Speaker System (spectacle sound)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第5項・スペクタルサウンド クリエイティヴサウンドのもうひとつのタイプ」より

 スピーカーの鳴らす音の快さは、柔らかく耳あたりの良い音ばかりとは限らない。反対に、ナマの楽器ではとうてい出しえない大きな音量やスケールの大きな響き、部屋いっぱいに満ちあふれるような堂々とした迫力、といった、いわばスペクタクルな音もまた、スピーカーの鳴らすひとつの世界といえる。この種の音は、やはり、アメリカのスピーカー、それも、映画の都ハリウッドが、トーキーの発達とともに育てあげたいわゆるシアターサウンドにとどめを刺す。
 シアターサウンドといえば,はやり第一にアルテックの〝ザ・ヴォイス・オブ・ザ・シアター〟シリーズのA5やA7(こんにちではA7X)、ないしは、それを家庭用のデザインにアレンジした〝マグニフィセント〟などが代表製品としてあげられる。
 その本来の目的から、映画劇場のスクリーンのうしろに設置されて、広い劇場のすみずみまで、世紀の美男美女の恋のささやきから、雷鳴、大砲のとどろき、駅馬車の大群、滝の轟音……およそあらゆる音を、しかもかなりの音量で鳴らし分けなくてはならないのだから、家庭用スピーカーの快い音や、モニターのための正確な音とは、まったく別の作り方をしてある。とうぜん、一般家庭用のリスニングルームに持ち込まれることなど、メーカーの側では考えてもみないことだったに違いない。
 だが、朝に和食、昼に中華、夕にフランス料理を楽しむ日本人の感覚は、シアタースピーカーの音を家庭でも受け入れてしまう。4項であげたイギリス・ヴァイタヴォックスの〝バイトーン・メイジャー〟も、本来はシアター用スピーカーだ。ヴァイタヴォックスには、さらに大型の──というよりマンモス級の巨大な──BASS BINというスピーカーもある。むろんアルテックにもこの種の超弩級がある。このクラスになると、大きさの点だけでももう一般家庭には入りきれないが、バイトーン・メイジャーやA5、A7クラスを、ごくふつうの部屋に収めている愛好家は少なくない。JBLのプロ用スピーカーの中の〝PAシリーズ〟にも、この種の製品がいくつかある。
 これらのスピーカーは、言うまでもなく本来はスペクタクルサウンドのための製品だが、しかしおもしろいことに、日本のオーディオ愛好家でこの種のスピーカーを家庭に持ち込んで楽しむ人たち多くは、決してスペクタクルな音を求めてそうしているのではなく、逆にそういう性格をできるかぎりおさえ込んで、いわば大型エンジンを絞って使うと同じように、底力を秘めた音のゆとりを楽しんでいるという例が多い。
 けれど念を押すまでもなく、この種のスピーカーは、もっと広いスペースで、大きな音量で、まさにスペクタクルな音を轟々ととどろかせるときに、本来の性能が十分に発揮される。そしてこういう音を聴く快感は、まさにスピーカーの世界そのものだ。そしてそのためには、できるだけ広い空間、しかもその空間を満たす音量が周囲に迷惑をおよぼすことのないような遮音の対策が、ぜひとも必要だ。そういう意味でこの種のスピーカーは決して一般的なものとはいえない。ただここでは、スピーカーの鳴らす音の世界にそういう一面もあるという説明のために例をあげたにすきない。

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