDがカンチレバーにダイヤモンドを採用していることは容易に判かるというものだ。
 同社のダイヤモンドカンチレバー採用のモデルは、これが第3作にあたるが、今回の新製品では、空芯型を基準としていた同社のMC型としては異例にも、コイル巻枠に磁性体を使用している。新開発の低歪率でありリニアリティの優れたスーパー・パーマロイ材を十字型として使い、コイルにはLC−OFC線材を採用している。なお、シリーズ製品として同じ構造の発電率をもち、カンチレバー材料をムク材アルミ合金としたMC−A300が、同時に発売されている。
 新磁性体巷枠の採用で、出力電圧はMC−D10の0・13mVから、0・25mVに上昇し、インピーダンスは、40Ωから、10Ωに下がっている。また針圧が1・2gから1・7gに増したことは、出力電圧の増加と相まって、汎用性を高め大変に使いやすくなった。
 なお、MC−D10での成果である0・06mm角ブロックダイヤ採用のウルトラライン・マイクロスタイラス(針先0・1×1・2mil)に天然ダイヤモンドブロック使用のムクカンチレバーはそのまま本機に受継がれており、アルミ合金ブロック削り出しメタルボディ、ボディと磁気回路の間にエンジニアリングガラス樹脂採用の振動防止構造、独自のヨーク形状をもつ磁気回路など、ハイフォニック独特の方式はすべて本機にも導入されている。
 試聴はSME付のマイクロ8000IIと、昇圧トランスにHP−T7を使った。針圧は1・7gで聴く。聴感上の帯域バランスはワイドレンジタイプでスッキリと伸び、CDに準じた伸びやかなレスポンスである。音の粒子は細かくシャープで抜けがよく、音色も明るく分解能が高いために、いわゆる磁性体を巻枠に採用したMC型にありがちのローレベルの喰込み不足や、表情の穏やかさ、やや狭い音場感などといった印象が皆無に近く、良い意味での音溝を針先が丹念に拾う、いかにもアナログらしいレコードならではの音が、小気味よく楽しめるのが好ましいところだ。
 しばらく聴き込むと、少し中高域に輝やかしい一種のキャラクターがあるのが気になってくる。このあたりと低域の芯の硬さが、レコードらしい音を演出しているわけだが、少し抑えてみたい。
 針圧とインサイドフォース・キャンセラーの細かい調整でも、かなりコントロールすることはできるが、基本的には、主な原因を探し対処することだ。このキャラクターはHP−T7の筐体の微妙な鳴きであるらしく、厚めのフェルトなどでトランスを包み、スピーカーからの音圧を避けてみるのもひとつの方法であり、置き場所を選んで軽減することもできるだろう。

ハイフォニック MC-A5B + HPA-6B

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ハイフォニツクのカートリッジは、最新の力−トリッジ技術を象徴する軽量振動系を採用した、軽針圧、広帯域、高SN比の設計が特徴であり、創業以来短期間ですでに高い評価を受けているが、今回、新製品として登場したモデルは、既発売のMC−A3、A5、A6、D10という一連の空芯高インピーダンスMC型をベースに、左右チャンネルのコイルの中点を引出して、通常のアンバランス4端子型から、業務用機器などで採用されているバランス型6端子構造を採用したMC−A3B、A5B、A6B、D10Bの4モデルで、型番末尾のBは当然のことながらバランス型の頭文字を表わしている。
 このカートリッジのバランス化に伴ない、昇圧トランスもバランス入力をもつ専用タイプが開発され、従来のRCAピンプラグ型に変わりDIN4ピン型の入力コネクターが採用されている。
 また、バランス型を採用すると最大のネックになるのはトーンアームである。この解決方法としては、デンマークのメルク研究所とハイフォニツクで共同開発したといわれる、低重心型の支点が高い位置にある一点支持オイルダンプ方式トーンアームHPA4を6端子型に改良したHPA6Bが用意されている。このアームは、一般のいわゆるオルトフォン型ヘッドシェル交換方式ではなく、回転軸受部近くにあるコネクターを含み、アームのパイプ部分を交換するタイプで、一点支持型で不可欠なラテラルバランスは、偏芯構造となっているバランスウエイトを回転させて行なうタイプである。
 今回試聴したモデルは、MC−A5Bで、原型は特集のカートリッジテストに取上げたMC−A5である。発電コイルの構造は、非磁性体の十字型コイル巷枠を使ったMC型で、センタータップは右チャンネル橙色、左チャンネル空色がピンにマーキングしてあるため、通常の左chが自/青、右chが赤/緑の端子のみを使えば、4端子型のMC−A5とほぼ同等に使えるわけだ。
 業務用機器関係でも一部では、信号系が一般オーディオ機器と同じくアンバランス化の傾向があるのに、何故オーディオ用のカートリッジのバランス化が必要なのであろうか。この疑問への簡単な解答は、バランス型の最大の特徴である『SN比が優れている』の一言につきるだろう。
 つまり、SN比が向上すれば、ローレベルでのノイズのマスキングが減少し、音に汚れが少なく、透明感、織細さが向上し、音場感的には、ノイズが少なくなっただけモヤが晴れたかのように、見通しのよいプレゼンスが得られる、ということになる。
 プレーヤーにトーレンスTD126を選び、HPA6BをセットしてMC−A5Bを聴いてみる。広帯域型の典型的なレスポンスをもつ、やや中域を抑えた爽やかな音と、ナチュラルだがコントラストが薄い傾向のMC−A5に比べて、本機は一段と表現がダイナミックになり、さして中域の薄さも感じられず、一段とナチュラルでリッチな音を聴かせる。試みに6端子中点を外しセミバランス型として比較をしたが、この差は誰にでも明瞭に判かる差だ。

ハイフォニック MC-A5

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・2gから試聴を始める。音の粒子は細かく、スッキリと磨き込まれており、音の分解能も十分に高く、いかにも軽量振動系を採用したカートリッジらしいディフィニッションの優れた音である。聴感上での帯域バランスはほぼフラットな広帯域型で、マイクロのプレーヤーでの試聴時と比べ、クリアーな抜けの良さが目立ち、音が遠く、スピーカーの奥に引込んで聴かれたことや、表面的になりやすい表現とならないのは、カートリッジに相応しい軽量級アームとの組み合せのメリットであろう。
 針圧を1・1gに下げてみる。爽やかで伸びやかなプレゼンスは好ましいが、全体にオーケストラが軽量級となり、楽器の数が少なく、整理された音になる。そこで、逆に1・25gに針圧を上げてみる。標準針圧時に比べ、低域の厚みは加わるが、ホールの天井が低くなったような印象があり、少し重さが気になる。
 IFCを1・25から1・2程度に軽くしてみる。重い印象が薄らぎ、音も少しスッキリとする。そこで、置台上でプレーヤーを少し寄せ、反応の早さを求める。少し低域軟調傾向が残るが、これがベターだ。
 ヘッドアンプから昇圧トランスとする。音に安定度が加わり、密度感が一段と向上して質的に高い音に変わる。トランスのメリットを活かした音だ。再び、針圧とIFCを細かく振ってみると、変化は穏やかでスムーズであり、本来の軽さを活かした音場感型から、輪郭型まで、それぞれの音の変化は楽しい。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ロッシーニ:弦楽のためのソナタ集]
大村 これみよがしなところがない音で、好感のもてるカートリッジですが、ロッシーニを聴くとチェロとコントラバスの、特に低域での音の違いがもう少し鮮明に出てきてほしいように思います。
井上 そこで、ブリアンプ内蔵のヘッドアンプで聴いていたのを、専用トランスHP−T7で昇圧してみます。トランスはナロウレンジではありませんが、極端なまでには低域と高域が伸びてません。一種のバンドパスフィルター的な働きをするため、トランスを使うと中域が充実してきます。
大村 トランスにしますと、チェロ、コントラバスの、器の重量が感じられるようになり、落ちついて聴けるようになりましたが、ヘッドアンプの時に比べ、ちょっと音の見通しが悪くなったような気もします。
井上 昇圧手段をトランスに変えましたので、再度針圧とインサイドフォースを調整してみますと、針圧はそのままで、インサイドフォースを1・25にすると、音の拡がりが出て、見通しがよくなりました。
大村 この状態で、ロッシーニの音楽に不可欠なかろやかさと華やかさが、素直に出てきてくれます。もうすこし、重量感がほしい気もしますが、雰囲気的にまとまった印象で、これはこれでいいと思います。

ハイフォニック MC-A5

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧1・2gでは細やかで、粒子がキレイに磨かれた、広帯域型のしっとりとした音だ。低域は柔らかく、やや軟調気味で、中域の張出しも不足気味だ。キレイさは見事だが、リアリティが今ひとつほしい。上限1・3g、音の芯がクッキリとし、披けの良さが出てくる。音場感は奥に距離をおいて拡がり、楽器も小さくまとまる。表情はややムード的で、オーケストラにはまだ力不足の音。
 下限の1・1gでは、伸びやかさが特徴となり、フワッと拡がったプレゼンスは、それなりに気持ちよく聴ける。しかし、安定感はさしてなく、追込むなら、上限と標準の間と思うが、このあたりの針圧となると、使用アームのイナーシャの大きさがかなり問題である。音の決まりに欠ける印象が強い。
 ファンタジアは、キレイに響く軽快なサウンドで、あまり力強くはないが面白い音。
 アル・ジャロウは、軽くなりすぎて、ボーカルは力不足。