オルトフォン SPU-G/E, SPU-GT/E, SPU-A/E, SL15EMKII, SL15Q, MC20, VMS20E, M15E Super

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 デンマークは陸続きのいわゆるヨーロッパ大陸の典型的オーディオメーカーといえる体質で、そのサウンドには、低音の力強い量感と、その上に支えられた厚い中音部、さらに高域の輝やきがバランス良く音楽再生を構築する。それに現代オーディオの基本姿勢ともいえるワイドレンジ、フラットレスポンスをいかなる形で融け込ませるか、がMC型新種のテーマで、何度目かのアプローチの結果がSL15の成功だ。MC20はさらに低音の引き締ったエネルギーとフラット特性の熟成である。SPU−G/E以後、永くMCのみだったオルトフォンもM15以来、いくつかのMI型にも積極的で、昨年始め以来広帯域型ともいえるVMS20がその最新モデルとなっている。
 SPU−G/Eは、いかにも豊かな低音ここにありといった厚さと量感がたっぷりしているが、これは少々質的にふくらみすぎ、引き締った筋肉質ではない。だからローレベルでの低域は、どうしてもホールの響きのようにいつまでもつきまとって、今日的な意味で冴えているとはいえない。
 この低音の厚さにバランスして高音の輝やきがまたきらびやかである。中低域から中域はソフトながら芯の強さがあって内部の充実を感じさせるが、これも分解能力の点では物足りない。
 SPU−GT/Eになってトランスを内蔵する場合、使用上便利この上なく、リーケージによるハムも心配ないのも凝り性の初心者向きといわれる理由だ。しかし低音は一層ゆたかでまさにふやけてしまう。またハイエンドとローエンドでの伸びが抑えられたので、一聴すると苦情は出ないが、トランスを外して確かめれば2度とトランスをつけたくなくなるほどだ。当然ヘッドアンプを欲しくなりSPU−G/Eが主体となってくるに違いない。
 SPU−A/EはAシェルに入っただけではない。明かにカートリッジの差があって低域は伸びていないがずっとおさえられ、全体にそっ気ない音になっている。むろん細部を聴けばオルトフォンの中域であり、低域でありバランスではあるが。でもステレオ音像の確かさからSPU−Aの良さはもっともはっきり確かめられよう。拡がりは十分ではないが、音像の定位はピシリと決ってくる。
 SL15MKIIは、かなりワイドレンジ化を進めた製品だ。SPUとは全然質の違う低音はよくのびてゆったりしているが、量感はおさえられている。ハイエンドもよくのび静かさが強く出てきて、現代志向が強い。きめの細かさは粒立ちの粒子が一段とミクロ化して、分解能力が格段だ。ヴォーカルのソフトな再現性は迫るほどであるが、少々作り物といった感じもある。
 SL15QはCD−4対応型で、高域のレンジの拡大がはかられているが質的にはSL15MKIIの高級品といったイメージ。
 MC20が今回の大きなポイントだが引きしまった力強い低音と緻密な中域が見事だ。ハイエンドの伸びも注目できよう。トレース能力も見事。
 VMS20Eは、SL15のMI型とでもいえるサウンドで、低域がややソフトで耳当りよいが、オーバーではない。オルトフォン全製品中、全体に広帯域感がもっとも強い。
 M15EスーパーはSPUのスペクトラムバランスをサウンドに秘めたMI型でトレース性能の点でもシュアーV15を凌ぐほどの実用性能である。

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