Category Archives: スペンドール

スペンドール BCII

黒田恭一

サウンドボーイ 10月号(1981年9月発行)
特集・「世界一周スピーカー・サウンドの旅」より

 このスペンドールのBCIIというスピーカーは、しばしばクラシック向きといわれる。たしかに、このスピーカーのもちあじであるきめこまかさは、繊細さを求めるクラシック音楽をこのましくきくのに、うってつけである。それに、SS編集部の良識派のMくんがいみじくもいったことであるが、おそらくこのスピーカーをつくった人たちは、ここで試聴につかったようなレコード、たとえばデイヴ・エドモンズの『トワンギン』のようなレコードは、きいたことがないにちがいない。しかし、デイヴ・エドモンズの『トワンギン』の中には、1968年にロンドンで録音された曲が収録されている。そうなれば、今回の意図からして、ここできいてみることになる。
 それで、結果はどうであったかということになるのだが、納得できる音をきくことができた。なるほどと思えた。デイヴ・エドモンズの音楽をパブ・ロックといっていいのかどうかはわからないが、この音楽の、あかるくはれやかになりようのない性格を、なかなか巧みに示した。ひびきのスケールがきわだって大きいとはいいがたいが、それなりの音楽の力感といえるようなものは提示したというべきであろう。
 これはイギリス出身のスピーカーに共通していえることであるが、サウンドは、いくぶんうつむきかげんで、多少暗い。その多少の暗さが音に陰影をつけることにもなっているようである。
 このスペンドールのBCIIを、たしかにイギリス出身のスピーカーであると思ったのは、イギリスで録音された、つまりイギリス出身のレコードをきいたときでなく、むしろアメリカのウェストコースト出身のレコード、たとえばハーブ・アルバートのレコードなどをきいたときであった。アルバートのトランペットの音は、かげりの中にあった。エレクトロボイスのスピーカーできいたときほどの違和感はなかった。その辺がイギリスのスピーカーの興味深いところである。レコードヘの歩みより方が巧妙である。
 それぞれのレコードがきかせる音楽の「らしさ」への対応がうまいということになるであろう。
 スライ&ロビーの『タクシー』のようなレコードにしても、乾ききらないどことなく湿りけを残したひびきを、ききてに感じさせるような音をきかせる。ひびきは、再三書いているように暗く、多少の湿気もあるのであるが、ついに重くひきずったようにならない。つまり、ある種の軽みの表現にもすぐれたところがあるということである。
 そために、このスピーカーは、いまの時代のサウンド、あるいは今様な音楽にも、無理なく対応しているとみるべきであろう。このイギリス出身のスピーカーは、なかなかどうしてヤング・アット・ハートである。一応ものわかりもよく、それなりの実力をもあり、気分的に若いとすれば、つかう方からすると、気をつかわないでつかえるということで、それはむろんスピーカーとしては美徳である。
 このスピーカーには、もうひとつ、このましいところがある。おそらく、ひびきのきめのこまかさに関係してのことと考えるべきであろうが、言葉のたちあがりが鮮明である。歌を中心にきく人にはうってつけのスピーカーといえるのではないか。

スペンドール BCIII

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 スペンドールBCIIIは、小味なBCIIのスケールアップ・モデルといえるものだが、30cm口径ウーファーをベースにした4ウェイシステムの再生音は、さすがにBCIIの、箱庭的よさもわるさも脱却している。しかし大型システムとしては、やはり力より端正な質感と深い情緒に特色がある。

スペンドール BCII

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 スペンドールBCIIは、英国製のブックシェルフタイプとして多くのファンを持っている。実に瑞々しい魅力的な音の世界を聴かせてくれるスピーカーで、ウーファーは20cm口径、それに3・8cm口径のドーム・トゥイーターと、さらに小口径のスーパートゥイーターを追加した3ウェイシステムである。繊細透明な品位の高い音だ。

ヴァイタヴォックス CN191 CN191 Corner Horn, スペンドール BCII, メリディアン M1

ヴァイタヴォックスのスピーカーシステムCN191 CN191 Corner Horn、スペンドールのスピーカーシステムBCII、メリディアンのスピーカーシステムM1の広告(輸入元:今井商事)
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

Vitavox

スペンドール BCII(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第14項・スペンドールBCIIの組合せ例(その2)」より

 イギリス・スペンドールのBCIIは、13項の組合せ例が暗示しているように、本質的に、スケールの大きな音ではなく、どちらかといえば音量もほどほどにおさえて、まさにコンサートホールで(とくにクラシックのようにPA装置──マイクロフォン──を使わない)音楽を鑑賞する感じ、というひとつの枠の中で楽しむスピーカーといえる。
 けれど、このスピーカーは、もう少し出力の大きい高級アンプで鳴らせば、こういうサイズの、こういう価格(これは輸入品だから、イギリス本国での価格は、日本での定価の半値以下という、ほんとうにささやかなスピーカーなのだ)にしては、意外とも思える堂々としたスケールの大きさを楽しむこともできるし、ホールいっぱいに響き渡るオーケストラのフォルティシモの感じに近い音量が出せなくもない。
 まずアキュフェーズのE303。これはいわゆるプリメイン型のアンプだが、この種のモデルの中では最も高級なグループで、出力も130ワット(×2)と十分すぎるほどだが、その出力が必要なのではない。そのことよりも、このアンプのとても透明で美しく、繊細でありながら底力のある音質が、スペンドールBCIIの艶やかな音色をよく助けて、全体として素晴らしい音に仕上げる点に注目したい。
 またこのアンプは、出力の低いムーヴィングタイル(MC)型のカートリッジも十分に生かせるだけのヘッドアンプを内蔵しているので、せっかくのその性能を生かして、カートリッジには、デンマーク、オルトフォン製のMC10を組合わせる。オルトフォンのこの〝MC〟のつくシリーズには、MC10、MC20、MC30と三種類がある。MC20の音は最も中庸を得てバランスがよいが、いくぶん真面目すぎて、スペンドールBCIIの聴き手を心からくつろがせるようなたっぷりした響きがおさえぎみの傾向になる。その点が好みに合えば、むろんMC20もよい。しかしそれよりももう少し表情の生き生きした(反面メリハリがきついが)MC10のほうが、この場合はおもしろいと思って、あえてこちらにした。もし予算がゆるすなら、最高級機のMC30(おそろしく高価だが)ならいっそう良いことは当然なのだが……。
          ※
 もうひとつ別の組合せとして、ラックスのLX38という、こんにちではもはや例外的な存在になってしまった真空管式のアンプで鳴らすのもまた、BCIIの別の面を抽き出すためにおもしろい。ことに弦の合奏や声楽での音の滑らかさ、そしてオーケストラのトゥッティでの、最新のトランジスタータイプのような音の隅々まで見通せるような感じのするほどの細やかな音とは反対に、全体をこんもりと包み込むような鳴り方。このアンプはMCカートリッジ用のヘッドアンプを内蔵していないが、組合せのバランスを考えると、カートリッジはMM型のエラック(エレクトロアクースティック)STS555Eがなかなか良い。

スピーカーシステム:スペンドール BCII ¥115,000×2
プリメインアンプ:アキュフェーズ E-303 ¥245,000
チューナー:アキュフェーズ T-103 ¥150,000
プレーヤーシステム:ビクター QL-A7 ¥85.000
カートリッジ:オルトフォン MC10 ¥25,000
計¥735,000

スピーカーシステム:スペンドール BCII ¥115,000×2
プリメインアンプ:ラックス LX38 ¥198,000
プレーヤーシステム:トリオ KP-7700 ¥80.000
カートリッジ:エレクトロアクースティック STS555E ¥35,900
計¥543,900

スペンドール BCII(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第13項・スペンドールBCIIというスピーカー 組合せを例にとって(その1)」より

 できるだけ正確な音を再生する、いわゆるアキュレイトサウンドの中にも、演奏者がすぐ目の前に立っているような、感じで音を聴かせるスピーカーと、良いホールのほどよい席で音楽を鑑賞する感じのスピーカーとがあることを3項で説明した。
 ごく大まかな分け方をすれば、アメリカのスピーカーには、楽器が目の前で鳴る感じで音を再生するタイプが比較的多い。これに対して、イギリスのスピーカーは、概して、コンサートプレゼンスという言葉で説明される、上質のコンサートホールのほどよい席で楽しむ感じで音を聴かせる。そういう感じを説明するのに最適のスピーカーのひとつが、ここでとりあげるスペンドールのBCIIというスピーカーだ。3項でもすでに書いたことのくりかえしになるが、目の前で演奏される感じか、コンサートホールで聴く感じか、という問題は、レコードの録音をとる段階ですでに決められてしまうのだが、しかし仮に、非常に生々しく録音されたレコードをかけたときでも、このBCIIというスピーカーで再生すると、スピーカーの向う側にあたかも広い空間が展開したかのようなイメージで、やわらかくひろがる、たっぷりした響きを聴かせる。
 だからといって、このスピーカーがプログラムソースの音を〝変形〟してしまうのかというとそうではない。レコードの録音のとりかたの相対的なちがい──眼前で鳴る生々しい感じか、コンサートホールの響きをともなった録音か──は十分に聴き分けられる。けれど、このスピーカーなどは、厳密な意味では、正確な音の再生と快い音の再生との中間に位置する、いわばクリエイティヴサウンドとアキュレイトサウンドの中間的性格、といえないこともない。
 ところでこのスペンドールというのは、イギリスの、非常に小規模のメーカーだが、自社のスピーカーを鳴らすためのアンプも生産している。型番をD40といい、写真でみるように、音量調整(ボリュウム)のツマミと、電源スイッチを兼ねたバランス調整、それにプログラムセレクターの三つのツマミしかついていない。出力も40ワット(×2)と、こんにちの水準からみて決して大きくない。
 けれど、BCIIというスピーカーが、もともと楽器を目の前で演奏するような感じを求めているわけではないから、家庭でレコードを観賞するためには、この出力は十分すぎるほどだ。そのことよりこのアンプは、BCIIの持っている音の性格をとてもよく生かして、決してスケールは大きくないが、とても魅力的な音を聴かせてくれる。これはまさに、大げさなことを嫌うイギリス人好みの端的にあらわれた組合せだから、レコードプレーヤーもまた、西独DUAL(デュアル)のCS721という、小柄なオートマチックを選んでみた。カートリッジは同じ西独のエラック(エレクトロアクースティック)STS455E。このカートリッジは、BCIIの音ととてもよく合う。

スピーカーシステム:スペンドール BCII ¥115,000×2
プリメインアンプ:スペンドール D40 ¥165,000
プレーヤーシステム:デュアル CS-721 ¥99.800
カートリッジ:エレクトロアクースティック STS455E ¥29,900
計¥524,700

スペンドール BCIII

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 BCIIのスケールアップ版といえ、相当パワフルな再生にも応えてくれる。BCIIはパワフルな再生は無理だが、その分瑞々しさでは勝る。

スペンドール BCII

菅野沖彦

ステレオサウンド 51号(1979年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’79ベストバイ・コンポーネント」より

 先の1000Mのようなオールマイティさはないが、英国のスピーカーらしい瑞々しい音の魅力は他のスピーカーでは得られない、素晴らしいものだ。

スペンドール BCII, SA-1, D40, JR JR149, Super Woofer

スペンドールのスピーカーシステムBCII、SA1、プリメインアンプD40、JRのスピーカーシステムJR149、サブウーファーSuper Wooferの広告(今井商事)
(ステレオ 1979年2月号掲載)

Spendor

スペンドール BCII

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

品のいい響きと音楽のリアリティが生きた味わいのある製品。

スペンドール BCII

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

間隔を十分にとって置き、プレゼンスの豊かさを味わうべき製品だ。

スペンドール BCIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

媚のない潔癖な品位の高さ。ただし鳴らし込みに多少の熟練を要す。

スペンドール D40

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

スペンドール及び同系のスピーカーに限定されるが、独特の明快な音。

スペンドール BCII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

耳を刺激しない上品な響きの豊かさ。ことにクラシックの愛好家に。

スペンドール BCIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 44号(219ページ)でも触れたが、BCIIIを何回か試聴した中で、たった一度だけ、かなりよく鳴らし込まれた製品の音をとても良いと思ったことがあった。今月のサンプルは、44号のときよりもさらに鳴らし込まれたものらしく生硬さのないよくこなれた音に仕上っていた。
 とはいっても基本的には44号に書いたことと同じで、本質的にかなりまじめな作り方。言いかえれば、どんな音を鳴らしても決してわめいたり取り乱したりしない端正な音で、いかにもイギリス紳士ふうといえようか。たとえばブラームスのP協No.1の冒頭のオーケストラのトゥッティも、決して露に〝爆発〟しない。渋いバランスを保って、情熱を抑えた鳴り方だ。ラヴェルの「シェラザーデ」のあのオーケストラの音を散りばめたような色彩感も、ひかえめに端正に少しの派手さもなく表現する。音を練り固めるタイプでなく、その意味で強引なところは少しもない。コンセルヴァトワルの音を、ごく注意深く散りばめ、音の光沢をややおさえながら、色あいのちがいは確かに鳴らし分ける。出しゃばりもせずしかし鳴らすべき音は確かに鳴らす。ロス=アンヘレスの声の定位もすばらしく見事だ。のめり込んでゆくタイプの音でなく、一種枯淡の境地を思わせる。ただ、表面はひっそりと静かであっても内に秘めたふつふつとたぎるような情熱を感じとりたいという私のようなまだ血の気の多い人間には、この枯淡の境地まで達観することができない。ときにもう少しハメを外し、唱い、弾み、色気も艶も露にするスピーカーの方に、より多くの魅力を感じてしまう。少なくともスペンドールBCIIIを聴くうちに、自分の求める音の方向が、そういう形で明確に意識させられる。音楽に殉ずるよりもまだまだ音の享楽者でありたい。だがこんなことを考えさせるスピーカーというのは、やはりたいした音なのだろうと、妙なところで感心させられる。
 つまりBCIIIは、どんなプログラムソースでも端正に、可及的に正確にしかしスピーカーが出しゃばるのでなくひかえめに、いわば客観的にプレゼンテイションする音、といえようか。そのことはおそらく、オーディオの再生の中で確かにひとつの正しい方向であるにちがいない。が、そう言い切ってしまうには、私自身の個人的な嗜好や欲求を別としても、「何か」が足りない。もうひとつ聴き手の心を弾ませ、聴き手の心にしみじみと訴えかけてくる何か、が不足していて、どこかつき放したような感じが否めない。この鳴り方がスピーカーとして本当なのだと言い切ることは私にはできない。なぜといって、レコードに刻まれる前のもとの音楽の演奏には、色気も艶も弾みもあると思うからだ。それが鳴ってこないということは、このスピーカーに何かが欠けているのでなければ、録音・再生系のどこかに欠落があるからだ。どこに問題があるのか。それはここで論じるには難しすぎるテーマだ。

スペンドール BCIII

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 スペンドールというイギリスのメーカーは、このBCIIIをBBCモニター仕様で作ったということになっている。同社のBCIIは、私の最も好きな中型システムの一つで、わが家でも愛用している。その瑞々しい艶のある、透明な音は、品位の高さで、ちょっと右に出るものがないと思うほど美しい。このBCIIIは、その上級クラスで、エンクロージュアの外形も大きいし、ユニット構成も、グレイドにおいては高い。全体の音としての魅力はBCIIに軍配を上げるけれど、このBCIIIも、こうして他社のスピーカーと比較試聴すると、実に清新な魅力をもったものである。滑らかな音の感触は、きわめて歪感の少ないもので、音楽の美しさが生き生きと再現される。そして、さすがにBCIIからみると、耐入力も大きく、ハイレベル再生も十分に可能であって、モニターとしての役目は十分果せるシステムだと思う。30センチ・ウーファーがベースとなった4ウェイ4スピーカーというマルチシステムでありながら、定位もよく判別出来るし、全帯域のバランス、位相特性もよくコントロールされている。中音域が、やや細身なのが、BCIIと比較した時、気になっていたのだが、欠点として指摘するようなものでは決してない。レコードのミクシングの細かい点までよく聴き分けられたし、オリジナルテープのもつDレンジやフレッシュネスも十分再現してくれた。

スペンドール BCII

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるいさわやかな音のピッチカートだ。少し細すぎるかもしれない。
❷輪郭はしっかりしているが、ひびきにもうひとつ力がほしい。
❸それぞれのひびきの特徴を鮮明に示してこのましい。
❹第1ヴァイオリンの音にもう少し艶がほしい。低音弦のまとまりはいい。
❺もりあがり方に無理はない。クライマックスで示される力も一応のものだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ひびきはさわやかで、音楽的なまとまりもいい。
❷音色的な対比は鮮明だが、ふかぶかしたひびきがほしい。
❸「室内オーケストラ」ならではの軽やかさは示す。
❹きわめてさわやかだ。すっきりとした提示はこのましい。
❺鮮明だ。軽く、キメ細かいひびきがいきる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶定位は大変にいい。一種なまなましさもある。
❷言葉が、重くならず、しかもすっきりたつ。
❸少し後にひきぎみのロザリンデとクラリネットの対比がとてもいい。
❹はった声がしなやかさを失わないのはいい。表情の誇張がない。
❺うたいてとオーケストラとのバランスがよくとれている。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに軽やかさと敏捷さがあるために、不自然さがない。
❷声量をおしたからといって、言葉が不鮮明になったりしない。
❸残響がまったく切りおとされているというわけではないが、言葉は鮮明だ。
❹各声部のからみを不明瞭になることなく示す。
❺声のしなやかさを示しつつ、自然にのびる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンの硬さとポンの柔らかさの対比を充分につける。
❷後方からのきこえ方は、ひろがりを感じさせてこのましい。
❸浮遊感は充分だ。ひびきにべとつきがないためといえよう。
❹充分に前後のへだたりがとれている。ひろがりの点でも不足ない。
❺ピークでは少しきついが、ぬけはいい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶はるけきひびきが、静かに、ひろがり、さわやかだ。
❷その中央から、次第に姿を拡大してくるギターのひびきが効果的だ。
❸くっきりとひびきの輪郭を示して、まことに効果的である。
❹ここでのひびきに輝きがある。アクセントをつけている。
❺うもれない。しかし、きわだちすぎない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきの特徴をすっきりと示す。
❷もう少し力強くてもいいが、一応の効果はあげる。
❸ひびきは、乾いているが、薄くないのがいい。
❹くっきりはずんだひびきで示されるドラムスがいい。
❺バック・コーラスによる言葉のたち方は自然だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像的にかなりふくらむ。少しふくらみすぎか。
❷オンでとったなまなましさがあり、しかし極端にならないのがいい。
❸音の消え方の提示にこだわりすぎているのかもしれない。
❹少し甘い。ひびきそのものに力不足なところがあるからだろう。
❺音像的な対比ということでは、充分とはいいがたい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきに、腰のすわった力があれば、さらにはえただろう。
❷一応つっこんではくるが、ひびきは金属的になりがちだ。
❸拡大して示すものの、せりだしてはこない。
❹前後のへだたりを示し、見通しの点でも悪くない。
❺アタックの強さを示しきれず、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶すっきり示す。程よい距離感も示せている。
❷ひびきのキメ細かさが、ここでは有効な働きをしている。
❸一応きかせはするが、輪郭はあいまいだ。
❹スケールのゆたかさは、ついに示しきれない。
❺きこえはするが、ひびきのアクセントたりえない。

スペンドール SA-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 B&WのDM4/II、それにJRの149とくらべるとほんのわずかに価格が張るが、ユーザーサイドからみれば、やはり比較の対象としたい興味のある製品だろう。まして兄貴分のBCIIの出来栄えのよさが先例としてあるのだから、このSA1にある種の期待を抱いて試聴にのぞむのはとうぜんだ。まず総体のバランスだが、いかにも「ミニモニター」の愛称を持つだけに、帯域の両端の存在を意識させるような誇張がなくごく自然だ。つまりトゥイーターによくあるハイエンドのピーク性の共振音や、エンクロージュアまたはウーファーの設計不良によるこもりのような欠点は全く耳につかない。どちらかといえば(イギリスのスピーカーにはめずらしく)中音域に密度を持たせてあって、内声部の音域、ことにフィッシャー=ディスカウやキングズ・シンガーズのような男声の音域でも、薄手にならず実体感をよく出すところがみごとだ。ただし、バルバラのような女声の場合に、声の表情がやや硬くなるような傾向があって、BCIIよりも少々生真面目さを感じさせる。また、パワーを上げると中〜高域で多少硬い音がしたり、低域でのこもりがわずかに感じられ、どちらかといえばおさえかげんの音量で楽しむスピーカーだと思った。台はあまり低くせず(約50センチ)、背面を壁につける方がバランスが良い。

スペンドール SA-1

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきはあるかいが、薄く、細すぎるということもできるだろう。
❷くまどりはついているが、やはりもう少し力がほしい。
❸特徴的なひびきの対応のしかたにはかなり敏感なところがある。
❹第1ヴァイオリンのフレーズにたっぷりしたところが不足している。
❺本来の迫力を示しえず、クライマックスでヒステリックになる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像がふくらまないのはいいが、ひびきがやせている。
❷音色的な対比を、薄味なひびきだが、充分に示す。
❸細やかなあじわいはあるものの、しなやかさが不足している。
❹すっきりさわやかで、大変に好ましい。
❺さらにしなやかなところがあればいいのだが。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶余分なひびきがついていないなまなましさがある。
❷接近感をくっきり示すこのましさがある。定位はきわめていい。
❸クラリネットのひびきはもう少しまろやかでたっぷりしていてもいい。
❹はった声が硬くならないのは大変にいい。ただ、細めだ。
❺バランスがいいので、ききやすい。鮮明なよさもある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶並び方に凹凸がなく、すっきりしていて、定位に問題はない。
❷声量を落としたのがわざとらしくならずに、その効果がいきている。
❸言葉のたち方は十全で、あいまいさはない。
❹各パートのからみを、すっきりと、あいまいにならずに示す。
❺自然なのびがある。無理のないところがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも充分にコントラストがついている。
❷クレッシェンドにとってつけたような不自然さのないのがいい。
❸ひびきの浮遊感は充分だ。せまくるしくなっていない。
❹前へのせりだしはいくぶん不足するが、奥へのひきは充分だ。
❺ピークになると、とたんにひびきがとげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶白っぽいひびきでの後方でのしろがりは美しい。
❷もう少しくっきりひびいてもいいだろう。音に力がほしい。
❸ききとれるが、低い方のひびき方に空虚さがある。
❹輝きという点で、いくぶんものたりないところがある。
❺きこえなくはないが、うめこまれがちである。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶音にもうひとつ力がないので、軽くなりすぎている。
❷ここで求められている効果が充分に発揮されていない。
❸ひびきがいかにも薄く、力不足なのがおしい。
❹ベース・ドラムの音が乾きすぎていて、パサパサしている。
❺言葉のたち方は一応だが、楽器とのバランスがよくない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶あたかも何かの入れものの中でひびいているようだ。
❷一応示しはするものの、本来のなまなましさはない。
❸消える音の尻尾は、ほとんどききとれないといってもいいほどだ。
❹ひびきそのものに力がないためだろう、あいまいになりがちだ。
❺音像対比の点で、少なからず問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さの提示が充分でないために、めりはりがつきにくい。
❷ブラスのきこえ方が、ヒステリックになっている。
❸一応前の方にはりだすことははりだすが、空騒ぎめく。
❹へだたりはとれているものの、トランペットのひびきはかん高い。
❺あいまいではないが、反応は甘くて、しまらない。

座鬼太鼓座
❶一応の距離感は示せて、ひろがりは感じられる。
❷脂っぽさはないが、尺八らしさが充分とはいえない。
❸きこえることはきこえるものの、何の音かさだかでない。
❹さらにスケールゆたかにひびいてほしい。
❺いくぶんここで音は、くすんできこえる。

スペンドール BCII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 ロジャースのLS3/5Aと同じく数ヵ月前に自家用に加えたので、素性はかなりよく掴んでいるつもりだが、テストサンプルと比較しても、特性がよくコントロールされているし、バラつきは感じられない。音のバランスがとてもよく、やや甘口の鳴り方ながら、あまり音を引締め過ぎるようなところがなくことにオーケストラや室内楽やヴォーカルを、それほど大きな音量にしないで鳴らすかぎりは誇張のないとても美しく自然な響きで聴き手を心からくつろがせる。パワーにはあまり強くない。すべての音を、良いステージで聴くようなやや遠い感じで鳴らすので、ピアノの打鍵音を眼前で……というような要求には無理だ。かなり以前の──というより初期の──製品には、ハイエンドの冴えがもう少しあったような気もするが、この点は比較したわけではなく、以前ほど印象が強くなくなったせいかもしれない。専用の(別売)スタンドが最もよく、前後左右になるべくひろげて、ただしスピーカーからあまり遠くない位置で聴く方がいい。離れるにつれて音像が甘くなり、評価の悪くなるスピーカーだと思う。カートリッジは455Eがとてもよく合う。価格のバランスをくずせばEMTもいい。アンプはやさしい表情と音像のくっきりしたクォリティの高いものを組み合わせたい。

スペンドール BCIII

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、軽やかに、鮮明にひびく。
❷低音弦のひびきは、幾分腰がたかいかのようだが、シャープでいい。
❸さまざまなひびきをくっきりさわやかに示す。
❹ここでのピッチカートはふくれず好ましい。
❺クライマックスでのひびきのもりあがり方は大変いい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は小さく、すっきりと示される。
❷寝ロイ対比も十全で、とけあい方もいい。
❸室内オーケストラならではのさわやかなひびきがきける。
❹第1ヴァイオリンのフレーズはほぼ理想的だ。
❺さまざまなひびきがさわやかさをもって鮮明に示される。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声に誇張感がなく、なまなましい。音像は小さい。
❷接近感を自然に無理なくすっきり示す。
❸オーケストラと声とのバランスはきわめていい。
❹はった声はかたくならず、充分にのびる。
❺個々のひびきを鮮明に示しつつ、全体のまとまりをつける。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶左から右へ、6人のメンバーの並び方がよくわかる。
❷声量をおとしても、鮮明さが不足することはない。
❸残響をおさえぎみにきかせるため、言葉のたち方はいい。
❹ひびきに敏捷さがあるため、まことに明瞭にききとれる。
❺ポツンと切れてしまうことなく、余韻を残す。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶軽いひびきでピンとポンの差を明らかにする。
❷はるか後方からきこえてくる好ましさがある。
❸浮遊感が充分に示されているので、効果的だ。
❹音の遊泳が自然ですみやかなために、ひろびろと感じられる。
❺もりあがり方は自然だが、ピークではひびきがきつくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方でのひびきの透明感はほぼ申し分ない。
❷ギターの音像は小さく、したがってせりだし方をくっきりと示す。
❸くっきりひびいて、あいまいさがなく、有効だ。
❹このひびきのきらめきをよく伝えている。
❺ここでもまたうめこまれることなくいきている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音色をくっきりと示している。
❷厚みという点ではものたりなさもあるが、重なり方をよく示す。
❸充分に乾いたひびきで、すっきりとぬけでてくる。
❹ドラムスのひびきも、声も、質的に充分だ。
❺音楽のたち方も、音の重なり方もよくわかる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感を誇示するわけではないが、強いひびきをよく示す。
❷部分拡大にならず、なまなましさをもたらす。
❸元の音がしっかりしているので、消え方もあいまいにならない。
❹こまかい音に対しての対応も充分だ。
❺サム・ジョーンズによる音との対比の面でも秀れている。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶もう少し力強さがほしいが、シャープなつっこみはいい。
❷幾分ひかえめながら、一応の効果はあげる。
❸背後のひびきも明らかにしつつ、音色対比をくっきり示す。
❹空間が広くとれているので、トランペットの参加は有効だ。
❺リズムの刻みは、はなはだシャープである。

座鬼太鼓座
❶尺八は遠くからきこえて、その消え方も明らかだ。
❷尺八らしい音色ですっきりと示される。
❸ほとんどききとりがたいといっていいだろう。
❹大太鼓の大きさも強さも明らかになっていはいない。
❺ききとれるが、幾分とってつけたようだ。

スペンドール BCIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 弟分のBCIIがたいへん出来が良いものだから、それより手のかかったBCIIIなら、という期待が大きいせいもあるが、それにしてはもうひとつ、音のバランスや表現力が不足していると、いままでは聴くたびに感じていた。たった一度だけ、かなり鳴らし込んだもので、とても感心させられたことがあってその音は今でも忘れられない。今回何とか今までよりは良い音で聴いてみたいといろいろ試みるうち、意外なことに、専用のスタンドをやめて、ほんの数センチの低い台におろして、背面は壁につけて左右に大きく拡げて置くようにしてみると、いままで聴いたどのBCIIIよりも良いバランスが得られた。指定のスタンドを疑ってみなかったのは不明の至りだった。ただ、本質的にはやはりモニターとしてのいくらかまじめで渋い音なので、EMTのXSD15にKA7300Dというように、やや個性の強い個性をしてみると、艶も乗ってかなり上質の音が鳴ってきた。どちらかといえばほの暗い感じの音色で、イギリス紳士的なとり澄ました素気なさもあるし、ディットン66の打てば響くというような弾みのある鳴り方はしない。バルバラの歌でも、声の暖かさや色っぽさがもうひとつ不足して、中~高域の一部にわずかに(BCIIより)不連続な面も感じられる。しかし総体にはかなりクォリティの高いスピーカーであることが今回よくわかった。

スペンドール BCIII

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 イギリスのスペンドールは比較的新しいメーカーだが、その製品への信頼度は非常に高い。BBCのモニター・スピーカーの規格にもとづいて開発された同社のシステム中、このBCIIIは、シリーズ中の上級機種で、かなり大型のシステムである。独特なユニット構成で、30cmのプラスティック・コーンをベースにした4ウェイ・4スピーカーである。仕上げの高いエンクロージュアもこのスピーカーの音の美しさの要因だろう。

スペンドール BCII

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 スペンドールのシリーズ中、もっとも、バランスよくまとまった傑作といってよいのが、このBCIIで、やや縦長のプロポーションをもった中型ブックシェルフ・システムである。構成は3ウェイ3スピーカーだが、2ウェイで時稀有分、全帯域をカバーして、その上にスーパー・トゥイーターを附加した作りである。比較的薄いが堅いエンクロージュアは、いかにも音のよさを物語る。透明で暖かい艶のある音は、大変品がいい。

スペンドール BCII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 サンプルを初めて聴いたときから、その音のバランスの良さと響きの美しさが印象的だったが、いろいろな機会に聴くにつれて、ますます好きになってきて、いまや、自分用に買い込もうかと思いはじめた。鋭角的な音や、圧倒的なスケール感などを期待するのはこのスピーカーの性格から無理だが、反面、穏やかによく溶けあい広がってゆく豊かな響きは、クラシック中心の愛好家には、ぜひ一度は耳にする価値のある名作だ。