瀬川冬樹
続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第6項・さらにもうひとつの音のタイプ 間接音型スピーカー」より
ここまでにあげたすべてのスピーカーが、その鳴らす音の味わい違いはあっても、すべて、スピーカーからの音をそのまま直接聴くという点で共通している。これに対して、スピーカーから出た音の全部あるいは一部を、周囲の壁にぶつけて一旦反射させて、いわゆる間接音、反射音として聴かせるタイプのスピーカーがある。
照明を例にとっても、直接光に対して間接照明は光がやわらかく、まんべんなく廻ることでわかるように、音もまた、一旦反射させて聴くと、鋭さがやわらげられると同時に、部屋ぜんたいに音がひろがって、場合によっては、どこから音が鳴ってくるか、音源の位置がわからなくなるような聴かせかたもできる。
しかし照明の場合、第一に光を反射する壁面の反射率によって反射光の割合が変り、また第二に、反射光の色あいが壁面の色彩に支配される。これは音の場合も同様で、スピーカーの音が一旦壁にぶつかって反射してくると、壁面の音響的な色彩が、反射音の強さや音色に大きく影響を及ぼす。つまり間接音型のスピーカーは、たしかに音がやわらげられるが、反面、その部屋の構造や壁面の材質、工法などによって再生音が大きく影響を受ける。
この理屈からとうぜんの結果として、反射型(間接音型)のスピーカーは、厳密な意味でのアキュレイトサウンドの範疇には入らないことがわかる。
けれど、アメリカのBOSE社では、このことを計算に置いて、いろいろなタイプの部屋の壁面から反射音の色づけを補整するような、可変式のイクォライザー(音質補整器)を併用することを前提として、直接音型のスピーカーでは得られにくい一般家庭でのコンサートプレゼンス(コンサート会場で体験できるあの音のひろがり、音全体に身体が包まれるような効果)を再現する唯一のスピーカー、というふれこみで、独特のスピーカーを作っている。つまりBOSE社のスピーカーは、間接音型でありながら、その目ざすところはアキュレイトサウンドだという点で、いささか特異な存在だ。
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これに対して、スウェーデンのソナーブや、イギリスのリン・ソンデック〝アイソバリック〟や、アメリカのアリソン、日本のビクター(GB1H)などが、ほんらいの間接音型として、数少ないがそれぞれにユニークな存在だ。
また、これらと直接音型の中間的存在として、直接音を主体としながら、スピーカーの背面にも一部の音を出して、結果的に背面からの反射音をわずかに加えようという製品として、アメリカ・エレクトロボイスのインターフェイス・シリーズや、同じくアメリカのESSがあげられる。イギリスQUADのESLは、そういう効果をねらった製品ではないが、背面を広くあけて設置するようにという指定があって、結果的に部屋の反射音を無視できない構造だし、アメリカ・ビバリッジの大型スピーカーは、直接音と間接音の中間的な性格の音を聴くという独特の製品だ。
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