マイクロ BL-111

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これもアームレスのターンテーブルシステム。これは大変にユニークなターンテーブルと言ってもいいと思うが、これほどマニアックなターンテーブルも珍しい。重量10kgの砲金製のターンテーブルが見た目からしてもまずマニアをしびれさせる。そして、そのターンテーブルを糸、あるいはベルトによってドライブする。糸ドライブというのが、今マイクロの主張している一番いいドライブ方式ということで、これもその方式を採用したターンテーブルシステム。
 これのよいところは各ユニットが一つのキャビネットの中におさめられて、マイクロの中では最高に使いやすく、性能も十分出しながら、しかも使いやすい製品にまとめられていることだ。もう一ついいところは、モーターのサボーティングとアームのベースを一体化して、極めて剛性の高い質量の大きなしっかりとした金属のベースでまとめているということだ。これは、音質に非常に大きなメリットをもたらしているように感じた。こういう機械だから操作性はごくシンプルだ。欲を言うと、ベースの表面のフィニッシュがち密できれいだといいと思う。しかし全体的に決してぶ骨な感じを与えないし、マイクロの中では最も洗練されていて、見た目にも好感の持てる製品だ。
音質 実際、音はこれもまたアームレスだから、AC3000MCとMC20MKIIを付けて聴いたけれども、すばらしい音だ。とにかく音全体が大変に澄んでいる。透明感が非常に高い。中高域が非常に明快で、そして低域がずっしりと太く落ち着くものだから、非常に音全体の品位が高くなる。エネルギーバランスがとても妥当なところへいっている。これはやはりアームベースと、軸受けの一体化を図ったところに大きなメリットがあると思う。どんなレコードを聴いてみても、とにかく低域の特性は抜群である。ダレるということは全然ない。むしろダーッとかっちり締めて、自由にスピーカーをドライブするという、大変すばらしい振動支持系を持ったターンテーブルだ。一番印象的だったのは「ダイアローグ」というレコードを聴いた時のベースのエネルギーが、チャチなプレイヤーだとベースのエネルギーにプレイヤー全体が振られているようなイメージがする。つまり何かフラフラツと支点が振られていて、ベースの弦のはじけた張力感というのがなくなる。それが、このプレイヤーは全然ビクともしない。ベースのエネルギーに振られて濁ることがなく、本当にベースの弦のはじき具合が弾力性を持ってピーンと張って聴こえた。
 それからオーケストラでも、チャイコフスキーの「マンフレッド・シンフォニー」の冒頭をテストに使ったが、あそこでファゴット数本にバスクラリネットが入ったユニゾンで吹くところがあるが、あの響きの透明感と抜けのよさ、空間の広がり、これがほかのターンテーブルと一味違う。音場感も非常に豊かに、広がるだけでなく奥行きが出てくる。ティンパニとグランカッサが一緒にたたかれた時に一緒になってドーンと響いてしまうプレイヤーもあるが、これはそういうことはなく、グランカッサとティンパニが音色的に分かれて明快に聴こえる。それでしかも量感があって力感がある。あらゆる点ですっきりしたデフィニションは一頭地を抜いてすばらしかった。

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