菅野沖彦
ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より
トーンアーム単体を今から買うという人はよほど高度なマニアだろう。そして、アナログディスクのコレクションも豊かで、それを奏でる儀式を愛してやまない人たちのはずだ。そういう僕も、その一人なのだが、僕が今、買いたいと思っているトーンアームは一つだけ。SMEのシリーズVである。昨年のオーディオショーで発表されたが、未だに製品はイギリスから渡ってこない。輸入元ではこの年未には必ずといっているが果たしてどうだろう。僕は幸いこのトーンアームを使ったことがあるが、トーンアームの最高峰。まさに有終の美を飾るにふさわしい素晴らしいアームであった。純度の高いマグネシュウムを主材として作られる軽量、高剛性のシリーズVは、長年のアナログレコード再生の夢を叶えてくれるものであった。ユニバーサル型のアームを世界中の標準とした元祖SMEだが、これはヘッドシェルとアームが一体構造でカートリッジ交換はプラグイン式のようにはいかない。SME3010Rも推薦に値するアームだが、皮肉にもシリーズVは、あのSMEのスタンダードモデルの基本構造や材料の反省が生かされたものともいえるのだ。FR64fx、オーディオクラフトAC3300、デンオンDA1000も選んではみたが、シリーズVの前には影が薄いのである。
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