Category Archives: プレーヤーシステム

ソニー PS-4300

岩崎千明

週刊FM No.10(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 かつてサーボモーターで圧倒的勝利を収めたソニーがクオーツロック以来、昔の実績をとり戻さんと強力なプレイヤーをデビューさせた。PS4300はDDモーターをベースにしたフルオートマチック・プレイヤーだ。現代的な高級プレイヤーの条件ともいえる軽針圧はもはや平均的な人間の指先の感覚では扱い切れずこの数年、各社からの新型の中心はフルオート全盛となった。ソニーお得意のエレクトロニクスによるサーボがゆきとどいていて、操作ボタンさえ触れるだけのワンタッチ・エレクトロ・スウィッチ。もっともこの羽根タッチそのものが必ずしも良いことばかりではなくて、かえって動作の不確実さを招きかねないのは皮肉。ボード上面でなくケースの前に位置させて誤タッチを避けているのだが、馴れないうちはそれでも操作させる意志がなくても触れてしまうのは赤い小さなランプがちらちらとつくせいかしら。この辺が狙ってるはずのイメージをぶちこわしてるのでは……。動作はまず満点に近い正確さ。ストップさせてから実際動作にちょっと間がありすぎる気がするが、手で直接アームを動かしてもメカとしては何ら差支えない点はいい。できれば5万台ともなったら、4万円と違い実用性能本位1点ばりでなく明らかな高級感が欲しいけど無理かな。アームはまあまあ、カートリッジは使いやすいがこれも価格帯相応の程度。

ノッティンガム・アナログ・スタジオ The Mentor

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

アナログディスク・ファンには垂涎のプレーヤーであろう。少々モデルが多すぎて混乱するが、一台一台が手作りであるから、いろいろ作ってみたくなるのもわかるような気がする。なかでは、これはスタンダード・カタログ・モデルといんよいもので、カーボン製のワンポイント支持のロングアーム付きだが音も充分よい。

テクニクス SL-1200MK3D Black

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

世界最大の製造台数を誇る超ベストセラー・アナログプレーヤー。小型軽量ながら要所を押えたメカニズムと、TV、パソコン等の外乱のイズに非常に強い設計により聴かれる、予想以上に優れたアナログディスクの音に驚かされる。高級機でもノイズ対策が不完全なら、本機の再生音を超える音はまず不可能であろう。信頼性、安定度は抜群。

トーレンス Reference

菅野沖彦

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 トーレンスの「リファレンス」を僕が買ったのは、1980年の暮れのことである。その半年ほど前に、マッキントッシュXRT20を入れて、これとの蜜月に夢中になっていたころのことだ。CDの登場間近で、LPが終焉を迎えるかもしれないなどと言われ始めたころでもある。連日、XRT20でLP鑑賞に耽っていたのだが、プレーヤーをもっとよくしたら、さらにいい音になるはずだ……と想うと、居ても立ってもいられない気持ちになったのであった。
 じつはその十数年来、アナログプレーヤーには悩んでおり、なかなか気に入ったものがなかったのである。EMTはアームとカートリッジの制約が気に入らなかったし、あのいかにもスタジオ機器然とした雰囲気も仕事の気分から解放されないようで嫌だった。DDはどうも音が悪いし、リムドライブももうひとつ……不満があった。糸ドライブでもやろうか? とも考えたが年中不安定で、いつもテンションに気を使わなければならないという煩わしさも音楽鑑賞上邪魔になりそうで嫌だった。結局、落ち着くところはベルトドライブで、慣性モーメントの大きいターンテーブルを小トルクの小型モーターで回すものがいいと考えていた。そしてまた、重量とソリッド剛性一点張りの偏った設計思想によるものは真っ平ごめんで、曖昧さを否定するという青臭い理屈を掲げて、あんなにロッキーなマニアックなサウンドに熱中する餓鬼には成り下がれなかった。かといってフラフラ軽量ターンテーブルもお呼びでない。つまり、当時僕が思い描いていたプレーヤーは、豊富な物量投入による重量級で、適度な剛性とダンピング、Qの分散をはかった、トータルバランスに優れたものだったのである。さらに、できれば、トーンアームは自由に交換できて、同時に数本取り付け可能なものが望ましい……などと欲張っていたから、そんなプレーヤーが簡単に見つかるわけはないだろう。しかし、CD時代も間近だし、そろそろアナログプレーヤーを決めなければ……とも考えていた矢先の、トーレンスの「リファレンス」の発売だったのである。縁というものはこういうものであろう。僕が頭に描いたものにもっとも近いプレーヤーシステムがついに現われたのだから……。当然これを見たときには「おお、これ! これこそ望みうる最高のプレーヤーだ!」と実感したのであった。
 こんなに、ぴったり自分の要望に叶う製品に出会うことは、滅多にあることではない。『ステレオサウンド』誌に書いた「リファレンス」の紹介記事(64号)はつねにも増して熱が入ったことは言うまでもない。そこでも書いたが、ターンテーブルに使う色として、ゴールドとモスグリーンを選んだことにも意表をつかれた思いで新鮮だった。当時、妙に強く印象に残っていた、真冬のアルスター湖畔で会った美女が着ていたモスグリーンのコートの色、そして彼女が肩からかけていた大きなゴールドの金具がついたタンのショルダーバッグと、このプレーヤーの色とのダブル・エクスポージュアが、鮮やかな記憶として残っている。
 わが愛機「リファレンス」は、いまもアナログディスクを聴くたびに満足感を与えてくれる。あの時期によくぞ出してくれた! とトーレンスに感謝しているのである。

デンオン DP-900M2

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

塗装仕上げが美しいランバーコア材のプレーヤーベース部と、ソリッドな感じのターンテーブルが醸し出す、アナログ時代の旧き良きプレーヤーらしい印象は、旧いファンにとっては、ノスタルジックな感銘さえ受ける雰囲気がある。トーンアームは少し華奢ではあるが、トレース能力は高く、ハウリングマージンも十分。内容の濃さが魅力。

テクニクス SL-1200MK4

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

実質的に世界最高の生産量を誇る超ロングセラーモデル。キャビネットとモーターを一体化したアナログプレーヤーとしては、華奢な印象を受けるが、適度な柔軟構造による制振効果もあるようで高周波妨害にも強く、かなり条件の悪い場所で予想以上のアナログディスクの音が楽しめるのは立派。

ノッティンガム・アナログ・スタジオ Anna Log

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
「注目の新着コンポーネントを徹底的に掘り下げる EXCITING COMPONENTS」より

 英国ノッティンガム・アナログ・スタジオの製品は、ヨーロッパでは、ハイエンドのADプレーヤー工房として定評があるようであるが、国内市場では『ザ・スペースデッキ』が最初に登場して一躍注目をあつめ、続く『ザ・メントール』でハイエンド・ADプレーヤーメーカーとしての実力が認められるようになった。今回新製品として開発された『アンナ・ログ』は、同社のモデル中の最高峰に位置づけられるADプレーヤーである。
 現在における理想のADプレーヤーを目指して作られた『アンナ・ログ』は、ノッティンガム・アナログ・スタジオ社が、5年間の歳月をかけて開発したモデルで、従来からの同社独自のユニークな技術にさらなる試みが加えられて完成されたという。
 同社の主宰者トム・フレッチャーが、英国の産業革命時代の、なんと1740年頃にカナダから輸入された樹齢200年を超える古い樺の巨木に出会ったことから、この『アンナ・ログ』の開発がはじまったという。樺は原木のまま保管されていたわけではなく、何らかの建築物や建造物に使用されていた木材だと推測されるが、とにかく古い巨木に出会ってインスピレーションがわいたことが『アンナ・ログ』開発の契機となったことは事実のようだ。
 外観からもわかるように、『アンナ・ログ』は、同社のADプレーヤーづくりの独特な考え方に基づいている。各種構成部品がネジ止めにより構造体が作られる一般的な方法ではなく、「ベース材料の上に各種構成部品を積み重ねて置く」という非常にシンプルで、わかりやすい方法を採用している。
 システムの基礎となる厚い平板上の部分は、MDFより一段と高密度なHDFと呼ばれるブナ集積材で作られている。
 重量級の超弩級ターンテーブルが取り付けてあるターンテーブルベースが、開発のポイントになった、カナダ産の古巨木の樺材を使ったブロックである。この樺材は、25mm厚の正方形にカットされ、19個をスパイラル(らせん状)に角度をずらして重ね合わせ、巨大な圧力をかけて特殊接着される。さらにブロックの中心を少しオフセットして、軸受けベアリングがマウントされる。トム・フレッチャーによれば、このブロックは、「貴方が指の爪で引っ掻いてみても、何ら固有音は聞えず、貴方の爪の音しか聞こえません」という。
 ターンテーブルベース両側は、長さが違うスタビライザーが置かれており、ターンテーブル中心からターンテーブル両端に向かって伝わる振動を抑制している。
 ターンテーブルは、二重構造で自社内の専用工場で作られ、材料は3年間エージングしたものを加工している。合金材料は公表されず、たんに重量25kgと発表されている。ターンテーブル上部には、カーボングラファイトの重量3kgのターンテーブルマットと呼ぶには抵抗を感じる円盤と組み合わせて、異種材料の構造体を形成している。軸受けは、さまざまな材料を組み合わせたスペシャルベアリングである。
 駆動は、円断面ゴムベルトを使うベルトドライブ方式で、駆動モーターは精密24極超低トルク・シンクロモーターが採用される。ターンテーブル起動時には、ターンテーブルを直接指で回すという、単純明解な方法が採用されている。駆動モーターは、HDFベース下に単純に置くだけの別置き型設計である。
 カートリッジの針先が、ディスクの音溝の振動をピックアップして電気信号に変換するアナログディスク再生においては、ターンテーブルおよびモーターの振動を無視できるような低レベルに抑えることが重要である。このため同社では、慣性モーメントの巨大なターンテーブルと、定速回転を保つだけの最小限の駆動力を与える超低トルクモーターを組み合わせる方法がベストと考えている。
 トーンアームは、単純に『アンナ・アーム』と名付けられたモデルだ。長さ30cmのこのトーンアームは、手加工で作られたアルミブロック削り出し一体型ヘッドシェルをもつ。アーム部分はカーボンファイバー製で、軸受け部は一点支持型かつ無制動としてユニークな設計で、無共振・無振動のパイプ中には7本の純銀単線が通っている。内容は不明だが、左右信号系4本と、他は独立したアース系のリードであろう。適応カートリッジの重量は、6〜20gと発表されている。
 このトーンアームで特徴的なことは、アームリフター優先設計でヘッドシェルには指かけがなく、現実的にはマニュアル操作は不可能に近い。したがってアームリフターの差同範囲は非常に広く、リフターが上がっているときには、まずディスク上に針先を落とすことが不可能な安全設計となっている。また、アーム操作はかなり慣れが必要なタイプで、特に針圧操作は、スケールをもたないスライド式の針圧調整ウェイトを指先で調整する方法のため、別に針圧計が必要となろう。
 試聴にはオルトフォンの最新型MCジュビリーを組み合わせて使った。自重10・5g、針圧2〜2・5gの規格で、好適なペアだ。
 カートリッジが現在の最先端技術を組み合わせたモデルであるだけに、スクラッチノイズの質はよく、量も低く抑えられ、伸びやかに広帯域型の音を聴かせる。しっとりした、ほどよくしなやかで潤いのある音は非常にナチュラルで、SN比の高さは格別の印象である。確実に音溝を拾いながらも、エッジの張った音とならず、情報量豊かに静かに内容の濃い音を聴かせるパフォーマンスは見事である。
 簡単に聴くと、穏やかな音と感じられるが、他の100万円旧のADプレーヤーと比較試聴すると、予想以上の格差があり、あらためて『アンナ・ログ』の実力の高さに感銘を受ける。従来の針先が音溝を拾う感じのあるリアリティの高さもアナログの楽しさだが、この静かなストレスフリーの音も新世代のアナログの音である。

トーレンス TD320MkIIIB

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

TP90スタティックバランス型トーンアームを付属するカートリッジレスのセミオート・プレーヤーシステムである。ほどほどの価格で、さりげなくアナログディスクを楽しみたい人達に広く薦められる製品である。トーレンスらしいバランス感覚が好ましいし、ブラックアッシュ仕上げも地味だがブラックディスクによく似合う。

ノッティンガム・アナログ・スタジオ The Mentor

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

イギリスで作られるユニークな手作りのアナログプレーヤーである。これはカーボンファイバー製のトーンアーム付システムである。スタート時はターンテーブルを手で回してやらなければならない。負荷がなくても自身では起動不可能な弱いトルクのモーターで、自重25キロのターンテーブルはベルト駆動される。実に静粛である。

トーレンス TD520RW + 3012R

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

SMEのトーンアーム3012Rを装備したセミオート・プレーヤーでカートリッジは付いていない。本格派のアナログプレーヤーの標準的な製品といったところである。音はトーレンスらしい適正なダンピングとQのコントロールにより、大人の雰囲気を持ち、柔軟性と高解像感のバランスは中庸を保っている。

テクニクス SL-1200MK3

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 1989年発売以来、世界的に超ベストセラーを続ける非常にトータルバランスの優れた製品。SL1200/1300系のモデルは、想像を超えた物凄い量を販売した実績があるだけに、世界各国の規格をクリアーしており、都市地域の強力なTV妨害や電源からの雑音排除能力が抜群に高く、安定した音は特筆に値する。

トーレンス TD320MKIIIB + 3009RS

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 古くはTD150以来の伝統をもつ2重構造ターンテーブル採用のサーボベルト駆動ターンテーブルは、サスペンション系が横揺れに強いリーフスプリング型となり、防振性能はさすがに抜群。組み合わせるアームは、現在、最も安定し各種カートリッジとの対応性が広いSME3009オートリフター付で総合性能は抜群。

ビクター QL-V1

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 歴史と伝統を誇るビクターの「HMV」を冠したHMVシリーズ用に、現在では異例の新開発で完成されたが、独自のコアレスDDモーターの採用でメインテナンスフリーとした構想は注目点だ。マホガニーのキャビネットにコンパクトにまとめられ、HMVシリーズ専用ラックに組み込んだときの大人の雰囲気をもつまとまりが絶妙。

トーレンス TD520RW/3012R, TD318MKIII

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ヘルマン・トーレンスがオルゴール製造のためにトーレンスSAを創立したのは1883年で、その後、蓄音器、ハーモニカ、電磁型ピックアップ、電気式レコードプレーヤー、トラッキングエラーレス・ピックアップ、ラジオから業務用円盤録音機、SP用オートチェンジャーなどを順次開発。60年代になるとEMTフランツ社と共同出資の形態をとるようになった。
 オーディオファンの間で一躍注目されるようになったのは、57年のTD124ベルト・アイドラー型フォノモーターの登場からだ。本機は、当時リファレンスとして評価の高かった英ガラード社の♯301アイドラードライブ型に比べ、圧倒的にワウ・フラッターが少なく、静かなターンテーブルとして究極のモデルといわれた。現在でも、現用モデルとして、愛用するファンは多いと思う。
 以後、TD124のオートチェンジャー版、ターンテーブルを非磁性体化したMK2と続くが、この当時が世界の王座に君臨していた栄光の時代であり、80年代のトーレンス・リファレンスが超弩級機としての頂点であろう。
 TD520RW/3012Rは、16極シンクロナスモーターを電子制御で使うダブルターンテーブル型ベルト駆動アームレスプレーヤーTD520RWに、ロングサイズのSMEの3012Rトーンアームを組み合わせたモデル。さすがにメカニズムの見事さは抜群で、要所を絶妙に押さえたトータルバランスの良さは感激ものだ。現代のリファレンス機として、アナログならではの音を楽しみたいときに、最も信頼性の高い素晴らしいシステムだ。セオリーどおりに微調整すれば、想像を超えた音が楽しめ、軽針圧型から重針圧型までのカートリッジとの対応性も穏やかである。
 TD318MKIIIは、同社の技術をベーシックモデルに結集した快心作。このところのアナログディスクの復活に的を絞った、素晴らしく良く出来た音の良い注目の新製品だ。

EMT 948

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 EMTの新世代プロ用機で、主に放送局用として開発された。フォノイコライザー内蔵で、トーンアームは有名なTSD15他同社のカートリッジ専用のダイナミックバランス型が付属。ユーザーの趣味で、あれこれモディファイする自由はない。
 その性格上、安定性、信頼性、耐久性重視で作られていて趣味性とは無縁のはずである。ところが、音を聴くと圧倒的な説得力を持ち、きわめて豊かな表現力を聴かせることに驚くばかりである。一体どこからこんな音の魅力が出てくるのであろうか? 作る側も音のことは意識がないはずである。しかも、技術的には古い既成の枠を一歩も出ていないものであり、特性も、素材や作りも、ひたすら前述した業務用の命題に基づいた設計製造にすぎない。トーンアームは同形のものを私も手元に持っているが、現在の水準からすれば、お粗末といっても過言ではない代物である。カートリッジもまた然りであり、一体、音の技術の進歩とは何か? を考えさせられる。
 血沸き肉踊るように生き生きと音楽を奏でる、その鳴りっぷりのよさは何なのか? シェリングのヴァイオリンなどは、たしかに繊細な味わいや集中性の高い毅然としたものではなく、むしろ豪放な演奏に聞えるし、「トスカ」はトゥッティでうるさく、肌理の細やかな音触の機微は聴けない。しかし、他のプレーヤーでは得られない生命感が充実しているのである。これからすると他の音は、細かい部分にこだわりすぎて肝心のエッセンスを取りこぼしているようにさえ感じられるのだ。
「ベラフォンテ」のライヴや古いモノーラルの「エラ&ルイ」、「ロリンズ」などは、デリカシーよりバイタリティとエモーションが重要な意味をもつ音楽だけに、また、録音時期も古いだけに圧倒的にこのプレーヤーがよかった。アナログレコードの、ベルエポックを感じさせてくれた音だ。機械としての魅力も備えている。

ウェルテンパード Reference

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 独特の回転支持機構をもつトーンアームが特徴のウェルテンパード・プレーヤーだ。シリコンバスの非機械式というこのサスペンションとダンパーは、たしかに音のよさに表れ安定度も高い。透明ですっきりした、立ち上がりのよい音でS/N感もいい。シェリングのヴァイオリンは冷静で、やや温度感が低いが繊細である。シェリングの印象と違和感はない音触だった。ヘブラーのピアノはエネルギーバランスのよさを感じさせるアコードが自然で、タッチ感もリアルである。スクラッチノイズの静かさから想像できる高音域のおとなしさだが、それでいて解像力に優れていて、精緻に音色の機微や微妙な変化を再現する。
「トスカ」でのソロ、コーラス、オーケストラの多彩さにも鋭敏な対応力をもっていると感じた。低音のコントロールもシステム全体のチューニングがよく働き、適切なエネルギーバランスである。このような特質が「ベラフォンテ」のライヴ盤にひときわ発揮され、シャープな高域が再生されながら、うるさくならないのが印象に残った。高域が冴えて聞こえる感じは、プレゼンスの豊かさによりライヴコンサートの雰囲気を盛り上げる。「クク・ル・クク・パロマ」の、レキントギターの擦過音が他のプレーヤーより浮き立ち印象に残る。同じ音でも無意識に聞き流す場合と意識に引っかかる場合の違いが、機器によってあることは読者も体験されていると思う。
「エラ&ルイ」も肉声感が自然で、二人の声の特質がストレート。声の基音と倍音のバランスのよさによるものであろう。「ロリンズ」ではブーミーな録音によるベースの出方を注意して聞くのだが、録音のアンバランスを強調することがなかった。執拗に繰り返される、サックスとギターのユニゾンの響きがバランスよく美しい。製品によっては、サックスをベースがマスキングするかのように鳴るものもあるが、これはロリンズがよく立つ。

トーレンス TD520RW + 3012R

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 トーレンスのプレーヤーのよさを一言でいうなら、バランスのよさ。アナログプレーヤーという機械には必要悪が山ほどある。そして、これらは互いに多くの矛盾を孕んでいて、総合的に一つの機能体としてまとめるには明確かつ一貫した思想を必要とするものである。
 どんなに微細な一部分でも変えれば音が変わるのも、機械振動のすべてが音として鳴るプレーヤーの宿命といえる。レコードに刻まれている波形のすべてを、過不足なく電気信号に変えるのが使命であることは、いうまでもない。これが仮に実現すれば、プレーヤーとして正しいわけだが、古今東西のプレーヤーでどれがもっとも正しい変換器であるかは誰にもわからないのが現実である。
 個々のアナログプレーヤーの設計者のなかには、自分のものだけが唯一無二の正しい変換装置だと主張する人が少なくないが、本当に音と音楽を知っていれば、そんな傲慢な姿勢をとれるはずがない。トーレンスのプレーヤーはこういうことをよく知っている。その結果必要悪は文字どおり、必要なことと肯定してバランス設計思想を尊重することになったのである。SMEのトーンアームも同様である。ストレートアームや超重量リジッドプレーヤーなどは、また違う思想であり、当然音も違う。大人の美しい妥協が生み出した不偏向な音のプレーヤーである。
 現在のトーレンスの上級機であるが、いかにも中庸の、しかも表現性の豊かな音が得られる。弦の艶と輝きのバランス、強靭な音の芯と漂うような響きのバランス、十分な細部の再現性ながら、けっして鋭利すぎない音を聴かせるボディや陰影のニュアンスがある。
「エラ&ルイ」のナローレンジをもっとも素直に聴かせトーキーサウンドを彷彿させたのも、このプレーヤーならではだ。部分的、分析的にはより優れた特質を聴かせるものは多くある。しかしバランスではこれを凌駕する製品は少ない。

ビクター QL-V1

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 ’95年秋に発売されたこの時機の新設計のプレーヤー。現時点でこの情熱は賛えてよいが、裏を返せばトーンアームもターンテーブルも、かつての製品はすべて捨てられていたということである。モーターだけが在庫していたという。長年の歴史と伝統の犬のマークが泣いていた……。目先のお荷物はすべて捨てるのが商売になるとなれば、すぐ拾う変わり身の早さが日本メーカーの美徳? なのだ。かつて、あれほど数多くのプレーヤーを作っていたというのに。モーターの在庫数だけで生産を終わるというから、欲しい人は早く買っておいた方がよいだろう。
 DDプレーヤー共通の、しっかりした造形感をもつ再生音が特徴で、ソリッドな質感が充実している。曖昧模糊とした暖色傾向の再生音を好む人には向かない。しかし、楽音は無機的にはならず、艶も色もある。有機的で温度感も高い。プレゼンスも豊かで過去のプレーヤー作りのキャリヤーは生きている。声の肉声感やオーケストラの多彩な音色もよく生きている。弦楽器群の音触がリアルで自然である。全帯域のエネルギーバランスはよく整い、カートリッジの高域を素直に聴かせる。ライヴコンサートの臨場感がたいへん豊かなことが印象的でもあった。音楽演奏の運動感がよく伝わるのである。躍動感というべきかもしれないが、音がヴィヴィッドなのである。スピーカーに音が平板に張りつくイメージがないのがいい。「エラ&ルイ」の両者の声に艶があって魅力的だったし、モノーラルのまとまりのよさに位相特性のよさを感じた。プレーヤーによるモノーラル音像のまとまりには、意外に違いがある。機械振動であるから、どの部分も振動即音として影響するのがアナログプレーヤーの難しさであろう。低音のコントロールも適切で、ブーミーなロリンズ・コンボのベースもサックスの存在に悪影響を与えるほどではない。シンバル、スネアー、ハイハットも繊細に鳴らし分ける。

デュアル Golden 11

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 かつてオートチェンジャーで一世を風靡したドイツのデュアルのプレーヤーだが、その面影がトーンアームのジャイロスコープ・ジンバルサスペンションに残っている、ダイナミックバランス型のトーンアームである。78回転仕様があるのはディスクファンには喜ばれるだろう。こうして古いものをあっさり捨てない思想は、ここ半世紀の日本メーカーには、もっとも欠落しているものの一つであろう。だから、今この国は、技術も文化も断片化し底の浅いものになってしまった。
 ところで、このプレーヤーはけっして高級品といえるほどのものではないが、押さえるべきツボを押さえて、巧みにエネルギーバランスがとられている。アームの動作がよいのであろう、トレースが安定し細かい音もよくピックアップし、ヴァイオリンの音色は艶っぼい粘りのある魅力的なものである。シェリングらしさということでは少々違うように思うが、これはこれで官能的な魅力がある。ピアノも弾力感のある質感で、中低音にかけて豊かな肉づけが感じられる。f0の設定が上手い。ブーミーになるギリギリのところを掴んでいる。高域は派手めであるが、楽音や声質の変化には敏感で、多彩な音色を楽しめる。弦楽器群の音触は、しなやかさを聴かせるし、雰囲気がいい。精緻とまではいかないが、音楽的な感興のあるサウンドであった。空間感が豊かで「ベラフォンテ」のライヴは楽しめた。あの独特な声がよく活かされて、左チャンネルのレキント・ギターの弾くリズムがよく立って聞こえ印象的であった。
「エラ&ルイ」でサッチモの声がややドライになったのは、高域の華やかさのためと思われるが、その分、エラの声は魅力的で、あの柄に似合わぬ可愛らしさが生きていた。低音が豊かなため、「ロリンズ」のジャズではベースが録音のブーミーな傾向を助長し、シンバルの芯がやや細い。サックスも存在感の強い方ではなく、ジャズ向きではなさそうである。

テクニクス SL-1200 Limited

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 しっかりした造形感を感じさせるプレーヤーである。例によってオーディオ的な耳判断では……。したがって、何を聞いても水準以上の再生音が得られるが、特別な思い入れに応える品位は持ち合わせていないようだ。そのことは冒頭の「クロイツェル・ソナタ」の重く固い雰囲気に表れる。重く固いといっても、いわゆる重厚とは違う。むしろ重硬と書くべきムードである。生命感や、肌の温度感が希薄で若干無機的なのである。そうした人間表現の機微まで求めなければ、きわめて優秀なプレーヤーだと思う。
 少なくともシェリング&ヘブラーのDUOには響きが剛直にすぎると感じた。クレーメル&アルゲリッチの新録音はどう聞こえるだろう? と思った。「トスカ」では複雑な音色へのレスポンスが鋭敏とはいえず、繊細なタッチや音触の綾までは聴かせてくれなかった。どちらかというと、マクロ的に聞こえ、独唱者やコーラスの肉声感、オーケストラの多彩な音色の変化が鮮やかではない。どこかに支配的な固有の響きが付きまとうように思われた。この辺りがもっとも難しいオーディオ機器の問題である。この感性領域が音響と音楽の狭間であろう。科学と美学の接点とするか? 谷間とするか? 魅力的なオーディオ機器足り得るか否かの分かれ道だと思う。
 ダイレクトドライブ方式とベルトドライブ方式の対立や、リジッドベース思想とフローティング思想のそれなど、多くの論議はすべてここに発するものだと筆者は考えるものである。技術論だけでは勿論のこと、趣味嗜好の主観論だけでも、解決できないオーディオ固有の興味深い世界がここにある。ロングセラーの優れたプレーヤーをベースにリミテッド・エディションとして発売された製品で、少々厳しい注文をつけすぎたようであるが10万円はお値打ちである。価格対価値では高く評価したい。今、新しく作ったら2倍の価格でも無理かも知れない。

プロジェクト PRO-JECT6.1

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 何十年もアナログディスクに親しんだ耳にとっては、アナログプレーヤーの性格は無音溝のリードインのノイズを聞くことでおおよその見当がつく。つまり、これが格好のテスト用ノイズスペクトラムとなり、カートリッジ・スタイラスからシェル、トーンアーム、ターンテーブル、モーター、駆動機構、ベース構造、フローティングによる共振状態に至るまでのトータルの音響的性格に関する豊かな情報が、瞬時に耳に伝わるものなのである。言い方を換えれば、数秒後に奏でられるであろう音楽の鳴り方が予想できるのである。人間の耳が測定器的働きをするわけであって、音楽的判断とは別物である。オーディオ的な耳と言ってよいもので、豊富な経験の上に築かれるものであろう。音楽的な耳、感性にこれがどう結びつくか? が大問題なのであろう。
 直接このプレーヤーに関することではないが、今回のテストの第1号機を聴いて久しぶりにこの測定器のスイッチがONになった。この価格としては大変上質なノイズ・スペクトラムで、バランス設計に優れている。案の定、音もいい。
「クロイツエル・ソナタ」冒頭のシェリングのヴァイオリンの重奏音は毅然たる音色だし、続くヘブラーのアコードも納得のいくヴォイシングで安定した和声的構築が快感。「トスカ」の複雑な音色へのレスポンスもなかなかいい。高域に若干にぎやかなキラつきがあるが、これが解像力を演出する効果ともなっている。
「ベラフォンテ」のライヴでもこの高域の派手さが気になった。カートリッジ程ではないにしても、プレーヤー本体も低音域だけではなく高音への影響も大きい。プレゼンスもまずまずで、モノーラルの「エラ&ルイ」を聴くと、位相特性もよさそう。低音域のコントロールは可聴帯域内に目立つブーミングを感じさせない。ジャズも全体の音触感は自然な方で、適度に締まったソリッドネスが価格以上の
品位を聴かせる秘密のようである。

テクニクス SL-1200MK3

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム篇」より

 本機は、超ロングランモデルであるとともに、全世界に輸出され、現在でも月産1万台は下らない生産量を誇る、ベストセラー中のベストセラー機だ。
 筐体構造をはじめ、ターンテーブルやトーンアームは、耐ハウリングマージンが大きく、比較的設置場所を選ばない。そして、ターンテーブル外周部の照明ランプ付ストロボスコープ、大型スライドレバーによる可変ピッチコントロール、盤面照明ランプなど、その操作性の高さは抜群である。トーンアームも、インサイドフォース・キャンセラー、アーム高さ調整機構、アームリフタ一等を備え、各調整が容易にできるため、使用するカートリッジに最適の条件が確実に設定できる点はうれしい。
 本機は、いまもって世界中のディスコなどで業務用に数多く使用されている。それだけに、長期間にわたる生産期間の中で完成度が向上するというメカニズム特有の熟成条件を完全に満たしており、外観から受ける印象よりは、はるかに高い安定度と信頼性をもっている。アナログプレーヤー全体の中でも傑出した、価格を超えた世界の一流品である。
 また、各国、各様なFCC、FTZに代表される不要輻射対策はすべてクリアーしており、電源系のノイズやTV、FMなどの高周波妨害に強いことが、その最大の特徴となっている。この妨害波に強いメリットは、東京タワーに近接して強力なTV電波が8波もある本誌試聴室における試聴でも、その真価を発揮した。バス妨害が皆無に近く、高域に薄くモヤがかかったようになる高周波妨害がなく、他の高級プレーヤーに比較しても予想を超える安定度がある。彫りの深いアナログならではの音が聴かれ、本機の実力を見事に示してくれる。
使いこなしポイント
 電波障害の少ない地域にあっても、AC電源の汚れが全国的に及んでいる現在、本機の特徴はアナログ再生の大変に強い味方となるはずだ。

プレーヤーシステムのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 プレーヤーシステムは、フルオートは価格分類なしで、セミオートとマニュアルが10万円未満、10〜30万円、30万円以上の3ゾーンに、そして、アームレスが30万円未満30〜60万円、60万円以上の3ゾーンという、複雑な分類になっている。ADプレーヤーの現実からすればCDとのかね合いで考えなければならないかもしれない。つまり、CDの普及の中で、なお存在価値のあるものという見方がそれである。しかし、まだ時期尚早の感がなきにしもあらずで、10万円以下のプレーヤーがCDのクォリティに対抗することは難しいながら、一般にはまだ存在価値のあるものと考えることにする。
 フルオートではビクターのQL−Y44FとデンオンのDP47Fを選んだ。本山ヨはB&OのBeogram8002を選びたかったが、25万円という価格とCD混在の現状を照らし合わせて、いずれも6万円を切る普及価格のものにした。QL−Y44FもDP47Fも甲乙つけ難く、無理にベストワンを選ぶ意志はなかったが、サイコロを振って決めたようなものである。どちらも信頼性と中庸をいく音のバランスのまとまりをもった好製品だと思う。
 セミオート/マニュアルの10万円以下のベストワンはケンウッドのKP1100である。これは今年出たこの価格帯の唯一の新製品といってよく、この時期に新たに金型から起して開発した意欲と、その成果は称賛に催する。CPからみても、絶対性能価値からいっでも中堅の手堅い製品で、充実した再生音をもつ優れたものだ。同じケンウッドのKP880DIIは従来からのモデルだが、これも、安定した回転性能と精度の高いトーンアームで良質の再生音を約束してくれる好製品。ヤマハGT750、バイオエアPL5L、ビクターQL−A70はいずれも、アナログプレーヤーの技術の円熟を見せる優れたものだと思う。
 10〜30万円ではヤマハのGT2000Lを選ぶ。GT2000のヴァリエーションの中でミドルクラスのものだが、大型重量級のクォリティをもつ立派なもの。オーソドックスなプレーヤーで信頼性が高い。
 30万円以上ではエクスクルーシヴP3aとテクニクスSL1000Mk3。性格は違うが、どちらもプレーヤーの熟成した技術で磨かれた力作である。
 アームレスの30万円未満では、ARとトーレンスTD126BCIIIセンティニュアル、30〜60万円ではトーレンスTD226BC、60万円以上ではトーレンスのプレスティージとマイクロSX8000IIシステムを選んだ。AR、トーレンスとも、振動系としてQのコントロールを積極的に追求したフローティングタイプ。結局これがアナログプレーヤーの必須条件で、重量と剛性のみの追求ではバランスのとれた音の質感の再生には不可能に近いことを、マイクロも8000IIになりインシュレーターをシステム化したことが証明しているようである。

プレーヤーシステムのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 CDプレーヤーの華やかさと比較すればメカニズムベースで、高性能化と物量の投入が比例する分野だけに、本来のベストバイに相応しいシステムの開発は、需要の面もあり、現在では非常に難しいとしかいいようのないところだ。
●フルオートシステム
 CDの機能面の優位性は、一度経験してしまうと、いきおいマニュアルのアナログプレーヤーを廻すのがおっくうになるというのが実状であろう。
 従来からも、高級プレーヤーシステムはマニュアル型であり、フルオート機は、イメージ的にクォリティダウンに繋がるといった風潮が強く、高級なフルオート機の生れる下地が国内にはない様子である。
 いかに、DD型モーター全盛で、プレーヤーでエレクトロニクスの技術が幅をきかしたとしても、ある程度のメカニズムが要求されるフルオート機では、メカニズムの熟成も含み、かなりの経験量が必要であり、どのメーカーでも簡単に手が出せる分野ではないようだ。
 結果的には、国内製品では、ビクター、デンオン、テクニクスの3社のフルオート機が競合したことになるが、高性能をも含め、ベスト1にはQL−Y66Fとした。
●セミオート/マニュアルプレーヤーシステム 10万円未満
 実用的なアナログプレーヤーシステムとしては、製品の内容が充実した価格帯だ。特別な使用上の要求がなければ、どのモデルを選択しても後悔することはないのは事実であるが、基本的メカニズムが安定し、ハウリングマージンが大きい、インシュレーションシステムを備えていることが望まれる条件であるが、個人的にはインサイドフォースキャンセラーが微調整可能であることも重要な条件としている。ベスト1は、デザイン的には少しアクが強いが、各種のカートリッジに対する適応性の点でも、実際にカートリッジの比較試聴で使った実績もあり、PL7Lとした。
●マニュアル/セミ・オートプレーヤー 10〜30万円未満
 基本的に10万円未満の不満足さを解消するための選択で、10万円台から選んだ。
●マニュアル/セミ・オートプレーヤー 30万円以上
 貫禄のあるP3aがベスト1だ。新製品では意欲的なGT2000Xが注目作だがアームが少し気になる。別格はDRAGON−CT、発想の独自性が見事な製品。
●アームレスプレーヤー 30〜60万円未満と60万円以上の価格帯
 アームの選択がポイントになるが、アナログプレーヤーならではの独自の魅力の世界。テクニクスとマイクロの対照的性格は興味深い存在であり、SX777FVは高価だが、ベストバイには相応しいモデルである。

マイクロ BL-99VFII

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 エアベアリング、バキュウム吸着方式のターンテーブルなどに代表されるユニークなベルトドライブプレーヤーでレコードファンの熱い支持を集めているマイクロのベーシックシステムがBL99Vであり、これに、それぞれトーンアームでは実績のある、FRとSAECのアームを組み合せたシステムが、BL99VFとBL99VWの2モデルだが、今回、このうちBL99VFに改良が加えられて、BL99VFIIに発展した。
 モデルナンバーからも推測できるように、改良のポイントはFR製のトーンアームにある。このトーンアームは、基本形は従来のFR64fxであるが、その仕上げと内部配線材、出力コードの線材を変更したタイプである。
 まず、大きく変わったのは仕上げで、従来のブラックからシルバー梨地仕上げとなり、内部の配線材は注目のLC−OFC使用になった。この点では、FRの新製品であるFR64fxProが各種の線材を試作検討した結果、LC−OFCではなく、線径を太くしたオーソドックスな軟銅線を採用した、と発表されているのと好対象で、マイクロでは独自の判断によってLC−OFC線材を選んだということになるわけだ。
 この線材の材料が、軟銅線、OFC線、LC−OFC線、それに構造面で異なるリッツ綾などの違いによって現われる、結果としての帯域バランス、音場感、スクラッチノイズの質と量の変化など、音質にかなりの影響があるだけに、この両者のアームを各種のカートリッジで比較試聴したら、さぞ面白いことであろう。
 なお、アームからの出力コードは、内部配線材と共通なLC−OFCのシールド線で、試聴用セットにはアーム部のコネクターがL型のタイプが附属していたが、正規の製品はストレートなタイプであるとのことである。
 試聴には、特集ページのカートリッジテストに使った、アキュフェーズC200LとP500のセパレート型アンプとJBL4344を組み合せ、試聴用力−トリッジはデンオンDL304、その他を使うことにした。
 試聴に先だって、BL99VFIIの4個所のインシュレーター高さ調整スクリューで水平度を調整する。最近では、この調整はあまり行なわれていないが、プレーヤーではこの調整がもっとも重要なポイントであり、ラテラルバランス、インサイドフォースキャンセラーに影響がある。
 続いて、アーム高さ調整、バランス調整を経て、針圧、インサイドフォースキャンセラー調整、これだけの調整が必要であるわけだ。次は、モーターと吸着用ポンプのACポラリティチェックだ。とくに、ポンプは無視しがちだが、これが、予想外に大きく音質に影響する。簡単にチェックポイントを述べれば、音場感がきれいに拡がり、とくに奥行きの見通しがよく、スッキリとした音を選ぶのがポイントだ。
 BL99VFIIは、ベルト駆動型独特なリッチな低域ベースの安定感のある音と抜けの良い高域がバランスした好製品である。