Category Archives: ヤマハ

ヤマハ CA-V1

岩崎千明
 
週刊FM No.12(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 同じようなブラック・パネルのアンプがこの所ぞくぞくという感じで各社から出てきたが、さすがヤマハ。日頃のデザインの腕をこの新製品にも発揮した。これだけの仕上げと風格があるのは、V1だけだ。VUメーターがこのプロ志向のパネルにぴったりで雰囲気を盛り上げているのだ。
 スイッチを入れて淡いライトで照らされるメーターのカッコ良さ。音が出ると、これまた力強いこと。ここでもまた、さすが、となる。ヤマハは若いコのハートをよく掴んどるねえ。パリッとしたさわやかな中域に加えて、ドカンと低音の力強い迫力、キラリと高音の効いてること。要するにうまいのである。デザインセンスとサウンドのセンス。白いパネルの従来のシリーズとは明らかに違ったヤマハの姿勢をV1の中に見い出すことができるのだ。パネルのつまみ配置は今までとあまり変わらないがツマミを減らして扱いやすい。
 前作X1のさらに普及型としてV1を受け止めることはできない。X1が白いパネルであることからもわかるようにV1はまったく生まれが違うのだ。X1がマニア好みのクリアーな力強さに対して、Vlはもっと誰もが親しめる音といってもよいだろう。V1の魅力をさらに増すのは、同じデザインの優れたチューナーが揃っている点だ。揃えて前におくとそれはまさに若いファンにとってオレのオーディオ・マシンという満足感を与えるに違いない。SPに同社のNS−451ならぴったり。これほど馬の、じゃない、音の合うのもちょっとあるまい。

ヤマハ YST-SW1000

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 等価回路から出発し、アンプの負性抵抗を応用してスピーカーの常識を破る低音再生能力を可能とした開発は、現在でも、いささかも色あせない見事な成果である。リモコン対応で左右2個使用では少々コントロールに苦労するが、DVDの超高域再生を受ける基盤として超低域再生は不可欠であるだけに、再び注目したい好製品。

ヤマハ AX-380

ヤマハのプリメインアンプAX380の広告
(サウンドレコパル 1994年夏号掲載)

AX380

ヤマハ GT-CD2

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 CDプレーヤー/D/Aコンバーター篇」より

 一流メーカーの作るもの、必ずしも一流品ではないし、一流品が必ずしも一流メーカー製とも限らない。とくに日本のメーカーのように規模が大きく、作る商品のカテゴリーが多く、同じカテゴリーの商品の代表モデルから高級モデルまでを広く網羅するとなると、ますます、前述のことが強く考えられる。ヤマハは間違いなく一流メーカーであろう。楽器、オーディオに限らず、スポーツ用品からユニットバスや家具・住設に至る幅広い商品の全部が一流品なのかどうかは知らない。しかし、オーディオに限っていえば、そこにはたしかに一流品といえるクォリティと、製造者の意気込みが感じられるものを作り続けてきたと思う。
 本機は、本機の原機となったGT−CD1の妹分に当る製品である。普通、原機のヴァージョンアップ・モデルが残って妹分は消えるものだが、この場合、姉に当るGT−CD1が消えてしまった。妹分として、より低い価格ながら、音はむしろこのほうが好評であった結果であろう。
 木材を豊かに効果的に使い、アナログプレーヤーで培った響体のあり方へのノウハウを活かした独特な高剛性、重量構造を採用したもので、見た眼にも暖かい安定感を与えるCDプレーヤーである。グラス製の開閉リッドを持つトップローディングモデルで、ディスク・スタビライザーで回転の安定を得ている。
 外装関係でGT−CD1よりコストダウンをしているが性能的には同等だし、音質はこちらのほうが柔軟性があって暖かい。透明な音場の見透しがCD1で印象的であったが、このCD2でも、それは保たれている。
使いこなしのポイント
 低域のしなやかな厚味はこのCD2の方がよいと思われるが、これはインシュレーターや置き場所でかなり大幅に変化するので、ユーザーの使い方によるところが大きい。すべての回転機器に共通した性格だから、アナログプレーヤーと同じょうな感覚で使いこなしたい。

ヤマハ GF-1

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 ヤマハがスピーカー技術のすべてをかけて製造する文字通りのプレスティージモデルといえるスピーカーシステムである。低域には同社の独自の技術であるYST方式という特殊な低音再生方式を採用しているところが大きな特徴である。負性インピーダンス駆動方式と呼ばれるもので、専用の回路を必要とするが、このシステムでは4ウェイ4ユニットのすべてを、それぞれ独立した専用アンプで駆動するというマルチアンプ方式として発展させたことも特筆に値する点だ。
 スピーカーシステムとしてこのアンプ内蔵方式は、理想の方式として従来から高級機には見られたものだが、ここまで徹底した製品は珍しい。W71×H140×D63cmという大型エンクロージュアは重量が150kgに及ぶ。下から30cm、27cm口径のコーンユニット、そしてドームユニットはスコーカーが88φ、トゥイーターが30φという4ユニット4ウェイ構成を採っていて、ボトムエンドの30cm口径ウーファーがYST駆動である。つまり、いわばこれがサブウーファーで、その上に3ウェイ構成がのると見るのが妥当かもしれない。サブウーファーは60Hz以下を受け持ち、ウーファーとスコーカー間は600Hz、スコーカー/トゥイーター間は4kHzのクロスオーバー周波数だ。この周波数に固定された専用のチャンネルディヴァイダーを持っている。ユニットの振動板材料は、このシステムの開発時にヤマハが理想とするものを使ったわけで、コーン材はケブラー繊維に金蒸着を施したもの。ドーム材はヤマハが従来から使い続けているペリリウムをさらに薄く軽くして結晶の均一化を果した。これも金蒸着によりダンプしている。豊かな潤いのある艶っぼい質感とワイドレンジのスケールの大きさは見事なものである。ペアで500万円という価格だが、当然少量生産だし、これだけの力作なら納得できるのではないだろうか。音楽産業メーカー〝ヤマハ〟らしい製品だ。

ヤマハ YST-SW1000

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム/その他篇」より

 ヤマハはいうまでもなくわが国最大の音楽産業メーカーであり、世界的にも一流のブランドとして通用する。このメーカーは楽器という人間の感性に直結する美を生命とする道具を作って1世紀を超える社歴をもっているのだから凄い。しかも、それを現代的な産業に発展させ人間という曖昧な対象にシステマティツクに対応する術を培ってきた。この体質はオーディオに最も適するものだと思う。それは電気機具を作って売るマスの体質をもった電機メーカーが今のようにオーディオの趣味の世界を台無しにしたことを思うからである。そのヤマハも大電機メーカーとの競争、泥仕合いにまみれたのだから情けない……のだが、このところさすがに無益な競争の馬鹿馬鹿しさに気がついた同社は、先述のペア500万円のスピーカーシステムで姿勢の転換を示した。そのオリジナリティとなっているテクノロジーがYST方式と呼ぶヤマハ・サーボ・テクノロジーだ。負性インピーダンス駆動でウーファーをドライブしてエアマスで効率よく低音を再生するシステムである。口径の小さいウーファーでも豊かな低音を再生できるシステムであるため、ヤマハはこれを小型システムに導入し、それなりの成果は上げた。しかし、本来は大口径ウーファーとYSTの組合せで再生したときの低域の高品位ぶりを広くPRすべきだった。YSTは、同口径ウーファーなら最高効率で低域特性をのばすことができる方式だからである。しかも、このYSTウーファーが質的にも連り、高品位な低域再現を可能にするのは60Hz以下程度で使ったときだ。つまり、サブウーファーシステムとしても理想に近い姿は中〜大型システムとの併用だと思う。本機は30cm口径のYSTシステムで、タンノイのウェストミンスターやRHRとの併用で50Hz以上で使うと素晴らしい効果を発揮する。もちろん小型との併用が悪いわけではなく130Hz以上ならよいのe が、真価は以上述べた通りだ。

ヤマハ GT-CD1

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 CDプレーヤー/D/Aコンバーター篇」より

 CD初期には、アナログプレーヤーとは異なり、スピーカーからの音圧や外部振動による音質劣化がないことがデジタルオーディオの特徴である、といわれたCDプレーヤーも、次第に状況が変化してきて、最近ではCDプレーヤーの振動対策こそが高音質を得るための必須条件、とされていることはまことに皮肉な事実であるようだ。
 GT−CD1は、一般的なCDプレーヤーがアンプやカセットデッキ的な筐体構造を採用しているのに対し、アナログプレーヤーと同様な構想に基づく独自の筐体構造を採用している点に注目したい。外部振動ばかりでなく、内部振動にもCDプレーヤーは弱いという現実に即し、筐体構造をアナログプレーヤーと同等としたことは、簡単なことのようではあるが、見事な発想の転換であり、このモデルの到達可能な音質の限界を飛躍的に伸ばすことが可能となっている。上部のウッドブロックは厚さ60mmで、内部にCDドライブユニットを収納してあり、このブロックの底板である2・3mm厚鉄板が本機のメカニカルグラウンドに当る。四隅には六角断面の鉄柱があり、下側に伸びて本機の脚部となる構造である。下側の金属筐体に納まるDAC部は、前記の底板部分に懸架され、ぶら下がる構造となっており、鉄製底板は空間的にも電気的にもCDドライブ部とDAC部を分離独立させるため、外観は一体型に見えるが内容的にはセパレート型CDプレーヤーに等しく、しかもリアパネルを介さず、上下に短いシグナルパスが可能となる特徴を併せもつ。
 試聴モデルはプロトタイプではあるが、筐体構造の違いは明らかに音の違いとなって現われている。プログラムソースに対するしなやかな対応性の幅の広さをはじめ、音楽が演奏されている環境条件を十分に聴か
せるだけの音場感情報の豊かさが印象的であり、発売時までの一段の成長が期待できる意欲作である。

ヤマハ CX-2000, MX-2000

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 世界初のデジタルコントロールアンプとして脚光を浴びたCX10000を中心とするヤマハ10000シリーズは、見事なデザインと仕上げ、極限の性能に裏付けられた音質など、ヤマハ創業100周年記念の限定量産モデルとして高い評価を与えられた。今回、既発売のCDプレーヤーCDX2000、D/Aコンバーター内蔵プリメインアンプAX2000に続き、新製品として、デジタルAVコントロールアンプCX2000とパワーアンプMX2000、それにFM/AMチューナーTX2000が加わり、事実上のヤマハオーディオのトップランクを担う2000シリーズのラインナップが完成した。
 CX2000は、時代の要求に応えて、高いクォリティで、デジタル信号処理能力と映像信号処理能力を含め、ピュアオーディオのコントロールアンプとしての性能、音質を追求した新世代のコントロールセンターである。
 デジタル、AV信号も扱うコントロールアンプとして最大のポイントは、高いSN比を維持することにつきるだろう。そのためには、まず筐体関係で高周波や測定器に準ずるレベルで、シールドを施し分離しなければならない。
 全面的に銅メッキを施したフレーム、シャーシは、デジタル部、マイコン部、フォノイコライザー部、電源部、トーンアンプ部とフラットアンプ部を、それぞれ独立したBOXに分割収納する高剛性6BOXシャーシ構造が採用されている。この構造により、耐振性を向上させて、機械的振動による変調ノイズの発生による音質劣化も排除する設計だ。なおデジタル部は、パルス性雑音対策として銅メッキ製トップカバーで全体を覆い、厳重なシールド対策を施している。
 信号系は、MCヘッドアンプ付6ポジション負荷抵抗切替型フォノイコライザー部、高入力レベルのチューナーなどのアナログソース、8倍オーバーサンプリング18ビット・デジタルフィルターと、従来比でSN比を10dB向上した18ビット・ツインD/Aコンバーターを採用したデジタルソース、それにビデオソースの3ブロックで、これらのプログラムソースは、内部配線が短くできる半導体セレクタースイッチ、リモコン対応の4連ボリュウムを通り、20dBのフラットアンプ部に送られる。
 ソースダイレクトスイッチをONとすれば、フラットアンプ出力は、入力に4連ボリュウムの2連を使った0dBバッファーアンプを通り出力端子に送られる。次にスイッチをOFFにすれば、バランス詞整、モード、サブソニック、高・中・低音調整、連続可変ラウドネス調整を経由してバッファー入力に送られる。
 電源部は、デジタル・ビデオ部、アナログ部、マイコン部の独立3電源トランス採用。ビデオ電源は単独にON/OFF可能。デジタル電源は、アナログ入力選択時にデ
ーター復調回路のIC動作をとめる設計である。
 MX2000は、低インピーダンス駆動能力を重視したA級動作のステレオパワーアンプである。
 パワー段は、MX10000で開発されたHCA(双曲線変換増幅)回路により全負荷、全パワー領域でA級動作を可能としたHCA・A級増幅に特徴がある。ちなみに1Ω負荷のA級動作ダイナミックパワー600W+600Wを得ている。
 筐体構造は、銅メッキシャーシとフレーム採用の左右シンメトリー配置で、出力メーターを含むフロントパネル部、電源部、左右パワーアンプ部、電圧アンプ部、それにスピーカーリレー、出力コイルなどを収める出力ブロックの6ブロック構成である。
 注目したい点は、チムニー型ヒートシンクの配置が一般とは逆に内側に置き、パワーアンプ基板と電源トランスの干渉を避けた細心のコンストラクションである。
 電源部は、EI型コアの420VA電源トランスと、低箔倍率φ76mm、20000μF×2電解コンデンサーのペアである。
 CX2000とMX2000のペアは、音の粒子が細かく、滑らかに磨かれており、スムーズに延びたワイドレンジ型の帯域レスポンス、しなやかな表現力などは、従来のヤマハのセパレートアンプにはない、新しい音である。傾向として、十分にエージングに時間をかけたAX2000に近い。
 MC入力時には、ノイズ的な環境の悪いSS試聴室でも十分にSN比が高く保たれ、アナログならではの音が楽しめる。このことは、この種のアンプの重要なチェックポイントだ。
 デジタル入出力時は、光、同軸の差を素直に出し、銘柄、グレードの差が楽しめる。また各種CDのデジタル出力を使い、個々の音が楽しめるのも新しい魅力の展開だ。

ヤマハ MX-10000

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ15機種のパーソナルテスト」より

安定感のあるピシッと伸びた、フラット型の帯域バランスと、カラッとした良い意味での乾いた、硬質な魅力をもつ音だ。低域は質的には高いが柔らかいタイプで、中高域の少しメタリックな質感と巧みにバランスしている。プログラムソースとの対応は明快な音で表現するが、雰囲気も充分に伝える。太鼓連打での反応は、電源部の強力さが感じられ、並の250Wクラストは異なった力強さが聴き取れるが、なぜかアタックの瞬発力は標準プラス程度に留まった。

音質:86
魅力度:92

ヤマハ B-2x

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)
特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 やや硬質ではあるが、透明感が高く、濁りのない品位の高い再生音である。バッハのカンタータにおける弦合奏は暖かさよりも、さわやかさが印象的で、チェンバロの高域のハーモニクスが大変美しい。ソプラノもバリトンも凛として(ややしすぎかもしれない)端正だった。大編成オーケストラの音色の綾の再現も鮮やかで、細かい音色を明瞭に聴かせる。トゥッティの響きはやや軽く、豊かさと重厚さに欠ける傾向ではあった。ジャズはピアノの音色感がありのまま美しく、弾みも上々。

音質:8.2
価格を考慮した魅力度:8.2

ヤマハ B-2x

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)
特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 音を整理して、整然とした音を聴かせる、いかにもヤマハらしい個性的なサウンドを聴かせるアンプだ。全体に輪郭をクッキリとつけ、やや硬質に表現するが、まとまりとしては、やや低域の安定感に欠け、スッキリとはするが、長時間聴くと疲れそうな傾向がある。この状態で欲しいのは、力感とか余裕度である。平均的には、パワーアンプをダイレクトに使ったキツさと受取れやすいが、一度スピーカーコードを変えて聴いてみたい。CDダイレクト入力だけに試聴条件の影響大だ。

音質:8.0
価格を考慮した魅力度:8.9

ヤマハ MC-100

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 MC100は、ヤマハ独自の垂直系と水平系の発電コイルをマトリックスによって45/45方式に変換するクロス発電方式を採用した高級バージョンの新製品である。
 娠動系は、ヤマハらしくベリリュウムのテーパイドパイプと、8×40μmの特殊ダ円のソリッドスタイラス使用で、独自の段付ダンパーと60μmの特殊ピアノ線による一点支持方式だ。磁気回路はMC3と比べサマリュウムコバルト磁石を25%大型化しコイルは20μm径のOFC線を使った空芯の純粋MC型だ。
 ボディ材料は、ヘッドシェルと接するベース材に金属を採用し、高強度プラスチックのサブベースとは、SUSピンで固着し、トータルな不要振動を抑える設計だ。
 最適針圧1・4g±0・2gと発表されており、この値に針圧とインサイドフォースキャンセラーをセットし、PRA2000Zのヘッドアンプを使い音を聴く。
 プログラムソースは、ベルリオーズの幻想交響曲。アバド指揮のシカゴ演奏のグラモフォン盤である。やや軽いがシャープに反応をする程よく丸みのある音で、音色は明るく、帯域はナチュラルに伸びた現代型のバランスである。音像定位はクリアーだがエッジは柔らかいフワッとした定位感だ。バランスが良く、VL型独自の音溝を丹念に拾う特徴が活かされた水準以上の音だ。
 針圧を1・6gとし、IFCは1・5に変える。表情に少し穏やかさが加わるが、むしろ安定した印象となり、鮮度感が高いため見通しがよいアナログらしい音だ。ただし、音の表情は少し平均的である。
 一転して針圧1・25g、IFC1・25にする。少し変な数値だが、SMEの針圧目盛で仕方ないところだ。やや、線が細く、全体に音が整理された印象となり、反応の速さ、抜けの良さが目立つ音になる。針圧変化に対する音の変化は、このタイプとしては比較的に穏やかで、使いやすいMC型といえよう。
 針圧1・5g、IFC1・5で内蔵昇圧トランスに切替える。音に一種のメリハリが付いた、やや硬質だがクッキリとした明快な音で、クォリティも高く、VL型の魅力が素直に活きた音である。
 プログラムソースをポップス系とし、再びヘッドアンプ使用に戻す。針圧変化に対する音の傾向は、基本的にオーケストラと変わらない。音的に標準針圧を探ってみると針圧1・5g、IFC1・5が中心値で、低域の音の芯がクッキリとした爽やかな音が聴かれ、音場感の拡がり、音像定位でも一級の出来である。やや、音の表情に冷たさがあり、中高域の僅かなキラメキがMC100の個性だといえよう。もう少しクッキリとしたリッチな音が望ましく、IFCの量を少しアンバランスにするため針圧のみを約1・6gとする。安定感と彫りの深さが両立した、いかにもアナログディスクらしい音だ。平均的にはこの値がベストであろう。
 試みに、端子の±を逆にして音を聴く。鮮明さは下がるが、穏やかな雰囲気のある柔らかな響きが特徴の音だ。オーケストラはやや後方の席で聴く印象となる。針圧とIFCを1・25gとする。これも楽しい音。

ヤマハ CD-2000W

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ヤマハのCDプレーヤーは、自社開発の専用LSIの完成を待って出発するという、いかにもヤマハらしいユニークな製品づくりが目立つが、今回発売された新シリーズの7モデルは、そのラインナップから見ても、いよいよヤマハのCDプレーヤーが完成期を迎え、内容的にも一段と濃いものになってきたことを告げているようだ。
 ここで試聴したモデルは、型番に4桁のナンバーを持つCD1000、CD2000と2000Wの3機種中のトップモデルCD2000Wである。
 今回の一連の新製品開発は、機械的な振動とCDプレーヤーの音質との相関性を解くVMA(Vibrated Modulation AnalysiS=振動変調解析)手法の開発にはじまり、これに基づいてCDプレーヤー全体のメカニズム構造を検討し、各種の新発想による解決手段が施されていることに特徴がある。
 開発当初は、アコースティックな振動や機械的な据動に非常に強いといわれたCDプレーヤーであるが、ある程度電気系の完成度が高まるにつれ、予想以上にCDプレーヤーは振動に弱く、振動と音質の相関性を解明することが、効率よくCDプレーヤーの音質を向上する途であることが、メーカー側でも判ってきたようだ。
 このことをユーザー側から考えれば、CDプレーヤーは、アナログプレーヤー的にメカニズムの基本がしっかりしたものを選択すべきという、誰にでも判かる簡単なヒントを提供してくれたことになる。
 VMAに基づいて開発、採用されたものの代表は、VMスタビライザーと高剛性ダブルボトムがある。前者は、アナログ用基板の振動制御に銅メッキメタル製スタビライザーを組み合わせたもの。後考は、筐体の盲点である底板部分を二重構造として、重量と剛性を上げて防振対策をするものだ。
 電気系の特徴は、新開発3ビーム光ヘッドに新製品中唯一の球面ガラスレンズ採用、小型低消費電力化された二種の新LSI、新D/Aコンバーターと左右独立デジタルフィルターの他に、高級アンプ並みに低インピーダンス大容量電源など、高級機らしくヤマハのエレクトロニクス技術の成果を充分に活かした設計が見受けられる。
 機能面は、10キー・27モードのリモコンが付属し、可変出力端子とヘッドフォンをリモートコントロール可能。FL6桁表示ディスプレイは、パーグラフ出力レベル表示付、12曲プログラム選曲などがある。
 試聴を始めよう。初期のウォームアップ、CDのセンタリング精度などは標準的な範囲だが、本機の音は、素直な帯域バランスと正攻法でビシッと音を決めて聴かせる、いかにもヤマハらしい音だ。音の粒子は適度に細かく、聴感上のSN比も充分にあり、音場感、音像定位も優れる。アナログで培かったヤマハらしい音の魅力をCDで聴かせてくれる。これはよい製品である。

ヤマハ C-2x

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプは、情緒的な面よりも、まず、その物理特性の優れた、ワイドレンジと粒立ちのよさが印象的だ。したがって、全ての音楽的特徴に対して平均的に堅実な再生音を聴かせてくれるのがよい。しかし、裏返しに、深い思い入れや、個性の魅力といった面では物足りなさを感じるかもしれない。オーディオは物理特性の優秀さが最重点だとは解ってはいても、感性や情緒はそれだけでは満たされぬところが面白くも難しい。優等性的なアンプ。
[AD試聴]Fレンジも広く、スケールも大きいオーケストラの再生音は力感に溢れている。やや賑やかなのが高域の特徴。しかし、これは録音のせいかもしれない。東独のオーケストラにしては渋い味のある音が、派手になる傾向だ。「蝙蝠」のステージ感の拡がりや空間の豊かさにも優れた再生を聴かせるし、過不足のない音だが、もう一つ魅力に欠ける。ジャズもヴォーカルも、やや太目の印象で、力感はあるが、ベースの響きが少々重く、弾みに欠ける嫌いがある。
[CD試聴]CDの再生音はやはり全てのプログラムソースをストレートに聴かせる傾向である。CD臭さを強調するわけでもないし、かといって、丸めて無難に聴かせるわけでもない。どちらかというとJBLの方が合っていて、説得力のある再生音を楽しむことが出来る。B&Wでは、あまりに中庸的で魅力に欠けるようだ。が、B&W801Fからシンバルの硬質な響きをちゃんと聴かせた数少ないプリの一つ。ミュート・トランペットも鋭く、かつボディがある。

ヤマハ MC-505

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧は、中低域ベースの穏やかな音。低域は軟調で、奥に音が引込み、ホール後席の音の印象で、鮮度不足だ。針圧上限で安定感が向上し、明快でプレゼンスが出てくる。針圧下限は、軽いが、浮いた印象で、表面的な華やかさだ。雰囲気は独特なものがあり、フワッと拡がる音場は面白い。標準から上限がポイントで、1・75gにする。安定感のあるクリアーな音で、少し線は太いがプレゼンスもあり、ベストに近い音だ。SMEの針圧目盛で標準と1・75gの中間にする。音に伸びやかさが加わり、エッジも適度に張った線のシャープな音だ。IFCを1・5にもどす。音場感が爽やかに拡がり、これがベスト。
 ファンタジアは、響きが豊かで、ライブ的な印象となる。ベースは柔らかく少しふくらみ軟調だが、ブックシェルフ型には好適なバランスだ。
 アル・ジャロウはやや大柄なイメージのボーカルで、力強さが今一歩、必要だろう。

ヤマハ A-1000

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ヤマハからの新製品A1000は、昨年、高級プリメインアンプの市場に投入され見事な成果を収めたA2000と基本的に同一コンセプトをもつ製品である。
 このところ、ブラックパネルが大流行のようで、視覚的に各社間のデザイン的な特徴が希薄になりがちのなかにあって、ツヤを抑えたヤマハ独自のシルバー仕上げのパネルと、ウォルナット鏡面仕上げのウッドキャビネットを配したデザインは、クリアーで、エレガントな雰囲気をもつ新しいヤマハの顔であり、A2000とのパネルフェイスの違いは、好みが分かれるところであろう。
 アンプとしての構成は、MC型カートリッジをダイレクト使用可能な、NF/CR型ハイゲインイコライザー、低域をスピーカーに対応して約1オクターブ伸ばす独自の3段切替リッチネス回路とト-ンコントロールを備えたラインアンプ、B2x、A2000パワーアンプ部に順次採用されてきた、純A級アンプに電力損失を受持つAB級パワーアンプを組み合せたヤマハ独自のデュアル・アンプ・クラスA方式の120W+120W(6Ω負荷)、140W+140W(4Ω負荷)の出力をもつパワーアンプ、の3ブロック構成で、A2000の流れを受け継ぐものである。なお、パワーアンプ部にはヤマハ独自開発のZDR歪回路を採用し、一般的な純A級パワーアンプのわずかの素子の非直線性に起因する歪をも除去し超A級ともいえるリニアリティを実現し、織細で美しい音を得ている。
 電源部は、多分割箔マルチ端子構造ケミコン採用で、総計14万6千μFの超強力電源を構成し、2Ω負荷時のダイナミックパワーは、279W+279Wを得ている。
 機能面では、入力切替スイッチに2系統のTAPE入力を組み込み、アクセサリー端子を独立して設けたのが特徴。AV対応時のサラウンドアンプやグラフィックイコライザーなどの接続時に使い、使用しないときにはショートバーで結んでいる。なお、この端子の後に、ミューティング、モード、バランス、ボリュウムコントロールがあるため、接続されるアクセサリー横器の残留ノイズ等はボリュウムで絞られ、通常の使用時でのSN比は良く保たれる。
 JBL4344とLC-OFCコードによるヒアリングでは、音の粒子が、細かく滑らかに磨き込まれており、素直に伸びた適度なワイドレンジ感と、自然な雰囲気の音場感的な拡がりが印象的で、ナチュラルサウンドの名にふさわしく、洗練された音だ。A2000と比較すれば、全体の音を描く線が、細く、滑らかなのが特徴であり、このしなやかな表現力は、使うにしたがって本来の良さが判ってくるタイプの魅力だ。リッチネスを使うときのポイントは、わずかに、トレブルを増強することだ。

テクニクス SE-A1、ヤマハ 101M

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 セパレート型アンプのジャンルでは、コントロールアンプに比較して、パワーアンプに名作、傑作と呼ばれる製品が多い傾向が強いように思われる。
 こと、コントロールアンプに関しては、管球アンプの以前から考えてみても、いま、残しておきたい音というと、個人的には、管球アンプのマランツ♯7と、ソリッドステート以後ではマーク・レヴィンソンLNP2の2モデルしか興味がない。
 これに比較すれば、パワーアンプではいま聴きたい音、あるいはとっておきたい音は数限りなくあるといってもよいし、個人的にもパワーアンプのほうが好きなようで、手もとに残してある製品を考えても、パワーアンプの総数はコントロールアンプの3倍はあると思う。とくに、この号が発刊される頃(秋)は、感覚的にも、管球アンプを使いだすシーズンであり、音的には体質にマッチしないが、マッキントッシュMC275を再度入手したいような心境である。
 国内製品でも、パワーアンプには興味深い製品が数々あり、AクラスパワーアンプのエクスクルーシヴM4、全段FET構成のヤマハBI、 ハイパワー管球アンプのデンオンPOA1000Bなどは、オーディオの夢を華やかに咲かせた。それぞれの時代の名作であり、コレクション的にも興味のある作品と思う。
 パワーアンプでAクラス増幅の高品位とBクラス増幅の高効率が論議され、各社から各種のBクラス増幅のスイッチング歪とクロスオーバー歪を低減する新方式が開発された時点で、スイッチング歪とクロスオーバー歪の両方が発生せず、しかもAクラス増幅で350W+350Wという超弩級のパワーをもつ驚異的なパワーアンプとして、テクニクスから1977年9月に登場した製品がテクニクスA1だ。
 テクニクスの伝統ともいうべきか、全段Aクラス増幅のDCコントロールアンプのテクニクスA2と同時に発表されたA1は、独特のコロンブスの卵的発想によるAプラス級動作と名付けられた新方式を採用した点に最大の特徴がある。
 基本構想は、スイッチング歪とクロスオーバー歪が発生しない低出力A級増幅パワーアンプの電源の中点をフローティングし、別に独立した電源アンプで信号の出力増幅に追従するようにA級増幅アンプの電源中点をドライブするという2段構えの構成での高効率化である。
 これにより、アンプの外形寸法はA級増幅の100W+100Wなみに抑えることが可能となり、しかも強制空冷用のファンなしの静かなパワーアンプが可能となったわけだ。またこのモデルは、入力や出力のカップリングコンデンサーや、NFBループ中にもコンデンサーのないDCアンプを採用しながら、DCドリフト対策として、出力のDCドリフト成分を信号系とは別系統の系を通してDCドリフトの要因となる回路素子に熱的にフィードバックし、素子間の温度バランスを補正し、DCドリフトの要因そのものを打消すアクティブサーマルサーボ方式を採用していることも特徴である。
 機能面は、4Ω、6Ω、8Ω、16Ωのスピーカーインピーダンスによる指示変化を切替スイッチで調整可能の対数圧縮等間隔指示のピークパワーメーター、レベルコントロールによりプリセット可能な4系統のスピーカー端子、2系統の入力切替、電源のON/OFFのリモートコントロールなどが備わっている。
 周波数特性、DC〜200kHz −1dB、スルーレイト70V/μsec、350W+350W定格出力時(20Hz〜20kHz)で0・003%のTHDと、スペックのどれをとってもパワーアンプとして考えられる極限の性能を備えていた。しかも、業務用ではなく、純粋にコンシュマーユースとして開発された点に最大の特徴がある製品だ。
 柔らかく、穏やかな表情と、しなやかで、キメ細かい音が特徴であったが、余裕たっぷりの絶大なスケール感は、ハイパワーであり、かつ、ハイクォリティのパワーアンプのみが到達できる独自の魅力で、現在でも鮮やかに印象として残るものである。今あらためて、ぜひとも最新のプログラムソースと最新のスピーカーシステムで聴いてみたい音だ。また、このAプラス級増幅方式と共通の構想として、それ以後、エクスクルーシヴM5、ヤマハB2xなどが誕生していることも、見逃せない点だ。
 1982年末に、500W十500Wという超弩級ステレオパワーアンプとして初登場したモデルが、ヤマハ101Mである。外観のデザイン面からも判然とするように、ヤマハ一連のアンプデザインと異なった印象を受けるが、基本構想はレコーディングスタジオでのモニターアンプ用として開発されたモデルでナンバー末尾のMは、モニターの意味であると聞いている。
 構成は、筐体は共有しているが、内部は電源コードまでを含み完全に左右チャンネルは独立した機構設計をもっている。人力系は、欧米でのスタジオユースを考えオスとメスのキャノン型バランス入力とRCAピンのアンバランス入力とレベルコントロール、さらに、BTL切替スイッチが備わり、BTL動作時は、1500W(8Ω)のモノパワーアンプになる。なお、出力系は、切替スイッチはなく、1系統のダイレクト出力端子のみ、というのは、いかにも、プロフェッショナル仕様らしい。
 パワー段は、+−70V動作のメタルキャンケース入り、Pc200Wパワートランジスター5パラ動作をベースに、+−120V動作の4パラ動作が必要に応じて加わる方式で、ヤマハ独白のZDR方式採用でパワーパワー段での各種歪、スピーカーの逆起電力による歪までをキャンセルし、定格出力時THD0・003%は、見事な値だ。
 音の輪郭をシャープに描き出し、ストレートに力強い表現をする音は、一種の厳しさをも感ずる凄さがあり、国内製品として異次元の世界を聴かせた印象は今も強烈だ。

ヤマハ CD-2

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ヤマハのCDプレーヤーは、価格的にもトップランクの高級機、CD1が最初の製品であった。比較的に短期間に、CD1は、改良が加えられ、CD1aに発展するが、これと、ほぼ時を同じくして、かつてパワーFETの開発で注目を集めた、独自の半導体技術を駆使して、驚異的短期間に、CD専用LSIを完成させ、これを搭載したモデル、CD−X1は10万円のボーダーラインを最初にきった製品として、センセーショナルに登場した。
 今回、発売されるCD2は、価格的には、コンポーネントライクなCDプレーヤーが数多く存在する価格帯の、やや下に価格設定をされた、ヤマハCDプレーヤーのスタンダードモデルともいうべき新製品である。
 基本的なベースとなったものは、CD−X1であるが、外形寸法が、いわゆるコンポーネントサイズの横幅435mmにまとめられているように、筐体関係は完全に基本から新設計された、ヤマハの第3世代のCDプレーヤーである。
 CDプレーヤー独特の高度な音質と使いやすさの2点を両立させたモデルとして開発された印象を受けるCD2は、クォリティオーディオを推進するヤマハの製品らしく、その基本は当然のことながら音質を優先させた開発であることは、いうまでもない。
 現時点でのCDプレーヤーの音質についての要求は、大別してアナログ的な味わいを残したタイプと、デジタルならではの高性能さを、ストレートに音に活かしたタイプに分けられているように思われる。
 ヤマハの製品で考えれば、第一弾製品であるCD1は、やや前者寄りに属する音が特徴であり、CD−X1は、基本的な音質に重点をおいて聴けば、ある種の物足りなさを感じるのは、価格から考えれば当然のことであるが、その素姓の素直さ、という聴きかたをすれば、シンプル・イズ・ベストの例のようにむしろCD1/1aを上廻るものがあると私は思う。
 余談にはなるが、安易にコントロールアンプの上に積重ねて、CD1/1aを使っているとすれば、CD−X1を充分に使いこなして追込めば、クォリティ的にはかなり、近接した結果にすることは可能である。
 このあたりが、価格に関係なく基本性能が、ほぼ同じである、CDプレーヤーの前例のない大きな特徴であろう。
 CD2は、開発にあたり、音づくりではなく、CD本来の可能性を最高に引出すことをテーマとしており、この考えかたは今後のCDプレーヤーの標準的な流れとなるであろう。
 その内容は、音に大きく影響を与えるフィルターには、ヤマハが開発したLSIに内蔵したデジタルフィルターとアナログフィルターを組み合わせた、いわゆる音が良いフィルターを使用し、電源部には大型低インピーダンス電源トランス、配線は無酸素銅線、アース系の銅板バスバーなどを、アナログ系アンプには、アンプで手がけているクォリティパーツを導入している。
 光ピックアップは3ビーム方式で、独自のアドレス制御法により、再生系の回転変動を吸収し正確な信号読取りが可能。
 筐体関係は、機械的な設計や加工で定評のある、ヤマハの技術を充分に活かした設計で、細部にわたる振動や共鳴の制御は、CDプレーヤーにおける、独自のノウハウの産物のように思われる。このあたりが、優れたCDの音を最良に引出すための陰の立役者なのである。
 機能面は豊富であり、常時受付けの10キー、12曲までのランダムメモリー再生が可能。A−B2点間を含むリピート機能に加えて、曲間及びABリピート繰返し間に+3秒の間隔を作るスペ−ス・プレイやディスクを挿入すると自動的にプレイするAUTO、プレイボタンで再生スタートするNORM、1曲ごとにポーズ状態となるSINGLEの3段階に切換わるプレイモードが特徴的な機能である。なお付属の赤外線リモコンは、基本操作のほとんどをカバーする機能を備える。
 試聴は、JBL4344とデンオンPRA2000ZとPOA3000Zを使う。
 ディスクを装着するトレイの動きと音は軽いタイプであるが、機械的な精度は高いらしく装着時の音も、不快な共振や共鳴が抑えられたカタッと決まった印象がある。付属のRCAピンコードは、平均的なタイプで、聴感上の帯域バランスは、ハイエンドとロ−エンドを少し抑えた、いわば、安定型で、比較的にキャラクターをもつ中級ブックシェルフ型スピーカーや、機構的な追込みや、コントロールが難しい中級のプリメインアンプでは、この程度のバランスがマッチすると推測される。
 各種のRCAピンコードを試用し、追込んでみると、CD2の潜在的な能力が次第に発揮されるようになり、帯域バランスもワイドレンジ型に変わり、音場感の空間情報の豊かさや、定位感がシャープに決まるようになる。CDプレーヤーの置き場所を選び安定させると、コンパクトディスクの録音の差や、アンプ系のわずかのキャラクターも音として検知できるようになってくる。このときの音は、適度に伸びやかで、軽快なイメージのサウンドである。いわゆるデジタル的な浮上がった吾がなく、ノイズの質もかなり良い。
 使い勝手は機能が豊富だけに、ある程度の慣れが要求されるが、当然のことだろうう。総合的にみて、CDプレーヤーとして、トータルバランスが優れており、開発目的を充分に達成した印象が強い製品だ。

ヤマハ NS-1000M

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 発売当初は、スリリングなまでに鮮烈なイメージを受けた独自のサウンドも、年月を経過するにしたがい、現在では激しさは姿をひそめ、むしろ、ナチュラルで、標準的な音をもったシステムという印象だ。
 この変化は、単に時代の変化という言葉で片づけることもできようが、その背景には、数多くの要素が複雑に絡みあっていると思う。
 まず、スピーカーシステムは、その基本的な部分が機械系のメカニズムをもつためいわゆるメカニズムとしての熟成度の向上が大きい要素だろう。平均的に言って、スピーカーシステムでは、試作段階のタイプより、生産ラインに乗せてひとたび生産ライン面でのクォリティコントロールが確保されてからの製品のほうが、よりスムーズで、穏やかな、安定感のある音となる傾向が強いようだ。
 経験上では、NS1000Mもこの好例のひとつで、初期の製品よりも、序々に生産台数が増加するにつれ、角がとれた大人っぼい印象の音に変化をしている。
 また、ある期間にわたって使い込んでいく間にみせるエージングの効果も明瞭にあり、前にも述べたが、トゥイーターの音が滑らかになるとともに、スコーカーは、受持帯域の下側が豊かになり、ウーファーとのつながりが厚く、一段と安定感のあるバランスに移行する。
 一方、超ロングセラーを誇るモデルだけに、細部のモディファイやリファインが行われているようで、気のついたことをあげれば、まず低域の質感と音色の変化である。初期製品は、中低域の量感を重視した、当時新開発のコーン紙を採用していたためか、いわゆるダイナミックな表現力を志向して、重低音と感ずる帯域に、力強く、ゴリッとした印象のアクセントを持っていた。しかし、しばらく期間が経過した後に、重低音の力強さは一歩退き、豊かで、まろやかな質感へと変化している。
 当然のことながら、材料の性質をナチュラルに活かしたものとして好ましいモディファイであると思う。ちなみに、巷の話では、現在の中低域の豊かさを保ちながら、重低音の厚み、力強さが出ればベスト、といった説明や解説がみられる。質的なものを犠牲にすれば、不可能ではないが、質的なレベルを維持するかぎり、平均的な構成の3ウェイシステムでは、ウーファーの受持帯域内の聴感上のレスポンスは重低域を重視すれば、中低域の量感は減じ、逆に、中低域の量感を得れば、垂低域のアクセントは消失するもので、それを両立させようという要求は、原理的に不可能な要求である。
 その理由は、特別な処置をしないかぎり、アンプからウーファーのボイスコイルに送られるエネルギー量は一定であるからだ。現実にコントロールできるのは、この一定のエネルギーを、聴感上で、どの帯域に分布させるかが、チューニングの基本である。もちろん、機械的な共振や空気的な共鳴を利用すれば、聴感上でのエネルギー感は増加をするが、クォリティの確保はできない。
 話題が少し外れたが、再びNS1000Mに戻れば、低域の変化に続いて、この低域とバランスをとるためか、高域の音の輪郭が少し強調され、表現を変えれば、質感が少し粗いと感じられたこともあった。
 また、2〜3年前頃だと思うが、ネットワーク関係が見直され、中域、高域のクォリティが向上し、音場感的な空間情報量が豊かになり、聴感上でのSN此が改善されるというリファインもあった。
 もちろん、振動板系においては、他の金属と合金を作りやすい特徴を活かした素材的な進歩があり、品質の向上が早いテンポでおこなわれる接着剤関係の改良、そして配線用線材なども、おそらく変更されているのではないかとも思われる。
 熟成し、完成度が高い現在のNS1000Mは、平均的には、使いやすいタイプである。なお、5モデルのスピーカーは、パイオニアP3aとオルトフォンMC20II、ソニーCDP701ESS、デンオンPRA2000Z、POA3000Zを組み合わせて試聴をおこなった。
 置台には、表面にビニール系のテーブルクロス状の布を張った本誌試聴室で使っているコンクリートブロックを、一段、横置きにして使う。左右間隔は、底板が半分乗った基準位置、前後方向は、中央より少し前側が、この部屋では好ましい位置だ。
 順序に従って、ユニット取付ネジなどの増締めを行なうと、その効果もクリアーで、かなり、リフレッシュしたサウンドに変わる。
 使いこなしの要点は、左右スピーカーを、メーカー指定とは逆に、アッテネーターが外側にくるようセットすることである。その理由は、大きなヤマハのエンブレム、2個のアッテネーターパネルとツマミからの輻射や雑共振が、中高域から高域の音を汚しているからで、逆に置けば、聴感上のSN比は向上し、音場感的な拡がりは明瞭にクリアーになる。
 概略のセッティングを完了し、ここでスピーカーコードを常用のFケーブルから日立製OFC同軸コードの外皮を+、芯線を−とする使用に変える。Fケーブルでの、中域重視型ともいえる、ややカマボコ型のレスポンスが、フラット傾向の誇張感のない、ややワイドレンジ型になり、分解能が一段と向上した反応の早い音は、現時点でも立派だ。
 結論としては、完成度が高く、構成部品のバランスが優れているところが、このモデルの際立つ特徴で、使い込めば、現代でも第一級のクォリティが得られる見事な内容を備える。ただし、ウーファー前面のパンチングメタルの共鳴が少しきついのが、アキレス腱的存在である。しかし、取外したとしても、トータルバランスは劣化するから要注意。
 組み合わせたのは、音場感情報が多くなったアンプと重量級CDのペアだ。使いこなしの要点を整理し、順序を守ってトライすれば好ましい結果は比較的容易に得られよう。

ユニットの美学──ヤマハNS1000M以降、現代日本スピーカーの座標を聴く

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 現在の日本のオーディオ産業の実力は、もはや、その質、量ともに、世界の頂点に位置づけされるまでに到達している。
 しかし、その実力を発揮出来るのはエレクトロニクス技術にもとづくアンプ、チューナー、カセットデッキ、そしてCDプレーヤー、PCMプロセッサーの分野であるとする見解もある。トランスデューサー関係のスピーカー、カートリッジ、マイクなどの分野では、いまだに欧米製品に一日の長があるとするその見解は、根強く残っているようすである。
 スピーカー関係に的を絞って考えれば、たしかに1970年代までは、欧米製品の優位性を認めることはできる。しかし、それ以後、海外メーカーの開発能力に一種の陰りが見受けられ、かつてのように際立った新製品の登場が稀になっていることに加えて、国内製品は、新素材の導入、新技術の開発を繰り返してその水準はここ数年のあいだに確実に向上し、世界のトップランクの位置を確保しようとしているようだ。
 欧米メーカーといっても、国内市場で名実ともに認められたブランドは、予想外に少ない。それらのメーカーの特徴は、かつてはとても国内製品に望めなかった、優れた基本設計と材料をベースに充分な物量を投入して開発した強力なスピーカーユニットにあったわけで、米国系のアルテック、JBLや、英国系のタンノイが典型的な例であることは、いうまでもない。
 この、いわば強力なスピーカーユニットをベースにしたシステムづくりの動向は、国内製品にも強い影響を与えたのは事実である。ここしばらくは、ユニット開発を最優先とした傾向が強かったことが、国内製品の最大の特徴であろう。
 ことに、振動板関係の新素材の導入と開発はますます激化し、ベリリュウム、ボロン、航空・宇宙開発の産物であるハニカムコアに各種のスキン材を組み合わせたタイプ、カーボングラファイト、発泡軽金属、カーボン繊維などと、新素材の導入は、いまや珍しいものではなく、感覚的には、常識化されているといっても過言ではあるまい。
 現在では、普及機クラスのシステムにおいても、平均的な傾向は、物量投入型である。強力なユニット、オーバーデコレーション気味のデザインが標準であり、この二点が国内製品の特徴を明確に示している。
 残された問題は、エンクロージュア関係のチューニング技術の確率や、ネットワーク系、磁気回路系の内部的、外部的な干渉や妨害の検討を含め、総合的にバランスの優れたシステム開発を行うことである。
 現在の国内スピーカーシステムの実力を聴くために選んだ機種は、価格的に10万円を少し超した価格帯の製品であり、形態的には、ブックシェルフ型のモデルである。
 簡単に考えると、現在市販されているスピーカーシステムのなかで、いわゆるシスコン用としてメーカー独自のトータルシステムにも組み込まれるタイプを除いて、単体のコンポーネントと思われるランクの製品は、5万円前後の製品以上としてよいであろう。
 この、5万円をボーダーラインとする考え方は、スピーカーの分野に限らず、プリメインアンプやカセットデッキなどでも、従来から慣例的に行われてきたことである。いわゆる、〝売れ筋〟という表現でいえばスピーカーシステムにおいても従来から最大の需要をまかなってきた価格帯の製品だ。
 さらに細かく分類すれば、5万円前後とはいっても、5万円未満の25~28cm級ウーファー採用の3ウェイ構成の製品と、5万円以上の30~33cm級ウーファー採用の3ウェイシステムに区別されるが、ここでは、後者の価格帯の製品についてその内容を眺めてみよう。
 いわゆる標準的なブックシェルフシステムという見方をすれば、30cm級以上のウーファーを採用しているだけに、エンクロージュアの外形寸法は、このクラスですでに標準サイズ的な大きさになり、ユニット構成が3ウェイ方式であるかぎり、10万円以上のクラスの製品にいたるまで、この外形寸法にさして変化はない。これが、ブックシェルフ型システムの国内製品に見られる特徴である。
 一方、デザイン面から見ても、いわゆる売れ筋の価格帯の製品であるだけに外観は重視され、基本的に音質、性能と関係のない装飾用のオーナメント類にかなりの予算が投入されている。これは、むしろ10万円以上のクラスの製品よりも華美をきわめているといってよいだろう。
 このデザイン面と共通したこととして、国内のブックシェルフ型システムは、その初期から、取外し可能なサランネットが標準装備であり、この部分についても10万円以上の製品と変わらない必須条件とされているようだ。
 6万円前後のブックシェルフ型システムは以上の2点のような、より高価格なシステムと共通の要求条件を満たしながらも価格を守り、しかも年々その内容は次第に高まってはいる。しかし、エレクトロニクス関係が計算機付クォーツ時計の例のように急速に価格低減が可能な特徴をもつことに比較して、基本的にメカニズムであり、単純な構造をもつだけに、スピーカーの合理化による価格の低減は非常に至難の技である。すでに現状で、価格を維持すれば、その内容的な向上は飽和領域に入っている思われる。
 短絡的な表現をすれば、2000ccの排気量の自動車に、より排気量の少ない平均的な効率のエンジンを搭載した車種、といった比喩ができるのが、このクラスのブックシェルフ型システムといえる。
一方、10万円後半から20万円クラスのブックシェルフ型システムを見れば、外形寸法的にもかなりの自由度があり、ユニット構成も、3ウェイ方式、4ウェイ方式と共通性は少ない。したがって、平均的に、国内製品のスピーカーシステムの実力を試す目的には、やや外れた印象がある。やはりこのランクは、ブックシェルフ型システムのスペシャリティクラスと考えるべきで、それだけに、いわゆるオーソドックスな使いこなしのノウハウがなければ、簡単にはその高い物理的性能を音として還元しきるものではないと考える。
 現状では、10万円前半の価格帯のブックシェルフ型システムが、コンポーネント用としては、標準的な性能と内容を備えた製品である。
 この価格帯のブックシェルフ型として定着したのは、ヤマハのNS1000Mが、その最初の製品であり、現在に至るまで、稀に見る超ロングセラーを誇っているモデルである。
 標準的な仕上げと前面にサランネットを備えた、家具としても見事な仕上げをもつNS1000の、米国流にいえばモニター仕上げタイプとして開発されたNS1000Mは、当時としては、非常に個性的なブラック仕上げのアクセントの強いデザインで登場した。いわゆるエキゾチックマテリアルとして注目を浴び、当時としては驚異的なベリリュウム振動板を採用して、高域ドーム型ユニットは鮮烈なシャープネスを得、ブックシェルフ型の当時のイメージとは一線を画したダイナミックな低音により検聴用モニター的な受取りかたがされた。そして、急速にファンを獲得して不動の地盤を形成し、現在に至っている。
 この間、各社からそれぞれ強力な内容を備えた、価格的にも15万円クラスまでの挑戦者が送り込まれたが、NS1000Mを倒すまでにはいたらず、姿を消していった製品の数も多い。
 しかし、昨年来より再び、価格的にもNS1000Mに焦点を合わせた新製品が登場しはじめ、この価格帯の状況は、にわかに興味深いものになりだしたようだ。
 私見ではあるが、NS1000Mが超ロングセラーを誇る理由をここで考えてみたい。発売時期の1975年でさえ、現在の物価感覚と比較して、当時としては非常に高価な145000円のNS1000と同じユニットを採用したモデルであっただけに、108000円というその価格は、もともと価格対満足度の優れた製品であったことが最大のポイントである。つまり、強力なユニットをベースとして開発された特徴は、JBLやアルテックなどの製品のもつ優位性と共通であり、物価上昇を加味すれば、それ以後に登場する挑戦モデルは、開発が新しいほど不利になる。
 もちろん、価格を維持する目的と性能を向上する目的からNS1000Mもモディファイはされている。しかし、ウーファーと同等の強力な磁気回路とボイスコイル直径65mmのベリリュウムダイアフラムを採用したスコーカーは、エージングが進むにつれてウーファーとのつながりの部分が豊かになり、低域から中域の厚みが充分にあることがわかる。これは、NS1000Mの特徴で、比較的に使いやすく、音に安定感があり、ピアノの音の魅力ある再生に代表される好ましいキャラクターが、他のシステムにない強みとなっているようだ。
 例えば、スピーカーのセッティングに少しの問題を残したとしても、このスコーカーの威力は非常に大きく、場合によっては、3ウェイ方式ながらもスコーカーだけですべてのバランスをとっているといってもよい鳴りかたをするように思う。
 一方において、プログラムソース側の質的な向上や、ドライブをするアンプ側の確実な進歩も、現時点でいえば、物量投入型のシステムの力を引出す、背景にもなっていると感じる。
 結果としては、強力なスコーカーの存在がNS1000Mの鍵を握ってはいるが、このシステムは、いわゆるユニット最優先型の国内製品とは異なった部分がある。
 それは、次の各点である。第一に、完全密閉型のエンクロージュアは、一般型とは構造が異なり、かつてのタンノイ社のレクタンギュラーヨークに代表される欧州系の手法と思われる、エンクロージュア内部に中央を抜いた隔壁をもつ特異なタイプであること。第二に、吸音材処理方法に独自の手法が見受けられること。第三に、モニター仕上げであり、サランネットがないために、試聴時にはネットを外し、実際にはネットを取付けて聴くという、特性的にも音質的にも問題を残す国内製品独特の特異性が基本的に存在しないこと、などである。また、システムを構成する各パートのバランスが、当時としては異例に高かったことが、潜在的な特徴であると思う。
 このNS1000Mを中心に比較するシステムは、昨年来より急激に物量投入型の開発をはじめたパイオニアS9500を筆頭に、特許問題で最適な材料が使いにくいポリプロピレン系の振動取を脱皮してカーボンクロスコーンを新採用したオンキョー/モニター2000、独自の優れたハニカム構造の平板型ユニットを推進するテクニクスSB-M3、ユニット構造の基本から洗いなおした小型高密度タイプのダイヤトーンDS1000の4機種を加えた5機種で、現在の国内スピーカーの実力を聴いてみようということになった。
 結論からいえば、このクラスの製品を選んでおけば、あとは使いこなし次第でかなり高度な要求にも応えられるであろうし、今後、長期間にわたり、安心して楽しむことができるとすれば、価格も高くはない。
 現在の各コンボーネントのなかで、もっとも基本性能が高度なものは、エレクトロニクス系のアンプであろう。例えば、歪率(THD)をとってみても、スピーカーシステムに比較すれば、2桁は異なるはずだ。
 しかし、その優れた特性のアンプも、特性の劣るスピーカーで聴かなければ音質は判からない。これは、かのオルソン氏の、現在でも通用する名言である。
 最近の傾向として非常に困ったことは、スピーカーというのは、買ってきて、例えば、コンクリートブロックの上に乗せて結線をすれば、それで正しく鳴るものだ、とする風潮である。
 かつては、スピーカーシステムを使いこなすことに悪戦苦闘をすることは常識でさえあり、故瀬川冬樹氏のように、異常とも思える情熱をスピーカーの使いこなしに注いだ人もいたが、最近では雑誌も興味がないらしく、表面的な、床に近く置けば低音再生に有利になり、壁に近く置いても同様とする程度の認識で、セッティングに関してのかつての常識は、もはや皆無といってさえよいようだ。いまどきオーディオに携わる人々が、スピーカーシステムの置き台の差や、わずかのセッティングのちがいで音が大幅に変化することに驚いていたりすること自体が、大変に奇妙な話である。そればかりでなく、左右のスピーカーの置き台が異なっていても平気で製品の試聴をおこなう例などはもはや論外ともいうべきである。また、メーカーがセッティングした試聴の場合でも、左右のスピーカーコードの長さが異なっている例や、場合によっては、長いコードがコイルのように巻かれたままになっていることに驚かされるのは、いつものことなのである。
 この、使いこなしの不在。つまり、シスコンのように、買ってきて配達の人にセッティングをして賓ったらそれで終り、とする風潮がオーディオを面白くないものとし、オーディオビジネスを不況に導いた最大の理由なのである。
「コンポーネントシステム」というからには、各製品を選択し、基本に忠実にセッティングをしたときが終着駅なのではなく、その時点が実は出発点であるはずである。
 スピーカーシステムを新しく購入したとしよう。このときに要求されるのは、スピーカーのセッティングではなく、まず、従来から使用してきたシステムの総占検なのである。ここでは、細部にわたり書くだけの紙数がないために、基本的な部分のみ簡単に記しておく。
■AC電源関係
①プリメインアンプなどのアンプ類は、壁のコンセントから直接給電する。セパレート型は、プリアンプ、パワーアンプを、それぞれ壁コンセントから単独に給電する。不可能な場合は、大容量のコードを使ったテーブルタップを使う。
②アナログプレーヤーも①に準ずるが、プリアンプのACアウトレット使用時は、アン・スイッチドから給電する。
③デジタル系のCDプレーヤーは、アンプ系と異なる壁コンセントから給電する。
④AC電源の極性は、対アース電位の低い方を基準とする。メーカー側で極性表示をしてある場合でも、マーク側がホットか、グランドかは、メーカーによっても異なるし、場合によれば、同一メーカーでも、アンプとアナログプレーヤーで異なる例もあり、実測が基本である。
⑤アナログプレーヤー使用時は、CDプレーヤー、FMチューナー、TV、VTRなどの電源スイッチはOFFにする。
⑥アナログプレーヤーの近くに照明用に螢光灯は使ってはいけない。
■結線関係
①RCAピンコードは、よく吟味をし、最適なものを選択するとともに、プラグの先端-分、アンプなどのジャック部分をクリーニングする。
②スピーカーコードは、左右同じ長さを使用し、スピーカーに給電する経路、位置などを左右対称にするとともに、最短距離にカットして使う。また、端末処理は芯線を切らないように注意し、ターミナルは確実に締めること。
 線材は、平行2線タイプの充分に容量のある線を基本とし、チューニングアップ時には、同軸型、スタッカード型などの構造的な違いや、OFC、LC-OFCなどを状況に応じて試用する。
■セッティング関係(スピーカー以外)
①アナログプレ-ヤーの設置場所は、充分に剛性があり、固有の共鳴や共振がない場所を選び、ハウリングマージンに注意する。カートリッジの針圧は、MC型、MM型を問わず、最適針圧を中心に0・1gステップで軽・重両側に調整する。
②アンプ関係は、積み重ねず、アナログプレーヤーに準じた状況に置くこと。
③CDプレーヤーの置き場所は軽視されがちだが、アナログプレーヤー以上に置き場所の影響を受けるため、設置場所は、充分に注意をし、誤ってもプリアンプなどの上に乗せて使用しないこと。
 概略して以上の諸点は必ずチェックをしていただきたい最少限のことである。
■スピーカーのセッティング
①左右の条件を可能なかぎり同等にする。
②置き台に乗せるときには、グラつきを抑えないと低音の再生能力は激減する。
③置き台にグラつきや、ガタがある場合には床と置き台の間に適当なスペーサーを入れスピーカーと置台の間には入れないこと。
④一般的なコンクリートブロックを使う場合を例にする。簡単にするために、横方向に一段だけ使うとすれば、左右ブロックの間隔は、スピーカーの底板がブロックに半分かかる位置が基準。前後方向の位置も、底板に対してブロックの前後が等しくなる。つまり、ブロックの中央に置く位置が基準。
 左右の間隔は、システムの低域のダンピングに関係し、広くすれば、明るく、開放的な傾向を示し、低域の量感も増す。狭くすれば、制動気味になり、タイトな低域になるが、量的には減る傾向を示す。
 順序は左右間隔の調整を先行させる。
 最適間隔を決定後、前後方向の位置決めをする。変化量は、ウーファー帯域のレスポンスが変化した印象となり、前に動かすと、低域の下側の量感が増し、ややモニター的な音となる。後に動かすと、低域の上から中低域の量感が増し、伸びやかな音になる傾向がある。左右、前後とも極端に動かし、傾向をつかんでから、少なくとも、2~3cmきざみで追い込む。
⑤ブロックとスピーカー底板の間には、フェルトなどのクッション兼ダンピング材を入れ、ブロックの固有共鳴を抑える。ブロックのカサカサした響きが中域以上に悪影響を与えるからである。
⑥ブロックと床面、それにスピーカー底板で形成する空洞の反射、共鳴を避けるため、吸音材的なものを軽く充たす。これは、中域以上の分解能、SN比を飛躍的に向上させる決め手として重要な処理だ。
■ユニットの増し締め
 概略のセッティング終了後、高域・中域・裏板部分のスピーカー端子取付ネジ・低域の順序でステップ・バイ・ステップ、結果を確認しながら適度の増し締めをす
る。概略的には1/8~1/16回転ほどの余裕を残して増締めをすること。とくに木ネジの場合は、「適度な増し締め」を絶対に厳守されたい。ネジ構造は、ゆるめて取外してみれば明瞭だ。無理な増締めは故意の破壊であり、クレームの対象とはならないことを、くれぐれも注意していただきたい。

ヤマハ A-950, A-750, T-950

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ヤマハのプリメインアンプが、最新のコンセプトにより開発された新世代の製品に置換えられることになった。その第1弾の製品が、今回、発売された中級価格帯のプリメインアンプA950、A750と、各々のペアチューナーであるT950、T750の4機種のシリーズ製品である。
 プリメインアンプの特徴は、パワーアンプに新しくクラスAターボ回路が採用されたことと、電源部がX電源方式ではなく、従来型の方式に変更されたことである。
 クラスAターボ回路とは、ヤマハ初期の名作といわれたCA1000において採用された、A級動作とB級動作のパワーアンプをスイッチ切替で使い分ける方式を発展させ、新シリーズでは、純粋なA級動作とA級動作プラスAB級動作の2種類の組合せがスイッチで切替えられるようになった。
 とかく定格出力が最重視され、表示パワーが最大の売物になっているプリメインアンプの動向のなかにあって、質的には非常に高いが効率が悪くパワーが得難いA級動作を復活させた背景には、ヤマハオーディオの初心であるクォリティ重視の思想が、現状で、もっとも必要なテーマであるという判断があったからにちがいない。
 一方、データ的な裏づけとしては、A750をAB級動作領域のノンクリッピングパワー150W(8Ω)にテストレコードのの最大振幅部分を合わせた状態での各種レコードの実測データによれば、平均して、A級動作領域(5Wまで)96・4%、AB級動作領域3・6%の割合が得られたことで、実際の使用では音量は10〜20dB程度は低いであろうから、ほとんどA級動作領域でアンプは使われることになるはずだ。
 クラスAターボ回路に加え、従来からのヤマハ独自のZDR方式を採用し、A級動作を一段とピュアにするとともに、AB級動作時にもA級に匹敵する特性と音質が得られる。さらに、アースの共通インピーダンスの解決策として採用されたグランドフィクスド回路は、単純明快な方法である。また、スピーカーの低インピーダンス負荷時の出力の問題に対しては、X電源以上に優れた給電能力をもつ一般的な大型電源トランスと大容量電解コンデンサー採用の物量投入型設計への転換が見られる。
 その他、NF−CR型リアルタイムイコライザー、ピュアカレントダム回路、連続可変ラウドネス、メインダイレクトスイッチなどの機能面の特徴、クォリティパーツの採用などは、すべて受け継いだ内容だ。
 デザインの一新も新シリーズの魅力で、すべてブラックに統一し、CT7000以来のドアポケット型のパネルの採用による適度な高級感のある雰囲気は楽しい。
 チューナーは、各種のオート壊能を備え、とくに強電界での実用歪率の改善が重視されている点に注目したい。
 A950は、電気的な回路設計と機構設計が最近の製品として珍しく見事にバランスした出色の製品である。柔らかく豊かで適度にソリッドさをも併せもつ低域は、新世代のヤマハらしい従来にない魅力をもつ。中域から高域は音の粒子が細かく滑らかで、ナチュラルなソノリティを聴かせる。プログラムには自然に反応し、シャープにもソフトにも表現できるのは、電気系、機械系のバランスの優れたことのあらわれであり、キャラクターの少ない本棟の特徴を示すものだろう。久し振りのヤマハの傑作製品だ。
 A750は、比較をすれば少しスケールは小さいが、フレッシュな印象の反応の早さは、安定感のあるA950と対称的な魅力で、デザインを含めた商品性は高い。
 T950は、CT7000以来の、品位が高く、独得のFMらしい魅力をもつヤマハチューナーらしい良い音をもつ製品。強電界でも汚れが少なく抜けのよい音であった。

ヤマハ NS-2000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❸ないし❺でのコントラバスのひびきが筋肉質にひきしまっているのが特徴的である。そのために全体的にすっきりした感じにきこえる。❷でのヴァイオリンには独特の艶があるものの、ひびきとしていくぶん薄めである。❹のフォルテでは、ほんの心もちひびきがきつめになる。総じてこのレコードでのきこえ方では、しなやかな柔らかい音への対応ということでもう一歩といった印象をぬぐいきれなかった。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶のエレクトリック・ピアノのひびきのやわらかではあってもクールな肌ざわりが大変にこのましい。❸のギターの音とベースの音の対比のされ方は絶妙である。ギターの音などは織細さのきわみというべきであろう。また❷でのストライザンドの声は女らしさを感じさせて大変にこのましい。さらに吸う息もまことになまなましい。❹でのひびきのひろがりも充分にあきらかにして、さわやかさを示す。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
アタックの鋭い音に対しての反応が充分なために、このレコードでのきこえ方は、総じてシャープである。❷でのティンパニの音などにしても、ひびきがふくれすぎないために、音像が小さめで、それだけに鋭さをきわだてている。❸での左右への動きなどもスピーディで、したがって❹での疾走感は完璧にあきらかにされている。さらにブラスのつっこんでくる力のあるひびきに対しても充分に反応しえている。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのベースの音がふくらみすぎないために、ピアノの音との対比が申し分なく効果的である。❸ないしは❹でのシンバル等のひびきはくっきり示されるが、質感の提示ということでもう一歩と思わなくもない。❺から加わりはじめる木管楽器のひびきも、その特質をあきらかにしつつ、これまでの部分との音色的な対比も充分につけている。このレコードの特徴あるサウンドをこのましくきかせて、見事である。

ヤマハ MC-2000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 DADが実用化の第一歩を踏み出した昨年は、伝統的なカートリッジの分野でも実りの多い年であったようだ。なかでもMC型は、普及価格帯での激しい新製品競争と高級機の開発という、二層構造的な展開を見せたが、ヤマハのMC2000は、振動系の軽量化という正統派の設計方針に基づいて開発された高級機中の最も注目すべきMC型である。
 MC型の性能と音質は、発電のメカにズムと素材の選択と加工精度によって決定される。
 MC2000の発電機構は、ヤマハ独自の十字マトリックス方式で、一般的な45/45方式に対応する発電系は持たず、水平と垂直方向に発電系があり、これをマトリックスにより45/45方式に変換するユニークなタイプで、水平、垂直方向のコンプライアンスとクロストークを独立して制御できるのが特徴である。
 振動系のカンチレバーは、素材から開発したベリリュウム・テーパードパイプ採用で、従来型より肉厚を薄く、全長を短くし、芯線径12・7μの極細銅線使用のコイルとあいまって、世界最軽量の0・059mgの等価質量である。これに、独自の段付異種結合構造LTDダンパー、ステンレス7本よりサスペンションワイヤーを組み合わせ、高剛性、無共振ハウジング組込みで自重5・3gとした技術力を高く評価したい。
 適正針圧1g±0・2gと発表されているだけに、アームの選択、細かな針圧調整とインサイドフォースキャンセラー調整などを入念に行なわないと優れた基本性能をベースとした最新MCの音の世界は味わえない。

ヤマハ NS-2000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 いい意味での現代的な音のスピーカーといえるようである。①のようなレコードに対しても、つかいこんで、いわゆるエイジングをおこなえば、音の角がとれて、さらにこのましくきこえるようになるのかもしれぬが、今回試聴したかぎりでは、しなやかな音への対応ということで、いま一歩といわざるをえない。
 しかしながら、②、③、それに④のレコードでのきこえ方は、すばらしかった。これらのレコードにもりこまれている新しい感覚をききてに感じさせる新鮮さがきわだっていた。総じて音色的にあかるいために、フレッシュで生き生きした気配を強めたと考えてよさそうである。しかもこのスピーカーは、力にみちた音に対してもしっかり対応できるので、ダイナミックな部分でも腰くだけにならない。保守的な感覚の人にはどうかなとも思うが、このスピーカーのきかせるさわやかな音は大変に魅力的であった。

ヤマハ HA-3

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「PickUp 注目の新製品ピックアップ」より

 MC型カートリッジの出力電圧は平均して約0・1mVほどの低さであるため、これを音質劣化させずにアンプのフォノ入力に送り込むことは非常に難しいものだ。
 昇圧手段にヘッドアンプを選ぶ場合、ヘッドシェルにヘッドアンプを内蔵させてカートリッジからの信号をダイレクトに受けて増幅することができれば、ほぼ理想に近いはずである。この方式を世界初に実用化した製品が既発売のHA2であり、今回のHA3は、その第2弾製品である。
 基本構成は、HA2と同様で、ヘッドシェル内にHA3ではサテライトアンプと呼ばれるようになったFET構成アンプを組み込み、これとHA3本体内のアンプでヤマハ独自のピュア・カレント増幅方式を構成させるタイプだ。本体内にはRIAAイコライザーをも備えているため、本機の出力はAUX入力に接続して使う。
 このHA3の方式は、MCカートリッジ出力を至近距離でアンプに入力し、信号電圧を電流に変換してHA3本体に送るため、トーンアーム内部の接続部分、接点や内部配線、さらにアームコードなどでのノンリニアの影響が極小となり、高純度の音が得られる特徴がある。
 HA3独特の改良点は、出力系に固定出力と可変出力の2系統があり、可変出力を使ってパワーアンプをダイレクトに駆動できるようになったことと、HA2ではヘッドシェル組み込みのアンプが本体と一対一でバランスが保たれ調整されているため、カートリッジ交換のたびに取付け直しが必要だったが、今回はヘッドシェル組込みアンプが1個と任意のヘッドシェルに組込み可能のサテライトアンプが2個、合計3個のサテライトアンプが付属し複数個のMC使用時の使いやすさが向上していることだ。なお、各サテライトアンプは、本体アンプとのマッチングが完全にとられ、誤接続での安全性を確保する保護回路付。
 HA3は、MCダイレクト使用可能のアンプと比較すると、非常にクリアーで抜けのよい音が得られる。アンプとしてのキャラクターは明快で、クッキリと音に輪郭をつけて聴かせるタイプだが、それにもまして音の鮮度感が高く、反応の速いことが、このタイプの優位性を物語る。なお、パワーアンプのダイレクト駆動は、これをさらに一段と際立たせた独特の世界である。