Category Archives: パイオニア

パイオニア CT-8

岩崎千明

週刊FM No.15(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 パイオニアのCT8はナンバーから推察すると当然CT9の弟分に相当するはずだが、外観からはほんの少しパネルの背が低いことを除くと弟分ではなくて凝縮型のマイナー・チェンジと思えるくらいだ。もっともこれを使ってみると、カタログ上の数字はともかく、すべての点で、まったく兄貴格と同じであることも知らされる。つまり、CT8は実質的性能の高い割安な最高級品といえる。
 軽く、しかも確実なタッチの操作レバー。豪華なレヴェル・メーター。扱いやすいスウィッチのテープ・セレクター、さらに例によって見やすく装填しやすい垂直型のマガジン。LEDのピーク・インジケーターも兼備する。扱いやすさと高級感に加えて、CT8の耳当りの良い音も、このデッキの特筆できる魅力だろう。
 カセットらしからぬ広帯域感。単なるフェライト・ヘッドなどではなく回路を含めての設計のうまさだろう。低音の豊かさがよく出てるし、聴感的にヒスの少ないのも使いやすさに大きなプラスをもたらしているだろう。
 ドルピーの際のヒスの低減で、カセットらしさはまったくなくて、実用上、オープン・リールにもくらべられ得るほどだ。カウンター・ゼロを記憶するメモリーは扱いやすく初心者にも容易に扱いこなせるのも新しい特長だ。

パイオニア S-A7

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

新世代メディア対応の超広帯域レスポンスを狙って開発された同社の最新作。新採用のケブラーコーンの音色は明るく、心地よく弾む低音は量感も豊かだ。各ユニットはナチュラルにつながり、広帯域型ながら中域の量感が充分にあるのが魅力。外観、仕上げ、ユニット構成からは想像を超えた価格設定は目を疑うばかり。

パイオニア M-AX10

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

基本的には、4chパワーアンプではあるが、BTL接続の2ch高出力アンプ、各種デバイダーと組み合わせた2chマルチアンプ再生、さらに4ch使用と、大変に多機能を特徴としながら、基本性能を高次元で保っているのは見事。最大に魅力を引き出して楽しむためには、C−AX10は必要不可欠のペアで、マルチアンプ再生も容易だ。

パイオニア C-AX10

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

新世代メディア再生を前提とした非常にヴァーサタイルなアナログ/ディジタルプリアンプ。マルチチャンネル対応型としては、異例の高SN比設計で、オーソドックスな2ch再生では本格的に聴き込めるのは驚きだ。ディジタル技術を駆使した多機能ぶりは、まさに現代を代表するプリアンプらしく、聴いて観て楽しい。

パイオニア A-D5X

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

この製品あたりを本格オーディオ(趣味のオーディオ)に使えるアンプの最低ラインと考えたい。今年の新製品であるが、周到な作りで、まずまず、合格ラインの音の品位を持つプリメインアンプだと思う。耳あたりのいい音でありながら芯も肉厚も決して脆弱ではない。音触もこのクラスとしてはリアルである。

パイオニア PT-R9

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

伝統的にリボン型ユニットを使い続けてきた同社の代表作。ベリリウム振動板採用は前例がなく、アルミ系金属よりも印象的に固有音は少ない。超高域再生の魅力は、単に超高域を伸ばすだけでなく、予想以上に低音再生能力と相関関係をもつことだ。上限20kHzのCDでも、PT−R9の威力は想像以上に凄い。

パイオニア Exclusive Model 2404

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

スタジオモニター「TAD」の技術を集大成した非常に内容の濃いシステム。高域ユニットは前例のない構造のドライバーとホーンの組合せ、低域は鋳鉄一体型フレーム採用という物量投入ぶりは実に凄い。独自設計のネットワークは別売りであるが、パッシヴ型のベスト作。超高域リボン型を加えた音は予想を超え楽しく見事。

パイオニア S-AX10

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

同社の業務用TAD系の技術をベースに、独自のリボン型高域を加えた新メディア対応のトールボーイ型。重量級のMEI製ベースの採用で重心位置を下げた効果は安定した低域にあらわれている。同社AX十シリーズのアンプと組み合わせたディジタルクロスオーバーによる異次元の音も味わえる現代型システムの典型。

パイオニア S-PM2000

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

型番に2000を付けたミレニアム・システム。エンクロージュアは、約50年寝かせた材料で作り、それを約50年間使ったウィスキー醸造樽が原材料。さすがに約100年の歳月の熟成(?)を経たエンクロージュアが聴かせるかけがえのない音は、誰しもホッ!!とする、安らぎにも似た独得の味わいである。感銘深く、楽しい力作。

パイオニア Exclusive Model 2404

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

比較的に古典的設計を守るホーン型システム。抜本的に入力系の直結化を計り、音圧が非常に高い振動板エッジ部の対策を施した設計が、ストレートに音に聴かれる成果は、異例中の異例。鋳鉄フレームの禁を犯したウーファー設計は、確信犯的な技術成果で、少し硬質だがビシッと決まる低音はスリリングでもある。

パイオニア C-AX10

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

2chステレオ再生でのディジタル技術の可能性を展開しながら次世代メディアへの対応性を併せ持たせた、パイオニア次世代オーディオシステムの中核モデル。ディジタル・クロスオーバー、ディジタルトーンとNR、6chA/D、8chD/A内蔵で、非常に多機能ではあるが、鮮度感があり、反応の速い音の魅力は素晴らしい。

パイオニア PT-R6

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

DVD−A、SACDの超高域再生能力に対応するために新開発された最新リボン型ユニット。振動板材料はアルミ系合金で、ソフトドーム系のユニットと組み合わせても質感のマッチングでの問題はない。本来のシステムの情報量が見事に増え、ナチュラルな自然体の音になる効果は、現行CD再生時でも顕著で楽しい。

パイオニア PT-R9

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

実績あるパイオニアのリボントゥイーターの伝統を受継ぐ1996年発売の高級モデル。振動板のリボンは、ベリリュウム製で、リボン型独自の薄膜が振動しているような附帯音の少なさが最大の魅力。感度は97・5dBと驚異的に高く、100dB級のホーン型ユニットとの組合せが可能。全帯域への影響度は想像以上に凄い。

パイオニア M-AX10

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

C−AX10とペアとなる4ch構成のパワーアンプで、かつてのM70の系統を受け継ぐ製品。高出力が得られる2ch(ブリッジ)使用が基本だが、C−AX10との組合せで4chアンプ(セパレート)によるバイアンプ駆動も楽しめる。入力系に入力切替と音量調整を備えるので、単独使用も可能。積極的な音が加われば文句なしに見事。

パイオニア Exclusive C7a

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

パワーアンプ的な感覚のパワフルなプリアンプとして定評の高いC7のリフレッシュモデル。独特の線が太く彫りの深い音は、いちだんと細くシャープに変り、現代のプリアンプらしいソノリティを身につけたようだ。コントラストの弱い音のプリアンプが主流を占めている現在では、この少し古典的な音の魅力は計り知れない。

パイオニア Exclusive Model 2404

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 ホーン型を中域以上に使う大型2ウェイシステムは、従来からスタジオモニターとして伝統的に使われてきたシステムではあるが、紙コーンの低域と、軽金属振動板採用のドライバーユニットとホーンを組み合わせた中域以上とでは、音色、感度、指向特性などが根本的に異なり、システムアップが非常に難しく、その成功例は想像以上に少ないようだ。
 とくにクロスオーバー付近では、特性を重視すれば音質、音色に違和感を生じ、平均的にはクロスオーバー域の音圧を弱めに設定して、音質、音色をコントロールする手法が用いられるようだ。
 また、大型ホーンで音像が前後方向に移動する例が多く、ある程度、システムとの距離をおいて聴く必要もあるようだ。
 しかし、基本的に高感度システムであるため、センシティヴで反応が速く、ダイナミックでパワフルな音が聴かれるために、少々個性型ではあるが、この種の音にハマると立直れない麻薬的な魅力があり、個人的には卒業したつもりではいるが、非常に危険な存在である。
 ホーン型スタジオモニターとして、私が世界の双璧と考えるシステムが、パイオニア/エクスクルーシヴ2404とウェストレイクBBSM15だ。両者の選択には悩ましいものがあるが、構成が単純な2ウェイ型であり、なおかつ、こめウェスタン以来の伝統的技術を抜本的にリフレッシュしたユニットを、低域、高域に採用し、音像の前後移動のない大型ホーンと組み合わせた、エクスクルーシヴ2404のシステムプランは、文字通り世界最高のシステムである。
 今年春には、本機に採用された新TAD系ユニットが単体として発売されるようになり、世界のモニタースピーカーメーカーに採用されるという噂もしきりというのが現状のようだ。個人的な見解では、低域は38cm2個が必須条件ではあるが、現在、市販されているスピーカーシステムのなかから選択しなければならないとすれば、2404しかないだろう。

パイオニア PD-T04S

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 同社独自のターンテーブル方式ならではの、豊かでしなやかに反応する中低域をベースに、ナチュラルな帯域バランスを聴かせる安定した音は、納得させられるだけの信頼感があり、価格を超えたオーディオ的なクォリティの高さは特筆に値する。かなり、高級なシステムに組み込んでも音楽性の高さは見事だ。

パイオニア Exclusive M7

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 すでに定評高いステレオパワーアンプM8のベースとなったモノ構成のパワーアンプ。非常に素直で穏やかな音を特徴とするために個性を望むと印象度は薄らぐが、じっくりと使い込むと魅力が判るタイプ。基本的に備える潜在能力は予想を超えて素晴らしく、プリアンプC7と同様に改良版の登場が期待できる実力派である。

パイオニア D-05

パイオニアのDATデッキD05の広告
(サウンドレコパル 1994年夏号掲載)

D05

パイオニア PD-T06

パイオニアのCDプレーヤーPD-T06の広告
(サウンドレコパル 1994年夏号掲載)

PD-T06

パイオニア Exclusive C7

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 優れたオーディオコンポーネントは、基本的な設計思想が根底をなすことを如実に示した、異例に設計・開発ポリシーが際立ったプリアンプである。現代の主なプログラムソースであるCDにおいて、そのプレーヤーの定格出力は2Vと高く、さらに出力電圧の高いモデルが多くなっている。こうした現状の中、プリアンプは平均的な再生音量において、単に入力信号を減衰させるアクティヴなアッテネーターとして動作しているにすぎない。これがプリアンプ不要論となり、バッシヴ型アッテネ一夕一に魅力を感じるオーディオファイルが多くなっている。これは、高級プリアンプが高価格にならざるを得ない点から生じた、経済的な要因だけではないであろう。
 とくに、音質最優先設計で付属機能を最低限としたプリアンプでは、プリアンプを使う最大のメリットである高SN比が保たれる特徴を承知していても、なおかつ残る疑問だ。
 エクスクルーシヴC7では、機能を省いた簡潔なプリアンプを基本とし、単なる音質重視ではなく、ステレオならではの左右チャンネルの伝送誤差をゼロとする設計思想に基づいて設計・開発された点が見事である。幾何学的左右対称はもとより、機械的、熱的、磁界的な左右対称性を求めながら、信号伝送はアンバランス優先とし、バランスは入出力ともにトランス対応とする設計は明解である。同時に企画・開発されたAVコントローラーを併用すれば、リモートコントロールが可能となるシステムプランも卓越している。
 内部の配線処理はコネクターを全廃し、すべて1ヵ所ごとにネジで配線を固定し、接続する手法を採用。異例ともいえる入念な処理だ。筐体関係の仕上げや精度も非常に高く、音の傾向とデザインがマッチしていることは高級機ならではの格調の高さであろう。正統派らしく色づけが少なくニュートラルな音をもつが、その力強い表現力はプリアンプ的な印象というよりは、パワーアンプ的なものがあり、これが本機ならではの独自の魅力となっている。

パイオニア Exclusive C7 + Exclusive M7(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 このアンプは、入出力信号系は不平衡型がメインで、平衡型にはすべてトランスで変換する設計であるため、結線はすべて不平衡で行なう。各アンプの設置場所は標準位置である。
 信号を加えた最初の音は、小さくまとまった、ひっそりした音で、それなりにまとまった音を聴かせる。
 数分間ほど経過すると、中低域の量感が加わり、全体に柔らかく、おとなしい音となり、中高域の見通しがよくなる。
 時間的にはゆっくりしたテンポでウォームアップは進み、聴感上で不足した部分が徐々に埋められていくように内容が濃く、充実していく変り方で、従来とは少し異なったウォームアップの傾向であり、最近のトップランクのアンプにみられるタイプだ。
 ウォームアップは素直なタイプで、ゆるやかではあるが一定の方向に進み、音の細部が少し見通せる音になるのは、おおよそ1時間は必要だ。その後は音場感的な情報量が増し、奥行き方向のパースペクティヴがナチュラルに感じられるようになると、ほぼ2時間は過ぎていることになる。
 S9500は、音場感的な再生能力は抜群で、とくに奥行き方向の拡がりの見事さは、これならではの魅力であるが、逆に言えば、アンプの音場感的な再生能力をチェックするためには、最適なスピーカーシステムであろう。
 低域は柔らかく、音の芯の甘さは残るが、アンプとスピーカー間はほどよくコントロールされているようで、かなりしなやかな低域の表情を聴かせる。
 中域以上も素直な音をもつため、このアンプ専用に部屋とスピーカーのセッティングを行なえば、スピーカー後の壁を超えてタップリと拡がるプレゼンスの良さと、しなやかで力感にほどよく裏付けされたナチュラルな音を手にすることができよう。
 TV電波などの外乱には、パワーアンプにやや弱い面があるようで、高域の伸び切った感じや、上下方向の音場感で高さを聴きたいむきには、少し不満を残すが、この試聴室の条件の厳しさでのことであり、一般的には問題ではなかろう。
 安定型で茫洋と鳴りやすいスピーカーを、柔らかく、豊かな音ながらほどよくシェイプアップし、いかにも2ウェイ型ならではの爽やかさ、鮮度感の高さを持つ音として聴かせるが、内面的にはストレートに押し出す強靭なエネルギーをもっているようで、時折グイッと押し切るようなダイレクトな表現が感じられることがある。平衡入出力では、ややナローレンジの管球アンプ的な音に変り、油絵的な陰影の深さは別な味だ。

パイオニア EXCLUSIVE C7

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より

 パイオニアの最高級オーディオコンポーネントEXCLUSIVEシリーズは、昭和49年に市場に導入されて以来、アナログプレーヤー、チューナー、コントロールアンプ、パワーアンプ、そしてスピーカーシステムなどのラインナップを揃え、それぞれのモデルが各時代のトップモデルとして話題を呼び注目を集めてきた、いわばパイオニア・オーディオの象徴であり、マイルストーシともいうべきシリーズである。その最新モデルとして、昨年の『全日本オーディオフェア』で、その存在が明らかになったコントロールアンプEXCLUSIVE・C7がついに発売されることになった。
 設計の基本構想は、左右2チャンネルの信号系で成り立つステレオアンプのステレオ伝送誤差をゼロとすることである。この考え方は、ステレオアンプとしては常識的なものと考えられやすいが、各種の条件を交えて現実の商品として実現することは、予想外に至難な技である。
 左右が独立したステレオ信号を入力し、そのままの姿・形で増幅し出力することができれば、左右の信号に伝送差がないことになるが、この簡単明瞭なことを実現するための条件は数多く存在する。左右チャンネルの条件の対称性が重要な要素となるが、電気的、機械的な対称性をはじめ、磁気的、熱的な対称性などの視覚的には確認し難い条件までクリアーしなければならない。
 まず、コントロールアンプのベースとなる筐体構造は、いわゆるデュアルモノーラルコンストラクションと呼ばれている設計であるが、一般的に採用されているデュアルモノ風な設計ではなく、本機はかなり本格的な徹底したデュアルモノーラルコンストラクション設計で、左右チャンネルの対称性は限界的なレベルに到達している。
 従来の木製ケースに収めたクラシカルなEXCLUSIVEのデザインイメージは完全に一新され、現代のオーディオアンプに相応しい装いを備えた新EXCLUSIVEのデザインは、視覚的にも対称性のあるシンプルなパネルレイアウトを特徴とする。中でも、重量級パワーアンプに匹敵する14mm板厚のアルミ製フロントパネルは、重量級コントロールアンプともいえる独特の迫力を備えている。
 アンプの基盤であるシャーシは、筐体を上下に2分割したアルミダイキャスト製の重量級ベースであり、下側はボリュウムコントロールや入力切替スイッチなどをリモートコントロールする各種の制御回路用スペースで、上側は基本的に厚いアルミ材で左右に2分割された左右チャンネル用アンプと電源部用スペースにあてられている。
 ここで基本的にと表現した理由は、フロントパネルの近くに3個配置されている電源トランスの中央の1個が、ボリュウムや切替スイッチをコントロールする制御系用電源トランスであるからである。ちなみに、この制御系用トランスも当然のことながら左右チャンネル独立の巻線を備えており、左右感の干渉を避けた設計だ。
 左右チャンネルのアンプ、電源系のレイアウトは、基板上のアンプの部品配置、内部配線に至るまで対称性が追求されており、レイアウト的に左右の対称性を欠く部分は、フロントパネルのボリュウムコントロールと入力切替スイッチ関係の部品のみであろう。
 C7で新しくテーマとなった磁気フラックス分布の対称性の確保は、発生源となる電源トランスに新開発の低漏洩磁束電源トランス採用で、フラックス分布を左右均一にすると共に、予想以上に問題となる電源用電解コンデンサーに+側と−側で巻方向を逆にし、ケースを絶縁しグラウンド電位に落とすコンプリメンタリーペアコンデンサーを開発した点に注目すべきである。
 アンプ系の構成は、必要最少限の構成とし、MM専用の利得35・5dBのフォノイコライザー段の出力と、CD、チューナーなどのハイレベル入力を受ける利得0dBのバッファー段の出力にボリュウムコントロールがあり、さらに利得0dBのバッファー段と、利得16・5dBの低出力インピーダンス設計のフラットアンプがあり、この段のバランス入力部の+と−を使いアブソリュートフェイズ切替としている。
 アンプとしての基本構成は、不平衡設計であるが、平衡入出力には、トランスが入力系と出力系に設けられスイッチ切替で対応する設計である。なおキャノン端子の接続は、3番ホットの仕様である。
 バッファーを含むアンプは、新開発のアルミベースの基板に集積化されているハイブリッドICで、熟的な安定度の向上と外部ノイズに対するシールド効果に優れた特徴がある。
 振動モードの対称性では、音圧や床振動などの外部振動に対してはアルミダイキャストシャーシで対処し、電源トランスやコンデンサーなどの内部振動には、基板支持部分のダンピング材でフローティング構造とし、加わった振動を適度に減衰させ左右チャンネルのモードを揃えている。
 ボリュウムコントロールは、信号が直接通る経路であるため、アンプの死活を分ける最も重要なポイントとして、その選択にはさまざまな配慮がなされるが、C7ではフロントパネルのボリュウムコントロール用ツマミの位置を検出し、ステッピングモーターと電気的に絶縁されたカップラーで駆動するステップ型アッテネーターで音量調整を行なっている。ステッピングモーター用ジェネレーターは、ボリュウム位置が固定している場合には出力が止まる設計で、この部分の音質への影響を避けている。
 入力切替スイッチも、リモートコントロール動作で、PHONO、チューナー、5系統のAUX入力、2系統のテープ入出力および2系統のバランス入力は、ホット側をノンショートステップ型、グラウンド側をショートステップ型のモータードライブによるロータリースイッチで切替えており、多系統の入力を接続して使うステレオコントロールアンプで問題となる、接続機器からのグラウンドを経由するノイズや、空間からの外来ノイズの混入を防ぐ設計である。
 その他、アンプ内部の配線の引き回しによる相互干渉や数多くのノイズ発生源は、厳重な内部シールドが施されており、ハンドメイドを特徴とするEXCLUSIVEならではの入念な作り込みが見受けられ、その徹底したノイズ対策は世界的なレベルで見ても従来の概念を超えたオーバーリファレンス的な領域に到達している点は特筆に値する見事な成果である。
 まず、平衡入力で使う。力強く、密度が濃く質感に優れた低域ベースの安定感のある音と、やや奥に広がるプレゼンスが特徴である。帯域バランスは程よく両エンドを整えた長時間聴いているのに相応しいタイプといえる。
 入力を不平衡に替えるとナチュラルに伸びたレスポンスとなり、鮮度感が向上し、音場感も一段と広がり、音像定位も前に出るようになる。
 出力も不平衡とすると低域レスポンスは一段と伸び、柔らかく十分に伸びた深々と鳴る低音に支えられた素直な音は素晴らしい。音場感情報は豊かで音像は小さくまとまり、浮き上がったような定位感だ。プログラムソースには的確に反応を示し、録音の違いをサラッと引き出して聴かせる。素直なアンプではあるが、パワーアンプに対する働きかけは予想以上に積極的で、スピーカーはパワーアンプの駆動力が向上したように鳴り万が一変する。これは数少ない異例な経験である。

パイオニア PD-5000

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 響きの豊かさがあり、基本的なクォリティが高く、各プログラムソースの特徴を引き出しながら、安定感のある立派な音が聴ける製品だ。ロッシーニでは、自然な拡がりのあるホールトーンと安定した音を聴かせ、音像の立ち方もやや立体的なイメージがある。中域の一部には少し硬質な傾向があり、楽器の分離がよくリアリティのある音で描く効果があり、柔らかく質感のよい低域と巧みなバランスを保つ。ピアノトリオは響きが豊かで、ディテールをサラッと聴かせる素直な再現能力と実体感のある音像定位が好ましいが、再生システムのキャラクターか、やや硬調な描写となりやすく、アタック音が少しなまり気味だ。ブルックナーも共通で金管が硬く聴かれ、トゥッティの分離がいま一歩であるが、安定した質感のよい音と自然なプレゼンスは相当によい。低域の伸び、ゆとりに少し不満が残るが、価格からは無理な注文だろう。ジャズは、低域腰高で軟調傾向だが、よくまとまる。

パイオニア C-90a, M-90a

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 AVプログラムソースに対応したセパレート型アンプとして企画されたパイオニアのC90、M90のペアは、この種のアンプとして最初に成功を収めた意義深い製品であった。今回、本来の意味で内容が見直され、改良によって第2世代のC90a、M90aとして発売された。
 C90aは、もともとAVソース対応で、かつ高クォリティの音質を狙ったモデルであるだけに、新しく映像系入出力に輝度信号と色信号のY/C分離接続用のS端子を備え、S−VHSやEDベータなどの高画質VTR対応化を図っている。付属のリモコンは、従来の同社用のシステムリモコンから、最大154キーの学習型リモコンに発展し、多数のリモコンを使い分けざるを得ない煩雑さが解消された。
 視覚的には、外観上の変化は少ないように見受けられるが、筐体関係の改良、強化も、高音質が要求されるコントロールアンプでは、重要な部分である。
 筐体のトッププレート部は、C90の板厚1・2mm鉄板から、合計8個の止めネジにより振動が発生しないようにリジッドに止められた板厚1・6mmのアルミ板に改良された。ボトムプレート部もタテ長の通気孔パターンが、パイオニア独自のハニカム型に変わり、ボトムプレートの振動モードをコントロールし、共振を制動している。脚部は、釣り鐘断面状の一般的なタイプから、ハニカム断面に特殊な樹脂を充填した、一段と大型なタイプに変わっている。
 エレクトロニクス系は、ビデオ信号とオーディオ信号の完全分離、独立をポイントとし、①オーディオ左右チャンネルとビデオ系に専用電源トランス採用、②オーディオ部とビデオ部のアース回路を伝わる干渉を避けるためアースの独立化とビデオ系のフローティング化、③オーディオ系とビデオ系の電気的、機械的な飛びつき防止用アイソレーション、④アナログ使用時のビデオ電源オートOFF機能採用などのベーシックな部分を抑えた対策がとられている。
 C90をベースとしたアドバンスモデルだけに、表面に出ないノウハウの投入は、かなりのものと思われる。
 音質最優先設計のために、部品関係はEXCLUSIVEの流れを受継いだ無酸素銅配線材料、黄銅キャップ抵抗、シールデッドコンデンサーなどが全面的に採用されている。アナログオーディオの中心ともいうべきフォノイコライザーアンプには、MC再生のクォリティを保つためハイブリッドMCトランス方式を採用している点も見逃せないポイントである。
 M90aは、外観上のモディファイは、筐体トッププレート部の材料が、鉄板からアルミに変更、取りつけ方法もC90a同様の8本+1本のネジ止め、ボトムプレートの通風孔の形状変更と脚部の大型化、さらにトランスフレーム下側にある5本目の脚は、M90では他の脚と同じタイプが採用されていたが、今回は鋳鉄製で制振効果の高いキャステッドインシュレーターに変わっている。
 電源トランスは、鉄心をバンドで締めるシンプルなタイプから、パイオニア独自の制振構造鋳鉄ケースに収めたキャステッドパワートランスにグレードアップしている。これに伴い、トランスフレームも強度を向上し、電源トランスの振動対策を一段と強化している。また、放熱板のハニカム構造チムニー型化も、パワーステージトータルの振動コントロールを狙ったものだ。
 これらの大幅な改良の結果、重量はM90の20・9kgから28kgと増加した。
 機能面は、コントロール入力の他に2系統のボリュウムコントロールができる入力を備え、CDプレーヤーなどのパワーアンプダイレクト使用が可能など、単体でも使える機能を持つパワーアンプとして開発されたM90の構想を全て受け継いでいる。
 C90aとM90aは、堂々とした押し出しのよいナチュラルな音を持つアンプである。価格的には、高級プリメインアンプとも競合する位置にあり、セパレート型の名を取るか、プリメインアンプならではのまとまりのよい音、という実を取るかで悩むところであるが、このペアは、そんな枠を超えたセパレート型アンプならではの納得のできる音をもつ点が魅力である。
 基本的には、柔らかく、豊かで、幅広いプログラムソースや組合せにフレキシブルに対応を示すパイオニアならではの音を受け継いではいるが、前作の、やや受け身的な意味を含めての良いアンプから、立派なアンプ、大人っぼい充実した内容と十分に説得力のある音を聴かせるアンプに成長している。久し振りの聴きごたえのあるアンプである