Category Archives: ダイヤトーン

ダイヤトーン DA-P7, DA-A7

岩崎千明

週刊FM No.17(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 ダイヤトーンの新シリーズ・セパレート型の一番安い、といっても、プリとパワー合わせて10万円の組合わせだ。70W+70Wだから、プリ・メイン一体型と価格的には相等しい。プリ・アンブが分離している構造がお徳用となるわけだ。その構造によって、SN比はよくなることは間違いなく、それが音質上にもはっきりとプラスをもたらして、クリアーな音の粒立ちと、ロー・レヴェルでのリニアリティの良さかがデリケートな音の違いの上にくっきりと出ている。プリ・アンブはデザインはまったく違うこの上のP10とは構造も違うが、伝統的に歪みの低さ、クロストークの少なさは、10万円台のアンブを越えているようで、それが音の上にも感じられるのだろう。プリとメインを分けるこの構造は、P7+A7では一体構造で用いる場合も少なくないと思われるが、実に堅固で、4本の取付けボルトさえ確実にしめつけてあれば絶対に安全、かつ確かだ。端子の位置も使いやすく、そうした意味での操作性は理想に近い。
 70W十70Wのパワー感も、セパレート型として、あるいは物足りないのでは、と不安もあろうが、実際に使ってみると、どうしてどうして、100W+100Wクラスにさえひけをとるものではない。使用中にあまり低音のブーストをやりすぎなければ充分なるパワーといってよい。この、いかにも中味の充実した中域から低音にかけての力強さは、高音の輝かしいクール・トーンと共にダイヤトーンの大きな魅力だろう。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 日本のスピーカーには、日立、東芝、三菱といった、いわゆる家電メーカーがトップランクの独自の技術を活かして高級スピーカーの分野で素晴らしいモデルを市場に送り出していた時代があった。このことは、現在の若いオーディオファイルにとっては、予想外の出来事であるであろう。
 しかし若い人でも、第2次大戦後に、NHKの放送局モニタースピーカーの開発を行ない誕生した三菱電機のダイヤトーンブランドのことは、おそらく、知っている人のほうが多いであろう。
 マランツ用OEMスピーカーとして開発したモデルのバリエーションタイプが同社民生用システムのスタートであったが、’70年に発売されたDS251は、驚異的なベストセラーモデルとして評価され、愛用されて民生用の地盤固めに成功する。
 同時に、かつてのNHKモニターとして全国的に採用された2S305系の2ウェイ方式・バスレフ型エンクロージュアから、次第にDS251やDS301系のマルチウェイ方式と完全密閉型エンクロージュア採用が同社製品で主流を占めるようになる。そして’80、振動板材料にハニカムコアとケブラースキン材を組み合わせたアラミド・ハニカム振動板(低・中低域用)や新素材ボロン化チタンをドーム型ユニットに採用し、振動板とボイスコイルボビンを一体化したDUD構造の開発(中域・高域用)など、いわば新世代のダイヤトーン・スピーカーとして誕生したのが、4ウェイ構成ブックシェルフ型DS505である。
 この新世代シリーズの頂点として開発されたモデルが、4ウェイシステムのDS5000で、中低域再生能力を高めるために大変に個性的な設計方針でつくられたモデルであった。それというのも、それまでの4ウェイシステムは、3ウェイ方式の中低域を補うために専用ユニットを組み合わせた開発だったのにたいし、本機では、中低域ユニットと中高域ユニットで2ウェイ構成の狭帯域バランスをつくり、これをベースに、いわばサブウーファーとスーパートゥイーターを加えたようなシステムアップしていたからである。ここがDS5000の最大の特徴であり、ミッドバスの充実したエネルギーバランスは、従来にない、大きな魅力であった。しかも、設計思想が最優先され、変換器としては高性能であろうが振動板材料の音が際立ったDS−V9000などの後継作と比較して、余裕タップリに大人の風格で音楽が楽しめる点では、同社の最高作品といえよう。

ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 ダイヤトーン2S305は日本のスピーカーの歴史のなかでの傑作である。これほど、あらゆる点で日本的な美徳を備えたスピーカーシステムはないだろう。
 まず、桜のツキ板張りによるエンクロージュアのラウンドバッフルが見せる、その容姿である。グレイのサランネットと調和したサラッとした? 淡泊な印象。ちょっと見のつまらなさは、飽きの来ない日本的感性以外のなにものでもあるまい。これが作られたのは1950年代だから、こういう日本調が生まれたのかもしれない。いまなら、もっと欧米の影響を受けたものになったであろう。そして、その最大の日本的特色と言えば、なんと言っても音である。
「日本には2S305という素晴らしい製品がある。あんなに綺麗な音のスピーカーを聴いたことはない!」これは’70年代に、デヴィッド・ベイカーというアメリカ人の録音制作家が僕に語った言葉である。そして、そのとき、僕が思い出したのは、夭逝した不世出の名ピアニスト、ジュリアス・カッチェンが、以前、同じような言葉で日本製のピアノについて語ったことである。僕が彼の録音のために用意したスタインウェイDとヤマハの初期のCFを聴き比べた彼は、CFを「こんなに綺麗な音色のピアノは初めてだ!」と言ったのである。
 エキゾティシズムが美の要素足り得るかどうかは美学的には議論のあるところであろうが、僕が大変興味を持っているテーマである。彼らにとって、日本的な音はエキゾティックな魅力を強く感じさせるものではないだろうか? 逆にわれわれは欧米のサウンドには、彼ら以上に強い魅力を感じるのではないだろうか? 自国の文化には、ある意味で透明だからである。日本人の場合、欧米系の文化には基本的に劣等感が染み込んでいることに悲劇があって、オーディオや西洋音楽の美的評価には注意を要すると思っている。
 2S305はダイヤトーン・スピーカーで有名だった三菱電機が、NHKと共同で開発したスタジオモニタースピーカーである。放送用のモニターが主たる設計目標であったが、当時の日本ではNHKの「お墨付き」という技術的権威に裏付けされたエリート・システムであり、いまでは想像できないほどの君臨振りで、録音スタジオなどでも広く使われ、信頼度の高いものであった。当然、これにたいする反発も強く、一部には無味乾燥の音だとか、こんな音でモニタしているから日本の録音は駄目なんだ!などと非難する過激な人達はいたが、これらの意見はオーディオマニアに多かったように思う。バスレフ型エンクロージュアに、30cmのパルプコーンウーファーと、5cmの同じくパルプコーントゥイーターをハイパス・コンデンサー1個でつないだ2ウェイは、当時としては画期的で本格的なシステム設計であった。満開の桜を見るように、端正で、淡泊でいて豪華な響きの音は「はんなり」とでも形容したい上品な佇まいのバランスと音色であって、決して無味乾燥な音などではなかったと僕は思う。そしてなによりも、僕にとって長年にわたる録音制作の仕事に欠かせないモニターとしてなじんでいたものだから、忘れられない懐かしさなのである。

ダイヤトーン DS-205

菅野沖彦

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 ダイヤトーンの今年の新製品であるが、本家帰りというイメージの佳作である。往年のモニターシステムのよさを再認識したのだろう。ラウンド・コーナーのエンクロージュアにも、ユニット設計、システム構成思想にも明らかにそれが現われている。しかし技術はまったく新しい。温故知新の優れた製品である。

ダイヤトーン DS-205(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 2ウェイ構成の放送モニターシステムとして名声の高い2S305系の技術を継承し、新素材振動板を採用して、現代のディジタルプログラム時代のコンシューマーモデルとして開発されたダイヤトーンDS205は、大変に魅力的な製品。モニターの基本構成は受け継いではいても、しなやかでほどよく反応が速く、響きの豊かなプレゼンスを狙って開発されたシステムであり、容量の大きなバスレフ設計が最大の特徴だ。CDプレーヤーは世界最高の一体型、ビクターXL−Z999が、高価ながら使って納得させられる力量が見事で必須の選択。アンプは、雰囲気と表現力の豊かさを狙えば優れた管球アンプが使いたくなる。入手がいまや困難かもしれないが、レプリカ版のマランツ7と8Bが想像を絶した、現代に通用する見事な音を聴かせる。一段としなやかでナイーブかつ鮮度感のある音を求めれば、U・BROSジュニア2とU・BROS1Kを使いたい。

ダイヤトーン DS-8000N

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 DS8000にクロスオーバー周波数付近の遮断特性可変型の新ネットワークを組み合わせたモデル。音のクリアーさ、浸透力は明らかに1ランク向上し、音のニュアンスの表現能力が増した点が有難い。本来のパワフルでしなやか、かつ、したたかな特徴と相乗効果的にはたらき、このダイナミックな再生能力は実に凄い、の一語。

ダイヤトーン DS-205

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 放送用中型モニターとして活躍した2S308的な魅力を、新技術・新構想に基づいてコンシューマー用として開化させた今年最大の注目作。容積の大きい本格派バスレフ型エンクロージュアと中口径のウーファーとの組合せは、全域型ユニットがもつ独特の魅力と類似し、これに加えてB4C高域独自の音を混えた成果は実に素晴らしい。

ダイヤトーン DS-1000ZX

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 高密度・密閉型システムの魅力を集大成した本格派の音は、価格を超えて実力の高さを物語る証し。ナチュラルに伸び、スムーズにつながる広帯域型のレスポンスは、中域のエネルギー感、密度感の高い点に注目すべきだ。アンプに関しては、懐は深いが、グレードの差は的確に出すため音質検討時には要注意。

ダイヤトーン DS-200ZX

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 型番は、前作を受け継ぐが、内容は予想を超えて充実しており、この価格帯では見事な正統派のスピーカーとして完成されている点に注目すべきだ。とくに前作と比べて高域ユニットの改善は格段の差があるようで、ストレートにハイエンドに向かって伸びきった高域はこの価格帯では異例。使いやすく大変に内容の濃い魅力作。

ダイヤトーン DS-A3

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS−Aシリーズは、従来までの同社のブックシェルフ型やフロアー型システムとはひと味違ったエンクロージュアづくりを最大の特徴とした、大変に興味深いシリーズである。
 DS−A3は、2S3003系の両サイド・ラウンド形状バスレフ型エンクロージュアを採用。コーン型の振動板として、高域・低域ともにアラミド(ケヴラー)を使用し、物理値的な等音速の利点を活かして音色的な統一性を狙った、ハイクォリティな小型システムだ。バスレフ開口部は楕円型で断面積が大きく、最低音がいかにも開口部から放射されるような、つまりバスレフ開口部が第三のユニット的に動作しているのがわかるような、弾力的で、明るく伸びやかな低音が、このシステムの最大の魅力であろう。

ダイヤトーン DS-600ZX

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS600ZXは、DS900EXを信頼感のある安定した兄貴分とすれば、のびのびと陽気で楽しい性格の弟分といった存在だ。基本のユニット構成は高域を除き相似しているが、エンクロージュアがバスレフ型であるため、反応が速く活気のある豊かな低音は、明らかな性格の違いである。27cm低域は、16cm径と比べて約2・8灰の振動板面積があり、空気を確実に捉えて駆動する低音の力強さ、豊かさ、迫力は、とても小口径型では味わえない、いかにも振動板面積の大きいウーファーならではのものだ。

ダイヤトーン DS-900EX

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS900EXは、DSシリーズ当初から中核を形成してきた30cm低域ベースの3ウェイブックシェルフ型の系譜を受け継ぐモデルだ。現在の小口径低域全盛時代にあって30cm低域はさすがに大口径だが、小口径型の低音感とは別次元の、本物の低音再生ができることが最大の魅力だ。ソリッドなモニター的性格は皆無に等しく、この程よい開放感と明るい音色は、幅広いプログラムソースに対応可能で大変に使いやすい。

ダイヤトーン DS-1000ZX

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS1000ZXは、磁気回路のプレート部でユニットを取り付けるダイレクトマウント方式の中・高域、磁気回路とフレームを強固に結合するDMM構造の低域というように、メカニズム的に従来のユニット構造を大幅に改善したユニットを採用し、’83年登場したDS1000系の最新モデルだ。同じユニット構成で改良に改良を加え、メカニズムとして十分な熟成期間を経ているだけに、一段と豊かさを増した印象だ。3ウェイならではの緻密さとエネルギー感のある中域を中心にした音のクォリティの高さが魅力。聴感上でのSN比も高く、音のディテールの優れた再生能力と奥深く見通しの良い音場感情報の豊かさは、このクラスとしては例外的なパフォーマンスを備えている。華やかさは少ないが、ダイヤトーンらしい信頼性が高いという印象は、まさにベストセラーモデル中のベストセラーと確信させられる。

ダイヤトーン DS-205

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS205は、当初Aシリーズの高級機と聞いていたが、型名は伝統的な放送用モニターに準じたものに変った。側面は大きく弧を描く積層合板製で、これをバッフルと裏板で結合し、これに天板と底板を嵌めこむ構造は、簡潔だがかなり高度な木工技術の成果であろう。20cmアラミドコーン型ウーファーは、DS−A3系の振動板とアルニコ・ツボ型磁気回路を採用したもので、明快なサウンドを志向した低域として同社初の設計だ。高域は2S3003系のDS8000出使われた5cmB4Cコーン型。2S3003系を、より豊かに柔らかくパワフルにした印象の音は、清澄な印象もあり、非常に興味深い意欲作だ。

ダイヤトーン DS-2000ZX

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS2000ZXも、従来のZモデルから全面的にフレッシュアップされた新製品だ。ユニット構成は、伝統的なアラミドハニカムコーン採用の30cm低域、6cmB4C・DUDハードドーム型の中域、2・3cmB4C・DUDドーム型高域と変更はないが、各ユニットは基本的な部分から見直され、かなり大幅にクォリティアップされたようだ。低域は、ややタイトなアラミドハニカム振動板特有の音から、最低域までスローダウンして伸びる密閉型独自の性質がより聴きとれるようになった。特に低域ユニットのネットワークではカット不可能な中域〜中高域成分が巧みに処理され、クリアーさが一段と増しているため、鮮やかで歪みの少ない低域に力が増して、いかにも高級機らしい貫禄のある低音再生となった。
 中域は、低域とのつながりが厚くなり、B4C・DUD型の威力が一段と明瞭に発揮されている。特に分解能に優れ、シャープに付帯音なく伸びるダイナミックレンジ的な余裕度は、前作にないものだろう。中域ユニットとチューニングのリフレッシュで、高域ユニットも細部が改良されているらしく、やや硬質な面があった前作と比べ、しなやかさ、伸びやかさが加わり、固有の鳴きが低減されている点に注意したい。全体的に格段に内容が濃く、音的にもリファインされて完成度が向上。仕上げも美しくなりながら、予想に反して価格は大幅に低減されているのも異例のことで、このモデルに対する想い入れの深さの証であろう。

ダイヤトーン DS-200ZX

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ’96年の最新注目モデルは3機種。まずDS200ZXは、DS1000ZX以来、従来モデルに改良を加え、DVDに代表される将来のハイサンプリング・ハイビットのプログラムソースに対応できるようリファインされてきたZXヴァージョン化が、同社のベーシックシステムDS200ZAに及んだ新製品だ。
 全体のデザインは、従来の安定感はあるが地味な存在といった印象が薄らぎ、新鮮な印象が加わったが、基本構成は変らず、ややエンクロージュアの奥行きが伸びただけだ。使用ユニットは、16cm低域、2・5cmDUD型ともに大幅に手が入れられている。特に高域のDUD型は、振動板材料がボロン化チタン材に変更され、その音色は見事な変化を遂げている。エンクロージュアは、前作を受け継ぐバスレフ型だが、木組み構造が変更され、全体に剛性感が高く、響きが明るくなっていることに注目したい。
 また、バスレフ型のチューニングにも手が加えられた。とかくこの種の小型システムは狭い場所に押し込められやすく、予想以上にブーミーでカブリ気味な低音となる点に注意が払われている。これがエンクロージュアの響きと相乗効果的に働き、明るくダイナミックになる低域が、この新モデル固有の美点だ。比較的明るくのびのびとは鳴るが、国内版ポップスなどでは、ややもすると騒々しくなりがちなシステムが多い中にあって、価格を超えた正統派の小型高級システムといった性格は実に小気味がよい。

ダイヤトーン DS-A5

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS−A5は、Aシリーズ本来のエンクロージュア構造と材料に凝った魅力の小型高級システムだ。低域13cm、高域4cmの2ウェイ方式バスレフ型で、小粋な音とでも表現できる独特のサウンドが新鮮な味わいだ。

ダイヤトーン 2S-1601

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 2S1601は、ダイヤトーン50周年を記念して登場した、低域と高域にアラミドコーン採用の等音速2ウェイDS−A3をベースに、ユニットとエンクロージュアを極限までチューンナップし、小スタジオや放送局用小型モニターとして現場の信頼に応えるだけの性能にまで追い込んだ、一種のニアフィールドモニターである。したがって、サウンドキャラクターは、DS−A3の芳醇な音とは異なり、ソリッドで引き締まった質的な高さが特徴だ。

ダイヤトーン DS-8000N

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS8000Nは、クロスオーバー特性可変の独立ネットワーク方式を採用したモデルで、同社初の38cm径紙コーンによる低域と、Aシリーズで開発された新アラミドクロスコーンの中域、2S3003直系のB4Cコーン型高域の3ウェイフロアー型システム。内容は非常に濃く、モニター的にも、家庭内での定音量再生でもバランスを崩さず、伸びやかに鳴る鳴りっぷりの良さは格別だ。なお、クロスオーバー固定型のベーシックモデルも用意されている。

ダイヤトーン DS-V9000

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 DS−V9000は、磁気回路の歪みを低減する独自のADMC方式により、一段と振動系の能力を発揮させるようにした新フラッグシップVシリーズの4ウェイ密閉型システムだ。エンクロージュアには各種の天然材を適材適所に採用した同社としては異例の設計と、もの凄い物量投入型の豪華な使用ユニットに注目したい。大人の風格を感じさせる、使いこんではじめて魅力のわかる名機だ。

ダイヤトーン 2S-3003

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ディジタルプログラムソースに対応する新放送局用モニターとして、小型高密度設計で最大音圧レベルを大幅に向上したモデルが2S3003。低域はネットワークレスの全域型で、高域を低いクロスオーバーから使うコーン型2ウェイ方式は、2S305を受け継ぐ設計だ。定機器のアラミドハニカムコーンと、究極の振動板といわれるピュアボロン(B4C)コーン型の組合せにより、見事な音の純度の高さとダイナミックな表現力の豊かさが聴かれる。

ダイヤトーン

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 三菱電機ほどの大企業が、すでに50年間オーディオ用のスピーカーシステムを開発し続けてきた例は他社にはない。
 その発端は、戦時中に東工大で開発された酸化鉄系のオキサイドパウダー(OP)磁石を製造していたが、戦後になって、その平和利用の一つとしてスピーカーの製造が発想されたことに始まる。好都合なことにNHK技研のバックアップで、ラジオ用としては異例に高域が伸びた全域型を完成。そして整合共振理論に基づくコーン制御により、後のベストセラーモデルP610の原形P62Fを生む。
 さらにNHK技研と共同開発により、2S660/205放送用モニターシステムの完成へと続き、厳しい基準であるBTS(放送技術規格)をクリアー。1958年には有名な2S305が完成し、コーン型2ウェイ放送モニターシステムの形態が確立された。
 一方、計測データの必要性から民間初の無響室が1953年に設置された。それまではカット・アンド・トライで、コーンのコルゲーションの位置を検討するのにも莫大な時間が必要であったことを、本誌企画のダイヤトーン三代記のインタビュー取材で、当時の設計スタッフから聞いた記憶がある。
 民生用スピーカーシステム開発の第1号機DS32Cの内容が2S305系ユニットであったことも、スピーカーシステムの設計に当って、平坦な周波数特性を現在でも最優先させているダイヤトーンならではのことだ。こうした、最も完成度が高く信頼できるユニットでシステムアップすることは、まさしく正統派の設計・開発である。
 放送用モニターの2S305、2S208という2ウェイ型や、全域ユニットP610の開発過程で得られた技術データとノウハウをもってすれば、民生用システムの開発は比較的に容易であったと思われる。
 民生用として’68年に発売されたDS11S/12S/31C/32Cは基本的に2ウェイ型で、これに続いて3ウェイ型のDS33B/34Bが発表された。そして、スーパーダイヤトーン・シリーズとしてハイエンドを狙う3桁ナンバーのDS251/301が、3ウェイ、4ウェイ型として登場し、ラインナップを拡げていくことになる。
 これらの一連の製品は、非常にフラットなf特をもっていたため、2S305の特性とオーバーラップし、定規で直線を引いたようなf特といわれた。また、3桁シリーズにはスーパートゥイーターが採用され、超高域レスポンスが表示されたこともあって、ダイヤトーン≒フラットレスポンスというイメージが一段と強調されたように思われる。
 優れたスピーカーシステムは、基本特性に優れたユニットとエンクロージュアの組合せが、まず基盤としてあり、これを無限ともいえる時間をかけてヒアリングし、システムを磨き上げていってはじめて完成する、ということが、当時から同社の伝統であるようだ。そのために、優れた振動板を求めてアラミドハニカム、ボロン化チタン、B4Cなどを開発する一方で、駆動歪みを低減するADMC磁気回路を開発するなど、常に基本からリセットして開発が始まっている。こうした製品作り姿勢が、製品に対する信頼感を高めているが、技術集団的なイメージがあまり感じられないことは、大変に興味深いことである。

ダイヤトーン DS-200ZA, DS-600ZA, DS-800ZA, DS-1000ZA, DS-2000ZA

ダイヤトーンのスピーカーシステムDS200ZA、DS600ZA、DS800ZA、DS1000ZA、DS2000ZAの広告
(サウンドステージ 26号掲載)

Diatone

ダイヤトーン DS-1000Z, DS-2000Z, DS-800Z, DS-600Z, DS-200ZA

ダイヤトーンのスピーカーシステムDS1000Z、DS2000Z、DS800Z、DS600Z、DS200ZAの広告
(サウンドレコパル 1994年夏号掲載)

DS1000Z

ダイヤトーン DS-A1

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 ダイヤトーンのコンシューマー用スピーカーシステムは、受注生産となったDS−V9000、V5000、V3000のシリーズと、中堅モデルとして開発されたDS2000Z、1000Z、800Z、600ZをラインナップするZシリーズがその基本路線であり、同社の標榜する「ダイヤトーン工房」的な構想のモデルが、スペシャリティモデルのDS20000や、このDS−A1と考えることができる。
 DS−A1は、最初に目に触れたのがプロジェクションTV用スクリーンの両脇に置かれた総合カタログであったため、AV用システムとの誤解を招いた。基本的にはディフラクションを避けるために楕円断面のエンクロージュアを設計し、その天板部分をラウンド形状とするプロポーションがベースであり、各社ともに、このタイプのエンクロージュアを試作し検討した例は多い。これを実際に商品化するモデルとして、制約のなかで出来上がったプロポーションが本機採用のデザインであろう。
 本機に組み合せるユニットは、新世代のデジタルリファレンス放送モニター、2S30003のユニット開発の成果が投入されたもので、B4C・5cmコーン型高域と三軸織りアラミッドスキン・ハニカム振動板と三軸織りエッジは、システム価格をはるかに超えた超豪華設計といえる。低域用のネットワークレスの全域ユニットは、2S30003直系の設計である。エンクロージュアは剛性重視設計ではなく響きの豊かさを狙った設計で、開放感があり、のびやかによく鳴り、これは本機以降の同社システムの新しい方向性のようだ。
使いこなしポイント
 全域ユニット+トゥイーターの2ウェイ方式とバスレフ型の組合せは、反応がシャープかつセンシティヴで、プログラムソースに素直に反応するため、オーソドックスなアンプが不可欠。設置周囲の影響にも敏感で、設置には細心の注意が必要だ。