井上卓也
ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より
アカイからAM−A70とAM−A90の2モデルのプリメインアンプが発売された。アカイ・ブランドのアンプ類といえば、海外での評価が高く、ヨーロッパでは、知名度の高いブランドとしてオーディオショウでのブースの盛況ぶりに驚かされたものだが、本格的なプリメインアンプとして国内で発売されたのは、思えばこれが最初であろう。
ブラックフェイスのパネルに標準的な440mm幅という外観は、流行かもしれないが画一的であり、各社間、各機種間のアイデンティティが薄いものだが、今回のアカイのように、単品コンポーネントのアンプのジャンルに初登場的な参入ともなれば、外観やブランドイメージに関係なく、本質的な基本性能と音質などで既存のメーカーと戦える、という意味では、ブラックフェイス一辺倒の傾向は、むしろ歓迎すべきものと思われる。
新製品の技術的ポイントは、オープン・ループ・サーキット搭載にあるようだ。
内容的には、オーバーオールのNFBループが存在しない、シンプルでストレートな回路のことで『ダイナミックな特性に優れ、NFBアンプでは再生できなかった音楽情報が再生される』という、やや過激な表現で説明されている。
今回試聴した製品は、上級機種のAM−A90である。プリメインアンプとしては、ビデオ系の映像と音声の入出力を備えた、いわゆるAV対応型で、アカイのブランドイメージとしては当然の帰結だ。
フォノイコライザーはMC型、MM型切替使用のタイプで、MC型使用時のカートリッジロード抵抗は100Ωであり、最大許容入力25mV、MM型使用時、定格入力感度2mVに対し最大許容入力250mVと、本格派の設計が見受けられる。
パワーアンプ部は、このところひとつの動向になりかかっているパワーMOS型FETを出力段に採用し、145W+145W(6Ω負荷時)のパワーをもち、NFBレスのオープン・ループ・サーキットを採用している。電源部は、電源トランスにトロイダルトランスを採用しているが、ジュニアモデルのAM−A70と共通外形寸法の筐体を採用しながら、パワーアップをしたための対処であろう。
機能面は、パワーアンプにストレートに信号を送るラインストレートスイッチ、独立型RECセレクターなど標準的装備だ。
AM−A90は、素直で、基本を十分に押えた設計が感じられる、適度にストレートで、色付けの少ない音をもっている。フォノイコライザーは、昨今では軽視されがちだが、スクラッチノイズの質と量も水準以上で、よく調整されている。現在の技術と材料を駆使し、真面目に作れば、それなりの成果が確実に得られるという好例であり、いわゆる音づくりに専念しがちな先発メーカーへの小気味よい警鐘という印象。
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