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ローランド E-660

早瀬文雄

ステレオサウンド 95号(1990年6月発行)
「SS TOPICS」より

ローランドから業務用デジタル・パラメトリック・イコライザーが登場して、すでに一年以上の月日が流れた。その間、一部のオーディオマニアから、これは相当に面白い補助機器だという話を耳にする機会が増えた。
 そこで、今回このE660デジタル・パラメトリック・イコライザーを実際に数日間にわたり自宅で試してみることにした。
 そもそもこういう製品は、どういう目的で使用するのかという使い手自身の意識、認識を明確にし、機器のもつメリット、デメリットを秤にかけて、なお使い込む価値ありということでなくては、途中で放棄してしまいかねない種類のものだと思う。
 かつて、音響条件の劣悪な環境で両チャンネルで66素子のグラフィックイコライザーを採用し、音のバランスを整えることで、安心して音楽が聴けたという、ありがたい恩恵を受けたことがあったが、やがてもう少しバンド数が少なく、簡単に音楽のバランスを整えることのできる機器に変更した。それはルームアコースティックを調整するということより、むしろ積極的に自分が望む音のバランスを作ってみたいという発想からだった。その時の経験から感じていたことだが、一般的なアナログ回路によりイコライジングが宿命的にもつ位相のずれ、いわゆるフェイスシフトがどうしても気になるのだ。
 今回試聴したE660は、デジタル化された演算によって周波数をコントロールするものであり、フェイズシフトが事実上皆無という点で、コントロールを加えることにより音像定位が不明瞭になったりすることがないのが特筆できよう。
 こうした製品は余分なものだと頭ごなしに否定する人や、ある種のアレルギーを持ってる人には勧めにくいが、一度試してみると、何か違ったオーディオの側面が見えてくるかもしれない。デジタル化されたメリットは、実際の使用にあたって、たとえば今回使用したソニー/CDP-R1a+DAS-R1aとの間にデジタル接続が可能であることをはじめ、本機はD/Aコンバーターを内蔵しているのでデジタルアウトを装備したあらゆる機器とのデジタル接続が可能である(アナログ接続も無論可能で、キャノン端子によるバランスデンソーも可能)。
 昨今、デジタル・プリアンプの登場も取り立たされており、近未来的なフルデジタル・システムの可能性の一端を垣間見ることができる。
 実際の音だが、なにしろコントロールに際して、まるっきりフェイズシフトを伴わないと言う事実には、耳がなれるまでやや戸惑いを覚える。
 まるで人工的に整理整頓され、こざっぱりと片づいた感じのする音場感は、これまでに耳にしたことがない感覚だ。ミクロ的に言えば、かすかに硬質なタッチがつく場合もあるとはいえ、メリットを活かす方向で使いこなしができれば、これは物凄い武器となるに違いない。既成のイコライザーに不満をもっている方には必聴の製品だ。