スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 スピーカーシステムは、基本的にメカニズムを使ったトランスデューサーであることが、エレクトロニクスの産物であるアンプやCDプレーヤーと異なった特徴であり、スピーカーユニットを構成する振動板材料、磁気回路、フレームなどがある水準以上の性能を要求されれば、それ相応の物量の投入が前提となるため、いわゆる生産性の向上で価格の低減を期待することは不可能と考えてよい。
 もちろん、スピーカーシステムの分野でも、いわゆる売れ筋価格帯というものが存在し、このゾーンに製品が集中する傾向が強いが、ここ数年間にわたり売れ筋価格が維持されているために、各社各様のサウンドポリシーを貫いてはいるものの、その内容は、やや希薄化の動向は否めない事実といえるだろう。
 基本的に、ある水準以上のサウンドクォリティを要求される、いわゆるコンポーネント用のスピーカーシステムに相応しい内容、実力を備えた製品となれば、現状では、ステレオ・ペアで約20万円以上のシステムが好ましいといえるが、やや妥協して考えても、売れ筋価格帯上限の、ステレオ・ペアで12〜13万円クラス以上が、ベストバイの下限であろう。
●20万円未満の価格帯
 自分なりに価格帯の下限を設定したために、選択した製品は、海外製品を除いて、標準サイズのブックシェルフ型システムである。外形寸法的には、やや大型である点が特徴でもあり、内容的な問題点でもあるようで、そろそろ大きいことは良いことだ!的な観念を捨てて、少しは小型、高密度化の方向のシステムの開発を各メーカーの企画担当者に要望したいものである。
 海外製品は、ともに英国の小型ブックシェルフ型システムを選択したが、基本性能もかなり見事であり、音質的にもかなりインターナショナルな雰囲気を備えている。気軽に小型、高性能を楽しむためにはSL6が相応しく、やや構えて、高密度な音を聴きたい向きには、LS3/5Aはベストバイ中のベストバイである。
 この価格帯の製品には、いわゆるAV対応という、防磁構造のユニットを採用したモデルが散見されるが、本来、防磁構造はスピーカーのシステムの基本性能を向上する不可欠の要素であることを認識してほしいものだ。洩れ磁束は、内部の配線、ネットワーク素子、アッテネーターに影響を与え歪を発生する元凶なのである。
●20〜40方円の価巷帯
 内容が充実しており、選択するのが楽しい標準サイズのブックシェルフ型がメインの価格帯である。国内製品の大勢は、CDの驚異的な情報量に対応するための、低歪化に代表される性能向上による、聴感上でのSN比の向上の方向の開発であるが、一部には、音の輪郭をクッキリと聴かせるアナログ派とでもいえるモデルもあるようだ。
 DS2000は、強烈なインパクトこそ受けないが、新開発ユニットをベースとした内容の濃い製品。使いやすく、誰にでも高性能を基盤にしたバランスの良いハイディフィニッションな音が楽しめ、完成度の高さは同社製品中で文句なしにトップだ。飛躍的に完成度を高めたS9500DVの柔らかく豊かな低域。未完の大器らしい凄さのあるZero−FX9。木目仕上げが魅力のNS1000XWなどの新製品に注目したい。S955IIIの爽やかさ。SX10のソフトドームならではのしなやかさと、アンティークなムードも個性派の存在。玄人好みのDS1000。伝統的タンノイの魅力を凝縮したスターリングも使いたいシステム。
●40〜80万円の価格帯
 ペストバイの感覚からは少し離れた価格帯の製品で、ジックリ聴き込んで選択をしないと後悔を残す個性派が多い。現代的な高密度ハイデイフィニッション型では、DS3000が最右翼の存在。さりげなく高品位の音楽を楽しむためには901SS−W。少しメカニカルなイメージを求めれば901SSだ。実感的なバリュー・フォー・マネーならタンノイに限るし、個性派には、QUAD/ESLだろう。目立たぬがベストバイに最も相応しいのがMONITOR1である。また、NS2000の美しい仕上げもヤマハならではのものだ。ベスト1は、唯一の鋳造磁石採用の磁気回路をもつ2S305だ。最新のCDプレーヤーで一度は追込んでみたい製品。
●80〜160万円未満の価格帯
 上位5機種は、傾向は大きく異なるが、正確な目的さえ持っていれば、長期間にわたり充分に楽しめるシステムである。締切り後に聴いた製品ではDUETTAがドライブしやすく一聴に値する。

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