グラド FCE+, F-3E+, F-1+

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 発売以来、実用性能一点ばりのためか、外観的な面では、何か時代のずれがあって、センスの良さが少しもないが、逆にこのごつい形が、実用的なオリジナリティを創っているともいえる。
 音の方は、外観のひどさにはほど遠く、かつての音楽的センスがフルに生かされて、きわめて好ましい力のある帯域内のバランスを作っている。中域ではややソフトというか耳当りの良さを持ち、いわゆる疲れることのない、接しやすい音だ。この中域を中心に、粒立ちの良さを作る中高域の明るく引きしまったサウンド、さらにそれ以上ではどぎつくならない程度の、さわやかに輝く高域、加えて低音は決してローエンドまで延びていないが量感と力強さとがバランスしている。
 こうしたサウンドは、どちらかというと米国のメーカーよりもヨーロッパのそれに多いので、米国製カートリッジとしてはかなり強い特長として受けとられているだろう。
 FCE+は海外製品の日本市場価格としてはもっとも低価格であり、それでさえはっきりとグラド特有のサウンドを示しているが、中域での甘さはおさえられ力強さを感じさせる。ステレオ音場としてはあまり拡がりはないが、音像の定位はきわめて確かで、低音に至るまであらゆるレベルでふらつくことはない。ただスクラッチが目立つのが残念だが価格から考えれば無理か。
 F3E+は一万円を超える価格で、国内製品と実際価格としても変ることなく、しかも1gの針圧でトレースは確かであるし、高音域の延びはずっと拡大され、広帯域指向を狙っている。やや高域で独得の輝きがあるが、決してうるさくはならず、再生上きらめくような音楽的な鳴り方を示してくれる。中域の耳当りの良さはここではグラド本来のもので、FCシリーズのような力強さはなく、バランスもゆったりした低音感の豊かさに支えられて聴きやすい。ステレオ音像ほ、高域まで拡がりよい空間にソロの音像が、少々小さめに定位し、高級カートリッジなみにその確かさを感じる。
 F1+はグラドの高級品種で、さすがにハイエンドの十分な延びが、全体の音を静かにし、品の良さをプラスするのに有効だ。スクラッチの静けさも特筆できる。

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