菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
ヤマハがスピーカー技術のすべてをかけて製造する文字通りのプレスティージモデルといえるスピーカーシステムである。低域には同社の独自の技術であるYST方式という特殊な低音再生方式を採用しているところが大きな特徴である。負性インピーダンス駆動方式と呼ばれるもので、専用の回路を必要とするが、このシステムでは4ウェイ4ユニットのすべてを、それぞれ独立した専用アンプで駆動するというマルチアンプ方式として発展させたことも特筆に値する点だ。
スピーカーシステムとしてこのアンプ内蔵方式は、理想の方式として従来から高級機には見られたものだが、ここまで徹底した製品は珍しい。W71×H140×D63cmという大型エンクロージュアは重量が150kgに及ぶ。下から30cm、27cm口径のコーンユニット、そしてドームユニットはスコーカーが88φ、トゥイーターが30φという4ユニット4ウェイ構成を採っていて、ボトムエンドの30cm口径ウーファーがYST駆動である。つまり、いわばこれがサブウーファーで、その上に3ウェイ構成がのると見るのが妥当かもしれない。サブウーファーは60Hz以下を受け持ち、ウーファーとスコーカー間は600Hz、スコーカー/トゥイーター間は4kHzのクロスオーバー周波数だ。この周波数に固定された専用のチャンネルディヴァイダーを持っている。ユニットの振動板材料は、このシステムの開発時にヤマハが理想とするものを使ったわけで、コーン材はケブラー繊維に金蒸着を施したもの。ドーム材はヤマハが従来から使い続けているペリリウムをさらに薄く軽くして結晶の均一化を果した。これも金蒸着によりダンプしている。豊かな潤いのある艶っぼい質感とワイドレンジのスケールの大きさは見事なものである。ペアで500万円という価格だが、当然少量生産だし、これだけの力作なら納得できるのではないだろうか。音楽産業メーカー〝ヤマハ〟らしい製品だ。
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