Category Archives: H&S

H&S EXACT

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 音が出た瞬間、その気負いをそぐような、静かで醒めた鳴り方に驚く。妙に柔らかく、自己主張を喪失した、突き放すような無表情、冷たい違和感の漂う響きは聴きなれたエグザクトの音ではなかった。
 そう、きっとS/Nの良さが圧倒的であるがゆえに、周辺機器のマスキングをまともにくらって、拒絶反応を起しているに違いなかった。極度に神経質なのだ。折り目正しく丁重なる忌避、寡黙なる拒絶の壁が慇懃無礼に目の前にそり立つ。しかし、これはけして本来の音ではない。音楽の、響きの行間に潜む透明な震え、沈黙の、底なしの静寂感がここでは何かによって犠牲がなっているのだ。物理的には申し分ない。耳を測定器にして聴けば、これだけでも他をさりげなく圧倒するに充分である。しかし、この鏡のような抽象性は、使い手が何かを写しこむことを強烈に要求するがゆえの無表情のようにも思えてくる。

H&S EXACT + EXCELLENT

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 たしかに素晴らしい鮮度の音である。あまりにも超高価格なので、かなり差し引きして聴くことになるのだが、音は確かによい。曖昧さ、鈍さなどは一切拒絶した明晰な音だが、それでいてちゃんと、ソースの柔軟でしなやかな特徴は再現する。つまり、この締まりのあるたくましい音は、決して次元の低い音色ではなく、高度な品位に裏付けられたフィデリティのなせる業らしい。完成度の点で未消化な部分もあるが、水準を超えていることは確かである。
[AD試聴]楽器の頭のアタックが印象的である。立上りの呼吸、気迫のようなものが伝わってくる。しっかりとたくましい質感のオーケストラは、輝かしいブラスの音が豪放に響き、弦の厚味が充実していて深い響きとなる。めりはりの利いた、腰の坐った安定感のある音は得がたいものだ。人の声も生き生きとしてリアルだ。ロージーの声は艶麗で輝かしい。もう少しハスキーでなよなよしたニュアンスが本当だと思うが……。ベースは重めだがよく弾む。
[CD試聴]エクザクトはフォノイクオライザーだから、これをとばして、エクセレントのCD入力でCDを聴く。ややぷっきら棒で、男性的なたくましさを感じる堂々とした音はエクザクトを通したADと共通している。エクザクトはエクセレントを併用しないと生きないだろう。CDの音に関しては、物理的特性的に最高で、どのソースにも違和感がない。相当、鮮度が高いラインアンプだし、アッテネーターなどのパーツの品位も高いことに納得させられる音だ。