NEC A-10

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 昨年のCDプレーヤーCD803の優れた音質で急激に脚光を浴びたNECから、独自の最新技術を採用したプリメインアンプが発売されることになった。
 薄型的なパネルフェイスになりがちなプリメインアンプのなかにあって、オリジナリティのあるデザインが目立つ、このA10は、内容的にも従来にないユニークな発想に基づいた新開発の電源部を採用していることに最大の特徴がある。
 一般的なアンプに使われる電源部は、50/60Hzの100Vをトランスで必要な電圧に変換してから整流器で100/120Hzの脈流に変え、これをコンデンサーに充電、放電させて滑らかにして直流化している。手の指を拡げたように間欠的にコンデンサーに充電する充電波形が従来型とすれば、新開発の電源方式は、両方の掌を重ねて指の間を埋めたように充電時間を増し、放電時の充電電流が途切れた時間を補うという発想が出発点となったものだ。
 このタイプの特徴は、従来型では、充電時以外はコンデンサーの放電にたよっていた部分を、リザープ電源と名付けられた別電源で充電しているため、電源インピーダンスが低下し、電流供給能力を増大できることにある。
 A10の定格を見ると出力は、8Ω/60W+60W、4Ω/120W+120Wとあるように、この新開発の電源方式は、半分の負荷で2倍の出力が得られる理想的電源として動作していることが判かる。
 その他、全増幅段プッシュプル増幅、全段独立シャントレギュレーター電源採用など、オーソドックスな設計方針が特徴だ。
 A10は、量的にも充分に豊かであり、ソリッドに引き締まった質感のよい低域をベースに、明解な中域が目立つ、このクラスとしては見事な音が印象的だ。この下半身はたしかに素晴らしいが、中域の少し上にキャラクターがあり、高域をマスキングし、結果として低域バランスの音に聴こえるのが残念だ。定格出力は8Ω/60W+60Wだが、パワー感は充分にあり、これは新電源方式の成果だろう。ボンネット部分の機械的共振を適度の重量物を載せて抑え、見通しのよい高域とすることが使いこなしのポイント。こうすることで、質的に高い低域が活かされ、相当に聴きごたえがある立派な音が得られる。

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