瀬川冬樹
続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第14項・スペンドールBCIIの組合せ例(その2)」より
イギリス・スペンドールのBCIIは、13項の組合せ例が暗示しているように、本質的に、スケールの大きな音ではなく、どちらかといえば音量もほどほどにおさえて、まさにコンサートホールで(とくにクラシックのようにPA装置──マイクロフォン──を使わない)音楽を鑑賞する感じ、というひとつの枠の中で楽しむスピーカーといえる。
けれど、このスピーカーは、もう少し出力の大きい高級アンプで鳴らせば、こういうサイズの、こういう価格(これは輸入品だから、イギリス本国での価格は、日本での定価の半値以下という、ほんとうにささやかなスピーカーなのだ)にしては、意外とも思える堂々としたスケールの大きさを楽しむこともできるし、ホールいっぱいに響き渡るオーケストラのフォルティシモの感じに近い音量が出せなくもない。
まずアキュフェーズのE303。これはいわゆるプリメイン型のアンプだが、この種のモデルの中では最も高級なグループで、出力も130ワット(×2)と十分すぎるほどだが、その出力が必要なのではない。そのことよりも、このアンプのとても透明で美しく、繊細でありながら底力のある音質が、スペンドールBCIIの艶やかな音色をよく助けて、全体として素晴らしい音に仕上げる点に注目したい。
またこのアンプは、出力の低いムーヴィングタイル(MC)型のカートリッジも十分に生かせるだけのヘッドアンプを内蔵しているので、せっかくのその性能を生かして、カートリッジには、デンマーク、オルトフォン製のMC10を組合わせる。オルトフォンのこの〝MC〟のつくシリーズには、MC10、MC20、MC30と三種類がある。MC20の音は最も中庸を得てバランスがよいが、いくぶん真面目すぎて、スペンドールBCIIの聴き手を心からくつろがせるようなたっぷりした響きがおさえぎみの傾向になる。その点が好みに合えば、むろんMC20もよい。しかしそれよりももう少し表情の生き生きした(反面メリハリがきついが)MC10のほうが、この場合はおもしろいと思って、あえてこちらにした。もし予算がゆるすなら、最高級機のMC30(おそろしく高価だが)ならいっそう良いことは当然なのだが……。
※
もうひとつ別の組合せとして、ラックスのLX38という、こんにちではもはや例外的な存在になってしまった真空管式のアンプで鳴らすのもまた、BCIIの別の面を抽き出すためにおもしろい。ことに弦の合奏や声楽での音の滑らかさ、そしてオーケストラのトゥッティでの、最新のトランジスタータイプのような音の隅々まで見通せるような感じのするほどの細やかな音とは反対に、全体をこんもりと包み込むような鳴り方。このアンプはMCカートリッジ用のヘッドアンプを内蔵していないが、組合せのバランスを考えると、カートリッジはMM型のエラック(エレクトロアクースティック)STS555Eがなかなか良い。
スピーカーシステム:スペンドール BCII ¥115,000×2
プリメインアンプ:アキュフェーズ E-303 ¥245,000
チューナー:アキュフェーズ T-103 ¥150,000
プレーヤーシステム:ビクター QL-A7 ¥85.000
カートリッジ:オルトフォン MC10 ¥25,000
計¥735,000
スピーカーシステム:スペンドール BCII ¥115,000×2
プリメインアンプ:ラックス LX38 ¥198,000
プレーヤーシステム:トリオ KP-7700 ¥80.000
カートリッジ:エレクトロアクースティック STS555E ¥35,900
計¥543,900
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