Category Archives: グラド

グラド Laboratory Tone-Arm

瀬川冬樹

ステレオサウンド 50号(1979年3月発行)
特集・「栄光のコンポーネントに贈るステート・オブ・ジ・アート賞」より

 古いカタログを探し出してみると GRADO LABORATORIES, INC. 4614 Seventh Ave. Brooklyn 20, N.Y. 価格は$39.50. とある。
 LP以後のアメリカのオーディオ機器のいわば第一期黄金時代というべき一九五〇年代。そのピークを飾ったマランツのアンプの全盛の頃、グラドは、ピックアップの分野でいわばマランツ級の超一流の評価を得ていた。それば単に性能の優れていたばかりでなく、デザインや仕上げが、複雑で洗練されていて、製作者の教養を感じさせる品位の高さがある。
 グラドは、モノ時代から主材に銃床(ガンストック)用のきわめて堅固なよく枯れたウォルナットを削り出した、流麗なスタイルのアームを作って、我々をびっくりさせた。無理のない美しい曲線が、極上のウォルナットの質感をよく生かして、見ただけで欲しくなるアームだった。ステレオ時代に入って、ラボラトリー・トーンアームと名づけて軽質量化したのが写真のアームで、モノ用よりもスリムになって、いっそう洗練の度を加えた。ウォルナットの地肌に、地色のままのアルミニウムの艶をおさえた白。メインウェイトの支持部とラテラルウェイトは支持部とラテラルウェイトは真鍮にブラッククロームメッキ。アーム根元のベースは、硬質ゴムを機械加工しているが、わざと平面でなく厚みをかえていて、取付後に回転させながらアームの水平を調整するという素晴らしい着想。アームレストにはマグネットキャッチが仕込んである。
 構造はダイナミックバランス型で、針圧は付属の針圧計による点は、当時の他の大半のアームと同様だ。カートリッジはテフロン製のスライドにとりつけて、先端部のネジでしめつける交換式。
 ステレオ初期の設計なので、針圧2グラム以下ではやや感度が鈍るが、たとえばオルトフォンSPUなど、3グラム以上かけてよいカートリッジなら、こんにちでも、上質のウッドアームのよく制動の利いた緻密な音質を楽しむことができる。

グラド Signature II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

高価だが素晴らしく滑らかで品位の高い艶のある音が聴き手を捉える。

グラド Signature I

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 グラドというブランド名は、日本ではそれほどポピュラーではないが、かなり古くからトーンアームやカートリッジの分野で実績をもつ、ニューヨーク市ブルックリンにある会社である。
 この会社の最新型であり、最高級のカートリッジがこのシグナチェア1だ。このカートリッジは、ずば抜けた特性をもつ手づくりの製品で、ジョセフ・グラドというこの会社の社長であり、エンジニアである人が、一途に情熱をかたむけてつくりあげた製品である。このカートリッジの前面には、社長のイニシャルであるJFというマークが刻印され、このモデルの由緒正しさを表わしていると同時に、ハイクォリティ・カートリッジであることを示唆しているようだ。
 MI型のカートリッジであるこのシグナチェア1は、商品づくりという域を脱した手仕事から生まれ、それに見合った性能の良さ、音質の良さが感じられる。一流品に価するカートリッジである。

グラド FCE+, F-3E+, F-1+

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 グラドは、ステレオ初期に高出力型のMCカートリッジを出し、そのクォリティの高さにより、当時の高級ファンに愛用者が多かったが、最近では、マグネチックタイプの、いわゆるMI型の発電方式を採用した一連のシリーズのカートリッジで、安定した評価を得ている。
 F1+は、現在のグラドのトップモデルである。全体に歪感がなく、滑らかでソフトな音をもっているために、ちょっと聴きでは際立った印象を与えないが、クォリティは充分に高く、長期間にわたり聴き込んでいくと、だんだん魅力が出てくるタイプの音である。
 音の粒子は細かく、よく磨き込まれており、軽く滑らかで明るい音色をもっている。ヴォーカルは力強さを感じさせるタイプではないが、細かいニュアンスがわかり子音を強調せずにナチュラルである。ピアノはややスケールが小さくなる傾向をみせるが、ソフトで柔らかく、よく響き軽快に鳴るタイプである。
 ステレオフォニックな音場感はよく拡がり、前後のパースペクティブな感じもよく出すが、スピーカーとスピーカーの奥深く拡がるタイプである。音像は比較的クッキリと立ち、定位も安定している。
 F3E+は、中低域がかろやかで、よく響くところは、F1+と似ている。ただ、音の粒子は少し粗くなり、中域から中高域にかけて、わずかに強調感があるように感じる。全体の音の傾向は、明快でメリハリが効いた一種のリアルさがあり、F1+よりも音のコントラストがクッキリと付くが、中域が充実し低域がサポートをしているために安定感が感じられるのがよい。このクラスの製品としては力感があり、トータルバランスがよいが、低域はやや甘口である。
 FCE+は、海外製品としてはもっとも安いクラスの製品である。全体に中域を重視した比較的カマボコ型のレスポンスを感じさせる。低域はやや量的に抑えられており、締まったメリットがあるが、スケール感が小さくなるようだ。粒立ちは粗く、ヴォーカルはハスキー調となり、音像が大きくなる傾向がある。

グラド FCE+, F-3E+, F-1+

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 発売以来、実用性能一点ばりのためか、外観的な面では、何か時代のずれがあって、センスの良さが少しもないが、逆にこのごつい形が、実用的なオリジナリティを創っているともいえる。
 音の方は、外観のひどさにはほど遠く、かつての音楽的センスがフルに生かされて、きわめて好ましい力のある帯域内のバランスを作っている。中域ではややソフトというか耳当りの良さを持ち、いわゆる疲れることのない、接しやすい音だ。この中域を中心に、粒立ちの良さを作る中高域の明るく引きしまったサウンド、さらにそれ以上ではどぎつくならない程度の、さわやかに輝く高域、加えて低音は決してローエンドまで延びていないが量感と力強さとがバランスしている。
 こうしたサウンドは、どちらかというと米国のメーカーよりもヨーロッパのそれに多いので、米国製カートリッジとしてはかなり強い特長として受けとられているだろう。
 FCE+は海外製品の日本市場価格としてはもっとも低価格であり、それでさえはっきりとグラド特有のサウンドを示しているが、中域での甘さはおさえられ力強さを感じさせる。ステレオ音場としてはあまり拡がりはないが、音像の定位はきわめて確かで、低音に至るまであらゆるレベルでふらつくことはない。ただスクラッチが目立つのが残念だが価格から考えれば無理か。
 F3E+は一万円を超える価格で、国内製品と実際価格としても変ることなく、しかも1gの針圧でトレースは確かであるし、高音域の延びはずっと拡大され、広帯域指向を狙っている。やや高域で独得の輝きがあるが、決してうるさくはならず、再生上きらめくような音楽的な鳴り方を示してくれる。中域の耳当りの良さはここではグラド本来のもので、FCシリーズのような力強さはなく、バランスもゆったりした低音感の豊かさに支えられて聴きやすい。ステレオ音像ほ、高域まで拡がりよい空間にソロの音像が、少々小さめに定位し、高級カートリッジなみにその確かさを感じる。
 F1+はグラドの高級品種で、さすがにハイエンドの十分な延びが、全体の音を静かにし、品の良さをプラスするのに有効だ。スクラッチの静けさも特筆できる。

グラド FCE+

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 あまりみばえのしない外観はグラドの共通的なマイナス面であるが、その音の安定ぶりと鮮かな再生ぶりでまったく見直される。より高域までの再生帯域と繊細さがプラスだ。

グラド FCR+

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 思いもかけぬ、という言い方どおりこの品質は価格から判断できぬ充実した音だ。中域のくっきりした力のある音と豊かな低域は、米国製らしからぬ優れたサウンドと追従性。