Category Archives: ビクター

ビクター JA-S41

岩崎千明

週刊FM No15(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 ステレオの左右クロストークを改善するのに左右の電源トランスを分けるという従来の手段に対して、電流、電圧変動の大きくなる出力段を別電源とする新しいテクニックを採用して登場したビクターの新しいこのアンプは、その点、大成功を得たといってよい。少なくとも今、市場にある左右2電源方式にくらべて明らかに優れている。フォノ入力を片側外し普通の演奏状態で反村側のスピーカー端子のスピーカーを外して8Ωの抵抗を接いでおいて、フォノ入力のない側のスピーカーからの洩れを確かめればクロストークは誰にでも容易に確認できる。このように実際的に優れたステレオ・アンプとしての基本性能をそなえたS41は、クロストークだけでなく、パワーとか歪みにおいても今までのアンプの常識を完全に乗り越えた性能を持っている最新型にふさわしい強力アンプだ。
 さて、そのサウンドは中音の確かなる充実感に加えて、ややきらびやかで輝かしい広帯域感。それを支える力あふれる低音の迫力。重低域までよく延びた豊かな響きにこのアンプの実力の底力を知ることができる。ステレオ感の拡がりの十分な音場再生は、ノイズの少なささえもかもし出している。高域までクロストークの良い特長がホワイト・ノイズの音像を拡散しているためだろう。
 ロー・レヴェルのこまやかな音の美しさはビクターのアンプの共通的特長だが、この点でもS41は一段と優れ、新型にふさわしい。

ビクター HP-550

岩崎千明

週刊FM No.17(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 ヘッドフォンを愛用するファンも増し、誰もが使用するチャンスが頻繁になってきた。ヘッドフォンに対する要求も「軽く手使いよく」「音がはっきり聴こえる」。その上に「力強い迫力」までも、スピーカーなみに求められるこの頃のことだ。新型ヘッドフォンとなると、こうした時代の流れに応じた諸条件がアピールされることになる。ビクターのHP−550もこうした時代に敏感な新型ヘッドフォンだ。
 たいへん軽いうえに、頭に装着した感じは、帽子をかぶるよりも楽なほどだ。密閉型というけれど、耳をおさえつける圧迫感もなければ、うっとうしさもない。頭にちょんと乗せた、という感じぐらいで楽だ。それでいて、音だけは、かなりガンガンと力強く明快に鳴ってくれる。どちらかというと品の良さよりパワー感が、はっきりと感じられ、スッキりというよりガッチリと聴かせてくれる。こういう密閉型では一般に低音感が薄っぺらになるが、そうした欠点はなく、力強くロー・エンドまで伸びている。ただ、少しばかり鳴り過ぎという感じが残るけれど、メーカーのいう通り、打楽器のガッツ・サウンドは目ざましい。これで中域から高域までに品の良さが加われば、と望むのは価格から考えるとぜいたくというもの。感度も高く、使い方は自由。音もスッキリ、といいことずくめ。最近のヘッドフォンがカッコよさに気を使う新型が多い中で実用・実質主義実力型だ。

ビクター AX-M9000+RM-RE9000

井上卓也

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

増幅系を別筐体とし、リモコン操作で制御する独自構想の参考作品から発展実用化した、異例なモノ構成プリメインアンプ2台とリモコン部で構成されるシステム。増幅系を増やせば多チャンネル再生は万全の構えだ。出力半導体1個毎に専用電源を備える独自の電源方式採用で、駆動力、SN比が高い点に独自の魅力がある。

ビクター XP-DA999

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

エクステンデッドK2プロセッシングによるCD再生音の高品位かが実現するDACプロセッサーで、サンプリングレート96kHzにも対応する。入力12系統、出力9系統という豊富なファンクション持つディジタルセンターである。よく練られた音で、独特のしなやかさと甘美さを聴かせる暖かいディジタル音である。

ビクター SX-LC3

菅野沖彦

ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より

スピーカー作りでは、現在、我が国No.1のビクターの優れた小型スピーカーシステム。豊かなオリジナリティをもつ設計と、何より、音のバランス、質感の良さが光る。ツボを心得たバランスで、低音は充実しているが重すぎず、大事な中音域が厚い音だし、生き生きした音楽表現には血が通っている感じがする。

ビクター SX-1000Laboratory

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 独自性豊かなビクターのスピーカー技術の、文字どおり集大成といえる内容の濃い製品である。
 システム全体の構造から考えれば、底板部分が他の部分と同様に仕上げられているために、六面化粧仕上げのいわゆるブックシェルフ型の分類に含まれるが、独自の非常に独創的な構造を持つベースブロックと、準独立構造の4本の脚部を組み合わせた、中型フロアーシステムというべきモデルだ。この構造は、一見すれば、単純な発想として軽く受け止められているようだが、スピーカーわかる一部の人にとっては、相当にショッキングな内容を含んだ考え方であった。
 なぜなら、現実のスピーカーシステムの設置では、床との相関性をどのように考え、コントロールするかが、最大のテーマであるからである。その結果が、そのスピーカーシステムで聴くことができる、音楽性を決定する部分なのだ。
 SX1000LABのスピーカーと床面との間に介在する、いわゆる、スタンドと呼ばれる部分は、重量級の分厚い木製ベースが床面を安定化するアブソーバー的に働き、かつ、本体、底面と床板面に生じる定在波の影響を抑えようとする構造である。
 このブロックには、4個の円筒形の穴が開いていて、円柱状の4本の脚で、ほぼフリーな状態で本体を支える構造。円筒形の穴の内壁は厚いフェルトが取り付けてあり、各ブロックの相互干渉が少なく、かつ、固有の共振や共鳴が生じ難い特徴を備えている。当然のことながら、スピーカーシステム本体は、底板のサイズさえマッチしていれば、他のスピーカーシステムとの組合せでも固有音の少ない音が聴かれるはず。硬い木材や鉄材を組み合わせ、スタンドの固有音を積極的に活かす設計が多い海外製スタンドとは、完全な逆転の発想である。
 ただし、スピーカー本体の基本設計が、かなり高次元でないと、好結果を期待したとしても、逆にスピーカー自体の弱点を露呈する厳しい構造といえる。
 ユニット構成は、アナログディスクのプレス技術を基盤として開発した独自の振動板材料を使うコーン型ウーファーと、異なった製造方法によるダイアモンド振動板採用のドーム型の中域/高域ユニットによる3ウェイ。重要なネットワーク系の巧妙なレイアウト、内部配線材の吟味、ビクターが独自開発したエステル・ウール吸音材などを、かつては、カットモデルで見ることが可能であった。
 エンクロージュアは準楕円断面を採用し、各部の2次反射を巧みに調整したもので、独自の空間表現を備えている。なお、表面仕上げは非常に凝ったカナディアンメイプル材と丹念な塗装技術によるもので、同社の木工技術の成果を示す。
 豊かな時代の豊かな感性を聴かせる名作であり孤高の存在だ。

ビクター SX-500DE

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

オブリ型ドームをトゥイーターに採用し、20cm口径ウーファーとの2ウェイでまとめられた中型のブックシェルフシステム。この大きさとしては異例のワイドレンジ感と情緒的な音の魅力を兼ね備えるものだ。500シリーズ初のバスレフ・エンクロージュアのチューニングが成功している。

ビクター SX-V1X

菅野沖彦

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 このビクターの小型スピーカーシステムSX−V1Xは、長年の日本製スピーカーシステム特有の弱点を払拭しただけではなく、日本製であるアイデンティティと美徳を備えた傑作であると思う。変換器としての物理特性や、物としての作り、仕上げの高さにおいて国際レベルでの一級品の技術水準を達成しているだけではなく、音楽を奏でる音として、心のひだに浸透する「響き」を持っているのである。そして、この日本製ならではの風情を感じさせる音の純粋さやデリカシーが、海外製品にはない魅力なのである。しかも、これがわれわれが聴く西欧の音楽表現に違和感を感じさせることなく、発音に新鮮で美しい感覚を与えるというところが素晴らしい。
 では、その日本製特有の弱点とは何か? それは、わが国のオーディオ技術が一世紀もの長きに渡り、外来の理論技術の学習を基礎に発展してきたことをバックグラウンドにもつ宿命がもたらしていた、物理特性偏重姿勢による手軸足棚と言ってもいいものだと私は考えている。それは、真面目で勤勉な国民性と、西欧への憧れは強くても、残念ながら、一人一人の血となり肉となり得ていなかった社会の文化性が要因として考えられるのではないだろうか。この20年間に、オーディオの技術水準では欧米を追い越すまでになったわが国だが、より忠実な音を再生するという技術の進歩発展の過程にあっては、さして問題にならなかったことでも、オーディオ文化が成熟し、スピーカーによる再生音が音楽表現の芸術性や美の対象としての観点から論じられるようにまでなった今日では、より人の感性が評価する「音質」が重要視されるようになった。日本製オーディオ機器の輸出の実態から見ても、国際的に高く評価されているエレクト三クス機器は多いが、スピーカーシステムだけはふるわない。多くの伝統芸術、工芸の水準の高さは世界的であり、料理の世界では日本料理はもちろんのこと、西欧の料理でさえ、世界のグルメを驚歎させる水準にある日本人の感性が、なぜ世界的に評価されるスピーカーシステムを作り得なかったかは、私の長年の疑問であった。このスピーカーシステムはそのブレークスルーの可能性を感じさせてくれた。
 オーディオ機器全般に言える大事なことだが、特にスピーカーシステムには作る人の情熱と感性が絶対に不可欠だ。しかし、工業製品であるからには、これを製品化し得る企業の理解と力のバックアップもまた重要である。この製品が14・5cm口径ウーファーの2ウェイ小型システムであるということは、多くの人が広く良質のオーディオ再生音の素晴らしさを知ることに役立つという意味でも大きい。なお、専用スタンドは、音と美観の両面からも必要である。

ビクター SX-V7

井上卓也

ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より

 SX−V7は、伝統的なHMV」の名が付けられたSX−V1系の上級機種に位置付けされるトールボーイ型スピーカーシステムで、昨年の新製品では高級トールボーイ型として国内製品中で唯一無二の存在であったSX9000のベースモデルとも考えられるシステムである。
 このモデルの魅力は、独クルトミューラー製コーン採用のウーファーと、絹ソフトドーム型トゥイーターで2ウェイ構成とした、同社スピーカーシステム中で最高のベストセラーモデルとして知られるSX3の技術と伝統を現在に伝えた開発構想にある。
 継続は力、という表現があるが、伝統を維持することは、いずれのジャンルでも至難なことと考えるが、基本構造は1920年代から変っていないスピーカーは、エレクトロニクスと比較すれば、伝統を継承する上では有利ではあるが、少なくとも、伝統を受け継ぎながら今日のスピーカー技術を加え、現代のスピーカーシステムとして開花させたこの成果は、スピーカーファンには注目していただきたいことといえる。
 ユニット構成は、独クルトミューラー製パルプコーンウーファーと、絹の羽二重を使った中域と高域のソフトドーム型ユニットによる3ウェイ。HMVの超高級手巻き蓄音機の筐体にも使われていたマホガニー材を採用し、樹脂含浸処理をしたテーパー形状エンクロージュアは、フラッシュサーフユイス仕上げで、高級家具的フィニッシュが美しい。
 低/中/高域各ユニットの磁気回路は、ビクター独自の音質、音色面でのコダわりからツボ型アルニコ磁石を採用。非常にヴァラエティ豊かな開発で活気づく海外のスピーカーシステムでも、アルニコ磁石採用のモデルは皆無に等しいであろう。
 磁気回路の磁石と音の傾向との関連については古くから語られているが、振動板の反動を受ける磁気回路の固有音は、振動板自体の音をS(音楽信号)とすればN(ノイズ)となり、この関係は、聴感上でのSN比に相当するため、ユニットのオーバーオールの性能、音質、音色、音場感などと複雑に絡む、非常に重要な要素である。とくに、扱う周波数が高くなると、磁気回路材料の固有音が大きく音に影響を与える傾向があるようだ。
 エンクロージュアは、データをベースに、経験量を加えた各社各様の開発が見られる興味深いところだ。本機の内部構造は類例のない機械的チューニングが行なわれているよようで、 マホガニー材と砲金の組合せで良い音を目指したHMVの伝統が感じられる。このシステムの、重厚さ、渋さ、しなやかさ、柔らかさ、豊かさが、ほどよい力感に支えられて聴かれるオーディオならではの醍醐味のある音には、海外製品には求められない濃やかな気配りが感じられる。

ビクター HMV

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 昭和初期以来の伝統を誇るビクターが伝家の宝刀ともいうべきHMVをシリーズ名とした、円熟した大人が使う高級ミュージックコンソレット。スピーカーや別売のレコードプレーヤー、専用ラックなどの木部は高級蓄音機に使われたマホガニー材で、天然の木ならではの風合いは結果の音にも巧みにマッチし趣味性は大変に高い。

ビクター SX-V1A(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド 124号(1997年9月発行)
特集・「オーディオの流儀──自分だけの『道』を探そう 流儀別システムプラン28選」より

 小口径フルレンジ型ユニットに、ボイスコイルそのものを抵抗分として直列に使用して低域再生能力を高めるという独自の設計を施し、これにスーパートゥイーター的な高域ユニットを加えたユニークなシステムが、ビクターSX−V1Aである。アルニコ磁石採用のウーファーとトゥイーターは真鍮ベースに組み込まれ、エンクロージュアはサブバッフルにVDE/2針葉樹系高密度材、その他は無垢マホガニー材採用と、小型ながら超豪華設計で、専用スタンドと組み合わせて、想像を超える豊かな音楽性のある音が楽しめるシステムだ。反応が速く鮮度感の高いスピーカーを活かすためには、同社のXL−V1/CDプレーヤーとAX−V1プリメインアンプがベストマッチだ。フロントパネルとボンネットを一体化した見事な筐体と、物量をふんだんに投入した設計は、クォリティが抜群に高く、趣味としてのオーディオを、大人が楽しむためにふさわしい組合せ。

ビクター QL-V1

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 歴史と伝統を誇るビクターの「HMV」を冠したHMVシリーズ用に、現在では異例の新開発で完成されたが、独自のコアレスDDモーターの採用でメインテナンスフリーとした構想は注目点だ。マホガニーのキャビネットにコンパクトにまとめられ、HMVシリーズ専用ラックに組み込んだときの大人の雰囲気をもつまとまりが絶妙。

ビクター XL-V1

井上卓也

ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より

 デザイン、表面の仕上げ、精度感など総合的にリファインされた小型高級機として十分に磨かれた本格派の大人のテイストにマッチした雰囲気の見事さが大変に嬉しい。外観と音質の相関性はオーディオの趣味で非常に重要な部分だからだ。悪い録音は程よくカバーし、良い録音はそれなりに聴かせる大人っぽいまとめかたは絶妙。

ビクター QL-V1

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 ’95年秋に発売されたこの時機の新設計のプレーヤー。現時点でこの情熱は賛えてよいが、裏を返せばトーンアームもターンテーブルも、かつての製品はすべて捨てられていたということである。モーターだけが在庫していたという。長年の歴史と伝統の犬のマークが泣いていた……。目先のお荷物はすべて捨てるのが商売になるとなれば、すぐ拾う変わり身の早さが日本メーカーの美徳? なのだ。かつて、あれほど数多くのプレーヤーを作っていたというのに。モーターの在庫数だけで生産を終わるというから、欲しい人は早く買っておいた方がよいだろう。
 DDプレーヤー共通の、しっかりした造形感をもつ再生音が特徴で、ソリッドな質感が充実している。曖昧模糊とした暖色傾向の再生音を好む人には向かない。しかし、楽音は無機的にはならず、艶も色もある。有機的で温度感も高い。プレゼンスも豊かで過去のプレーヤー作りのキャリヤーは生きている。声の肉声感やオーケストラの多彩な音色もよく生きている。弦楽器群の音触がリアルで自然である。全帯域のエネルギーバランスはよく整い、カートリッジの高域を素直に聴かせる。ライヴコンサートの臨場感がたいへん豊かなことが印象的でもあった。音楽演奏の運動感がよく伝わるのである。躍動感というべきかもしれないが、音がヴィヴィッドなのである。スピーカーに音が平板に張りつくイメージがないのがいい。「エラ&ルイ」の両者の声に艶があって魅力的だったし、モノーラルのまとまりのよさに位相特性のよさを感じた。プレーヤーによるモノーラル音像のまとまりには、意外に違いがある。機械振動であるから、どの部分も振動即音として影響するのがアナログプレーヤーの難しさであろう。低音のコントロールも適切で、ブーミーなロリンズ・コンボのベースもサックスの存在に悪影響を与えるほどではない。シンバル、スネアー、ハイハットも繊細に鳴らし分ける。

ビクター SX-V1, AX-V1, XL-V1, TD-V1

ビクターのスピーカーシステムSX-V1、プリメインアンプAX-V1、CDプレーヤーXL-V1、カセットデッキTD-V1の広告
(サウンドステージ 26号掲載)

HMV

ビクター XL-Z1000A + XP-DA1000A

井上卓也

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド別冊・1994年春発行)
「世界の一流品 CDプレーヤー/D/Aコンバーター篇」より

 デジタルオーディオで最も問題視される、時間軸方向の揺らぎであるジッターをK2と呼び、この改善を図った回路が、ビクターが開発したK2インターフェイスである。ビクター音楽産業のスタジオエンジニアと共同で、録音現場での成果をもとに実用化したこの新技術は、本機の前作のD/AコンバーターXP−DA1000が、初採用モデルである。
 ’93年、従来のCDトランスポートXL−Z1000とD/AコンバーターXP−DA1000の基本設計の優れた内容を、最終の成果である音質に積極的に結びつけるために細部の見直しが行なわれた。このリフレッシュしたモデルが型番末尾にAが付く本機で、従来モデルも、Aタイプ同様の性能・音質となるヴァージョンアップ・サービスを有償で受けつけている。
 XL−Z1000Aは、ディスクの面振れによる影響が少なく、サーボ電流の変化が抑えられて読み取り精度が向上したメカニズムによって、聴感上のSN比が向上したことが最大の特徴。超大型クランパーも標準装備された。出力には、光STリンクと75ΩBNC端子が加わり、専用のインピーダンスマッチングのとれたケーブルが用意されている点が、一般的な50Ωケーブル仕様と異なるところだ。本機で魅力的な点は、トップローディング部のガラスカバーがほぼ無音状態を保って滑らかにスライドし、わずかにポップアップして定常状態に、なる動作の見事さで、これは他に類例のないフィーリングだ。
 XP−DA1000Aは、トランスポート同様、その潜在能力を引き出す改良が加えられ、一段と透明感の高いSN感の優れた音質となった。キャラクターの少なさでは稀有なモデルといえよう。プログラムソースの内容を精度高く再生し、正確に再現する能力は非常に高く、いわばCDプレーヤーの限界的なレベルに到達しており、リファレンス用CDプレーヤーとして信頼度は抜群である。

ビクター ME-1000(JBL S9500との組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「ハイエンドアンプでProject K2 S9500を堪能する」より

 国内製品中で最高の価格と内容を誇るモノーラル構成パワーアンプである。組み合わせるべきプリアンプは、現時点ではビクターに完成モデルが存在しない。
 そこで、やや特殊な例とはなるが、他社製品のキャラクターが混じることを避けるため、アキュフェーズDC91の高SN比を誇るデジタルボリュウムコントロールを使い、パワーアンプに直接信号を加えて聴くことにした。
 接続は、平衡型入力で使う。音が手始めたばかりの状態では、J・ロゥランドの場合と同様に、それなりにスッキリとした小さくキレイにまとまった音で、一応の水準の音として聴けることが面白い。
 ウォームアップは、静かにゆるやかに進み、中低域の量感が加わることから始まり、次に明解な中高域、中域の密度感、といったように、内容は徐々に濃く、充実していく最新アンプのひとつの傾向となっているパターンで変化をする。
 今回のように十分にプリヒートしてあれば、ほぼ30〜40分間ほどで、一応の水準の音が聴かれるようになるが、低域の質感が優れ、ほどよい表現力が加わり、ナチュラルにハイエンドがのびきった音を望むとなれば、2時間は是非とも必要な時間である。それ以後もわずかではあるが確実にウォームアップは進み、最高の状態になるまでには、数時間を必要とするであろう。部屋とスピーカーの問題もあるが、超高級パワーアンプは、十分に使い込んだとしても朝9時頃に電源スイッチを入れ音を出し始めると、昼食を終えた午後1時頃から、やっと少し鳴りだしたかな、といった状態になるのは、もはや常識というべきで、この意味では、このME1000のウォームアップは速いほうだ。
 約1時間半ほど鳴らし込めば、S9500の量的にタップリとした軟調な低域は、柔軟性があり、かつ強靭な、ほどよく表情豊かな低音としてコントロールされ、そのよく弾み、よく伸びる音は、非常に魅力的である。この状態での音は、S9500のファンにとっては、感動的ですらあるはずだ。中域から高域にかけてスムーズにレスポンスは伸び、音の粒子もほどよく細かく、艶やかに磨き込まれており、ホーン型特有の音を、それらしく感じさせないのも楽しい。
 スピーカーの独自の音場感の拡がりはごく普通に感じるが、奥行きの深さは十分にあり、高さ方向のプレゼンスも見事である。
 アンプとスピーカーが、有機的に結びつき渾然一体となって自由自在に音楽を聴かせる、この音は今回の試聴の白眉である。

ビクター SX-700

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

小型2ウェイ方式に、低音専用のサブウーファーシステムを独立したキャビティ採用で組み合せ、トールボーイとしてまとめた手堅い手法の製品である。柔らかく量感があり、ほどよく反応が速いサブウーファーを加えた低域の豊かさは、この製品の特徴であり、この部分をどうこなすかがアンプの実力の問われるところ。

ビクター XL-Z1000 + XP-DA1000

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 音場感情報が豊かで、音楽が演奏されている空間の拡がりを、ゆったりとした余裕のあるプレゼンスで聴かせる特徴がある。ロッシーニでは、予想より硬質な面と、音の分離にいまひとつの感があるが、木管楽器特有の高質さとふくらみや、コントラバスのピチカートなどはかなり実体感があり、見通しもよい。ピアノトリオは、中高域に少し硬質さがある薄味傾向のまとまり。楽器のメカニズムの出す固有のノイズをかなり聴かせるが、ピアノのリアリティは抑えられる。ヴァイオリン、チェロは少し硬質で、やや響き不足の音だ。ブルックナーは、奥行きの深い空間を感じさせる音場感の豊かさがあり、響きはたっぷりとあるが全体に力不足で、トゥッティで音の混濁感がある。平衡出力では、スッキリと見通しの良さが聴かれ、反応の軽さが出るが、再生系の持つ一種の重さ、暗さがある低域が全体のバランスを崩しているようで、これは聴取位置が左側に偏っていることも関係がある。

ビクター Zero-L10

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 文字どおり、時代の最先端をゆく新材料と設計技術を駆使したユニットを、音響的に斬新な円弧状のユニット配置を採用し、伝統的技術を継承した素晴らしい仕上げのエンクロージュアと組み合わせたビクター最新のフロアー型4ウェイシステムである。
 構成ユニットでは、中高域と高域に採用されたピュアセラミックス・ダイヤフラムが最大の注目点だ。サファイア
やルビーに相当する純度を保ち、ダイヤフラム成形後の加熱処理で収縮するピュアセラミックスの難関を克服し、至難といわれた大口径ドーム型ユニット用振動板として完成した技術は見事だ。巷にはダイヤモンド振動板を採用したスピーカーシステムも登場しているため、サファイアやルビーと同等では注目度として低いかもしれないが、ダイヤモンド振動板には、〝ピュア〟の文字がないように、純度は大幅に異なり、物性的に大きな違いがあることに注意していただきたい。
 低域と中低域ユニットは、セラミックス振動板採用で、JBL系4ウェイ型と比べて、中低域ユニットが小口径化され、指向特性やレスポンスを高める設計がポイントである。
 リジッドで重量級の物量投入型ウーファー独特のゴリッとした低音と、ハイスピードという表現が相応しい中高域と高域がコントラストをつけたバランスの音が特徴だ。使いこなしは、中低域をいかに豊かに鳴らせるかがポイントで、3ウェイ的なバランスでは駄目だ。

ビクター M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(パイオニア S9500DVでの試聴)
 分解能の高さがCDサウンドの特徴だが、ときには味わいに欠けることも裏腹に存在する。この組合せは、低域から中低域に独特の豊かさと粘りがあり、これと適度に芯のある中高域がバランスして、穏やかで安定感のあるアナログならではの安心して聴ける雰囲気が感じられる。音場感も柔らかくナチュラルに拡がり、ややサロン的な印象にはなるが、音像の輪郭もクッキリとして十分に楽しめる。表情は適度に豊かで伸びやかだ。

ビクター M-L10

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 力と厚みのある音で、再生音としての質はかなり高い。ただ、やや強いキャラクターが感じられ、透明度の点で不満が残る。艶っぼい派手さが弦の高域やソプラノにつきまとうのだが、透明感がでれば、むしろ美的魅力となるものであろう。漂うようなステレオフォニックな空間感の再現が少し弱いようだ。音源を直接的に把え、空間を重視しない録音にはよいが、オーソドックスなステレオフォニックな録音では物足りなさが出てくるようだ。この点が音の鮮度不足といった感覚に繋がりそう。

音質:7.5
価格を考慮した魅力度:7.8

ビクター M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 適度に軽さがあり、柔らかい、独特な甘さがある音と、中低域ベースの響きの豊かさがある帯域バランスをもつアンプだ。聴感上は中高域に共通のキャラクターが聴き取れるために、バランス的には中域が少し薄くなり、対比的に、中低域は柔らかく、豊かに感じられる。このトータルバランスは、いわゆるCDの一種の薄さをカバーするうえで効果的であり、少し反応は遅いが、安心して聴けるメリットは大きい。基本的には、アナログ的なまとまりをもつ。古さがあるが、個性は面白い。

音質:8.2
価格を考慮した魅力度:9.0

ビクター P-L10

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプの音はコクがある。やや押しつけがましい感じがするほどである。繊細さや透明感といった面よりも、豊かさ、粘りのある質感といった印象の強い音である。だから、人によっては好みがはっきり分かれ、くどい印象として嫌われるかもしれない。開発時期が新しいものではないが、ウォームな質感は音楽の表現にとって、最新アンプにないよさもある。濃厚な質感で決して無機的な響きは出さないのだが、それだけに、やや重苦しい感触だ。
[AD試聴]それほどレンジの広さは感じないが、音がマッシヴなためオーケストラのスケールは大きく、迫力がある。これで、各音像にもう一つ輪郭の明確な彫琢のシャープさがあればよいのだが……。マーラーの再現には濃艶な味わいを聴かせる。「蝙蝠」のステージのライヴネスの透明感が不足するので、臨場感が不足する。余韻が抑えられる感じだ。ロージーの声は、いかにも年増の濃艶な色気たっぷり。ベースは重く豊かだが、弾みは悪くないのでスイングする。
[CD試聴]肉付きのたっぷりした、グラマラスな感じのする音はCDでも共通のオーケストラなどのマッシヴな厚味がよく出て、堂々と響くのはよいのだが、もう少し、透明感が欲しい。冴えとか、さわやかさといった情趣が苦手のようだ。反面、強い説得力がある音だ。B&Wより、JBLのほうが合うようで、量感のあるふくよかな音が、JBLのシャープなエッジと結びついて効果的だ。ジャズでは特にこの傾向が強くJBLは大変よく鳴った。

ビクター MC-L1000

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、素直な帯域バランスと明快でスケール感豊かな音が魅力的。中域はスカッと抜け、低域の質感も優れ、ダイレクトで、躍動感が楽しい。中域の厚みは今一歩。
 針圧上限とする。音溝の底を正確にトレースする音だ。音場はナチュラル、見通しが良い。安定感は十分にあり、表情はナチュラル、ノイズは安定し、奥行きも十分だ。
 針圧下限では、軽快さが出るが、全体に表面的な音となり、針先とコイルがダイレクトにカップルした特徴が減る。
 針圧は、1・3gを試みる。ほぼ標準針圧に近いが、中域の厚みが加わるのが判かる。針圧を上限とし、IFC量を1・3に下げる。音場感的な見通しがよくなり、晴々とした雰囲気の良さが出てくる。
 ファンタジアは、ピアノの質感、スケール感、タッチなどに実感があり、左手がボケないのは特筆ものだ。響きは多いが、これは見事な音だ。アル・ジャロウも、これまでのベスト。ダイレクトさ抜群。