Category Archives: フェログラフ

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 おだやかで、おとなしく、永く聴いて聴き疲れのしないバランスの良い音がする。言いかえれば近ごろの国産スピーカーのよく鳴らすような、聴き手を驚かせるような鮮明さはないし、アメリカのスピーカーのあのハイパワーでどこまでも音がよく伸びるダイナミックな快さとも違う。やはりこれはヨーロッパの音だ。国産スピーカーの音が何機種か並んだあとに、この音が鳴るとなおさらそう思う。かなり寿命の長いスピーカーだが、ごく初期の製品の聴かせた、あのシャープで恐ろしいほどの音像定位の、ことに空間のひろがりの中にソロがピシッと定位するあの鳴り方は、その後の製品からは聴きとれなくなってしまったのが何ともふしぎなだが、反面、その当時の製品では、高域端(ハイエンド)に明らかにクセがあったし、中域など少しおさえすぎて、イギリスの少し前の世代のスピーカーに共通の高低両端の誇張されすぎたバランスだった。ここ数年来のものは、その点バランスがよくなって、しかもバルバラのシャンソンのレコードなどで、旧製品ほどとはいえないにしてもその雰囲気の描写はやはり見事だ。ただ、能率がかなり低く、しかもハイパワーを加えると音がつぶれる傾向があるので、平均音量としては90dBまでがいいところ。高域のソフトドームの特徴であるアタックの丸い音なので、新しいポップス系のレコードの切れ味の面白さはやや不得手なタイプのプログラムソースといえる。

フェログラフ S1

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、いきいきとひびく。
❷スタッカートは、重さを強調せず、ひろがりを示して好ましい。
❸各々のひびきの音色的な特徴をよく示している。
❹低音弦のピッチカートがふくらまないのがいい。
❺迫力には幾分とぼしいが、しなやかなひびきがいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは、音像が小さく、軽いひびきで示される。
❷各々のひびきがきわめてさわやかに、音色対比充分に示される。
❸室内オーケストラのひびきの特徴をすっきり示す。
❹細身のひびきでさわやかに提示する。
❺鮮明だが、音にもう少し力があってもいいだろう。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像がほどほどで、セリフの声にわざとらしさがない。
❷接近感が無理なく、誇張感なく、自然に示される。
❸楽器と声との、小味だが、バランスのいいとけあいが好ましい。
❹はった声がかたくならないのはいいが、もう少し前にでてほしい。
❺オーケストラと声とのバランスがいいため効果的だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶横一列にすっきりならんでいるのがよくわかる。
❷声量をおとしても言葉は不鮮明にならない。
❸声に自然なのびがあるために、細部の表現も無理がない。
❹ひびきに一種の軽やかさがあるためだろう、明瞭だ。
❺しめくくりは、ポツンと切れることなく、のびている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、,音場的対比がよく、無理なく示される。
❷奥へのひきもよく、ひろがりを獲得できている。
❸ひびきの身軽さが、ここでこのましく示される。
❹ひびきの流れがとどこおることなくひろがる。
❺幾分力不足ぎみだが、一応の効果はあげる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶透明感をもったひびきがすっきりと後にひいている。
❷ギターの音像が小さめに、くっきりと示される。
❸ひびきがふくらみすぎていないのがいい。
❹さわやかに、すっきりと、効果的にひびく。
❺他のひびきの中からその存在を主張する。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ほっそりしたひびきで、このサウンドの特徴を示す。
❷厚みはあるが、さわやかさを失わない。
❸ひびきは充分に乾いていて、効果的だ。
❹ドラムス、声、いずれも望ましくきこえる。
❺声の重なりがよく示されて、有効だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感ゆたかとはいえないが、シャープな反応がいい。
❷くっきりききとらせるものの、誇張感はない。
❸きこえなくはないが、特に特徴的とはいいがたい。
❹こまかい音の動きを、くっきり示す。
❺音色的、音像的、音量的対比に不自然さはない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力感に不足するものの、シャープなつっこみはみごとだ。
❷ひびきのコントラストが充分についている。
❸一応の効果はあげるものの、特にきわだってはいない。
❹音の見通しがいいために、トランペットは有効な働きをする。
❺リズムの提示がはなはだシャープだ。

座鬼太鼓座
❶尺八は充分にへだたったところからきこえてくる。
❷ひびきに脂っぽさはないが、特に秀れているとはいいがたい。
❸かすかな音できこえるが、特徴的ではない。
❹大きさは感じさせないが、力感はある。
❺はなはだ効果的にひびいて、雰囲気をたかめている。

フェログラフ S1

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 イギリス・フェログラフ社は、テープレコーダーでその名を知られたメーカーであるが、同社が開発した傑作スピーカー・システムがこのS1である。ウーファーは楕円型のプラスティック・コーン、スコーカーが10cm口径のコーン型、トゥイーターはドーム型である。エンクロージュアはバスレフ式で、きわめて現代的な美しいプロポーションと仕上げを見せる。すっきりとのびる高域を低域が豊かに支え、大変品の高い再生音が得られる。

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 過去多くの機会に私は紹介したが、今回の試聴では、初期のものからみると音の傾向が少し変っている。以前の製品では、中域を抑えすぎるほど抑制して、低音と高音の両端をやや強調するという、イギリスの製品に多いバランスで聴かせたが、今回聴いたものは、高・低両端をむしろ抑えて中域をかなり(といってもイギリス製にしては)張り出させて、総体にやや硬い傾向の音質になっていた。中程度の音量で鳴らす限り、音域全体に緻密さが増して、以前のようにやや上澄みが強調される感じあるいは高域にこなれない鋭さのあったところが改善され、クリアーでしっとりした印象が出てきた。ところが反面、左右に思い切り広げて設置したとき、たとえばソロイストが中央におそろしいシャープさで定位する、あの薄気味悪いくらいの雰囲気が一歩後退したところが私には少し残念だ。とはいってもこの製品の鮮鋭な雰囲気描写と解像力のよさは、やはり特筆の部類に入ると思う。背面は壁から離して設置し、解像力の優れたカートリッジを組み合わせる。

採点:91点

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 聴きようによっては、いわゆるドンシャリすれすれのような特異なバランスだが、音像定位のシャープさ、音色の独特の魅力、デザインの美しさ、ともかく捨てがたい製品。

フェログラフ S1

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 英国の近代的モニターシステムの系譜をふむ特長のあるシステムであるか。パワーのあるアンプを使い、比較的近い位置で聴くときの独特な澄んだ音と音場感は素晴らしいものだ。

フェログラフ S1

井上卓也

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 いわゆる英国の音がもつ伝統を守りながら新しい英国系モニタースピーカーは大幅なグレイドアップをなしとげたようだ。比較的小型で奥行きが深いプロポーションをもち、拾い周波数レンジと能率が極めて低いことが共通な特長といえよう。S1システムは、バランス上、やや高域と低域の周波数レスポンスが少々する傾向をもつが、ステレオフォニックな拡がりと、定位の鮮明さに優れる。格調が高く緻密な音は素晴らしい。

フェログラフ S1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ほかのスピーカーにちょっと類型のないほどのシャープ音像定位が、このスピーカーの第一の特徴である。左右に思い切り拡げて、二つのスピーカーの中心に坐り、正面が耳の方を向くように設置したとき、一眼レフのファインダーの中でピントが急に合った瞬間のように鮮鋭な音像が、拡げたスピーカーのあいだにぴたりと定位する。独特の現実感。いや現実以上の生々しさか。デザインのモダンさも大きな魅力。