ヤマハ A-950, A-750, T-950

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ヤマハのプリメインアンプが、最新のコンセプトにより開発された新世代の製品に置換えられることになった。その第1弾の製品が、今回、発売された中級価格帯のプリメインアンプA950、A750と、各々のペアチューナーであるT950、T750の4機種のシリーズ製品である。
 プリメインアンプの特徴は、パワーアンプに新しくクラスAターボ回路が採用されたことと、電源部がX電源方式ではなく、従来型の方式に変更されたことである。
 クラスAターボ回路とは、ヤマハ初期の名作といわれたCA1000において採用された、A級動作とB級動作のパワーアンプをスイッチ切替で使い分ける方式を発展させ、新シリーズでは、純粋なA級動作とA級動作プラスAB級動作の2種類の組合せがスイッチで切替えられるようになった。
 とかく定格出力が最重視され、表示パワーが最大の売物になっているプリメインアンプの動向のなかにあって、質的には非常に高いが効率が悪くパワーが得難いA級動作を復活させた背景には、ヤマハオーディオの初心であるクォリティ重視の思想が、現状で、もっとも必要なテーマであるという判断があったからにちがいない。
 一方、データ的な裏づけとしては、A750をAB級動作領域のノンクリッピングパワー150W(8Ω)にテストレコードのの最大振幅部分を合わせた状態での各種レコードの実測データによれば、平均して、A級動作領域(5Wまで)96・4%、AB級動作領域3・6%の割合が得られたことで、実際の使用では音量は10〜20dB程度は低いであろうから、ほとんどA級動作領域でアンプは使われることになるはずだ。
 クラスAターボ回路に加え、従来からのヤマハ独自のZDR方式を採用し、A級動作を一段とピュアにするとともに、AB級動作時にもA級に匹敵する特性と音質が得られる。さらに、アースの共通インピーダンスの解決策として採用されたグランドフィクスド回路は、単純明快な方法である。また、スピーカーの低インピーダンス負荷時の出力の問題に対しては、X電源以上に優れた給電能力をもつ一般的な大型電源トランスと大容量電解コンデンサー採用の物量投入型設計への転換が見られる。
 その他、NF−CR型リアルタイムイコライザー、ピュアカレントダム回路、連続可変ラウドネス、メインダイレクトスイッチなどの機能面の特徴、クォリティパーツの採用などは、すべて受け継いだ内容だ。
 デザインの一新も新シリーズの魅力で、すべてブラックに統一し、CT7000以来のドアポケット型のパネルの採用による適度な高級感のある雰囲気は楽しい。
 チューナーは、各種のオート壊能を備え、とくに強電界での実用歪率の改善が重視されている点に注目したい。
 A950は、電気的な回路設計と機構設計が最近の製品として珍しく見事にバランスした出色の製品である。柔らかく豊かで適度にソリッドさをも併せもつ低域は、新世代のヤマハらしい従来にない魅力をもつ。中域から高域は音の粒子が細かく滑らかで、ナチュラルなソノリティを聴かせる。プログラムには自然に反応し、シャープにもソフトにも表現できるのは、電気系、機械系のバランスの優れたことのあらわれであり、キャラクターの少ない本棟の特徴を示すものだろう。久し振りのヤマハの傑作製品だ。
 A750は、比較をすれば少しスケールは小さいが、フレッシュな印象の反応の早さは、安定感のあるA950と対称的な魅力で、デザインを含めた商品性は高い。
 T950は、CT7000以来の、品位が高く、独得のFMらしい魅力をもつヤマハチューナーらしい良い音をもつ製品。強電界でも汚れが少なく抜けのよい音であった。

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