菅野沖彦
オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より
イギリス(スコットランドに工場がある)のタンノイといえば、オーディオに興味のある人で知らない人はいないであろう。特にわが国では、タンノイは神格化されているほど、絶大な存在感をもって信奉されている。それはこのメーカーの長い歴史と伝統、つまり、半世紀以上の社歴と、その間に一貫して守られてきた設計思想や製品作りの基本理念に対するもので、一朝一夕に築かれたものではない。長い歴史の中には、いろいろ困難な時代もあったし、製品にそれが反映したこともある。しかし、常に保ち続けてきた精神は、温故知新と自社の技術への信念に満ち溢れていた。そして、イギリスという国の持っている趣味性への価値観も見逃せない。イギリス趣味は基本的には合理的であり、貴族趣味と大衆性との間に明確なカーストのようなものが存在する。オーディオ趣味が大衆化するにつれ、イギリスのオーディオ製品にも、小さくて安価な大衆趣味製品が増えてきた。現代のイギリス製オーディオ機器の大半はそうした製品といってよい。しかし、その中にあって、この製品のような堂々たる風格をもつものを作り続けてきたからこそタンノイの存在は、ますます尊敬されることになる。
内蔵するユニットは、有名なデュアル・コンセントリック・システムという15インチ口径の同軸2ウェイで、基本的に1940年代の設計から脈々と継承されてきたものだ。
そして、そのエンクロージュアも、フロントロードのショートホーンとバックローデッドホーンのコンパウンドシステムという伝統的なもので、これはオートグラフと呼ばれた50年代のプレスティッジモデルで採用された方式。
細部はその時代時代の技術でリファインされ続けているが、この製品は1989年に発売されたもの。そろそろ、新ユニットに代わるかもしれないが、そうなっても旧作としての価値が失われないのがタンノイの凄いところである。
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