瀬川冬樹
続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第23項・アルテック アメリカでしか作ることのできない華麗な音の饗宴」より
ロードショー専門の大型映画劇場で、私たちを堪能させるような音の饗宴──それはたいていの場合、アルテックの大型スピーカーの再生するサウンドだと思って間違いない。アルテックを象徴する〝ザ・ヴォイス・オブ・ザ・シアター〟のシールを横腹に貼ったA5およびA7Xシステムの鳴らす堂々とそして朗々たる華麗な音。アルテックをのぞいてほかに思いあたらないスペクタクルなサウンド。これもまた、スピーカーだけが創りうる音の魅力のひとつの極だろう。
ハリウッドに象徴されるアメリカの映画産業の大型化とともに発達してきたトーキー用スピーカーをその基本にしているだけに、アルテックの能力を生かすことのできるのは、できるだけ広い空間だ。というよりも、たとえばホールや大会議室や講演会場といわれるような広い空間で、音楽を楽しむことのできるスピーカーを選べといわれたら、アルテックを措いて他には、私には考えられない。そういう広い空間を音で満たしながら、どこまでもクリアーで、少しもいじけたところのない伸び伸びとした、そうして、ときに思わず手に汗を握るほどのスペクタクルな、またショッキングな迫力。そういう音を再生してびくともしないタフネスなパワー。
アルテックのヴォイス・オブ・ザ・シアターのシリーズは、このように、ほんらい、広い空間でおおぜいの聴衆のために練り上げられてきたスピーカーであることを十分に認めた上で、しかしあえて、それをごくふつうの家庭のリスニングルームに収めて、レコードやFMの再生に、アルテックならではの、ことに人の声の音域に中心を置いた暖かい、充実感のある、それでいてクリアーな音の魅力を何とか抽き出してみよう……。こんなことを考えるのは、しかすると日本のオーディオファンだけなのだろうか。いや、アメリカにも、アルテックのサウンドにしびれているファンはおおぜいいる。けれど、たとえばA7Xを、八畳や十畳というような狭い空間(アルテック本来の望ましい空間からみれば)に押し込めてなお、クラシックの室内楽をさえ、びっくりするほどおとなしい音で鳴らしているファンを、私もまた何人か知っている。
とはいうものの、アルテックならではの音の肉づきの良さ、たっぷりと中味の詰った印象の充実感、は、たとえば50年代のモダンジャズにも、またそれとは全く別の世界だがたとえば艶歌の再生にも、また独特の魅力を発揮させうる。私個人は、アルテックの鳴らす音の世界には、音の微妙な陰影の表現が欠けていて少しばかり楽天的に聴きとれるが、それでも、アルテックが極上のコンディションで鳴っているときの音の良さには思わず聴き惚れることがある。
A5は、低音・高音のユニットをA7Xより強力にしたモデル。そしてマグニフィセントIIは、A7Xを家具調のエンクロージュアに収めたモデル。この三機種とも、最近になって改良が加えられて、以前の同型にくらべると、とくに高音域での音域が拡張されて音の鮮度が増している。
スピーカーシステム:アルテック A7-X ¥325,000×2
コントロールアンプ:マッキントッシュ C27 ¥346,000
パワーアンプ:マッキントッシュMC2205 ¥668,000
ターンテーブル:デンオン DP-80 ¥95.000
トーンアーム:デンオン DA-401 ¥35,000
キャビネット:デンオン DK-300 ¥55,000
カートリッジ:スタントン 881S ¥62,000
計¥1,911,000
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