CEC FR-XL1

菅野沖彦

レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より

 半世紀近いアナログプレーヤー作りの実績をもつCECが、総力を結集して作り上げた記念モデルと同社では謳っている力作だ。長年のキャリアとアナログ機器への情熱は貴重なもので、日頃から同社の存在には注目していた。
 この製品も昨年秋には見ていたが、実際にじっくり聴いて多数の他製品と比較してみて、若干、印象が変わったことは否定できない。残念ながら、これは精密機器と呼べる精度は備えていないと思う。回転シャフトの軸受け部や、トーンアーム・ベース、全体の仕上げ精度などはメカの好きな人なら少々雑な印象を受けるはずである。これは指摘しておかないと私の眼が疑われる。加工のしにくい材料なのかもしれないNFセラミック部はさておいても、金属部はこれでは趣味の高級品とは言い難い。クロームメッキ部分も下地の荒れにより鏡面が荒れている。
 Y字型の3点支持構造のフローティング・シャーシ・ダンピング機構と減衰特性に優れたNFセラミック材の採用で、高水準の制振特性をもつマニア度の高さは評価できるし、実際の再生音でもそれが確認できた。その思想は70〜80%達成され、並みの水準を越えるパフォーマンスであった。フローティングとダンピングはよくコントロールされ、エネルギー・バランスは妥当だ。いかにも日本製らしい抑制の利いた、まとまりのよいバランスだ。やや高域が抑えられ気味ではあったが、複雑な波形再現もよくこなす。ただ、初めに用意されたテスト機が不調であったため代替機の出番が最後の試聴となり、EMTの後の試聴になったのが、相対的に不利になったかもしれない。
 価格的には全試聴機器17機種の下から8番目である。しかし、この力作を生み出したCECの姿勢は立派だし、これでもう一つセンスが高ければ、あるいはコストを有効にかけていれば、真に祝福される40周年記念モデルとなっていたであろうにと、わずかに悔やまれるのである。

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