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オルトフォン MC20

岩崎千明 

週刊FM No.19(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 オルトフォンが、久方ぶりにMC型カートリッジの製品を出した。SL−15という傑作をデヴューさせてから何年になるだろうかその名もずぱり、「MC−20」と新しいネーミングで、いかにも自信のほどを、その名前からもうかがえる。MC−20は、まるでラピラズリーのような濃いブルーのボディで、よく見る今までのSL−15と外形は寸法までもまったく同じのようだ。しかし、その針先のカンチレバーは、今でより一段と細く小さい。
 MC−20は、まさに現代の技術によって、現代の音を背景として「オルトフォン」によって作られたムーヴィングコイル型カートリッジだ。その音の力強さの中に、オルトフォン直系の姿勢を感じとる事ができる。でも、この驚くほどの広帯域、分解能力は、まさに今日のハイファイの技術と、それによって来たるサウンドとを知らされるだろう。
 確かに、MC型は、MM型とは本質的な音の中味の違いを持っていることを、つくづく知らせてくれる。MC−20は、こうした点でもっともMC型らしさを持っているカートリッジだが、これは、もっとも老練なMC型メーカー、オルトフォンが作る製品であることを知れば当然だ。世界に、これ程MC型のノウハウを、長年蓄積してきたメーカーはないのだから。といっても、いまやMC型を作るメーカーは、はたして世界に何社あるだろうか。そこまで考えれば、MC−20の存在価値と、高価格の意義もおのずから定まるといえよう。

オルトフォン MC10 Superme, MC20 Superme, MC30 Superme

井上卓也

オルトフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1994年2月発行)
「オルトフォンカートリッジが聴かせる素晴らしきアナログワールド」より

 SPU系とは異なり、現代タイプのMC型カートリッジを目指して開発されたシリーズが、MC10/20/30の3モデルで構成する2桁ナンバーのMCシリーズで、オルトフォンMC型の中核をなす存在である。世界的な市場では、このシリーズがオルトフォンの代表機種とされているようである。
 本シリーズの中堅モデルMC20サプリームの原型は、1976年に誕生したMC20とされている。しかしそれ以前にも、巻枠形状はMC20とは異なるが、S15、SL15などのSPU系とは異なった製品が開発されており、マクロ的に考えれば、これらのモデル開発での成果がMC20に活かされていると考えることもできるだろう。
 MC20の登場以来、すでに18年の歳月が経過し、その間に数度のモデルチェンジが重ねられている。今回のサプリームタイプは第5世代目となるが、MC2000に始まったトップモデル開発での成果は、実に見事にこのシリーズに反映され、前作のスーパーIIで驚かされた確実なグレードアップは今回でも変らず、MC20サプリームが前作の上級モデルMC30スーパーIIをも超すパフォーマンスを備えていることは、このシリーズに賭けるオルトフォンの並々ならぬ意気込みを示す証である。
 振動系の発電コイル巻枠に十文字状の磁性体を使う設計は、DL103の開発でデンオンが初めて採用した構造と同じであり、パイプカンチレバーとともに、前作のスーパーIIを受け継いだ特徴である。磁気回路は、現時点で最強の磁気エネルギーをもつネオジウム・マグネットを中心に、回路全体の設計を一新し、いっぽう、発電用コイルには7N銅線を新しく採用するとともに、インピーダンスを3Ωから5Ωとし、コイルの巻数を増加させて、出力電圧を0・2mVから、高出力MC型のHMCシリーズと同じ0・5mVにまで高めている点に注目したい。
 その他、サプリームシリーズ共通の特徴には、ヘッドシェルとボディの全面接触をあえて避け、針先側1個、端子側2個の突起によって3点で接触するユニークな取付け方法「3点支持マウンティング」の新採用があり、さらに、マウントを一段と安定させ振動を除去するために、取付け穴にネジを切って、ビス/ナット方式と比べて、一段とボディとヘッドシェルの一体化を高める構造としたことが、これに加わる。
 またボディのディスクと接する部分には、静電気対策のクリック/ポップノイズ・デイスチャージャーを備えていることも、このシリーズの特徴である。
 サプリームシリーズ3モデル間の基本的な違いは針先形状にある。
 MC10サブリームは8×18μm超楕円針、MC20サプリームは8×40μm超楕円ファインライン型、MC30サプリームは従来の18×40μmレプリカント・スタイラスチップに代えて、6×80μmという超楕円状の新開発スーパーファインライン・スタイラスチップを採用。針先形状の違いで、周波数特性、チャンネルセパレーションなどで差が生じてくる。
 サプリームシリーズの発売にあたり、昇圧トランスT30も内容を一新し、発展改良されT30MKIIとなった。試聴にはこのトランスを使用した。

MC10 Superme
 MC10サプリームはこのシリーズのベーシックモデルで、価格対満足度の高さで際立った製品である。
 針圧は前作の適正針圧1・8gから2gに変ったため、試聴は針圧/インサイドフォースともに2gからスタートする。
 豊かで安定感のある低域をベースとした、ややナローレンジ型の帯域レスポンスをもち、中高域から高域は抑え気味の印象があり、やや線の太い安定度重視型の音である。
 バランス的にはわずかに低域型で、小型から中型のスピーカーシステムにマッチしそうな音だ。中域がしっかりとしたエネルギーをもち、新旧ディスクの特徴を巧みに捉えて聴かせるコントロ−ルの巧みさは、さすがに伝統あるオルトフォンならではの味わいが感じられる。
 音の分離は標準的ではあるが、もう少しクリアーさが加われば、このマクロ的な音のまとまりは解消されるだろう。
 針圧とインサイドフォースを2・25gに上げると、音に鮮度感が加わり、帯域バランスは一段とナチュラルな方向に変る。音場感情報も増えて、見通しの良さが聴きとれるようになる。また、中域から中高域には安定感が一段と加わり、ほどよい輝かしさがあり、低域と巧みにバランスする。
 低域の力強さ、豊かさを活かして、小型スピーカーと組み合わせて使う時に、もっとも魅力が引き出せるMC型カートリッジである。

MC20 Superme
 MC20サプリームの試聴モデルは適度に使用されたカートリッジのようで、針圧とインサイドフォースは適正値の2gで音がピタッと決まり、トータルバランスが見事にとれた、ほどよい鮮度感がある、反応のシャープな音を聴かせてくれる。このナチュラルさは大変に魅力的である。
 聴感上での帯域レスポンスは必要にして十分なものがあり、低域から高域にわたる音色も均一にコントロールされ、古いディスクで気になりやすいヴァイオリンの強調感が皆無に近く、スムーズである。古いディスクを古さを感じさせずに聴くことができるのは、アナログディスクファンにとって大変に好ましいメリットである。
 音の表情は全体に若々しく、一種ケロッとした爽やかさが好ましい。音場感は十分に拡がり、奥行きもほどよく聴かせてくれる。
 音場感的プレゼンスと音の表情を、インサイドフォース量でかなりコントロールできるのも、このモデルの特徴である。
 新しいディスクに対しては、音のディテールよりも、滑らかさ、しなやかさで、新しいディスクならではの聴感上のSN比の良さや、音場感を雰囲気よく聴かせる傾向がある。
 音場感情報は標準よりやや上のレベルで、音場はソフトにまとまり、適度に距離感をもって拡がるタイプだ。
 針圧とインサイドフォースを2・25gに上げると、音のエッジが滑らかに磨かれたイメージとなり、低域の安定度が一段と向上した内容の濃い音に変る。これは、かなり大人っぼい安定したクォリティの高い音で、反応は緩やかだが、落ち着いて各種のプログラムソースを長時間聴きたい時に好適である。針圧とインサイドフォースのコントロールで、爽やかでフレッシュな音から安定感のあるマイルドな音まで使いこなしができることは、このモデルの基本性能の見事さを示すものだ。

MC30 Superme
 MC30サプリームの試聴モデルは、針先が完全に新しい状態にあるようで、わずかな針圧変化に過敏なほどに反応するシャープさをもつ。
 適正値の針圧/インサイドフォース2gでは、音にコントラストがクッキリとついた、かなり広帯域型バランスの音ではあるが、シャープさが不満である。2・2gより少しアンダー(2・15g位)では少しシャープさが加わると同時に安定度が増し、2・25gでは音のコントラストは少し抑えられるが、しなやかな表現力と柔らかさ、豊かさが聴かれるようになり、全体のまとまりは2g時と比べ大幅に向上する。
 この2・2gアンダー時と2・25g時の音の変化は大きく、使いごたえのあるMC型カートトッジである。
 新旧ディスクには、わずかの針圧変化で見事な対応を示し、各時代別のディスクの特徴を見事に引き出してくれるのは楽しい。
 音場感情報はさすがに豊かで、聴感上のSN比もトップモデルだけにシリーズ中トップにランクされる。トータルなパフォーマンスも前作比で確実に1ランク向上しており、基本的に安定度の高い音だけに、使いこなせば想像を超えた次元の音が楽しめよう。

オルトフォン MC20MKII

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 MC30に採用された三層構造のセレクティブダンピング方式を導入し、リファインした製品。伸びやかでスムーズな音が特長。

オルトフォン MC20, MC30, SPU-A

オルトフォンのカートリッジMC20、MC30、SPU-Aの広告(輸入元:ハーマンインターナショナル)
(モダン・ジャズ読本 ’80掲載)

ortofon

オルトフォン M20FL Super, M20E Super, MC10, MC20, MC30, MCA10, MCA76, T-30, RF297

オルトフォンのカートリッジM20FL Super、M20E Super、MC10、MC20、MC30、ヘッドアンプMCA10、MCA76、昇圧トランスT30、トーンアームRF297の広告(輸入元:ハーマンインターナショナル)
(ステレオ 1979年2月号掲載)

T30

オルトフォン MC20

黒田恭一

ステレオサウンド 48号(1978年9月発行)
特集・「音の良いプレーヤーシステムは何か プレーヤーシステムによって同じカートリッジの音がどのように変わったか」より

●オルトフォンMC20の基本的性格
 非常にいいところをもっているカートリッジだが、そのよさをいかすのには、なかなかむずかしいところがありそうだ。プレーヤーシステムによっては、音像が肥大することがある。それはおそらく、このカートリッジの持味のひとつであるひびきのなめらかさと無関係ではない。したがってこのカートリッジにおけるなめらかさは、諸刃の剣というべきかもしれない。暖色系の音で、なめらかで、まろやかで、だから、そのよさがそのまま示されたときにはいいが、音像を肥大させる方向に働くと、ひびきは、メリハリがたたなくなり、あつくるしくなる。よさをひきだすには、充分に慎重に使うべきだろう。

オルトフォン MC20

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MCカートリッジ特選4機種2万〜3万5千円」より

 同社の最も得意とするムービング・コイル型の最新モデルである。いわゆるSPUシリーズを現代のカートリッジの、ムービング・マスやコンプライアンスを含めて、技術水準でもう一度洗い直し、新設計でつくり上げたものだ。根本的に確かにSPUのもっていたような重厚でエネルギッシュな音とはややかけ離れてはいるが、しかし、さすがに同じメーカーがつくっているだけあって、音のバランスや音の彫琢という点で、やはりオルトフォンのカートリッジだなと思わせるものをもっている。非常に重厚な低音にすばらしい中高域がバランスし、そして、高域の伸びはなんといっても、SPUを超えている。そしてまた、トレーシング能力のよさもSPUの比ではない。それだけに、SPUのもっている骨太のエネルギッシュな質からすると、少々現代カートリッジ的な少々やせぎすな、あるいは、ややつめたいという質感を伴ってくるのは、やむを得ないことかもしれない。だからといってMCくさい音というわけではない。MCとしてよくバランスがとれていると思う。
 SPUから見ると、高域が非常に伸びているため、ハイがサッとさわやかに出てきたという感じがするが、しかし、再生バランスとして決して高域が妙に上がってヒステリックになるというカートリッジではない。ある意味でハイ・コンプライアンスMCカートリッジとしてのブームをつくつたカートリッジではないかと、私は思う。SPUを未だつくり続けている中でオルトフォンとしては現代のカートリッジの製造技術をそこに新たに取入れ、新しいMC型をつくりたかったんだろうと思う。だから、この新シリーズができたのもだいぶあとになってのことだ。今までの
新シリーズはほんとどVMSタイプに代表され、そのラインアップが完成したあとにこのMC20が出てきたのだ。それまてのMCとしてはSPUシリーズのみをずっとつくり続けてきたわけで、その辺にも同社のメーカーの体質が現われていると思う。
 このカートリッジはその意味からも、オルトフォンとしてはかなり検討に検討を重ねて、出してきたMCカートリッジといえる。
 実際に使って、MC20は明らかにMC独特の豊かなプレゼンスを感じることができる。トレーシンク能力やハイコンプライアンスという点では、現代のすぐれたMM型から見ると、多少問題もなくはない。しかし、このカートリッジのもっているムービンク・コイル独特の一種の音のねばり、こういうものはやはりかけがえのないものだと感じる。その意味で、このMC20の存在の必然性ははっきりしていると思うし、現代の高級カートリッジの代表格と言ってもいい製品ではないかと思う。

オルトフォン MC20

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

こんにちのMC型のひとつのスタンダードとなりうるバランスの良さ。

オルトフォン MC20

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

現代的な物理特性のよさをもった新しいオルトフォンの魅力である。

オルトフォン MC20

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

新しい時代の技術水準で伝統をリファインしたMCカートリッジ。

オルトフォン MC20

井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 SPUシリーズをプロトタイプとして発展してきたオルトフォンの最新モデルである。構造面では、カンチレバーが二重構造の軽量型に変更され、専用のヘッドアンプをもつ点では、かなり現代的であり、音も、SPUの個性豊かなサウンドから、より現代的なスムーズなものに変わっている。

オルトフォン MC20

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 MCA76またレビンソンJC1ACといった、最近の優秀なヘッドアンプの出現とタイミングが合ったことがいっそう得をしたように思うが、しかしMC20を単独でみても、リファレンスカートリッジとして使えるほどよくコントロールされていながら、あらゆるレコードを実に音楽的に再現して聴かせるところは、さすが老舗だけのことはある。

オルトフォン MC20

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 MC型カートリッジの魅力を知らせてくれたオルトフォンが、現時点で再び開発に力を入れて発表した新しいMC20は、その後、エキセントリックにMCのMCらしさを追求した他メーカーによるものと違い、きわめてオーソドックスなバランスのいい音を聴かせてくれる傑作である。音楽が生き生きとよみがえり、造形も表現も確かな再生音である。

オルトフォン SPU-G/E, SPU-GT/E, SPU-A/E, SL15EMKII, SL15Q, MC20, VMS20E, M15E Super

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 SPU−A/Eは、指定されたSTA384トランスを使う。このトランスは、1・5Ω対20kΩの変成比をもつタイプだ。
 聴感上の帯域バランスは、低域から中低域にウェイトをおいた安定型であるが、音色はややウェットで重く、表情は控えめで、やや抑えられた感じがある。ヴォーカルは線が太くおだやかではあるが、中域の粒立ちが関係してハスキー調で子音を強調気味となり、力がなく音像が大柄になる。ピアノは、スケール感は充分にあり、ソリッドな感じがあるが、低域が甘く、ベタつき気味となり、表情が散漫になってリズムに乗らない面がある。音場感は、やや左右の拡がりが狭く、前後のパースペクティブも、さしてスッキリと表わせず音像がやや大きくなる。
 SPU−G/Eは、指定の1・5Ω対1・5kΩのSTA6600トランスを使う。A/Eよりも全体に音の輪郭がシャープとなり、音の彫りが深く緻密でクリアーである。聴感上では、低域が少し量的に多く、やや質感が甘い傾向があるが、中低域のエネルギー感がタップリあり、重厚で安定した、押出しの良い音である。音場感は、A/Eよりも、クリアーに拡がり、音像定位もシャープでクッキリと立つようになる。低域は、やや反応が遅く、ロックやソウル系の早いリズムには乗りにくいようだ。
 SPU−GT/Eは、低域のダンプが、SPUシリーズ中でももっとも甘口であり、聴感上のSN比も少し気になる。全体に線が太い音で、密度が不足し、表現が表面的になる傾向がある。低域は量感はあるが甘く、重い音で、ヴォーカルは、ハスキー調となり、やや、力感不足となる。
 SPUシリーズは、基本的構造が同じであり、音を大きく変える要素は、トランスである。指定トランスを使って聴いたが、今回は経験上での音と、かなり異なった音となった大半の原因は、このあたりにあると思う。
 SL15E MKIIは、STM72Qトランスを使った。全体に、やや硬調で、コントラストを付けて音を表現するが、適度に力があり、密度が濃いために安定した感じがある。ヴォーカルは、明快でハスキー調となり、ピアノは、硬調で輝やかしいタイプである。
 SL15Qは、粒立ちが細かく、軽く滑らかで現代的傾向が強い音だ。中低域は甘口で拡がりがあり、中高域は爽やかで柔らかさもある。ソフト型オルトフォンといった感じが強い。
 MC20は、最新モデルである。粒立ちは細かく、表情は、SL15Eよりも明るくゆとりがある。ヴォーカルは誇張感なくナチュラルでピアノもおだやかになる。全体にマイルドで汚れがなくキレイな音をもっている。
 M15E SUPERは、柔らかく豊かな音だが、中域から中高域は粒立ちがよくクりアーである。細部をよく引出し独得な甘く柔らかな雰囲気で聴かせる魅力は、大きい。
 VMS20Eは、M15Eよりも、全体にソフトな傾向が強く、力強い押し出しがなくムード的に音が流れやすく表情が甘い。

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岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 デンマークは陸続きのいわゆるヨーロッパ大陸の典型的オーディオメーカーといえる体質で、そのサウンドには、低音の力強い量感と、その上に支えられた厚い中音部、さらに高域の輝やきがバランス良く音楽再生を構築する。それに現代オーディオの基本姿勢ともいえるワイドレンジ、フラットレスポンスをいかなる形で融け込ませるか、がMC型新種のテーマで、何度目かのアプローチの結果がSL15の成功だ。MC20はさらに低音の引き締ったエネルギーとフラット特性の熟成である。SPU−G/E以後、永くMCのみだったオルトフォンもM15以来、いくつかのMI型にも積極的で、昨年始め以来広帯域型ともいえるVMS20がその最新モデルとなっている。
 SPU−G/Eは、いかにも豊かな低音ここにありといった厚さと量感がたっぷりしているが、これは少々質的にふくらみすぎ、引き締った筋肉質ではない。だからローレベルでの低域は、どうしてもホールの響きのようにいつまでもつきまとって、今日的な意味で冴えているとはいえない。
 この低音の厚さにバランスして高音の輝やきがまたきらびやかである。中低域から中域はソフトながら芯の強さがあって内部の充実を感じさせるが、これも分解能力の点では物足りない。
 SPU−GT/Eになってトランスを内蔵する場合、使用上便利この上なく、リーケージによるハムも心配ないのも凝り性の初心者向きといわれる理由だ。しかし低音は一層ゆたかでまさにふやけてしまう。またハイエンドとローエンドでの伸びが抑えられたので、一聴すると苦情は出ないが、トランスを外して確かめれば2度とトランスをつけたくなくなるほどだ。当然ヘッドアンプを欲しくなりSPU−G/Eが主体となってくるに違いない。
 SPU−A/EはAシェルに入っただけではない。明かにカートリッジの差があって低域は伸びていないがずっとおさえられ、全体にそっ気ない音になっている。むろん細部を聴けばオルトフォンの中域であり、低域でありバランスではあるが。でもステレオ音像の確かさからSPU−Aの良さはもっともはっきり確かめられよう。拡がりは十分ではないが、音像の定位はピシリと決ってくる。
 SL15MKIIは、かなりワイドレンジ化を進めた製品だ。SPUとは全然質の違う低音はよくのびてゆったりしているが、量感はおさえられている。ハイエンドもよくのび静かさが強く出てきて、現代志向が強い。きめの細かさは粒立ちの粒子が一段とミクロ化して、分解能力が格段だ。ヴォーカルのソフトな再現性は迫るほどであるが、少々作り物といった感じもある。
 SL15QはCD−4対応型で、高域のレンジの拡大がはかられているが質的にはSL15MKIIの高級品といったイメージ。
 MC20が今回の大きなポイントだが引きしまった力強い低音と緻密な中域が見事だ。ハイエンドの伸びも注目できよう。トレース能力も見事。
 VMS20Eは、SL15のMI型とでもいえるサウンドで、低域がややソフトで耳当りよいが、オーバーではない。オルトフォン全製品中、全体に広帯域感がもっとも強い。
 M15EスーパーはSPUのスペクトラムバランスをサウンドに秘めたMI型でトレース性能の点でもシュアーV15を凌ぐほどの実用性能である。