Category Archives: スピーカーシステム

JBL 4350A(組合せ)

瀬川冬樹

「スイングジャーナル」より

 本誌試聴室で鳴ったこの夜の音を、いったいなんと形容したら良いのだろうか。それは、もはや、生々しい、とか、凄味のある、などという範疇を越えた、そう……劇的なひとつの体験とでもしか、いいようのない、怖ろしいような音、だった。
 急いでお断りしておくが、怖ろしい、といっても決して、耳をふさぎたくなるような大きな音がしたわけではない。もちろん、あとでくわしく書くように、マークレビンソンのAクラス・アンプの25Wという出力にしては、信じられないような大きな音量を出すこともできた。しかしその反面、ピアニシモでまさに消え入るほどの小さな音量に絞ったときでさえ、音のあくまでくっきりと、ディテールでも輪郭を失わずにしかも空間の隅々までひろがって溶け合う響きの見事なこと。やはりそれは、繰り返すが劇的な体験、にほかならなかった。
 JBL#4350は、発表当初からみると、ずいぶん音の傾向が、以前よりよく揃っているし、バランスも向上している。
 初期の製品は、中高域を受け持つホーンのエイジングが進むまでは、ホーンの中に多少の吸音材をつめ込んだりして、この帯域を抑えなくては少々やかましい感じがあったのだが、最近のWXAでは、そのままでほとんどバランスが整っていると思う。
 JBLのこの43……ではじまるモニター・スピーカーのうち、4333A、4343のシリーズは、入力端子部の切換えによって低・高2chのマルチ・アンプ(バイ・アンプリファイアー)ドライブができるようになっているが、いうまでもなく4350は、最初からバイ・アンプ・オンリーの設計になっている。だが、この下手をすると手ひどい音を出すジャジャ馬は、いいかげんなアンプで鳴らしたのでは、とうていその真価を発揮しない。250Hzを境にして、それ以下の低音は、ともすれば量感ばかりオーバーで、ダブダブの締りのない音になりがちだ。また中〜高音域は、えてしてキンキンと不自然に金属的なやかましい音がする。菅野沖彦氏は、かってこの中〜高音用にはExclusiveのM−4(旧型)が良いと主張され、実際、彼がM−4で鳴らした4350の中高域は絶妙な音がした。しかし今回は、M−4と同じく純Aクラスの、マークレビンソンML−2Lを使ってみた。問題は低域だが、これは、少し前に、サンスイのショールームで公開実験したときの音に味をしめて、同じML−2Lを2台、ブリッジ接続して使うことにきめた。こうすると、1台のとき25Wの出力がいっきょに100Wに増大する。ことに4350の低音域は4Ωなので、出力はさらに倍の200Wまでとれる。ブリッジ接続したML−2Lは、高音域では持ち前のAクラス特有のおそろしく滑らかな質の良さはやや損なわれる。が、250Hz以下で鳴らす場合の、低域の締りの良いことはちょっと例えようのない素晴らしさだ。ブリッジ接続による十分に余裕ある大出力と、4350をふつうに鳴らした低音を聴き馴れた人にはウソのように思えるおそろしく引き締った、しかし実体感の豊かなというより、もはやナマの楽器の実体感を越えさえする、緻密で質の高い低音は、これ以外のアンプではちょっと考えられない。なおことのついでにつけ加えておくと、ML−2L自体が発表当初にくらべて最近の製品ではまた一段と質感が改良されている。
 低音にくらべて高音の25Wが、あまりにも出力が少なすぎるように思われるかもしれないが、4350の中〜高音域は、すべてきわめて能率の高いユニットで構成されているので、並みのブックシェルフを100Wアンプで鳴らした以上の実力のあることを申し添えておく。実際に、「サンチェスの子供たち/チャック・マンジョーネ」の序曲を耳がしびれるほどのパワーで鳴らしてみたが、アンプもスピーカーも全くビクともせず聴き手を圧倒した。
 ここまでやるのだから、入口以後のすべてをマークレビンソンの最高のシステムでまとめてしまう。ここで特筆したいのは、プリアンプの新型ML−6Lの音の透明感の素晴らしさと質の高さ。完全モノーラル構成で、入力切換とボリュームの二つのツマミだけ。それがしかも独立して、音量調整に2個のツマミを同時にぴったり合わせなくてはならないという操作上では論外といいたいわずらしさだが、それをガマンしても、この音なら仕方ないと思わせるだけのものを持っている。
 もうひとつ、こんなバカげたことは本当のマニアにしかすすめられないが、ヘッドアンプのJC−1ACを、片側を遊ばせてモノーラルで使うというやりかた。結局、2台のヘッドアンプが必要になるのだが、音像のしっかりすること、音の実体感の増すこと、やはりやるだけのことはある。こうなると、今回は試みなかったがエレクトロニック・クロスオーバーLNC−2Lも、本当ならモノーラルで2台使うのがいいだろう。
 プレーヤーはマイクロ精機が新しく発表した糸ドライブ・システムを使う。ある機会に試聴して以来、このターンテーブルとオーディオクラフトのトーンアームの組み合せに、私はもうしびれっ放しのありさまだ。完全に調整したときの音像のクリアーなこと、レコードという枠を一歩踏み越えたドキュメンタルな凄絶さは、こんにちのプレーヤー・システムの頂点といえる。最近になって、これにトリオのターンテーブル・シートを乗せるのがもっと良いことに気づいた。また、もしもオルトフォン系のロー・インピーダンス・カートリッジに限るのなら、アームの出力ケーブルを、サエクのCX5006TYPEBに交換するといっそう良い。この組み合せを聴いて以来いままで愛用してきたEMTのプレーヤーのスイッチを入れる回数が極端に減りはじめた。
 ただし、こういう組み合せになると、パーツを揃えただけではどうしようもない。各コンポーネントの設置の良否、相互関係、そして正しい接続。これだけでも容易ではない。また、パワーアンプだけでも消費電力が常時2.4kW時にのぼるから、AC電源の確保も一般的といえない。そして、これだけの組み合せとなると、ACプラグの差し込みの向き(極性)を変えても音の変るのがはっきりとわかり、全システムを通じて正しい極性に揃えるだけでも相当な時間と狂いのない聴感が要求される。
 これらについて詳細は、RFエンタープライゼスの向井氏、マイクロ精機の長沢氏、オーディオクラフトの花村氏(社長)、山水JBL課の増田氏らが、それぞれ実際上の的確なヒントを与えてくださるだろう。

組合せ価格一覧表
カートリッジ:オルトフォン MC30
¥99.000
トーンアーム:オーディオクラフト AC-4000MC ¥67.000
ターンテーブル:マイクロ RX-5000/RY-5500 ¥430.000
ヘッドアンプ:マーク・レビンソン JC1AC ¥145.000×2
チャンネル・デバイダー:マーク・レビンソン LNC2L ¥630.000
プリアンプ:マーク・レビンソン ML6L ¥980.000
パワーアンプ:マーク・レビンソン ML2L ¥8000.000×6
スピーカー:JBL 4350AWX ¥850.000×2
計¥8.996.000

チューナー セクエラ Model 1 ¥1.480.000
オープン・デッキ マーク・レビンソン ML5 ¥未定
合計¥10.476.000+α

試聴ディスク
「サンチェスの子供たち/チャック・マンジョーネ」
(アルファレコード:A&M AMP-80003〜4)

「ショパン・ノクターン全21曲/クラウディオ・アラウ」
(日本フォノグラム:Phlips X7651〜52) 

Lo-D HS-450

岩崎千明

週刊FM No.12(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 なんの前触れもなしに突然のように発表されたHS−450。期待が全然といってよいほど無かっただけに、受け取り方は、かえって素直にできるというものだが、決してオーヴァーないい方ではなく、この新製品にはびっくり。というのは、このHS−450。最近のLo−Dスピーカーよりもずっと抵抗なく身体を包んでくれるという感じの鳴り方だ。Lo−Dがハッスルしたスピーカーは、確かにとってもいい音だけど、それを素直に口に出すのに、ちょっとひっかかるような要素が、音の中にちらついていた。それがこのHS−450ではまったく感じられないのは、なによりも驚きだ。
 少なくとも外観からはここんとこ流行の、いかにも若いファン様々といったようなプロフェショナル志向むき出しを思わせるのが、ちょっとばかり気に喰わないけれど音の方は、そうではなく、どっしりした低域と、中域のスムーズなバランスとが完成度の高さを聴かせてくれる。どちらかというとシャッキリ、クッキリ型だった今までのに対して暖かみさえ感じられるくらいだ。密閉性の高い箱は極めて堅固に作られ、完全なる密閉型として動作してなおロー・エンドまで力強く出るのは、ユニット自体の質の高さによるものだ。スコーカーも注目すべき新ユニットだし、トゥイーターにも新しいテクニックがみられる。価格は安くないが、それに見合った内容というべきだ。アンブとしては例えばHA−500Fがよい。カチッと引きしまり力ばかり惑じられるような最近のアンプは避けること。

BOSE 363

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

101系の豪華版121をベースにした、独自のシステム構成に驚かされる意欲作。全域型の魅力を最大に活かした121の中域にアクースティマス低域と高域を加えた3ウェイ構成は同社初の試みだが、予想を超えた量感タップリの低音は、いかにもBOSEらしい。誰でも充分に納得できる活発なサウンドは実に心地よい。

パイオニア S-A7

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

新世代メディア対応の超広帯域レスポンスを狙って開発された同社の最新作。新採用のケブラーコーンの音色は明るく、心地よく弾む低音は量感も豊かだ。各ユニットはナチュラルにつながり、広帯域型ながら中域の量感が充分にあるのが魅力。外観、仕上げ、ユニット構成からは想像を超えた価格設定は目を疑うばかり。

インフィニティ Intermezzo 2.6, Intermezzo 1.2s

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
「TEST REPORT 2001WINTER 話題の新製品を聴く」より

 今年のインフィニティの新製品展開は非常に積極的で、インターメッツォ、インタールード、エントラの3シリーズ構成という多彩さだ。
 ここでは、インターメッツォを紹介しよう。このシリーズは、新シリーズ中の最高性能版で、4モデルにより構成されている。
 インターメッツォ2・6は、シリーズの中心機種で、比較的小型な2ウェイシステムだ。外観からわかるように、エンクロージュアは木材ではなく、なんとアルミダイキャスト製である。これは、形状を自由に選べる利点があり、デザインや音響的に理想的なエンクロージュアが実現できるという。
 さらに、注目すべきは、低域にパワーアンプを内蔵し、部屋の音響特性に合わせてアクティヴに調整するR.A.B.O.S.を採用したことだ。
 付属CDとマイクで部屋の固有レスポンスを調べ、3種類の値を特殊な計算尺から読取り、内蔵アンプにその値をセットするだけの容易な操作で、部屋空間に最適な低音再生を実現しようとするものだ。基本的には、部屋に固有の低域周波数でのピークを抑える働きをするものだ。
 ユニットには新開発のセラミック・メタル・マトリックス振動板(C.M.M.D.)を搭載。測定上は、相当すぐれた振動板のようだ。
 低域はアクティヴ型だが、高域はLC型ネットワークを採用し、その両方をパワーアンプで駆動するのが基本的使用方法。
 インターメッツォ1・2Sは、R.A.B.O.S.を搭載したサブウーファーで、口径305mmのC.M.M.D.コーンを採用。エンクロージュアはアルミダイキャスト製。
 2・6は、反応が速く、質感が細やかで、スムーズに音が伸びる特徴がある。R.A.B.O.S.は、相当に効果的で、部屋の響きが自然に感じられるメリットがある。1・2Sを加えれば、当然、重心の低いと堂々とした音になり、ここでもR.A.B.O.S.は、音と音場感の変化を聴かせ面白い。時間をタップリとかけて使い込んでほしい魅力の新製品である。

ジャーマン・フィジックス The Carbon Mk II

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
「TEST REPORT 2001WINTER 話題の新製品を聴く」より

 ジャーマン・フィジックスは、社名そのものが「ドイツの物理学」というだけあって、極めて論理的にスピーカーシステムを考え、そして具現化しているメーカーだ。だが、同社のトップモデル、ザ・ガウディのたとえようもない物凄さに見る人/聴く人は圧倒され、論理的な部分まで理解することが難しいように思われる。
 同社スピーカーの最も特徴な点は、水平360度方向に音を放射する、DDDベンディングウェイヴ・コンバーターユニットを、システムの中心に位置づけていることだろう。
 このユニットの原型は、MITのリンカーン・ウォルシュが、1970年前後に発明したウォルシュドライバーである。一般的なユニットが水平方向の特定範囲内に音を放射することにくらべ、このユニットは水面に石が落ちたときに同心円状に波紋が拡がるように、水平方向360度に音を放射することと、いわゆる分割振動で全帯域を再生しようとすることの2点が特徴で、まさしく逆転の発想といえるものであろう。
 分割新道を使うユニットは古くから数多く実用化され、古くは、独シーメンス、最近では同じく独マンガー研究所のBWT、また、国内ではヤマハのグランドピアノ型振動板採用のNSユニットがあるが、水平360度放射型は、このL・ウォルシュのウォルシュ・ドライバーが、その第1作であろう。
 非常にユニークで素晴らしい構想の作品ではあったが、振動板材料の選択が至難の業であったようで、この種の製品のつねで、いつか忘れられた存在になったように思われる。
 このウォルシュ型ユニットが、突然、あたかも彗星のように輝いてふたたび蘇ったのが、ジャーマン・フィジックスにおいてで、ピーター・ディックスが最新のコンピューター解析と最適のチタン箔素材の助けを借りて完成させたのが、このDDD(ディックス・ダイポール・ドライバー)ベンディングウェイヴ・コンバーターユニットである。
 円錐形の振動板最上部のボイスコイルからのエネルギーは同心円状に下方に伝わり、その伝搬速度と、すでに音になった空気の疎密波の音速を等しくすることで、位相の揃った音を空気中に放射することを可能とした、とのことだ。
 ザ・カーボンMkIIは、このウォルシュ型ユニット1個を、150Hz以上の準全帯域型として使い、その低域を上下方向に向い合った2この同社独自開発の新型ケヴラーコーン型ウーファーが受け持っている。
 エンクロージュアは、スペースシャトルの機体材料と、素材・接着剤まで同等としたカーボン繊維で表面が覆われており、表面木目仕上げのシステムであるボーダーランドとくらべると、12kg重くなっている。
 興味深いことに、本機には、抵抗モジュールを取付けて、450Hz〜1kHzを+2dBと+4dBにするブラックブリッジと6kHz〜15kHzを+2dBと+4dBとするレッドブリッジを備えている。
 水平360度放射型であるため設置場所の選択と部屋の音響的コントロールは、本機の本来の性能を引出そうとすると相当に高度なオーディオの腕がないと至難であろう。ただし、一般タイプとは完全に異なった、このシステムならではの音を楽しむのであれば、独自の4種類の抵抗モジュールでのコントロールを使わなくても、準全域型でクロスオーバーがないに等しい、見事にハーモナイズされたナチュラルな音と独自の空間を聴かせる、かけがえのない音の世界が楽しめることは事実だ。
 コントロールしだいで相当に幅広く音や音場感が変化するため、このような音と表現するのは至難ではあるが、スピーカーの存在感がなく、正面の壁が空間に溶け込んだような開放感は実に心地よく、まさに、ステレオフォニックな音の醍醐味の実例であろう。

リン Katan, Ninka

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
「TEST REPORT 2001WINTER 話題の新製品を聴く」より

 リン・プロダクツは、創業時に一躍注目を浴びたアナログプレーヤーLP12で知られるようになったメーカーであるが、創業初期からスピーカーシステムにも独創性の高い製品づくりを行なっていた。例えば、実際の部屋での使用条件を重視して、部屋の壁の近くに置いたときに、最適の量感、質感が得られるシステムなどが、その好例であろう。
 今回、新製品として登場した2モデルのスピーカーシステムを紹介しよう。
 NINKA(ニンカ)は、新メディアのスーパーオーディオCD、DVDオーディオのマルチチャンネル再生を含むバーサタイルな要求に応えるべくして開発された、同社の最新のトールボーイ型システムだ。
 同時発売の小型ブックシェルフ型のKATAN(ケイタン)はユニット構成が標準的であるが、このニンカは、使用ユニットから見てもわかるように、トゥイーターの上下に、新設計の16cmウーファー2基を配置した、仮想同軸型、いわゆるバーチカル・ツイン方式を採用した同社の新しい中核モデルである。
 興味深いことは、ウーファーの振動板面積がケイタンにくらべて2倍以上になったため、エンクロージュア方式に密閉型が採用されていることだ。バスレフ方式よりは、低域のレスポンスはなだらかに下降するが、そのぶんは、エンクロージュア容積比で軽く2倍を超える余裕度を活かし、さらに2個に増強された振動板面積の増加でカバーした結果、低域のクォリティに優れる密閉型を採用したようだ。
 また、密閉型は、組み合わせるアンプにより低音の変化が少ない傾向があり、さらにバスレフポート内の空気流によって生じるポートノイズがなく、全帯域でクォリティ向上も、当然目指したものであるのだろう。
 ウーファーは、同社オリジナルのポリプロピレンコーン型でダイキャストフレーム採用の防磁カバー付き。TVブラウン管の防磁対策としての設計だ。
 トゥイーターは、新設計19mmドーム型で、口径が小さいだけに高域特性の向上ができるメリットがある。
 エンクロージュア構造は、6ヵ所の角形の窓をもつ、バッフル版と平行する補強材と、上下2枚のこれと直交した補強材とでバッフルと裏板を結合する入念な設計が行なわれた。これは内圧の高い密閉型で質的向上を狙った設計である。端子板は、バイワイアー接続対応型で、内蔵ネットワークを通さないマルチアンプ駆動対応のダイレクト接続も可能である。
 最近のバスレフ型全盛のときに、密閉型の音を聴くと、密度感が高くビシッと決る安定な音は充分に納得させられる強い説得力で楽しい。低域は必要にして充分な量感があるが、壁近くに置いてより真価が発揮されそうな印象。レスポンスはスムーズに伸び、鮮度感の高さも心地よく、安心して音楽の楽しめるパフォーマンスは一聴に値するものだ。
 ケイタンは、世界的に最激戦分野である小型2ウェイブックシェルフ型の戦略モデルとして、同社が投入した最新作である。注目したいことは、エンクロージュアが、バッフル前面の横幅が広く、裏板が狭い台形のプロポーションが採用されていること。これは、剛性の向上、内部定在波の抑制、吸音材の量を低減できるメリットがあり、かなりアクティヴで、表現力の豊かな音が聴かれるであろう。
 ユニットには、ニンカと同様に新開発されたウーファーとネオジウム磁石採用のトゥイーターを搭載。
 同社では、かなりマルチアンプ駆動を重視しているようで、このクラスでは珍しく、ケイタンにも、上級機同様のバイワイアリングやマルチアンプ接続可能な端子を備えている。
 エンクロージュア表面ツキ板処理の利点と形状効果も手伝ってか、かなりキビキビとした反応の速い、フレッシュな音が聴かれる。それも、色付けがなく、ナチュラルなレスポンスで、小型システムならではの小気味よさが魅力的だ。

ビクター SX-LC3

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

スピーカー作りでは、現在、我が国No.1のビクターの優れた小型スピーカーシステム。豊かなオリジナリティをもつ設計と、何より、音のバランス、質感の良さが光る。ツボを心得たバランスで、低音は充実しているが重すぎず、大事な中音域が厚い音だし、生き生きした音楽表現には血が通っている感じがする。

BOSE AM-5 III

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

ボーズらしさが横溢した小粋なシステムである。この価格で、この音楽的効果はボーズならではの巧みさと言えるであろう。エッジが鮮やかでソリッドな質感もそこそこに味わえ、ワイドレンジ感の演出も巧みである。アイディアとセンスを手慣れた技術で実現する、現代の音の錬金術ならぬ錬音術がボーズである。

アクースティックラボ Stella Harmony

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

アクースティックラボというよりボレロと言ったほうがとおりがよかったが、今はこのステラ・シリーズがメインストリームである。有名だったボレロ・シリーズの名がもったいないが、ステラもそれに劣らない、よりモダーンなシリーズ。全体に高級機にシフトしたが、これは普及クラスの実力機で、明晰で透明な優れた音。

エラックCL330 JET AMBIENTE

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

アルミ押し出し材によるモダーンでソリッドなコンパクトネスを全身にたたえたエンクロージュアによるエラックの傑作、300シリーズの中の上位機種である。JETユニット搭載はもちろんのこと、310より大きいウーファーを搭載するぶん、スケールが大きい再生音だ。外観にふさわしいカチッとした音が快適である。

アクースティックラボ Stella Melody

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

ステラ・シリーズの中堅機だが、新素材振動板や贅沢な磁気回路の採用など、充分力の入った製品である。その音は彫琢が深く、明晰でシャープだが、決して神経質ではない。上質の音で音楽が躍動する優れたスピーカーシステムである。作りと仕上げの良いエンクロージュアも美しく、愛せる逸品である。

タンノイ Turnberry/HE

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

同社の高級クラシカル・シリーズであるプレスティッジ・シリーズのベーシックモデルである。25cm口径コアキシャル・ユニットは半世紀以上の伝統を持つ基本設計を踏襲するが、現代的な特性にリファインされている。同軸型らしい定位の明確さを持ち、ウェルバランスで重厚、しなやかな質感を併せ持つ。

アクースティックラボ Stella Opus

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

ステラ・シリーズの高級機。この上に「ステラ・エレガンス」という最高機種があるが、あれは別物だ。事実上、これが同シリーズのトップモデルといってよいであろう。その名に恥じない優れたトールボーイ・システムで、ユニット構成はヴァーチカル・ツイン方式である。同社らしい音のまとめの巧みさが光る。

ソナス・ファベール Guarneri Homage

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

かつて、スピーカーシステムで、これほど思い入れを表現した作品が存在したであろうか? また、これほどの手の込んだ工芸的なエンクロージュアも大戦後には存在しなかったであろう。スピーカーは楽器であると言い切ったフランコ・セルブリンの傑作。芸術的なスピーカーとしか言いようがない。

マッキントッシュ XRT26

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

傑作XRTシリーズの現役モデルであり、多分、これが最終モデルであろう。1980年のXRT20登場以来20年になるシリーズである。その技術的特徴は数多いが、いずれも他社に先駆けたものであることは意外に知られていない。マッキントッシュはアンプの存在が大きすぎてスピーカーはマイノリティだ。

パイオニア Exclusive Model 2404

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

スタジオモニター「TAD」の技術を集大成した非常に内容の濃いシステム。高域ユニットは前例のない構造のドライバーとホーンの組合せ、低域は鋳鉄一体型フレーム採用という物量投入ぶりは実に凄い。独自設計のネットワークは別売りであるが、パッシヴ型のベスト作。超高域リボン型を加えた音は予想を超え楽しく見事。

ジャーマン・フィジックス The Carbon Mk II

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

メガフォン状振動板採用の全方向放射型全域ユニットを中心に、サブウーファーを加えた非常にユニークなトールボーイ型(?)。設置場所による音の変化は異例に激しく、セッティングが決ると、実に活き活きとした想像を超えた音を聴かせる。全域型ならではの、表現力豊かで反応に富んだ音は、これぞオーディオの感が深い。

パイオニア S-AX10

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

同社の業務用TAD系の技術をベースに、独自のリボン型高域を加えた新メディア対応のトールボーイ型。重量級のMEI製ベースの採用で重心位置を下げた効果は安定した低域にあらわれている。同社AX十シリーズのアンプと組み合わせたディジタルクロスオーバーによる異次元の音も味わえる現代型システムの典型。

ウエストレイク・オーディオ Lc3W12VF

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

型番からはトールボーイ型を思わせるが、実は少し大きなブックシェルフ型の作品。モニター的な鮮明さをベースに、柔らかさ、豊かさを加えたシステムアップは見事。さすがにチューニング技術に卓越した同社ならではの感銘を受ける力作。適当に置いても、それなりに鳴り、追い込めば期待に応える能力の高さに注目。

テクニクス SB-M1000

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

開発年代は旧いが、基本構想に基づく超広帯域再生能力が、新世代メディアの登場で、一躍、スポットライトを浴びたようだ。当初は豊かではあるが軟調な低域であったが、アンプの駆動能力が向上すると反応が速く、充分な表現力が楽しめるようになった。ポイントは、高SN比のアンプと組み合わせること。一聴に値する傑作。

B&W NSCM1

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

基本的にはNautilus805に近似した構成ではあるが、ユニットはともに新設計で低歪化され、エンクロージュアも少し横幅が増し形状が変わったせいか、いかにも2ウェイ・バスレフ型を想わせる明るく豊かな音と、ラウンド型独自の音場感情報をタップリ響かせる独特の音は絶品。良く鳴り、良く響き合う音は時間を忘れる思い。

テクニクス SB-M800

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

独自の内側=アクティヴ/外側=パッシヴの低域再生方式採用の中堅モデル。高域再生能力は、文句なしの新世代ニューメディア対応のパフォーマンスを備える。優れた高SN比のアンプで聴くDVDの音は、一般的なプレゼンス優先型の音ではなく、音のディテールをサラッと引き出す、いかにも情報量の多い音である。

パイオニア S-PM2000

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

型番に2000を付けたミレニアム・システム。エンクロージュアは、約50年寝かせた材料で作り、それを約50年間使ったウィスキー醸造樽が原材料。さすがに約100年の歳月の熟成(?)を経たエンクロージュアが聴かせるかけがえのない音は、誰しもホッ!!とする、安らぎにも似た独得の味わいである。感銘深く、楽しい力作。

ボザーク B410 Moorish

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 かつて、スピーカー王国を誇った米国のスピーカーも現在では大きく地図が塗り変えられ、数多くのブランドが消え去り、また有名無実となった。
 このボザークも、現在はその名前を聞くことがなくなったが、ボストンに本拠を置いたユニークなスピーカーメーカーであった。かつてのニューヨーク万博会場で巨大口径(28〜30インチ?)エキサイター型スピーカーユニットを展示して見る人を驚かせた逸話は、現在においても知る人がいるはずで、この巨大ユニットの電磁石部分だけは、’70年代に同社を訪れた折に見ることができた。また、「理想の音は」との問にたいしてのR・T・ボザークは、ベルリンフィルのニューヨーク公演の音(たしか、リンカーンセンター)と断言した。あの小気味よさはいまも耳に残る貴重な経験である。
 ボザークのサウンド傾向は、重厚で、密度の高い音で、穏やかな、いわば、大人の風格を感じさせる米国東海岸、それも、ニューイングランドと呼ばれるボストン産ならではの音が特徴であった。このサウンドは、同じアメリカでもかつて日本で「カリフォルニアの青い空」と形容された、JBLやアルテックなどの、明るく、小気味よく、シャープで反応の速い音のウェスタン・エレクトリック系の音とは対照的なものであった。
 同社のシステムプランは、いわゆる周波数特性で代表される振幅周波数特性ではなく、ユニットの位相回転にポイントを置いたものだ。そのため、クロスオーバーネットワークは、もっとも単純で位相回転の少ない6dB/oct型を採用しているのが大きな特徴である。したがってユニットには、低域と高域の共振峰が少なく、なだらかな特性が要求されることになり、低域には羊毛を混入したパルプコーンにゴム系の制動材を両面塗布した振動板を採用していた。低域は30cm口径、中域は16cmと全帯域型的な性格を持つ20cm、高域は5cmと、4種類のコーン型ユニットが用意され、これらを適宜組み合わせてシステムを構成する。また、同社のスピーカーシステムは、基本的に同じユニットを多数使うマルチユニット方式がベースであった。
 ボザークのシステム中で最大のモデルが、このB410ムーリッシュ・コンサートグランドである。低域は30cm×4、中域は16cm×2、高域は5cm×8とマルチにユニットを使い、400Hzと2・5kHzのクロスオーバーポイントを持つ3ウェイ型。エンクロージュアは、ポートからの不要輻射を嫌った密閉型である。マルチユニット方式ながら、同軸型2ウェイ的に一点に音源が絞られた独自のユニット配置による音場感の豊かさは、現時点で聴いても類例がない。その内容を知れば知るほど、現代のバイブル的な存在といえる。