ビクター QL-V1

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 ’95年秋に発売されたこの時機の新設計のプレーヤー。現時点でこの情熱は賛えてよいが、裏を返せばトーンアームもターンテーブルも、かつての製品はすべて捨てられていたということである。モーターだけが在庫していたという。長年の歴史と伝統の犬のマークが泣いていた……。目先のお荷物はすべて捨てるのが商売になるとなれば、すぐ拾う変わり身の早さが日本メーカーの美徳? なのだ。かつて、あれほど数多くのプレーヤーを作っていたというのに。モーターの在庫数だけで生産を終わるというから、欲しい人は早く買っておいた方がよいだろう。
 DDプレーヤー共通の、しっかりした造形感をもつ再生音が特徴で、ソリッドな質感が充実している。曖昧模糊とした暖色傾向の再生音を好む人には向かない。しかし、楽音は無機的にはならず、艶も色もある。有機的で温度感も高い。プレゼンスも豊かで過去のプレーヤー作りのキャリヤーは生きている。声の肉声感やオーケストラの多彩な音色もよく生きている。弦楽器群の音触がリアルで自然である。全帯域のエネルギーバランスはよく整い、カートリッジの高域を素直に聴かせる。ライヴコンサートの臨場感がたいへん豊かなことが印象的でもあった。音楽演奏の運動感がよく伝わるのである。躍動感というべきかもしれないが、音がヴィヴィッドなのである。スピーカーに音が平板に張りつくイメージがないのがいい。「エラ&ルイ」の両者の声に艶があって魅力的だったし、モノーラルのまとまりのよさに位相特性のよさを感じた。プレーヤーによるモノーラル音像のまとまりには、意外に違いがある。機械振動であるから、どの部分も振動即音として影響するのがアナログプレーヤーの難しさであろう。低音のコントロールも適切で、ブーミーなロリンズ・コンボのベースもサックスの存在に悪影響を与えるほどではない。シンバル、スネアー、ハイハットも繊細に鳴らし分ける。

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