Category Archives: ターンテーブル

マイクロ SX-8000II System

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

超重量級ステンレス・ターンテーブルを中心に、アナログプレーヤーの理想形を集大成したピラミッド的存在。エアフロート軸受とディスクのエアー吸着を中心としたベルト駆動方式の成果は、まさに地に足が着いた音が聴かれる。重量級だけに設置場所の選択と設置方式で、音はいかようにも変る点に注意。

マイクロ SX-8000II System

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

超重量級のステンレス製ターンテーブルはエアフロートベアリングで支持され、ディスクは空気吸引でターンテーブルに吸着される方式。音溝に刻まれた信号のみを何物にも妨げられずに拾い出そうとする設計方針の確かさは、常識を超えた確度の高い音で実証されている。少々、テンションの高い傾向はあるが、実に濃い音だ。

オラクル REFERENCE + エアータンジェント AIRTANGENT II

早瀬文雄

ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より

 オラクルにはエアータンジェントのリニアトラッキングアームを搭載した。かなりメカニカルな、精密機器的な雰囲気が強調される。マイクロと見比べると、なんともシュールな感じがしてくる。なんでもかんでも重くすればいいといったマイクロのパラノ的世界とは、とにかく行き方がまるで違って、もっと『芸』がある。エアータンジェントのアームとの組合せでは、なんともスキゾチックなムードが漂うが、いわゆるシステムとしてデザインされたものではないから、余計にこうした印象が強いのだろう。予想に反して暖かさを感じさせる響きは、SOTAに比し制動感、フラット感があり、オーディオ的には情報量も多い印象だ。ここでも、オフセットアームにはないよさがある一方、垂直トラッキングエラーの調整如何では、音場感が相当に損われることがあるから、要注意だ。そして、ひとたびピントがあってくると、けっこうシャープでありながら、響きにアメニティ(快適性)をもった、都会的洗練があることがわかる。『日常』に疲弊した現代人にはこうした優しい響きがもとめられているのだろうか、同様に穏やかでくるみこむような音場を作ってくれる平面型スピーカーとこうしたシステムがよく組み合わされ、論じられるもあながち心情的にはかなったものと思えた。
 ここで聴けた音場は全体に多方向から白色をあてたような感じで音像を浮かびあがらせ、埃っぽさがない。いいかえると陰影感の薄い、白っぽさがやや人工的な感じだが、これは使用するカートリッジとの相性の問題があるのかもしれない。音の輪郭はくっきりしているし、音の粒子間にただよう空気もクリーンだ。色彩感の表現は、パステル調というよりはエナメル調で、つるつるした感触がある。こうした感触は、エアーベアリングを採用したリニアトラッキングアームに共通する特質なのかもしれない。

マイクロ SX-8000II System

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 現在では完全に開発不可能な超弩級アナログプレーヤーが生産されていることは、アナログディスクファンにとって素直に感謝すべきであろう。超重量級ターンテーブルを空気軸受で浮かし、ディスクを吸着する機能は、究極の方式として現在に至るまで前人未到の頂点を極めた設計である。生産続行を切望する超弩級機だ。

トーレンス TD520RW/3012R, TD318MKIII

井上卓也

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より

 ヘルマン・トーレンスがオルゴール製造のためにトーレンスSAを創立したのは1883年で、その後、蓄音器、ハーモニカ、電磁型ピックアップ、電気式レコードプレーヤー、トラッキングエラーレス・ピックアップ、ラジオから業務用円盤録音機、SP用オートチェンジャーなどを順次開発。60年代になるとEMTフランツ社と共同出資の形態をとるようになった。
 オーディオファンの間で一躍注目されるようになったのは、57年のTD124ベルト・アイドラー型フォノモーターの登場からだ。本機は、当時リファレンスとして評価の高かった英ガラード社の♯301アイドラードライブ型に比べ、圧倒的にワウ・フラッターが少なく、静かなターンテーブルとして究極のモデルといわれた。現在でも、現用モデルとして、愛用するファンは多いと思う。
 以後、TD124のオートチェンジャー版、ターンテーブルを非磁性体化したMK2と続くが、この当時が世界の王座に君臨していた栄光の時代であり、80年代のトーレンス・リファレンスが超弩級機としての頂点であろう。
 TD520RW/3012Rは、16極シンクロナスモーターを電子制御で使うダブルターンテーブル型ベルト駆動アームレスプレーヤーTD520RWに、ロングサイズのSMEの3012Rトーンアームを組み合わせたモデル。さすがにメカニズムの見事さは抜群で、要所を絶妙に押さえたトータルバランスの良さは感激ものだ。現代のリファレンス機として、アナログならではの音を楽しみたいときに、最も信頼性の高い素晴らしいシステムだ。セオリーどおりに微調整すれば、想像を超えた音が楽しめ、軽針圧型から重針圧型までのカートリッジとの対応性も穏やかである。
 TD318MKIIIは、同社の技術をベーシックモデルに結集した快心作。このところのアナログディスクの復活に的を絞った、素晴らしく良く出来た音の良い注目の新製品だ。

マイクロ SX-8000II System

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 35kgの本体と、28kgのターンテーブル。つまり計63kgの重量級レコードプレーヤーである。そして、何よりも大きな特徴はターンテーブルがエアーフロート方式であることだろう。重量級のハイエナーシャ・ターンテーブルの安定した回転は高音質に有利であるが、これを静粛かつ長時間の耐久性を保証して回転支持することは容易ではない。エアーフロートにより非接触で支持する方法は理想的で、これをエアーベアリング方式という。
 摩擦はなく、機械振動によるノイズの発生も少ないし支持部の摩耗も心配ない。これに加えてこのプレーヤーはディスクをエアーでターンテーブルに吸着する方式を採用した。これは音質上、必ずしも有利とばかりは言いきれない難しさを抱えているが、この辺りを長年のキャリアーで巧みにコントロールしたことがロングライフにつながったのであろう。平面性の点では強力に吸着するのがよいが、ターンテーブルと一体化すれば、それで音もよくなるとは単純に言いきれない。
 このプレーヤーは聴感上のS/Nがよく、バックグラウンドが安定静粛でローレベルが透徹している。エネルギーバランスは妥当で、しっかりした造形感が得られる。音にウェイトがあり聴き応えがある。シェリングのヴァイオリンの音触は高域の肌理が細かく刺激感がなく美しいが、もう一つ繊細な切れ味がほしい気もした。無い物ねだりではあるが……。
「トスカ」では、ボトムエンドの伸びによりスケールの大きいステージが展開。滑らかな高音域により汚れのないトゥッティが楽しめる。「エラ&ルイ」のモノーラルは、実にすっきりして位相のよさを感じさせた。ジャズも重量級プレーヤー独特の安定感で、ベースは太いが高密度の充実したサウンドである。心配なのは長年の使用上の安定度と信頼性だが、柳沢功力氏の愛用品であるから問題はなかろう。BA600防振ベース上にセットされた姿はさすがに立派である。

イメディア RPM2AL + グラハム・エンジニアリング Model 1.5t

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 現代的なアナログレコードプレーヤーである。その素材がそれを物語り、アクリル素材を用いた複雑なサンドイッチ構造材と、スプリングなしのハードサスペンションという特徴をもつ。アナログプレーヤーには思想がある、と他の項で述べたが、この思想の違いが音の違いとなって表れるから、これはまた、音の嗜好や感性の違いといってもいいだろう。
 このメーカーは、柔かいスプリングのフローティング構造を嫌う。しかし当然、ハードなサスほど置き台やフロアーなどの環境の影響を受けやすい。本体の素材のQのコントロールや、ダンピングだけでは外部からのダイナミックな影響は避けきれないとするのがソフトサスペンション派の主張だ。しかし、音触やエネルギーバランスのコントロールは、たしかに、この製品のようなハードサスの方がすっきりいく。
 だが、ストイックにこれを押し進めるとリジッド派に至る。そうなるとすべてのバネとダンピングを否定し、Qの分散も嫌いひたすら剛性や振動速度の世界に狂い、自身の設計を過信し、結局、強烈な物性の持つ固有の音に判断力を奪われ、その特異な音ゆえに、その製品の音を唯一無二の孤高の品位と思い込むのである。
 話がそれたが、このプレーヤーはもちろん、そんな偏向性の強いものではない。オプションにエアーサスペンション・ベースがあることからも設計者のバランス感覚が理解できる。楽音の自然さとリアリティがよく再現され、エネルギーバランスも妥当である。エアーサス使用では、さらに音の品位が向上し、シェリングの音が見事に蘇るのである。外部環境からフリーになるこの効果は大きい。通常の試聴条件では、置き台の固有音響特性で若干不明瞭になる
のがわかる。組み合わせたトーンアームはグラハム・エンジニアリング製。プレーヤー本体ベースはSMEとも互換性をもつようだ。

SME Model 20MK2 + SeriesIV

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 SMEのロバートソン・アイクマンがアナログオーディオ界で果たした功績は偉大である。シェル交換式ユニヴアーサル・トーンアーム3009、3012は世界中のトーンアームの範となった。しかし、オルトフォンとともにその4ピンのカートリッジ・シェル交換システムの提唱者自らが、後に理想としたトーンアームはインテグラル。そのシリーズVの性能をフルに発揮すべく開発したレコードプレーヤーが、独自のゼロQ理論のサスペンション構造によるモデル30であった。
 その後、普及タイプとして発表されたのがシリーズIVトーンアームであり、モデル20プレーヤーである。現行製品はそのモーターと電源部をリファインしてMK2になっている。さすがにモデル30は作りも凝っていて高価であり受注生産だが、このモデル20はカタログモデルだけに、構造的にも簡略化して、特徴を維持しながらコストダウンを図っている。
 独特のダンピングのためと思われる音触感にまず気づいた。「クロイツェル・ソナタ」の楽音より、バックグラウンド・ノイズが超低域の伸びのせいか他のプレーヤーと違う。シェリングのヴァイオリンは、粘りのある温度感の高い音にやや戸惑う。いい音ではあるが、もう少し鋭く透徹ではないか? という気もした。ピアノも温かく弾力感に富んでいて官能的だ。SMEの音といってよいものであろう、その厚味のある立体感は説得力をもっている。
「トスカ」もそうだ。どっしりと安定感のあるエネルギーバランスで、弾力性のある立体的な質感である。多彩な音色は変化に富み、支配的な色づけはないのだが、質づけ? とでもいったらいいような、独特の音触世界がある。オルトフォンのSPUの世界も、色ではなく質に独特のものがあるのではないか? と思うのである。この辺がきわめて興味深く、オーディオ的であると思うのだ。とくにアナログ的魅力の世界ともいえるだろう。

リン LP12 + Ekos + Lingo + Trampolin

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 イギリス製品の多い、アナログプレーヤーだが、これもイングランドではないがスコットランド製であるから、メイド・イン・UKである。そのなかではもっともキャリアーの長いプレーヤーだ。そもそも、このメーカーはアナログプレーヤーの製造販売でスタートした会社で、このLP12は基本的に約20年前の誕生以来のロングセラーモデルである。
 最近のアナログブームとは無縁の、気骨のど根性製品で、回転シャフト周りなどの若干の変更だけでこの長寿を保ってきた。見事なものである。今回の試聴には、電源部やベースのオプションをフル装備したものが用意されたが、ベーシックのLP12との価格の違いが開きすぎるように思う。つまり本体価格は27万円でこれに最低限必要な電源部とベースが4万8千円で42万円弱のカートリッジ・レスのベーシック・モデルに対し、フルオプションのトータル価格は同じくカートリッジレスで91万8千円となるので2倍強である。少々常識を欠いたオプション設定と言わざるを得ない。
 このプレーヤーのよさは実質価値にあり、贅沢な趣味性はない。しかもフルオプションにしても、見た目はほとんど変わらない実質主義に徹しているのである。さらば、音が3倍の出費に見合うほど改善されるであろうか? その期待をもって聴いたのだが、これがリンにとって裏目だった。ベーシックモデルでこそ絶賛ものだが、100万円のプレーヤーとしては当たり前という感想である。
 たいへん優れた再生音で、腰と芯の座った実感溢れる質感と妥当なエネルギーバランスが、どのディスクにも高水準の再生音として聴けたけれど、ベーシックでもこの水準をそれほど下回るとは思えない。はっきり言って、割高感があるのである。この製品の能力と音のよさは評価するが、機械としての高級感やデザインセンス、素材、加工精度、仕上げなどの魅力は100万円のものではない。

スタービ Reference

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 スタービはスロヴェニアのメーカーである。かつてのユーゴスラビア製というわけである。このブランドの製品に身近に接するのは久しぶりであるが、昔の同社製品とは随分変わったように感じた。アナログ関連製品には、仕事上で接する機会が少なくなっているためだろう。個人的楽しみとしてはアナログからは離れていないのだが……。
 このリファレンスモデルはユニークな2モーター式で、なかなかに重厚な製品だ。アクリルとアルミニウムのサンドィッチパネルをベース素材とするもので、往年のウッディなムードからすると随分現代的になった。しかし、全体の雰囲気は朴訥と言いたいほど素朴な温かさに満ちている。アクリルの透明感は表に出ていない。メインシャーシにレベル調整機能を兼ねて懸架されるサブシャーシの表面には、アクリルは見えない。両ボードとトーンアーム・マウント・ボードの断面にだけそれとわかる質感が見てとれる。
 この点からしても、アクリルのもつ物性だけがスタービにとっては重要で、見せる意図は全くない。デザイン上の効果として、これ見よがしにアクリルを使ったプレーヤーとは製作者の人間の違いを見るようで興味深い。どちらを選ぶかでユーザーの人柄もはかれそうである。
 シェリングのヴァイオリンの音は、毅然たる演奏姿勢が表現されながら、柔軟性のあるしなやかな音触が得られる。やや脂の乗りすぎる嫌いもなくはないが。往年のフーベルマン的音蝕も聴かれるほどだ。ピアノも豊満で円熟した感触だ。しかし和音のヴォイスは確かでアコードのバランスは妥当。大編成の「トスカ」は分厚いソノリティが魅力的で、懐の深いサウンドイメージである。
 透徹ではなく、肉感的であり官能的で、コントラ・ファゴットやコントラバスが魅力的だった。それでいて、ジャズのベースはブーミ一にならず適度に締まってよく弾む。

アインシュタイン Edison

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 同社はプリメインアンプやスピーカーシステム同様、いかにもドイツ製らしい堅実さとオーソドックスな体質で信頼性の高いメーカーだと思う。カートリッジが発売済みであり、このプレーヤー(トーンアームレス)の登場で総合メーカーの感を強めるに至った。
 これはターンテーブルがマグネット・フィールドによるフローティング構造であるところが特徴である。かつて『マグネフロート』の名称で、この方式のプレーヤーが国産であったのをご記憶の方もおられるであろう。アインシュタインではこれを『コンスタント・マグネティック・フィールド・ターンテーブル』と称している。フローティング・サスペンションとの併用で、駆動はベルト方式。
 SME3010Rトーンアームによる「クロイツエル・ソナタ」のシェリングのヴァイオリンの音は、しっかりした質感を聴かせる。演奏の特質がよく伝わる。ピアノのアコードは、エネルギーバランスが整っているため安定した造形感であるし、バックグラウンド・ノイズも落ち着いていて好ましい。マグネティック・フローティングとサブシャーシのサスのバランス・コントロールはよい状態である。フローティング式としては切れ込みもまずまずで、「トスカ」の複雉多彩な編成もよくこなす。汚れ感は少ないし、耳馴染みのよい高音域である。
 欲をいえば、ブラスの輝きやグランカッサとティンパニの音触分離などに明噺さがほしい気もするが、それが得られた時には鋭角で刺激的、時に冷たい温度感がおまけに付いてくる危険も覚悟しなければならないだろう。オーディオ機器とはそういうものである。妥当な再生音というものはバランスのよさから得られるものであり、エキセントリックな魅力と両立しない宿命がある。どちらを取るかは人格と哲学の問題である。アインシュタインがオーソドックスなメーカーだと冒頭で言ったのは、この普遍性に立つからだ。

ロクサン XER-X + AMZ1

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 これもイギリス製。ロクサンは、こだわりメーカーの最右翼であるが、本機はその創業10周年記念モデル。ベースボードの構造を改良し、さらに制振性を向上させた新製品である。一見しただけではわからないが、大変凝った作りだ。フィニッシュは従来の黒のピアノ・フィニッシュの方がロクサンらしく精悍でいいと思う。この木目仕上げは平凡なイメージだ。
 しっかりした造形感と自然な質感、そして妥当なエネルギー・バランス・コントロールを備えたプレーヤーである。音触は温かく、しかも間接音はよく響き、透明で美しい。以前のモデルより低音域が適度に緩み、大人っぽい音になった。シェリングのヴァイオリンの質感は妥当。ピアノは硬からず柔らかからずで、自然なタッチだ。「トスカ」では豊かなオーケストラの低弦が印象的で、これ以上になると緩み過ぎの感じであった。
 したがって、楽器の胴鳴りを聴かせ温かく自然で快い一方、明晰さと精緻さではウィルソン・ベネッシュに一歩を譲る。同じイギリスだけによきライバル同志だ。ウィルソン・ベネッシュはプレーヤー本体が10万円安く、逆にトーンアームは5万円高いが、トータルサウンドでは2台のプレーヤーに優劣はつけ難い。ユーザーのテイストの選択に待つ他はない。すんなり付くか付かぬか試していないので不明だが、ロクサンのプレーヤーとウィルソン・ベネッシュのトーンアームとの組合せは、面白そうである。
 どちらも素晴らしい再生音が楽しめたヴィヴィッドな「ベラフォンテ」のライヴ盤を例にとると、その空間の温度感が、ロクサンが摂氏22〜24度、ウィルソン・ベネッシュは18〜20度といった感じである。スタイラスのトラクションに関してはウィルソン・ベネッシュのATC2トーンアームが断然上である。ただし、あくまで今回試聴に使ったオルトフォン・カートリッジでの話であることをお断りしておく。電源部のアップグレードは価格ほどの御利益はないようだった。

CEC FR-XL1

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 半世紀近いアナログプレーヤー作りの実績をもつCECが、総力を結集して作り上げた記念モデルと同社では謳っている力作だ。長年のキャリアとアナログ機器への情熱は貴重なもので、日頃から同社の存在には注目していた。
 この製品も昨年秋には見ていたが、実際にじっくり聴いて多数の他製品と比較してみて、若干、印象が変わったことは否定できない。残念ながら、これは精密機器と呼べる精度は備えていないと思う。回転シャフトの軸受け部や、トーンアーム・ベース、全体の仕上げ精度などはメカの好きな人なら少々雑な印象を受けるはずである。これは指摘しておかないと私の眼が疑われる。加工のしにくい材料なのかもしれないNFセラミック部はさておいても、金属部はこれでは趣味の高級品とは言い難い。クロームメッキ部分も下地の荒れにより鏡面が荒れている。
 Y字型の3点支持構造のフローティング・シャーシ・ダンピング機構と減衰特性に優れたNFセラミック材の採用で、高水準の制振特性をもつマニア度の高さは評価できるし、実際の再生音でもそれが確認できた。その思想は70〜80%達成され、並みの水準を越えるパフォーマンスであった。フローティングとダンピングはよくコントロールされ、エネルギー・バランスは妥当だ。いかにも日本製らしい抑制の利いた、まとまりのよいバランスだ。やや高域が抑えられ気味ではあったが、複雑な波形再現もよくこなす。ただ、初めに用意されたテスト機が不調であったため代替機の出番が最後の試聴となり、EMTの後の試聴になったのが、相対的に不利になったかもしれない。
 価格的には全試聴機器17機種の下から8番目である。しかし、この力作を生み出したCECの姿勢は立派だし、これでもう一つセンスが高ければ、あるいはコストを有効にかけていれば、真に祝福される40周年記念モデルとなっていたであろうにと、わずかに悔やまれるのである。

ウィルソン・ベネッシュ ACT1/RC + ACT2

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 イギリスの新進メーカーのデビュー作品である。F1レーシングカーのボディ素材である、軽量高剛性材のカーボンファイバーをサブシャーシやトーンアームに使い、当然、設計思想も現代的な一貫性をもつアナログプレーヤー。真の意味で新しいアナログプレーヤーといえるものだろう。しかし適度なダンピングとフローティング構造、そしてベルトドライブ方式という伝統的手法のよいところは残している。電子クラッチ式のクォーツ・コントロールド・モーターによるスムースで確実な起動など、使用フィーリングにも細心の配慮が見られるものだ。
「クロイツエル・ソナタ」のシェリングはもっともシェリングらしい音の聴けたプレーヤーであった。ウェットに過ぎず、かといってけっしてドライでもない、毅然とした精神性をもつ確かな手応えのある音である。ヘブラーのピアノのアコードのヴォイシングも、オプチマムなバランスと言ってよい決まり方であった。
 トーンアームの優秀さによって、スタイラスのトラクションの確実性が、高音域に於て、いささかの拾いこぼしもない精赦な波形再生とS/Nの優れた透明感を聴かせる。「トスカ」の複雑な独唱と合唱、オーケストラの多彩な音響の綾も見事に再現。低域コントロールとボトムエンドの伸びにより臨場感も大変豊か。声の質感も、細かい倍音再現能力により実に精緻だ。アナログ的サウンドを、人肌にしなやかな温かい音と決め込んでいる人には勝手が違うかも知れない。
「エラ&ルイ」は、他のプレーヤーよりワイドレンジな感じさえするのが面白い。ベースの録音がオーバーな「ロリンズ」も締まった質感でウェルバランスになった。専用のプレーヤー台に設置した方がさらにS/N感が向上し明晰さを増すが、やや温度感が下がり冷たい音になる傾向であった。この台にも、カーボンファイバーが木と組み合されて使われているのは言うまでもない。

J.A.ミッチェル Gyrodec Bronz

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 イギリスにはアナログプレーヤーが多く、さすがに伝統を重んじるお国柄が生きている。このジャイロデックもその一つで、ターンテーブル軸受けとアームベースを強固に一体結合して、3点支柱で吊る構造である。キャビネットはアクリル板で、これが視覚的なこのプレーヤーの全体の印象を支配していてユニークな雰囲気を演出している。
「クロイツェル・ソナタ」のヴァイオリンの重奏音は少々鈍い。温かいともいえるが、やや冴えない印象だ。シェリングの音はもう少しシャープで透徹なはずである。ピアノのフォルテによるアコードは左手のA音がブーミーで太くなる傾向だった。そのため、やはり重い印象となる。システムのf0が比較的高めに設定されているのかも知れない。冷たく痩せるよりはるかによいが、もう少し、すっきりして鋭角な切れ込みがないと演奏の気迫が弱くなる。
「トスカ」でも、この傾向がオーケストラの低音を強調するので、量感は出るがディフィニションは甘くなる。SME3009Rにしては高域が少々荒れるようで、若干汚れ気味でもあった。しかし、この分厚く温かい音感は、音楽の表現を豊かに聴かせる効果につながるので好ましく、物理特性に終始することのない魅力がある。全体の印象を一般的にいえば、いわゆる低音の出るプレーヤーということになる。したがって、中〜小型システムとの組合せでは、効果的と思われた。「ベラフォンテ」のライヴでとくにこれが感じられた。
 今回の試聴ディスクの中でもっとも古いモノーラル盤の「エラ&ルイ」が一番相性がよく、両人の声は帯城内が充実し、ヒューマニティ溢れる歌唱が楽しめた。「ロリンズ」盤ではベース過多がさらに強調され、サックスをマスキングしてしまったし、ベースの音程も不明瞭であり、ワン・ノート・ベース的な鳴り方であった。録音の癖を強調したようだ。

スタービ TT-1000, REFERENCE

スタービのターンテーブルTT1000、REFERENCEの広告(輸入元:オルトフォン ジャパン)
(サウンドステージ 26号掲載)

Stabi

トーレンス TD520RW + 3012R

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム篇」より

 トーレンスは、往年の銘器として世界のトップレベルに君臨したTD124や、そのオートプレーヤー版TD224以来、つねに高性能、高音質かつ操作性の優れたシステムを世に送り続けている。
 TD520RW十3012Rは、アームレスのTD520RWに、トーンアームにSMEの2Rを搭載し、エレクトリックコントロールのアームリフトを組み込んだ、カートリッジレスのセミオートターンテーブルである。このアームリフターの装備は、CDプレーヤーの機能性に慣れた現状では、実用上で不可欠な機能である。
 3・2kgの二重ターンテーブルは、シングルターンテーブルと比べ単一の固有共振が出難く、スタート/ストップ時のタイムラグもほどよく充分にコントロールされた結果での重設定であろう。
 同社はトーンアーム、ターンテーブルをフローティングして処理する方法を一貫して採用している。コイルスプリングの選択や、その組合せ、またリーフスプリングを使う現在のサスペンション方式は、長期にわたる熟成期間を経て完成されたメカニズムである。これは上下方向にタップリとしたストロークがあり、前後、左右を抑えた設計で、耐ハウリングマージンが大きい。このタイプの理想に近いコントロールによって、ダンピング量も巧みにコントロールされている。
 SME3012Rは、いわゆるロングサイズのトーンアームで、現状のオルトフォンやデンオンに代表される1・5〜3gの針圧で使うカートリッジを対象とすれば、好適なタイプであろう。設定方法、調整を正しく行なえば、組み合せるカートリッジの音を確実に引き出すだけの能力をもつところが本機の信頼性の高さだ。
使いこなしポイント
 駆動モーターはサーボ型であるだけにAC電源にも気を使いたい。極性をチェックし、アンプのACアウトレットを使わずにアンプ系とは別の電源から取ることが必須条件。

トーレンス Prestige

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アナログプレーヤー/カートリッジ/トーンアーム/その他篇」より

 トーレンスというブランドは1883年にスイスで誕生している。こんなに古いブランドで現役のオーディオ製品に生きているものは他にないのではないだろうか? しかも、その製品がオルゴールというのだから、当時の機械式音楽演奏装置ということでは現在のオーディオシステムと共通のカテゴリーのものである。エジソンのフォノグラフ発明は1877年、ベルリナーのディスク式グラモフォンが1887年の考案だから、このブランドがいかに古く伝統的なものかが推測していただけるであろう。時代の変化のために決して隆盛とまではいえないにしても、現在までトーレンス・ブランドは脈々と継承され続けてきたのである。これこそ名門という言葉で呼ぶ以外にあるまい。トーレンス家が現在何代目に当るのか? 現在の当主レミー・トーレンス氏に聞きそこねているが今度会ったら是非聞いておこう。オルゴールから蓄音器、そして現在のプレーヤーシステムに至るトーレンスの歴史は、そのままオーディオの歴史の教科書のようなものである。そのトーレンスにとってCDの出現は大きな出来事であったに違いないが、一貫してアナログプレーヤーを作り続けてきた姿勢は、誇りと信念に満ちた毅然とした貴族の精神性を見るような感慨である。苦しい経営面の障害を耐えに耐えているトーレンスに敬意と励ましの気持ちを捧げたい。一流品中の一流品、名門中の名門トーレンスへの敬意の念からも、私も自家用の〝リファレンス・プレーヤー〟を末長く愛用したいと思っている。このリファレンスが発売されたのが1980年、CD登場前夜であった。その名の通り自社製のプレーヤーのクォリティ・リファレンスとして作られたものを一部のマニア用に市販したのが〝リファレンス〟だが、それを元にある程度の量産化を図り、商品化したのが、この〝プレスティージ〟である。物量と全体のバランスの妙で再生音の情感を豊かに聴かせる銘品である。

AR ES-1 + SME 3010-R

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 ハイテクなデジタル世界にはおよそ縁のない、素朴な雰囲気。まるで、均質化に向かうハイテクの冷たい軽さをさりげなくかわしているようなその風貌。ユルユルと回るディスクに、そっと針を落とす。懐かしいサーフェイスノイズはソフト。響きには、とろっとした、あぶらの乗った落着きがある。角を立てない中高域、ウォームグレイなニュアンスのある中低域。アルゲリッチも、リラックスした響きになる。クレーメルさえも、クールな佇まいをひっこめて、穏和なあたたかみを見せている。フィッシャー=ディスカウの力のこもった声も妙にりきんだり、硬くなったりしない。
 リファレンスプレーヤーのマイクロSX8000IIが描き出す、目前に演奏者が生々しく見えるようなリアリティとは違った落ち着いた雰囲気がある。クールでお上品な透明感を第一義とする向きには不満と苛立ちを残すかもしれない。オーディオライフにおける過酷な過去を、時が過ぎれば、楽しい思い出にしてしまえる練れた人だけではなく、音楽に安らぎをもとめる人にも、これはいい。物理的性能のみに固執するウブな人には、はっきりいって向かないパートナーといえる。

リン LP12 + Ittok LVII

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 よんどころない事情で、あるいは、ついうっかり魔がさして、大艦巨砲型プレーヤーを手放してしまった貴方。押し流されるようにしてCDにいれこんでいる貴方。そろそろオーディオって何だっけ、という素朴な疑問を抱き始めているのではないか。こんな時代だからこそ、このなにげない風体のLP12が、妙に懐かしく、眠っていたオーディオ的帰巣本能が目を覚ます。時代の泡と消えた多くの製品たちに「アデュー」と、そっと呟きながら、流行り廃りの逆風をうけてたつ「リン」の一連の製品。頑固ともいえる個性の一貫性。合理性と執念の見事なバランス。
『謝肉祭』を聴くと、このレコードのプロデューサーの意図が少しずつ見え始める。つまりここでの人選の妙、音色の対比が、なるほど、と納得させられる。
 サーフェイスノイズはややドライでマットなイメージで、刺激性の、ピッチのたかい成分はすくないようだ。音場は適当に拡がり、見通しもいいほうだ。こってりした、まとわりつくような情緒性はなく、むしろ淡白で上品な表現。しかし、アルゲリッチの鋭いタッチでの音の伸びも過不足なく呈示されている。フィッシャー=ディスカウの声もテンションが上がり、色彩感も豊かさを増す。にもかかわらず、けして「過剰」に陥ることがない。時にやや一本調子な響きになることがあるのは、ヤマハ製ラックとの相性に問題があるのかもしれない。ディティールの表現も、樹をみて森を見ず、といった偏向がない。『シエスタ』は予期したほどクールに研ぎ澄まされた感じにはならず、アンプ系のキャラクターとのミスマッチを思わせた。
 以前、リンのワンブランドシステムで聴けた、とびっきり清潔で、まるで鼓膜までもが透明になってしまいそうなほど澄み切った、清冽な響きは、残念ながら今日は聴けなかった。ここがまたアナログの難しさ、面白さでもある。

ヘイブロック TT2 + High Performance

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 ヘイブロックには、今様の希薄な倫理観が生み出すような、表層の刺激をなぞるだけの「刹那的」響きはまるでない。新参者だけに、貴種のおごりもまたない。不器用なほど真面目に作られ、いわば英国流アマチュアイズムにあふれているともいえる。リファレンスプレーヤー、マイクロのような疾風怒濤的パワー感はなく、全体にくすんだ渋さのある内向的な響きで、音場の拡がりは標準的。ハイエンドは軽くロールオフしているように聴け、色彩感や明暗のコントラストも穏やかな表現となる。空気感はあるが、曇り空を想起させる抑制の効いた、沈黙黙考型である。透けてみえるような透明感より、充実感をたっとんだ響き。
 低域の表現力はけっこうあって、重心の低い安定感に身を任せることができる。これが『シエスタ』では曲趣とマッチし、仄暗い哀愁を漂わせるあたり、かなりウェットな性格を持つ。ひとつ間違えるととめどない退屈と紙一重の、鈍い響きになるかもしれず、使いこなしで一つキラリと光る輝きをつけてあげることにより、ナイーヴな暗さを活かして使いたい。音楽を聴く時間をリッチにしたいあなたには不向きだが、ストイックに浸りこみたい人には、静かに、そして長く付き合える製品だろう。オーディオに飽きたふりをして、そっとのめり込みたい人に。

続・「懲りない」アナログプレーヤー──さらに4台 夢と懐疑の先へ続く道

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 時代の激流にあらわれつつ、しかし、そこに存在し続ける──、それは並大抵のことではない。目の前に並んだ4台のアナログプレーヤーたち、それは手垢にまみれた「アナログ」世界から淘汰され生き残った古くて新しい存在。デジャ・ヴュの混沌の中からヌッと顔を出したような、お馴染みの面々。いずれも、トラディショナルなスタイルをキープして、したたかに時空を浮遊するトラッド派の代表たち。ここには、オラクルとエアータンジェント(87号参照)が醸し出していたシュールな雰囲気はない。目新しい時代の先端をいくハイテク技術や「芸」など望むべくもない。それどころか、回転精度、といった、物理的性能において、厳格な管理下にあるCDが当り前になってしまった昨今、電源スイッチを入れる直前、ふと不安がよぎる。「ストロボスコープ」という、懐かしくもシンプルな原始的アクセサリーが「回転精度」なる魔物に素朴で自然に寄り添うことを可能にしてくれる。デジタルテクノロジーがみせる、いわば整然とした響きと表裏一体の殺伐とした気配、孤独な大都会のランドスケープのイメージ──、も好きだが、一方でこの単純にして複雑怪奇なるアナログの、ゆらゆら、曖昧にも全てが感性のループで有機的に結ばれた世界を忘れることはできない。

トーレンス TD321 + SME 3010-R

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 個人的偏見で、わがシトロエン2CVとは異次元の存在たるドイツ車嫌いの僕なれど、なぜかドイツの響きにはひかれるものがある。シーメンスしかり、H&Sしかり。トーレンスは元来スイス産なれど、このドイツ製TD321は一聴して、はからずもドイツの響きを感じさせつつ、「完璧」をひけらかさない「可愛いさ」がある。サーフェイスノイズはさらっと軽く、ややブライト。響きは秋の空を想起させるほど、澄んでいる。
 涼しい表情は「知」が勝った印象で、スケール感こそやや小振りながら、それなりにアルゲリッチの鋭角的な表現もこなしてしまう。引き締まって、凛々しいフィッシャー=ディスカフの口許。奥に素直にひろがる音場。総じて辛口の味わい。暗騒音も、けっこう明瞭に聴かせてしまうディティールへのこだわりもある。チャーネット・モフェットのベースも運指がはっきりしてくる。メリハリがありながらメタリックな付帯音はなく自然だ。さすがにリファレンスプレーヤー、マイクロのドスンと来る本物の重量感はないものの、リズムに乗ってくる反応の速さはある。エモーショナルな激しさは、やや距離を置いて表現してくるクールな面も覗かせた。それだけに、『シエスタ』では、かすかに醒めたところを残したような理知的な響きが、むしろ内向する哀愁を際立たせた。
 軽量級とはいえ、トーレンスは依然としてトーレンスであり、プレーヤー作りの伝統的ノーハウが随所に散りばめられている。ディスクと聴き手のあいだに、より緊密な繋がりが生まれ、使い手の意志に鋭敏に寄り添い馴染んでくれるシステムでもあろう。

SOTA Star Sapphire + EMINENT TECHNOLOGY Tonearm 2

早瀬文雄

ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より

 ステート・オブ・ジ・アートというものものしい命名からは想像しにくい、軽くて小粋な音をもったプレーヤー。音出しが始まって、安定度がたかまってくると、つい先程まで聴いていたステレオサウンドのリファレンスプレーヤー、マイクロSX8000IIとは音の語り口が大きく違うことが、良い意味で明確になってくる。マイクロといえば『高剛性、ハイイナーシャ』の代表的存在。アナログ全盛期の、いわば『究極』、『果て』と思われた存在で、誰もがそう思いこんでいた。だから、私自身、『信じ込んで』無理をして手に入れもした。と言うわけで、今回の4機種のアナログプレーヤーたちの音を実際に聴くまでは、『クォリティ』の『差』を聴く、という視点からみた『期待感』は、はっきり言ってなかった。むしろ、本格的な、CD時代にはいった今、もういちど『アナログ』を、ききかえしてみると、ちがった発見があるやもしれず、その点での興味をもっていたにすぎなかった。
 CDプレーヤー間の音の差の、予想を上回る大きさに妙な感慨をいだいてはいたが、そんな思いを吹き飛ばすほど、アナログ世界の変化量は絶大だった。 SOTAスター・サファイアの音。とりつけられたエミネントの『リニアトラッキングアーム』の音色が色濃く反映しているにせよ、その音にはまさにマイクロの対極をなすような、響きの柔らかさがあった。無論、マイクロから柔らかい響きが出ないわけではない。表現の方法がまるで違うのだ。マイクロには本質的に音の構築性を分析的に聴かせる生真面目さがあって、響きの『重さ』をはっきり提示し、堅い音はあくまでも堅く表現する。つまり、相対的コントラストの結果として響きの柔らかさ、軽さといったものを表現してくる。いいかえれば『正確』なのかもしれないが、やや直截的ともいえる。しかしそれは、ここでの使い方が『リファレンス』としての存在である以上、当然の結果かもしれないが……。したがって当然ソースの荒れは剥き出しとなる。
 一方スター・サファイアは『個性』を強くもっている。見ための印象どおり聴き手の気持ちを優しくしてくれるような、穏やかさ、響きの柔らかさを際立たせるところがある。色彩感の表現においても、ハーフトーンの曖昧さをうまく出してくる。響きに毳立ちはなくスムーズ。ソースの粗はむしろ隠す方向。脂切ったどくどくしさやぎらぎらしたまぶしさもない。反面、堅い音、重い音への対応がやや曖昧になるが、聴き手にそれをあまり意識させないのは、やはり美点でうまく聴かせてしまうからに違いない。まさにその名前のように、『ダイアモンド』ではない、『サファイア』の柔らかさをもっている、というところか。エミネントのアームは『アナログ』の楽しさを堪能させてくれた。なにしろ調整個所が多く、そのいずれを動かしても音はコロコロ変化する。ディスクの内周でも歪が増えないというリニアトラッキング型の特質さえ、下手に調整したのでは活かされない。音場の変化も大きい。

バーサダイナミックス MODEL A2.0 + MODEL T2.0

早瀬文雄

ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「スーパーアナログプレーヤー徹底比較 いま話題のリニアトラッキング型トーンアームとフローティング型プレーヤーの組合せは、新しいアナログ再生の楽しさを提示してくれるか。」より

 存亡の危機にたっている、といいたくなるようなアナログの世界。大艦巨砲時代の終焉とも思える大型アナログプレーヤーの衰退。個人的には、手元にあるマイクロSX8000IIに『かじりつく』しかないと思っていた。アナログを究めるアプローチは、もうこれしかない、疑いを差し挟む余地は無い、そう信じていた。
 バーサダイナミックスのプレーヤーシステムをみた時から、その高いデザインの『密度』に、おや、と思った。VDのイニシャル・ロゴに、このデザインの面白さが象徴されているようでもある。写真では分かりにくい、実物を目にし手にしてみなければわからない独特の雰囲気がある。色も単なる黒ではない。木目仕様もあるらしいが、断然こちらがいい。独立したコントロールボックスの仕上げも丁寧。スイッチ類のフィーリングも繊細。エアフロート、ディスク吸着といったものものしいメカニズムは、巧みにシーリングされ、フラッシュサーフェイスのターンテーブル面などとあいまって、全体に繊細感が漂う。
 一歩まちがえると玩具っぽくなるところだが、ここでは細身の、華奢な女性特有の雰囲気にも似たニュアンスをもちあわせていることで、玩具になり下がらずにふみとどまっている。アームのつくりはかなりしっかりしているにもかかわらず、ゴリゴリした野蛮なところが微塵もなく、やはり繊細。使い手も思わず手つきが慎重になる。このアームには一目惚れだが、かといって、このアームだけをとって、SX8000IIに取りつけてみたいとは思えない。この繊細感がスポイルされてしまう。マイクロには、やはりSMEシリーズVのような、逞しいアームがよく似合う。
 ヒューンというモーターの起動も『唸り』というよりは『囁き、呟き』といった風情。しかし、いいところばかりではない、これはそうとうに神経質で、感受性の鋭い存在だ。ここにあるのは、傷つきやすい脆さと抱き合わせの、緊迫した透明感なのだ。したがって、使いこなしの腕しだいでは、ひどい結果にもなりかねない。繊細微妙な調整を要するところはいたるところにある。が、そうしたポイントをおさえていく過程には、少しずつ響きに、自分の色をつけていく楽しみがのこされている。当初まったくいい印象のなかったリファレンス・カートリッジが、へぇ、ここまで鳴るんだ、と驚かされた。音像はひきしまって低域もふやけたところがない。オーケストラのトゥッティでも『崩れ』を見せない安定度の高さがある。にもかかわらず、響きに強引さがない。あくまで繊細無垢で透明。独特の反応の早さ、鋭敏さが、音楽の官能的な響きをとりこぼさず、しかも上品に表現する。清潔感のある響きは、たんにそこにとどまらず、生まれながらに『あぶない響き』を身につけてしまっている恐ろしさ。ほんのりただようような香気が際立つ。これはいい、こんな世界もあったんだ、全く異なる方法論をもって、マイクロとは違った頂上をめざしている一つの結果だろう。
 CD包囲に囲まれたかにみえるアナログ世界の『水際の楽天地』、ウォーターフロントがここにある。まずいものをきいてしまった……。テフロンのターンテーブルシートの色合いといい、欠点も多々あるが、もうこうなるとあばたもえくぼで、どうやらこのスレンダーで、ストイックな表情をしたコに見事に誘惑されてしまったようだ。