Category Archives: マイクロ

マイクロ MA-505

岩崎千明

週刊FM No.12(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 アームは、理屈からいってもスプリングで針圧を加えるダイナミック・バランスが絶対良い。針圧にカウンター・ウェイトをずらして重力を利用したスタティック・バランス型の場合、アームは必ずアンバランス状態にある、ということになる。だから、ちょっとレコードのソリや偏心、あるいはプレーヤーの傾きは針圧に比例してアンバランス状態を招き、実際の使用状態で理論通りの働きをしてくれない。理想とはほど遠い状態にさらされているのがディスク再生の現実なのである。ところがダイナミック型は、かんじんの針圧加圧用のバネ自体を均一に作るのが難しい。だからダイナミック・バランス型アームはスタティック型にくらべて製品が格段に厄介だ。だから国産品は最近まではなかったし、海外製でもまれだ。軽針圧用にも使えるマイクロのMA−505がなぜ良いか、その基本的理由は以上のようだ。
 さらに中でも、この針圧を自由に変えられるのもダイナミックならではだがMA−505の場合「インサイドフォース・キャンセラー」から「高さ調節」まで演奏中に調節できるというのは驚きだ。超低域の響きがどっしり、スッキりするだけでなく、音楽の音全体が安定して、それは同じカートリッジと思えぬくらいの変わり方だ。トレースの安定向上という点だけにとどまらない飛躍ぶりは一度使えば誰もが痛烈に思い知らされるはずだ。ただし、この構造では止むを得ぬとはいうものの、デザインがあまりに武骨なのが残念だ。

マイクロ SX-8000II System

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

超重量級ステンレス・ターンテーブルを中心に、アナログプレーヤーの理想形を集大成したピラミッド的存在。エアフロート軸受とディスクのエアー吸着を中心としたベルト駆動方式の成果は、まさに地に足が着いた音が聴かれる。重量級だけに設置場所の選択と設置方式で、音はいかようにも変る点に注意。

マイクロ SX-8000II System

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

超重量級のステンレス製ターンテーブルはエアフロートベアリングで支持され、ディスクは空気吸引でターンテーブルに吸着される方式。音溝に刻まれた信号のみを何物にも妨げられずに拾い出そうとする設計方針の確かさは、常識を超えた確度の高い音で実証されている。少々、テンションの高い傾向はあるが、実に濃い音だ。

マイクロ SX-8000II System

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 現在では完全に開発不可能な超弩級アナログプレーヤーが生産されていることは、アナログディスクファンにとって素直に感謝すべきであろう。超重量級ターンテーブルを空気軸受で浮かし、ディスクを吸着する機能は、究極の方式として現在に至るまで前人未到の頂点を極めた設計である。生産続行を切望する超弩級機だ。

マイクロ SX-8000II System

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 35kgの本体と、28kgのターンテーブル。つまり計63kgの重量級レコードプレーヤーである。そして、何よりも大きな特徴はターンテーブルがエアーフロート方式であることだろう。重量級のハイエナーシャ・ターンテーブルの安定した回転は高音質に有利であるが、これを静粛かつ長時間の耐久性を保証して回転支持することは容易ではない。エアーフロートにより非接触で支持する方法は理想的で、これをエアーベアリング方式という。
 摩擦はなく、機械振動によるノイズの発生も少ないし支持部の摩耗も心配ない。これに加えてこのプレーヤーはディスクをエアーでターンテーブルに吸着する方式を採用した。これは音質上、必ずしも有利とばかりは言いきれない難しさを抱えているが、この辺りを長年のキャリアーで巧みにコントロールしたことがロングライフにつながったのであろう。平面性の点では強力に吸着するのがよいが、ターンテーブルと一体化すれば、それで音もよくなるとは単純に言いきれない。
 このプレーヤーは聴感上のS/Nがよく、バックグラウンドが安定静粛でローレベルが透徹している。エネルギーバランスは妥当で、しっかりした造形感が得られる。音にウェイトがあり聴き応えがある。シェリングのヴァイオリンの音触は高域の肌理が細かく刺激感がなく美しいが、もう一つ繊細な切れ味がほしい気もした。無い物ねだりではあるが……。
「トスカ」では、ボトムエンドの伸びによりスケールの大きいステージが展開。滑らかな高音域により汚れのないトゥッティが楽しめる。「エラ&ルイ」のモノーラルは、実にすっきりして位相のよさを感じさせた。ジャズも重量級プレーヤー独特の安定感で、ベースは太いが高密度の充実したサウンドである。心配なのは長年の使用上の安定度と信頼性だが、柳沢功力氏の愛用品であるから問題はなかろう。BA600防振ベース上にセットされた姿はさすがに立派である。

マイクロ CD-M2DC + DC-M2

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 穏やかで、一種独特の重さ、暗さがある渋い音を持つ個性的な音である。CDとしては再生する情報量は多く、演奏会場の空気の動きや椅子などのキシミ、楽器のノイズなどを聴かせる。試聴位置は中央の標準位置。ロッシーニは、基本的にはウォームトーン系のまとまりだが、角がとれたクッキリとした音はアナログディスク的なイメージがある。各パートの声は少し伸びが抑えられ、音像はフワッと大きく定位する。ピアノトリオは、低域が重く粘りがあり反応は遅いが、中低域以上はほどよく立上りの良い素直な音であるため、低域のコントロールをすれば個性的な良い音になるだろう。ブルックナーは、音楽的な意味でのブルックナーらしさがあるが、オーディオ的には見通しが悪く、晴々としない音である。平衡接続ではプレゼンスは良くなるが、ダイナミックレンジは抑えられ、表情も鈍くなる。ジャズは、狭帯域型バランスと閉鎖空間的プレゼンスが特徴だが、安定度、力感が欲しい。

マイクロ BL-99VFII

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 エアベアリング、バキュウム吸着方式のターンテーブルなどに代表されるユニークなベルトドライブプレーヤーでレコードファンの熱い支持を集めているマイクロのベーシックシステムがBL99Vであり、これに、それぞれトーンアームでは実績のある、FRとSAECのアームを組み合せたシステムが、BL99VFとBL99VWの2モデルだが、今回、このうちBL99VFに改良が加えられて、BL99VFIIに発展した。
 モデルナンバーからも推測できるように、改良のポイントはFR製のトーンアームにある。このトーンアームは、基本形は従来のFR64fxであるが、その仕上げと内部配線材、出力コードの線材を変更したタイプである。
 まず、大きく変わったのは仕上げで、従来のブラックからシルバー梨地仕上げとなり、内部の配線材は注目のLC−OFC使用になった。この点では、FRの新製品であるFR64fxProが各種の線材を試作検討した結果、LC−OFCではなく、線径を太くしたオーソドックスな軟銅線を採用した、と発表されているのと好対象で、マイクロでは独自の判断によってLC−OFC線材を選んだということになるわけだ。
 この線材の材料が、軟銅線、OFC線、LC−OFC線、それに構造面で異なるリッツ綾などの違いによって現われる、結果としての帯域バランス、音場感、スクラッチノイズの質と量の変化など、音質にかなりの影響があるだけに、この両者のアームを各種のカートリッジで比較試聴したら、さぞ面白いことであろう。
 なお、アームからの出力コードは、内部配線材と共通なLC−OFCのシールド線で、試聴用セットにはアーム部のコネクターがL型のタイプが附属していたが、正規の製品はストレートなタイプであるとのことである。
 試聴には、特集ページのカートリッジテストに使った、アキュフェーズC200LとP500のセパレート型アンプとJBL4344を組み合せ、試聴用力−トリッジはデンオンDL304、その他を使うことにした。
 試聴に先だって、BL99VFIIの4個所のインシュレーター高さ調整スクリューで水平度を調整する。最近では、この調整はあまり行なわれていないが、プレーヤーではこの調整がもっとも重要なポイントであり、ラテラルバランス、インサイドフォースキャンセラーに影響がある。
 続いて、アーム高さ調整、バランス調整を経て、針圧、インサイドフォースキャンセラー調整、これだけの調整が必要であるわけだ。次は、モーターと吸着用ポンプのACポラリティチェックだ。とくに、ポンプは無視しがちだが、これが、予想外に大きく音質に影響する。簡単にチェックポイントを述べれば、音場感がきれいに拡がり、とくに奥行きの見通しがよく、スッキリとした音を選ぶのがポイントだ。
 BL99VFIIは、ベルト駆動型独特なリッチな低域ベースの安定感のある音と抜けの良い高域がバランスした好製品である。

マイクロ SX-111FV

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 マイクロのプレーヤーシステムは、DD型全盛の動向に反して、アナログプレーヤーシステムの原型ともいうぺき、慣性質量が非常に大きい重量級のターンテーブルをベルト、もしくは糸でドライブする方式を、頑として推進させている点に特徴がある。
 今回、新登場したSX111FVは、同社のコンプリートなプレーヤーンステムのスタンダードとして位置づけされ、高い評価を得ているSX111をベースに、ターンテーブルシャフトのエアフロートシステムとレコードのバキューム吸着システムの、両方を導入して完成された注目の製品である。ちなみに、モデルナンバー末尾のFは
フローティング、Vはバキューム吸着の意味をあらわしている。
 外観上は、従来のSX111にエアポンプユニットが加わった、2ブロック構成であるが、当然のことながら、本体部分のシャフト構造とレコード吸着構造が組み込まれている。
 Fを意味するフロートのメカニズムは、同社の高級モデルSX8000、SX777などに採用されているエアーベアリング方式で、エアポンプで圧縮された空気をターンテーブルの内側に送りこみ、ターンテーブル裏面と内部フレームの間を通過することによりできる空気膜により、ターンテーブルを0・03mm浮上させ回転を可能とするものである。
 この方式は、従来のようにシャフト下端部にボール等の軸受がなく、機械的摩擦や機械的ノイズの発生がなく、静かで滑らかな回転が得られる。それに加えて、ターンテーブル内側に常に圧縮空気が満たされているため、空気の制動作用により外部振動を受けにくく、ターンテーブル自体の共振を抑えるという非常に大きな特徴がある。
 直径31cmのターンテーブルは、重量10kgの砲金製で、ダイナミックバランスは精密加工により極めて良好である。また、ゴムシートを使わず、直接レコードをターンテーブル上に置く設計であるため、音溝に対する応答性が改善され、音質面での分解能、音像定位感などに非常に効果的であるとされている。
 Vを意味するバキューム吸着システムは、レコードのソリを修正できることに加え、レコードと重量級ターンテーブルが完全に一体化され、レコード自体の固有共堆が除去され、音溝の情報をより正確に拾うことが可能となる。なお、吸着方式は常時吸着型であり、演奏中のレコードの浮き上がりは皆無であり、レコードを交換するときには、スイッチOFFで逆噴射エアが働き、簡単にレコードの取り外しができる設計だ。
 ターンテーブル駆動用モーターは、本体左側奥に取付けられた、8極24スロットのDCブラシレスFGサーボモーターを使用している。
 その他、従来のSX111の特徴である、ターンテーブルシャフトアッセンブリーとアーム取付マウント部を重量級の金属フレームで一体化して、ターンテーブルとトーンアーム間の振動循環系の振動モードを同位相化し音溝情報を電気信号に変換するときの変換ロスを追放するダイレクトカップリング方式や、新1500シリーズ等で実績をもつ独自の高支点エアスプリングサスペンション方式により、十分なハウリングマージンを確保している。
 この支持方式は、空気とオイルの粘性抵抗、特殊構造のゴム、円錐状金属スプリングと、それぞれ固有共振の異なる4種の材料を組み合わせた構造により、広帯域にわたり振動減衰特性を実現している。上下左右、前後方向の外部振動を除去できるうえ、このサスペンションは取付支点を高くとった結果、プレーヤー全体の重心が低く、安定性が非常に高いというメリットがある。
 トーンアームは付属していないが、有効長257mm以下のタイプは全て使え、マウントベースは、SX777、111と共通のA1200シリーズが使用可能。
 試聴は、A1206マウントベースにSME3010Rを組合わせておこなう。エアポンプユニットRP1100は、機械的振動やノイズの点でも充分に低く抑えられ、この意味での懸念は皆無にひとしい。
 SX111FVの音は、なんといってもスクラッチノイズが質的にも、量的にも大変に低く抑えられているのが最初の印象である。この聴感上の利点は、音の分解能、高ダイナミックレンジの魅力にくわえて、ステレオフォニツクな音場感のパースペクティブな再現性の良さ、シャープな定位感の良さにつながる。このシステムならではの新鮮で、強烈な魅力である。音楽が活き活きと伸びやかに響き、従来のレコードから未知の音が引出される。快心作と評価できる、価格対満足度に優れた製品であるが、駆動モータープーリー部のカバーは強度不足で、このシステムの脚を引張っているアキレス腱であり改善を望みたい。

マイクロ SX-8000, MAX-282

マイクロのターンテーブルSX8000、トーンアームMAX282の広告
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

Micro

マイクロ SX-777, BL-101, BL-111

マイクロのターンテーブルSX777、BL101、BL111の広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

micro

マイクロ SX-777

井上卓也

ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 プレーヤーシステムは、主要構成部品が機械的なメカニズムで成り立っているために、エレクトロニクスの技術がモーター系に導入されたDD型といえどもターンテーブル、シャフト、軸受けといった基本メカニズムに予想をはるかに上廻るほどの精度や剛性をもたせないと、回転精度やワウ・フラッターなどの物理的な計測データがいかに高くとも、結果としての音質を優れたものにすることは不可能に近い。
 このメカニズムが音質を決定するという事実が認識され、測定値が非常に優れたDD型プレーヤー全盛であるにもかかわらず、古典的なべルトドライブや糸ドライブのシステムがこれならではの充実した音の魅力により、特に高度なファンの心を捉えているのは見逃せないことである。
 ベルトや糸ドライブプレーヤー復活の原動力となったマイクロから、新しくエアーベアリング方式、コモンモード・カップリング方式といった自社開発の特許方式を採用した糸ドライブ・アームレスプレーヤーSX777が発売された。
 碁本構成は、既発売のBL111と同様にプレーヤーキャビネット内に主要構成郡品を収納したタイプで、家具的にも完成度が高く、メカニズム派のみならず音楽ファンにも好適なシステムである。ターンテーブルは重量10kgの砲金製で、16mm径シャフトと軸受け間はオイルバス方式。シャフトと軸受けは精密ラッピング加工の鏡面仕上げだ。軸受け構造はエアーベアリング方式、ターンテーブル内側に圧縮空気を送り込んで最大0・03mm浮上させ、超スムーズな回転を得る。同時に、シャフトアッセンブリーとアームマウントを一体化したコモンモード・カップリング構造を含め、空気による制動効果で共振をダンプするメリットをも持つ。なお、糸ドライブ用材料はアラミド系、12・1μmの繊維を13本撚りとするこで長期間にわたり初期特性を維持できる最適の材料選択だ。回転数チェックは内蔵ストロボをクォーツ回路で点灯させる方式採用。駆動モーターは直流FGサーボ型で、強力電源部採用だ。
 SME3010Rと組み合わせたSX777は、各種カートリッジに対し瑞々しい質感の再現、緻密で躍動感のある表現力とアナログディスクならではの独自の魅力をサラッと聴かせる実力の高さを示した。

マイクロ アナログディスク関連アクセサリー

マイクロのターンテーブルシートCU180、スタビライザーST10、ST20、インシュレーターMSB1、MSB8、MSB100、イナーシャHS80、ヘッドシェルH808X、H303X、H202X、ベースG8000、B8000、F8000、ストロボスコープMST305、ストロボライトMSL204、トーンアーム出力ケーブルMLC282、MLC7S、MLC12S、シェルリードMCS9、MCX7、MCL5の広告
(スイングジャーナル 1981年9月号掲載)

マイクロ

マイクロ SX-8000

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 マイクロが専門メーカーらしいマニアックなターンテーブルの製品に徹したポリシーをとって生み出した最高級品がこれ。20kgのステンレス製ターンテーブルを糸あるいはベルトで駆動するが、駆動モーター部とターンテーブルアッセンブリーはセパレート型。重いターンテーブルのシャフトはエアーで負担を軽くし、ノイズも軽減し耐久性を確保している。ハウリング対策さえ解決すれば、このターンテーブルならではの澄んで確固たる音が聴ける。

マイクロ SX-8000

マイクロのターンテーブルSX8000の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

SX8000

マイクロ SX-8000

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これは一般にはSX8000といっているが、各ブロックによって全部型番が違う。いわゆるターンテーブルと、駆動モーター部分、それからバキュームポンプの三つの部分からなるスリー・イン・ワンとでもいうか、セパレート型だ。非常にユニークで、強烈な重量を誇るターンテーブルシステムにバキュームポンプでエアを送って、ごくわずかだがフロートさせて軸受けベアリングの摩擦抵抗をなくし、SNをよくすると同時に、寿命を延ばすという方法をとっている。そしてモーターでこのターンテーブルを糸ドライブするという、超マニアックな製品だ。いかにも専門メーカーでなければ作れないし、また相当なマニアでなければ使わないものだ。
 実際に使ってみて、これは重量でがっちり固めて、それこそクッション類だのというものは一切使わない。全部リジツトに固めていくという方針だから、地上何メートルからかコンクリートを打ち込んで、そういう所において聴くというのが本来だろう。床がグラグラというような建物の中に入れて聴くのは意味がない。
音質 これは評価が大変難しい。非常にいい面とそうでない面とが相反していたように私は思う。全くブラインドホールド的に、構造だのなんだのを抜きにして、音として評価した場合のことを言うと──まず、ベースの音が不思議な、ブーミングではないが、どこかプログラムソースの音がゆがめられたというと語弊があるけれども、逆相成分を含んだ響きになった。もしこれがソースそのものだとするならば、これはソースの音を正直に出したということになる。今回聴いた十六機種中、ほかのはこういうベースの音にはならなかった。
 それから、強烈なベースのピチカートがいささかも振られることがない。極端にいうと、これ以外のプレイヤーでは何となくベース自身の支柱がぐらついているような感じの音がする。しかしこれは、ベースの支柱はあくまでがっちりしていて、そこでもって非常に強烈なはじく力で弦だけが震えている。そういうエネルギッシュなベースのはじき音は秀逸だった。クラシックのオーケストラを聴いてみても、非常に透明ですっきりとした、俗にいう抜けのよい音ということだろうが、とにかく明快で、透明であくまで底の澄んだ湖を見るがごとき透明感で、実に独特の魅力を持っていた。とにかくプレゼンスはいいし、分離もいいし品位の高い音ということは間違いない。各楽器の音像が大きくならないし、非常に定位が明快。結局、あくまでこの機械の持っているオーソドックスな、徹底的に物理特性を攻めていったという性格にふさわしい、精巧無比な音である。
 これだけのシステムで、徹底的に重量だけで攻めているから、いわゆるフローティングとかクッションとかによるハウリング対策は何も考えられてない。それだけに使い場所と使いこなしによって、ハウリングの悪影響を受ける場合があるかもしれない。
 現実に今回も鉄筋コンクリートの中でテストをしたわけだけれども、相当にハウリングが起きた。しかし、ラスクを下に敷くことによって見事に止まった。したがって、これは対策を施せばハウリングがとれるということで、そのへん注意された方がいい。

マイクロ BL-111

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これもアームレスのターンテーブルシステム。これは大変にユニークなターンテーブルと言ってもいいと思うが、これほどマニアックなターンテーブルも珍しい。重量10kgの砲金製のターンテーブルが見た目からしてもまずマニアをしびれさせる。そして、そのターンテーブルを糸、あるいはベルトによってドライブする。糸ドライブというのが、今マイクロの主張している一番いいドライブ方式ということで、これもその方式を採用したターンテーブルシステム。
 これのよいところは各ユニットが一つのキャビネットの中におさめられて、マイクロの中では最高に使いやすく、性能も十分出しながら、しかも使いやすい製品にまとめられていることだ。もう一ついいところは、モーターのサボーティングとアームのベースを一体化して、極めて剛性の高い質量の大きなしっかりとした金属のベースでまとめているということだ。これは、音質に非常に大きなメリットをもたらしているように感じた。こういう機械だから操作性はごくシンプルだ。欲を言うと、ベースの表面のフィニッシュがち密できれいだといいと思う。しかし全体的に決してぶ骨な感じを与えないし、マイクロの中では最も洗練されていて、見た目にも好感の持てる製品だ。
音質 実際、音はこれもまたアームレスだから、AC3000MCとMC20MKIIを付けて聴いたけれども、すばらしい音だ。とにかく音全体が大変に澄んでいる。透明感が非常に高い。中高域が非常に明快で、そして低域がずっしりと太く落ち着くものだから、非常に音全体の品位が高くなる。エネルギーバランスがとても妥当なところへいっている。これはやはりアームベースと、軸受けの一体化を図ったところに大きなメリットがあると思う。どんなレコードを聴いてみても、とにかく低域の特性は抜群である。ダレるということは全然ない。むしろダーッとかっちり締めて、自由にスピーカーをドライブするという、大変すばらしい振動支持系を持ったターンテーブルだ。一番印象的だったのは「ダイアローグ」というレコードを聴いた時のベースのエネルギーが、チャチなプレイヤーだとベースのエネルギーにプレイヤー全体が振られているようなイメージがする。つまり何かフラフラツと支点が振られていて、ベースの弦のはじけた張力感というのがなくなる。それが、このプレイヤーは全然ビクともしない。ベースのエネルギーに振られて濁ることがなく、本当にベースの弦のはじき具合が弾力性を持ってピーンと張って聴こえた。
 それからオーケストラでも、チャイコフスキーの「マンフレッド・シンフォニー」の冒頭をテストに使ったが、あそこでファゴット数本にバスクラリネットが入ったユニゾンで吹くところがあるが、あの響きの透明感と抜けのよさ、空間の広がり、これがほかのターンテーブルと一味違う。音場感も非常に豊かに、広がるだけでなく奥行きが出てくる。ティンパニとグランカッサが一緒にたたかれた時に一緒になってドーンと響いてしまうプレイヤーもあるが、これはそういうことはなく、グランカッサとティンパニが音色的に分かれて明快に聴こえる。それでしかも量感があって力感がある。あらゆる点ですっきりしたデフィニションは一頭地を抜いてすばらしかった。

マイクロ BL-111

マイクロのターンテーブルBL111の広告
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

BL111

マイクロ BL-51, BL-71

マイクロのアナログプレーヤーBL51、BL71の広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

BL71

マイクロ BL-71

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 3・2kgの重量級ターンテーブルと直径16mmのシャフトの組合せをFGサーボモーターでベルトドライブする専門メーカーのマイクロらしい製品。巨大な軸受リング採用の特長のあるアームは、内線材に無酸素銅を採用。自然で色づけのない力強い音が特長である。

マイクロ RX-3000 + RY-3300

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 最高級機の5000に続く第2弾の超重量級糸ドライブシステムだ。直径16mmの軸受部、10kgの砲金ターンテーブルの部とドライブモーター部の2ブロック構成で、ターンテーブル裏面と本体間のギャップは狭く、エアダンプ効果をもたせている。

マイクロ RX-5000 + RY-5500

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 超重量級ターンテーブルの強烈なイナーシャを利用して、糸ドライブで駆動しようとする原理をオーソドックスに製品化したシステムである。角型の超重量級ターンテーブルベースはコーナーにサブフレームでアームを固定可能。予想より場所をとらない。

マイクロ RX-3000 + RY-3300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」より

●音質/上級機の5000シリーズと同じように、レーシングマシン(さしずめF1か?)的な性格を持っているので、5000同様、使いこなし次第で良くも悪くも出る。ところで3000の場合、5000とくらべると駆動ユニットも、ターンテーブルの重量も、そのベースも、それぞれ大幅にコストダウンされているので、比較する前は、たとえばエクスクルーシヴのP3とP10のような差が出るのではないかと考えた。けれど、うまく調整ができてみると、価格や見た目の差から想像していたほどの大きな音質の差は出てこなかった。言いかえれば、これはいわゆるコストパフォーマンスが良い(5000と比較しての話、だが)ということになるのかもしれない。
 とはいうものの、むろん違いはある。たとえば重低音の量感。5000よりもごくわずかとはいえ、しかし決して無視できない程度に、低音域での量感が減る。5000の二連ドライブとでは比較するのは割が合わない気がするが、あえてそれとの比較でいえば、重低音でかすかに聴こえるような性質の音が、3000では「消える」とオーバーに表現したくなるような違いはある。けれどそういう音は、5000の二連ドライブのベストの状態でしか、聴けない音、ともいえる。AC4000MCを組合わせての試聴感でいえば、調整がうまく行った際の音質では、リンやトーンレスよりはむろん上廻るし、L07Dをも凌ぐ。ただ調整には多少のコツが必要。たとえば糸の結び目のところでのゴトンゴトンというノイズが、音量をかなり上げて耳につかないようにするには、糸の張り方(テンション)を相当入念に調整する必要がある。ユニットを置く台、その他については5000の項をご参照いただきたい。
●デザイン・操作性/5000ほどの重厚さのない点が好き嫌いの分れみちか。駆動ユニットの操作性は5000よりもやや良い。

マイクロ RX-5000 + RY-5500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」より

●音質/製品、というよりもキット的な性格の、いやそれよりもレーシングマシン(F1)のように、使い手自身がチューニング(調整)し込んでどこまで性能を抽き出すといった性格の、いわば実験機的なマシーンといえる。たとえば駆動(ドライヴ)、ターンテーブル各ユニットを置く台(ベース)の材質や厚みの問題。その台をどこにどう置くか。そしてユニットの水平度を正しく出す。糸をかけるときの糸の長さ、張り(テンション)の強さ。アームベースとアームの選定。アームによってはさらにアーム自体の調整。そしてターンテーブルにシートを乗せるか乗せないか。どこの、どのシートにするか……。思いつくまま列挙してもこれだけある。実際に使いはじめてみれば、さらに細かい問題が出てくる。ところで今回は、マイクロの長沢氏の助言で、ターンテーブルユニットをもう一台追加して、二連ドライブを試みる。その際にはさらに、二台の同一ユニットの水平度と距離の調整。糸を四重がけにしてみる。そのテンション……。
 音質のテーマのところに音質のことをひとつも書かないのは、右の各要素の調整(チューニング)のしかた如何で、音がコロコロ変わるからだ。しかし、二連駆動で、AC4000MCをAX7G型アームベースにとりつけて、調整を追い込んだときの音は、どう言ったらいいのか、ディスクレコードにこんなに情報量が刻み込まれていたのか! という驚きである。音の坐りがよく、しかも鮮度高く、おそろしくリアルでありながら聴き手を心底くつろがせる安定感。マニアならトライする価値がある。
●デザイン・操作性/意匠的には洗練されているとはとうてい言えない。操作性の悪さは論外。加えて高価ときている。チューニングし損なったら、何もいいことなし、というきわどいマシーンだ。けれど隔絶した世界の音を一旦聴いたら、もう……。

マイクロ RX-3000 + RY-3300

井上卓也

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 超重量級ターンテーブルユニットと駆動用のモーターユニットを組み合わせ使う糸/ベルトドライブ兼用アームレスプレーヤーシステム、RX5000/RY5500と同じ構想による新製品である。
 RX3000ターンテーブルユニットは、ユニークなデザインを採用したダイレクトドライブ方式のアームレスプレーヤーシステムDDX1000、DQX1000と同じく3本脚構造のデザインを受け継ぐ。ターンテーブルの回転による共振は、機械的強度、重量で吸収する設計である。設置時の安定性は高く、3本の脚部にそれぞれトーンアームが取付可能であり、場所的制約も予想以上に少ないという特徴がある。
 ターンテーブルは、銅85%、錫その他15%の合金である砲金製。比重や内部損失が大きく、直径31cm、重量10kgというヘビー級だ。フレームとターンテーブル裏側との間を凹凸型に加工し、このギャップ間の空気層でもターンテーブルの共鳴をダンプする構造を採用している点はこのモデルのみの特長である。直径16mmステンレス製シャフトは熱処理、研磨後、軸受と一対の組合せ鏡面仕上げされる。シャフトに接する軸受側は特殊ベアリング採用で、油膜に鉛の分子が均一に析出され、滑らかな回転を保てる特長がある。シャフトとベアリング間はオイルバス方式である。
 RY3300モーターユニットは、4極6スロット・アウターローター型サーボモーター使用で、ベルトと糸共用のプーリー付。糸はアラミド繊維製である。
 RX3000/RY3300に、オーディオクラフトのトーンアームを組み合わせて使ってみる。糸がけなどセッティングは手順を考えて行なえば比較的容易である。速度調整もストロボ板でチェックしたあとは、回転数の安定度は高い。RX5000/RY5500と比較すると、充実感は一歩譲るが、音色の明るさ、反応の速さではこちらの方が勝るようだ。重量級ターンテーブルの特長である緻密で内容の濃い、情報量の多い音は、並のDD型とは一線を画した独特の魅力で、カセットを聴いていてオープンリールを聴いた場合の印象と比較できる。置場所は剛性の高い台上がよく、ターンテーブルシート、スタビライザーなどは、ケース・バイ・ケースで試用するのが好ましい。

マイクロ BL-71

井上卓也

ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 専業メーカーらしく、ベルトドライブ型や糸ドライブ型の高級機を意欲的に開発しているマイクロのベルトドライブ・マニュアルプレーヤーである。
 ターンテーブルは、外周部の肉厚を十分にとり慣性質量を上げたオーソドックスな設計で重量3・2kg。シャフトは、BL91で採用した直径16mmのステンレス鋼製で、シャフトと軸受メタル間は0・02mmのラッピング鏡面仕上げでオイルバス方式の潤滑系採用である。駆動ベルトはカーボン材配合で経年変化を抑え、駆動モーターはFGサーボ型で、±3%の回転数可変型である。
 トーンアームは、軸受部分の剛性をとくに高めたスタティックバランス型、一体削り出し加工のヘッドシェル付だ。プレーヤーベースは、振動モードの異なる材質を配合した防振構造採用で、表面は黒檀突板仕上げである。
 BL71は音色が明るく伸びやかな音が特長だ。音の輪郭をクッキリと浮び上らせ、緻密さも適度にあるため実体感がある。こだわらぬ自然さが魅力。