Category Archives: スタックス

スタックス QUATTRO II

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 オーディオ専業メーカーならではの独創的な製品開発で知られるスタックスから、CDPに続く第2弾の高級CDプレーヤーCDP QUATTROIIが発売された。
 今回の新製品はQUATTROIIと名付けられているが、第1弾製品のCDPが、QUATTROとも呼ばれていたとのことであり、名称の由来は不明であるが、おそらく4本の特徴的な脚部に支えられたユニークなデザインからきたものであろう。
 CDプレーヤーとしての筐体関係の構成は、前作CDPと基本的には同様である。筐体上部にディスクをドライブするプレーヤー部分があり、下部にD/Aコンバーター部分を収めた上下2分割のセミ・セパレート構成が特徴的だ。
 4本の大型な脚部は、外部振動およびCDプレーヤー自体で発生する、主にディスクドライブ系や電源トランスなどの振動対策として、ティップトゥの思想を導入した大型アルミ製脚を採用し、振動を防止する設計だ。
 エレクトロニクスは、最近のCDプレーヤーの動向であるハイビット化の路線にそった設計で、18ビット8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルターを採用し、CDPと同様にアナログフィルターを通さずにオーディオ信号を取り出すダイレクトアウト端子を備えている。
 このところ、CDプレーヤーの音質改善テーマのひとつとされている時間軸的歪であるジッタ一対策としては、システムコントロール用の水晶発振器をD/Aコンバーター部に置く設計で、ジッターの低減を図っている。
 電源部は、アナログ部とデジタル部に専用ACコードを使う3電源トランス方式である。アナログ部は、シームレスコア型電源トランスと、内容は不明だが、スタックス・オリジナルのプッシュプル型電源を採用しているとのことだ。
 機能面は、デジタル回路で位相を切り替えるアブソリュートフェイズスイッチを備える。逆位相で記録されているCDを正しい位相で再生することにより、音質、音場感を含めて、最善の結果が得られるのはよく知られたことだが、これは音質最優先の高級CDプレーヤーに相応しい機能である。
 音質対策部品には、CDPで採用されたリードレス・タンタル抵抗、西独製ポリプロピレンコンデンサー、PCOCC線材、アナログ部の木製シャーシ採用など、スタックスのノウハウが導入されている。
 ウォームアップは、約1分間で、モヤが晴れたようなすっきりした音を聴かせる。帯域感は広帯域型で、低域は少し線が太いが、中域から高域は細身で抜けがよい。安定感のある抑場の効いた音の出方は、アナログディスク的なイメージもあり、力感もそれなりに十分だ。CDPに比べ、完成度の高さが感じられる個性派のCDプレーヤーだ。

スタックス DA-100M

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 全体のニュアンスとしてはややくすんだ薄曇りのトーンである。しかしこれはよい意味であって、決して不明瞭という意味ではなく、むしろ陰影に富んでいる。落ち着いてしっとりとしたヴァラディ、F=ディスカウ夫妻のドゥエットが美しい。弦の合奏も細やかでいて派手にならない。ベルリオーズの「幻想」の曲想に合った雰囲気で明るくなりすぎず好ましかった。ただし、中域の量感がやや不足し、全体のエネルギー感に不満がある。ジャズのベースも少々軟弱で、ピアノの打音もボディが薄いほう。

音質:8.0
価格を考慮した魅力度:8.0

スタックス DA-100M

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 キメ細かく、透明感の高い繊細な音と、ナチュラルな帯域バランスが特徴の個性的なアンプだ。聴感上では、低域の量感はミニマムではあるが、質感が高く、全帯域にわたり、薄いが抜けのよい音が際立ち、音場感は空間にキレイに拡がる。基本的なキャラクターはM4aと対照的で、プレゼンスのユニークさはモノ構成であることもー役買っているはずだ。幻想は、小さいが、見通しよく、箱庭的に精緻に聴かせ、サイド・バイ・サイドはサラッと整理して聴かせ、少しモノトーンだ。

音質:8.4
価格を考慮した魅力度:9.0

スタックス SR-ΛPro + SRM-1/MK2Pro、AKG K240DF

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「実力派コンポーネントの一対比較テスト 2×14」より

 本誌72号で私は、スタックスのSRΛプロとSRM1MK2というエレクトロスタティックヘッドフォンを〝とっておきの音〟として紹介した。そこで私が述べたことは、リスニングルームの影響を受けやすいスピーカーシステムのセッティングやバランス調整において、感覚の逸脱のブレーキとして役立つこのヘッドフォンの効用についてであった。詳しくは、72号を御参照願いたいが、質のよいヘッドフォンが、一つのリファレンスとして有効であることを再度強調したいのである。いくら、シンプルな伝送系で音の鮮度を保つのがよいとはいえ、部屋の欠陥をそのままにしてピーク・ディップによりバランスのくずれた音を平然と聴いているようでは困るのである。その調整が、部屋の音響特性の改善であれ、イコライザーによるコントロールであれ、音響特性の測定だけでは、まず絶対といってよいほど、音のバランスを整えることは無理である。一つの目安・判断の材料として測定は有効だし必要だが、仕上げは耳によるしかないというのが私の持論である。しかし、ここには大きな落し穴があって、不安定な情緒に支配されやすい人間のこと、測定データ以外に、実際の音のリファレンスがあることはたいへん便利である。その点、ヘッドフォンは、部屋の影響は皆無であり、必要帯域のバランスを聴きとるにはたいへん都合がよいのである。もちろん、ヘッドフォンとスピーカーとでは、その伝送原理が根本的にちがうので、何から何まで同じにすることは不可能であるし間違いでもあるが、音楽のスペクトラムバランスのリファレンスとしては充分に活用出来るのである。
 SRΛプロは、そうした意味で、ここ一年あまり、私の調整の聴感上のリファレンスとして活躍しているのである。また同時に、ヘッドフォン特有の効用で、これで音楽を楽しむのも面白いし、このヘッドフォンのトランジュントのよい、自然な音色は、その圧迫感のないハーフオープンの快さと相侯って、質のよいサウンドを聴かせてくれている。
 そしてごく最近、オーストリアのAKGから出たK240DFスタジオモニターという、ダイナミック型のヘッドフォンに出合い大いに興味をそそられている。このヘッドフォンは、まさに、私がSRΛブロを活用してきた考え方と共通するコンセプトに立って開発されたものだからである。K240DFのカタログに書かれている内容は、基本的に私のSRΛプロの記事内容に共通するものであるといってよい。ただ、ここでは、これを使って調整するのは、部屋やスピーカーではなく、録音のバランスそのものなのである。つまり、よく整った調整室といえども、現実にその音響特性はまちまちで、同じモニタースピーカーが置かれていてさえ、出る音のバランスが違うことは日常茶飯である。私なども、馴れないスタジオやコントロールルームで録音をする時には、いつもこの問題に悩まされる。便法として、自分の標準とするに足るテープをもっていき、そこのモニターで鳴らして、耳馴らしをするということをすることさえある。さもないと、往々にしてモニタ一にごまかされ、それが極端にアンバランスな場合は、その逆特性のバランスをもった録音をとってしまう危険性もある。
 K240DFは、こうした問題に対処すべく、ヘッドフォンでしかなし得ない標準化に挑戦したもので、IRT(Institute of Radio Technology)の提案によるスタジオ標準モニターヘッドフォンとして、ルームアクースティックの中でのスピーカーの音をも考慮して具体化されたものである。そして、その特性は平均的な部屋の条件までを加味した聴感のパターンに近いカーヴによっているのである。つまり、ただフラットなカーヴをもっているヘッドフォンではない。ダイヤフラムのコントロールから、イアーキヤビティを含めて、IRTの規格に厳格に収ったものだそうだ。そのカーヴは、多くの被験者の耳の中に小型マイクを挿入して測定されたデータをもとに最大公約数的なものとして決定されたものらしい。AKGによれば、このヘッドフォンは〝世界最小の録音調整室〟と呼ばれている。部屋の影響を受けないヘッドフォンだからこそ出来るという点で、私のSRΛプロの使い方と同じコンセプトである。
 録音というものは、周波数やエネルギーのバランスだけで決るものではないから、これをもって万能のモニターとするわけにはいかないが、最も重要な部分を標準化する効用として認めてよいものだと思う。ステレオの定位や左右奥行きの立体スケール、距離感などは、スピーカーのコンセプトでまちまちであり、これをバイノーラル的なヘッドフォンで代表させることには問題があるが、この件に関しては、ここでは書き切れない複雑なことなのである。
 しかし、このK240DFのコンセプトは、スタジオモニターとしてのヘッドフォンの特質をよく生かしたもので、私が、ことさら興味を引かれた理由である。
 そこで、この二つのヘッドフォンを比較試聴したのであるが、コンデンサー型のSRΛプロと、ダイナミックのK240DFとでは当然、音の質感に相違がある。
 SRΛプロの高域の繊細な質感は特有のもので、ダイナミック型を基準にすれば、ある種の音色をもっているとも感じられる。これはコンデンサーマイクロフォンにも共通した問題で、私個人の意見では、生の楽音を基準にすれば、どちらも同程度の音色の固有現象をもつものだと思うのである。ハーモニックス領域の再生はSRΛプロのほうがはるかにのびているが、これは、通常、音楽を聴く条件では空間減衰聴こえない領域ともいえる。コンデンサーマイクロフォンによって近距離で拾ったハーモニックスの再生が、よく聴こえすぎるために、高域に独特の質感を感じるものともいえるのである。この点、K240DFのほうは、最高域がおだやかで、空間減衰を含めたわれわれの楽音の印象に近いので、より自然だという印象にもなるだろう。低域もちがう。K240DFはシミュレーションカーヴのためか、たしかにスピーカーの音の印象に近く実在感のある低音である。SRΛプロは、風のように吹き抜ける低音感で、これが、また、スピーカーでは得られない魅力ともいえるのだ。ただ、やや低音のライヴネスが豊かに聴こえる傾向で、これはキャビティ形状などの構造によるものと思われる。
 しかし、両者におけるバランスのちがいは、スピーカー同士の違いや、部屋の違いそして、置き場所や置き方の違いなどによる音の差と比較すると、はるかに差が少なく、いずれもがリファレンスたり得るものだと思って間違いない。そしてリファレンスとしてではなく、ヘッドフォンとして楽しむという角度からいえば、SRΛプロの、コンベンショナルなスピーカーシステムでは味わえないデリカシーとトランジェントのよさが光って魅力的である。重量は、K240DFが240g、SRΛプロが325gだが、耳への圧力感ではSRΛプロのほうが軽く感じられる。しかし、装着感のフィットネスはK240DFのほうがぴたっと決って心地よい。SRΛブロのほうは、やや不安定に感じられるが、これは、個人の頭蓋の形状やサイズにもよることだろう。価格の点ではSRΛプロはイヤースピーカー用のドライバーユニットを必要とするコンデンサー型であり、当然高価になるので、両者のトータルパフォーマンスを単純に比較するのは無謀というものであろう。
 ヘッドフォンは、つい簡易型あるいはスピーカーの代用品のように受けとられがちだが、決してそういう類いのものではなく、独自の音響変換器として認識すべきものである。いうまでもないことだが、耳の属性と心理作用と相俟って、全く異なった音像現象を生むもので、ヘッドフォンによるバイノーラル効果は、伝送理論としてもステレオフォニックとは独立した体系をもつものである。
 この二つの優れたヘッドフォンは、それぞれ異なるコンセプトと構造によるものであるが、いずれも、録音モニターとしても再生鑑貴用としても高度なマニア、あるいはプロの要求を十分満たすものであることが実感できた。

スタックス SR-Λ Pro

菅野沖彦

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 スピーカーとリスニング・ルームとの関係は難しい。個々の部屋は固有の音響特性を持つ。スピーカーのセッティングや、家具類、カーテン、絨緞などの配置で、その癖を出来るだけ抑え込むことが必要だが、それで理想的になるとは限らない。音響設計をして部屋を整えるというのも大変なことだし、それも常に成功するとは限らない。第一、その費用は膨大なものになるし、失敗した時のやり直しは容易ではない。遮音と室内の整音とでは互いに相反する矛盾条件を抱えているので、やるからには大変な費用を覚悟しなければならないし、その上でスペースと自然な生活環境を兼ね備えようとなると気の遠くなるようなコスト・リスクを負わねばなるまい。もともと、レコード音楽の本質は、家庭で居ながらにして音楽を楽しむというのが大前提だから、まるで、スタジオのような費用と生活の雰囲気を犠牲にするというのは決して薦められることではない。部屋に無関心でいい音を聴くのは難しいが、すべてを部屋のせいにして諦める必要もないだろう。そこで現実は、与えられた条件の中であれこれ工夫して残響周波数特性を出来るだけ整え、しっかりとした機器の設置を工夫し、反射音や、定在波に対処する努力をするわけだ。さらに、それらの音響的処理でも不十分な場合には、イクォライザーを使って電気的に調生することも悪くない。イクォライザ一素子が介入することによって音の鮮度が若干おちることは仕方がないが、大きなピーク・ディップをそのままにして聴くことと、どちらがよいか? 昔とちがって、現在の優れたイクォライザーなら、SN比の点でも、歪の点でも、大きなピーク・ディップによりマスキングされた音からすれば問題にはならないといえるだろう。ただし、この調整にはかなりの熟練を要することは当然であるが……。
 もっとも難しいのが、マイクロフォンの測定ポジションの問題である。リスニングポジションに置いての測定、数ヵ所での測定の平均値の算出など、それぞれに一理はあるが、いずれも、非現実的で、目安程度の判断にしかならないと思う。かといって、測定データを無視して、ただ聴感だけでおこなうことはもっと難しいし、危険でもあろう。一応の目安は測定により知るべきだと思う。測定データだけを頼りに周波数特性だけをそろえても、まず聴感上では好ましい音にはならないのが普通である。より大がかりで精密な測定器があれば、周波特性と各周波数での残響時間を測定することにより、もう一歩、適確に状況判断がつくが、部屋の残響周波特性は、イクォライザーでは調整不可能である。かりに、理想に近い三次元測定と、その結果の調整が可能であるとしても、それには大変な費用がかかり、かつそれで最高の音が得られるとは限らないのがオーディオの面白さ、難しさなのである。ましてや、不備な測定データを丸ごと信じて、それでよしとしていては、機器の能力をフルに発揮させることは出来ないし、美しい音の実現には程遠いといってもよいだろう。
 録音から再生までのトータルでの仕掛けでもあるオーディオのメカニズムは、それが仕掛けであるがゆえに、必要悪も、ギミックも含まれることは当然で、いい音の達成のためには、科学的な技術知識と、それを補う感性が絶対に要求されるものである。そこで、本題のスタックスのコンデンサー型ヘッドフォンについてだが、私は、このSRΛプロとSRM1MK2プロを、もともと、自分の録音したレコードの制作プロセスで、カッティングのバランスなどのチェックに重宝してきたのである。私のスピーカーシステムは、バランス的に、ある客観的なレベルにあるつもりだが、決してフラットではないし、部屋を含めた私の嗜好の範囲で鳴らしている。つまり、マイ・サウンドである。したがって、商品としてレコードにする場合、最終確認を、部屋の要素が入り込まず、細部のデリカシーもよく聴きとれて、しかも、周波数的なバランスに優れているこのヘッドフォンでチェックするのは大変有効なのである。もちろんインピーダンス制御のヘッドフォンとスピーカーを一緒にすることは出来ないし、バイノーラルとステレオフォニックなイメージを混同するものでもない。
 こうした目的に使っているうちに、いつしか、例のスピーカーのバランス調整のチェックにも利用すると便利なことに気がついた。一応の測定データに基づいて、電気的に、音響的にチューニングをした後のつめは、私の耳によって、各種の音楽レコードを聴きながらおこなっているが、人間の悲しさ、疲れていたり、情緒不安定であったりすることもないとはいえない。だから、結果的には数日、数週間、あるいは数ヵ月を要して音をつめるのだが、そうした時の感覚の大きな逸脱のブレーキとして、このヘッドフォンが役立ってくれるのである。ステレオイメージや音場感は別として、先述の音楽バランスや、音色感などは、部屋の要素が入らず、耳への周波数的時間遅れのないヘッドフォンは大いに参考になる音を聴くことができるのだ。最近は、優れたヘッドフォンが多いようだが、私が人知れず、便利に使っている、とっておきの音を聴かせてくれるのが、このSRΛプロである。そして、ヘッドフォンとスピーカーの音の相違を通して、実に多くの音響的ファクターを類推することも面白くいろいろなことを学ぶことも可能である。同時に、この優れたヘッドフォンは、頭にかぶり、バイノーラル的サランドイメージを覚悟すれば、美しい音楽の鑑賞用としても抜群だ。

スタックス ESTA4U

スタックスのスピーカーシステムESTA4Uの広告
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

STAX

スタックス DA-100M

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 100WのA級モノーラルアンプで、AB級でもパワーは同じに抑えられている。AB級動作では、その分、省エネにつながるはずだ。放熱はヒートシンクを使わず、ヒートパイプによる。いかにもスタックスらしいユニークさをもっている。デザインや仕上げは取り立てていうほどのこともなく、むしろメーカー製らしい魅力のないところを平然と打ち出すあたり、アメリカの新生小メーカーと共通の野暮と驕りが感じられる。

音質の絶対評価:8.5

スタックス CA-X

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 スタックスはユニークな技術をもったグループで、いかにも専門メーカーらしいアイデアと執念で独善的に製品をまとめ上げる。このプリアンプもパワーサプライが左右独立して、さらに左右独立のイコライザー、コントローラーとも上下にセパレートという潔癖ぶりで、デザインも、それがそのまま現われたというそっけなさ。夢もセンスもない、ただひたすら機械としての必然性に徹するのがスタックスの魅力というべきだろう。

音質の絶対評価:7

スタックス CA-Y

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 筐体の下側2/3を強力な電源部で占め、音質追求型の極致ともいえるユニークなコントロールアンプCA−Xの構想を受け継いだスタックスの第2弾コントロールアンプである。
 コンストラクションは通常タイプの電源組込型となっているが、専用のオプションで内蔵型MCヘッドアンプが単独に用意されているのが特長である。
 薄型のパネルは、ファンクションスイッチと連動して緑色に文字が浮き出し、周囲の明るさに対応して明るさが自動調光されるインジケーターを採用した華やかなタイプで、CA−Xとは対照的だ。
 回路面での特長は、イコライザー段、フラット段ともにFET差動2段にA級SEPPバッファーアンプを組合せ、2段目から初段に同相帰還をかけて直流安定度を向上させ、独自の多重帰還方式でDC利得を1とすることなどにより、サーボ回路を使わずに入出力のカップリングコンデンサーを除いたDC型という点にある。
 電源部は、CA−X同様のバッテリー電源以上の性能をもつスーパーシャントレギュレーター型である。使用部品は、300μ厚無酸素銅箔ガラスエポキシ基板、低歪PCボリュウム、バリコン型空気コンデンサー、金メッキ無酸酸銅のジャンパー線、非磁性体アルミ筐体など吟味され、優れた音質を得ている。

スタックス UA-90, CS-1

スタックスのトーンアームUA90、カートリッジ用スタビライザーCS1の広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

UA90

スタックス SR-Σ, SRM-1

スタックスのヘッドフォンSR-Σ、アダプターSRM1の広告
(ステレオ 1979年2月号掲載)

STAX

スタックス DA-80M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 のびのびと屈託のない印象で、すべての音を明るく鳴らす。その明るさとは、たとえていえば写真電球のフラッドタイプで一様に照らし出された光景に似て、いくぶん陰影を欠いた、どこかあっけらかんとした感じのにぎにぎしさがある。苦労知らずに育てられた坊やがはた目かまわず鷹揚にふるまっているような感じさえあって、もう少し音の微妙な陰影や繊細な質感が出てほしいとという感じを抱かせる。ただ、国産アンプによくありがちの、どこか抑えこみすぎたような表情の乏しい音にくらべれば、この萎縮した感じのないところは多とすべきだろうか。Aクラスにしては表示パワーも大きいが聴感上もかなり力があって、それがいっそう音の伸びを助けているのだろう。

スタックス SRA-12S

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 明るく滑らかで、いかにも明瞭度の高い感じの音を聴かせる。たた、その明るさがやや一様で、音の陰影の不足した感じはするが、弱音での汚れも少なくくっきりときれいに音を並べる。しかしその並べ方は、音像を一面に力で押し出したようでやや奥行きに欠けるところがあって、パースペクティヴな立体感が出にくい。たとえばアメリンクの独唱で、歌とピアノが同一平面に聴こえ、パッセージによっては声の方がピアノにめり込んだように聴こえることもあるというように、音のデリケートな分離あるいはニュアンスがもう少し欲しく思われる。マランツ510Mのハイエンドでの危ない部分をよく抑える点はとても良いが、反面脂気も取り去ってしまう傾向もあった。

スタックス SRA-12S

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 帯域バランスが、かなり低域側に偏った独得なレスポンスをもっている。本来のDA80Mパワーアンプよりも、リファレンスパワーアンプ♯510Mのほうが、引締った力強さが感じられる音になるが、バランス的には、やはり高域が伸び不足で、細やかさや粒立ちのよさは求められず、ウォームトーン系のソフトで大柄な音であり、表情が鈍く、反応が遅いために絞らず、散漫で、クリアーな音にならない。
 ステレオフォニックな音場感は、DA80Mよりもナチュラルさがあり、左右には広がるが、パースペクティブが抑えられ、音像定位のシャープさはあまり感じられない。

スタックス SRA-12S + DA-80M

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 組み合わせたSRA12Sは、コントロールアンプとしてよりは同社のヘッドフォン(スタックスではイヤースピーカーと呼んでいるが)の専用アンプとしての性格が濃いと思うし、価格的にみてもDA80M(2台)とはかなりバランスが違うようなので、本来は、DA80Mは別のコントロールアンプでとライブすることを考えているのではないだろうか。ただ、この両者の組合せで鳴らしてみると、いかにも屈託のないのびのびとした明るさ、一様にステージ前面に並列にせり出したような独特の音像の並び方、といった音の性格は一貫している。その意味で、音像のひとつひとつに、もう少し引きが欲しい。言いかえれば奥行き方向への立体感をもっと感じとりたい。また、シェフィールドのテルマ・ヒューストンの黒人独特の声の艶とか、ベーゼンドルファーの一種脂っこいトロリとした味わいなどを、どちらかといえば脂気をおさえて鳴らす傾向があった。

スタックス DA-80M

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 ウォームトーン系の豊かで細やかな音をもつパワーアンプである。
 聴感上での周波数レンジはかなりナチュラルに伸びており、バランス的には、中低域が柔らかく量感が豊かで、中域は少し薄く、高域はわずかに上に向ってなだらかに下降するレスポンスに受けとれる。低域は甘く軟調傾向を示すが、M4よりも厚みはあるが音色はやや重く、暗いタイプである。中域は細やかだが、エネルギー感は不足ぎみで、粒立ちも甘いタイプである。LNP2Lの中域を+1、高域を+2に調整すると帯域バランスはかなり改善され、本来の細やかで伸びのあるウォームートン系の、響きの豊かなクォリティの高い音となる。

スタックス SR-44

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 さすがにコンデンサーヘッドフォンでは最も歴史の長いメーカーの製品だと思った。この種のタイプ(アダプター外付けの本格的コンデンサータイプ)の中では最もローコストの部類であるにもかかわらず、レインジの十分に広い、くせのないバランスの良さが、聴いていて十分に納得させられる。ごく初期の製品には、パワーに弱い面があったが、SR44の場合には、常識的な音量の範囲でという条件つきながら、まず相当の音量でも音のくずれることがなく、コンデンサータイプ特有のキメのこまかい、解像力の良い、しかもやかましさのない美しい音が楽しめる。同価格帯のダイナミック型と比較して、アダプターをとりつける手間を別とすれば音質の上では十分にメリットがあると思う。ただ、たとえばゼンハイザーやベイヤーのような、個性も強い反面、いかにも生き生きした音の弾みや艶は鳴らさない。とても行儀がよく、いくらか平面的で、アクの抜けた音だ。

スタックス SR-X/MK3

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 とうぜんのことながら、SR44と聴きくらべると、これは全く同じ個性、同じ音色での延長線上にある。その上で、音のバランスやキメのこまかさやレインジの広さ、そして、大音量での音のくずれのなさ、などすべての面で、確実にグレイドアップされている。SR44のところで書いたと同じように、まさに日本人独特の繊細な神経で練り上げた、慎重で、、ていねいで、行儀のよい音がする。そうした良さを認めた上であえていえば、テストソースに使ったDGGのベルリン・フィルハーモニーの、あるいは菅野録音とベーゼンドルファーの、要するにドイツのオーケストラや楽器の持っている音の構築のしっかりした、そして独特の脂の乗ったような照りというか艶というか、そうした音色は、このスタックスにかぎらず国産のヘッドフォンでは私の納得できるような音色ではついに聴くことができなかった。これが結局日本の音というのだろうか。

スタックス SRA-12S, DA-80, DA-80M

スタックスのコントロールアンプSRA12S、パワーアンプDA80、DA80Mの広告
(オーディオアクセサリー 8号掲載)

STAX

スタックス DA-80

岩崎千明

スイングジャーナル 10月号(1976年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 8月のまだ暑さの厳しい、ある日の昼下り、SJ試聴室にふと立寄った時、見なれぬブランドのパワー・アンプが眼に入った。〝Stax〟と小さく、しかし、鮮やかな文字がパイロット・ランプ以外に何もない、そのスッキリとしたパネルにあった。知る人ぞ知る個性派ナンバー・ワンのメーカー、スタックス・ブランドのアンプということで、大いにそそられ、聴きたくなったのも当然だろう。
 SJ試聴室の標準スピーカーJBLスタジオ・モニター4341が接続され、音溝に針を落してボリュームが上がると、響きが空間を満たした。その時のスリリングな興奮は、ちょっと口では言えないし、まして、こうして文字で表わすことなどできない。なんと言ったらよいのだろうか、まず4341が、JBLがこういう音で鳴ったことは今までに聴いたことがない。それは、やわらかな肌触わりの、しなやかな物腰の、品の良いサウンドであった。いわゆるJBLというイメージの、くっきりした鮮明度の高い強烈さといった、いままでの表現とまったく逆のものといえよう。だからといって、JBLらしさがなくなってしまった、というわけでは決してない。そうした、いかにもJBLサウンドという音が、さらにもっと昇華しつくされた時に達するに違いない、とでもいえるようなサウンドなのだ。まったく逆な方向からのアプローチであっても、それが極点に達すれば、反対側からの極点と一致するのではないだろうか。ちょっと地球の極点のように、南へ向っても北へ向っても、ひとまわりすれば極点で一致するのと同じ考え方で理解されようか。
 スタックスのアンプのサウンド・クォリティーを説明するのは、むづかしい。本当は今までになく素晴しい、といい切っても少しも誇張ではないが.それならば、どんなふうにいいのか。少なくとも、音溝のスクラッチ音が極端に静かになる。JBLのシステムで聴くと、レコードのスクラッチはきわめてはっきりと出てくるが、その同じスピーカーでありながら、スタックスのアンプでは、驚くほど耳障りにならなくなってしまう。さらに演奏者の音が、そのまわりの空間もろとも再現されるという感じで鳴ってくれる。ステージでの録音ならばそれは、良い音としての必要条件ともなるが、スタジオでのオンマイク録音においてでさえも、こうした演奏現場の音場空間がスピーカーを通して聴き手の前にリアルに表現される。優れた再生というものの重要なるファクターであるこうした音場再現性が、スタックスのこのパワーアンプDA80でははっきりと感じられる。もし聴きくらべることができる状態ならば、おそらくそうした事実は、誰もが非常にはっきりと感じとることができるのではないだろうか。それは、ちょっときざっぼい、言い方をすれば、再生音楽の限界の壁を越え得たといえる。または、生(なま)へ大きく一歩前進したともいえよう。
 さて、こうした、かってない未知の再生効果の衝撃的体験をしたときから、このアンプDA80は、私に新たなる可能性を提示し拡大してくれたのである。その製品の、オリジナリティーおよびクォリティーの高さは、スタックス・ブランドの最も誇りとするところであり、これはごく高いレベルのマニアの間でこそ常識となっているとはいうものの、「スタックス」というブランドは必らずしもよく知られているわけではない。だからSJ読者の中にも、このページの登場で初めて意識される方も多いことと思われる。スタックスは、国内オーディオ・メーカーの中でも、もっとも永いキャリアーと他に例のないユニークな技術とで知られる、今や世界にもまれになったコンデンサー・カートリッジとコンデンサー・スピーカーからそのスタートを切り、アーム、さらにヘッドフォン、そのためのアダプター・アンプと順次に作ってきて分野を序々に、しかし確実に拡げてきたのち、1年前に、パワー・アンプDA300を発表した。150/150ワットのA級アンプは、ごく一部のマニアの間で、話題になったが商品としては、高価格のため必らずしも大成功とまではいかなかったようだ。今回、このDA300を実用型として登場したのが、このDA80だ。しかし、DA80は、兄貴分たるDA300を、性能的にも再生品位の上でも一歩前進したといって差支えないようだ。AクラスDC構成アンプというその回路的な特長による技術的な優秀性だけが、決してそのすばらしさのすべてではないのだ。おそらくオーディオも商品としてもまた兄貴分DA300は、一歩を譲るに違いあるまい。

スタックス UA-7, UA-70

スタックスのトーンアームUA7、UA70の広告
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

UA7

スタックス UA-7

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 軽量級のユニバーサル型トーンアームとしては海外でも評価の高い見事な製品である。超高感度な軸受構造をはじめ個性的な設計がおこなわれており、仕上げも大変美しい。

ハイパワー・アンプの魅力

岩崎千明

スイングジャーナル 5月号(1974年4月発行)
「AUDIO IN ACTION」より

●アンプはパワーが大きいほど立上り特性がよくなるのだ! だからジャズには……
 アンプの出力は大きいほど良いか? はたまた、必要性のないただただぜいたくなのか?
 そうした論争や、論説はいいたいやつにいわせておけ。オレは今日も午前中いっぱい200ワット出力のアンプをレベル計がピクンピクンといっぱいに振り切れるほどの、ドラムの響きに身をまかせ切っていた。
 一度でもいい。キミも、大出力論争をやっているひまに、ほんのひとときを100ワット級のアンプで鳴らす空間にその身をさらされてみろ。一度でもハイ・パワー・アンプの洗礼を受けたが最後、ジャズを愛し、断ち切れないほどのファンなら、だれだって必ずやその虜になるぞ。必要ない、なんてうそぶいていたのは、実は、望んでも達せられないための、やっかみ半分のやつ当りだっていのうを、ひそかに思い当るに違いない。
 ハイ・パワー・アンプから繰り出されるこの上なく衝撃的なパルスは、現代に息吹く若者にとってあるいは麻薬の世界にも例えられるのかも知れない。一度覚えたそのアタックの切れ込みのすざまじさは、絶対に忘れられっこない経験として耳を通してキミの大脳にガキッと刻み込まれてしまうのだ。もうそれを消そうと思ったって薄れることすらできやしない。それどころか、口でけなし、あんなのはだめな音と、どんなに思い込ませようと努力したところで、逆にますます強く求めたくなってくるあこがれにも近い感情を内側でたぎらせてしまうだけだろう。
 恋の対象を初めて見かけたとき、それは少しも変りやしない。だから、ジャズ喫茶でスピーカーの前には、すべての環境から遮断されたマニアックなファンが少なからず、首をうなだれてサウンドにひたり切っているのだ。
 スピーカーは、例え小さくても良い、そのすぐ前で座ろう。プレイヤーは今までのでもいい、カートリッジの質さえある水準以上なら。
 ステレオの心臓はアンプだ。電気信号に変えてエネルギー増幅する、それがアンプの真髄。だから、アンプはきのうのより大きくしてみよう。2倍じゃなまぬるい。4倍も6倍も、いや10倍の出力のアンプなら一層結構、大きければ大きいほどいいのだ。それがたとえ借り物であっても、仮の姿でも、いつかはキミの所有になるはずだ。
 大出力のよさを身をもって知ったならば、もう逃れられっこないのだから。良さが判ればキミのステレオの次の標的として、大出力アンプは、大きくキミの前にほかの目標を圧して立ちふさがるだろう。キミはそれに向かって猛進するだけだ。100ワット/100ワットのジャンボ・アンプに向かって。

ソニー TEA-8250
 後から鳴らしたFETアンプのおかげでソニーのハイパワー・アンプはスッカリ形が薄れてしまった。けれど、1120のデビューのときの音そのものの感激がこのハイパワー・アンプ8250でもう一度思い出された。「あくまで透明」なサウンド。それは非情といわれるほどで、アタックの鋭さは正宗の一光にも似る。以前より低域の豊かさが一段と加わっているのは、単なもハイパワーのなせる所だけではないかも。

ソニー TA-8650
 20種にあまもハイパワー・アンプを並べたこの夜のSJ試聴室。編集F氏Sくんを含め、むろんこのオレも一番期待したのがソニーのこのFETアンプだ。球の良さをそのまま石で実現したといういい方は、気に喰わないというより本当にして良いのかという半信半疑からだ。
 その不安も、まったくふっとんでしまつたのだ。なるほど確かにハイパワー管球アンプの音だ。このFETアンプ8650に最も近いのは、なんと米国オーディオリサーチ社管球アンプだったから。
 低域の迫力の力強い響き、プリアンプのような超低域までフラットだが力強さがもうちょっと、なんていうのがFETアンプではうそみたいに直ってしまう。中声域から高域の力に満ちた立ち上りの良さプラス華麗さも、石のアンプのソッ気なさとは全然違う。
 こうしてまたしてもソニーは、アンプにおいて1120以来の伝統よろしくオーディオ界のトップに出た、といい切ってよかろう。製品が出たら、まっさきにオレ買おう。

オンキョー Integra A-711
 711はなんと20万を越す名実ともに一番高価なインテグレイテッド・アンプだ。しかし、音を聴けばそれが当然だと納得もいこう。ローレベルでの繊細さと、ハイパワー・アンプ独特の限りない迫力とを見事に融合させて合わせ持っている数少ないアンプだ。音の特長は、……ないといってよい。ない、つまり無色、これこそアンプメーカーの最終目標だろう。オンキョーのアンプがずっと追いつづけた目標は、このアンプではっきりと捉えられていよう。

オーディオリサーチ SP-3 + Dual75
 かつてマランツ社で真空管アンプを設計してたっていう技術スタッフが集まって興したのがこのメーカー。だからトランジスタ・アンプ万能の今日、その栄光と誇りはますます燃えさかり、このどでかいアンプを作らなければならなくなったのだろうか。なにしろ75/75ワットという実効出力にも拘らず、200ワットクラスの石のアンプとくらべても一歩もひけをとらず、それどころかサウンドの密度の濃さは、どうやら石のアンプでは比すべくもない、と溜息をつかせる。

SAE Mark 1M + IV C
 ロス周辺の新興エレクトロニクス・メーカーと初め軽く受けとっていたが、どうしてどうしてこの4年の中に、オーディオ界ではもっとも成功を収めたアンプ・メーカーだ。それだけに製品の完成度の高さと漉さは、抜群だ。プリIMと接続した状態で端正で品のよいサウンド。数あるトランジスタ製品中ベストの音色をはっきりと知らせたあたり、実力のほどをもう一度思い知らされろ。個性的でスッキリしたデザインはサウンドにも感じられる。

Lo-D HMA-2000
 やっぱり日本産業界切っての大物「日立」、やることが違う。というのがこのアンプのすべてだ。果しなくパワーを上げていくと、遂に突如、ひどくなまってくるのに慣らされた耳に、このアンプは不思議なくらい底知れずのパワー感がある。つまり音が冴えなくなる、という限界がないのだ。それはテクニクスに似てもっと耳あたりのよいサウンドの質そのもののせいといえる。日立のオーディオ界における新らたる実力だ。

フェイズリニア 700B
 そっけないくらいの実用的ハイパワー・アンプ。350/350ワットで700ドル台、日本でも40万円台と類のないハイCPのスーパー・アンプだ。今度バネルレイアウトを一新して、マランツ500そっくりのレベルメーターを配し、左右の把手のゴージャスな巨大さは、700ワットという巨人ぶりを外観にのぞかせたグッドデザイン。音はそっけないはどさっぱり、すっきりしているが、底ぬけのハイパワーぶりは低音の迫力にいやおうなしに感じられる。

マランツ Model 500
 今日マランツ社には創始者のMr.ソウル・マランツはいない。しかし、マランツのソウルは今もなおマランツの全製品に息吹いている。それをはっきりしたサウンドだけで聴くものに説得してくれるのが、モデル500だ。250/250ワットのアンプながら、それはもっと底知れぬ力を感じさせるし、モデル15直系の、音楽的な中声域の充実された華麗なサウンドはちょっと例がない。しかも現代のアンプにふさわしい豪華さを具え、この上なく超広帯域だ。

ダイナコ Stereo400
 なにしろ安い。アチラで600ドル、日本でも30万円で200/200ワットのジャンボぶり。すでに普及価格の高級アンプで定評あるダイナコの製品だけに前評判も高く、それらの期待に充分応じてくれる性能とサウンド。高音域のおとなしい感じもいわゆるウォーム・トーン(暖かい音質)というダイナコ伝統のマニア好み。うるさいヒトほど惚れ込んでしまう、うまい音だ。ボリュームを上げて行くと、分厚い低音の確かさにも一度惚れ直す。

ダイヤトーン DA-P100 + DA-A100
 ダイヤトーンのプリアンプの端正なたたずまいは、なにかマランツをうんと品よくしたといいたくなるような優雅さをただよわす。管球アンプを思わすパワー・アンプのゴツイ形態は、いかにもパワー・アンプだ。それはひとつの目的、エネルギー増幅の実体をそのまま形に表わした、とでもいえようか。このコンビネーションのサウンドはまた実に品のよいサウンドで、いかなるスピーカーをもこの上なく朗々と鳴らす。まさに、アンプはスピーカーを鳴らすためにある、ということをもう一度教えてくれるアンプといえそうだ。
 100/100ワットと今や、やや小ぶりながらひとまわり上のパワーのアンプとくらべても聴き劣りしないのは充実した中声域にあるのか、あるいはその構成の無理なく単純化された回路にあるのか。あまりワイド・レンジを意識させないのに、深々と豊かな低域、すき透るように冴えた高域、なぜか手放せなくなるサウンドだ。

パイオニア Exclusive C3 + Exclusive M3
 ズラリ並んだ国産アンプ中、スッキリとした仕上げ、にじみ出てくる豪華な高級感、加えて優雅な品の良さ。やはりパイオニアの看板製品にふさわしく、もっとも優れたデザインといえる。
 このデザインは、サウンドにもはっきりと出て、品の良さと底知れぬ迫力とを同時に味わせてくれろ。やや繊細な音のひとつぷひとつぶながら全体にはゆったりとしたサウンドはこうした超高級アンプならではで、さらに加えて「パイオニア」らしいともいえようか。このM3にさらにAクラス動作50W+50WのアンプM4が加えられるという。A級アンプというところに期待と限りない魅力を感じさせる。待ち遠しい。

アムクロン DC-300A
 ギラギラした独特のヘアライン仕上げのパネルは、いかにも米国製高級趣味といえようか。でもこのアンプの実力は、その製品名の示す通り、ラボラトリ・ユースにあり、直流から数100万ヘルツという超広帯域ぶり。ガッチリと引き締って、この上なく冷徹なサウンドが、なまじっかの妥協を許さない性能を示していも。米国でのハイパワー化のトリガーともなったこのDC300、今日でもずばぬけた実力で、マニアならマニアほど欲しくなりそう。

マッキントッシュ MC2300
 ここでとやかくいうまい。SJ試聴室のスタンダード・アンプというより今やあらゆるアンプがハイパワー・アンプとしての最終目標とするのがこの2300なのだから。サウンドの管球的なのもつきつめれば、出力トランスにあり、このアンプのあらゆる特長となっているサウンドに対する賛否もここに集約されるが、誰もが説得させられてしまう性能とサウンドに正面切ってケチをつけるやつはいまい。

サンスイ AU-9500
 黒くてデッカクて、やけに重いアンプ。山水の9500は75・75ワットっていうけれど、どうしてどうして、100/100ワットのアンプと互角以上にその力強い馬力をいや応なしに確かめさせてくれる。,
 ECMのすざましいばかりのドラムは、このアンプの13万なんぼというのが信じられないはどに力いっぱい響いてくれる。SJオーディオ編集者のすべてが認めるこのジャズ向き実力はハイパワ一時代、まだまだ当分ゆるぎそうもない。

テクニクス SU-10000 + SE-10000
 以前、SJ試聴室での試聴では保護回路の敏感すぎから、実力を知るに到らなかった10000番シリーズ、今宵はガッチリとたんのうさせてもらった。さすが……である。
 なんとも高品質な迫力と、分解能の良さに改めて10000番の良さを確めた。一式95万と高価なのだからあたりまえといえなくもないが、金にあかして揃えられるマニアなら、やはり手元にぜひおきたくなるだろう。物足りないくらいの自然さは最終的なレベルといえるだろう。

スタックス
 A級150/150ワットというそのメリットよりもスタックスの製品というところにこのアンプの意義も意味も、また魅力も、すべてがある。世界でもっとも早くからスタテック・イクイプメントコンデンサー・カートリッジ、コンデンサー・・スピーカーをファンに提供し続けてきたスタックス。数々の幻の名器を生んできたメーカーの志向がアンプの特長の根底にずっしりとある。サウンドは、それこそまさにコンデンサースピーカーのそれだ。加えてローエンドの底なしの力強さに惹き込まれて時間の経つのも忘れさせるワンダフルな機器だ。(発売時期末定)

ラックス CL350 + M-150
 309のパワーアンプを独立させたのがM150。75/75ワットというパワーもそれを物語る。アンプの高級ファンをガッチリと把握している企画と音作りのうまさはM150でもっとも端的にはっきりと現われている。しぶいが落ちついた品のよいその外観と音。加えてソフトながらいかにも広帯域をと力強さにも感じさせるサウンド。物足りないといわれるかも知れないが、しかし飽きのこない親しさもまた大きな魅力なのだ。

ESS/BOSE
 日本にはこれから入ってくるだろうと予想される話題のスーパー・アンプ2種。ハイル・ドライバーで一躍注目されてるESSのモデル500。みるからどでかくゴツい力強さを外にまでみなぎらせて、早く聴きたいアンプだ。
 もうひとつはペンダゴン型ボックスのスピーカーで有名なボーズのアンプだ。これは品のよいスマートな個性で粧おいをされた豪華大型。インテグラル・システム100/100ワットで200ドルと安いのが早くも出てきおったぞ。

アキュフェーズ C-200 + P-300
 国内製品では実力ナンバーワンを目されているのが、ケンソニックのP300だ。このところ目白押しの国内ハイパワー・アンプ。なんてったって世界市場を意識して企画され、価格を設定されたというところにこのケンソニックのすべての製品の特長と意義がある。つまりケンソニックのアンプは実力を世界に問うた姿勢で作られているわけで、逆にいえば世界のマニアに誇れる高性能を内に秘めてもってことになる。
 事実、このアンプをマッキンと較べ、マランツと比べても、一長一短、ブラインドで聴かせれば、どちらに軍配が上がるか率は半々。透明度の高さ、中域の緻密さにおいて特にすぐれ、高域の明るさと、低域の豊かさにおいて聴く者を魅了してしまう。
 プリアンプC200のこの上なくナチュラルな音に、P300の良さはますます高められて国産ハイパワー・アンプの大いなる誇りを持つものにじっくりと味わしてくれる。
 かくいうこのオレも、P300、C200のスイッチを入れない日はなく、メイン・システム、ハークネスはP300のスピーカー端子にガッチリと固定され、ひんばんに変っていたアンプが変わる気配もない。

スタックス SR-X MarkII

スタックスのヘッドフォンSR-X MarkIIの広告
(ステレオ 1972年12月号掲載)

stax

スタックス CP-X, UA-7, UA-70

スタックスのカートリッジCP-X、UA7、UA70の広告
(ステレオ 1972年11月号掲載)

Stax