Category Archives: アコースティックリサーチ/AR

AR AR-303A

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 一時代を画したアメリカARの代表機種のリヴァイヴァルモデルで、アコースティック・サスペンション方式やユニークなソフトドームスコーカーなどの特徴が忠実に生かされている。このスピーカーならではの音は貴重であり、ノスタルジーを超えて今、存在価値が認められてよいと思う。重厚、豪快で温かい音だ。

AR Model 310HO

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 インフィニティで名声を博したクリスティが独立しARのために開発した自信作。小口径ユニットベースながら、この種のシステムで常識的な低能率に真正面から調整し高能率化した事実は特筆ものだ。理論派の作品だけに、高域ユニット回りの設計は、充分に納得させられるだけの確実さがあり、真のベストバイ製品。

AR Limited Model 3

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 リミテッド・モデル3は、マーク・レビンソンやジョージ・セクエラの両氏らが参加して開発されたARのリミテッド・シリーズのスピーカーシステムだ。静電型SPの魅力をダイナミックがたで具現化する構想は、そのデザインにも表われている。低域エンクロージュア上部の、2個のドーム型間に高域を配したレイアウト浅いよう。前面はパンチングメタルで覆われ、音の拡散に使われる。ナチュラルで、キメ細かく豊かな音は雰囲気が良く、音楽ファンには好適だ。

アコースティックリサーチ

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 現在、ブックシェルフ型と呼ばれているスピーカーシステムはかなり幅広い範囲で使われているが、これは本棚に横位置で収納できる程度の小型エンクロージュアで、フロアー型に勝るとも劣らぬ低域再生能力を持たせることに成功した、米ARの創始者エドガー・M・ヴィルチュア氏の発明による、AR1をその最初の製品としたアコースティック・エアーサスペンション方式が原点である。
 小型エンクロージュアに、低域共振を可聴周波数以下にしたユニットを組み込み、小型ユニットで優れた低域再生能力を持たせようとする発想は、AR以前に東京工大の西巻氏により提唱され、細い木綿糸などで振動系を支持する糸吊りサスペンションが、一時期国内のアマチュア間で盛んに行われたことがある。これを30cm級のウーファーを使い、コーン振幅が大きくなる分だけ、磁気回路のプレート厚の2〜3倍の巻幅をもつロングボイスコイルと、それに対応するエッジ、スパイダーを組み合わせ、完全に気密構造のエンクロージュアに密閉して、内部の空気そのものを振動系のサスペンションとする方式が、ARの特徴だ。
 幅広ボイスコイル採用だけに能率は激減し、この低下に見合う強力なアンプが必要となる。時代は折よく半導体アンプの登場期で、真空管と比べ圧倒的にハイパワーが低価格で可能となったことがこの方式の確立に大きく寄与している。
 ARの代表作は64年発売の30cm3ウェイ機のAR3aで、20cm2ウェイ機AR4x,25cm3ウェイ機AR5などがラインナップされ、独自な形態のAR−LSTがその頂点に立つシステムであった。約30年の歳月が経過し、ARはこれも超高級スピーカーで高名なジェンセン・グループに属しているが、AR3aの復刻版が限定発売され、再びハイファイマーケットで、かつての名声が復活しつつある。

AR Model 310HO

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 最新作HOシリーズは、ハイアウトプットを意味する高能率型で、旧インフィニティのケアリー・クリスティ氏が独立した会社でARのために開発した、クリスティ・デザインの叡知を結集した力作で、細部に独自の音響処理が施された最先端技術の成果ともいえる傑作。キメ細かな音とダイナミックな音を巧みにミックスしたサウンドは、さすがに名手の手腕が光る印象だ。

AR AR303a, AR218V, AR338, Limited Model 6

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 AR303aは、AR3aの現代版。平均的な密閉箱となり低域は明るく、独特なソフトドーム型ならではの中・高域は素直。AR218Vは小型2ウェイ型で、フレッシュな鳴り方が魅力。AR338は、20cm3ウェイ型で非常に魅力的な好製品だ。スペクトラルEQのモデル6は、マーク・レビンソン氏が参加した開発だけに調整能力は非常に高く、任意にサウンドコントロールできるEQとして特筆に値するモデルだ。

AR Limited Model 2, Limited Model 200

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 プリアンプのモデル2、パワーアンプのモデル200も、リミテッド・シリーズの製品。素直な音のアンプで個性的な面が少ないが、内容は十分に濃く、安心して使えるスタビリティの高さと高級機ならではの陥落が音として聴かれるのは、さすがである。

アコースティックリサーチ AR-9

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 AR・AR9は、4ウェイ・5スピーカーのトールボーイ型で、ユニークなエンクロージュア構造をもったアコースティックサスペンション型。一時代前のAR3aに代表される音とはかなり趣きを異にし、より明るく軽く響くようになった。滑らかで力のある音の質感は広く音楽の性格に合う。

AR AR-9

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 個々の音はしっかりと押しだされてくる。したがって、ここできける音は、手ごたえたしかだ。スケール感、エネルギー感への対応も、充分だ。とりわけ❷のレコードでのピアノの音などは、しっかりあぶなげがない。❸のレコードでも前にでてくる音の力ではかなり満足すべきものがあるものの、横へのひろがりということでは、不足する。ブラスが力強さをあきらかにしながらつっこんでくる一方で、低音弦がゆたかにひびく。その中央で、バルツァが鋭い表情でうたう。その辺の音色対比の正確さは、このスピーカーシステムが水準をこえた実力をそなえていることの裏づけになるだろう。ただ、このスピーカーシステムは、できるだけパワーを入れてならした方が、ひびきにつやもでるし、生気にもとむということがあるので、おさえめの音量できくことをこのむ人にはむかないだろう。

総合採点:8

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(好ましい)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

AR AR-9

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 目の前に置かれてみると、見上げるような感じで、相当に大型の、背の高いスピーカーであることがわかる。まず一聴してわかるのは、高域のレインジを平らにしかもハイエンドまでよく伸ばしていること。そして、従来は中域を盛り上げて低・高両端をおさえぎみのいわゆるカマボコ型周波数特性であったが、新シリーズは現代的なフラットレスポンス型に変っている。つまりARはもはやアメリカ東海岸の一地方色(ローカルカラー)でなく、十分に国際的(インターナショナル)なバランスに仕上っている。さすがに大型でローエンドも十分量感があるためか、背面は必ずしも壁に密着させなくともよく伸びてきこえる。レベルコントロールはマイナス側に3dBステップと粗っぽいが、好みによって中高域または高域を、−3まで落としてソフトタッチに徹した方がよいこともありそうだ。このたっぷりと、いかにも血の濃い感じの音は、相当に聴きごたえがある。ながい時間聴き込んでゆくと、もうひと息、上質かつ緻密な質感や、音の艶を望みたくなってくるが、良いスピーカー。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:9
バランス:8
質感:8
スケール感:9
ステレオエフェクト:9
耐入力・ダイナミックレンジ:8
音の魅力度:8
組合せ:普通
設置・調整:やや工夫要

AR AR-9

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 往年のARとは大分違ったイメージの音だ。AR3シリーズに代表された、ハイクォリティながら抑圧された、のびのびした明るさのない音から脱却して、現在のAR製品の音は一段とヌケのよい明晰な音になった。しかし、その反面、音の品位ではやや劣るようにも聴こえる。このAR9は、現在のAR製品の代表機種といってよく、構成は4ウェイ5スピーカーである。非常にユニークな構造で、トールボーイのフロアー型密閉エンクロージュアに、30cmウーファーが2個両サイドに取り付けられ、ミッドバスとして20cmコーン型、スコーカーに3・8cm径、トゥイーターは1・9cm径のドーム型ユニットが使われている。音質は、かなり可能性の高い優れた性能に裏づけされたもので、ローレベルからハイレベルまでのリニアリティがよく、大音量再生にも安定している。バランスのよい、しなやかな質感でクラシックを聴かせる一方、ジャズ、ロックもなかなか力強いが、どこかに応答性の鈍さがつきまとうところが気になってしまう。

総合採点:8

アコースティックリサーチ AR-9

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 同社初のトールボーイ・フロアー型で、両側面に取付けられた30cmウーファー、20cmミッド、ドーム型のミッドハイとトゥイーターによる4ウェイ5スピーカー構成。

アコースティックリサーチ AR-10π

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 一時のARサウンドからするとずいぶん明るくなり、従来の重厚さに加えて音の抜けがよくなった。クラシック、ジャズを問わず実に立派な再生をしてくれる。

アコースティックリサーチ AR14

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

元祖ARの目を見張る変身が見事に明晰に結実。

アコースティックリサーチ AR-17

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 質感は必ずしも上等とはいえないが、つまり本来しっとりと艶やかに鳴って欲しいドイツ・グラモフォンやEMI録音のオーケストラや弦合奏の音でも、いささか乾いた傾向のそっけない音で鳴らしてしまう性質がある。がそれを別として、クラシックからポップスに至るどのテストソースを鳴らしても、ことにかなりの音量で鳴らしても、国産の一部のスピーカーにありがちの、ことさら中〜高域を張り出さしたためにヒステリックな音に聴こえたり、あるいはこれみよがしの店頭効果を狙ったり、または中域から低域にかけてのどこか箱の中にこもるような、要するに音域のどこかに不自然さを感じさせるような要素がほとんど感じられず、すべてのプログラムソースを、ひととおり気持よく聴けるという点は、やはりさすがだと思わせる。とはいっても、アメリカの東海岸で作られるスピーカーの大半がそうであるように、聴感上は高域をおさえこんで丸めてあり(それが聴きやすさの一因でもあるが)、また小型であるだけに低域の量感も十分とはいえない。台はやや高め(約50センチ)で、背面を壁につけるのがよかった。音の艶を補うにはSTS455Eがいいかと思ったが、逆にピカリングXSV3000などのように中域の密度の濃い音でドライブする方が、ことにシェフィールドのダイレクトカットなどのソースで一種説得力のある音が得られた。

アコースティックリサーチ AR-17

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶自然にひびくピッチカート。強調感のないのがいい。
❷あいまいにならず、力を感じさせる低音弦のひびきがきける。
❸フラジオレットの音色はきわだたず、ひかめにしかきこえない。
❹たっぷりしたひびきの第1ヴァイオリン。ピッチカートはふくらむ。
❺クライマックスにいたるクレッシェンドは自然で、無理がない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音のまろやかさが、特徴的であり好ましい。
❷音色対比がきわめて自然で、しかも鮮明である。
❸響きのとけあいが、よく示されて、ききやすい。
❹響きに自然なのびやかさがあり、好ましい。
❺木管楽器のしなやかな響きをよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のまろやかさを、誇張感なく自然に示す。
❷強調感なく、しかも広がりが感じられる。
❸各楽器の響きのとけあい方がいい。声とのバランスもこのましい。
❹はった声が硬くならず、はなはだききやすい。
❺バランスが自然で、無理なく、さまざまな響きがとけあう。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸の感じられないのはいいが、響きは重い。
❷言葉はあいまいにならないものの、全体に重い。
❸残響の誇張はなく、声のまろやかさをよく示す。
❹鮮明さということで、ものたりないところがある。
❺のびやかで、しなやかで自然なのびを示す。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比をくっきり示すが、音場的にはせまくるしい。
❷音のしびこみは、きわめてしなやかでいい。
❸浮遊感があり、スタティックにならないよさがある。
❹もう少しへだたりが示されてもいいだろう。
❺ピークは、力をもって、おしだしてくる音によっている。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶響きに軽みがたりない。広がりの点でももう一歩だ。
❷もともとの音像は大きめだが、せりだしてきかたはない。
❸響きが自然なふくらみを示し、効果的である。
❹すっきりときわだってきこえて、成果をあげる。
❺これみよがしにではないが、きこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶響きがまろやかではあるが、ここで特徴的な音色を示す。
❷腰のすわった音で、響きの厚みと、力とを明らかにする。
❸響きは決して湿っていない。効果的である。
❹力のある音がいい。言葉もたって、ききやすい。
❺声と他の楽器のバランスが自然でこのましい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶筋肉質の音で、力感ゆたかに示される。
❷部分拡大になりすぎていないところがいい。
❸響きの消え方は、充分とはいえず、ものたりない。
❹細かい音の動きには充分に対応できている。
❺音色的対比は充分だが、音像対比の点でものたりない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さは示すが、響きは重い。
❷力感のあるブラスで、かなりの効果をあげる。
❸きわだたせるものの、刺激的にはならない。
❹響きのめがつみすぎているために、はれやかさが不足する。
❺ぼてついてはいないが、さらにシャープでもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶一応の距離感はとれて、広がりが感じられる。
❷響きがキメ細かく、しかも尺八らしさを示して好ましい。
❸特にきわだってはいないが、一応ききとれる。
❹このスケールゆたかな響きには、対応しきれていない。
❺充分にきこえる。しかもエフェクティブである。

アコースティックリサーチ AR-10π

 瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 ARばかりでなくアメリカ東海岸の音を必ずしも好きでないことはいろいろな機会に書いているつもりだが、その中でAR10πは、ライヴな広い部屋でハイパワーぎみに鳴らすとき、という条件つきだが、オーケストラの厚みの表現とバランスのよさで、印象に残っている音質だ。低音のレベルコントロールは便利。

アコースティックリサーチ AR-10π

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ブックシェルフ型スピーカーシステムの創始者である米AR社のブックシェルフ型システムのトップモデルである。基本的には、長くARの中心機種として高い評価を得ているAR−3a型を発展させたシステムと考えられるが、このシステムのもっとも大きな特長は、ウーファーのレベルコントロールをもつことであろう。設置条件の変化に応じて3段に変化するこのコントロールは、かなりの幅で、トータルなシステムのバランスを変えることができる。
 ハイパワーアンプとの組合せで、広い部屋で使えば驚くばかりの豊かな低低域が再生されるが、細やかさの表現でも、並のブックシェルフ型では及びもつかない繊細さも充分に聴かせてくれる。

アコースティックリサーチ AR-2aX, KLH Model 4

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 8つのスピーカー・システムということで、それを考えると、いざ名前を挙げるに従って8銘柄では少々物足りないのに悩んでしまう。
 8番目は、英国の名器とうわさ高い「ヴァイタボックス」の大型システムか、あるいは米国のかつてのビッグ・ネーム「クリプシュ」の現在の大型システムか、この2つのうちのひとつを挙げるのが、まず妥当なとこだろう。次点として、英国のローサの、これもコーナー型のホーンシステム。どれをとっても、低音はコーナーホーンで折返し形の長いホーンをそなえている。どれかひとつ、といういい方で、この中のひとつを絞るのは実は不可能なのだが、あえていうならヴァイタボックス。
 但し、これらは手元において聴いてみたいと思っても、それを確かめたことは一度もない。だから、人に勧めるなどとは、とてもおこがましくてできないというのが本音だ。そこで、よく知りつくしたのを最後に挙げよう。
 AR2aXまたはKLHモデル4だ。
 ARは今や2aXとなったが、その原形のAR2を今も手元で時折鳴らすこともあるくらいに気に入った唯一の本格的ブックシェルフ型。ARの低音はしばしば重すぎるといわれるが、それはAR3以後の低音で、AR2においては決して重ったるい響きはない。あくまでスッキリ、ゆったりで豊かさの中にゆとりさえあって、しかも引き緊った冴えも感じられる。高音ユニットは旧型がユニークだが、今日の新型2aXの方が、より自然な響きといえよう。
 KLHのモデル4は、同じ2ウェイでもブックシェルフとしてARよりひと足さきに完成した製品で、ブックシェルフ型の今日の普及の引き金となった名器だ。今でも初期の形と少しも変わらずに作り続けられているのが嬉しい。AR2よりも、ずっとおとなしく、クラシックや歌物を品よく鳴らす点で、今も立派に通用するシステムだ。持っていたい、たったひとつのブックシェルフといってよいだろう。

アコースティックリサーチ AR-10π

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 出力計をにらみながら、ピアノや管弦楽のフォルティシモの一瞬でしばしば100ワットを越すくらいまでパワーを上げてみる。ピアノが眼前で鳴るくらいの音量にしたときでも危なげのない安定な鳴り方。ソフトな肌ざわりを失わないバランスの良さ。とても気持ちの良い音だ。ピアノの実体感、スケールの大きさ、あるいは管弦楽のことに中~低音楽器群の音のふくらみや腰の強さの描写力は素晴らしい。反面、アルゲリッチのタッチの鋭さとか、弦合奏にともなう一種ざわめくような雰囲気、またはチェンバロの繊細な響きという面になると、たとえばスペンドールでは音の余韻が空気の中に溶け込んでゆくように消えてゆくのに対して、ARはそれを鋭い刃物で断ち切るようで、音量を絞ればなおのこと音の冴えや艶を失う。あくまでも柔らかなタッチの上等な音だ。50センチの標準台にインシュレーターを開始横位置にセット。背面を壁から離し、コントロールはLOWを4π、MIDを-3dB、HIGHを0dBにセットした。

採点:88点

アコースティックリサーチ AR-MST

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 梅雨の長雨の最中で、ARにとっては非常に具合の悪い環境であったにちがいないが、どことなくいじけた、明るさや弾みに欠けた音で鳴りはじめた。もうひとつ困ったのは、極端にハイが落ちたバランスで鳴ることで、これはARやKLHなどアメリカ東海岸の製品に共通の作り方だということは知っていても、少なくとも現代のハイファイスピーカーの流れの中では、高音を落しすぎではないかと思う。言いかえれば、この音は、アメリカ東海岸の一地方色とでもいうべきで、日本やヨーロッパの現代のスピーカーの音の掴え方からみるともはや異色の作り方である。こういう特徴のある音は、この音を好むか嫌うか、聴き馴れるか馴染めないかという問題になるのだろう。レベルコントロールを最大(インクリーズ)、カートリッジをエンパイア4000DIII、アンプのトーンコントロールでハイを上げて、バランスとしてはまあまあ整ったが、それとは別に音の余韻あるいは響きを抑える感じの、あるいは艶を消す傾向の鳴り方が、私にはどうしても馴染めない。

アコースティックリサーチ AR-4xa

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 バックグラウンド的に聴き流すセカンドシステム用としては実に聴きやすい音質で、パワーもよく入るし、置き方にあまり神経質にならなくても音の魅力を発揮できる。

アコースティックリサーチ AR-Amp

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 数あるアンプの中でもこれほど簡素で端正に整った美しい製品は少ない。仕上げが実に良く真鍮色の光沢のある磨き上げたようなパネルとツマミ、ARのマークと紅色のパイロットランプの対比の見事さは印刷や写真でなく実物を目にするまでは実感として伝わりにくいが、なにしろ魅力的なアンプだ。現時点では残念ながら音質が少々古くなってきたがデザインだけでも買いたくなる。そんな製品はそうザラにないだろう。

アコースティックリサーチ AR-LST

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 AR3aのあとにこれを聴くと、さすがに格が違う、という感じをまず受ける。第一に低音の土台がしっかりして音の坐りがよく、浮ついた感じの少しもない安定な鳴り方が、やはりローコストのスピーカーとは全然別ものであることを聴かせる。よく整って、中音域が充実した明るい音質。高域のレインジも広く、幕を取去ったようにクリアーな音。しっとりした音というには少々乾いた感じのほうが強いが、それは必ずしも不快な乾きでなく、むしろ音ばなれの良い、音の抜けの良い、といった印象になる。低音も緊っていながら弦の唸りや弾みがよく出る。ある水準を確かに突き抜けた品位の高い音質であることがよくわかる。ただ、スピーカーの構成上、第一に置き方によって音色がかなり大幅に変わる。それと関連して、二つのスピーカーの中央に坐ると、ちょっと身体を動かしても音像定位が動いたり位相が廻ったような変な気持になることがある。レベルコントロールも一個のノブで低・中・高音のバランスを変える独特なタイプで、使いこなしにはやや熟練が要求される。30万円という価格を考えると、ほかに名器が多いだけに選択が難しくなる。

周波数レンジ:☆☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆☆
解像力:☆☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆

アコースティックリサーチ AR-3a

瀬川冬樹

ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より

 このスピーカーには、よく、ウォームとかソフトなどの形容が使われるが、同じ暖かさでもたとえばディットン25の場合には薪を焚いた温かさ、スチームのぬくもりのような、どこか湿った温度を感じるのに対して、AR3aは電気ヒーターの乾いた暖かさとでもいえる。デザインが変ったが、音のバランスやレインジなど初期のものより自然な感じになってきた反面、パワーには少々弱くなってきたようにも思われて、音量を上げてゆくにつれて中域の張りが次第にやかましい感じが出てくる。それにしてもこのバランスはなかなか見事で、さすがはロングセラーの製品。どんな音楽を鳴らしても楽器固有の音色や合奏のバランスを実にうまく鳴らし分ける。本質的にシャープに切れこむタイプではないから、音像は多少太い感じに表現され、ソロ・ヴォーカルが中央にぴしっと定位するというような効果は出にくい。それは定位の問題よりもこのスピーカーの音の性質そのものともいえ、スクラッチノイズの出かたなどわずかだがまいわりつくような傾向が聴きとれ、上質な光沢が出にくい。バランスはよいがその辺のクォリティに薄手のところがある。

周波数レンジ:☆☆☆☆☆
質感:☆☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆

総合評価:☆☆☆