Category Archives: アインシュタイン

アインシュタイン Edison

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 同社はプリメインアンプやスピーカーシステム同様、いかにもドイツ製らしい堅実さとオーソドックスな体質で信頼性の高いメーカーだと思う。カートリッジが発売済みであり、このプレーヤー(トーンアームレス)の登場で総合メーカーの感を強めるに至った。
 これはターンテーブルがマグネット・フィールドによるフローティング構造であるところが特徴である。かつて『マグネフロート』の名称で、この方式のプレーヤーが国産であったのをご記憶の方もおられるであろう。アインシュタインではこれを『コンスタント・マグネティック・フィールド・ターンテーブル』と称している。フローティング・サスペンションとの併用で、駆動はベルト方式。
 SME3010Rトーンアームによる「クロイツエル・ソナタ」のシェリングのヴァイオリンの音は、しっかりした質感を聴かせる。演奏の特質がよく伝わる。ピアノのアコードは、エネルギーバランスが整っているため安定した造形感であるし、バックグラウンド・ノイズも落ち着いていて好ましい。マグネティック・フローティングとサブシャーシのサスのバランス・コントロールはよい状態である。フローティング式としては切れ込みもまずまずで、「トスカ」の複雉多彩な編成もよくこなす。汚れ感は少ないし、耳馴染みのよい高音域である。
 欲をいえば、ブラスの輝きやグランカッサとティンパニの音触分離などに明噺さがほしい気もするが、それが得られた時には鋭角で刺激的、時に冷たい温度感がおまけに付いてくる危険も覚悟しなければならないだろう。オーディオ機器とはそういうものである。妥当な再生音というものはバランスのよさから得られるものであり、エキセントリックな魅力と両立しない宿命がある。どちらを取るかは人格と哲学の問題である。アインシュタインがオーソドックスなメーカーだと冒頭で言ったのは、この普遍性に立つからだ。

アインシュタイン Integrated Amp.

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 今年の秋に本邦にデビューしたドイツ製のプリメインアンプである。新しいメーカーの新しい製品を一流品として紹介するのは勇気のいることである。一流品は一流メーカーが作るものでなければならないが、一流メーカーとは一朝一夕に出来上るものとは限らない。もちろん、企業の規模とは無関係とはいうものの、あまりにも経営基盤が弱かったり、不安定であったりすれば、どんなに高邁な姿勢であってもユーザーに不信を与えることは畢竟だからである。また、いかに大資本であっても、その姿勢が営利の追求だけのようなメーカーは、ここで一流メーカーとして扱いたくないし、そういうメーカーの製品を一流品とするわけにはいかない。
 この会社は’87年の創業だから、まだ4年足らずの新しいメーカーだ。ロルフ・ハイファー(技術担当副社長)の開発になる同社の製品は、このアンプの他にチューナー、スピーカーシステムがあり、さらにスーパーD/Aコンバーターを開発進行中である。もう一人の副社長フォルカー・ボールマイヤーはハイファイ事業に経験の豊かな人らしく、この他にもいくつかの製品の開発製造にかかわっているという。社長のゲルハルト・ロルフ・ファン・ベルズワード・ウォールラブが財務担当の資本家らしい。また、管球式アンプやEMTとの提携によるカートリッジ製作など、強いハイファイ志向を持った企業であることがわかる。さらに、アインシュタイン社にはRIFFというレーベルのレコード制作部門もあるらしい。この25mm厚のアルミ削り出しフロントパネルにステンレスケースの美しいアンプを一目見れば、この社のオーディオへのセンスと情熱が理解できるはずだ。8Ω60Wのパワーは1Ω負何400Wまで保証される実力をもったもので、MC/MMのフォノイコライザーも備える完全なインテグラルアンプである。電源まわりを見ても本格派の設計であり、その音の純度の高さが納得できるものだ。

アインシュタイン Integrated Amplifier

井上卓也

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 国内でオーディオメーカーといえば、世界的規模で活動をする巨大産業という印象が強いが、海外では、従業員が数名程度の小規模なオーディオメーカーが、想像以上に存在する。このことは、欧米で開催されるオーディオショウを見るたびに、一種の驚きとして感じられることであるが、ドイツのアインシュタイン社も、そのようなメーカーのひとつであるようだ。
 アインシュタイン社は、1988年に当時の西ドイツ・ルール地方で、エレクトロニクスのエンジニア、ロルフ・ハイファー氏を中心にして設立されたオーディオメーカーであり、現在も数人のメンバーにより活動をしている。ユニークなことに同社はアインシュタイン・ブランドのみならず、真空管アンプを専業とするオレンジ・オーディオ、高級アナログカートリッジを開発するチューバフォン、そしてレコード部門のRIFFレコードという計4つのセクションを合せもっている。
 今回輸入されたアインシュタインのインテグレーテッドアンプをモデルナンバーとするプリメインアンプは、1988年に前記ロルフ・ハイファー氏により設計されたアインシュタイン社の第1弾製品であり、同社のオーディオ理念を知るためには好適なモデルのようだ。
 外観から受ける第一印象は、シンプルなレイアウトのブラックパネルとクロームに輝く筐体から、いかにもドイツ的な感覚に基づいたパワーアンプを思わせる個性の強いデザインに目を奪われる。しかし、目を転じてリアパネル側から眺めると、このアンプが非常にユニークな構造をもつブリメインアンプであることがわかる。
 ベースとなる筐体はやや薄型のコントロールアンプ的なイメージの作りであるが、比較的に背の高いフロントパネルは、下側3分の1は筐体部分がなく、フロントパネルを下側に伸ばし、その両側に脚部を設けた単なるフートなのである。したがって横および後から見れば、筐体は高床住宅的に後側1点、前側2点の計3点で支持され中空に浮いた状態になっている。この特殊構造の説明は特にないが、考えられることは、冷却用空気の流通面でのメリットをはじめ、アンプを設置した場合の設置面と筐体底板面におけるスピーカーの音圧によって生じる定在波のコントロール、設置面の下側からの磁気的な影響を避けるため、などをあげることができるだろう。
 内部構造や部品配置は、同社ではピュア・デュアル・モノコンストラクションを標榜しているが、内部の写真でもわかるように、入力から出力に至る信号内経路の短縮化が最大の目的のようで、本機の場合、信号経路長は20cm以下と発表されている。
 アンプとしてのブロックダイアグラムは3ブロック構成である。まずフォノイコライザー段は、20個の低雑音トランジスターで構成されるディスクリートタイプと資料にはあるが、RIAA素子がバッシヴ型とのことであるため、2段構成のアンプ段間にCR型イコ一アイザーを置くタイプなのであろう。
 信号系にOPアンプやコンデンサーがないという資料の記述は、やや理解に苦しむところである。
 MM/MC切替は、リアパネルのスイッチで対応し、MC負荷抵抗は、標準100Ω、背面プラグで各種の対応が可能である。ラインアンプは、利得10dB程のオペアンプ構成で、CD入力部には特殊回路が開発されアナログを凌ぐ音質を確保している。
 パワー段は、モトローラ社製バイポーラトランジスターの採用で8Ω時60W+60W、1Ω時400W+400Wの出力とのことだ。
 機能面は、最低限の機能を残す音質重視設計で、入力切替はリレーによるリモート操作型、ボリュウムも、パネル面のロータリースイッチで基板部にあるリレーを操作し基板上の抵抗を切替える方式である。このボリュウムは通常使用ではやや低利得に感じるが、筐体底板の右前部にある切替スイッチにより、ボリュウム最大値の1ステップ上のレベルを通常の0位置として本来の最大レベルまで利得が上がるという、非常にユニークな仕様になっている。ただしスイッチ切替を誤れば、0位置でもかなりの音量となるなど、過大レベルの危険もあるため厳重な注意が操作上は必要である。
 電源部も非常に特徴的で、広帯域にわたり電源インピーダンスを低く保つため小型コンデンサーを約50個並列使用している。
 フロントパネルは25mm厚のアルミブロックを削り出し、ピアノ塗装仕上げとしている。筐体はステンレスを採用し、不思議な魅力を備えている。
 音も実に個性的だ。油絵を想わせるポッテリと色あいの濃い音は、陰影豊かで、程よい実体感があり、音場感にも優れている。また、一種の管球アンプ的な大人っぼい雰囲気がある。本機はプリメインアンプとしてはかなり高額であるが、それに見合ったクォリティは今後注目に値するだろう。