瀬川冬樹
続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「25項・形状と使いこなしの面でこれまでのどれにも属さないイギリスQUADのESL(エレクトロスタティック・ラウドスピーカー)」より
イギリスという国は、22項のヴァイタボックスもそうだがたとえば二十年以上、といった永い年月、モデルチェンジせずにものを作り続けるという面を持っているが、QUAD・ESLもまた、1955年以来作り続けられている。おそろしく寿命の長いスピーカーだ。
だが、CN191の音がこんにちの時点ではすでに古くなっていることを、愛好家の側では十分に承知していて、しかしその音の魅力ゆえに愛用されているのに対して、QUAD・ESLは、およそ四半世紀を経たこんにちなお、古くなるどころか、逆に、その音のいかに新しいか、というよりもいかに時代を先取りしていたかが、次第に多くの人々に理解されはじめ、むしろ支持者の増える傾向さえあるという点で、オーディオ製品の史上でも稀な存在といえる。それはESL(エレクトロスタティック=静電型、またはコンデンサー型ともいう)、独特の方式のためだった。
向い合った二枚の電極の、一方を固定し他方を可動極(振動板)とし、直流の高い電圧(成極電圧という)を加えると、電極は静電気を蓄えて互いに吸引しあう。そこにアンプから音声電流が加えられると、電極には互いに吸引・反撥の力が生じて、可動極側が振動する形になり、音波を作り出す。これがエレクトロスタティック型の基本原理で(この方式をシングル型といい、QUADの場合はプッシュプル型を採用している)、その独特の方式は、ここ数年来、アンプをはじめとして周辺機器やプログラムソースの音質の向上するにつれて、その真価を広く知らせはじめた。ただ、パネルヒーターのような厚みのない薄型であることにもかかわらず、前後両面に音波を生じるために、背面を壁に近づけることは原則として避けなくてはならない。できることなら、上図のように部屋を二分して前後の空間を等分するか、せめて三等分として前方に2、後方に1といった割合に設置することが要求される。部屋の最適の広さは約50㎥以上が望ましい……というように、大きさの割に設置の条件がやかましく、意外にスペースを占有してしまう。二枚のスピーカーを、真正面一列に向けるのでなく、八の字状に聴き手の耳に正面を向け、その焦点のところで聴取すると、透明で繊細な感じの、汚れのないクリアーな音質と、ステレオの音像のピシリと定位して、たとえば歌い手がスピーカーの中央に立っているかのようなリアリティを聴きとることができる。
音量があまり望めないといわれているが、スピーカーの正面2メートル程度の距離で鑑賞するかぎり、たとえばピアノのナマの音量、のような大きな音量を要求するのは無理にしても、けっこう十分のボリュウム感を味わうことができる。
なお、構造上(成極電圧形成のため)、ACの電源が必要だが、消費電力は僅少なので、一旦入れたら(音を聴かないときでも)AC電源を入れっぱなしで切らないほうがよい。
このESL一組では、打楽器やピアノの打鍵の叩きつけるような迫力は望めないが、二本をスタックにして使えば、意外にパワフルな音も得られる。マークレビンソンの〝HQD〟システムに採用されているのがその例だ。
スピーカーシステム:QUAD ESL ¥195,000×2
コントロールアンプ:QUAD 33 ¥98,000
パワーアンプ:QUAD 405 ¥148,000
チューナー:QUAD FM3 ¥98.000
プレーヤーシステム:トーレンス TD126MKIIIC/MC ¥250,000
ヘッドアンプ:トーレンス PPA990 ¥100,000
スリーブ:QUAD ¥15,000
計¥1,099,000
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