Category Archives: オンキョー

私のオンキョー観

瀬川冬樹

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ・オンキョー」
「私のオンキョー観」より

 真っ先に思い出すのは、ツヤのある黒いエナメル塗装のフレーム。黒地に白抜きで ONKYOと書いた円形のネームプレート。
 例の「オンキョー・ノンプレスコーン・スピーカー」である。
 例の……などと書いても、最近の読者諸兄には殆どご縁がないと思うが、昭和二十年代のはじめからラジオを組み立てていた私たち(というのは、同じこの欄に書いている筈の菅野、井上各氏ら、同じ頃からラジオをいじりはじめた同世代の人たち)には、懐かしいデザインであり、あの時代を思い起こすシンボルのひとつとして、やはり大きな存在だったと思う。
 ……といっても、当時のオンキョーのスピーカーが、私のオーディオ・システムの中にとり入れられたことは一度もない。オンキョーの六吋半や八吋(わざと古い当時の言い方をするのは、この方が何となく実感があるという私の独りよがりだが)は、もっぱら知人や親せきを廻って注文をとっては、小遣いかせぎに組み立てるラジオ(当時流行りの5球、6球のスーパーヘテロダイン式ホームラジオ)や、ときたま依頼のある電蓄に使った。
 サンスイ号のこの欄ですでに書いたことと重複するが、オンキョーの黒塗りのフレームとサンスイの青いカヴァーのトランスは、当時のパーツの類の中では中の上といった格づけだったから、あまり安もののラジオには使うわけにはゆかない。予算のたっぷりあるときにかぎって使ったが、「低音のオンキョー」と定評のあったように、素人にわかりやすい重い低音が好まれた。また、当時のラジオは裏蓋に大きな通風孔のあいたベニヤ板だったから、裏を返せばスピーカーの背面も、真空管や電源トランスやIFTやバリコンや……要するに舞台裏がそっくり眺められ、街のラジオ屋さんがひと目みると、「ははあ、山水のトランスに大阪音響のスピーカーが使ってありますなあ。これはずいぶん良心的に組み立ててあります」ということになる。組立てを依頼する相手が素人だから、ピンからキリまでのパーツのどれを選ぶかでいくらでも誤魔化すことができて、中にはあくどいアルバイトもあったらしく、そういう意味でもオンキョーのスピーカーを使っておくことは、当方の信用にもなって具合がよかった。
     *
 オンキョーのスピーカーは、そんな次第で何となく高級ラジオ用パーツ、といった印象で私の頭の中にあったが、あれはオーディオフェアの第二回か第三回だったろうか。オンキョーから突如として、15インチの大型ウーファー(W15)と、ホーン・トゥイーター(TW5)が発表された。
 東京駅八重洲口近くの、呉服橋角にあった相互銀行ホールでのデモンストレーションには、W15をゆるくカーヴしたフロントホーンに収めたものがステージに載っていたと記憶しているが、鳴っていた音のほうは、もうおぼろげな印象のかなたに埋もれてしまっている。だがそれよりも、当時のオーディオパーツの中では、ウーファー、トゥイーターとも目立ってスマートな製品だったことが、強く焼きついている。その後のオンキョーのユニットの中でも、最も姿の良いパーツではなかったろうか。
 私同様に〝面喰い〟の山中敬三氏は、それからしばらくあとになってこのW15を購入し、自家用のシステムに使っていた。当時JBLの150-4Cや130Aの素晴らしいデザインにあこがれながらあまりにも高価で手が出ずに、形のよく似たW15を買ったのは、ライカが買えずにニッカやレオタックスであきらめていたカメラマニアの心理に似ているのかもしれない、などというと山中氏を怒らせるだろうか。
     *
 昭和三十年代の約十年間は、私の記憶の中でオンキョーの名は空白のままだ。ステレオサウンド誌の創刊された昭和41年の秋、「暮しの手帖」が小型卓上ステレオをとりあげたとき、オンキョーの名が突然のようにクローズアップされるまで、その空白は続いた。
 昭和42年になって、オンキョーが久々のハイファイスピーカーE154Aを完成させてオーディオ界に返り咲いたとき、全国を縦断するコンサートキャラバンの企画が持ち上がり、それに随行する解説者として、故岩崎千明氏と私とが名指しを受けた。いまふりかえってみると、ずいぶん珍道中があったが、私はおかげさまで日本じゅう、初めての土地をずいぶん楽しませて頂いた。どこのホールでだったか、アンケートの中に「きょうのアナウンサーは解説がへただ」などというお叱りがあったり、どこか学校の講堂を借りてのコンサートでは、開演中にステージの前で学生が鬼ごっこをはじめたり、ずいぶんふしぎなオーディオコンサートではあった。
 昭和43年に完成したブックシェルフ型のF500は、さすが! と唸る出来ばえだった。とても自然なバランスで、いつまで聴いても気になる音がしない。その後のシステムの中にも、こういう音は残念ながらみあたらない。あのまま残して小さな改良を続けながら生き永らえさせるべきではなかったかと、いまでも思う。
 インテグラ・シリーズのアンプが発売されたのは昭和44年だったろうか。当初の701以下のシリーズのすべて、とても手のかかった仕上げの美しいパネルと、いやみのないデザインは、いまでもその基本を変える必要のない意匠だったのにと思う。パネルのヘアラインに、光線の具合によって、熱帯魚の尻尾のような光芒が浮かぶのは、マランツ7以来、パネルの仕上げに手をかけた数少いアンプとして、こんにちでは珍しい。
 ただ、このアンプの音のほうは、どうにも無機的でおもしろみがなくて、そのことを言ったために設計のチーフの古賀さんからは、長いことうらまれていたらしい。
 その音質も、♯725を境にして、♯755でとてもナイーヴなタッチを聴かせはじめ、722MKIIでひとつの頂点に達した。たしかに音の力づよさ、あるいは切れ味の明快さ、といった面からは、いくぶん弱腰でウェットだという感じのあったものの、音の繊細さ、弦や女性ヴォーカルのでのなよやかな鳴り方は、722/IIでなくては聴けない味わいがあった。
 その後のプリメインアンプでは少々音の傾向を変えはじめて、722IIの味わいはむしろセパレートタイプのP303/M505の方に生かされはじめたと思う。ただ、303、505のデザインの、どことなく鈍い印象が、この意外に音の良いアンプのイメージをかなり損ねているようだ。
 最新型のP307、M507で、オンキョーのアンプはまたひとつ

オンキョー D-102A, A-915R

オンキョーのスピーカーシステムD102A、プリメインアンプA915Rの広告
(サウンドレコパル 1994年夏号掲載)

A915R

オンキョー Grand Scepter GS-1

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 オンキョーはスピーカー専門メーカーとして誕生した会社である。今は総合的にオーディオ製品を手がけているが、第2次大戦後間もなくの頃、オンキョーのスピーカーユニットに憧れた記憶がある。そうした体質を今でもオンキョーはもっていて、スピーカーユニットの生産量は世界で一、二を争うはずである。そのオンキョーが、売れ筋のコンポーネントシステムだけを作ることに飽き足らず、研究所レベルの仕事として取り組み開発したのが、この〝GS1〟である。1984年発売だからすでに7年を経過しているが、先頃フランスのジョセフ・レオン賞を受賞した。この賞はフランスのハイファイ協会会長によって主催されるオーディオ賞の一つだそうで、GS1の優れた技術に与えられた。このスピーカーシステムは、2ウェイ3ユニット構成のオールホーン型で、スピーカー研究の歴史に記録されるべき銘器であると私も思う。特にコンプレッションドライバーに必要不可欠のホーンの設計製造技術は、従来のホーンの解析では果せなかった新しい視点と成果を満たらせたものである。製品としては使い勝手の点などでむずかしさを残しているが、オプティマム・コントロールを条件としたこのシステムの音の純度の高さは類例のないものといってよいだろう。ワイドレンジ化や高能率化が犠牲になっていることは認めざるを得ないものだが、それでさえ、これだけ純度の高い音が得られるなら、不満にはならないレベルは達成している。いかにも日本製品らしい細部の入念な解析技術が素晴らしいのである。そのために、音楽の情緒を重視するとあまりにストレートであるから、よほど録音がよくないと不満が生じるかもしれない。しかし作りの緻密さといい、強い信念に基づく存在感の大きさといい、今後も長く存在し続け、さらにリファインされて常に同社のフラグシップモデルであり続けて欲しい魅力ある作品だと思うのである。

オンキョー Integra M-508

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より

しなやかで、独特の粘りのある傾向をもつ音である。音の粒子は、細く磨かれており、プログラムソースの細部を素直に見せるだけのクォリティの高さをもっている。バランス的にはやや中域の薄さがあり、音像は小さく少し距離感を持って奥に定位する。木管合奏は適度にハモリと濃やかさがあり、サロン風なまとまりとなる、ビル・エバンスは、少し現代的にすぎ、古さが出ず、それらしくないようだ。

音質:80
魅力度:83

オンキョー Integra M-510

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ15機種のパーソナルテスト」より

響きの豊かな、滑らかでトロッとした独特の雰囲気の音をもつ個性的なアンプである。1曲目のヴォーカルは、一語、一語、言葉を丁寧に歌うようなイメージとなり、音像は少し大きい。カンターテ・ドミノは、ライブネスがタップリした広い空間の再現に特徴があり、天井の高さや暗騒音の細部は出にくいようである。音を聴いた印象からは、充分に手が加えられ磨き込まれた音ではあるが、基本的な音の傾向はかなり個性的であり、万能型ではないようだ。

音質:85
魅力度:85

オンキョー Grand Scepter GS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 GS1はオールホーン型という現在では珍しいスピーカーシステムである。ホーンのよさを再認識させられるもので、従来のホーンのもつ欠点を独自な方法で解析し、それに対処した世界でもユニークなシステムである。ホーン内部での反射が音色をつくり、音質を害するということと、全帯域にわたる音の伝達時間の均一化という考え方を一致させ、素直な音色、正しい音色を主眼に開発されただけあって、きわめてスムースで自然な音が得られている。ホーンドライバーの利点であるトランジェントの良さや、小振幅による歪の少なさなどとも相俟って、このスピーカーの音の品位は高く評価できるものだ。ただ惜しむらくは低能率であること。そこで、最低200W以上のパワーのアンプでないと、このシステムの能力をフルに発揮させることは不可能と思い、現代最高のパワーハンドリングと音質もつマッキントッシュMC2500、オンキョー自身がこのスピーカーを想定して開発したM510、テストで個性的で優れたアンプと評価したアキュフェーズP500を組み合わせてみた。さらに、このスピーカーの質的なよさを対応して、あえてパワー不足は覚悟の上で、きわめて音質の優れたふたつのアンプ、それも管球式のウエスギUTY5とマイケルリン&オースチンTVA1を選んでみたわけである。スピーカーによりアンプは変わる。アンプによりスピーカーは変わる。その最小限度の試みである。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 GS1を鳴らすために開発されたといってよいM510パワーアンプだけあって、大変よいマッチングだ。しかし、このアンプをJBL4344で聴いた時のファットな感じは、ここでも感じられる。オンキョーの好きな音なのだろう。また、弦、木管の鳴らし分け、フルート、オーボエの音色の識別などがややあまい。高域の弦の質感がややざらついた感触であるが、それだけにタッチは鮮やか。明るく艶麗な響きはP500に一脈通じるものだが、一味違う。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 この組合せはやや期待はずれに終わった。クレーメルの音が太くなり過ぎるし、艶や甘美な情緒が理を過ぎる。それでいて高域にやや粗さも出るようだ。弦楽合奏では、ざらつきとさえ感じるような、このスピーカーでは考えられない質感が出てくるのには驚かされた。擦弦のタッチが強調されるようである。また、大編成オーケストラのppも十分さわやかとはいえないし、fでの金管がひとつ輝きに不足する。このアンプは明らかにJBL4344のほうが活きる。

オンキョー Grand Integra M-510

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 柔らかく、滑らかで、フワッとした独自のプレゼンスと内省的な表情をもつ、個性派の音のアンプだ。音場感は素直に拡がるが、春霞みのような拡がり方で、音像は少し大きく、ソフトに立つタイプだ。プログラムソースとの対応は、色彩感が抑えられ、オーストラリア系のオパールの色彩感のような、ややウェットな秘めた表現になるのが面白い。この傾向は、今回の試聴でもっとも強く感じられたが、セッティングの条件との相乗作用であろう。かなりセンシティブなアンプだ。

音質:8.8
価格を考慮した魅力度:8.8

オンキョー MONITOR 2000X

井上卓也

ステレオサウンド 78号(1986年3月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 オンキョーを代表する高級ブックシェルフ型システムMONITOR2000が、予想どおりにリフレッシュされた。モデルナンバー末尾にXのイニシャルを付けたMONITOR2000Xとして、昨年秋の全日本オーディオフェアで発表されたもので、すでに昨年末から新製品として市場に投入されている。
 MONITOR2000Xの特徴は、最近のスピーカーシステムのルールどおり回折効果の抑制に効果的なラウンドバッフルの採用が、デザイン面での最大の特徴だ。バスレフポートを背面に設け、この部分でのラジェーションを防ぐバスレフ型のエンクロージュアは、板振動による音質劣化を避けるために、高密度パーチクルボードをフロントバッフルに40mm厚、裏板に30mm厚、側板に25mm厚で使用。それとともに独自の開発による振動減衰型構造の採用で、クリアーな音像定位とプレゼンスを得ている。両側のラウンド部分は、40mmの大きなアールを採用し、天板前端にもテーパーが付いたエンクロージュア.は、表面が明るく塗装されたウォールナットのリアルウッドタイプだ。塗装面の仕上げは非常に美しく、高級機ならではの雰囲気を演出しているようだ。
 ユニット関係では、ウーファーが、すでに定評のある3層構造のピュア・クロスカーボンコーン採用で、カーボンファイパー平織りに、適度の内部損失をもたせるため特殊エポキシバインダーを組み合わせる独自のタイプ。磁気回路はφ200×・φ95×25tmmのマグネットを使い、14150ガウスの磁束密度を得ている。
 スコーカーは、構造上ではバランスドライブ型に相当する10cm口径のコーン型である。いわゆるキャップ部分が、チタンの表面をプラズマ法でセラミック化したプラズマ・ナイトライテッド・チタン、コーン部分がピュア・クロスカーボンの複合型である。
 トゥイーターも、プラズマ・ナイトライテツド・チタン振動板採用のドーム型で、MONITOR500で開発された振動板の周囲の2個所を切断し、円周方向の共振を分散させる方法が、スコーカーともども導入され優れた特性としている。なお、磁気回路の銅リングを使う低歪対策は珍しく、板振動を遮断する制動材を使い高域の純度を高めた設計にも注目したい。
 別売のスタンドAS2000Xを使い試聴する。柔らかい低域をベースとし、シャープな中高域から高域が広帯域型のレスポンスを聴かせる抜けの良いクリアーな音が聴ける。基本クォリティが高く、特性面でも追込まれており、どのような音にして使うかは、使い手側の腺の見せどころだ。

オンキョー Integra C-700

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 CDプレーヤーの音質を向上するために、光学ピックアップ系を含むサーボ系、デジタル信号処理系とアナログアンプ系を分離して、別の筐体とするセパレート型プレーヤーの開発商品化や、ディスク駆動系と光学ピックアップ系の可動メカニズムを独立させた試作品などが存在し、それぞれのメリットが確認されているが、今回、オンキョーから発売されるインテグラC700は、予測されていたように、光ファイバーを採用して、デジタル回路で発生した各種のパルス成分が、信号系やアースラインを通ってアナログ回路に流れ込む、オンキョーで名付けた、DSI(デジタル信号妨害)を極限に抑えようとしたものである。この方式は、アースラインを含め、両者を電気的に完全に分離できるのが特徴であり、世界初の光伝送方式によるCDプレーヤーである。
 光ファイバーは、L/R、ワード、ピットの各クロック信号とデータ信号、ディエンファンシスとオーディオミューティングの、6系統に採用されている。これにより光結合回路の入出力を比較すると、入力波形にあるDSIは、出力波形では除去されているのが観測可能であるとのことだ。
 その他、本機の特徴は、デジタルフィルターと、通常組み合わされる3〜5次程度のタイプより不要成分を抑え位相特性を改善する目的で採用した7次アクティブ型フィルターを採用している。また、電源部は、トランス巻線をデジタルとアナログ別巻線とし、シールドを施して回り込みを防止するとともに、アンプで定評のあるデルタターボ回路が採用され、信号系にも同様にスーパーサーボ方式を採用し、高いサウンドクォリティを確保している。
 機能面では、10キー・ワイヤレスリモコンを備え、16曲までのメモリープレイ、3種のメモリープレイ、タイマースタート機能、ボリュウム付ヘッドフォン端子、固定と可変の2系統の出力端子などがある。
 試聴は、常用のアキュフェーズのピンコードで始める。広帯域志向型のサラッとした帯域バランスとナチュラルでスムーズな音が第一印象だ。演奏開始からの立上がりは平均的で、焦点がサッと合ったように音の見通しがよくなる。低域は柔らかく伸びがあり、フレキシプルな粘りが特徴である。
 100VのAC電源の取り方を変え、置き場所を選択して追込むと、次第にシャープさクリアーさが増してくる。出力コードをLC−OFCに変え、細かく追込んでいくと、音場感情報もかなり豊かになり、ナチュラルなプレゼンスと定位感が得られるようになる。基本的にキャラクターが少なくナチュラルでクォリティの高さが光学伝送系採用の特徴であり、その成果は大きいが、今後さらに一段と完成度を高め、異次元の音にまで発展してほしい意欲作である。

オンキョー Integra P-306RS

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプは、オンキョー独特のサウンドで好き嫌いがはっきり分れる音だ。つまり、プリアンプとしてはかなり個性的だが、この価格で、これだけ明確な個性の主張をもっているというのは、見方をかえれば立派だ。ベイシックな物理特性は水準以上のものだからである。立体感に富んだ音で、決してドライな響きにはならないし、粗っぼい質感も出さない。むしろ、ぽってりと太り気味の音である。それだけに暖かいし、ウェットである。
[CD試聴]CDに対してADと異なった対応が感じられる面は特になく、やはり弾力性のある太目の音だ。しかし、比較的CDが出しやすい機械的な冷たさは中和して聴かせる効果がある。ジークフリートの葬送行進曲の開始の雰囲気は壮重であり、音は分厚い。ただ、細かい弦のトレモロなどがやや不透明で、大把みな感じがする。ベイシー・バンドはピアノの冴えた輝きのある音色が丸くなり過ぎる傾向だし、ミュート・トランペットの音色の輝きもやや鈍いほう。
[AD試聴]マーラーのシンフォニーは粘りのある表現で低音の量感が豊かだし、高域のヴァイオリン群も、ギスギスしたり、ざらつくことがない。レーグナーの流麗な演奏とはやや異質だが、ユダヤ系のマーラーの音楽のもつ、一種の粘着性は効果的に表現される面があった。透明感とかデリカシーといった面には不満が残る。ロージーの声は年なみの円熟した色気があって、脂ののった濃艶な歌唱が魅力的で、こうした曲想に最適のアンプである。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 全体的にグラマラスで豊潤なムードをもった音のアンプで、刺激的な音や小骨っぼさはない。かといって分解能は十分高いし、力感もあり、決して太りすぎのものではない。つまり、このアンプの音の滑らかさやボディのついたふくよかさがもつ個性として理解したい。スピーカーのドライブ能力は非常に高く安定していて乱れがない。ソプラノは派手に響かず艶っぽいし、低域の量感がずっしりとした響きの造形をつくる。各楽器の音色的特徴の鳴らし分けがやや鈍い傾向は指摘してもよい。

音質:8.6
価格を考慮した魅力度:9.0

オンキョー Grand Scepter GS-1(組合せ)

菅野沖彦

ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
特集・「ベストコンポーネントの新研究 スピーカーの魅力をこうひきだす」より

 オンキョーGS1は、オールホーンシステムという、スピーカーの構造としてはっきりとした特徴を待ったスピーカーです。低域までホーン型を使ったオールホーンシステムというのは、ダイレクトラジエーター方式のシステムと比べていろいろな点でメリットが多く、そのことは理解されていたわけですが、その反面のデメリットも非常に多かったと思います。それを理解した上で、ごくごく特殊な人たちが、そのデメリットを使いかたで何とかカバーして、すばらしい音にしているというような状況であったわけだけれども、メーカーの製品でオールホーン型スピーカーを、ここまでまとめたシステムというのは初めてだろうと思います。
 ホーン型スピーカーのメリットは何かというと、いちばん大きいのは非常にトランジェントがいいということでしょう。それから、ホーンによって非常に能率が高くできる、この2点が大きなメリットとしてあります。それに対して一般的なデメリットはなにかというと、まずホーンの鳴きがどうしてもとれないということでしょう。ダイヤフラムから出た音がホーンから放射されるときに、いろんな反射音をつくり出してしまう。そのために、本来の再生音にホーン鳴きが加わって、独特の音色をつくる。ある意味では、その独特の音色というものが、個性的なホーンのよさとして好まれている面もあったわけだけれども、正しい再生をするためには、一つの問題であったと思います。
 GS1は、ホーン型のウィークポイントとされていた部分にメスを入れたシステムで、オンキョーが一番力をそそいだのは、そのホーン鳴きをまずなくすことだったといいます。さらに、ホーン内部における音の反射をなくし、再生周波数帯域内でのリスニング位置への音の到達時間がきちんと等しくなるような努力をしたという。それによって、非常に忠実な音色というものが得られるようになったのが、このGS1の一番大きな特徴だと思います。
 今までのスピーカーシステムで、各周波数における聴取位置までの到達時間をきちんとそろえるということは──言い換えれば完全にリニアフェイズで再生するということは──ダイレクトラジエーターにおいては幾つかの例があります。しかし、ホーン型でこれを実現したというところに、このスピーカーの一番の特徴がある。それによって、スピーカーとして完璧なものになったとは言わないけれども、ホーン型スピーカーのよさというものがさらにクローズアップされることになりました。
 ただ、一方において、このスピーカーといえども、いろいろ限界がありまして、特に一番ネックになっているのは、ホーンでありながら能率が低いということです。この規模のホーンシステムならば、100dB/W/mぐらいの能率が稼げてしかるべきですが、公称値は88dB/W/mにすぎないわけです。実際には、聴感的なレベルでは、86dB/W/mぐらいの感じです。
 なぜこれほど低能率になってしまったかというと、低音ホーンに全体の能率を合せようとしたからなのです。このスピーカーの場合には、オールホーンシステムとするために、低域まで完全にホーンロードをかけています。このGS1に使われている低音用ホーンは、非常にきれいに低域までホーンロードがかかるんだけれども、低い帯域ですと非常に能率が低くなる。そこの帯域にすべてのユニットの能率をあわせる必要があったわけです。
 したがって、ホーンドライバーの能率の良さは、絞りこまれて犠牲になって使われているということで、全体としては88dB/W/mの能率しかないというところが、一番大きなデメリットです。
 そういうわけで、決してこれが理想的なスピーカーとは言えないわけですが、今までのスピーカーの歴史の中で、オールホーン型でここまでホーン鳴きと時間特性というものを追求し、それをコンシュマーユースのスピーカーとして具体化したものはなかったわけで、そこが素晴らしい。
 しかも、フロアー型のオールホーンスピーカーではあるけれども、比較的コンパクトに、家庭で使えるサイズにきちんと全帯域がまとめられているということも、これも一つの商品として見ると、非常に画期的と言えます。
 ただ、時間特性をあまりにシビアに追求し、ホーンの内部での反射を極限までカットしたことで、時間特性がスピーカーの開口面においてきれいにそろってはいるものの、実際にスピーカーをリスニングルームに置いたときには、リスニングルームの中に全体の音が拡散していきますから、したがってリスナーの位置で聴くときには、完全にあらゆる周波数帯域の時間がぴしっと一致するということは、これは無響室でもない限り不可能なわけです。しかし、ごく短いところでの一次反射の時間ずれさえなければ、あとの反射音は空間のライブネスとして私たちは認識できますから、音色の忠実性を確保するためには、非常に短い時
間でのおくれ、つまり一次反射──スピーカーのすぐ側面に反射性の壁があるというような状態でおこる──を排除するということが重要です。その点をきちんとしてやれば、このスピーカー独特の音色の忠実性というものを楽しめます。
 そういう意味で、今までのスピーカーよりも、多少、置き方とか使い方が難しいと言われるのもいたし方のないことではないかと思います。
 今まで、このスピーカーはいろいろなところで聴いてきましたが、どちらかというと能率が低いために、よほどのハイパワーアンプでドライブしない限りは、大きなラウドネスで鳴らすというチャンスがありませんでした。しかも非常にデリケートな音色の忠実性を持っているものだから、ついつい比較的低いレベルでの音のデリカシーを活かすということで、クラシック中心に聴いてきたように思うのです。
 せっかくのホーンシステムが持っているハイサウンドプレッシャーレベルの再生音の良さということを、今まで無意識ではあるけれども、聴いてこなかった。それでこの際、ハイパワーアンプで、このスピーカーから大音量再生してみたいと思ったわけです。このスピーカーの能力としても、能率は低いけれども、逆に許容入力は、オンキョーの発表データを見ても、3kWと書いてあり、88dB/W/mの出力音圧レベルでも、瞬間で3kW入れたら、相当な高いSPLに達するわけです。
 それで、このスピーカーでハイSPLの必要な音楽を聴いてみたいという、かねがね思っていたことを今回試してみました。高いSPLで再生する音楽というと、すぐフュージョンとかロックが思い浮かぶかもしれませんが、実際にはそれほど単純なものではありません。しかも、フュージョンとかロックというのは、電気楽器を多用していますから、その音を主観的にいい悪いということは自由に言えるけれども、本当に正しい音であるかどうかはわからないし、ある意味では、ソースそのものが、このスピーカーの持っているクォリティよりも悪いクォリティの音である場合が多いですから、このスピーカーの能力を考えたときに、ハイサウンドプレッシャーレベルでしかもアコースティックなものと考えた結果、僕はやっばりオーソドックスなジャズのフルバンドの演奏を、このスピーカーで聴いてみたいというふうに思いました。この組合せでは具体的に、僕が一番好きなカウント・ベイシーのオーケストラのレコードを、このスピーカーがどんなふうに再生するかがポイントです。
 ハイサウンドプレッシャーレベルでありながら、しかもアコースティックな音──つまり、新しくつくり出されたような楽器ではなくて、極端に言えば、神から授かった美しい音の楽器の音──で、しかも生き生きと体で感じるような迫力のある音楽の代表として、カウント・ベイシー・オーケストラを選んだわけです。
 また、ハイサウンドプレッシャーレベルを追求する上で、安定性とか、アコースティックフィードバックの影響を受けない点をかって、CDを主に使うことにしました。カウント・ベイシーの追悼盤として出ている『88・ベイシーストリート』。それから、『ウォームブリーズ』。この二つのCDを、このスピーカーで鳴らしてみようというふうに考えたわけです。
 『88・ベイシーストリート』というのは、カウント・ベイシーのピアノを音楽的にもオーディオ的にもフューチャーしたものと言えます。カウント・ベイシーのピアノというのは魔力といってもいいほど、たった一音を叩いただけでも、カウント・ベイシーだとわかる、独特のリズム感と音色を待ったピアノなんです。これが一体、どの程度リアリティを持って出てくるかが一つの聴きどころでしょう。
 それから、カウント・ベイシー・オーケストラのブラスセクションとサックスセクションの、怒濤のように押し寄せてくる雰囲気というのは、オーケストラのプレーヤーたちの抜群なピッチ感覚によるわけです。ピッチがすばらしいというのは、単に物理的にピッチが合っているというだけでは充分ではありません。それに加えて音楽的ピッチの良さが要求されます。つまり、ハーモニーとしてのピッチがすばらしい。そういうものが整っているからこそ、カウント・ベイシーのサックスセクション、あるいはブラスセクションというのは、こちら側を生き生きと駆り立てるような、言い換えればスウィングさせるというような音楽的特徴を持っている。その感じを、新しい技術の成果が反映したスピーカーで聴いたら、どんなふうになるだろうという期待が一番大きかったわけです。
 しかし、一方においては、さっき申し上げたように、このスピーカーの持ってる音色のデリカシーによって、クラシックも聴いてみたいという気持ちもありました。したがって、その両方をちゃんと再生でき、なおかつ、そのどちらにも第一級のレベルを求めるとなると、ドライブするアンプも一種類では難しいなという結論に達したわけです。
 具体的に組み合せる製品はどういう選び方をしたかというと、まずカウント・ベイシー・オーケストラの音を、このスピーカーから十分に引き出すことを考え、最初にアンプから選択していきました。そのときひとつの条件として、アンプの出力は今までのこのスピーカーを聴いた体験から、200Wや300Wではちょっと足りない。本当は1kWぐらい欲しいところです。しかし、1kWの出力を持ちながら音質のいいアンプというのは──SR用なら別ですが──この世にはまだありません。
 もちろん、アンプをBTL接続して、パワーを上げていくという方法もあるんだけれども、そこまで大げさにせず、一つのアンプで得られる最大パワーというのは今のところ500Wだろうと思います。500Wのアンプで、そして充分に質のいい音ということになると、私はマッキントッシュのMC2500以外に思いつかない。質と量の両立という点ではこのアンプが最右翼のアンプだと思います。プリアンプもマッキントッシュのC33を候補にあげて、MC2500との組合せを頭の中に描いたわけです。
 マッキンのC33とMC2500というのは、自分自身ずっと自宅で使っていますが、ハイパワーでありながら、ローレベルにおけるリニアリティや、あるいはデリカシーについても全く不満のないアンプで、そこが僕は好きなところなんです。
 しかし世の中にはいろんなアンプがあって、ある音量以下で聴くときは、これ以上にいいアンプというのもあるわけです。例えば、同じマッキントッシュでもMC2255の方がきめが細かい。また、他社のアンプを聴いてみますと、あるレベルででは、よりデリカシーのあるアンプというのはたくさんあります。クラシックの弦であるとか、それからピアノの本当の音色の変化、つまりピアニストによる音楽的な音色の変化──いいピアニストというのは必ず自分の音を持ってます。そういう、トップクラスのピアニストによるデリケートな音色の変化──こいうものを聴くためには、もっとニュアンスの豊かな、デリカシーのあるアンプが存在するのではないかというふうに思いまして、最近、僕の聴いたアンプの中から、これはいけると思って、頭に描いたのがカウンターポイントのSA5コントロールアンプと、SA4パワーアンプの組合せです。この二組の組合せで、このスピーカーをドライブしようというアイデアが浮かんだわけです。
 そこで、まずマッキントッシュ同士の組合せを聴いてみました。これはある程度、ぼくも既に実験済みでしたが、実際にここでまた改めてカウント・ベイシーの二枚のCDを鳴らしてみたんです。フルパワーをいれたときの非常に迫力のあるすばらしい音だけではなくて、さっき申し上げたブラスセクションとサックスセクションのユニゾン、あるいはハーモニーの正確さ、それが実際にフェイズの正確さとして、空気がわっと迫ってくる実感、リアリティというのが非常によく再現されたと思います。
 このMC2500はパワーガードのシグナルがフォルテシモでつくまでボリュウムをアップしてみても音が崩れることがありません。パワーガード機構が、波形ひずみを取り除いてスピーカーが破壊されるのを防いでいるわけです。実際、ランプがついたからといって音のひずみは感じらず、ダイナミックレンジがぐっと抑えられたという感じも全くしません。カウント・ベイシー・オーケストラのかぷりつきにいるぐらいの音圧感は十分得られました。
 さすがに、このスピーカーが持っている音色の忠実性が生きていたし、ベイシーのピアノのリズムの弾むようなところが、大音量にしてもいささかもへばりつきません。空間に自由に立ち上がるという点で、非常に満足のできる音になったと思います。
 カウント・ベイシーの音楽というのは、僕の最近の言いかたでいうと、ネアカで重厚なんです。ネアカ重厚というと、ちょっと表現が軽薄ですけど、これに尽きるわけです。スウィングする音楽というのは、人を明るくさせます。しかし、明るく、スウィングするというだけでは、本当に真の感動には至らない。音楽から得られる本当の芸術的な感動というのは、そこに非常に豊かな重厚さというものがあってこそ得られるもので、それでこそより感動が大きくなります。カウント・ベイシーのオーケストラというのは、そこに一番大きな特徴があるのです。
 具体的に言えば、サックスセクションの充実であり、リズムセクションの充実ということなんだけれども、これがスピーカーから安定して、がしっとして出てくる必要がある。ですから、トゥッティでフォルテシモになったときに、ブラスセクションのぴゃーという音だけに気をとられて、ハーモニーとしてついている中低域から低域の印象が薄れるような音になると、重厚さがなくなってしまう。
 そういう烏で、僕はこのMC2500でドライブしたときのこのスピーカーの音は、いかなるトゥッティにおけるブラスの輝かしい音が出てきても、中低域から低域のベースがしっかり安定していたと思います。つまり明るさと重厚さというのが、実に堂々とした安定感で両立し、再現されたのです。
 しかし、一方では、他にもいろいろな音楽を聴きたいわけで、このアンプでは、クラシックが荒くて、全然聴けないということでは困るわけです。その点も確認をしてみたわけですが、クラシックの微妙なニュアンスもかなりよく再現でき、このスピーカーの組合せとして自信を持ってお薦めできます。
 もう一方の、もっと違ったデリカシーやニュアンスの豊かな音楽を再現するという意図のために、カウンターポイントのSA5、SA4の組合せを試みました。そのために選んだレコードが、一つはハイドンの『チェロ・コンチェルト』。これはチェロがロストロボーヴィッチで、オーケストラがアカデミー室内合奏団です。このレコードは全く純粋なアナログ録音で、十年ぐらい前の録音ですが、自然なしなやかないい音で、オーケストラのバランス、独奏楽器とのバランスも大変にすばらしい。オーソドックスなステレオフォニックな空間の再現も大変に見事なレコードです。
 コンパクトディスクではシューマンのシンフォニー『ライン』。この交響曲第三番『ライン』は、ハイティンクとコンセルトヘボウの演奏で、これも大変に各パートのバランスがよく、しかも、それが空間の中でステレオフォニックに溶け合っていながら、細部が明瞭な、とてもいい録音だと思います。
 特に、このCDは第四楽章の弦とホルンと木管とのハーモニーがきれいに出てくれないと演奏が生きない。そこのところを聴き取るために絶好のソースです。
 それから、先ほど申し上げた、本当にいい演奏者の持っている個性的な音色のニュアンスというものを聴くために、ルドルフ・フィルクスニーのピアノのCDを使いました。
 この三枚のコンパクトディスクで、カウンターポイントを聴いたんですが、まずフィルクスニーのピアノの音色に関しては、これは文句のないものです。スピーカーの良さとともに、このSA5、SA4の組合せも素晴らしいと意識せざるを得ないほどです。フィルクスニーは、ピアノの持っているリニアリティのいい範囲だけを使うピアニストなのです。彼は直観的に、常にその楽器のダイナミックレンジというのを把握し、そして本当にきれいなその楽器のフォルテシモのピークを、彼のフォルテシモとして設定して、あとは下へずっとダイナミックスをつくつていくピアニストです。そこにフィルクスニーのすばらしさがあります。ピアニシモからピアノ、メゾピアノ、メゾフォルテ、フォルテと、音のグラデーションの、豊かさと、音量に対比した音色の変化、これがフィルクスニーのピアノの魅力の一つです。このレコードをSA5、SA4の組合せで聴いてみると、マッキントッシュでは味わえないサムシンングが出てきました。フィルクスニーの音楽の音色を通じての彼の心の温かさとか、あるいは優しさといったものが、ほぼ完璧に出てきた印象です。これはわれながら図に当たった選択でした。ですから、マッキントッシュでもうーつ欲しかった、そういう優しさ、デリカシー、温かさというのが、このカウンターポイントのときに非常によく出てたわけです。
 シューマンのシンフォニー第三番の聴きどころはどこかというと、第四楽章の、弦の各パートのバランスです。たとえていうと、この各パートのバランスというのは、ちょうどスピーカーのf特みたいなもので、スピーカーのf特にうねりがありますと、せっかくいい感覚でハイティンクが弦のバランスを調えても、それが崩れてしまう。第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスとある弦楽器群を、「コントラバス少し強い、チェロをもう少し強く。メロディはいいけれども、内声が弱い…‥」と、それを整えるのが指揮者です。ですから、そこでバランスをとることで、ヴァイオリン単体でもなく、チェロでもなく、ビオラでも、コントラバスでもない合奏の音、アンサンブルの音をつくるわけです。それが、スピーカーの特性の方にうねりがあったり部屋の特性に乱れがあると、せっかくのアンサンブルのバランスが崩れてしまうわけです。これは演奏表現を台なしにしてしまうことを意味します。しかも、エネルギーバランスをととのえることに加えて、その各楽器の持っているファンダメンタルとハーモニックスの音色のバランスというものがきちっと再生される必要がある。それによって、初めて演奏の音楽性が生きるわけです。
 話は少しそれますが、よくオーディオにおいて、音楽性という言葉があいまいな表現だと言われることがあります。しかし実はそんなことはとんでもない話なんです。音楽性があるとはどういうことかというと、演奏家が入念に仕上げた音色と、エネルギーバランスとの双方がきちっと出ることなんです。ですから、音楽性とはひっくり返せば、物理特性的な問題ともいえるんです。しかし、物理特性の追求方法が現時点では──これは将来も究極の到達点はないわけですが──完璧ではありませんから、あえて音楽性という言葉も使うというように認識していただきたい。
 このハイティンクのシューマンを聴いたときの弦と木管と、少し距離と間をおいて、豊かに響くホルンの、この合奏の音色の美しさというのも、ほぼ完壁に出ていたと思います。だから、ねらいどおり、ほとんどこれは満足のいくものでした。
 そこで、今度はさっきと逆に、カウント・ベイシーのようなものが140Wの出力のこのSA4でも──もちろん500Wアンプのように、重厚に力づよく出ないにしても──ある程度、それが聴けた方がいいというふうに思い、カウント・ベイシーも聴いてみました。ところが予想と反して、びっくりするほどの充実感のあるパワーで聴くことができました。マッキントッシュと比べると、音色は一段ときれいですが重厚さが若干なくなります。つまりトゥッティで全ブラス、サックス、そしてリズムセクションがうわっと盛り上がった時、音のバランスが少し高い方へいってしまう。カウント・ベイシーのオーケストラの持っている重厚さというのが、少し明るさの方へ偏った印象になります。ですから、きれいであるけれども、もう一つ地に足のついた、どっしりとしたリズムの粘りがほしい感じです。リズムは同じものが入ってるんだから、同じはずなんだけども、粘りが欲しいなというような印象になるのは、これはやはり、ハイパワーのときのバランスの問題でしょう。140Wクラスのアンプと500Wクラスのアンプの差ではないかというふうに思います。
 ちょうどそういう意味で対照的な組合せができ上がりました。
 この組合せでは、プレーヤーはマッキントッシュのアンプ用の組合せとカウンターポイント用の組合せでは、あえて違うものを使っています。つまり、トーレンスのプレスティージにSME3012Rゴールド、ブライヤーのカートリッジの組合せと、それからマイクロのSX8000IIにSME3012R-PRO、それにAKGのP100リミテッドの組合せの二つを用意したわけです。
 プレスティージでかけますと、すべてのプログラムソースに対して、これはこれで非常に素晴らしいのですが、この際、中庸を得るよりも、重厚さをとるということをメインに考えますと、音が少し柔軟なんです。ですが、これは表裏一体で、それがいいとも言えるわけです。つまり、これは相性が悪いというわけではありません。プログラムソースで言えば、ハイドンの『チェロ協奏曲』とか、今日はCDで聴いていますがシューマンのシンフォニーをアナログディスクで聴きたいというときには、プレスティージとSME+ブライヤーの組合せはなかなかいいと思います。
 ところが、ジャズをハイサウンドプレッシャーレベルで聴くというときに、どこか芯が少し柔らかい。それでマイクロとAKGの組合せにかえ、結果として非常に骨格のしっかりした音が得られました。マッキントッシュでGS1を鳴らすという今回のねらいに関しては、マイクロとAKGの組合せが良かったわけです。
 カウンターポイントのときには──カウンターポイントで少しでもかちっとした音を出そうと思ったら、やっぱりマイクロ、AKGがいいのかもしれないけれども──微妙でデリケートで、そして温かいニュアンスというものを得ようとすると、プレスティージ、ブライヤーの方がよかったということになりました。
 今回は、せっかく二つ組合せをつくつていますので、できるだけはっきり個性を分けたいと思い、プレスティージとブライヤーはカウンターポイントに、そしてAKG、マイクロの方はマッキントッシュというふうに決めたわけです。
 CDプレーヤーは、現在の製品はまだまだ一つのプロセスの途中のものですから、理想的なものというのは難しいかもしれませんが、一応、家庭用として使える最高のものは、つい最近出たセパレート型ということになるでしょう。セパレート型CDプレーヤーは一体型のものと比べて、クォリティは明らかに一段上で音の細かいところまでとてもよく出します。現在、Lo-DのDAP001+HDA001とソニーのCDP552ESD+DAS702ESの二機種が出ているわけですが、Lo-Dとソニーを比べてみますと──これがまたCDプレーヤーとしておもしろいところだけれど──明らかに音が違うんです。ソニーの方は非常に明快で、どちらかというと少し華麗で、しっかりした音が出るCDプレーヤーです。Lo-Dの方は、もっと厚みがあって温かさが出る。
 ちょうど、この違いが今日の二つの狙いにはっきりつながって、マッキントッシュにはソニーのCDP552ESD+DAS702ESの組合せ、カウンターポイントの方にはLo-Dの組合せというのがよかったわけです。
 アナログプレーヤーのそれに対応するような形で、同じような音の個性の違いがソニーとLo-DのCDプレーヤーにもあります。したがって、マッキントッシュの方はソニー、カウンターポイントの方はLo-Dを使うということで、より組合せの個性が際立つわけです。
 もし、この組合せにチューナーをいれるのでしたら、ケンウッドのKT3030を絶対薦めます。ただ、AMがないのが残念ですが。AMがどうしても欲しいという人には、音質にわずかな違いはあるけれども、KT2020の方が値段も安いし、AMもFMも入っていますのでこちらのほうがいいでしょう。FMのクォリティだけでいくならば、KT3030がベストです。

組合せ1
●スピーカー
 オンキョー:Grand Scepter GS1
●コントロールアンプ
 マッキントッシュ:C33
●パワーアンプ
 マッキントッシュ:MC2500
●CDプレーヤー
 ソニー:CDP552ESD + DAS702ES
●プレーヤー
 マイクロ:SX8000II
●トーンアーム
 SME:3012R PRO
●カートリッジ
 AKG:P100 Limited
●チューナー
 ケンウッド:KT3030

組合せ2
●スピーカー
 オンキョー:Grand Scepter GS1
●コントロ-ルアンプ
 カウンターボイント:SA5
●パワーアンプ
 カウンターポイント:SA4
●CDプーヤー
Lo-D:DAP001 + HDA001
●プレーヤー
 トーレンス:Prestige
●トーンアーム
 SME:3012R-Gold
●カートリッジ
 ゴールドバグ:Mr. Brier
●トランス
ウエスギ:U-BROS5(H)
●チューナー
 ケンウッド:KT3030

オンキョー Integra A-819RX

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CDの登場により、デジタル記録をされたプログラムソースが手近かに存在するようになると、これを受けるアンプ系やスピーーカーも、根本的に洗いなおす必要に迫られることになる。いわゆる『デジタル対応』なる言葉も、このあたりをマクロ的に捉えた表現であるようだ。
 オンキョーからインテグラRXシリーズとして新発売されたプリメインアンプA819RXは、せいぜい入力系統の増設や1〜2dBのパワーアップ程度でお茶をにごした間に合せの『デジタル対応』でなく、根本的にデジタルソースのメリットを見直し、確実にそれに対応し得る本格派『デジタル対応』に取り組み完成した新製品だ。アンプ内部での位相特性を大幅に向上し、CDのもつ桁外れに優れた音場感情報の完璧な再現に挑戦したのが、新シリーズの特徴だとのことである。
 構想の基本は、スピーカーの電気的な位相周波数特性で、特にf0附近で大きく変化する電圧と電流の位相変位に着目し、これを駆動するパワーアンプの電源トランスに1対1の巻線比をもち非常に結合度を高くしたインフェイズトランスを設け、+側と−側の電解コンデンサーの充電電流の山と谷を打消して位相ズレ情報を除去し、電圧増幅部への影響をシャットアウトして、正しい位相情報を再生しようというものだ。
 また、インフェイズ・トランスにより、+側と−側の電解コンデンサーの充電電流が等しいということは、電源トランスの巻線の中央とアース間に電流が流れないことを意味し、フローティングも可能であるが、コモンモードノイズ除去のため、トランス中央はアースに落してあるとのことだ。
 アンプ構成は、MC対応ハイゲインフォノイコライザーアンプとパワーアンプの2アンプ構成で、パワーアンプは、SP端子+側からNFBをかけ、さらに、超低周波での雑音成分をカットするためのサーボ帰還がかけられ、SP端子−からはアースラインのインピーダンスに起因する歪や雑音をキャンセルする、ダブル・センシング・サーボ方式を採用。また、A級相当の低歪リニアスイッチング方式が採用されている。なお、音楽信号を濁らせる電解ノイズを低減するチャージノイズフィルター、外部振動による音質劣化を防ぐスーパースタビライザー、2系統のテープ端子用に独立したRECセレクターなども特徴である。
 試聴した印象では、独特の粘りがありながら、力強くエネルギー感のある低域をベースに、豊かな中低域、抜けの良い中域から高域がバランスをした帯域感と、説得力のある表現力を備えた独特のまとまりがユニークだ。音場感は豊かな響きを伴ってゆったりと拡がり、定位感もナチュラルである。この低域から中低域をどのように活かすかが使いこなしのポイントである。

オンキョー D-7RX

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 オールホーン型スピーカーシステム、グランセプターでユニークなスピーカーシステムに対する姿勢を示したオンキョーからの新製品は、ウーファー振動系に、既発売のモニター2000に初めて活用された、ピュア・クロスカーボンを採用したD7RXとD5RXのシリーズ製品であるが、ここでは、上級機種、D7RXを紹介することにしたい。
 カーボン繊維を平織りなどとし、これを合成樹脂系の材料でシート状にしたものは、航空機関係をはじめスキーなどの素材として広範囲に使われているが、もともと非常に高価な材料であり、一般的にはガラス繊維を一本おきに入れて原価を抑えながら、適度の物性値を得ている例が多い。
 この高価な材料を、ピュア・クロスカーポンの名称のように、平織りシートを45度角度をズラして、2枚を特殊なエポキシ系樹脂で貼り合せてコーンとしていることは、この価格帯の製品としては 驚異的なことで、特筆すべき成果である。なお、この振動系の採用で、ピストン振動領域は高域にまで拡大され、従来のようにコーンの剛性不足で、音量を上げたときの飽和感が解消された点が確認できた。
 スコーカー振動板は、紙に比べ格段に大きな内部損失と速やかな減蓑特性をもつデルタオレフィンに添加物を配合し、剛性を4倍としたデルタオレフィン・リファインド板動板採用。トゥイーターは、オンキョー独自の振動板用薄箔マグネシュウム振動板採用のハードドーム型である。
 ネットワークはアンプ技術を導入した集中一点アースや、低音と中音・高音を2分割としたコンストラクションをとり、エンクロージュアは、レベルコントロール部分の平坦化、サランネット枠の反射対策、システム背面のバスレフポートなど、モニター2000の技術を採り入れている。ウーファーとスコーカーユニットとエンクロージュアの接触部に剛性のあるマイカとブチルゴムの混合物を充填して、不要干渉から正確なピストンモーションを保護していると発表されているが、おそらく、いわゆるパッキング材に相当する部分と思われる。この部分と振動板のピストンモーション領域との相関性があるとする説は、非常に興味深く、ぜひともその相関性をデータとして発表してほしいものである。
 適度にスムーズにコントロールされた帯域バランスと、しなやかで伸びのある音をもつシステムである。新材料ピュア・クロスカーボンも第2弾製品のためかほどよくコントロールされ、大音量時の芯の強さ、腰の坐った低域は、従来のデルタオレフィンとは別世界の安定感だ。情報量が多いLC−OFCスピーカーケーブルを使い、細かくセッティングを追いこめば、新製品らしい魅力を充分に味わえるはずである。

オンキョー Grand Scepter GS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 グランセプターについての概要は、本誌71号の《ビッグサウンド》に既述した。しかし、限られたスペースで、このスピーカーのもつ特徴のすべてにふれることは不可能であったし、ようやく市場に導入され始めたこのスピーカーに大きな関心をもつ方もおられることと思うので、その後のこのスピーカーと私の触れ合いも含めて、さらにグランセプターの実像を浮彫りにすることを試みてみたい。
 前にも書いたが、このスピーカーシステムは、オンキョーの技術陣が、新しい視点でスピーカーを見直し、多くの成果をあげたニューカマーである。この製品は現在までに存在した世界の数々のスピーカーシステムが成し得なかった性能を具備していることは明らかであり、スピーカー技術史上に記憶されるべきシステムだといっても過言ではない。ただ誤解の危険性もあるので、あえていわせていただければ、個人の嗜好を含めて、即、最高の音が鳴るシステムだといいきることは難しい。すべてのスピーカーは、その技術の新旧に関わらず、そして、程度の差こそあるかもしれないが、必ず固有の音色や、音場イメージをもつものであり、それらが、個人の音感覚やコンセプトと結びついての好き嫌いの判定という問題は、絶対的なものだ。これをすべて否定し去ることはレコード鑑賞やオーディオの価値を著しく低下させるものであり、人間性の無視にも繋がる。ごく控え目にいっても、オーディオの楽しさを半減させる不毛の論理ともいえるだろう。限りなき科学的追求と芸術性の追求こそが、オーディオに大きな実りをもたらすものであり、そのバランスの達成が、この道の本道だ。録音空間という、いわばオーディオのインプット空間と、リスニングルームというアウトプット空間との異次元ともいえる条件の違いの中で機能するオーディオシステムの本質をわきまえれば、そして、さらには人の感性と情緒を満たすことを唯一のエイムとすれば、右のような結論にならざるを待ない。
 このような立場にたって、このグランセプターを見る時に、このスピーカーが、その科学的追求の歩を大きく進めたものであることが明らかに理解される。と同時に、高忠実度再生を家庭の部屋の中で大きく前進させる可能性をもつものだとも思う。しかし、すべての人の嗜好性への対応という点では、多くのスピーカーシステム群の中で、依然として〝ワン・オブ・ゼム〟の存在であることも認めざるを得ない。それでいいし、また、それは当然である。聴き手は常に自己の感性と情緒を満たす自由をもち、何人もこれを犯すことは出来ないことは、いまさらいうまでもない。しかし、それ故に、聴き手は常に自己の感性を磨き、情緒を豊かにし、正しいコンセプトをもつ努力をしなければならず、そうすることにより、より大きな幸せを得ることが出来るものだ。そこにオーディオの趣味としての存在価値と、オーディオを趣味とする人々の生甲斐の大部分があると考えるのである。

●グランセプターの技術的特徴
 グランセプターの特徴的な技術の概要を記すことにしよう。
 その第一は、これが、家庭用として設計されたオールホーン型システムであるということだ。ホーン型スピーオーは、他のシステムにない良さが認められているにもかかわらず、現在は家庭用のシステムとして決して主流とはいえず、極端に数が少ない。そして、そのほとんどが、中域以上でしかホーンロードはかけられておらず、このシステムのように、全帯域のオールホーンシステムは珍しい。現役製品の中からさがしてみると、コンパウンド(複合)型ホーンを採用したタンノイのウェストミンスター、フォールデッド・フロントローディングホーン(クリップシュホーン)のヴァイタヴォックスCN191、その他エレクトロボイスやアルテックなど外国製品にわずか見られる程度で、大半は特殊な業務用の色彩が濃いものだ。そして、その低域用のドライバーのほとんどはコーン型の大口径ウーファーで、、 オールホーンとはいうものの、そのダイレクトラジェーションを併用しているものが多く、純粋にオールホーンといえるものは少ないのである。ホーンスピーカーには過渡特性や高調波歪率などの点で、たいへん優れた点がありながら、同時に、ホーン特有の癖がつきまとい、また、オーソドックスな低音ホーンは極度に大型化するなどの難点もあった。したがって、最近はコーン型、ドーム型などのダイレクトラジェーターが主流となり、ホーン型は1950~60年頃をピークとして、一般用のシステムとしての開発は休眠状態に入っていたといえるだろう。オンキョーの技術陣は、現時点において、このホーンシステムの良さを改めて認識しなおし、かつ、その問題点を現代の技術でメスを入れたのである。
 ホーンの形状の見直しにとどまらず、その材質の検討には並々ならぬ努力を要したことが、このグランセプターから窺い知ることが出来る。アメリカのアルテックや、JBL、エレクトロボイスなども、新しい理論により、ホーンの研究開発を行ない、それぞれのコンセプトにもとづく成果をあげているが、実用的なオールホーンシステムとしては結実していないし、そのコンセプトも、やや局面的にとどまっているように私には思える。その点、このグランセプターのホーンの設計開発のコンセプトは、トータルサウンドとしての把握がベースにあって、音のよさと物理特性を新たな見地からとらえたユニークなものなのだ。

●グランセプターの性能的特徴
〝グランセプター〟オールホーン型システムの最大の性能的特徴は〝時間を正しく再生する〟というテーマに基づく研究開発の成果である。オンキョーでは、これを二つの代表的なファクターとしてとらえ、その解析と理想値の達成に大きな努力を払った。
 これが、グランセプターの第二の技術的特徴である。
 音は、それがピュアなサインウェーヴでもないかぎり、たとえ単音といえども、複雑な周波数成分から成立っているのが普通である。楽音では、それが条件でさえある。ピアノの440HzのAのキーをたたいても、440Hzは基音で、これに数次の高調波成分が重なり、また、ピアノのメカニズム、構造から発する複雑な低域成分ものっている。それがピアノのピアノらしさという音の表現である。この、異なった周波数成分の比率を正しく鳴らすには、周波数特性がフラットでなければならず、波形を変形する歪などはもってのほかである。しかし、これだけでは不十分で、各周波数成分が時間的にずれを生じてはならないというのが、このグランセプターの最大の主張なのだ。つまり、ピアノのAの音に含まれるすべての周波数成分は、スピーカーから寸分の遅れもなく、きちんと同時に再生されなければ、音色が正しく伝わらないということだ。
 たしかに、従来のスピーカーにおいては、この点は、帯域別という大ざっばな範囲では位相特性として着目され、各ユニットの音源の位置をそろえたり、ネットワークでタイムアライメントをとるという方法で対処され、それなりに成果があった。しかし、一つのユニットの守備範囲での時間の遅れについては、ダイレクトラジェーター(コーン型やドーム型)にあっては、それほど問題にする必要はないので、おろそかにされていたし、低域のf0附近での位相のずれに起因する時間の遅れも、より低域までフラットに再生するという意欲が勝って放置されていたのは事実である。これは、あらゆるタイプのスピーカーを作っているオンキョー自身が一番よく知っているはずだ。
 また、それだけに、現代スピーカーの音色の不満を、もう一歩つっこんで解決する意欲をもった時に、この時間のずれをなんとか解決しなければならないという考えになったに違いない。しかも、それが、ホーンシステムであれば、ダイレクトラジェーターとは比較にならない大きな要素としてクローズアップしてきたはずである。ホーンくさい、ホーンが鳴くなどの、ホーン型の泣きどころは、ほとんど、この時間特性の劣化(時間歪)に起因するものだからである。オンキョーは、これをマルチパス・ゴースト歪とリバーブ歪として提唱している。

●マルチパス・ゴースト歪とは
 マルチパス・ゴースト歪は、ドライバーから放射された音波がホーン開口面での反射による低域レスポンスの乱れとして音色に悪影響を与えるという従来からの定説とは別に、ホーン内部での反射による時間的遅れがきわめて有害で、これは、あたかもFM放送やTVの電波のマルチパスにも似た現象として捉えられるというものだ。セクトラルホーンやディフューザーつきホーンはもちろんのこと、ホーン内面の凹凸や段差、そして、急激な形状の変化などのすべては、音の反射を生じ、反射された音は、主信号から少し遅れて出てくるため、本来の音の質や色合いを害するというものである。たしかに納得できる説であり、微妙な音色の問題を追求する時にはおろそかに出来ないことだと思う。
 私が愛用しているJBLのHL88ホー
ン(537-500)などは、これの極端なもので、複雑に反射させて、ぶつけ合い、トータルとしては平均化して、かえって強い癖から脱しているのかもしれない……などと自らをなぐさめているのだが……。
 オンキョーによれば、ある種のマルチパス・ゴースト歪は音が華やかになり、これが好まれる場合もあるという。毒も薬だ。

●リバープ歪とは
 リバーブ歪とは、いわゆる鳴きといわれる、ホーンやエンクロージュアの振動によって発生する共振音のことで、これは時間遅れの残響音であるから明らかに時間歪と理解できるだろう。残響はすべて歪ということになるが、理論的にはたしかにその通り。だから、理論的に正しい音響再生空間は無響室であるべきなのである。しかし、いわゆる部屋の残響は時間的に差が大きく、方向感の識別も出来るもので、これは主信号と一つになって、それを害す印象にはならないから、感覚的にプラス効果として利用するのが得策だというのが現在のリスニングルームについての考え方になっている。このリバーブ歪も、時には毒も薬で、これを適度に利用して良い音のスピーカーが出来あがっているのも事実である。しかし、正しい、純度の高い再生音を得ようとするならば、その嘗は無視出来ないはずだ。
 これらの問題を設計製造の入念周到な努力によって解決したグランセプターは、ホーンの形状・材質そして木部の構造、仕上げに最大限の注意が払われて作られていることはもちろん、使われているドライバーも並のものではない。特に低音用のウーファーは220φ×110φ×25mmという大きく強力なマグネットに10cm口径のボイスコイルをもつ28cm口径の振動板で(振動板自体の実効径は23・5cm)、もはやコーン型スピーカーとは呼びにくい代物だ。f0での共振のQが小さく、低域の時間遅れを極力少なくしている。クロスオーバーは800Hz、12dB/octによる2ウェイ構成で、当然のことだがウーファーとトゥイーターの位置関係による時間のずれは起きないようにコントロールされている。十分とか、完全とかいう言葉を不用意に使うつもりはないが、よくここまでやった! というのがこのスピーカーに接した時の実感である。
 このように、かなり厳密に追求されたスピーカーだけに、その真価を発揮させるのは非常に難しいのではないかと感じられる方が少なくないだろう。事実、私の今までの経験でも、まるでこのスピーカーらしからぬ音で鳴ったのを聴いたことがある。リバーブ歪を考えても、現実に生活空間に置いた時に、スピーカーから離れたところではまだしも、すぐそばの壁面や物の反射や共鳴の影響が大いに気になる。また、マルチパス・ゴースト歪についても、まるでヘッドフォンと耳の関係のようなところまでスピーカー自体はつめがおこなわれているだけに、室内での反射があれば、その細かい努力も徒労に終るのではないか……という気もしてくるだろう。このスピーカーの他のスピーカーの音とは違う何かには、確かに、そうした技術的な特徴が音として出ているはずだから、そのデリケートな良さが損われてしまっては、比較的よく出来たホーンスピーカーシステムというに留まってしまうだろう。よほどよく出来た部屋でなければその特徴が聴けないのかもしれない……。
 これが、このスピーカーを紹介する時の用者側の努力を要求しないイージーな機械がはびこり過ぎたおかげで、真剣にオーディオと取り組む人が減っているようにも思えるので、これはこれでいいではないかと開き直る気持ちもなくはない。それにしても、私が、このシステムの試作段階から聴いてはっきり把んでいる特質と魅力をある水準以上で再生するにはどうしたらよいか? というのは気がかりなことである。他のスピーカーからは聴き難いデリカシー、ディフィニション……それは、あたかも、よく出来たヘッドフォンを聴くような音の質感である。
 そこで、次に、このシステムを本誌試聴室に運びこんで、オンキョーの技術者にアドバイスを受けながら、セッティングの実際を実験してみたので、ユーザーがこのスピーカーを使われるときのセッティングの参考として御紹介してみよう。

菅野 最初のセッティングは、スピーカーの軸が耳からずれており、また、左右のスピーカーまでの距離も違っていました。それを、きちんと合せたところ、いままで不満に思えた点──ややもたつきぎみの音──がなくなり、優れたホーンスピーカーらしい立ち上がり見事な音になり、このスピーカー本来の音に近づきましたね。
オンキョー このスピーカーの使いこなしでまず重要なポイントは、音の軸と距離合せです。ですから、できるだけ正確にやってください。具体的には、細いひもを使いリスナーの顔の中心から左右のスピーカーまでの距離をきちんと合わせてください。音の軸合せの方法は、懐中電灯を用い、ホーンのノドに光をあて、奥がリスナーのほうを向くようにやってください。このとき、最初にウーファー部、それからトゥイーターを合わせてください。さらに、トゥイータ一部分はうしろの足で高さ(傾き)調整が可能ですので上下方向の軸も合せるように。
菅野 フリースタンディングにちかいこの状態ですと、音のクォリティは非常に高いのでずが、やや低音の量感が不足していますので、これを補うため試しにコーナーに置いてみましょう。
(コーナーに置いて試聴)
菅野 普通コーナーに置きますと、低音の量感は増すものの、音がかぶりぎみで不明瞭になりがちですが、このスピーカーはそういったことがまったくなく、低音の量感のみ増えました。オーケストラではグランカッサがよりはっきり量感を増して聴こえるようになり、かぶりすぎて聴けないのではないかと思えたジャズのアコースティックベースもかぶりなく量感のみ増して、きほどのフリースタンディングの状態よりも全体のバランスがよくなりました。
 これは、いったいどうしてなんでしょうね。
オンキョー 一般のスピーカーは、無響室において周波数特性がフラットになるように設計されていますので、コーナーに置くと低音がかぶりすぎてしまいます。このグランセプターは2π空間で聴感上の周波数特性がフラットになるようにしていますので、無響室での特性は、低域がややだらさがりぎみです。そのため、コーナーに置いてちょうどいいバランスになったのでしょう。それと他のスピーカーと比べて本体の奥行きがあり、そのおかげでコーナーの悪影響を受けずに、コーナーセッティングの良さだけがでてきたのだと思います。
 セッティングのポイントは、スピーカーのまわりの音を聴いて、スピーカーの前面よりも横のほうが低音がでていたらそちらの方向にスピーカーをずらしてみてください。
 この鳴りかたですと、このスピーカーのつくり手であるわれわれとしましても非常に満足できます。
 しかし、もうすこしよく鳴らしてみたい欲もありまして、スピーカーの両サイドの壁にソネックス(吸音材)を粘ってみましょう。
(試聴)
菅野 さらに、このスピーカー本来の音にちかづきましたね。いかにもいい条件でスピーカーを鳴らしている感じで、音像が引き締まり、定位もぴしっと決まります。ただ、私個人の好みでいえば、壁に何も粘らないほうが、スピーカーを意識しなくてすみ、音が少し位相差をもって部屋全体にナチュラルにひろがってくれるので、好きです。ただし、これはソースの録音状態にもよりますが。
 ソネックスを貼られたのは、壁からの一次反射を取り除くためですか。
オンキョー その通りです。一次反射はスピーカーから耳に到達するまでの時間が直接音とそれほど変わらないため、一種のマルチパス現象を起こし音を濁してしまいます。二次、三次反射は時間差が大きいため直接音には悪影響は与えず、むしろ、響きとして音を豊かにしてくれます。
 一次反射が発生しているかどうかは、視覚的に簡単に確認できます。両サイドの壁、スピーカー前面の床を鏡に見立てて、リスニングポジションから壁、床を見てスピーカーが見えるようであれば一次反射が起こっていると考えてください。その場合には、その場所に雑共振のないものを置いて乱反射させ、一次反射がリスナーの耳にとびこまないようにしてください。一次反射は低音ではなく、中、高域に影響を与えますのでカーテン、ソネックス等の吸音材を貼っても十分効果はあります。
 今回は試聴室というオーディオ機器以外はなにも物がないという特殊な条件でしたのでいろいろと後処理をしましたが、適度に物の置いである普通の部屋ですと、それほどシビアに一次反射について悩むことはありません。ただし、スピーカー前面の床は極力かたづけてください。
菅野 吸音材を貼るよりも、物を置いて乱反射させたほうが響きを殺さずにすみ、いい結果が得られるでしょうね。また、吸音材を使うときは、床一面にジュータンを貼るよりもスピーカー真ん前に適度の量を貼ったほうがいいと思います。
 このスピーカーを使いこなす上で、大事なことはこのスピーカーが持っている優れた性能をできるだけ素直に引き出し、それを生かす方向で使っていただきたい。
 そうやって使った場合には、このスピーカーは、録音再生の変換伝送のアウトプットとしてひとつの正しいありかたを具現したものだとはっきりいえます。録音の違いをこれほど出してくれるスピーカーはまずありません。その意味でこれは、シビアなモニタースピーカーといえます。
オンキョー 同じ曲でCDとレコードを聴き比べますと、CDはセバレーションのよさでさ一っとひろがります。アナログディスクですとやや真ん中に音が固まり、どちらかといえばこちらの方が自然にきこえます。しかし、録った状況からいえば、CDのほうが正しいと思います。
菅野 ソースの違いもよく出しますが、録音の差も非常によく出してくれますね。
 一般のユーザーの言う『いい録音』とは、オシロスコープで位相特性を見るとリサージュが縦横一直線に近いもののことをいうことが多いのですが、われわれは、リサージュがマリモのようにひろがるのをよしとします。後者の録音ですと、このスピーカーで軸を合せても、自然な音場感を出してくれます。ところが、縦横軸独立型のものですと、右と左が完全にセパレートして、たとえば弦が左側に偏ってしまい、スピーカーの軸をややずらしたほうが、自然に聴こえがちです。
 こういう録音の違いは、このスピーカーにとって重要となります。これを理解せずして、このスピーカーの良さを感じとることはできませし、使いこなすのも無理でしょう。
オンキョー われわれとしては、百人なら百人のユーザーすべてにこのスピーカーを理解してもらうのは無理だと思っています。ただし、理解していただけた人は、いままでのスピーカーでは聴けなかった音が聴けるはずです。
菅野 まさにその通りですね。
 スピーカーには、BOSEに代表される、あら取る方向に音を拡散する音場型のものと、このグランセプターのように、聴取ポイントを一点に決め、そこに音を集中するものとに分けられます。現在では、スピーカーの在りかたとしてどちらが正しいとは言えませんが、グランセプターは、後者の項点にたつスピーカーのひとつと言えます。
 さきほど、アンプ、コードも変えてみましたが非常にその差をだしますね。
オンキョー この辺も使いこなしで大切なことで、チューニングのひとつのポイントです。
菅野 それは私も感じました。今回は、ピンコードを普通のOFCのものとLC-OFCのものとをきいたわけです。OFCはLC-OFCと比べるとやや不明瞭、よくいえば雰囲気的ですLC-OFCは、ひとつひとつの音がクリアーによく聴こえますが、それだけにバランスも違い、LC-OFCのほうがワイドレンジです。これは、好みの問題でしょう。
オンキョー 何度も言いますけれども、この辺のことをよく理解しませんと、スピーカーを取替えただけでは決していい音はでてきません。
菅野 このスピーカーに取替えますと、いままでのスピーカーとは全然音がちがってとまどうことになると思います。その違いになれ、その違いが、何が原因で起こるのかをちゃんと見きわめる必要があります。その状態で、置きかた、家具の配置、コードの問題を解決して、かなりいい方向にもっていった段階で、初めてアンプに手をつけるべきでしょう。
 このレベルのスピーカーを使う人になると、技術的な高度のものを求め、また、それをもっている人も多いとおもいますが、一般的に言いますと、強烈な嗜好をもっている人のほうが多い。しかし強烈な嗜好だけではこのスピーカーは決してうまく鳴ってくれません。技術的なものをもっていないと、特にこのスピーカーは誤解してしまいますので注意していただきたいものです。

 以上が、セッティングの実際の試みであって、以前思っていたより扱い易いスピーカーという印象だ。そこで、今度は、私の部屋へ運び込んで、このグランセプターを鳴らしてみることにした。
 実のところ、もう、ずい分前に、このシステムを、バラックのような試作段階で、わが家へ持ち込まれて聴いたことがある。その時、私は、その音の素姓に、従来のスピーカーでは聴けない良さを発見し、その商品化を強く要望したのであった。新しい発想と技術で努力した成果が、音に表われているか、いないかが試聴のポイントであり、システムとしての完成度には程遠いものであったし、バランスや音楽性を云々出来る段階ではなかったが〝栴檀は双葉より芳し〟と見てとった。
 しかし、以来、グランセプターをわが家では聴いたことがなかったのである。いよ
いよ商品として完成したグランセプターをわが家で聴く。たいへん楽しみであったし、不安でもあった。外で聴いてもかなりのものとは思っていたし、それだから本誌でもすでに紹介記事で讚辞を呈した次第だが、自室で確認するのは今度が初めてであった。
 わが家のリスニングルームは約20畳。しかし、正面には常用のJBLの3ウェイ・マルチシステムとマッキントッシュのXRT20が収まっている。右の壁面はレコード棚が天井高くまであるし、左の壁面には窓と、その前に家具がある。背面はアンプ棚だ。したがって、試聴スピーカーはXRT20の前に置くしかない。決して理想的な置き方は出来ない。しかし、前に試作機を聴いた時も同じ位置であったし、いつも試聴スピーカーはその位置へ置いて聴く。だから、最上の状態とはいかなくても、私にとってはもっとも適確に、被試聴機の特徴を把握することが出来る条件である。また、私の部屋は、私の考え方からして特に音響設計は施していない。一般家庭の音響条件に近いはずだ。放っておけばオーディオ機器の倉庫のようになるのを、努力して、出来るだけ普通の部屋のように保っている。音楽を楽しめる雰囲気を最小限にでも確保したいからだ。
 グランセプターが運びこまれた。本誌の編集部のスタッフが汗だくになって玄関の階段をかつぎあげてきた。ごく、単純に、XRT20の直前に置いて結線した。使用したスピーカーコードは何の変哲もない……というより、人がみたらびっくりするような貧弱なビニール被覆の平行線(これでよく鳴らないようなスピーカーは問題にしないことにしている)。プレーヤーはトーレンスのリファレンスにSME3010Rゴールド、カートリッジはゴールドバグのブライヤー、CDプレーヤーはヤマハのCD1a、プリアンプはマッキントッシュC32、アキュフェーズC280、クレルPAM2、ウエスギU・BROS1など、パワーアンプはマッキントッシュMC2255、MC2500、クレルKMA100、ヤマハB2x、サイテーションxI、エクスクルーシヴM5などで鳴らしてみた。
 編集スタッフのいる時に、ちょっと確認のため鳴らしたのは、C32とヤマハB2xであったが、これが、何もしないのに、結構な音で鳴った。ほんの10分くらい鳴らしただけで、編集部の人々は帰って行った。それから翌日の午前中でしか、グランセプターはわが家に滞在しない。限られた時間ではあったが、一人で、いろいろな組合せで鳴らしてみた。わずかではあるが、スピーカーのポジションも調整した。どんどんよくなる。少なくとも、今まで何回か外で聴いたグランセプターの音よりずっとよく鳴る。正確な音という印象を越えて、夜の9時頃からは楽しめる音になってきた。風格のある音にすらなってきた。クレルのプリとメインで鳴らした澄明で瑞々しい音の魅力、ウエスギのU・BROS1+M5のしなやかな質感は印象的だった。アンプの音のちがいはきわめて明瞭である。合う、合わないを書けるほどは聴いていないから何ともいえないが、概して、低域の豊かなアンプのほうが向いていると思う。結局、最後は、マッキントッシュのC32、MC2500の組合せに落ち着いた。
 外で聴いていた時には、いつも低音に物足りなさを感じたグランセプターであったが、わが家では違った。試みに、リスニングポジションで測ってみたが、低域は50Hzからスムースに下って、20Hzで8dB落ちという特性を示した。30Hzまでは確実だ。この辺は少しアンプでブース卜してやるといっそう好ましい音になる。低域の位相特性による時間のずれが起きるとオンキョーのエンジニアに怒られそうだが、このシステムの音色再現の忠実性を乱すようなことはなさそうだった。トランジェントのよい音の自然な立上りはダイレクトラジェーターの及ぶところではない。ホーンの独壇場であろう。それでいて、たしかに癖のない音が聴けるのだから嬉しくなってしまう。いつまでも聴いていたいと思った。これで、もっとセッティングを整え、スピーカーコードもしっかりしたものに変え、鳴らしこんだらさぞ……と思える音であった。
 翌日、編集部が引上げに来た。昨夜の最終状態の音を、ちょっとだけ聴いてみないかと私は編集部のM君にいった。M君に明らかな反応があった。
「たった一晩で、こんな鳴り方に変るもんですかねえ? 昨日とちがって、もう何年もここで鳴っているような感じ……」
 たしかに、私にもそう感じられたのだった。しっとりと鳴る弦、リアリティに満ちたピアノの音色の精緻な再現、ヴォーカリストの発声の違いの細部の明瞭な響き分け、たった一晩のグランセプターとのわが家におけるつき合いであったが、このスピーカーはそんな正確な再生能力に、しっとりと、ある種の風格さえ加えて鳴り響いた。
 このわずかのつき合いの間に、私は、このスピーカーを欲しくなっている私自身を発見した。ただ、せっかくの仕上げの高さにもかかわらず、あの〝グランセプター〟のエンブレムはいただけない。前面だけならまだしも、サランをはずした時にはホーンの開口部にまで〝ONKYO〟と貼ってある。このユニークな傑作は誰が見てもオンキョーの製品であることを見誤るはずがない。本当はリアパネルだけで十分だ。エンクロージュアやホーンと看板とをごちゃまぜにしたようなものだ。
 私がこのシステムを買わないとしたら、このセンスの悪いブランドの誇示と、内容からして決して高いとは思わないが、とにかくペアで200万円という大金を用意しなければならないという理由ぐらいしか見つからない。

オンキョー Monitor 2000

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 モニター2000は、価格帯からみれば、1ランク上のゾーンにあるシステムではあるが、今回の比較試聴に加えた製品である。
 早くから巷の噂では、オンキョーの高級機種に、2000、3000、5000の3モデルがあるとのことであったが、その第一弾として発売されたモデルがこのモニター2000である。
 オンキョーのスピーカーシステムは、ユニット形式のうえからもバラエティが豊かであり、ときには、非常にユニークな発想に基づいたシステムの開発が特徴である。最近では、小型なGR1システムが、その好例だ。
 伝統的には、ホーン型ユニットの開発に独自の技術があり、他の形式のドーム型などでも、中域や高域ユニットを優先開発する傾向が、従来は感じられた。ウーファー関係については、ポリプロピレン系のデルタオレフィン振動板の開発と採用が、新材料導入の実質的な出発点と考えてよい。
 今回モニター2000に新しく採用されたピュア・クロスカーボン・コーンは、平織りのカーボン繊維を三層に角度を30度ずらせて重ね合わせた構造をもっている。カ−ボン繊維の軽質量、高剛性を活かし、コーンに要求される内部損失を、カーボン繊維を張り合わせるエポキシ系接着材で確保するという考え方が、その基本設計思想である。
 この新コーンの開発で、特許面を含めて制約の多かったデルタオレフィン系コーンから完全に脱皮し、従来から独自に開発していたマグネシュウム振動板採用の中域、高域ユニットの性能を充分に活かした、総合的にバランスがとれたシステムへと一段の発展をとげることになった。
 モニター2000は、新開発のピュア・クロスカーボンを採用したウーファーに最大の開発エネルギーを投入してつくり出されたシステムである。そのことは、使用ユニットを眺めれば一目瞭然である。ウーファーユニットは、38〜40cm口径の大型ウーファー用に匹敵するφ200×φ95×25tの巨大なバリュウムフェライト磁石を採用した磁気回路をもち、情報量が多く、エネルギーを要求されるベーシックトーンを完全にカバーしようとする設計だ。
 中域ユニットは、独自のマグネシュウム合金振動板を採用し、軽量高剛性の基本性能に加えて、マグネシュウム系が適度な内部損失をもつことに着眼点を置いた素材選択に特徴がある。このため、材料独特の内部損失を活かして、ドーム内部に制動材などを入れずに素材そのものの音を素直に引出すという設計方針である。なお、中域の振動板形式は、φ65mmマグネシュウム合金振動板と10cmコーンとの複合型で、純粋ドーム型と比較して高能率であることが特徴である。いわば手慣れた材格の特徴を最大限に引き出しさりげなく仕上げたユニットが、このスコーカーである。
 トゥイーターは、マグネシュウム合金振動板採用のドーム型で、振動板周辺のフレーム形状で軽くホーンロードをかけた設計が、オンキョー独特のタイプと考えられ、このあたりにもホーン型ユニットに伝統があるオンキョーのオリジナリティが感じられる。
 エンクロージュアは、バスレフポートからの不要輻射を避けた背面ポート型で、裏板に28mm厚のアピトン合板、他は25mm厚パーティクルボード使用という構造も、一般的にバッフル部分を厚くする設計と異なった特徴である。また、バッフル面から不要輻射の原因であるバッジ類やアッテネーターパネルを廃し、ツマミのみを最少限の大きさとして残し、聴取時にはツマミが引込み、バッフル面はフラットになる設計が見受けられる。アッテネーターをバッフル面に取付けないとシステムの商品価値が失われるとする主客転倒的な考え方が定着している現状では、リーゾナブルな処理であるといわなければならないだろう。
 今回対象としたランクのスピーカーシステムでは、基本的に6万円前後の価格帯の製品とは比較にならぬ質的な高さが要求されているが、せっかく優れたユニットを採用しているにもかかわらず、慣例的にアッテネーターを前面バッフルに取付け、総合的なクォリティを劣化させていることは、見逃せない問題である。実際に、アッテネーターやバッジ類を良質の薄いフェルトなどで覆って試聴をしていただきたいものだ。この変化を聴き取れない人がいないとは考えられないほどの音質の向上が認められる。
 関連した問題として、響きを重視するエンクロージュアにアッテネーターパネル用の孔をあけること自体すでに好ましいものではない。また、電気的、磁気的にみても、リーケージフラックスが非常に多い一般的な外磁型フェライトマグネットの磁気回路に近接して、コイル状に抵抗線を巻いた抵抗器や信号系の配線が存在することは、簡単に歪の増加として検出されることなのである。
 もちろん、この程度のことは設計側では旧知の事実だけに、使用者側が良識をもって判断すれば、このクラスのスピーカーの性能と音質は、確実に飛躍的な向上を遂げるはずだ。
 モニター2000は、基本的に、やや広帯域型の現代的なレスポンスをもつ安定感のある音をもっているが、いわゆる、聴かせどころの要所を的確に抑えた表現力のオリジナリティに大きな特徴がある。
 セッティングは、他機種と同じコンクリートブロックでスタートしたが、システムの特徴である低域の表現力を活かし、一段と力強い音を求めて、ここでは変則的ではあるが、木製キューブの3点サポートを試みてみた。少なくとも、SS試聴室ではこのセッティングが、カタログコピーにある多彩な表現力を満すためのベストセッティングで、大変に気持のよい鳴り方である。
 組合せは、しなやかで、響きが美しく、適度に緻密さのあるアンプと、オーディオ的に充分にコントロールされた音のCDプレーヤーが望ましい。

オンキョー Grand Scepter GS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「THE BIG SOUND」より

 オンキョーは、 もともと、スピーカー専門メーカーである。そのンキョーが今回発売した「グランセプター」は、同社の高級スピーカーシステム群「セプター・シリーズ」の旗艦として登場した。しかし、このシステムは元来商品として開発されたものではなく、研究所グループが実験的に試作を続けていたもので、それも、ごく少数の気狂い達が執念で取組んでいた仕事である。好きで好きでたまらない人間の情熱から生れるというのは、こういう製品の開発動機として理想的だと私は思う。ただ、情熱的な執念は、独断と偏見を生みがちであるから、商品としての普遍性に結びつけることが難しい。
 変換器として物理特性追求と具現化が、どこまでいっているかに再びメスを入れ、従来の理論的定説や、製造上の問題を洗い直し、今、なにが作れるか、に挑戦したオンキョーの研究開発グループの成果が、この「グランセプター」なのである。そして、その結果が音のよさとしてどう現われたか? このプロトタイプを約一年前に聴く機会を得た私は、条件さえ整えば、今までのスピーカーから聴くことのできないよさを、明瞭に感知し得るシステムであることを認識したのであった。
 限られた紙面で、そのすべてを説明することは不可能であるが、このシステムの最も大きな特徴と、その成果を述べることにする。
 オールホーンシステムである「グランセプター」は、ホーンスピーカーのよさであるトランジェントのよい音のリアリティ、ナチュラリティを聴かせるのに加え、従来のホーンシステムのもっていた、いわゆる〝ホーン臭い〟という癖を大きく改善している。それは、ホーン内の乱反射による時間差歪を徹底的に追求した結果として理解出来るのだが、それが実際、こんなに音の違いとして現われたというのは、新鮮な驚きであった。可聴周波数帯域内での時間特性の乱れは、スピーカーの音色に大きな影響を与えるものであることは知られていた。
 ここでいう時間特性というのは、周波数別に耳への到達時間がずれるかずれないかを意味するもので、ユニットから放射された音がホーンの開口から放射される前に、内部で起きる反射や回折によって時間的遅れを生むのを極力防ぐことに大きな努力が払われたのが、このシステムの一大特徴である。一般に、この時間が2〜3ミリセコンド以下なら人間の耳は感知しないといわてきた。
 そして、屋内での空間放射の現状を知ると、システムそのものの時間特性の僅かなずれは問題にならないと考えるのが常識であった。「グランセプター」では、ウーファーとトゥイーターのユニット間の時間特性をコントロールするという大ざっぱなことではなく、一つのドライバーが受け持つ帯域内での時間のずれまでを可能な限りコントロールしているのが注目すべきところである。前述のように、ダイレクトラジェーターと異なり、ホーンドライバーの場合、ホーン内の反射回折、ホーン鳴きなどはすべて時間特性の乱れとして見ることが出来るので、これを、ホーンのカーブと構造、その精密な加工技術、材質の吟味を、途方もない計算と試作の積重ねによって徹底的に微視的追求をおこなっている。これによって、あたかもヘッドフォンと耳との関係に近いところまで時間のずれをなくすべく努力が払われているのだ。この効果は、例えば、ピアノやヴァイオリンの単音の音色の忠実性にも現われるはずで、単音に含まれる複雑な周波数成分の伝送時間のずれがもたらす、音色の変化が少ない。ましてや、オーケストラのトゥッティのような広帯域成分の音色では、たしかに、大きな差が出る。耳と至近距離にあって時間ずれの起きないヘッドフォンの音色の自然感に通じるものなのである。
 オールホーンの2ウェイシステムで、能率が88dBというのは、異常なほどといってよい低能率ぶりである。ウーファーのホーンロードのかかりにくい帯域に合わせてそのf特とトゥイーターのレベルを抑え込んだ結果である。ウーファーはデルタオレフィン強化のリングラジェーターをもつ強力なドライバーで、波のコーン型ウーファーではない。振動板実効口径は23cm。これが800Hzまでを受け持つ。トゥイーターは65φの窒化チタンのグラデーション処理──つまり、断層的に窒化の施されたチタン材である。いい変えればセラミックと金属のボカシ材だ──を施したダイアフラムを採用。剛性とロスのバランスを求めた結果だろう。
 指向性は、水平方向に30度、垂直方向に15度と比較的狭角である。これも放射後の位相差を招かないためであり、従って、リスニングエリアはワンポイントである。厳密なのだ。無指向志向や反射音志向とは全く異なるコンセプト、つまり、技術思想が明確である。反面、左右へリスニングポジションを動かした時の定位は比較的安定している。
 使用にあたっては、かなり厳格に条件を整えなければならない。決してイージーに使えるようなシステムではない。それだけに条件が整った時の「グランセプター」は得難い高品位の音を聴かせるのである。
 とにかく、この徹底した作り手側のマニアックな努力と精神は、それに匹敵した情熱をもつオーディオファイルに使われることを必要とし、また、そうした人とのコミュニケイションを可能にする次元の製品である。そして過去の実績を新たなる視点で洗い直して、歩を進めるという真の〝温故知新〟の技術者魂に感銘を受けた。

オンキョー Monitor 2000

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 このところ、オンキョーで高級スピーカーシステムを、3機種同時開発中という噂が流れていた。その第一弾として登場した製品が、このモニター2000であり、続いて20万円前後と50万円前後の高級横が発表されるようである。
 従来から同社のスピーカーシステムは、振動板の新素材として、中域以上にマグネシュウム合金を代表とする物理特性の優秀な材料を導入し、熟成に努めていたが、低域用は、紙からポリプロピレン系への置換が目立った。この材料は、かなり優れた物性値をもつが、国内の使用では最適比重範囲を特許で押えられているために、本来の性能を活かした設計が行えない難点が存在していたことは否めない事実だ。
 この点を打破すべくオンキョーが新しく採用した振動板材料は、ピュア・クロスカーボンと名付けられた素材である。基本構想は、高剛性で軽量というカーボン繊維の特徴を活かし、内部損失の不足をコーンの成型時に使うバインダーでコントロールをするというものである。カーボン繊維は、平織り状であり、ウーファーコーン用としては、これを3枚、角度を30度づつずらせて(キャップ部分は、45度、2層)バインダーで成型してある。
 カーボン繊維を振動板に使うための最重要ポイントは、繊維を接合するバインダーであり、現状ではエポキシ系樹脂以外にはなく、適度に内容損失があり樹脂固有の附帯音を抑えたバインダーを開発できるかが鍵を握っていることになる。
 新振動板採用の34cmウーファーは、φ200×φ95×25tの38cm級ユニットに匹敵する大型磁石採用で14150ガウスの磁束密度をもつ。中域は、100μ厚、直径65mmマグネシュウム合金ドームと100mmコーンの複合型振動板で、マグネット寸法φ140×φ75×17tを使用し、振動板面積を増して能率を確保する設計であり、高域は、40μ厚マグネシュウム合金、口径25mmのドーム型、マグネット寸法φ90×φ45×15tで18250ガウスの磁束密度をもつ。
 エンクロージュアは、裏板28mm厚アピトン合板、それ以外は25mm厚パーティクルボードを使い、裏板にポートをもつ変型バスレフ型だ。なお、レベル調整ツマミは小型で、バッフル面の平滑化を計るためプッシュ構造で調整時に飛出す特殊型だ。
 モニター2000は、低域を重視した製品だけに、セッティングには入念の注意が必要だ。堅めのコンクリートブロックを2段積みとしフェルトを敷いて間隔を調整する。この製品の特徴は、柔らかく豊かな低域をベースとし、しなやかで、のぴのある中域から高域がバランスしたキレイな音にある。ハードドーム独特の硬質さがなく、むしろソフトドーム的な傾向が加わっていることがユニークだ。低域重視設計のため安定度の高いことが大変に好ましい製品だ。

オンキョー Scepter 200

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❷でのヴァイオリンの独特の艶っぽさがこのスピーカーのきかせる音の魅力を端的に語っている。その逆に、❸でのコントラバスのひびきが大きくふくらみすぎるところに、ものたりなさを感じる人もいなくはないであろう。❶でのひびきなどはなかなか特徴的である。ふっくらとまろやかではあるが、音場感的にかなり大きい。それにここでもコントラバスの音が多少強調ぎみに示される傾向がなくもない。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノ独自のひびきの質感はよく示す。しかし、音像的には大きい。❷でのストライザンドの声は女らしいしなやかさを示し、なまなましさひとしおである。これで❸のギターの音が、ここでのように太めにならず、すっきりきりっと示されれば、ひびきのコントラストがついて、このスピーカーが得意とするところのまろやかでしなやかな感じも一層はえるのであろうと思わなくもない。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
この種のレコードはこのスピーカーにもっとも相性がよくないものといえそうである。❷でのティンパニの音にしても、本来のきりっとひきしまったひびきになりえていない。したがって当然、❸での動きにしても、鋭く示されているとはいいがたい。このような人工的なひびきに対して、スピーカーそのものが拒否反応を示しているように感じられなくもない。スピーカーにとって気の毒なレコードであった。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶ではベースの方がきわだってきこえる。ピアノの音はいくぶん薄い。ただ、❷ではピアノの音のダイナミックスの変化は、いくぷん強調ぎみに示す。❺での管のひびきの特徴の示し方と、そのひろがりはこのましい。ただ、これまでの部分との音色的な対比ということになると、硬質な音への対応でものたりないところがあるので、かならずしも充分とはいいがたい。総じてしなやかな音への対応にすぐれる。

オンキョー Scepter 200

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 しなやかな音をきめこまかく示すことに秀でたスピーカーと考えてよさそうである。したがって①のレコードでの❷のヴァイオリンとか、②のレコードでの❷のストライザンドの声などは、まことになまなましい。それぞれのひびきのしっとり湿った感じをよく示している。
 その反面、ダイナミックな音への対応ということで、いくぶんものたりないところがある。その面でのものたりなさが極端にでたのが③のレコードである。③のレコードではこのスピーカーの弱点のみがさらけ出されたという印象であった。
 かなり人工的に録音されている④では、もともとがアクースティックな楽器のひびきを基本にしているために、③でのような破綻はなかった。きめこまかいやわらかい音に強い愛着を示す人にとっては魅力的なスピーカーのはずであるが、もう少し守備範囲がひろくてもいいように思う。

オンキョー Integra P-306R + Integra M-506R

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新セパレートアンプ44機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 このスピーカーとしては異色のなり方をした。ひびきの湿度の高いのが特徴的であった。①のレコードでの各楽器のひびきの特徴の提示のしかたとか、④のレコードでの声のまろやかさの示しかたなどはこのましかったものの、力強いひびきへの反応にものたりなさを感じた。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★
 レコード③で示される音場がかなり狭く感じられた。⑤のレコードでのひびきのとけあい方はこのましかったが、ひびきが総じて暗くなるきらいがなくもない。②のレコードでのベース、ドラムスのひびきなどは本来の力を示しきれず、このアンプとスピーカーとの組合せの弱点をあきらかにした。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 ⑤のレコードでチェロが太くおしだしぎみにきこえたのが印象に残った。①や②のレコードでの力強い音への反応もまずまずといえるものであった。④のレコードでの提示がこのスピーカーのものとしてはめずらしくひかえめであった。⑤のレコードではひびきがきつくなりすぎるきらいがなくもなかった。

試聴レコード
①「マーラー/交響曲第6番」
レーグナー/ベルリン放送管弦楽団[ドイツ・シャルプラッテンET4017-18]
第1楽章を使用
②「ザ・ダイアローグ」
猪俣猛 (ds)、荒川康男(b)[オーディオラボALJ3359]
「ザ・ダイアローグ・ウィズ・ベース」を使用
③ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
④「キングズ・シンガーズ/フレンチ・コレクション」
キングズ・シンガーズ[ビクターVIC2164]
A面2曲目使用
⑤「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

オンキョー Integra A-820GT

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新プリメインアンプ11機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 全体的にふっくらとしたひびきが特徴的であった。音像は大きめであっても音に積極性がるので水ぶくれした感じにはならない。もっともこのましくなかったのがBのレコードであった。ひびきが暗いことも関係して、音の鋭さが充分に示されず、もったりした感じになった。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★
 Cのレコードでのひびきのまろやかさはこのましかったが、きこえ方のバランスということになると2本の弦がいくぶん強調されていたところに問題があった。Bのレコードでは和音をひくピアノの音が重く鈍くなっていた。Aのレコードでは弱音の声に独自のなまなましさがあった。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 C−A−Bの順でこのましくきこえた。フラウト・トラヴェルソの音色はきめこまかでこのましかった。Aのレコードでのオーケストラのひびきが充分にひろがっていた。とりわけそのうちのホルンの音はのびやかさがあってこのましかった。Bのレコードでは反応の鈍さが気になった。

試聴レコード
Ⓐ「パヴァロッティ/オペラ・アリア・リサイタル」
パヴァロッティ(T)、シャイー/ナショナルPO[ロンドンL25C8042]
Ⓑ「ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
B面1曲目「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」を使用
Ⓒ「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

オンキョー Integra P-306R, Integra M-506R

オンキョーのコントロールアンプIntegra P306R、パワーアンプIntegra M506Rの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

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