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昇圧トランス/ヘッドアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 最近のプリメインアンプやコントロールアンプは、ダイレクトに低出力のMC型カートリッジが使用できることがスタンダードとなっているために、専用の昇圧トランスやヘッドアンプを使うというのは、かなり要求度が高い場合のスペシャリティ的な使い方与えてよいだろう。
 低出力のMC型カートリッジの出力電圧をMM型カートリッジ並みの2・5mV程度の電圧にまで高めることが、昇圧トランスやヘッドアンプの役目である。両者の使い分けは、基本的に、3Ω程度の低インピーダンス型MCカートリッジでは、低電圧・大電流の特徴を活して、昇圧トランスの使用が好ましく、30〜40Ω程度の高インピーダンス型MCカートリッジは、低電圧・低電流のため、電圧増幅をするヘッドアンプの使用が好ましいと考えてほしい。
●10万円未満の価格帯
 昇圧トランスでは、アモルファスコアを採用したSH305MCが、価格、性能、音質の内容を誇り、とくに、30〜40ΩクラスのインピーダンスのMC型の昇圧で好結果が得られるのが特徴である。個性派はTK2220、ひと味違ったサウンドは大変に魅力的だ。ユニークな存在がHA3だ。将来のフォノ用ブラックボックスとしては大きな可能性を秘めた製品だ。
●10万円以上の価格帯
 AU1000の超重量級設計が特筆もの。

その他のジャンルのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 その他のジャンルでは、かなり幅ひろい商品が存在しているため、他のジャンルの製品とは、ベストバイの選出そのものが、相当に異なるといった印象が強い。
 今年の新しい傾向として、デジタル技術をベースとしたオーディオ製品の実用化がトピックス的である。その第一は、デジタルディレーや、デジタルリバーブの製品化があげられる。ローランドのDSP1000ユニットと、パワーアンプをもつマランツRV55がその2機種だ。
 DSP1000のセミプロ用といった機能優先の簡潔な設計は、それだけにかなり魅力的な存在で、プリアウト機能、左右独立のディレーアウト、あるいは基本的原音賀、デジタルノイズの少なさなど、大変に優れた製品である。ただしボリュウムと同軸型のディレーミキシング調整は、初期変化がやや急激で、少しの慣れが必要だ。
 RV55は、デジタルリバーブも使えるのが最大の魅力であり、グラフィックイコライザーはパワーアンプが組みあわされているのが実用上で便利なシステムである。試聴用に借用した製品は、サンプル品で、やや不可解なマトリックススイッチの効果や、グラフィックイコライザー使用時のSN比の劣化、さらに、デジタルノイズなどの問題点もあったが、実際の製品では当然のことながら改良されていると思う。DSP1000との基本的な違いは、ローランドでは既存のスピーカーと同じ、聴取位置前方にディレイ出力用スピーカーを壁に向けて設置する前面型を推賞することにくらべて、マランツの方式は、ディレー/リバーブ出力用スピーカーをかつての4チャンネル方式と同様に後面にむいて、サラウンド的に使う構想であるのが対照的である。いわば、純粋な2チャンネルステレオのハイプレゼンス化とAVサラウンド的な使い方の違いといってよいだろう。
 同様にデジタル技術を駆使した分野にPCMプロセッサーがある。締切り時点では、サンスイPC−X11を選択し、生産品の試聴テストを行う予定でいたが、現在までに現実の製品が約束に反して届かず、PC−X11の選出は取下げる他はない。これに変わり、締切後に試聴したソニーPCM553ESDは、単体使用でもPCM701をしのぎ、デジタルノイズの皆無といってよい見事な力感と厚みのあるデジタルサウンドを聴くことができた。さらに、DAS703ESと組み合わせて、より高元のシステム化が可能なことも楽しい。
 ティアックAV−P25は、ノイズフィルター付ACテーブルタップといえる製品だが、デジタル機器やAV製品と同居が強要されるアナログ機器への干渉を減らす意義は大きい。
 ヤマハGTR1Bは、板厚の部分にある材料を使ったオーディオBOXである。予想以上に振動に弱いCDプレーヤーに好適である。

カセットデッキのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 カセットデッキの性能向上も極限に達した観がある。無論、細部にわたってコストをかければ、まだまだやることはあるだろうが、このコンポーネントの性格からして、すでに十分以上のクォリティをもったものが現れたと偲う。来年はデジタル記録のDATが登場することは必至であるし、これも、アナログ機器としての有終の美を飾る分野といってよさそうである。
 価格帯は2ゾーンであるが、オートリバース機とスタンダード機に分かれ、計四つの区分が成されている。僕の考えでは、便利な機能のオートリバース機のほうが、カセットデッキとしての性格からはウエイトをおきたい気持ちも強いのだが、ここまで性能がよくなると、3ヘッドのスタンダード機の高級なものにも大いに魅力を感じる。10万円以上のゾーンでは、オートリバース機は選びたくないが、スタンダード機ではソニーのTC−K777ESIIやナカミチのCR70などは素晴らしいデッキだと思う。悩みに悩んで、結果的には、どちらの分野からも10万円以上は避けることにした。アカイGX−R60はオートリバースとして完成度の高いオリジナリティに溢れた力作である。ビクターTD−V66、ローディD707II、ケンウッKX1100Gはスタンダードデッキとして、カセットへの要求を十分満たし、録再の相似性、ノイズリダクションのクォリティに優れた実用機器として評価出来る。

カセットデッキのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 あれほどまでに、全盛を誇っていたカセットデッキが、急激に衰退を示したことは、日の出の勢いを謳歌するCDプレーヤーにとっても、何れは己れの身かな、という一種の警鐘であるのかもしれない。
 デジタル系のプログラムソースの出現により、新時代の高SN比カセットデッキを目指して、地味な進歩ではあるが、ドルピーHXシステムの導入やドルビーCタイプの普及をはじめ、確実な進歩を遂げているカセットテープのバックアップも大きく貢献して、結果としてのカセットの音質はかなり大幅に向上しているのは事実である。
 一方、機能面に於ても、ダブルデッキを除いても、オートリバース機の性能が向上し、いずれはオートリバース機が標準モデルの位置につくであろう。現状では、未だに性能最優先の設計方針のため、実用上不可欠な頭出し機能を省いた製品が存在するが、これは問題として取上げるべきことであると思う。テープの自動選択を含み、手軽に使えるデッキへの道を要望したい。
●オートリバースデッキ
 機構的に、かなりの経験とメカの熟成が要求される分野。結果としては、ビクターDD−VR77、DD−VR9が選択に値する。
●スタンダードカセットデッキ
 音質優先では、機能面のマイナスもあるがソニーTC−K555ESIIがベスト1。シルバーパネルのヤマハK1XWの内容向上も注目に値する。

チューナーのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 はっきりいってFMチューナーは、各メーカーのオリジナリティの濃い技術競争は終り、安定期に入った観がある。各ブロックがIC化され、パーツとして普及したため、多くのFMチューナーには独自の開発が希薄になってきた。その中にあって気を吐くのが、チューナーでは名実共にナンバー1の実力をもつトリオ/ケンウッドと、アキュフェーズで、この両社が意欲作を出している。こうしたバックグラウンドの中で、この一年の新しい製品の中心に、ケンウッドKT1010F、KT2020の両機種を選んだわけだが、同じく、KT880Fも大幅にクォリティアップしたことを申しそえておこう。テクニクスST−G6T、ソニーST−S555ESも、これに劣らぬ優れたものだが、現実のチューナー選びには、プリメインアンプやプリアンプとのデザイン統一という要素がむしろ重要ではなかろうか。新しく横浜や平塚の新局が開局するという事態にはなったが、今後、微細に音を識別する関心がFM放送に払われない限り、目くじら立てて選び分けるほどの分野ではないように思うからだ。それだけチューナー全体のレベルが向上した証拠でもあるわけで、僕個人の中では、どうしても他のコンボーネントほどこだわりが大きくないのである。
 10万円以上のアキュフェーズT106も素晴らしいが、僕にとっては10万円以下の出費で十分と思えるのだ。

トーンアームのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 基本的には現状では、アームレスプレーヤーシステムと組み合わせるトーンアームであり、機械的な加工により生産し、その需要も非常に少ないため、既存の製品の維持だけでも大変であり、新製品の開発は至難であり、結果的なコスト高に繋がるのがこのジャンルでの悩みであるだろう。
●10万円未満の価格帯
 結果的には、製品寿命がかなり長い、いわば伝続的なトーンアームがその大半を占める価格帯である。いわゆる振り子式のインサイドフォースキャンセラーを採用以後の集大成ともいえる3010Rは、価格からみてもリーゾナブルで、仕上げの美しさもさすがにSMEならではの世界だ。ダイナミックバランス型の最後の華ともいえるFR64fxプロは、やはり重針圧型のMCカートリッジの魅力を引出すためには不可欠の存在で、ここでは簡潔さを買ってプロとしたが、細かい追込み用なら64fxが好選択だ。ベスト1は、1503IIIだ。SMEに匹敵する超ロングセラーのモデルナンバーを持つ。私事だが基本構想を提案しただけに、長期間にわたり育ててくれたメーカーへの感謝状といった意味もある。
●トーンアーム 10万円以上の価格帯
 本質的にはシリーズVがベスト1だが、締切り時点での年内発売が不明のため他を選んだ。DA1000の内容は注目したい。

チューナーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 手軽に適度なハイファイサウンドを楽しむプログラムソースとして、かなり魅力的な存在であるが、基本的に、いわゆるオシキセのプログラムソースであるために、送り出し側の番組制作の基本方針が直接的にFM放送の魅力にかかわりあいをもつのが、FMチューナーの特殊性であろう。
 かつては、FM民放の存在そのものが、ややワンパターンな傾向の否めないNHK・FMに対して、新鮮な魅力であり、これが、FM放送を支えてきたわけだが、ここ数年釆、NHK・FMが、ヨーロッパの放送局との提携番組で、その内容がとみに充実してきたことに対比し、FM民放の番組内容に、オリジナルな制作が減り、単にディスク再生番組的な面が強調されている。このことが、FM放送に対しての魅力を低下させ、AVにその基盤をさらわれてしまったのは否めない事実である。
 個人的にも、FMチューナーの電源を入れる確率が非常に低下しているが、NHK・FMの生送り出しは、一聴に値する素晴らしいFMの世界である。
●10万円未満の価格帯
 ケンウッドの経験と実力は群を抜いているが、シルバーパネル採用のヤマハT2000Wは、音的な魅力を含み一服の清涼剤的存在。
●10万円以上の価格帯
 KT3030の実力は文句なしにピカ一だ。事実上のFMチューナーの王者である。

カートリッジのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 カートリッジ、つまり、このアナログディスクの変換器は、CDの登場で華やかな王座を去りつつあることは否めない。しかし、それだけに厳しく淘汰され、今後は存在の必然性と魅力のあるものが根強く定着することと思われる。このことは、製品自体についてはもちろんのこと、開発技術やそのコンセプトについてもいえることであろう。従来のハイコンプライアンス化や軽量化などには既に反省が見られ、バランス設計の理念にかえって、その動作の安定性と音の魅力を磨き上げたものが登場している。この一年のカートリッジにはそうした優れた力作が多いが、少々皮肉な現象ともいえるであろう。各カートリッジメーカーがアナログディスクへの愛情、長年の技術の集積の結晶として結実させ有終の美を飾る結果となったといっては気が早過ぎるであろうか?
 価格帯は3ゾーンに分けられている。
 5万円未満のゾーンでは、ベストワンとしてデッカMARK7を上げたが、この独特の構造をもつカートリッジは、この製品において、きわめて高い完成度に達したと思う。ダイレクトカップリングに近い、振動系の縦方向へのコンプライアンスのバランスが改善されたため、安定性と音の自然さが向上した。まるで、イギリスのよく出来た車のフィーリングのような滑らかさと弾力性をもつた得難い魅力に溢れている。B&OのMMC1は今年の開発ではないが、軽量、ハイコンプライアンスながらバランスがよく出来ていて、決して、ひよわな音にはならず、造形の確かな再生音がリアリティを感じさせるものだった。ヤマハのMC100は従来のヤマハのカートトッジのもっていた、どこか軟弱で神経質な音から脱し、豊かな雰囲気と芯のあるボディを感じさせる充実した音になった。オーディオテクニカAT−ML180はこのメーカーらしい安定したトレースとバランスでヴァーサタイルな音を聴かせる。ハイフォニックMC−A300は個性が光る。華美に過ぎることなく輝かしい魅力的なサウンドだ。
 5〜10万円ではオルトフォンMC20スーパーが断然光る。このMCカートリッジの王者といってよい北欧の老舗の風格を感じる現代カートリッジ技術の集大成である。SPU−GOLDと共に長く存在し続ける製品になるだろう。ソニーXL−MC9も、このメーカーのカートリッジ技術の集大成で、ついに高い完成度をもったバランスを獲得した。最新の技術と素材を使い、それらが生のまま音にでていない。大人の風格をもっている。
 10万円以上では僕の愛用カートリッジ、ゴールドバグMr.ブライヤーをベストとして推したが、トーレンスMCHIIという古いタイプのもつ魅力、シュアーのULTRA500のMM究極の完成度、AKG/P100LEIIの鮮鋭なサウンドなど、甲乙つけ難いものだ。

カートリッジのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)

特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 伝統的なアナログディスクフアンの熱い要望に支えられて、カートリッジの新製品も順当に姿を見せ、その内容も充実したモデルが低価格帯に多くなってきたのが見逃せない点である。基本的には、MC型が国内製品の主流であることに変わりはないが、新製品の多くは、新型の針先形状の採用しボディ部分の高剛性化が特徴だ。
 カートリッジのジャンルで特に目立つことは、一般的な極性をもつ製品に対して、左右チャンネルの位相は合っているが、共に逆相になるように結線してある製品がかなり多く存在することがあげられる。
 大把みな傾向として、逆位相型は音の輪郭がクッキリとし、音が前に出る印象のメリハリ型の音になるようだ。反面、音場感的な情報は少なくなり、奥行き感のタップリとある音は不得意である。
 もちろん、昇圧トランスやヘッドアンプ、コントロールアンプ、パワーアンプなどにも、入出力が逆位相となる製品があり、これらとの兼ね合いでカートリッジも語らねばならないわけである。ただしスピーカーでは、逆位相型はJBLが例外的な製品であり、赤い端子に電池の+を接続すると振動板は後に引込むことになる。CDプレーヤーでも位相切替スイッチを備えた製品が、海外と国内に各1モデルあり、録音側も含み、この位相問題は今後に残されたオーディオの大きな課題となるであろう。
●5万円未満の価格帯
 内容の非常に濃い製品がビッシリと並んだ魅力のゾーンである。発電方式では、MC型とMM系が競合しているようだ。MC型では、デンオン、テクニカ、ヤマハの製品が、それならではの音を聴かせるが、リファレンス的な性格ではDL304が傑出した存在だ。AT−F5MCは、価格は安いが、その内容はテクニカMC型の集大成といった充実ぶりで一聴に値する優れた音が魅力的である。海外製品では、MMC1のフレキシブルな対応が抜群であり、ML140HEの力強さは鮮烈な印象だ。
●5〜10万円未満の価格帯
 伝統的なSPUを進化させたゴールドが文句なしにオリジナリティからしてベスト1だ。MC−L1000のダイレクト型ならではの世界。重厚で安定したAT37EMC。繊細なMC−D900。それぞれの個性は共存できる音の世界の展開である。締切り後の成果は、MC20スーパーで、オルトフォンを越えたオルトフォンとしての評価がどうでるであろうか。
●10万円以上の価格帯
 正統派的に考えれば、DL1000A、MC2000、P100LEあたりがベストバイである。アナログディスクでの長い経験があれば、IKEDA9は別格の存在である。締切り後では、ULTRA500の超シュアーな音が非常に魅力的であった。

昇圧トランス/ヘッドアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 当然のことながら、これはMCカートリッジと一体として考えるべきアクセサリーで、カートリッジ指定のもとに判定されるべき性格が強い。僕個人は、この分野ではトランスのほうに感心が強く、ヘッドアンプは、アンプの一つとして考えざるを得ないのである。例えば、アキュフェーズのC17ヘッドアンプなどのように、きわめて優れた製品だと思うのだが、同社のC280プリアンプ内蔵のヘッドアンプのクォリティを考えると、独立した製品の存在の必然性に、やや希薄なものを感じてしまうのである。ヘッドアンプとしては、マッキントッシュMCP1だけを上げたが、これは同社のプリアンプにはヘッドアンプが内蔵されていないため、あのまろやかなマッキントッシュ・サウンドを統一して獲得したい時にはぜひ一台欲しい製品だからであって、マッキントッシュ・ユーザー以外の人にとっては、やはり広くトランスを勧めたい気持ちが強い。
 10万円未満のオーディオテクニカAT700T、FRのXG7は、広く多くのMCカートリッジに適用性を認められる点で素晴らしいものだと思う。10万円以上ではデンオンAU1000も、ヴァーサタイルだが、オルトフォンT2000は、同社のカートリッジ、特にMC2000専用としての意味合いが強いように思う。それぞれのゾーンのベストワンは、以上のような意味合いで、いずれも万能型として優れているものとした。

トーンアームのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 トーンアーム単体を今から買うという人はよほど高度なマニアだろう。そして、アナログディスクのコレクションも豊かで、それを奏でる儀式を愛してやまない人たちのはずだ。そういう僕も、その一人なのだが、僕が今、買いたいと思っているトーンアームは一つだけ。SMEのシリーズVである。昨年のオーディオショーで発表されたが、未だに製品はイギリスから渡ってこない。輸入元ではこの年未には必ずといっているが果たしてどうだろう。僕は幸いこのトーンアームを使ったことがあるが、トーンアームの最高峰。まさに有終の美を飾るにふさわしい素晴らしいアームであった。純度の高いマグネシュウムを主材として作られる軽量、高剛性のシリーズVは、長年のアナログレコード再生の夢を叶えてくれるものであった。ユニバーサル型のアームを世界中の標準とした元祖SMEだが、これはヘッドシェルとアームが一体構造でカートリッジ交換はプラグイン式のようにはいかない。SME3010Rも推薦に値するアームだが、皮肉にもシリーズVは、あのSMEのスタンダードモデルの基本構造や材料の反省が生かされたものともいえるのだ。FR64fx、オーディオクラフトAC3300、デンオンDA1000も選んではみたが、シリーズVの前には影が薄いのである。

プレーヤーシステムのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 プレーヤーシステムは、フルオートは価格分類なしで、セミオートとマニュアルが10万円未満、10〜30万円、30万円以上の3ゾーンに、そして、アームレスが30万円未満30〜60万円、60万円以上の3ゾーンという、複雑な分類になっている。ADプレーヤーの現実からすればCDとのかね合いで考えなければならないかもしれない。つまり、CDの普及の中で、なお存在価値のあるものという見方がそれである。しかし、まだ時期尚早の感がなきにしもあらずで、10万円以下のプレーヤーがCDのクォリティに対抗することは難しいながら、一般にはまだ存在価値のあるものと考えることにする。
 フルオートではビクターのQL−Y44FとデンオンのDP47Fを選んだ。本山ヨはB&OのBeogram8002を選びたかったが、25万円という価格とCD混在の現状を照らし合わせて、いずれも6万円を切る普及価格のものにした。QL−Y44FもDP47Fも甲乙つけ難く、無理にベストワンを選ぶ意志はなかったが、サイコロを振って決めたようなものである。どちらも信頼性と中庸をいく音のバランスのまとまりをもった好製品だと思う。
 セミオート/マニュアルの10万円以下のベストワンはケンウッドのKP1100である。これは今年出たこの価格帯の唯一の新製品といってよく、この時期に新たに金型から起して開発した意欲と、その成果は称賛に催する。CPからみても、絶対性能価値からいっでも中堅の手堅い製品で、充実した再生音をもつ優れたものだ。同じケンウッドのKP880DIIは従来からのモデルだが、これも、安定した回転性能と精度の高いトーンアームで良質の再生音を約束してくれる好製品。ヤマハGT750、バイオエアPL5L、ビクターQL−A70はいずれも、アナログプレーヤーの技術の円熟を見せる優れたものだと思う。
 10〜30万円ではヤマハのGT2000Lを選ぶ。GT2000のヴァリエーションの中でミドルクラスのものだが、大型重量級のクォリティをもつ立派なもの。オーソドックスなプレーヤーで信頼性が高い。
 30万円以上ではエクスクルーシヴP3aとテクニクスSL1000Mk3。性格は違うが、どちらもプレーヤーの熟成した技術で磨かれた力作である。
 アームレスの30万円未満では、ARとトーレンスTD126BCIIIセンティニュアル、30〜60万円ではトーレンスTD226BC、60万円以上ではトーレンスのプレスティージとマイクロSX8000IIシステムを選んだ。AR、トーレンスとも、振動系としてQのコントロールを積極的に追求したフローティングタイプ。結局これがアナログプレーヤーの必須条件で、重量と剛性のみの追求ではバランスのとれた音の質感の再生には不可能に近いことを、マイクロも8000IIになりインシュレーターをシステム化したことが証明しているようである。

プレーヤーシステムのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 CDプレーヤーの華やかさと比較すればメカニズムベースで、高性能化と物量の投入が比例する分野だけに、本来のベストバイに相応しいシステムの開発は、需要の面もあり、現在では非常に難しいとしかいいようのないところだ。
●フルオートシステム
 CDの機能面の優位性は、一度経験してしまうと、いきおいマニュアルのアナログプレーヤーを廻すのがおっくうになるというのが実状であろう。
 従来からも、高級プレーヤーシステムはマニュアル型であり、フルオート機は、イメージ的にクォリティダウンに繋がるといった風潮が強く、高級なフルオート機の生れる下地が国内にはない様子である。
 いかに、DD型モーター全盛で、プレーヤーでエレクトロニクスの技術が幅をきかしたとしても、ある程度のメカニズムが要求されるフルオート機では、メカニズムの熟成も含み、かなりの経験量が必要であり、どのメーカーでも簡単に手が出せる分野ではないようだ。
 結果的には、国内製品では、ビクター、デンオン、テクニクスの3社のフルオート機が競合したことになるが、高性能をも含め、ベスト1にはQL−Y66Fとした。
●セミオート/マニュアルプレーヤーシステム 10万円未満
 実用的なアナログプレーヤーシステムとしては、製品の内容が充実した価格帯だ。特別な使用上の要求がなければ、どのモデルを選択しても後悔することはないのは事実であるが、基本的メカニズムが安定し、ハウリングマージンが大きい、インシュレーションシステムを備えていることが望まれる条件であるが、個人的にはインサイドフォースキャンセラーが微調整可能であることも重要な条件としている。ベスト1は、デザイン的には少しアクが強いが、各種のカートリッジに対する適応性の点でも、実際にカートリッジの比較試聴で使った実績もあり、PL7Lとした。
●マニュアル/セミ・オートプレーヤー 10〜30万円未満
 基本的に10万円未満の不満足さを解消するための選択で、10万円台から選んだ。
●マニュアル/セミ・オートプレーヤー 30万円以上
 貫禄のあるP3aがベスト1だ。新製品では意欲的なGT2000Xが注目作だがアームが少し気になる。別格はDRAGON−CT、発想の独自性が見事な製品。
●アームレスプレーヤー 30〜60万円未満と60万円以上の価格帯
 アームの選択がポイントになるが、アナログプレーヤーならではの独自の魅力の世界。テクニクスとマイクロの対照的性格は興味深い存在であり、SX777FVは高価だが、ベストバイには相応しいモデルである。

パワーアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 パワーアンプも四つの価格帯に分類されている。
 40万円未満のゾーンでのベストワンとしてテクニクスのSE−A100を選んだが、このアンプのもつ新しい回路が可能にしたと思われるエネルギッシュで豊かな質感と精緻な細部の再現力はひときわ光る存在だと思ったからである。テクニクスのアンプとしては飛躍的な音質の変化だと思うし、その努力の熱意を高く評価したい意図もあった。つまり、他のアンプも、これに負けず劣らず素晴らしいものだからである。アキュフェーズP300L、デンオンPOA3000Z、ヤマハB2xは、それぞれに第一級のパワーアンプである。ただ、三者三様の質感の違いが面白い。P300Lは艶っぽく豊潤、B2xは豊かだが筋肉質といったように、肌合いのちがいを聴かせる。
 40〜60万円のゾーンではアキュフェーズP500をベストワンとした。どちらかというとやや甘美な艶があり過ぎたり、ハイパワ一にあっては時に小骨っぽい意外性のある音を聴かせてきたアキュフェーズのパワーアンプ群の中で、このP500は完成度の高いバランスを獲得した製品だと思う。MOS−FETアンプらしい暖色の音が、明確な音像エッジを伴って、充実した密度の高い音の感触を聴かせてくれる。サンスイのB2301Lは豊潤で重厚な前作B2301のリファインモデルらしく、透明な抜けのよさが加わり、自然な音となった。マランツSm11は、輝かしい豪華な音を聴かせるが、決して品位は下らない。明るく、屈託のない熱っぽい音が僕の趣味に合う。マイケルソン&オースチンのTVA1は管球式のアンプだが、これでなければ! という決め手の音をもっている。特に基本的に古いタイプの設計に属するスピーカーには是非欲しいアンプなのだ。
 60〜120万円では、ベストワンとして、マッキントッシュMC2255を薦める。ただし、近々、このモデルは、MC7270という新しいモデルに引き継がれる。幸い、この新製品を試聴することが出来たが、2255のレベルを決して下回ることはないし、大きく異なるものではない。中音域の充実した最新のマッキントッシュのアンプは、音楽の情感に最も鋭く、豊かなレスポンスをもつ。オンキョーM510、アキュフェーズP500、マランツSm700、それぞれ立派なアンプだ。
 120万円以上ではなんといっても現在最大のパワーを公称以上のレベルで獲得し、かつローレベルでの音色も優れたマッキントッシュMC2500をベストワンとする。カウンターポイントSA4、クレルKMA100MK2は、それぞれ、独特な質感の魅力で、趣味性の高い音の香りを持つものとして推薦する。

パワーアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 従来から、各価格帯にわたり、比較的粒ぞろいなモデルが数多く存在しており、特例を除いて、ひどく個性的なキャラクターのモデルも少なく、選択は比較的に容易といってよいようだ。ただし、一部の海外製品には、入力系と出力系で位相が反転して増幅されるタイプもあり、かなり独特のサウンド傾向をもつ点は注意してほしいところである。
 このところ、CDがメインのプログラムソースになってくると、CDの高出力ということもあり、パワーアンプにダイレクトに入力して使うことが多くなり、一部には専用のアッテネーターが使用されているが、考えようによっては、外付のアッテネーターが使われるということは、入力系にボリュウムコントロールがなかったり、あったとしても、音質的に問題があるということを意味しており、アンプ設計者にとっては、いわば盲点を突かれた結果であり、素直に考え直してほしい部分でもある。平均的な要求のパワーアンプでは、CDをベースに考えれば、入力系に、音質的に問題の少ないボリュウムと簡単なファンクション切替があれば実用上は充分であり、フォノイコライザーを備えてはいたものの、ファンクション機能付パワーアンプという構成の高級プリメインが、かつて2〜3機種存在していたことを忘れないでほしいものである。
●40万円未満の価格帯
 この分類での上限に近い30万円クラスに実力のある機種が多い。POA3000Zは、型番は前作を受け継いでいるが、Zになり内容は一新された、完全にニューモデルであり、適度に濃やかさがあり、しなやかさと力強さを両立させた完成度の高さは見事であり、1ランク上の製品と比較できる実力はベスト1に相応しい。
 P300Lの適度という表現がピッタリのバランスの良さ。鮮明でクリアーな音が魅力のB2x。明るく、程よい穏やかさのあるM−L10の音などは、ベストバイに相応しい。個性型は、1701。カリッとした機敏な音と機能的なデザインが楽しい。B910の構造の見事さは特筆ものだが、音的なリファインが停滞しているのが非常に残念なことだ。
●40〜60万円未満の価格帯
 標準アンプ的に使える製品が多いゾーン。古い製品だが現在でも魅力抜群のM4aがベスト1だ。これに対比できるのは、やはりP500である。
●60〜120万円未満の価格帯
 ドライブ能力に優れ、伸びやかで安定したXI、個性派のM510が双璧である。KSA50MK2も好製品だ。
●120万円以上の価格帯
 ソリッドステートの反転アンプCitationXXと管球OTLのSA4に絞る。安定感はXXだ。

コントロールアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 プリアンプの価格帯は四つのゾーンに分かれていて、30方円未満から100万円以上にわたっている。
 30万円未満でのベストワンとしては、デンオンPRA2000Zを選んだが、このアンプのもつ、美しい仕上げに見合った精密感のある音の魅力が印象的である。組み合わせるパワーアンプやスピーカーによっては、やや肉付きが薄くなるかもしれないが、逆に豊かな量感のスピーカーに対してややパワーアンプをきりっと引き締めて毅然とした音にする効果も捨て難い。ヤマハC2xは、ごくオーソドックスな質感をもち、特に個性的ではないが、質の高い信頼感がある。メリディアンMLPは、フォノやCDそしてチューナーなどのライン入力アンプを、それぞれモジュールとして組み合わせられる自由度をもった独特なコンセプトによるもので、同じモジュールパワーアンプも用意されているから、本当はプリメインアンプとして扱うべき製品だと僕は思う。しかし、そのブリ部分だけを独立させて、他のパワーアンプを鳴らすことも可能なので、このジャンルの扱いになったと思われる。きわめてよくコントロールされた音で、質感には独確で魅力的な粒立ちがある。作者の感性のふるいを通した音だ。QUAD44は、いかにもQUADらしいコンセプトでまとめられ、これも個性が強い。
 30〜50万円の価格帯ではアキュフェーズのC200LとカウンターポイントSA3を選んだ。この2機種、単刀直入にいえば信頼性ではC200L、魅力ではSA3である。C200Lはアキュフェーズが創業時に発表したC200のロングランだが、中身は常に、その時点でのテクノロジーでリファインされ続け、現代の200Lは、最新プリアンプとして優れた特性に裏付けられ、かつ、よくコントロールされたバランスのよい音のアンプだ。しかし、僕が同じ日本人で同質文化への新鮮さが希薄なためか、音への新鮮で強烈な魅力という点で、カウンターポイントSA3をベストワンとしたのである。ソリッドステート電源をもつ管球式のプリアンプで、その柔軟にしてしなやかな強靭さをもった音の魅力は格別である。ただ、作りの点、信頼性の点では垂島最高点はつけ難い。ラックスマンのCL360は発売が来年に延びたのであげなかった。
 50〜100万円では、さすがに全て第一級の甲乙つけ難い製品が並んでいる。強いてベストワンとなれば僕は、その完成度の点でマッキントッシュにならざるを得ない。C33、C30の両者は価格差を考えると甲乙つけ難いが、C33の中域の魅力をとってこれを推す。アキュフェーズC280、サンスイC2301、それぞれ魅力的で、信頼性の高い上質のプリアンプである。

コントロールアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 従来からも、コントロールアンプには、傑出した製品が少ないのが通例であるが、この傾向は今年も大して変わりはない様子である。基本的にコントロールアンプはフォノイコライザー付コントロールアンプという形態で発展してきたが、昨今のCDブームが定着化してくると、この形態を保つ必然性はかなり大幅に減少してきたように思われる。
 現状では、まだアナログディスクとCD共存がベースではあるが、CDに対する依存度が高まってくると、現状のコントロールアンプの重要な部分であるフォノイコライザーアンプやMCカートリッジ用のヘッドアンプや昇圧トランスなどを使う頻度は低下し、それらの部分のコントロールアンプ中に占める価格が問題になってくることになる。簡単に考えれば、フォノイコライザーアンプは、アナログプレーヤー側に装備するか、ブラックボックス的に独立した存在であるべきである。
 その大きな理由を簡単に記しておこう。CDをメインに使う場合には、フォノ入力にプレーヤーがつながれていないことが往々にしてあるだろう。この状態でCDの音を聴き、次にフォノ入力にショートピンを差込んで再びCDを聴いてほしい。音の透明度や、抜けのよさ、音場感の拡がりに大きな差が聴き取れるだろう。簡単に考えれば、フォノイコライザーアンプのノイズがアンプの筐体内部でCD入力に干渉して、音を汚していることになる。
 フォノ入力の端子に、かつてショートタイプの構造をもつものを採用していたメーカーがあり、これも対応策だが、根本的には、フォノ入力使用時以外にフォノイコライザーアンプの電源を切る対策がベストである。この提案を採用したプリアンプが既に存在しているが、結果は非常に良好であり、各社各様の対応をうながしたい点だ。
●30万円未満の価格帯
 アナログディスクを重視する使い方では、内蔵昇圧トランスとヘッドアンプとMM用入力を使えば、外付の昇圧トランスやヘッドアンプも使えるPRA2000Zの基本構成は抜群の成果である。入力切替はリモートコントロールのリレー切替でミュート付でボップノイズは皆無の点が特徴。オーソドックスに置き方、ACの給電方法などで追込んで使えば、かなり高級機とも比較できる音の良さが魅力のポイントだ。C2xの薄型アンプとしての完成度の高さは歴代ヤマハのコントロールアンプ中でトップランクの存在。熟成のきいたP−L10の安心して使える音も好ましい。
●30〜50万円未満の価格帯
 高価格であるだけに信頼感の高さが特徴。C3aの潜在能力が予想以上に高いようだ。
●50〜100万円未満の価格帯
 強いて使うならばといった選択である。

プリメインアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 ブリメインアンプの価格帯は3ランクで、10万円未満、10〜20万円、20万円以上と分類されている。そして、プリメインアンプという性格からすると、10万円未満というゾーンが主力であり、10〜20万円は高級機、20万円以上は特殊な超高級機として、その上のセパレートアンプと重複するゾーンであると考えてよいのではなかろうか。人によっては、10〜20万円を主力と考えるかもしれないが、最近のプリメインアンプのCPからすれば、僕は前述のような認識をもっている。特に、79800円という価格のブリメインアンプの質的充実は目覚ましく、単にCPの優れた製品として以上の内容の優れた製品が多いのである。さすがに、これを下廻る価格のものには、本格的なコンポーネントとしては少々不満の残るものが多く、10万円未満とはいっても、現実は79800円に集中したゾーンということになるようだ。
 この10万円未満のゾーンでベストワンとしてオンキョーのA817RXIIを選んだが、このアンプのもつ、高いスピーカードライブ能力と、余裕のある豊かなサウンドクォリティは、かなりの高級級スピーカーを接続しても一応不満の少ない品位をもっているし、極端に能率の低いスピーカーでなければ、広くブックシェルフタイプのシステムを鳴らすのに全く不満のないものだ。他にハーマンカードンのPM655を選んだが、この製品のもつ音の情感は注目に催する。価格はやや割高で、パワー表示からだけ見ると、特にその感が強いが、その音質と、パワー以上のドライブ能力からして、優れたブリメインアンプだと思う。もう一機種、ビクターのAX−S900を選んだが、この滑らかで艶のあるエネルギッシュな音は立派だ。しかし、選に入れなかった中には、これらと全く同列と思えるケンウッドKA990Vなどもあり、何故、これが入っていないのか? と問われると、答えは全く用意出来ない。強いて答えろといわれれば、KA990Vは他の機会に大いに評価して紹介しているので、ここでは他の製品にチャンスを与えたということになるのである。
 10〜20万円のベストワンはヤマハのA2000aである。A2000のリファインモデルだが、音は一長一短。A2000のひよわさはなくなったけれど、その分、情趣はやや希薄になった。美しく、所有する魅力のある高級ブリメインアンプだ。そしてケンウッドKA1100SD、サンスイAU−D907XDなど、いずれも充実した堂々たる製品である。
 20万円以上はマランツPM94をベストとしたが、これとは対照的なラックスマンL560とは比較すら困難だ。L560はクラスAでパワーは小さいが、風格と情緒性では表現しがたい魅力をもつ。PM94のほうがより一般的に強力なアンプではある。

プリメインアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 今年のプリメインアンプの注目すべき価格帯は、10万円未満で、製品の内容が非常に高まったことと、20万円以上の価格帯に、セパレート型アンプの下限と競合する性能、音質を備えたモデルが登場してきたことである。
●10万円未満の価格帯
 基本的には、スピーカーシステムでの20万円未満の価格帯に相当するゾーンで、本格派のブックシェルフ型システムなどを充分にドライブしようとすると不満を生じるだろうが、気軽に音楽を聴こうという要求には適度な製品が存在している。
 最激戦価格は79、800円に絞られ、上位7機種中で6機種がこの価格の製品であり、ほとんどが新製品という過密ぶりである。それらのモデルの内容をジックリと見聞きしてみると、前作と比較して明らかに1ランクアップを果している製品があるのが判かる。その第一は、A750aだ。やや線が細く、弱々しさのある前作とは一線を画した、安定感のある充実した音は、かなりの本格派で、ドライブ能力もあり、安心して使える印象が好ましい。
 A817RXIIも特殊なトランスを各所に採用した結果なのだろうが、従来の独特のヌメッとした色彩感が大幅に減少して、オンキョー本来のスッキリとした抜けのよい素直な音になった点を大いに買いたい。
 ベスト1は、AX−S900である。もともと、この価格帯には異例の内容をもつ前作に電源部の改良をメインにしたモディファイが施され独自のGmボリュウムやGmスイッチ切替によるSN比の高さは、圧倒的に優れた見通しの良い音場感に現われている。また、スピーカーのドライブ能力も充分にあり、本格派プリメインとしての信頼感は非常に高い。やや異例な存在が、PM655だ。豪華な仕上げを競う国内製品と比較すると、異なった個性をもつが、ゆったりとした落着いた音は独特の魅力だ。
●10〜20万円未満の価格帯
 非常に内容が優れた製品が昨年一斉に発売されたが、予想外に需要が伴わなかったのが10万円台前半のモデルだ。PMA960のしなやかで落着いた音、A−X1000のダイナミックな迫力にも注目したいが、A2000aの安定感と密度感の高さはピカーの存在である。型番に変更はないが確実に改良が聴き取れるのがA150Dでダークホース的な存在。柔らかく、豊かな音を受け継ぎながらも、ピシッと一本芯の通った音が聴けるのは大変に好ましい存在だ。
●20万円以上の価格帯
 やや、ベストバイの印象から外れたゾーンである。PM94は、まさしく、スーパープリメインアンプ的存在で、同社のセパレート型Sc11とSm11と競合できるだけの質的高さは別格の存在である。LX360の独特の雰囲気も大切にしたい個性。

CDプレーヤーのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 CDプレーヤーは三つの価格帯に分けられている。進歩のプロセスにあるCDプレーヤーだけに、そのベストバイとしての価値判断は、やや特殊である。CDプレーヤーの価格差の意味が難しいからだ。今後、まだ大きな可能性のある分野であるだけに、高級機種について断定的な評価を下し難い気がする。かといって、低価格機とは歴然とした音の品位の差が存在するのも事実だから、今、どのクラスを買ったらいいかという判断が困難なのである。数年、あるいは、それ以下で、次の進歩が見られるなら、低価格機にしておこうという見方もあるだろう。僕としては、たとえ数年でも、よりよい音がするものを取りたい気持ちが強い。
 10万円未満のベストワンはマランツCD34である。これはCPからして抜群だ。戦略価格だからである。ユーザーは漁夫の利を得られる。本来なら10〜20万円のランクで通用する音だ。ソニーD50II+AC−D50はポータブル機器として、多機能発展型となり、この価格帯の代表機種である。テクニクスのSL−XP7+SH−CDA1も同じコンセプトながら、立派な音を聴かせる。デンオンDCD1100はよく練られた音で音楽的に自然で楽しめる音だ。この価格としては最も広く薦められる機種だと思う。この他、選外のほとんどの機種が、きわめて高いCPをもったもので、どれを買っても損はない……というのが、現在のCDプレーヤーの低価格帯の状況だと思う。
 10〜20万円となると、さすがに音質に魅力的なものが出てくる。オンキョーC700をベストワンとしたのは、その技術的興味で他を引き離している点からだ。光ファイバーによるデジタル信号の伝送を、このレベルで実現したのは立派だと思う。そのよさが音にも出ているが、中、低音の立体感にもう一歩の欲が残る。ケンウッドDP2000は確実な技術の積み重ねで音を練り上げた好製品。パイオニアのPD9010Xはメカニズムや音質の追求に細かい配慮をした結果が成果を上げ、豊かで澄んだ音が美しい。ローディDAD003は、セパレートタイプの普及モデルとして魅力的だ。ヤマハのCD2000は、明るく透明な響きが暖かい感触を失わず、快い響きをもったものだ。この他ソニーのCDP553ESDのきわめて透徹で精緻な音が魅力だ。
 20万円以上ではソニーのCDP553ESD+DAS703ESのセパレート型が前作を確実にリファインして現在のCDプレーヤーの高水準を示して立派。フィリップスLH2000はプロ機でアマチュア用としては無駄が多いが、CDの音のリファレンスが聴ける。ローディDAD001はベストワン。音の厚み、しなやかさは抜群だ。マッキントッシュとB&Oは、国産と一線を画す音とデザインで秀逸だ。

CDプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 他のコンポーネントと大きく異なったCDの特徴は、価格に関係なく、基本特性がほぼ等しいことがあげられる。つまり、もっともローコストモデルでも、正しい使い方をすれば、優れた特性をベースとしたハイグレイドの音が楽しめるわけだ。
 CDプレーヤーは、今年になり急激に開花した感があり、製品も非常にバラエティに富んではいるが、データ的に同等の性能をもってはいるが、平均的な規格以外に隠れた部分があり、このあたりに経験量の差やノウハウの蓄積量の違いがあるようで、これが決定的な音の違いとなって現われるようだ。
 CDプレーヤーで問題となるのは、主に筐体からの高周波の不要輻射、AC電源を通しての干渉、信号に含まれる残留ノイズの質と量などがある。現実には、不要輻射はFMチューナーのビート妨害として出やすく、AC電源からの干渉はアウトフォーカス気味のボヤケた音や奥行きの欠除した音場感などになりやすく、残留ノイズは直接に音質を劣化させることになる。
 FMへの妨害は、FM受信時にCDの電源をオフにすればよく、AC電源の干渉は、アンプなどと別系統の給電をするとか、フィルター、インシュレーショントランスの使用などで低減できるが、残留ノイズは如何ともしがたい問題である。とくに、最近の頭の良い設計者は、ボーズ時にミュートをかける設計をするため、曲間部分でボリュウムを上げチェックする他はない。
●10万円未満の価格帯
 基本的な選択法は経験豊かなメーカーの最新製品を選ぶことだ。価格的に、ポーズ時にミュートがかからない製品が多いため、ポーズにしてボリュウムを最大にしてチェックをしよう。8kHz近辺のビートが少し出ている程度がベストだ。ジャージャー、カチャカチャといった残留ノイズは論外だが、現実には存在するため要注意だ。
 ベスト1は、チェンジャー機能をも備えたPD−M6である。基本的な音も質的に高く、楽しく音楽を聴かせる雰囲気は抜群であり、残留ノイズの質と量も優れる。LDでの経験が結実した好製品。一連のヤマハ製品は確実な内容の向上を示し、CD34のメカ部の充実さは特筆ものだ。ダークホースは、清澄な音のDCD1500と、飛躍的にCD技術を磨いたXL−V400だ。
●10〜20万円未満の価格帯
 高級機の分野だけに技術的に高度な内容を備える製品が多いが、高度な技術内容もオーディオ的に消化しないと、結果としての音は期待外れになるわけだ。信頼性は、さすがにCD2000WやCDP553ESDが抜群の存在だ。オーディオ的に音楽が楽しく聴けるのはPD9010X。新鮮なDP2000。未完の大器は、ZD5000とC700。今後の洗練を期待する。

スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 いつものことながら〝ベストバィ〟の選出の基準について書くのに苦労する。ベストバイ……つまり、お買徳、最高の買物……などといった意味は、実に複雑な多面性をもっているからだ。それぞれのジャンルについて選出の基準を述べよという編集部の注文は、それでも毎年同じように続いているのである。それぞれのジャンルという言葉を使いながら、価格帯の分類まではいっている。価格帯によっては、選出の基準がちがってもいいということなのか? 僕自身にもよく解からないのである。
 スピーカーのジャンルでは、20万円未満から160万円の価格帯に分類されているが、選出の基準は、この事実からだけでも大きく制約を受ける。安くてよいものという基準はまず成り立たない。最高品位のものというのもおなじく成り立たたない。
 価格帯別に基準はふらつくわけで、ジャンルでくくって、確固たる基準を述べることは不可能である。いわば無理難題であるわけで、この種の企画に共通の矛盾を含んでいることをまず申し上げておきたい。結論を言えば、率直にいって基準などという厳格なものは僕の場合にはない。述べれば述べるほど矛盾を生むことになって、やり切れない。観点とか基準とかいう言葉は曖昧であったり矛盾と流動性を含んでいてはナンセンスである。近頃、あまりに安易にこうした言葉が使われ過ぎる。もっともらしくて恰好いいのだろうが、本当は恰好悪いのである。
 僕の場合どう考えても、よくいえば柔軟性をもって総合的に価値を見当して、〝よいもの〟を選んだということになるが、悪くいえば、どうもまんべんなく選んだようにも思え、改めて、後味の悪い思いをしながら反省しているところである。数の制限もあってのことだから、こうなるのもやむを得なかったのだが、いずれにしても選出というのは骨の折れることである。
 スピーカーの低価格帯域のベストとして選んだのはB&OのCX100である。小型で使用条件の限定を受けるが、何より、その音とつくりのセンスの高さが抜群だ。小型ながら、その高貴さ故にベストワンとした。他に外国製ではスウェーデンのラウナの〝ティール〟、セレッションのSL6など素晴らしいものがたくさんあるが、能力としてはこのランクでは国産のほうが高い。特にケンウッドLS990AD、オンキョーD77、ヤマハNS500Maなどのように選にはいったものはもちろん、選外にも優れた特性と能力をもったものが多数ある。しかし、音の品位、表現の説得力となると今一歩のものが多いのである。
 20〜40万円のベストワンはボストンアコースティックA400であるが、このスピーカーの素直でありながら、豊かな情感を伝える能力、価格も含めた製品としてのバランスのよさは高く評価したい。国産ではダイヤトーンのDS2000、コーラルDX−ELEVENが充実している。CP的には外国製品を大きく上廻ることはいうまでもない。ユニットの作り、エンクロージュアの密度の高さなど、同じ価格で比較すると、国産品の充実は外国製を圧倒している。しかし、ハーベスやスペンドールの、あるいは、タンノイの音の味わいや魅力には欠けるのだ。
 40〜80万円では異例といってもよい国産のベストワンをあえて選出した。ダイヤトーンDS10000である。この音の美しさは、遂に世界的なレベルに達したように感じられる。それも、日本的な緻密で繊細さを極めた音であって、海外スピーカーのもつ味わいに追従すするものではない。技術のオリジナリティも他に類例のないアイデンティティをもっているものだし、作り手の情熱の感じられる作品としての表現力が力強い。他はすべて、このランクになると海外製品になった。JBLの新製品4425は、いかにもJBLらしい鮮鋭さと精度の高い音像再現性をもった素晴らしいもので、その発音の基本的性格が他の製品に聴けない独自の明るさとエネルギーに満ち溢れているスピーカーシステムだ。タンノイのエジンバラの重厚な風格、B&O/MS150−2のモダニズムの精密さ、ボーズ901SSのオリジナリティと長年にわたるリファインの成果は、いずれも明確なアイデンティティと魅力を持っている。
 80〜160万円ではJBLの4344が、圧倒的に安定したリファレンス的サウンドで好ましい。頼りになるシステムだ。
 160万円以上では、ユニークな技術的特色と、熟成した音の魅力で独自の世界を創ったマッキントッシュのXRT20の姉妹機XRT18を選んだ。重厚にして柔軟だ。

スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 スピーカーシステムは、基本的にメカニズムを使ったトランスデューサーであることが、エレクトロニクスの産物であるアンプやCDプレーヤーと異なった特徴であり、スピーカーユニットを構成する振動板材料、磁気回路、フレームなどがある水準以上の性能を要求されれば、それ相応の物量の投入が前提となるため、いわゆる生産性の向上で価格の低減を期待することは不可能と考えてよい。
 もちろん、スピーカーシステムの分野でも、いわゆる売れ筋価格帯というものが存在し、このゾーンに製品が集中する傾向が強いが、ここ数年間にわたり売れ筋価格が維持されているために、各社各様のサウンドポリシーを貫いてはいるものの、その内容は、やや希薄化の動向は否めない事実といえるだろう。
 基本的に、ある水準以上のサウンドクォリティを要求される、いわゆるコンポーネント用のスピーカーシステムに相応しい内容、実力を備えた製品となれば、現状では、ステレオ・ペアで約20万円以上のシステムが好ましいといえるが、やや妥協して考えても、売れ筋価格帯上限の、ステレオ・ペアで12〜13万円クラス以上が、ベストバイの下限であろう。
●20万円未満の価格帯
 自分なりに価格帯の下限を設定したために、選択した製品は、海外製品を除いて、標準サイズのブックシェルフ型システムである。外形寸法的には、やや大型である点が特徴でもあり、内容的な問題点でもあるようで、そろそろ大きいことは良いことだ!的な観念を捨てて、少しは小型、高密度化の方向のシステムの開発を各メーカーの企画担当者に要望したいものである。
 海外製品は、ともに英国の小型ブックシェルフ型システムを選択したが、基本性能もかなり見事であり、音質的にもかなりインターナショナルな雰囲気を備えている。気軽に小型、高性能を楽しむためにはSL6が相応しく、やや構えて、高密度な音を聴きたい向きには、LS3/5Aはベストバイ中のベストバイである。
 この価格帯の製品には、いわゆるAV対応という、防磁構造のユニットを採用したモデルが散見されるが、本来、防磁構造はスピーカーのシステムの基本性能を向上する不可欠の要素であることを認識してほしいものだ。洩れ磁束は、内部の配線、ネットワーク素子、アッテネーターに影響を与え歪を発生する元凶なのである。
●20〜40方円の価巷帯
 内容が充実しており、選択するのが楽しい標準サイズのブックシェルフ型がメインの価格帯である。国内製品の大勢は、CDの驚異的な情報量に対応するための、低歪化に代表される性能向上による、聴感上でのSN比の向上の方向の開発であるが、一部には、音の輪郭をクッキリと聴かせるアナログ派とでもいえるモデルもあるようだ。
 DS2000は、強烈なインパクトこそ受けないが、新開発ユニットをベースとした内容の濃い製品。使いやすく、誰にでも高性能を基盤にしたバランスの良いハイディフィニッションな音が楽しめ、完成度の高さは同社製品中で文句なしにトップだ。飛躍的に完成度を高めたS9500DVの柔らかく豊かな低域。未完の大器らしい凄さのあるZero−FX9。木目仕上げが魅力のNS1000XWなどの新製品に注目したい。S955IIIの爽やかさ。SX10のソフトドームならではのしなやかさと、アンティークなムードも個性派の存在。玄人好みのDS1000。伝統的タンノイの魅力を凝縮したスターリングも使いたいシステム。
●40〜80万円の価格帯
 ペストバイの感覚からは少し離れた価格帯の製品で、ジックリ聴き込んで選択をしないと後悔を残す個性派が多い。現代的な高密度ハイデイフィニッション型では、DS3000が最右翼の存在。さりげなく高品位の音楽を楽しむためには901SS−W。少しメカニカルなイメージを求めれば901SSだ。実感的なバリュー・フォー・マネーならタンノイに限るし、個性派には、QUAD/ESLだろう。目立たぬがベストバイに最も相応しいのがMONITOR1である。また、NS2000の美しい仕上げもヤマハならではのものだ。ベスト1は、唯一の鋳造磁石採用の磁気回路をもつ2S305だ。最新のCDプレーヤーで一度は追込んでみたい製品。
●80〜160万円未満の価格帯
 上位5機種は、傾向は大きく異なるが、正確な目的さえ持っていれば、長期間にわたり充分に楽しめるシステムである。締切り後に聴いた製品ではDUETTAがドライブしやすく一聴に値する。

その他のベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 LDプレーヤーとCDプレーヤーを同じ筐体にまとめ、さらに、LDの音声をデジタル化したLDDにも対応可能なパイオニアCLD9000は、LD、CDともに、低域の厚み、安定感で、質的な向上があり、価格的にも文字どおりベストバイのトップランク商品だ。これに、CDのユーザーズビットのディスプレイが加われば完全だ。
 PCMプロセッサー関係はEIAJフォーマットが14ビットであること、長時間録音可能に対応する選曲や頭出し機能の問題などもあって、特殊なオープンリール的需要の域を出ないようだが、βIIIで使用可能なプロセッサー、ソニーPCM501ESは、リーゾナブルな価格も魅力的である。サウンドプロセッサー関係のdbx4BXはエキスパンダーとして最高のモデルで、この威力は、まさに、麻薬的な恐しい魅力とでもいえよう。待たれるのは、デジタルディレイユニットなどの登場である。

カセットデッキ、オープンリールデッキのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 オートリバース機の中では、独立3ヘッドという構成と再生時のみリバース可能という独自性からナカミチのDRAGONを選んだ。走行系はスーパーリニアトルクモーターを採用し、コギングの発生はないという。また、機能面
でも自動アジマス調整機構(NACC)により、録音済みのテープに対しても最適アジマスが得られるのも特徴だ。
 スタンダードタイプは10万円未満がソニーTC−K555ESII。10〜20万円が、同じくソニーTC−K777ESである。K555ESIIは555ESのグレードアップヴァージョンでLC−OFC巻線ヘッド、ツインモノ構成のアンプ部が特徴だ。サウンドは、このクラスの枠を越え、上級のK777ESにも迫るものである。K777ESはESシリーズのトップモデルであり、銅メッキの鋼板シャーシを採用し過電流を抑え、歪みの改善を図っている。情報量の豊かさとキメ細かなサウンドが得られている。オープン部門では、高い完成度と品位の高いサウンドが得られるルボックスB77IIをベストワンとした。