菅野沖彦
ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より
同社の高級クラシカル・シリーズであるプレスティッジ・シリーズのベーシックモデルである。25cm口径コアキシャル・ユニットは半世紀以上の伝統を持つ基本設計を踏襲するが、現代的な特性にリファインされている。同軸型らしい定位の明確さを持ち、ウェルバランスで重厚、しなやかな質感を併せ持つ。
菅野沖彦
ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より
同社の高級クラシカル・シリーズであるプレスティッジ・シリーズのベーシックモデルである。25cm口径コアキシャル・ユニットは半世紀以上の伝統を持つ基本設計を踏襲するが、現代的な特性にリファインされている。同軸型らしい定位の明確さを持ち、ウェルバランスで重厚、しなやかな質感を併せ持つ。
井上卓也
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
音の密度の高さ、同社独自のセンシティヴな反応を示す音の魅力を求めると、設置場所の制約の少ないトールボーイ型の本機は、ディストリビューテッドポート採用の独自の調整箇所を含めて、使い易さという点でも格別の魅力がある。同社最新スーパートゥイーターST200を加えて使いたい実力派。
井上卓也
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
伝統的デュアルコンセントリック同軸2ウェイユニットLSU15の最新作を、前後2個のホーンをもつエンクロージュアに収納した、古典的ファンが「ラッパ」と呼ぶに相応しい構造、外観、仕上げ。大型スピーカーが過去に達成した偉大の成果を現時点で聴かれる、一種素朴な感銘を受ける金字塔的な大作である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
プレスティッジ・シリーズの中では手頃な価格の製品だが、100リッターの内容積を持つ。天然無垢材によるクラシックで上質のエンクロージュアはディストリビューテッドポート型である。25cmデュアル・コンセントリック内蔵の本機はスターリングの系譜である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
タンノイ初の4ウェイ。中〜低域の振幅を抑えた波型エッジによる30cmデュアルコンセントリック+46cmウーファーという構成に注目。100Hzでクロスする最低域を肥大させないで駆動するのが、本機を活かす秘訣。結論的にうまく鳴らせるパワーアンプはかなり限定されると思う。タンノイらしい音の品格は健在。身震いするような凄い音が聴ける。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
プレスティッジ・シリーズの中堅機で12インチ・デュアルコンセントリックによるシステム。バランスはスターリングと双璧で15インチより好ましいとさえ言える。改良を重ねるたびに、ユニットをはじめ細部がリファインされ、TWWでは重厚なタンノイ・サウンドを基本にしなやかで滑らかな高域が見事な質感を再現する。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
イギリスの名門タンノイのプレスティッジ・シリーズ中で最も小型なモデル。とはいっても一般的には中型のフロアータイプである。10インチ口径デュアルコンセントリック・ユニットを質の高いクラシックな格調あるエンクロージュアに納めた傑作だ。シリーズ中最もバランスのよいシステムといっていいだろう。
菅野沖彦
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
タンノイの15インチ口径デュアルコンセントリック・ユニットのよさが素直に生きたシステム。オーソドックスなバスレフタイプのエンクロージュアに納められてたもので、同社のプレスティッジ・シリーズのスタンダード的存在といっていいだろう。普遍性をベースに築かれた、風格と存在感の大きな名器である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
私の好きなスピーカーひとつでありながら、いまだかつて、自分のものにしたことのない憧れの存在がタンノイのシステムである。その最高峰が昨年発売されたキングダムだ。その時々のメディアが持っている録音帯域特性を備えることが私の再生オーディオの理想的条件のひとつであるのだが、キングダムは、この要求にたいするタンノイの回答といっていい製品だろう。デュアルコンセントリックユニットを広帯域で使い、上下にスーパー・ユニットをプラスしたものであることがそれを明瞭に物語っている。タンノイのなかでもっとも広域なシステムであり、タンノイらしさと現代的なワイドレンジを見事に両立させた成功作であると思う。ステレオイメージは同軸型らしい明確さであり、自然な音色と音触に、長年のキャリアによる風格さえが溢れている。説得力のある楽音のリアリティだ。中低域から中域にかけての高密度で厚い質感は得難いものであり、音楽表現の豊かさに寄与していることを強く感じる。したがって高域と低域をここまでワイドに伸ばしても、しっかりとした音の造形感や表現の豊かさは微塵も損なわれていない。伝統的なダイナミック型ダイレクトラジエーターとして高い完成度を持ったシステムで、むかしのタンノイのようにジャズやピアノに不満が残るといったことはもはやない。しかし、音と形の持つ、この品位と堂々の威容は、古典から浪漫にかけての、もっとも実り多きヨーロッパ音楽芸術の再生機として理想的と感じられる気品と豊麗さに満ち溢れている。こういうシステムと共存して、居住まいを正して音楽を鑑賞するという真面目さこそが、いま、レコード音楽とオーディオ文化が失いかけているものだ。イギリスでも、いまや数少ない重厚長大なスピーカーシステムであろう。いま、私ももっとも気になっているシステムの一つであるプラチナム/エアーパルス3・1もイギリス人の作品だが……。軽薄短小オーディオとは別次元の世界である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
GRFメモリーは、もっとも代表的な現代タンノイである。15インチ口径のデュアルコンセントリックユニットを、無理なく余裕ある変形バスレフ型エンクロージュアに納めていてユニットの音の特徴が素直に生きている。このモデルは現在の充実したプレスティッジ・シリーズの基礎を開拓した製品であることは、GRFメモリーの名称にも表れている。アンプは同じ英国の新進メーカー、アルケミストのプリアンプAPD21ASS、そしてパワーアンプも同社のAPD20ASSを使う。じつに魅力的なセパレートアンプのコンビネーションで、陰影と彫琢が深く音楽が躍動する。CDプレーヤーはクォード77CD。音色が人肌に温かい音だが、繊細感や精緻感にも優れている。トータルとして味わい深く雰囲気が豊かな音に大きな満足感が得られるはずである。レコード音楽が立派な音楽的実体験のできる世界であることの可能性を実感できるであろう。
菅野沖彦
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
タンノイのプレスティッジ・シリーズの最下位を担い、きわめて好評なのがこのスターリングである。本誌でこれにサブウーファーとスーパートゥイーターを付加してキングダムに挑戦したことがあるが、勝るとも劣らぬ好結果を得たものであった。したがって、キングダムのミニマムコスト版として、これ以外にない。価格はキングダムの1/8である! 本当はアンプを驕りたいところだが、そこを抑えてプリメインアンプで鳴らそう。ラックスマンのL507sはよく練れた音であり、ドライブ能力も高い。スターリングの感度なら十分なパワーであるし、この艶のある音は美しく楽しい。CDプレーヤーもラックスの新製品D700sでデザインと音の統一感を求めたい。アンプとCDプレーヤーのトータルが43万円とスピーカーシステムの44万円にほぼ等しい理想的な価格配分となった。バランスのよい本格派の入門システムとして広くお勧めしたいシステムだ。
井上卓也
ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より
ホーン型ユニット採用のスタジオモニターのなかで、比較的にコンパクトで内容の充実した製品を探してみると、価格を含め、英タンノイのシステム215MKIIは、ぜひとも使ってみたいシステムである。専用スタンドが用意されていることも非常に魅力的だ。同軸2ウェイとウーファーの組合せで、2ウェイ/3ウェイ兼用設計が最大の特徴。今回の組合せは、バランス感覚を重視しているが、CDトランスポートは、世界最高のメカニズムに基づいた、超高SN比を誇るCDP−R10が必須条件。これに高SN比で音楽性豊かなXP−DA1000Aを組み合わせる。実際に使って大変に好ましいペアだ。アンプは高SN比が条件で必然的に国内製品を選ぶ。アキュフェーズ、マランツ、パイオニア、ラックスマンが候補になるが、SS試聴室のリファレンス機として責任を果してくれたアキュフェーズC290と、ソリッドで充実した音のA50に、DG28を加えれば万全だ。
井上卓也
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
基本的に1個の磁気回路の前後に低域用と高域用の2個のボイスコイルを備えた、同社独自のデュアルコンセントリック型と呼ばれる同軸2ウェイ型ユニットを、38cm、30sm、25cm型とラインナップしている。それぞれにグレードや目的により専用のエンクロージュアを開発し、システムアップするというタンノイならではの設計思想そのものが、世界的に類例のない見事な存在である。
最高級家具にも匹敵する入念な工作と仕上げをもつエンクロージュアは、工芸製品のレベルにあり、最終の音の見事さを加えた三味一体のシステムアップによるすべてのモデルが、世界のトップランクにあるオーディオコンポーネントである。
カンタベリー15は、現在の製品中ではもっとも伝統的な設計である、シルバー型、レッド型、HPD型と続く独自のデュアルコンセントリックエニットの流れを受け継いだ38cm型ユニットが採用されている。同じアルコマックスIII磁石採用でも、ウェストミンスター・ロイヤルのユニットは、センターキャップ状のダストカバーがなく、磁気回路内のホーンスロート部が金メッキ処理されている点が異なる。
エンクロージュアは、伝統的に全体にほどよく鳴り響かせる方向の設計で、楽器のようにエンクロージュアを巧みにコントロールして美しく響かせる技術は、タンノイのコンシューマーシステムならではの魅力だ。また、ディストリビューテッドポートはエレクトロボイスが最初に製品化した方式だが、このスライドする板で開口部の面積を連続可変とした方式はタンノイ独自の改良によりスターリングで最初に採用されたシステムである。
使いこなしポイント
2種のレベルコントロールはノーマルとし、ポートの開口部の開閉を組み合せて最適なサウンドバランスと音場感が得られるように微調整を行ない、じっくりと時間をかけてエージングを待つことが必要。
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
イギリス(スコットランドに工場がある)のタンノイといえば、オーディオに興味のある人で知らない人はいないであろう。特にわが国では、タンノイは神格化されているほど、絶大な存在感をもって信奉されている。それはこのメーカーの長い歴史と伝統、つまり、半世紀以上の社歴と、その間に一貫して守られてきた設計思想や製品作りの基本理念に対するもので、一朝一夕に築かれたものではない。長い歴史の中には、いろいろ困難な時代もあったし、製品にそれが反映したこともある。しかし、常に保ち続けてきた精神は、温故知新と自社の技術への信念に満ち溢れていた。そして、イギリスという国の持っている趣味性への価値観も見逃せない。イギリス趣味は基本的には合理的であり、貴族趣味と大衆性との間に明確なカーストのようなものが存在する。オーディオ趣味が大衆化するにつれ、イギリスのオーディオ製品にも、小さくて安価な大衆趣味製品が増えてきた。現代のイギリス製オーディオ機器の大半はそうした製品といってよい。しかし、その中にあって、この製品のような堂々たる風格をもつものを作り続けてきたからこそタンノイの存在は、ますます尊敬されることになる。
内蔵するユニットは、有名なデュアル・コンセントリック・システムという15インチ口径の同軸2ウェイで、基本的に1940年代の設計から脈々と継承されてきたものだ。
そして、そのエンクロージュアも、フロントロードのショートホーンとバックローデッドホーンのコンパウンドシステムという伝統的なもので、これはオートグラフと呼ばれた50年代のプレスティッジモデルで採用された方式。
細部はその時代時代の技術でリファインされ続けているが、この製品は1989年に発売されたもの。そろそろ、新ユニットに代わるかもしれないが、そうなっても旧作としての価値が失われないのがタンノイの凄いところである。
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
タンノイのデュアルコンセントリックというユニットは、その同軸型2ウェイという構造のために、音像定位や位相再現の忠実度が高く、モニタースピーカーとして適している。一方において、イギリスらしい趣味性の発現性が強いタンノイ製品だが、同時にモニターシステムの開発も常に見られた姿勢である。1990年にはそのモニターシステム・シリーズを大々的にスタートし、デュアルコンセントリックユニットの基本構造を新しくリファインしてモニター用のユニットとしたことが注目される。
最大の変更は、デュアルコンセントリックが一つの磁気回路をウーファーとトゥイーターに共有させていたものを、それぞれ独立した磁気回路としたことである。磁気回路としてより余裕のあるものになったといえるだろう。このシステム215は、そのモニター・シリーズ中のトップモデルであって、15インチ口径のコアキシャルユニットと、同口径のウーファーユニットを併せもっている。タンノイでは、このモニター・シリーズの登場を機会に、今までのクラシックな木工家具調のシリーズをプレスティージ・シリーズと呼び、二つのシリーズのコンセプトの違いを表明した。モニター・シリーズはよりシンプルなバスレフ型のエンクロージュアをもち、ノンカラレーション思想を前面に打ち出している。しかし、受取り側としては、やはりタンノイはタンノイであって、その音の充実感や造形感の確かさには共通性を感じることができる。エンクロージュアがホーンとなると、それに独特の雰囲気がついて響きに個性が出るわけだが、このシリーズではそれを意識的に避けている。デザインもより現代的にすっきりとしていて、どちらかというとドライでクールだが、さすがにタンノイらしく美しい。家庭でもモダンなインテリアとマッチするだろう。音と外観に共通性を感じさせるのはさすがに世界の一流品、タンノイのトップモデルだ。
菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
イギリス(スコットランドに工場がある)のタンノイといえば、オーディオに興味のある人で知らない人はいないであろう。特にわが国では、タンノイは神格化されているほど、絶大な存在感をもって信奉されている。それはこのメーカーの長い歴史と伝統、つまり、半世紀以上の社歴と、その間に一貫して守られてきた設計思想や製品作りの基本理念に対するもので、一朝一夕に築かれたものではない。長い歴史の中には、いろいろ困難な時代もあったし、製品にそれが反映したこともある。しかし、常に保ち続けてきた精神は、温故知新と自社の技術への信念に満ち溢れていた。そして、イギリスという国の持っている趣味性への価値観も見逃せない。イギリス趣味は基本的には合理的であり、貴族趣味と大衆性との間に明確なカーストのようなものが存在する。オーディオ趣味が大衆化するにつれ、イギリスのオーディオ製品にも、小さくて安価な大衆趣味製品が増えてきた。現代のイギリス製オーディオ機器の大半はそうした製品といってよい。しかし、その中にあって、この製品のような堂々たる風格をもつものを作り続けてきたからこそタンノイの存在は、ますます尊敬されることになる。
内蔵するユニットは、有名なデュアル・コンセントリック・システムという15インチ口径の同軸2ウェイで、基本的に1940年代の設計から脈々と継承されてきたものだ。
そして、そのエンクロージュアも、フロントロードのショートホーンとバックローデッドホーンのコンパウンドシステムという伝統的なもので、これはオートグラフと呼ばれた50年代のプレスティッジモデルで採用された方式。
細部はその時代時代の技術でリファインされ続けているが、この製品は1989年に発売されたもの。そろそろ、新ユニットに代わるかもしれないが、そうなっても旧作としての価値が失われないのがタンノイの凄いところである。
井上卓也
’89NEWコンポーネント(ステレオサウンド別冊・1989年1月発行)
「’89注目新製品徹底解剖 Big Audio Compo」より
タンノイから新しくCANTERBURY(カンタベリー)シリーズとして発表されたモデルは、個性的な魅力を誇るタンノイの製品の中でも異例ともいえる内容を備えたシステムである。
カンタベリーの名称は、イングランドのケント州にある地名で、英国国教会の総本山がある由緒ある都市とのことで、英国の長い歴史の中でその流れを変えてきたその地と同じく、本機はタンノイの歴史に新しい一ページを飾るにふさわしいモデルとして誕生したものである。
まず、このシリーズで最大のエボックメイキングなことは、使用ユニットの磁気回路にアルニコ系のマグネットが採用されていることである。
ユニット構造の基本は伝統的なもので、タンノイ独自の磁気回路の前後に独立した低域用と高域用の2系統の磁気ギャップをもつデュアルコンセントリック型・同軸2ウェイ方式に変りはないが、磁気回路にALCOMAXIIIが新たに採用されている。
英国系を代表するアルニコ系マグネットといわれるTICONALと比較して、ALCOMAXIIIは、約2倍の磁気エネルギーをもつ強力なマグネットであり、これによるドライバビリティやトランジェントの向上は、デジタルプログラムソース時代に対応した、新世代のタンノイの音とするための重要なベースとなっているようだ。
フェライト系マグネット採用の磁気回路は、直径方向が大きく、軸方向の厚みが薄い偏平な形状を標準とするが、アルニコ系マグネットを採用するとなると、磁気特性の違いから、直径方向が小さく、軸方向の厚みが充分にある、いわば円筒状の形状となるために、低域用のポールピースを貫通する高域用のホーン全長が大きくなり、ホーンの特徴として、カットオフ周波数が下がり、より低域側の再生能力が向上することに注意したい。
さらに、高音用ホーンを兼ねる低音用コーンは、かつてのモニターレッドや、モニターゴールドの時代とはカーブドコーンの形状が変っているために、結果として今回のカンタベリー・シリーズに採用された高音用ホーンの形状は、従来にない、まったく新しいタイプになっており、新同軸型ユニットの誕生と考えてもよいものだ。
エンクロージュアは、タンノイの製品としては比較的コンパクトにまとめられており、ストレスなしに一般的なリスニング条件でも使いやすいというメリットがある。
エンクロージュア型式は、スターリングで採用されたディストリビューテッドポート型に、メカニカルなスライドシャッターを組み合わせたタンノイ独自のVDPS(バリアブル・ディストリビューテッド・ポート・システム)であり、ある範囲内での低域コントロールが可能だ。
ネットワークは、高域・低域独立型位相補償(タイムコンペンセイティヴ)型で、プリント基板を使わず、各構成部品間を直結するハードワイアリングを採用。内部配線用のワイア一には、高級オーディオケーブルをつくるメーカーとして評価の高いオランダのVAN DEN HUL社製シルバーコーティング線が使用され、高域レベルコントロールには、金メッキ処理のネジとプレートにより確実に接続できるハイカレントスイッチを採用。経年変化が少なく、初期特性の維持ができることは現在では当然のことであるが、タンノイに限らず、かつてのことを想い出せば、海外製品の内容の充実は大変にうれしいことだ。
カンタベリー・シリーズは、15インチ同軸ユニットを使うカンタベリー15と、同じく12インチユニット採用のカンタベリー12の2モデルがあり、ALCOMAXIIIの数量確保に問題があるためか、ともに受注生産品であり、限定生産モデルと予測できるようだ。
なお、受注にあたり、フロントパネル部のネットワークパネルには、オーナーのネームがエッチングで刻印されるとのことで、オーナーとしての満足感が充分に味わえるのは大変に楽しい。
カンタベリー15は、タンノイのシステムとしては異例ともいえるしなやかさ、ニュートラルさをもったスピーカーらしいスピーカーである。
全体に音色傾向も、独特の魅力といわれた渋さ、重厚さ、穏やかさ、などの特徴がかなり薄らぎ、明るさ、軽さ、反応の速さ、などを要求しても充分に満足の得られる内容を備えている。
とくに、低域の素直な表情や質感の再生能力などを、モニターレッドあたりまでのタンノイファンが聴けば、まさに隔世の感のあるところであるが、全体の雰囲気は決してタンノイの枠を外れず、タンノイはタンノイであることの伝統を受け継ぎながらも、文字どおりのデジタルプログラムソース時代のタンノイの音が、抵抗感なしに楽しめる。
VDPSの調整は、内側を閉めたほうが音場感的プレゼンスがノイズにマスクされず、自然に遠近感をもって聴かれるようである。
一方、カンタベリー12は、重量感のある傾向の音を指向しない現代的な聴き方、楽しみ方をすれば、反応が速く、軽快に、ノリの良い音楽を聴かせる魅力があり、完成度も非常に高い製品。
菅野沖彦
ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)
特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より
タンノイの上級システムはすべて、同社伝統のデュアルコンセントリックユニットを使用している。つまり、同軸型の2ウェイという構造のスピーカーの採用である。このGRFメモリーも38cm口径のユニットを内蔵したシステムで、代表的モデルといってよいだろう。この同軸型ユニットは、マルチウェイ、マルチユニットとは異なる放射特性をもち、タンノイの固有のサウンドを含めて、独自性をもった存在といえるものであろう。したがって、これを各種のアンプと組み合わせた場合、そのマッチングに違いが生まれることは当然であろうし、また同時に、すべてのタイプのスピーカーに対して優れた対応を示すアンプの存在の確認をする意味も大きいと考えられる。過去、本誌において、私はこのGRFメモリーというシステムについて多くのアンプを組み合わせる実験をおこなってきているので、その経験から、このスピーカーともっとも合いそうなアンプと、合いそうに思えない、あるいは、未知のものとの組合せという考えから5台のアンプを選んだ。ウェスギUTY5、マッキントッシュMC7270、QUAD510は前者にもとずくものであり、クレルKSA50MKII、ジャディスJA80は後者に属するアンプである。もちろん、選んだアンプは、あるレベル以上のものであり、中にはJBL4344で意外に成果の上がらなかったものの敗者復活の意味もあることは、他のスピーカーとの組合せと同じだ。
黒田恭一
ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト
19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
このレコードのきこえ方としては最高のもの。❶の総奏のふっくらとした気配にはほれぼれとした。演奏している楽器の艶が目にみえるようであった。❸ではコントラバスのたっぷりとしたひびきが十全に示され、しかも音像的な面でのふくらみもなかった。❹のフォルテでもひびきが力ずくにならず、❺での音場感的なひろがりもすばらしかった。鮮明で上品なきこえ方は見事の一語につきる。すばらしい。
ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶のエレクトリック・ピアノが優雅に感じられた。しかし、エレクトリック・ピアノがこのようにエレガントにきこえていいものかどうかとも思わなくはない。❷での声のなまなましさについてはあらためていうまでもない。❸でのギターのデリケートなひびきへの対応は絶品というべきであった。全体としてのひびきのバランスにはいささかの無理もなく、音場感的な面でもすばらしく、ききごたえがあった。
ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
イギリスの貴族の屋敷でロックをきいているような気分になる。音質的な面でなんら問題とすべきことはないが、ひびきの性格で、このレコードできける音楽とこのスピーカーの音ではいくぶんずれがあり、したがってこのヴァンゲリスの音楽のうちの「新しさ」はここではかならずしもきわだたない。しかしながら、ここできける音はそれなりの説得力をそなえている。そこがこのスピーカーの強みであろう。
第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
このレコードの微妙に人工的な手の加えられた録音を大変自然にきかせる。❷でのピアノのきこえ方など、まとまりのよさということではとびぬけている。❶でのピアノの低い音に重ねられたベースの音は、ききてがきこうとすれば充分にききとれるように示されているものの、かならずしもことさら強調はしない。❸でのシンバルのひびきの輝きは、演奏者の意図を十全にあきらかにしたものといえよう。
黒田恭一
ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
さまざまな傾向のスピーカーがあるが、これはそのうちのひとつを極めたものといえるであろう。ともかくここできける音は、いずれの音も磨くに磨かれた音である。その結果、ここできける音にはとびきりの品位がある。がさついた下品な音とか、刺激的な音とかは、決してださない。
このスピーカーにもっとも合っているレコードは、やはり①である。これはすばらしいとしかいいようがない。
②、③、あるいは④のレコードも、それなりに美しくきかせるが、これらのレコードのうちの「今」をストレートに感じさせるかというと、かならずしもそうとはいえない。しかし美しさということでは無類である。ほかに例のみられないような美しさである。
ただ、これだけ確固とした世界を高い水準できずきあげているスピーカーになると使い手の側にもそれなりの覚悟がないとつかいきれないのかもしれない。
黒田恭一
ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト
19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶での総奏での円やかさは魅力がある。このふっくらとしたひびきはこのましい。❷のヴァイオリンもしなやかさを失っていない。さらにこのましいのは❸や❺でのコントラバスのひびきである。コントラバスならではのゆったりしたひびきをきかせながら、しかしぼってりしない。音場感的なことでは特にひろびろとしているとはいいがたいが、まとまりはいい。このレコードには適しているスピーカーといえる。
ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶のエレクトリック・ピアノが音像的に大きい。❷での声の音像も大きめである。しかし、声のなまなましさはよく示す。このスピーカーがきめこまかな音にこのましく対応できるためと考えてよさそうである。❹でのストリングスもひびきに艶があって、充分にひろがる。❺でのはった声が硬くならないのはいいところであるが、バックコーラスとのかかわり方で、もう少しすっきりした感じがほしい。
ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
このスピーカーには適していないレコードのようである。このレコードできけるような音楽はシャープにきこえてこないとたのしみにくいが、全体的にどろんとした感じになりがちである。それにさまざまな音の音像が大きめなのも災しているようである。❷でのティンパ二の音などにしてもひびきとしての力強さは感じられるが、鋭さということではいま一歩という印象である。ひびきが総じて重くなっている。
第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音とベースの音のきこえ方のバランスは大変にこのましい。しかも音に暖かさのあるのがいい。❷での右と左の区分はかならずしも鮮明とはいえない。❸、❹でのシンバル等の打楽器のひびきの輝きが多少不足ぎみに感じられる。その辺のことが改善されると、このスピーカーの音はさらに鮮度をまし、いきいきとしたものになるであろう。❺の木管のひびきは特徴をほどほどに示すにとどまる。
黒田恭一
ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
きわめてオーソドックスな性格をそなえたスピーカーとみるべきであろう。今回は意識的に新しい傾向の音をおさめたレコードを中心に試聴したので、このスピーカーにとってはつらいところがあったかもしれない。いわゆる「クラシック」のオーケストラによる演奏などをおさめたレコードをきけば、このスピーカーに対する印象はさらによくなるのであろう。
このスピーカーのきかせるしなやかな中音域にはとびきりの魅力がある。ただ、これで音像がもう少し小さくなれば、その魅力はさらに一層ひきたつのかもしれない。②のレコードの❷での声のなまなましさなどに、そういうことがいえる。
③のようなレコードはこのスピーカーにとって最悪である。すべての音がどたっと重くなってしまっている。暖かい音色をいかしながら、もう少しすっきりした感じがあればと思わなくもない。
菅野沖彦
ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より
タンノイが’81年暮に発表した新製品は、トッモデルのG・R・ファウンテン・メモリーと、このアランデル、バルモラルの合計3機種である。そして、このアランデル、バルモラルは、そのイニシャルがAとBであるように、かつてのアーデン、バークレイにとって代るモデルとして開発されたものなのだ。アーデン、バークレイは、オリジナルからMKIIとなって長い間ファンに親しまれてきたシステムであったが、それに代って登場した2機種も、当然のことながらデュアルコンセントリックユニットを使うことに変りはない。アランデルが38cm口径の3839ユニット、バルモラルは30cm口径の3128ユニットを内蔵する。3839は連続入力120W、ピークで500W、3128はそれぞれ100W、350Wというヘビーデューティ、そしてクロスオーバー周波数は1kHz、1・2kHzの同軸型2ウェイ、つまり、コアキシャルユニットである。エンクロージュアは、アーデン、バークレイからはプロポーションに大きな変革がある。従来よりも高さと奥行きが増し、幅が狭められた。タンノイによれば、これはエンクロージュア内部の反射音による干渉を弱め、音の濁りをなくすのに有効であるとされている。エンクロージュア自体の剛性や作りは、G・R・F・メモリーを見た眼にはそれほど印象は強くないが、ビチューメンパネルと呼ばれるタンノイ独自の共振防止材をエンクロージュア内部5面に多数取り付けることによってアコースティックコントロールが行なわれ、中域の明瞭度や、全帯域での音の鮮明さを得ているという。タンノイ独特のロールオフとエナジーの2種類の調整ができるネットワークもそのままである。このネットワークコントロールは大変有効なものだ。つまり、ロールオフによって5kHz以上を4段階に増減、エナジーによって1kHz〜20kHzにわたってトゥイーターレベル全体を±6dBに増減が可能である。多少異なる点もあるが、JBLの最新2ウェイシステムに採用されていを方法と似ている。2ウェイユニット・3ウェイコントロールとでもいえるものである。これは、音楽を鑑賞する現実の条件に対応したタンノイらしいコントロール機能であり、このあたりに、真の音楽ファンのためのタンノイの、タンノイらしさが感じられるのである。
菅野沖彦
ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「現代に甦るタンノイ・スピリット〝GRF MEMORY〟登場」より
現代に甦るタンノイ・スピリット〝GRF MEMORY〟登場
イギリスのタンノイ社から新製品が届いた。新しいモデルの名は、〝ガイ・R・ファウンテン・メモリー〟と呼ばれ、いかにも伝統に輝くタンノイ社の製品にふさわしい風格と緻密なつくりを見せている。ガイ・R・ファウンテンとは、いうまでもなく、タンノイ社の創設者の名前で、オートグラフという同社のトップモデルやGRFシリーズを通して、タンノイファンには親しみ深い人である。そして、今は亡きこのファウンテン氏を偲ぶモデル名がこの製品につけられているわけだが、これが単にネイミングに止まらず、製品の総合的なつくりに、その雰囲気が溢れていることは誰の眼にも明らかであろう。
クラシックなたたずまいを見せる〝ガイ・R・ファウンテン・メモリー〟とはどんなスピーカーシステムか? 三つ折り頁の「ビッグサウンド」のグラフィックと共に、立体的に、その全貌をお伝えしようというのが、今号の〝タンノイ研究〟のテーマである。
内容積220ℓのエンクロージュアは、高さが1メートル10センチ、幅が80センチ、奥行きは48センチという大型フロアーシステムで、バスレフレックス方式を採用している。このサイズは、受注生産のオートグラフ・レプリカを除けば、現在のタンノイのシステムの中で最も大きく、GRFモデルを一廻り小さくしたディメンションである。ただし内容積だけに限れば、スーパーレッドモニターやクラシックモニターの230ℓより10ℓ小さくなっている。
内蔵ユニットは、クラシックモニターに使われているK3838のスペシャル・ヴァージョンで、38センチ口径のデュアル・コンセントリック(同軸型2ウェイ)であるが、ネットワークは新設計のものだという。いうならば、最新のタンノイのテクノロジーを、伝統的な雰囲気とつくりをもった意匠で包んだもので、タンノイ社の力を十二分に発揮した入念の作品といえそうだし、その重厚な姿態と緻密で周到な細部のつくりには、今時のスピーカーらしからぬ風格を感じさせるものがある。あえて、今時のスピーカーらしからぬと書いたけれど、これは重要な問題であり、このシステムの価値の重さを語るのに触れぬわけにはいかない要素だと考える。
大型フロアーシステムの数は決して少なくないけれど、新しい製品に一様に感じられる淋しさは、そのデザインとつくりに、往年のそれらの製品に見られたような家具としての美しさや風格が感じられなくがなったことである。高級機である以上、音に、非常に大きな影響力をもつエンクロージュアに、音響的、あるいは剛性などの点では充分な考慮がなされているとはいえ、それを超える工芸的な美を感じさせてくれる新しい製品が少ないことは万人の認めるところではないだろうか。高度な音楽芸術鑑賞のための道具である高級スピーカーシステムに、家具調度としての高い仕上げと風格を要求することは決して本質からはずれたことではなく、むしろ当然な要求だと私は思っている。それにもかかわらず、現代の合理的な産業システムは、これらの要求を満たす能力を失いつつあり、できたとしても、いたずらにコストアップを理由に、本気になって工芸的仕事に取組もうとはしなくなってしまった。もちろん、これは、オーディオ機器に関してだけの話ではなく、私たちの身の廻りのすべてにいえることだろう。現代人の美意識は一体どうなってしまったのだろうとうたがわざるを得ないのである。新しいものは味気がないなどの一言で、あきらめてよいはずはない。
余談だが、私は、日本が世界に誇る、あの新幹線の駅を見るたびに、なんともやりきれない気特にさせられる。あのペラペラの倉庫のような建造物には美も文化も全く感じられない。コストを抑えて、必要な機能と安全性を考慮すれば、ああならざるを得ないというようなことは承知であるが、あれほど大きな建造物は、周囲の景色を大きく色付けるに充分な存在で、大げさにいえば、その国の文化を象徴せざるを得ない重要な建造物であるはずだ。もし、あれをニューデザインだというのなら、なにをかいわんやである。金属とガラスでできた現代のバラックではないか。どう見ても仮設駅含程度にしか私の眼には映らない。
古い建物が機能的に不備で、安全性にも欠けていることはよくわかる。しかし、少なくとも、美と風格の点では比較にならないほど立派なものが沢山あった。東京駅の丸の内側の駅舎と、八重洲口側駅舎を比べても、それは歴然としている。オランダのアムステルダム駅をモデルとしたといわれる、あの古い駅舎も、国鉄が大赤字をかかえていなければ、とっくに建て直されていたことだろう……。ヨーロッパの古い教会や駅も同じ運命にあるけれど、100年後、200年後の人々への遺産として、今のような建造物を残して平然としていられるのだろうか。20世紀後半に、当時の人間達は、それまでの文化を受け継がず、全て破壊し堕落させたと後世の歴史に書かれることだろう。そして、それと引き換えに、人類を危機に陥れる機械文明を手に入れたことが、果して、どれほど評価してもらえるだろうか? 〝古きを尋ねて、新しきを識る〟などという格言は、今の世の中には通用しないのであろうか。
古いものがよいといっているのではない。新しいものの全てが悪いというつもりもない。歴史は連綿と繋げなければいけないといいたいのである。知的な革命は決して破壊であってはいけないのである。それが誤ちであることは、中国の文化大革命が証明している。国家社会の下部構造としての政治経済が、上部構造の文化文明を脅かしては、本末転倒である。
少々、話しが横道にそれでしまったが、現代社会への不安は、オーディオ機器のあり方にも読みとれるものだということをいいたかったのである。高級スピーカーシステムに話しを戻そう。
現在、手に入れることのできる(お金があればの話しだが)大型高級システムの中で、こうした不満を感じないですむものがどれほどあるだろうか? 好き嫌いは別としても、その数はしれたものだ。そして、それらのほとんどは旧製品のロングランとして作り続けられているもので、中には、要望によって限定再生産(たいていの場合、質は大きく低下している)されたものである。これらの中でのベスト・ワンを挙げろといわれれば、私は躊躇なく、JBLのパラゴンをとる。あのパラゴンの独創性、美しい姿、立派な風格は、多くのスピーカーシステムの傑作の中でも水際立っている。あれは、新しさも古さも超越したデザインと見事な作りであり、驚くべきことに、どんな環現においても、環境負けすることがない。クラシックなインテリアの中でも、モダーンな部屋にあってもだ。大抵の場合、我々の部屋の方が負けてしまう。負けるどころか、置くスペースが確保できない場合が多い。スペースがあれば、これを置くだけで、部屋の中は立派に見える。部屋がかえってみすぼらしく見える場合もないではないが、オーディオが好きならば、そうはならない。逆に、金がかかっていても、趣味の悪い装飾調度品が多い場合に、とんちんかんになる場合が多いだろう。むしろ、他に何にもないほうがよいくらいだ。
他に、これに匹敵するものといえば、かつての見事な蓄音器たちを除けば、同じJBLのハーツフィールド、昔のエレクトロボイスのパトリシアン・オリジナル、パトリシアン600、タンノイのオートグラフ、GRF、現在買えるものなら、パトリシアン800の再生産モデル、ヴァイタヴォックスCN191コーナーホーン、クリプシュホーンK-B-WOぐらいまでが、どうやら許容できるものといったところだろう。
モダーンデザインなら、JBLの各システムをはじめ、むしろ国産につくりのよいものがあるが、この辺になると風格といった領域にはほど遠い。私が現在夢中になっているマッキントッシュのXRT20などは、大変よくできたエンクロージュアだが、なんとも夢のない雰囲気で、家具としての美しさは薬にしたくともないといえる。機能本位のさっばりしたところが、うまく部屋に合えば消極的で厭味がないといった程度である。
こんなわけで、大金を投じて買った高級スピーカーシステムにふさわしい、所有の充足感とでもいった気分を満してくれるものは今後、ますます少なくなりそうな気配である。こうした背景の中で登場した今回の〝ガイ・R・ファウンテン・メモリー〟は、たしかに目を引く存在感のあるシステムだと思う。かといって、芸術的な工芸品と呼ぶには、いささか、プロポーション、仕上げ感覚に注文をつけたい点もあるし、やや不自然ともいえる意識の出過ぎに、わざとらしさも感じられる。本物はもっと、巧まざる自然の姿勢から生まれなければいけないとは思うのだが、それにしても、現時点でこれだけのものを作り上げたタンイの情熱と力には敬意を表したい。
SRMシリーズやバッキンガムがスタジオモニターとして作られたのに対し、このGRFメモリーは純粋にホームユースの高級システムとして作られたものであることは明白である。しかし、モニターとはいいながら、SRMやバッキンガムのエンクロージュアのつくりも、間違いなく現代第一級のレベルにあることを認めるし、このGRFメモリーには現代版としては、特級の折紙をつけざるを得ない。これだけ手のこんだエンクロージュアは、条件つきとはいえ、その美しさと風格を含めれば、少なくとも80年代の新製品では他にはないものだから。
では、このGRFメモリーについて、少し詳しく述べることにしよう。横幅も充分にある縦型プロポーションのシステムの仕上げはオイルフィニッシュのウォルナットであり、背面などの構造材には25ミリ厚の硬質パーティクルボードが使われている。トップボードがひさしのように張り出しているのが大きな特長といえるが、私の個人的なバランス感覚では、やや出っ張り過ぎのように感じてならない。機械加工かもしれないが、エッジの随所はテーパー状に仕上げられた手のこみようで、細部の接合は留めに決めているところなどは、感心させられる。
後面からバッフル前面にかけて、左右対称にしぼりこまれた梯形は、オートグラフ、GRFシステムのフロント・イメージと共通のものだ。したがって、バッフル面は、全横幅よりかなり狭くなっていて、このシステムの形状に立体感をもたせている。ディフラクションを避けるために左右を後方斜めに切り落とした恰好だ。この斜めにそがれた部分にバスレフのポートが設けられているが、表面はバッフル面と同一のサラングリルで被われている。
フロントグリルは鍵つきのロックで固定されている。オーナーには、ゴールドに輝く鍵が渡されるわけだが、これをリリースして、サランのグリルをはずすと、そこにはまた美しい光景が展開する。38センチ口径の堂々たるユニットのコーン紙にはガイ・R・ファウンテンのオートグラフ(自署)が金色にプリントされ、ユニットの取付けられたバッフル面はコルクで貼りつめられているのである。見た目にも大変美しいしユニークであるが、コルクの音響材としての効果も無視できないのではなかろうか。このバッフル前面、左右の斜面は共に美しくフレーミングされていて高い精度の木工技術がうかがわれる。また、フロントグリルには、あのガイ・R・ファウンテンのオートグラフがエングレイヴされたバッジが、それも木製の台座を介して取付けられているという手のかかり具合である。内部は、バッフルボードと背板が井桁状の角材で補強され、高い剛性を誇っている。
隅々まで周到に仕上げられたこのシステムには、タンノイ社の情熱と執念のようなものさえ感じさせられるし、あの経済的に決して好況とはいえない英国で、よく、これだけのものを作ったものだと感心させられるのである。確定的な価格は、本稿執筆の時点では発表されてはいないが、60方円前後だということだ。もしそうならば、これは決して高い買物ではないだろう。仮に、この大きさと、この手の込んだ細工のサイドボードを買えば、そのぐらいの値段はする。否、輸入品となれば、この値段では買えまい。そう、そう、忘れていたが、ネットワークによるロールオフとエナジーのコントロールのツマミまでが、ムクの木の削り出しだった。とにかく徹底的なのである。関係者の熱意には脱帽である。
ところで、そろそろ、肝心の音ついて記さねばならないが、今回も従来のこのタンノイ研究シリーズと同じように、具体的に数種のアンプを使っての試聴を行った。以下、ドキュメントという形でリポートさせていただくことにしよう。
8月中旬、一組のサンプルが本誌の試聴室にセットされたということで試聴に出かけた。写真を見せられただけのGRFメモリーである。どんな音が、あの優雅な姿態から流れ出ることかと、いささか興奮気味であった。
タンノイのほとんどのシステムを聴いている私にとって、この新製品に寄せる期待は大きいものがあった。すべて、デュアル・コンセントリックのユニットを使いながら、システム毎に微妙にちがう表情の豊かなタンノイの鳴り方は、全製品に一貫して聴かれる、あの充実のサウンド故に、まことに興味深いものがある。オートグラフ、GRF、 コーナーヨーク、 レクタンギュラーヨーク、IIILZ、アーデン、バークレイ……、そして、バッキンガムモニター、スーパーレッドモニター、クラシックモニター、SRM15X、12X、12B、10Bと、ずい分沢山のタンノイたちを聴いた。そのいずれもが紛れもないタンノイでありながら、それぞれの響きをもって鳴った。鳴っている場所でも、がらがら鳴り方が変った。アンプやカートリッジによっても豹変した。それだけではない。私はもっと不思議な体験もしている。話しが艮くなって申し訳ないが、これは是非、お話ししておきたいことだから、この機会に書くことにする。
あれは、今年の5月14日のことであった。束京のオーディオ販売店Dの主催するタンノイ・オートグラフの試聴と講演での出来事である。話しを正確にするため、ダイナミックオーディオの主催する第4回マラソン試聴会でのことだといい変えよう。会場は、赤坂のホテル・ニュー・ジャパンであった。私の受け持ったオートグラフの講演と試聴会は、夕方5時からだったが、その直別まで他の催しがあって、セッティングには全く立会えなかった。
開演5分所に会場の席についたときには、大きな宴会場の正面にオートグラフが据えられ、プレーヤー、アンプ類(私の指定のもの)も既に結線されていた。熱心なファンも50名ぐらい、もう備についていた。スタート直前、係の一人が、「こんな会場なもので、どうも、いい音は出ませんが……、ええ、かなり厳しいようで……」と、口ごもりながら私に耳打ちしてくれた。どう厳しいのか判然としなかったけれど、決して良い意味にとれなかった。こういう催しの常である。そのスピーカーの能力の60%から70%発揮されれば最高といってよいだろう。しかし、この感じだと50%にもいかないなと私は直感した。そりゃ、当り前だ。コーナータイプのオートグラフは、部屋の壁面をホーンの延長として使うように設計されている。ところが、その場のオートグラフときたら、コーナーはおろか、左右、後方に数メートルの距離のある状態。しかも宴会場は薄手のペニアの間じきりで、どこを見ても、いかにもボコン、ポコンといった感じであるから、とてもとても、まともな音など期待するほうが無理というものだろう。実は、この会場で、前年にもタンノイの講演をしたのだが、その時鳴らしたのは、スーパーレッドモニターだった。これはオートグラフとちがって、よりコンベンショナルなバスレフ・エンクロージュアだから、まだなんとかなったものだったが、今度は最悪だ。
こういう催しで、精一杯話した後で出した音が、話しとは似ても似つかぬ音だった時には、穴があったら入りたくなるほどつらいものなのである。何をいっても言い訳にしかならないだろうから、じっとこらえて、苦々しく音を聴いている他はない。寿命が縮む思いである。レコードは余裕をもって選んではあるが大幅にカバーするわけにはいかない。私は覚悟を決めてし講演を始めた。いっそのこと2時間しゃべり続けてしまおうかとさえ思ったほどだ。さあ、もうこうなったら念じるより他はない。あのカートリッジで、あのアンプで、本当ならあの音がするはずなのに……と、もう、半ベソの有様。心で泣いても顔では何とやら、つとめて冷静に、快活に、ずるずると40分ほど話し続けた。もう駄目だ。そろそろ鳴らさなければ……。前列の熱心なファンの表情も、そろそろ音に飢えてきた様子。「伝統に輝くオートグラフの音は……」という私の言葉に、生ツバをゴクンとのんでいるではないか。隣りの青年は、早く鳴らせといわんばかりにノビをして、眼鏡越しに私の顔をチラリ! 絶体絶命である。オートグラフよ頼む! 鳴ってくれ! お前のあの音を出してくれ! カートリッジにも、アンプにも、私は同じ願いをこめてレコードをターンテーブルに載せたのであった。リハーサルがないから、音量からしてボリュウムの位置では見当がつかない。日頃のカンを働かせ決めた。古い録音からスタート。ピエール・モントゥ一指拝ウィーン・フィルのハイドンの交響曲「時計」である。
おおっー、いい。いいではないか。しなやかな弦。ウィーン・フィルらしい艶。豊かな中~低音の響き。これなら、ひかえ目にいっても70点。次に小編成で、ヤニグロとソリスティ・ディ・ザグレブの演奏。これもなかなかの鳴りっぶり。気をよくした私の話しも、一段と熟っぼく滑らかに進みだす。お客の眼も輝きだした。盛んにうなづいてくれる人もいる。時たま首をかしげる奴もいたけれど(気になるもんですよ、そういう人)……、そして遂にラストナンバー。比較的新しい録音の一枚として、ミケランジェリのピアノ、ジュリーニの指揮するウィーン・シンフォニーの演奏でベートーヴェンのピアノ協奉曲第1番をかけた。堂々たるオーケストラのソノリティ、輝かしいピアノが圧倒的な盛り上りを演じたのだった。
私も、ファンの人達も、スピーカーと一体となって熟っぽく燃えているのがよくわかった。終るやいなや、数人のファンから歓声が上った。「よかった!」と大声で叫んだ人もいた。その場の人々が全員、満足し、感動したことは、確かな実感として私に伝わった。口々に礼をいって去っていくファンの人たちの表情にもそれがあった。そして、係のスタッフたちが、まるで孤につままれたような表情で「先生、何をしたのですか?」と私に聞くのだった。「信じられないなあ……。直前まで様にならないひどい音だったのに……」。そして、ファンからも同じ言葉が述べられた。また、この催しの前の催しを担当していた他メーカーの人の驚きようはもっと凄かった。「アンプが暖まったなんていうもんじゃないですよ、あの変りようは! 装置をそっくり入れ替えたようだった」というのである。
理由は、私にも判らない。しかし、このような劇的なハプニングとまでいかなくても、これに類した体験はいくらでもある。
実をいうと、ガイ・R・ファウンテン・メモリーに関しても、これに近い体験をさせられたのであった。
本誌の試聴室でのガイ・R・ファウンテン・メモリーとの初対面は、不幸にして、決して素晴らしいものではなかった。
試聴には、エクスクルーシヴのP3プレーヤーシステム、カートリッジはオルトフォンのMC20/II、コントロールアンプはマッキントッシュのC29、パワーアンプは同MC2500という組合せで、まず音を出した。聴き馴染んだハイドンのシンフォニー「軍隊」(ネヴィル・マリナ一指揮)の第1楽章の序奏を聴いただけで「驚愕」とまでいかずとも、愕然とした。鋭く硬く、とげとげしい弦の音。ステレオフォニックに、ふくよかに拡がるはずの空間のプレゼンスは、2チャンネルに二分され、音が左右のスピーカーの位置にへばりついたままではないか? こんなはずはない。だいたい本誌の試聴室は、きかに製品テスト用の試聴にふさわしく、すべてのスピーカーが楽しく聴けるというよりは、アバタもエクボもさらけ出す傾向にあるのだが、それにしてもひどい。タンノイ研究のシリーズだって、第1回は別として(ティアックの試聴室)、その後はずっと、ここで聴いてきたのである。SRMもクラシックモニターも、アーデンも、かなり楽しく聴けたのである。
なんとかならないものかと、まずカートリッジを交換してみた。ゴールドバグのブライヤーをつけた。このカートリッジのしなやかな高域と豊かな中低域によって、かなり聴きよい音にはなったものの、とても、期待にそうものではない。アンプを変えた。前回までのこのシリーズの実験の結果、タンノイのスピーカーとのベスト・マッチングとして私が推薦したコントロールアンプのウエスギU・BROS1とパワーアンプのオースチンTVA1を試みた。さらに一段と向上はしたが、まだ、私のタンノイのイメージからは、ほど遠い。そこでパワーアンプもコントロールアンプと同じく上杉研究所のU・BROS3を2台、パラレル接統にして使ってみた。この方が、また一段と音がまとまってきたが、それでも決してかつてSRMやクラシックモニターから得られた音の水準には至らなかった。
私のコンディションのせいかと、自らを疑ってもみたが、立会いの編集部のM君もS君も同じょうに浮かぬ顔つきである。これは困ったことになったと一同呆然。置き方やレベルコントロールもさわってみたが効果なし。バランスだけではなく、音の質感が悪いのである。歪みっぽくさえあるのだ。なんだかんだと数時間を費したけれど、うまくいかないので、日を変えようということになったのである。そこで翌週、再度挑戦ということで当日は終了ということにした。
さて、週は変り、再度挑戦である。今度は場所をティアックの試聴室に移した。用意した機材は、プレーヤーはローディのTTU1000にフィデリティリサーチFR64fxトーンアーム。カートリッジはゴールドバグ・ブライヤー、トランスはアントレーET100、コントロールアンプはマッキントッシュのC29とウエスギU・BROS1、パワーアンプはマッキントッシュのMC2255、ウエスギU・BROS3、マイケルリン&オースチンのTVA1というラインナップである。
結果は、まさに、ドラマティックな変貌であった。到底、部屋と多少の機材の変更からは想像のつかない変りようだったのりだ。
前回の条件に近づけるため、まず、トランジスターアンプで試聴した。マッキントッシュC29とMC2255である。ハイドンの「軍隊」交響曲のイントロダクションが流れた途端、それは先週聴いた同じスピーカーとは全く違った響きであった。弦のしなやかさ、空間のプレゼンスが、このレコードの鳴るべき音で鳴ったのである。アレグロの第1主題におけるヴァイオリンが、かつての粗さが出ず、すっきりとした響きの中に芯の通ったリアルなものであった。木管の輝きと柔軟さも、適度な距離感をもって聴こえるのだった。
これは確かにタンノイの音だ。それも、かなり上質の豊かな響きである。フィッシャー=ディスカウがバレンポイムの伴奏で新録音したシューベルトの〝冬の旅〟も、ピアノのきりっと締った響きといい、バリトンのまろやかな声といい、まず申し分のないものと感じた。続いて、ジャズをかけてみたが、これがまた大変よく弾む。タンノイの旧製品のように低音が重くないし、SRMシリーズに共通の張りのある明快さと力強さを兼ね備えている。初めの試聴時にはパワーアンプがMC2500であったが、この違いは、そんなものではない。第一、MC2500とMC2255は、パワーこそ500Wと250Wの差があるが、音質的にはきわめて近いものであることは確認ずみなのだ。プレーヤーはエクスクルーシヴのP3から、ローディのTU1000+FR64fxの組合せに変っているが、たしかにこの組合せは、たいへん滑らかで透明な音であることは、私の自宅で使って強く印象づけられている。しかし、それにしても、この音の変化の大きさには驚かされる。ゴールドバグのブライヤーは初試聴の時にも使ったことは既に述べたとおり。このガイ・R・ファウンテン・メモリーにはたいへんよくマッチするカートリッジで、その柔軟で豊潤な音が生きてくるようだ。パイプの材料として有名なブライヤーの根を削り出してボディを作ったこのカートリッジのもつ手工芸の味わいは、GRFメモリー・システムの持味ともぴったりで、趣味性豊かなオーディオ・ライフを感じさせてくれる。
これで、GRFメモリーの真価は充分発揮されたように感じたが、さらに次の5種類の組合せで試聴してみた。
①U・BROS1+TVA1
②U・BROS1+U・BROS3×2
③C29+U・BROS3×2
④C29+TVA1
⑤U・BROS1+MC2255
用意したアンプの相互組合せをやってみたわけで、これらのアンプは、タンノイにベスト・マッチと思われるものばかりである。プレーヤーはTU1000+FR64fx+ゴールドバグ・ブライヤーが成功したので、これを今回のリファレンスとした。結果として整理すると、次の3種の組合せにしぼってよいだろう。
①マッキントッシュC29+MC2255
②ウエスギU・BROS1+オースチンTVA1
③ウエスギU・BROS1+U・BROS3×2
つまり、試聴した計6種の組合せで、この3種以外は、参考までに試聴したわけで、もし、飛び抜けた組合せが発見されればと思ったわけだが、そうはいかなかった。というより、あえて、トランジスターと管球式のハイブリッドを試みる必然性はなく、バランス上、同種の組合せのほうが完成度が高かったというべきだと思う。
既に、この研究シリーズで、タンノイを鳴らすゴールデン・カップリングとして、②のU・BROS1+TVA1を推薦してきたが、今回はこれに、パワーアンプも上杉研究所のU・BROS3を、それも2台用意し、各々をパラレル接続にしてモノで使う組合せを加えた。こうすることにより、U・BROS3の控え目なパワー50Wを90Wに上げられるし、音質的にも、やや淡白であったものが、ぐんと力と艶がのってくるように感じられたのである。オースチンのTVA1の熱っぽい音とはちがうが、品のよさ、滑らかさ、透明感といったこのアンプの特質は格別の魅力のあるものだ。ぜいたくな使い方だが、2台をパラレル接続で使うと力の点での弱点をカバーできて、ある意味では従来のゴールデン・カップリングを凌ぐといってよい。エモーショナルにはオースチンのTVA1がもつ充実のサウンドに軍配が上るが、メンタルには、U・BROS3のほうが端正で透明なのだ。この二種の組合せには甲乙つけ難いのが正直なところである。情熱的な音を嗜好されるならTVA1を、洗練度の高さを求められるならU・BROS3になるだろう。
これら二種の管球アンプの組合せは、たしかに、トランジスターアンプのマッキントッシュの組合せとは音の質感や発音性に違いがある。しかし、これも、どちらが勝っているとはいい難いのである。緻密な情報量ではマッキントッシュのほうが優れているように感じられるが、音の流動感と立体感では一味、管球アンプの組合せに魅力がある。ハードなジャズやロック、フュージョンまで鳴らすことを考えると、マッキントッシュの組合せのほうが力を発揮すると思うが、ポピュラー・ヴォーカル、あるいは、スイング・ジャズぐらいまでなら、そして、クラシックからセンスのよいソフトなポピュラーという範囲でなら、U・BROS1+U・BROS3×2の品位の高い音の魅力が生きるはずである。いずれにしても、この3種の組合せは、タンノイの新しい魅力的なシステム、ガイ・R・ファウンテン・メモリーの可能性を100パーセント発揮させてくれることだろう。
故ガイ・R・ファウンテン氏と創立時代より共に仕事をしてきたロナルド・H・ラッカム氏が、ファウンテン氏のメモリー(追憶)というモデル名のこの製品に情熱を燃やしたことが今回の試聴でよく判った。紛れもないタンノイ・サウンドが保持されながら、新しい録音に対応できる、よりヴァーサタイルな性格をもつことは、同時に参考試聴したオートグラフとの比較で明らかであった。クラシックモニターとの差も勿論あったが、概して共通のキャラクターといってよさそうだ。それよりも、部屋や、そこへのセッティング、使い手との関係による音の変化のほうがよほど大きいので、あまり機械自体の特質を重箱の隅をつつくような見方は控えたい。しかし、この新しく古い丹精なエンクロージュアと対面して音楽を聴けば、モダンなデザインのSRMシリーズ(クラシックモニターも共通のデザインだ)とは趣きも雰囲気も違った音が聴こえて当然だろう。視覚によって、音の印象が変化しないような鈍感な人間は、もともとオーディオの世界とは縁なき衆生ではなかろうか。
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