井上卓也
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
SPU−A/Eは、指定されたSTA384トランスを使う。このトランスは、1・5Ω対20kΩの変成比をもつタイプだ。
聴感上の帯域バランスは、低域から中低域にウェイトをおいた安定型であるが、音色はややウェットで重く、表情は控えめで、やや抑えられた感じがある。ヴォーカルは線が太くおだやかではあるが、中域の粒立ちが関係してハスキー調で子音を強調気味となり、力がなく音像が大柄になる。ピアノは、スケール感は充分にあり、ソリッドな感じがあるが、低域が甘く、ベタつき気味となり、表情が散漫になってリズムに乗らない面がある。音場感は、やや左右の拡がりが狭く、前後のパースペクティブも、さしてスッキリと表わせず音像がやや大きくなる。
SPU−G/Eは、指定の1・5Ω対1・5kΩのSTA6600トランスを使う。A/Eよりも全体に音の輪郭がシャープとなり、音の彫りが深く緻密でクリアーである。聴感上では、低域が少し量的に多く、やや質感が甘い傾向があるが、中低域のエネルギー感がタップリあり、重厚で安定した、押出しの良い音である。音場感は、A/Eよりも、クリアーに拡がり、音像定位もシャープでクッキリと立つようになる。低域は、やや反応が遅く、ロックやソウル系の早いリズムには乗りにくいようだ。
SPU−GT/Eは、低域のダンプが、SPUシリーズ中でももっとも甘口であり、聴感上のSN比も少し気になる。全体に線が太い音で、密度が不足し、表現が表面的になる傾向がある。低域は量感はあるが甘く、重い音で、ヴォーカルは、ハスキー調となり、やや、力感不足となる。
SPUシリーズは、基本的構造が同じであり、音を大きく変える要素は、トランスである。指定トランスを使って聴いたが、今回は経験上での音と、かなり異なった音となった大半の原因は、このあたりにあると思う。
SL15E MKIIは、STM72Qトランスを使った。全体に、やや硬調で、コントラストを付けて音を表現するが、適度に力があり、密度が濃いために安定した感じがある。ヴォーカルは、明快でハスキー調となり、ピアノは、硬調で輝やかしいタイプである。
SL15Qは、粒立ちが細かく、軽く滑らかで現代的傾向が強い音だ。中低域は甘口で拡がりがあり、中高域は爽やかで柔らかさもある。ソフト型オルトフォンといった感じが強い。
MC20は、最新モデルである。粒立ちは細かく、表情は、SL15Eよりも明るくゆとりがある。ヴォーカルは誇張感なくナチュラルでピアノもおだやかになる。全体にマイルドで汚れがなくキレイな音をもっている。
M15E SUPERは、柔らかく豊かな音だが、中域から中高域は粒立ちがよくクりアーである。細部をよく引出し独得な甘く柔らかな雰囲気で聴かせる魅力は、大きい。
VMS20Eは、M15Eよりも、全体にソフトな傾向が強く、力強い押し出しがなくムード的に音が流れやすく表情が甘い。
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