早瀬文雄
ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より
ステート・オブ・ジ・アートというものものしい命名からは想像しにくい、軽くて小粋な音をもったプレーヤー。音出しが始まって、安定度がたかまってくると、つい先程まで聴いていたステレオサウンドのリファレンスプレーヤー、マイクロSX8000IIとは音の語り口が大きく違うことが、良い意味で明確になってくる。マイクロといえば『高剛性、ハイイナーシャ』の代表的存在。アナログ全盛期の、いわば『究極』、『果て』と思われた存在で、誰もがそう思いこんでいた。だから、私自身、『信じ込んで』無理をして手に入れもした。と言うわけで、今回の4機種のアナログプレーヤーたちの音を実際に聴くまでは、『クォリティ』の『差』を聴く、という視点からみた『期待感』は、はっきり言ってなかった。むしろ、本格的な、CD時代にはいった今、もういちど『アナログ』を、ききかえしてみると、ちがった発見があるやもしれず、その点での興味をもっていたにすぎなかった。
CDプレーヤー間の音の差の、予想を上回る大きさに妙な感慨をいだいてはいたが、そんな思いを吹き飛ばすほど、アナログ世界の変化量は絶大だった。 SOTAスター・サファイアの音。とりつけられたエミネントの『リニアトラッキングアーム』の音色が色濃く反映しているにせよ、その音にはまさにマイクロの対極をなすような、響きの柔らかさがあった。無論、マイクロから柔らかい響きが出ないわけではない。表現の方法がまるで違うのだ。マイクロには本質的に音の構築性を分析的に聴かせる生真面目さがあって、響きの『重さ』をはっきり提示し、堅い音はあくまでも堅く表現する。つまり、相対的コントラストの結果として響きの柔らかさ、軽さといったものを表現してくる。いいかえれば『正確』なのかもしれないが、やや直截的ともいえる。しかしそれは、ここでの使い方が『リファレンス』としての存在である以上、当然の結果かもしれないが……。したがって当然ソースの荒れは剥き出しとなる。
一方スター・サファイアは『個性』を強くもっている。見ための印象どおり聴き手の気持ちを優しくしてくれるような、穏やかさ、響きの柔らかさを際立たせるところがある。色彩感の表現においても、ハーフトーンの曖昧さをうまく出してくる。響きに毳立ちはなくスムーズ。ソースの粗はむしろ隠す方向。脂切ったどくどくしさやぎらぎらしたまぶしさもない。反面、堅い音、重い音への対応がやや曖昧になるが、聴き手にそれをあまり意識させないのは、やはり美点でうまく聴かせてしまうからに違いない。まさにその名前のように、『ダイアモンド』ではない、『サファイア』の柔らかさをもっている、というところか。エミネントのアームは『アナログ』の楽しさを堪能させてくれた。なにしろ調整個所が多く、そのいずれを動かしても音はコロコロ変化する。ディスクの内周でも歪が増えないというリニアトラッキング型の特質さえ、下手に調整したのでは活かされない。音場の変化も大きい。
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