菅野沖彦
ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より
いつものことながら〝ベストバィ〟の選出の基準について書くのに苦労する。ベストバイ……つまり、お買徳、最高の買物……などといった意味は、実に複雑な多面性をもっているからだ。それぞれのジャンルについて選出の基準を述べよという編集部の注文は、それでも毎年同じように続いているのである。それぞれのジャンルという言葉を使いながら、価格帯の分類まではいっている。価格帯によっては、選出の基準がちがってもいいということなのか? 僕自身にもよく解からないのである。
スピーカーのジャンルでは、20万円未満から160万円の価格帯に分類されているが、選出の基準は、この事実からだけでも大きく制約を受ける。安くてよいものという基準はまず成り立たない。最高品位のものというのもおなじく成り立たたない。
価格帯別に基準はふらつくわけで、ジャンルでくくって、確固たる基準を述べることは不可能である。いわば無理難題であるわけで、この種の企画に共通の矛盾を含んでいることをまず申し上げておきたい。結論を言えば、率直にいって基準などという厳格なものは僕の場合にはない。述べれば述べるほど矛盾を生むことになって、やり切れない。観点とか基準とかいう言葉は曖昧であったり矛盾と流動性を含んでいてはナンセンスである。近頃、あまりに安易にこうした言葉が使われ過ぎる。もっともらしくて恰好いいのだろうが、本当は恰好悪いのである。
僕の場合どう考えても、よくいえば柔軟性をもって総合的に価値を見当して、〝よいもの〟を選んだということになるが、悪くいえば、どうもまんべんなく選んだようにも思え、改めて、後味の悪い思いをしながら反省しているところである。数の制限もあってのことだから、こうなるのもやむを得なかったのだが、いずれにしても選出というのは骨の折れることである。
スピーカーの低価格帯域のベストとして選んだのはB&OのCX100である。小型で使用条件の限定を受けるが、何より、その音とつくりのセンスの高さが抜群だ。小型ながら、その高貴さ故にベストワンとした。他に外国製ではスウェーデンのラウナの〝ティール〟、セレッションのSL6など素晴らしいものがたくさんあるが、能力としてはこのランクでは国産のほうが高い。特にケンウッドLS990AD、オンキョーD77、ヤマハNS500Maなどのように選にはいったものはもちろん、選外にも優れた特性と能力をもったものが多数ある。しかし、音の品位、表現の説得力となると今一歩のものが多いのである。
20〜40万円のベストワンはボストンアコースティックA400であるが、このスピーカーの素直でありながら、豊かな情感を伝える能力、価格も含めた製品としてのバランスのよさは高く評価したい。国産ではダイヤトーンのDS2000、コーラルDX−ELEVENが充実している。CP的には外国製品を大きく上廻ることはいうまでもない。ユニットの作り、エンクロージュアの密度の高さなど、同じ価格で比較すると、国産品の充実は外国製を圧倒している。しかし、ハーベスやスペンドールの、あるいは、タンノイの音の味わいや魅力には欠けるのだ。
40〜80万円では異例といってもよい国産のベストワンをあえて選出した。ダイヤトーンDS10000である。この音の美しさは、遂に世界的なレベルに達したように感じられる。それも、日本的な緻密で繊細さを極めた音であって、海外スピーカーのもつ味わいに追従すするものではない。技術のオリジナリティも他に類例のないアイデンティティをもっているものだし、作り手の情熱の感じられる作品としての表現力が力強い。他はすべて、このランクになると海外製品になった。JBLの新製品4425は、いかにもJBLらしい鮮鋭さと精度の高い音像再現性をもった素晴らしいもので、その発音の基本的性格が他の製品に聴けない独自の明るさとエネルギーに満ち溢れているスピーカーシステムだ。タンノイのエジンバラの重厚な風格、B&O/MS150−2のモダニズムの精密さ、ボーズ901SSのオリジナリティと長年にわたるリファインの成果は、いずれも明確なアイデンティティと魅力を持っている。
80〜160万円ではJBLの4344が、圧倒的に安定したリファレンス的サウンドで好ましい。頼りになるシステムだ。
160万円以上では、ユニークな技術的特色と、熟成した音の魅力で独自の世界を創ったマッキントッシュのXRT20の姉妹機XRT18を選んだ。重厚にして柔軟だ。
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