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2万円未満のカートリッジのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「読者の質問に沿って目的別のベストバイを選ぶ」より

 カートリッジは、コンポーネントシステムの音の入り口にあるため、トータルのシステムの音にかなりの変化を与えるものである。実際に複数個のカートリッジを用意し、聴いてみれば、容易にバランス、音色、表現などの変化を聴きとることができる。
 ここてテーマとなっている「グレイドアップのワンステップとして……」ということになると、そのベースとなるプレーヤーシステムがどのランクの製品であるかが最大の問題点である。単に、音色の変化などを楽しむということであれば、それなりの他紙の身は味わえるが、確実にグレイドアップをしただけのクォリティ的な改良が得られる、という条件にこだわると大変に難しい。それに、価格的制限が2万円までとなるとなおさらである。ここでは、プレーヤーシステムとして平均的と考えられる、4万円台から6万円台を対象としてみよう。
 カートリッジの価格を2万円までとすると、国内製品ではオーディオテクニカAT14E、FRのFR5E、グレースF8L10、少し範囲をこすか、テクニクス205CIISが考えられる。これらの製品は、発電方式がMM型で使いやすく、音色や表現力の変化というよりは、優れた物理特性をベースとした、付属カートリッジとは一線を画した純度の高い音が得られる。最近、とくに注目されているMC型では、デンオンDL103、サテンM117Eがあり、103はこの場合、最近のアンプには付属していることが多いMC型用ヘッドアンプを使うことになる。ともに、MC型らしい鮮鋭な音と明瞭な個性をもった定評あるモデルである。
 海外製品では、ADC・QLM36/II、AKG・P6E、エンパイア2000E/II、フィリップスGP401II、ピカリングXV15/750E、シュアーM95ED、スタントン600EEなどに注目したい。これらは、国内製品にくらべ個性が明瞭であり、クォリティというよりは音色、表現力の差を楽しむという使い方になる。海外製品には他にも同価格帯、それよりもかなり下の価格帯に興味深い製品があるが、使用するプレーヤーの基本性能、とくに安定にカートリッジを支持できるアームを使うことが前提となる。
 整理すると、素直にクォリティアップを望むなら国内製品のMM型、よりシャープで解像力の優れた音を求めれば、国内製品のMC型、音色の変化や音に対する反応や表現力の変化を期待すれば、海外製品ということになる。
 ここでは、表示価格を2万円までとしたが、実際に購入する価格として考えれば、対象となる製品の幅は飛躍的に広くなり、本格的なカートリッジによるトータルシステムのグレイドアップが可能になるはずだ。

フィデリティ・リサーチ FR-101, FR-101SE, FR-5E, FR-6SE, FR-1MK2, FR-1MK3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 FRは、磁芯を使わないMC型専門メーカーとして発足し、音の細やかさ滑らかさで高い評価を得てきたが、製品にMM型を加え、改良されるにしたがって、音に厚味が加わり、力強く落着いた、完成度が高い音になってきたように感じる。
 FR1MK2は、粒立ちが細かく、滑らかに磨きこまれているために、透明度があり、柔らかく爽やかな音を聴かせる。低域のアタックは少し丸味があり、中低域は豊かでよく響くタイプである。表情はマイルドで、音にあまりコントラストをつけず、薄陽のさした風景のような感じのデリケートな滑らかさと、柔らかな響きの豊かさを兼備したクォリティの高さが魅力である。
 FR1MK3は、MK2にくらべ、中低域の響きはやや抑えられるが、音の芯が明瞭になり、軽くクリアーで爽やかな感じが出てきた。聴感上の帯域バランスは、MK2よりも一段とフラットに感じられ、低域はよくダンプされ、腰が強く明快であり、中高域から高域の粒立ちが微粒子型で芯がシッカリしており、音のディテールが見事に再生され、フレッシュで反応は早いタイプである。このタイプではとかく中域が薄くなりやすいが、MK3は中域が充実していることが大きなメリットである。表情はやや素気ない感じがあり、現代的なクールな感じと受け取れる。
 FR5Eは、全体に、音を美しくキメ細かく聴かせる特長がある。音の粒子は細かく滑らかで、音の細部を引き出して聴かせるところは、MC的なMM型といった印象がある。音像は小さくクッキリと立ち、フレッシュでイキイキとした表情がある。クォリティが高くキレイに音を表現するところは、やや女性的であり、高級コンポーネントシステムと組み合わせて使うと、見かけよりも芯がカッチリとし、鮮度が高いメリットが引き出されると思う。
 FR6SEは、FR5Eを女性的とすれば男性的な感じが強いカートリッジである。全体に、音の芯が強く線を太く表現し、適度の力感がこれをサポートし、安定感がある。低域は量感がありやや甘口だが、中低域は豊かでよく響くタイプである。音を外側からシッカりと掴み、細部にこだわらずまとめる性質は、FR5Eと対照的で面白い。
 FR101SEは、系統としてはFR6SE系の音である。低域のダンプは標準型で量感もあり、中低域に耳あたりよく響く豊かさがある。ヴォーカルは少しハスキー調となるが、まとまりはよく、現代的なクールさがある。反応は早いタイプで鮮度が高く、表情はFRのカートリッジ中もっとも若い感じだ。
 FR101は、低域は101SEより一段とソリッドになり、汚れがなく、全体に音を明快にカッチリと聴かせる。低域から中低域の腰が強く、しかも弾力性があり、エネルギー感が充分にある。とくに、この中低域は適度の甘さがあるのがよい。思い切りよくストレートな表現は、かなり魅力的である。

フィデリティ・リサーチ FR-101, FR-101SE, FR-5E, FR-6SE, FR-1MK2, FR-1MK3

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 高級カートリッジを唱えてスタートしたFRは、国内カートリッジメーカーの中でも、もっとも密度の濃い製品を作り、オリジナル技術を常に目指す意欲的なメーカーだ。あらゆる面で製品は、必ず他社にさきがけ、あるいは、他社をよけつけぬオリジナリティをもつ。それはMC型カートリッジにしても、あるいはライバルの多いMM型にしても、はっきりした特徴をもっている。最近の製品FR101は高品質低価格を目指した意欲的製品だ。この小さな専門メーカーが品質と量産とをいかに妥協するかが101の見どころだが、音の上からは確めにくい。やや中域のはなやかさと、積極的な音というのが第一印象だが、細かくつき正すと、結構広帯域かつ緻密な音だが、これに低域のひきしまった量感が加われば申し分ない。高出力であるのも、低価格であるとともに、ビギナーにすすめたくなる大きな理由だ。一段と高級な101SEは、音の分解能の点で一段と向上してアンサンブルの中の楽器の音像のきわだちが感じられる。FR5Eは、このメーカーの最初のMM型だ。トレースの安定性に、ちょっとばかり不足をかこってはいるが、それにしても、FRの透明なサウンドの特徴がはっきり出ていて、やや冷いその音は小編成の器楽曲やジャズには特にいい。
 FR6SEはFR6の向上型だが初期から格段に進歩して、もはや初期のおもかげがないくらいに現代的な傑作となっている。FRのいかにも透明なサウンドに、ますます磨きがかかり、その上、力強さも一層加わって、MM型ながらMC型に近いということば通りに器楽曲で、アタックや響きが鮮やかだ。歌やステージの歌劇など、つまり自然な発声とアリア風な発声の両面の歌に対して、大へんナチュラルな響きを感じとる。
 FRのMM型はただひとつのウィークポイントがあるようだ。それはトレースの対許容性ともいえるもので針圧にクリティカルな面がある。それもトレースそのものはかなり適応性があって20%やそこらの±に対しても、一向に差支えないのだが、針先の傷み方、あるいは針先がもぐってしまうトラブルを、過針圧によって起しやすい、といったらよいだろう。
 MM型でもトレーシングの優れているといわれるものにしばしばみられるこの現象にFRファンも気をつけねばなるまい。音の素質自体がよいだけに、愛用者からの忠告でもある。
 FR1はFRのオリジナル技術ともいえるMC型カートリッジの第一号製品だ。初期製品に比べてトレース力は抜群に向上し、針先も頑丈になり、音もずっとすなおに、しかもクリアーさも失わず、音の方は力強くなった。MK2は特にトレース特性が向上して、針先の損傷も今までの心配がうそのようだ。ただMC型特有の力強さがFRのMCにはなかったが、最近のMK3に至って静かななかに力強さもはっきりと感じられる。
 透明ということばに冷たさがつきまとうがMK3は冷たくなくて、かえって暖かみがある。節度のある折目正しい音という品位の高い、仕上し尽くされた感じの音だ。時々オーケストラなどにおいて、ふと、キャシャなもろさが出ることがなければ世界でも一級だ。

フィデリティ・リサーチ FR-5

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 国産の高性能カートリッジの中にあって、音は力と輝きを感じさせる数少ない優秀品。とくに楽器のサウンド、歌に張りのある再生ぶりがいい。交換針が安いのも嬉しい。

フィデリティ・リサーチ FR-1MK2, FR-5EX

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR1MK2、FR5EXの広告
(ステレオ 1972年12月号掲載)

fr1

フィデリティ・リサーチ FR-5EX

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5EXの広告
(スイングジャーナル 1972年6月号掲載)

FR5EX

フィデリティ・リサーチ FR-1 MK2, FR-5, CARTRIDES KEEPER

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR1 MK2、FR5、アクセサリーCARTRIDES KEEPERの広告
(スイングジャーナル 1972年5月号掲載)

FR

フィデリティ・リサーチ FR-5, FR-5E

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5、FR5Eの広告
(スイングジャーナル 1971年3月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5, FR-5E

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5、FR5Eの広告
(スイングジャーナル 1971年2月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5, CARTRIDES KEEPER

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5、アクセサリーCARTRIDES KEEPERの広告
(スイングジャーナル 1971年1月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5, FR-5E

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5、FR5Eの広告
(スイングジャーナル 1970年12月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5の広告
(スイングジャーナル 1970年10月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5の広告
(スイングジャーナル 1970年8月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5, FR-1MK2

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5、FR1MK2の広告
(ステレオ 1970年5月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5, FR-5E

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5、FR5Eの広告
(ステレオ 1970年3月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5E

瀬川冬樹

ステレオサウンド 12号(1969年9月発行)
特集・「最新カートリッジ40機種のブラインド試聴」より

 聴感上では中高域がややひっこみ気味で、ハイ・エンドのしゃくれ上がった特長のある音をもっているが、総じて美しいつやっぽい音質に魅力が感じられる。合唱の項目の点数だけがよくないのは、大編成のオケと混声合唱というように音の厚みを要求される曲であるのは、前記の特性の傾向ゆえか、多少ドンシャリ的な、中音域の薄っぺらな音になってしまったからで、この辺がこのカートリッジの弱点らしい。従って、時間をかけていろいろなレコードでテストすれば、あるいはもっと点数が下がるかもしれないが、今回のテストに限っていえば、歪みの少ない柔らかく美しい音、切れ込みの良いよく抜けた分離の良さ、独特のツヤっぽさ等、一応上位にランクされてよい製品のようだ。

オーケストラ:☆☆☆☆★
ピアノ:☆☆☆☆
弦楽器:☆☆☆☆★
声楽:☆☆☆☆★
コーラス:☆☆☆
ジャズ:☆☆☆☆★
ムード:☆☆☆☆★
打楽器:☆☆☆☆
総合評価:85
コストパフォーマンス:90

フィデリティ・リサーチ FR-5, FR-5E

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR5、FR5Eの広告
(ステレオ 1969年9月号掲載)

FR5

フィデリティ・リサーチ FR-5

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1969年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 カートリッジが再生装置の入口として大切なことは今さらいうまでもない。確実にレコードの音溝に刻まれた振動を検出して、素直に電気エネルギーに変換するのが役目である溝を針がたどって、そのふれを発電素子に伝えるという点ではどのカートリッジも同じ方法によっている。つまりカンチレパーといわれるパイプの棒の先に針がついていて、その反対側にマグネットなりコイルなりあるいはその他のエネルギ一変換に必要な物体がついているわけだ。その材質や形状には各設計者の意図や技術が反影していて千差万別だが、基本構造には変りがない。この振動体を弾性体て支えて、針先が常に所定の位置を保つようになっているがこれをダンパーといっている。これらを総称して振動系というが、この振動系の設計製造がカートリッジの特性をほぼ決定するのである。これを電気エネルギ一に変換する変換系にはいろいろな方式があるが、まず振動系が正しく働かなければ、そのあとにいかなる忠実な変換系を用意してもまったく無意味である。MMとかMCとか、あるいは光電子式とかいったカートリッジの種類はすべて変換系についての分類であるが、こうしたタイプの差だけをもってどれがよいか悪いかを決めこむことは出来ないという理由がここにある。
 フィデリティ・リサーチというピックアップ専門メーカーは従来その代表作FR1シリーズで高い信頼を得てきたメーカーである。FR1は改良型MK2になってますます力を発揮し、最高級カートリッジとして広く認められている。このFR1系はMC型であったから、FRといえばMCカートリッジという印象をもっておられる方もあるだろう。同社は古くからMM型の開発もしていたらしいが、製品として市場に登場するのはこのFR5が初めてである。MM、MCというタイプの違いこそあれ、FRの専門メーカーとしてのキメの細い設計製造技術は、まず振動系の完成度の高さに特徴があると思われ、このMM型の出現には大きな期待が寄せられた。
 MM型はMC型に対して使用上いくつかの利点をもっている。まず、出力電圧が高く、そのまま普通のアンプに接続できること、次に針先の交換が容易であることなどである。商品として大量生産向きであることもひとつのメリットだが、これはメーカー・サイドの問題である。そして、このFR5はMM型とはいえ、本体内のコイルのターンニングが特殊で、あまり量産向きではない。このMM型はいかにもFRらしい、こった設計でマニア向けの高級品といえる。磁性体の歪については、すでにFRT3という整合トランスで立証済の高い技術力をもつFRだから低歪率のMM型カートリッジの出現となったのも不思議ではない。ここへくると話は変換系の問題になるのだが、水準以上の振動系が出来上ると変換系の直線性も問題になってくるのである。ひらたくいえば、正確に楽器をたたくテクニックが完成してこそ次に音楽性の問題がでてくるようなものだ。もっとも音楽性のない奴はテクニックも完成しにくいように、カートリッジも変換系と振動系は密接な関係があって実際には2つを分けて考えるのが難しい。ある種の変換系では振動系を理想的にもっていけないという制約もある。その点、MC、MMといった方式では非常に高度なものを実現化できるのである。FR1の追求によって生れた高い機械的技術と磁性歪に関する豊富な資料が生んだこのFR5はMMカートリッジに新風を吹きこむものだ。
 音質は非常にクリアーで歪が少ない。これはジャズのプログラム・ソースに対してはパンチの欠けた弱々しい印象につながる場合もあるかもしれない。特にある種のルディ・ヴァン・ゲルダーの録音のように、どす黒い凄みのある音には品がよすぎるようだ。しかし、物理的に歪の少い高度な録音、たとえばボブ・シンプソンのO・ピーターソンの録音とかコンテンポラリーのロイ・デュナンのものなどには真価を発揮する。のびきった高域特性が保証するシンバルのハーモニックスの美しさ、デリケートな息使いの手にとるような再現が見事であった。